比那名居天子(♂)の幻想郷生活   作:てへぺろん

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どうも作者のてへぺろんです。


物語の始まりなので、これから先数々の出来事に出会う比那名居天子(♂)の勇姿をご覧ください。


それでは……


本編どうぞ!




東方地霊殿 地上編
1話 天子は地上に舞い降りる


 「いい天気だな」

 

 「はい、とても快晴ですね」

 

 

 どうも皆さん、衣玖とお散歩中の比那名居天子(♂)です。生前はちゃんとした引きこもりの女の子でしたけれど、死んだら転生してしまいました。そして、東方キャラの比那名居天子ちゃんに転生できたのだけど、天子ちゃんは性別が男になって原作崩壊してました。中身は女、体は男で生きている私です。

 

 

 今衣玖と散歩中。これは毎日の日課で、朝の散歩で体はポカポカ、心もポカポカになれる。するとアイデアが浮かんだり健康にも良い。衣玖も用事がなければお散歩に毎回ついてくるようになった。朝早いのに申し訳ない気持ちだ。だが、それでもいいと言ってくれる彼女は優しさでできているのではないかと思ってしまう。そして、今日も快晴だ。雲の上だからって?それは気にしてはダメ。気分は毎日快晴なんだから……

 

 

 「今日も平和だな」

 

 「そうですね、天界はいつも平和です」

 

 

 争いごともない、何も変わらない天界。これは元天子ちゃんも暇になるわけだ、私が娯楽施設作って正解だった。天人達はそこで毎日遊んでいる者もいるぐらいに、ある程度の暇は解消された。普通の精神なら何十年も同じことが続けばおかしくなってしまう。天人達はメンタルが強かったんだね。それに、天人でも仕事はしている。寧ろ私が仕事を増やしたと言っていい。娯楽施設の運営に今後の発展のための計画など会社のようなことも行っている。暇を持て余していた天人達も仕事をするときはするし、幻想郷に暮らす妖精よりも働き者だ。私がいなくてもいろいろと考えてくれている。でも、天人であるため皆ゆっくりと仕事するのだ。長生きだし急ぐ必要はないからね。

 

 

 私はいつもの見慣れた景色を見るふりをして後ろに控える衣玖を見ると、どこか嬉しそうな表情でこちらを見ていた。衣玖は私と一緒にいるといつも笑顔でいてくれる。私は事務もこなしているのだが、それも率先して手伝ってくれる。私の秘書のようなこともしてくれている。衣玖は優秀な美人秘書の肩書あげたいぐらい。

 地上からやってきた私にここまで尽くしてくれた方は衣玖だけだ。本当に感謝してもしきれない。今度何か贈り物でもしてあげようかな……

 

 

 「あ、あの~天子様」

 

 

 お?こんな朝早くに天人の役員さんがやってきた。どうやらお困りのご様子のようだけどどうしたのだろう?

 

 

 「どうかしたのかな?」

 

 「大変申し訳ありません天子様。お散歩中に仕事の案件なんですが……」

 

 「構わないよ。どれかな?」

 

 「ああ、それが天子様ではなく衣玖さんに見てほしいものがありまして……」

 

 「あら?私にですか?」

 

 

 そういうと彼女は衣玖に一枚の紙を取り出して衣玖に渡す。

 

 

 「これは前の企画の件ですね?」

 

 「はい、衣玖さんの発案の件でしたので本人に直接見てもらった方がいいかと思いましたので……」

 

 

 役員さんが申し訳なさそうに言う。私の散歩の邪魔になると思っているようだ。私のために天人達が手伝ってくれるようになったのは大変嬉しいことだ。だから邪魔など思わないし、仕事熱心なのは良きことだ。寧ろ褒めてあげたい!いいこでちゅね~♪

 

 

 「あなたは仕事熱心のようだね。私のためにありがとう。礼を言わせてもらうよ」

 

 「い、いえ!私は天子様のお役に立てるのであれば……」

 

 

 顔を真っ赤にして書類で顔を隠す役員さんがかわいい……初心な子のようだね。でも、私は中身は女の子なの。私の息子がそそり立つことはない。そして、衣玖なんでそんな睨むの?私衣玖に悪いこと言ったかな?役員さんがかわいそう……

 

 

 「それで……その件はどうしますか……?」

 

 

 それに声のトーンも下がった気がする……どうしたの?なんだか衣玖の雰囲気が暗いような気がしてならない。

 

 

 「え、えっと……こちらに案内します」

 

 「……わかりました。天子様、私は少し席を外しますので……失礼します」

 

 「あ、ああ……」

 

 

 役員さんに連れられて衣玖は去っていった。去っていく後ろ姿に怒れる龍が見えた気がするが……気のせいだよね?時々あんな衣玖の姿を見るが……気にしちゃ負けだよね。散歩の続きでもするかな。

 

 

 

 

 

 「ふむ、地上は相変わらず綺麗なところだ」

 

 

 天界の隅で地上を見渡せる位置にいる天子。天界に来てから一度も地上に行っていない。天界での作業が忙しかったのもあるし、原作前なので、自分が下手に関わることは避けるべきだと考えていたからである。

 

 

 「それにしても、今はどの辺りだ?」

 

 

 長いこと天界で暮らしていたため、現在の時系列がわからなくなっていた。少し前に空(下界)が赤い霧に包まれた時は流石にわかった。【紅魔郷】は既に過ぎている。レミリアちゃんに会いたいなぁ……【妖々夢】は流石に過ぎただろうし、【永夜抄】辺りか【花映塚】か?雲の上からなので地上のことはさっぱりわからない。毎日見ているわけではないから把握できていない。もしかしたら【風神録】まで行っているのかもしれないが大きな事件でも起きない限り天界からはわからない。これでも視力は驚くぐらいいい方だと私自身思う。でも、広大な幻想郷で一人の巫女を探すのどれほど大変か……千里眼があればもっとよかったのだけれど……

 

 

 そんなことを思いつつ、どうしようかと悩んでいると地上の至る所で水が噴出していた。よく見ると湯気が立ち上っていて、間欠泉だと理解できた。そして何故と思ったがすぐにこれは異変だと理解できた。

 

 

 間欠泉と共に怨霊達が地上に湧き出ていた。これには私は見覚えがあります。私は東方をやり込んでいたいたため頭の中でティンと来た!犯人は地底の連中だ!そう、東方Project第11弾となる作品【地霊殿】での出来事が起こったのだ。生異変感激するわ~!天界という特等席から観覧できるなんてラッキーと思ったが、同時にやらかしたとわかった。

 

 

 「私の出番……過ぎてる……」

 

 

 比那名居天子こと私が初登場する作品は【緋想天】というのだが、東方project第10.5弾となる作品なの。この時点で察せるよね?私の登場より先に地霊殿異変が起きてしまっていた。ずっとスタンバってたのに……今の私が異変を起こす方が変な気がしてきた。私天界では優等生に思われてるし……今から異変を起こす?ダブル異変なんてどうかな?それは鬼畜な気がするし、もういっそのこと異変起こさずに主人公達に会いに行ってみてもいいかもしれない……生巫女早く見たいし。

 

 

 天子はどうしようと悩んでいると視界の端に奇跡的に地上で小さな女の子を発見する。その女の子は何かから逃げているようだった。

 

 

 目を凝らして見てみると妖怪共が少女を狙っていた。

 

 

 私はすぐに余計な雑念を捨て、危険だと判断した。あの子は人間の子供だ。何の力も持たない。まだこの世に生を受けてこれから世の中を知っていくはずの命の灯を持つそんな子を妖怪共が狙っていた。この異変に乗じて人間を襲うことをたくらんだろうか?理由は定かではない。しかし、幻想郷では妖怪が人間を襲うことなど普通だ。天界では決してそのようなことは起こらない。幻想郷にとっては妖怪は人間を襲うものだから日常的な光景なのだろうが……人間の子供が妖怪共の餌食になるなんて胸糞悪い。私はその光景を見たら飛んでいた。地上に向かって……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 妖怪共は逃げる少女を追っていた。必死になって逃げている少女は後ろを振り返らない。余計なことは考えられなかった。逃げること以外に頭から離れてしまって生き延びようとしていた。

 

 

 「はぁ!はぁ……!」

 

 

 息をきらして逃げる少女に不運が振りかかる。足がもつれて転んでしまった。痛みに耐えて体を起き上がらせようとしたが、影が真後ろまで迫っていたことを知ってしまうと体が動かなくなって顔だけが振り向く。

 

 

 「でぇひゃひゃひゃ!生きのいい獲物だぜ~♪」

 

 「子供だぁ!久しぶりの新鮮でぷりぷりの子供だあ!」

 

 「オデ、アジワウ、ジックリアジワッテ、クウ」

 

 「食う前に楽しまないとなぁ♪じっくりいたぶって楽しんで悲鳴をあげながら食ってやる♪」

 

 

 妖怪共が少女を取り囲む。背が高い妖怪から小柄な妖怪、ブクブクと太った妖怪にガリガリにやせ細った妖怪が少女を見下ろしていた。

 

 

 「うぅ……あぅ……」

 

 

 少女は目に涙を浮かべて声も出ない。命乞いすらできない程の恐怖が体を支配して硬直させる。幻想郷は人と妖が共存して生きているだけではない。光があるように影もある。妖怪が人間を食らうこともある世界に生きている少女はこの後の結果が想像できてしまう。

 

 

 「せ……んせ……い……た……す……けて……!

 

 

 少女は震える口に言葉を紡いで精一杯助けを求めたが、誰にも届かない。ゲームで語られない残酷な世界があるのが幻想郷である。舌なめずりを妖怪共は少女の体に手を伸ばす……

 

 

 「いやぁ……!

 

 

 少女は死にたくないと祈った……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドーン!!!

 

 

 「いでぇ!!」

 

 「どひゃぁ!?」

 

 「ナンダナンダ!?」

 

 「地面が……盛り上がっただと!?」

 

 

 大きな音と共にいきなり地面が盛り上がり少女を守るように地形が変わった。その反動で妖怪共は弾き飛ばされ尻もちをつく。妖怪達には何が起こったのかわからなかった。だが、先ほどまでにいなかった人物がこれを出現させたものだと理解する。

 

 

 「き、きさま!何者だぁ!!」

 

 

 髪は腰まで届く青髪のロングヘアが風に煽られながらその人物は妖怪共に言い放った。

 

 

 「私は比那名居天子、非想非非想天の息子であり、天人くずれだ」

 

 

 ------------------

 

 

 人を喰らう妖怪が存在する幻想郷の人里には大それた防御壁など存在しない。なぜなら、人里は人間達の安全が認められた唯一の場所であったから。妖怪の賢者が人と妖怪の共生のために人里は保護対象となっている。しかし、一歩人里の外へ出てしまえばその安全は無と帰する。そこには幻想郷中の人間が住んでいるようだった。数々の建物に行きかう人々で人里は賑わっていた……いつもならば。今、人里は大変な騒ぎになっていた。人々が不安な表情をし、一か所に集まり騒いでいる様子だった。

 祭り?そういう楽しそうな騒ぎではない。不安と動揺を孕んだものだった。その一か所の中心には二人の女性を取り囲む人々の姿があった。

 

 

 「みんな!頼むから聞いてくれ!その子は私達が助けてみせる!だからお前たちはここに残ってくれ!」

 

 「慧音先生!至る所で温泉が噴き出て霊体も湧き出ている。これは異常事態だ!このままじゃあの子が妖怪に襲われて食われちまう!」

 

 「そうだそうだ!二人より大勢で探しに行った方がすぐに見つかるかもしれないだろ?それに異変が起きているんだ。早く見つけないといけないだろ!」

 

 「だから、それは慧音と私で探すって言ってんだろ!」

 

 

 二人の女性のうち一人は、白髪のロングヘアーに赤の瞳、髪には大きなリボンが一つと、毛先に小さなリボンを複数つけている。上は白のカッターシャツ、下は赤いもんぺのようなズボンをサスペンダーで吊っており、その各所には護符が貼られている。男達と言い争っているのは彼女だ。

 そしてもう一人は、腰まで長く伸ばされた青のメッシュが入った銀髪に、頭には赤いリボンをつけ、六面体と三角錐の間に板を挟んだような形の青い帽子を乗せている。衣服は胸元が大きく開き、胸元に赤いリボンをつけている。下半身にスカートを履いた女性だ。とても困った表情をしている。

 

 

 「妖怪の危険性もわからない奴がついてきたところでお荷物だ。ここに居てろっつてんだよ!」

 

 

 もんぺ姿の彼女の方は喧嘩腰である。だが、これは人里の者を守るために言っているわけである。彼女なりの優しさでもあるのだが、男達は譲らない。

 

 

 「けど、二人だけじゃ探すのに時間がかかる」

 

 「見つけられなかったらあの子は……」

 

 「それに女性に頼っていたんじゃ男として不甲斐ないんだ!」

 

 「慧音先生、妹紅さん頼む!」

 

 「し、しかし……」

 

 

 慧音と呼ばれた彼女は男達の申し出を断れずにいた。里の外に出た子供を探すため男達は一団となって協力を申し出たのだ。それ故に断りにくかった。その申し出は大変嬉しいものだったが、ここに居る者で妖怪と戦う術を知っているのは慧音と妹紅だけだった。人間と妖怪とでは力も圧倒的に違いすぎる。知性を持たない小妖怪でも人間を軽々と殺してしまうものもいる。男達の中には子供の頃に慧音が教えた教え子も混じっていた。

 

 

 【上白沢慧音

 慧音は半分妖怪である。半妖である身でありながらも慧音は人間を愛しており、常に人間側に立ってる。慧音は人里で寺子屋を営んでおり、子供達に勉強を教えている。そのために、数多くの人里にいる大人達は慧音にいろんなことを教わってきた。

 

 

 そんな子達が、立派な大人に成長したと本来なら喜ぶべきだ。しかし、妖怪達を甘く見ていた。何の力を持たない人間が妖怪と戦うなんて無理な話だ。この場で戦えるのは慧音と妹紅だけだ。

 

 

 「お前らいい加減しろよ!慧音の気持ちを察してやれよ!」

 

 

 妹紅が怒鳴る。その剣幕に周りの者達は押し黙る。

 

 

 【藤原妹紅

 妹紅は不老不死の人間(蓬莱人)である。とある理由で不老不死になってしまった彼女を救ったのは慧音だった。慧音は妹紅にとって「数少ない理解者」であり、友人だ。

 

 

 そんな友人と一緒に食事をしている最中にそれは起こった。人里付近で間欠泉が噴出したのだ。初めは慧音も妹紅も温泉が噴き出たんだと思ったが、怨霊が共に湧き出てきたことで異変だと理解した。そして、そんな中で恐れていたことが起きた。

 間欠泉に興味を持った子供達が外へ出てしまったのだ。それを知ったのは間欠泉が噴出してしばらくたった後だった。子供達を探しに行こうとしたところ慌てて帰って来た。無事に帰って来ただけでも奇跡的だ。慧音と妹紅は子供達を叱ってやろうとしたが、妖怪と出会ってしまい子供が一人置き去りになってしまったのだ。急いで向かおうとしたが、騒ぎを聞きつけた里の連中が共に捜索することを申し出た。それがまずかった。妖怪に出会って時間も経っているし、異変が起きていて何が起こるかわからない。危険な状況に、妖怪と戦う術を知らない連中がついてこようとしている。最悪の展開になってしまったのだ……

 

 

 ------------------

 

 

 「お前らいい加減しろよ!慧音の気持ちを察してやれよ!」

 

 

 妹紅が怒鳴ったことで場が静まり返る。

 

 

 「冷静になれ、お前たちがついてきても私達はお前たちまで守り通す自信はない。お前たちを守ることに徹してしまえば、子供を守ることが出来なくなってしまうかもしれないんだ。それに、お前たちが傷つくところを慧音は見たくないだろうぜ」

 

 

 そう、私は誰も傷つく姿など見たくはない。妹紅の言う通り、妹紅も私も里のみんなを守りながら戦うなんて無茶だ。妖怪にとっては餌が増えたとしか思わないだろう。私は友人である妹紅が傍に居てくれて助かったと思う。私にはみんなに厳しい現実を伝えることはできなかったであろう。みんな優しく、子供のためを思った行動だ。その思いは嬉しかった……が、現実は甘くはないのだ。

 

 

 妹紅の言葉を聞いてみんな落ち着いてくれたようだ。これならば探しに行ける。みんなには悪いが子供が最優先だ。今も妖怪に追いかけられているのかもしれないし、もしかしたら……

 

 

 慧音の頭に「最悪」の結果が浮かぶ。だが、慧音はそれを振り払う。そんな現実は認めたくないし、見たくない。「大丈夫救ってみせる!」っと自分に言い聞かせて……

 

 

 「慧音、行こう。時間をだいぶロスしてしまった。今なら間に合う、間に合わせる!」

 

 「妹紅……」

 

 

 私にとって妹紅は心の支えだ。彼女の言葉に救われた……ならば、私は子供を必ず救ってみせる!

 

 

 慧音と妹紅は人込みをかき分けて走り出そうとした時だった。

 

 

 「おお!あれを見ろ!!」

 

 

 誰かが言った。私と妹紅はその声につられてその声の主を見る。声の主は八百屋の亭主だったが、八百屋の亭主は一方を指さしていた。人里の入り口付近を示していた。これから私と妹紅が向かおうとしていた方角を見るとそこには……

 

 

 

 

 

 「けーねせんせー!」

 

 

 行方がわからなくなっていた少女をおんぶする二十代にも満たない若い青年の姿があった。

 慧音はその青年の姿に見とれてしまっていた。髪は腰まで届く青髪のロングヘアに真紅の瞳を持ち、顔立ちはとても美しく凛々しかった。

 

 

 私は自分が不甲斐ない。あの子が帰って来たのに、男の方に見とれてしまっていた自分に……隣の妹紅を見てみると妹紅も目が離せない様子だった。他のみんなもそうだった。人里にはいない青年、私は人里に住む者は誰でも憶えているが、彼は憶えていない。今までの記憶を探っても初めて見る。目立つ彼を忘れるわけがない。というと人間ではないのかもしれないな……

 しかし、そんなことは関係ない。あの子の生きている姿を見ることができたのだから……!

 

 

 ------------------

 

 

 隣にいる慧音が子少女を背負う男に向かって行った。私も我に返って慧音の後に続く。

 

 

 「せんせー!」

 

 「よかった!」

 

 

 男の背中から降りて慧音に抱きしめられていた。少女に怪我はないようだ。「よかった」心の中で安堵の言葉が出る。慧音も嬉しかったのか抱きしめたまま離さない。少女も慧音から離れようとしない。余程怖い目にあったらしい……今にも慧音は涙を流しそうな顔をしていた。無事に帰ってきてくれたことは嬉しく思う一方で、私は男に向き直る。今まで見たことのない奴だった。不覚にも美しいと思ってしまう程の美男子だった。背は私や慧音よりも高く長い青の髪、真紅の瞳をしている。こいつは人間じゃないと私にはわかった。しかし、妖怪のような気配はない……妖気を隠しているのか?どちらにせよ少女を助けてくれた礼は伝えないといけないな。

 

 

 「あんた礼を言うよ。この子を助けてくれたんだろ?」

 

 「ああ、そうだ。妖怪に襲われている所を見つけたものでな」

 

 

 そういうと慧音に抱かれていた少女が自慢するかのように言った。

 

 

 「()()()のお兄ちゃんすごい強いんだよ!それにカッコいいんだ」

 

 

 少女は()()()と呼ばれた男の手を握る。余程好かれたみたいだな。だが、気を抜けない……どんな奴かわかるまでは警戒が必要だな。

 

 

 「てんし殿本当にありがとう!私は里で寺子屋を営む上白沢慧音だ。そして、こっちが私の友人である藤原妹紅だ」

 

 「ああ……よろしく」

 

 「改めて自己紹介します。私は比那名居天子、天界に住む天人くずれです」

 

 

 やっぱり人間じゃなかったようだ。だが、天人くずれ?天界って空にある世界のことだよな?何故そんなところの天人が地上に……?それに都合のいいタイミングでの異変が起きた。何か知っているのかもしれないな。後で詳しく聞いてみるとするか……

 

 

 「おーお!あんちゃんすげえじゃねぇか!」

 

 「天人ってのはよく知らないがよくやったよ!」

 

 「ありがとうございます!ありがとうございます!」

 

 

 口々に天子を褒めたたえる者達。子供の母親らしき人は何度も何度もお礼を言う。

 

 

 「よしてくれ、私はこの子を助けただけだ。何も褒められることなどしていない」

 

 

 謙虚な奴だ。天人というのは皆天子みたいなのか?それにしても、天子から強者の貫禄が伝わってくる。私だって長い時間生きていたんだ。妖怪を倒すために妖術を学び、傷の痛みにも耐えた。人妖共と戦ってきて経験を積んだ。そしてある程度なら私にだってわかる、この男は相当強いと……私が戦ったら勝てるだろうか?もしもの時のことを想定しておく必要があるな。

 

 

 妹紅はジッと天子を見ていたのだった。

 

 

 ------------------

 

 

 人里は今、物静かである。地面から間欠泉が噴き出て怨霊が地上に現れる光景を見た人間達は建物に避難した。無事に子供が帰ってきても異変は終わっていない。一度、里の中にこもり、異変が解決されるのを待つのである。

 

 

 「本当になんとお礼を言ったらいいのか……」

 

 

 目の前には東方をプレイしていれば知っている人物が二人いる。

 上白沢慧音は人里で教師をしているワーハクタクの半妖である。そして、隣が不老不死の藤原妹紅、愛称はもこたんだ。二人は原作【永夜抄】で登場するキャラだが、こうしてみると不思議な感じがしてならない。ゲームのキャラとご対面とは一生に一度もないことだからね。衣玖に出会った時も絶頂するところだったし……それにしても慧音はいい体つきしている。妹紅の方は控えめだけど、二人共すべすべな肌で羨ましい……私の体が女だったころなんて比べられない程だ。♀天子ちゃんのままだったら触らせてほしかったけど、♂天子君になったから迂闊に触れなくなってしまった。残念とは思うが、私イケメン好きだからこの体とても気に入ってます。

 

 

 そして現在まだ異変が収まってないので、各家内に避難している。私達は慧音が営む寺子屋の一室に集まっていた。先ほどの女の子を助けたことで里の方から歓迎された。あの子も無事でよかったし、良い事だらけだ。ただ皆は天人というものになじみがないらしく、私を人間と変わらないものとして見ているようで、妖怪として警戒されなくてよかった。それに人里の方々からの好感度がいきなりうなぎ登りだ。それはありがたい。これならば気軽に地上にやってこれるのでバンバンザイな気分です♪

 

 

 「気にしないでくれ。偶然見つけただけです。それに、か弱い女の子が襲われているのを見て見ぬふりはできませんでしたから……」

 

 「天子殿……!」

 

 

 それを聞いた慧音は感動したように目を輝かせて天子を見た。

 

 

 「天子でいい、天界では毎回様呼ばわりされているから堅苦しいのは止してほしい」

 

 「なら、私の事も呼び捨てで構わない。気軽に慧音と呼んでくれ」

 

 

 ありがたい、天界ではみんな私の前では背筋ピーンなのでこう気軽に話せる相手がいると楽でいい。衣玖も敬語で接してくるので家でぐうたらな姿なんか見せられないから毎日大変だった。もう慣れたけれどね。

 

 

 「私も妹紅でいい。それで天子にはいろいろと聞きたいことがあるんだけどよ」

 

 

 妹紅がぐいぐい迫ってくる。その目には興味と追及が入り混じっていた。いきなり異変が起きて、タイミングよく天人が天界からやってくるなんて都合が良すぎるよね。でも、私は黒幕なんかじゃないぞ。私を警戒していることが私にはわかる。部屋の位置取り、姿勢、筋肉の微妙な動きで妹紅は私に注意して慧音先生を守れるような位置に陣取った。慧音はわかっていないようだが、長年生きているだけあって流石だ。私も修行し過ぎたせいで相手の動きを注意するようになり、微妙な違いや心理がわかるようになった。時間だけはたっぷりあったからね。

 

 

 女の子の比那名居天子ちゃんは元々のスペックが高かったと思われる。あのわがままの性格で、修行を続けているわけはないし、何より暇だと言っていた。修行していれば暇なわけないし、異変を起こしてラスボスを務める程の性能の持ち主だったのだろうと私は思う。おかげで私は剣術、体術、学問などの経験をすぐさま習得できた。そのおかげもあってか、少女の命を救うことができた。修行していてよかったと改めて実感した。

 

 

 「ああ、そうだな……あの子を助け出した時から話そうか……」

 

 

 

 

 

 私は慧音と妹紅に自己紹介と事の経緯を話した。

 

 

 正直拍子抜けだった。威勢だけはいい妖怪であった。ただ牙や爪を振るうだけで芸の無い連中で、私が拳でぶっ飛ばして緋想の剣で切り裂いてフィニッシュ。あっけない最後だった。それから私は怖がっている少女を落ち着かせるためにいろいろとお話をした。好きな食べ物や友達と何をしているとか大人になったら何したいとか聞いた。お話をすることで次第に恐怖心を緩和させて落ち着きを取り戻させた。これも学問で学んだことだし、会話と言うのは生き物同士の意思の疎通に欠かせないものだからね。私?引きこもっていたけどネットでずっと喋っていましたとも!決してボッチじゃないです!三次元にはいなかったけど、二次元には友達いっぱい居たからちゃんと意思疎通ができるんです!……話が脱線したけど、これを知っていると何かと役に立つ。そして少女を人里へおんぶして送ってあげたということだ。

 

 

 「それであんなに懐かれたのか」

 

 「へぇ、正直言えば私はお前のこと怪しいと思っていた」

 

 「妹紅お前天子に失礼だぞ!」

 

 「悪かったって、天人を見るのが初めてなもんでな。それにタイミングよく異変が起こるもんだから何か関係があるかと思ったんだが……どうやら私は見る目がなかったらしい」

 

 

 すまないと謝る妹紅。私は何も問題ないし、疑われて当然なタイミングで登場してしまったんだからね。しかし、この異変はいつまで続くのだろうか?もしかしたら何日も続くのであれば今回の異変に乗じてあの妖怪共のような輩が行動を起こすかもしれない……私は問題ないけど、人里に住む者達にはきついかな?長続きするなら心配だ……

 

 

 「情報が少なすぎてわからない。こういう時に文屋は一体どこにいるんだ」

 

 「文屋?それは【文々。新聞】を発行している鴉のことか?」

 

 「天子も知っているのですか射命丸のことを?」

 

 

 【射命丸文

 黒髪のセミロングに、フリルの付いたミニスカートと白い半袖シャツを着ている。靴は底が下駄のように高くなっている。

 鴉天狗である彼女は幻想郷で記者をしている。天狗という種族は幻想郷で唯一高度な文明社会を有する種族で、他の妖怪よりも個々の力や団結力が強く、そして排他的であるために、住処である妖怪の山に不用意に立ち入るものには、集団で対応してくる。そんな天狗たちは新聞を出版しているらしく、定期的に大会まであるらしい。幻想郷で情報を手に入れるためには彼女が出している【文々。新聞】を読むといい。内容は娯楽性を重視されており、内容の信憑性よりエンターテイメント性が重視されているのだが無いよりかはいい。

 

 

 しかし、今回の【地霊殿】では文は主人公であるあの子のサポートに徹しているはずだよね?地底には地上の妖怪は入れない条約になっているはずだから地上にいることは間違いなし。彼女がいれば、地底の様子を窺うことができるのだけれど……

 

 

 「はい、彼女は今地底で異変解決を行っている博麗の巫女のサポート役として行動しているはずです」

 

 「そうなのか……それをどこで知ったんだ?」

 

 

 慧音が疑問に思ったことを口にする。やばっ!ゲームやったから知ってますなんて言ったら何言ってんだこいつって思われる……私が残念な子に思われるのは心外だ。適当に流そうそれがいい。

 

 

 「森で出会った妖怪が言ってたのです。信憑性はないですが、可能性はゼロではないと思いますよ」

 

 「なるほど」

 

 

 納得してくれたようだ。危ない危ない……口を滑らせないように気を付けないといけないなこれからは……

 原作キャラといろいろと関わっていくだろうし注意が必要だ。

 

 

 「文屋の奴を探すのか?」

 

 「そうだね、博麗の巫女が負けることはないと思うが、情報は得ていた方がいいだろう。異変も長続きすると地上に悪影響を及ぼしかねないからね」

 

 「そうか。私達は人里の警備で手が離せない。天子悪いがお願いできるか?」

 

 「私からもお願いしたい。里の者達が不安がって生活に支障をきたさないとも考えられないので……」

 

 

 妹紅と慧音からお願いされた。これは断れないな、それに文にあって新聞に一度でいいから乗ってみたかったの!それに彼女と関わっておいた方が何かと都合がいいはずだからね。

 

 

 「わかりました。私で良ければ頼まれましょう」

 

 「天子!ありがとう!」

 

 

 慧音の瞳が輝いている……これ好感度MAXいったんじゃないかな……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さてと、慧音と妹紅に見送られて森の中を捜索中の天子です。時折妖怪が襲ってきたが、全て返り討ちにしてやりました。修行って凄いと改めて実感する。相手がどこから現れるか気配で読み取れるし奇襲など通用しないし、肉体の微妙な動きで相手の行動が手に取るようにわかる。努力した成果もあるが、元天子ちゃんの素質が高かったおかげでもあるのがいい。引きこもりだった私がこんなアウトドアタイプになれるなんて奇跡としか言いようがない。元天子ちゃんの影響も受けているのかもしれないね。私自身の体に感謝します。

 

 

 そんなこんなで歩いていると森から抜け出した。途中から岩がごつごつとしており、草木が少なく荒れた道が続いていた。あてもなく捜索していると一つの妖気を感じた。

 

 

 「……向こうに誰かいるな。行ってみるか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……初めまして……見知らぬお方……」

 

 

 因縁の相手がそこに居た……

 

 


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