比那名居天子(♂)の幻想郷生活   作:てへぺろん

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なんてことはない平凡な日常回です。


それでは……


本編どうぞ!




20話 休息の時

 「あやや……それは大変でしたね」

 

 「ああ……とても疲れた一日だった……」

 

 

 どうも皆さん、私は比那名居天子です。先日神子達とどんちゃん騒ぎをしてお疲れだが地上に出向きました。それには理由があるのです。今、隣にいるのは文よ。そして私がいるのは妖怪の山、何故ここにいるのかって?私は気になっていた。【星蓮船】と【神霊廟】が同時に起こってしまい、その間に起きるはずだったことがなかったことになるのではないか?そう思ったのだ。そこで私はまず妖怪の山へ行って【ダブルスポイラー 〜 東方文花帖】で登場する文と同じ烏天狗の女の子に会いに行くことにした。

 

 

 【姫海棠はたて

 茶髪のロングヘア―を、紫色のリボンで結んでツインテールにしている。頭には紫色の天狗帽子を被っている。 服装は襟に薄ピンクのブラウスに黒のネクタイをつけ、黒のハイソックスを着用し、靴は天狗らしく一本足の下駄を履いている。同じく天狗で文々。新聞を発行している射命丸文とは、天狗の新聞大会で発行部数を競い合うライバル関係の仲である。

 

 

 そして私は危惧していた。もしかしたら私という転生者が現れたことで、はたてという存在自体この世界には無いのではないかと思った。もしものことを想定して内心ここに来るまで心臓バクバクだった。でも安心してください。文からはたての名が出てきた時は心の底から安堵したわ。これで東方キャラが存在していないとかなったら私死ねるわよ……まぁ、結果私の思い過ごしで助かった。折角ここまで来たんだから一目でもお目にかかりたいと思って訪れましたということです。

 

 

 「すまないな文、忙しいなか急に頼んでしまって」

 

 「いえいえ、この前も新たに幻想郷にやってきた神子さんに話をいろいろ聞けたのも天子さんが居てくれたおかげですよ。初めは私警戒されてましたから」

 

 

 そんな他愛もない話をしていると見たことのある犬耳を生やした天狗が空から下りてきた。

 

 

 【犬走椛

 白髪の短髪で、山伏風の帽子を頭に乗せている。上半身は白色の明るい服装、下半身は裾に赤白の飾りのついた黒いスカートを着用して、犬耳と尻尾を生やしている。山の見回りをしている白狼天狗である彼女は下っ端だ。射命丸文とは不仲であり、犬猿の仲である。

 

 

 「げっ!椛……」

 

 

 文のもの凄く嫌そうな顔……原作と同じく二人は不仲のようだ。椛の方も文に対して舌打ち……流石にそれはかわいそうだから止めてあげようよ?文と仲悪いのはわかるけど出会い頭に舌打ちはいくらなんでもひどすぎじゃない?

 

 

 「椛、上司に向かって舌打ちするとはいい度胸ですね!」

 

 「文さんが購読数を増やすために私のスカートの中を盗撮してばら撒いたことお忘れですか……」

 

 

 あっ、これは椛の方が正しいわ。私も中身女の子ですから盗撮なんて犯罪行為を許すわけにはいかない。しかもばら撒くなんて……文最低よ。私は椛に味方する!

 

 

 天子は文を冷めた目で見つめる。この場に文に味方する者が消えた。

 

 

 「あやや!?天子さんこれはですねいろいろと事情がありまして……って!その冷めた目はやめてください!心に響きます!」

 

 「文が悪い、女の敵、最低、有罪判決確定、清くない正しくない射命丸」

 

 「うぐっ!た、たしかに私が悪いですけど、そこまで言いますか!?」

 

 

 文の心にダメージを与えてしまった。でも自業自得よ。女の敵は許さない!文も女だけど、こればかりは味方になれないね。死後は地獄の閻魔様にみっちりお仕置きルート確定ですねわかります。

 

 

 椛は文と会話している人物が気になった。最近どこかで見たことのある顔だった。

 

 

 「……あなたは?」

 

 「ん?ああ、自己紹介がまだだったね。私は比那名居天子、天人くずれだ」

 

 「私は犬走椛です。比那名居天子……新聞に載っていた方ですね。写真で見るよりもカッコいいですね」

 

 

 椛にカッコイイって言われた……嬉しい!イケメンに転生してやっぱりよかったわ!それに私って有名人になっているのね。照れちゃう♪

 

 

 「噂は聞いています。伊吹様を倒したとか……凄いです憧れます!あなたのような猛者に私もなりたいです」

 

 「椛なら大丈夫だ。白狼天狗だからと関係なしに椛ならばもっと上を目指せるだろう」

 

 「いえ、私が上に立つだなんて恐れ多い……」

 

 

 恐縮しているように見えて照れているわね。椛の尻尾がブンブン激しく振るわれていてまるわかりだ。そんな椛がかわいいわ♪やっぱり椛には犬耳と尻尾がないと私が興奮出来ないわ。獣娘いいわぁ♪癒されるわぁ♪

 

 

 「あ~……椛、ちょっと尋ねたいことがあるのですけど……?」

 

 「チッ!なんですか文……さん?」

 

 「今呼び捨てしようとしたよね?あの件は私が悪かったけど、上司に対してそれはないんじゃない!?」

 

 

 文の悲痛な叫びは椛には届かない。とても人を見るような目では見ず、ゴミを見るような目で文を見つめていた。

 

 

 「私は今、天子さんと話をしていたのですがね……なんですか?早く要件を言え」

 

 「椛!今ため口だったでしょ!いい度胸ね!私がいくら優しいからって怒らないわけないんですよ!」

 

 「はいはい、私が悪かったですよ。すみませんね文……さん」

 

 「また呼び捨てしようとしたわね……この犬!」

 

 「私は白狼天狗です!!」

 

 

 文と椛の間に火花が散る。本当に仲が悪いようだ。うむ……でもこういう関係を見るのも悪くない。東方ファンである私にとっては原作設定と同じ光景を見るのは嬉しい体験だ。だけど、このままだと私を放っておいて弾幕勝負をしかねないし二人を止めようか。

 

 

 天子は文と椛の間に割り込んだ。

 

 

 「喧嘩は止さないか二人共。私は用があってここに来たんだ。すまないが椛、はたてがどこにいるか知らないか?」

 

 「はたてさんですか?それならばここより北に行ったところにある彼女の住まいを訪ねるといいですよ」

 

 「わかった。椛ありがとう」

 

 「いえいえ、あなたに会えただけでも光栄です」

 

 

 ペコリとお辞儀をする椛に文は蚊帳の外……当然の報いだけどね。

 

 

 「ああ、ほら文も行くぞ。それと後でお説教だ」

 

 「え!?そ、そんな私はただ世の中の非モテの哀れな男達にひと時の幸せを与えようと……」

 

 

 言い訳無用!同じ女としてきっちりお仕置きさせてもらいますよ文!

 

 

 「言い訳無用だ。女性の気持ちを蔑ろにしたのは万死に値する」

 

 「あやや!?許してくださいー!!」

 

 

 私達は椛と別れてはたてに会いに行った。

 

 

 ------------------

 

 

 

 「どうしよう……このままだとまた文にバカにされるわ……」

 

 

 机の前で悩んでいるツインテールの烏天狗が一枚の紙とにらめっこしていた。

 はたてである。最近、文の新聞の方が売れている。その現状に頭を悩ませていたのだ。

 

 

 文ったら、今までは捏造まがいなことをしていたのにこの前の新聞はどういうことなの?あの伊吹様を倒した天人の特集だったけど、本当に文が書いたものなのって疑ったわ。伊吹様が倒されたのに、新聞を読んでいるとそれほどの危機感を感じられなった。それに内容がまともなのが異常だった。捏造記者の文がまともな新聞を書いていることに驚愕だった。初めは伊吹様が負けるなんてあり得ないと思いつつも信憑性のある内容であったために受け入れた。そのため天狗の間でも騒ぎにはならなかった。寧ろ新聞に載っていた天人を尊敬する者まで現れた。

 

 

 「比那名居天子か……」

 

 

 はたてはボソッと呟いた。

 

 

 文はいつもいいネタを集めてくるわね。天人と鬼の喧嘩だけじゃなく、この前、幻想郷に住み着いた豊聡耳神子という仙人の記事もよかった。悔しい……正直いつもこれぐらいまともな記事だったなら新聞の発行部数はぶっちぎりで一位だったと思う。実力はあるんだから、椛のスカートの中を盗撮するなんてバカなことはやめておけばよかったのに……同じ天狗仲間の男どもが何人椛の盗撮写真を買って粛清されたとか……

 ため息が出た。実力はあるのに、日頃から本気を出さないバカな烏天狗に……

 

 

 コンコン!

 

 

 誰かが扉を叩く音が聞こえてきた。はたては椅子から立ち上がり玄関へと向かう。

 

 

 「はいは~い、今開けるから待って」

 

 

 扉を開けるとそこには大きなたんこぶのできたバカ天狗と新聞に載っていた天人が立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 はたては緊張していた。あの伊吹萃香を倒してしまった天人が目の前にいること……そして何より女であるはたてですら美しくカッコイイと見惚れてしまう程のイケメンが自分の家にいることに体が硬直していた。

 

 

 「はたて、私は気にしないからリラックスするといいよ」

 

 「い、いえ!私如きただの天狗があなた様のような方に失礼でもあったら……」

 

 

 伊吹様に殺される……比那名居天子と伊吹様は今や親友の間柄だ。もしも気に入らないことがあれば伊吹様が私の元までやってきて締め上げられてしまうかもしれない。下手をすれば闇に葬られてしまうかも……私はまだやりたいことがいっぱいあるのに死ぬなんて嫌よ!

 

 

 鬼の萃香は妖怪の山の天狗達から恐れられていた。鬼であることもあるが、パワハラやアルハラの化身とも陰では言われているぐらいだ。「私の酒が飲めないのか?ならば死ね」「私と飲む酒がおいしくないだと?ならば死ね」実際こんなことは言っていないのだが、それほど恐れられている。誰も逆らおうとしない。理不尽の極みとも思われていたりする。そんな萃香の親友である天子に失礼な態度をとればどうなるか……誰だって想像がつく。はたては失礼がないように気を張り巡らせていたが、天子は大変困った様子であった。

 

 

 「(文、どうにかならないのか?)」

 

 「(伊吹様の悪評は凄いですからね。まぁ、絡まれたら命を投げ出せとも言われているぐらいですからね)」

 

 「(萃香には私から言っておいた方がいいのかもしれないな……)」

 

 

 たんこぶが出来ている文と小声で話す天子は大体の事情が把握できた。今度萃香にもっと天狗達を大切にしてあげるように言っておかないとそう思ったのだった。

 そして天子ははたてが緊張し過ぎて申し訳なく感じた。その時(ひらめ)いた。文と同じ烏天狗で新聞を作っているはたての取材を受けて仲良くなれば彼女と気軽に接することができるのではないかと……

 

 

 「はたて、もし良ければ取材してもらえないか?」

 

 

 ------------------

 

 

 「で、では!姫海棠はたて、取材させていただきます!」

 

 「リラックスリラックス」

 

 「は、はい!」

 

 

 はたて緊張し過ぎでしょ……伊吹様のご友人となられた天子さんに失礼があっても伊吹様は報復してくることまではないのですけどね。()()()()()()ならば……伊吹様が宴会の前に私の元に来た時は心臓が口から飛び出そうでした。もしかしたら私が隠し撮りした伊吹様のドロワ写真を保管していることがバレたのかとひやひやしましたが、天子さんに何かしてあげたいと言いました。その時の伊吹様の表情は友人を思う顔ではなく、想い人に対して向けるものだと私はピンッ!と来ました。天子さんのことを語る伊吹様はいつもの飲んだくれとは違い、恋というものに酔っているみたいでした。しかし、当の本人はそれに気づいていないという……あやや、全く伊吹様は鈍感なのかもしれませんね。

 伊吹様にはライバルが多いようでした。天子さんと同じく天界に住む竜宮の使いである永江衣玖、白玉楼の庭師の魂魄妖夢、そして最近幻想郷の住人の仲間入りを果たした豊聡耳神子……彼女達を見ていると天子さんに惚れていること間違いなしです!この清く正しい射命丸文の目は誤魔化せません!それに白玉楼の亡霊である西行寺幽々子、守谷神社の神の八坂神奈子、人里で寺子屋で子供達に勉強を教えている上白沢慧音、彼女達は天子さんのことを信頼している模様。

 

 

 女性に対して紳士的な天子さん……そのおかげで私の頭にはたんこぶが生えてしまいましたよ……私も女性だから手加減してくれたことはわかっているのですけどね。私の自業自得だとわかっていますよ。でも、お説教されるとは思いませんでした。射命丸文一生の不覚!っと私の話で脱線してしまいましたね。しかし興味が湧きますね。これほどの信頼を寄せられている天子さんにいろいろと恋路のネタを振ってみたいところですが……

 

 

 八雲紫……彼女だけはそうはならないようでした。幻想郷の賢者という立場があるのか、それとも天子さんの力の強さを危惧しているのか……詳細までは私にはわかりません。彼女の考えていることは私の先の先まで読んでいることだと思います。幻想郷の創始者であり、並みの妖怪とは比べ物にならないほどの力を保有している彼女は私が遠く及ばない存在であることは承知しています。彼女が注目する存在比那名居天子……私は初めて彼にあった時、私もはたてと同じく見惚れてしまう程でした。そして、私は見ました。この目であの伊吹様を打ち負かし手を取り合う姿を見た。あの伊吹様が負けるとは思いませんでした。確かに条件付きとはいえ、伊吹様の拳を真っ正面から受け止める者などいませんでした。正々堂々と戦う姿に伊吹様は惚れこんだのでしょうね。それだけではありませんでした。異変を起こした豊聡耳神子も彼の優しさに触れ、改心したくらいです。今では天子さんにべったりだとか聞きましたけど、伊吹様はやはり嫉妬しているのでしょうか?記事には……したら殺されてしまいますから心の中で写真でも撮っておきましょう。そんな心優しく強い天人……八雲紫は彼のことをどう思っているのでしょうか……?

 

 

 「え!?そうなの?ねぇねぇもっとそのことについて詳しく教えて!」

 

 「ああ、そうだな……何から話そうか……」

 

 

 文は考え事をしていたから気がつかなかった。聞いていなかったので話題も何を話しているかわかっていなかったが、先ほどまで緊張でガチガチに硬直していたはたてが今では気軽に接している姿があった。

 

 

 はたていつの間に……天子さんの人柄がはたての緊張を解いたのでしょうか?あなたという存在には驚かされますよ。人妖関係なく接して、戦うことに関しても強者であり伊吹様を倒してしまい、豊聡耳神子を救い出す……あなたという存在は幻想郷に大きな影響を与えると私は感じていますよ。

 

 

 「それで……どうした文?私の顔に何かついているか?」

 

 「何?文ったら天子さんに夢中なの?」

 

 「夢中なのはあなたの方でしょ……別になんでもないですよ。なんでもね」

 

 

 天子とはたてはいつもと違う雰囲気の文に疑問を浮かべるが、文は何事もないようにカメラを取り出す。

 

 

 「はたての緊張も解けたことですし、一枚記念に撮りましょうか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「それでこれが私の発明品だ!凄いだろ盟友!!」

 

 「これが……カッコイイロボットだ」

 

 「流石盟友わかっているじゃん!」

 

 

 はたてと仲良くなり、今度やってきたのは河童達の工房。その河童達の工房で瞬時に打ち解けてしまった天子さん……あなた凄すぎますよ。にとりの発明した物は私でもよくわかからない。それなのに天子さんが機械類を知っているとは驚かされますよ。天界にも存在しているのでしょうか?それにこの場には私と天子さんと河童達ともう一人……

 

 

 「これは手が発射されるんですよね!こっちは胸の部分からミサイルが発射されるに違いありませんね!あっ!こっちは変形合体して巨大ロボットになるタイプですね!!」

 

 

 東風谷早苗……彼女はいつも通りです。いつの間にか共に同行しているのを発見した時に何故いるのかと聞きましたが「常識に囚われてはいけないのですよ!」っと力説されてしまい、私達は何故か納得してしまった。早苗さんにはもう驚きません。これが早苗さんなんですから……

 

 

 早苗は元々外の人間であったために機械類専門ではないがある程度の知識は知っていた。そして彼女は漫画やアニメが大好きだったので当然ロボット関係には目がないのである。そして、ロボットの話題がまさか天子に通じるとは思っておらず、ロボットの素晴らしさを伝えられる存在がいることにテンションMAXの早苗であった。

 

 

 「天子さん!これなんかこのロボットにピッタリではありませんか!」

 

 「それもなかなか……だが、こちらも捨てがたいぞ?」

 

 「お!盟友お目が高いね!どっちをつけるか悩んでいたんだよ」

 

 「だったら両方つければいいじゃないですかにとりさん!」

 

 

 なんだこれは……文以外のメンバーは全員ロボットに夢中だ。みんな目が輝いており大賑わいだった。あの天子だって内容を理解してあれこれ何か部品のようなものを組み立てている。文にはさっぱりわからなかった。カメラ程度の物でもにとりに頼まないと直せない文はポツンと置いて行かれていた。

 

 

 「にとりさん、このロボットの特徴はなんですか?」

 

 「ふふふ!これはなんと目からビームが出るんだよ!」

 

 「それは凄いな。この決してカッコよくない姿だが、それがまた味を出す」

 

 「盟友中々わかってるじゃん!カッコイイだけがロボットの魅力じゃない!ロボットにはそれぞれの味があるんだ!」

 

 

 にとりはとても楽しそうに熱く語っていた。早苗もノリノリだった。そして天子も早苗と同じく漫画やアニメにネットでロボット関係をよく見ていたので、本物を見ると胸の高鳴りを抑えられなかった。そんな中で一人でいる烏天狗がいた。

 

 

 あやや……私だけ仲間外れではないですか?少し寂しいですね……でもいいですもん。私はどうせ捏造記者とか言われてますしこんなこと慣れていますよ。ちなみに最近はちゃんと書いてますよ?椛の件は……気にしちゃダメです。あれは……いえ、なんでもないです……

 

 

 文は誰にも相手されないのでいじけてしまい、隅っこで体育座りをしていた。

 

 

 「……文、何している?」

 

 「天子さん……」

 

 

 声をかけたのはいつの間にか文の元までやってきていた天子だった。

 

 

 「一人でこんなところにいると寂しいだろ?」

 

 「私は機械のことに関してはさっぱりなので話題に入るべきではないかと思いましてね」

 

 「初めは皆そうだ。私がわかりやすく教えてあげるぞ」

 

 「いえいえ、私に構わずに天子さんは楽しんでください」

 

 

 そう言う文の手を天子は取り、座っている文を引っ張りあげる。

 

 

 「あやや?」

 

 「私は文もいないと楽しめないよ。皆がいるから楽しめる、そこに文も入っているのだからね」

 

 

 天子は笑った。曇り一つとして存在しない優しい笑顔を文に向けていた。

 

 

 天子は誰一人として欠けるのは嫌だった。妖怪の山を訪れた理由もそうだった。はたてがいなかったら自分のせいだ。自分のせいではたてが存在しない世界になってしまったのだ……そうなる可能性があった。しかし結果的には、はたては存在していて無事に事なきを終えた。そんな時に文が一人寂しく隅っこに居たから声をかけたくなっていた。先ほどお説教といえど、たんこぶを生み出してしまったのもあるし、神子のように誰にも辛く寂しい思いなどしてほしくなかったから。

 

 

 「文がいるから私がここにいる。皆がいるから私が笑っていられるのだからね」

 

 「ふふ、なんですかそれ?天子さんって詩人ですか?」

 

 「文が笑ってくれるなら詩人にでもなるかな」

 

 

 ……あなたは優しすぎるお方ですね。椛もはたてもにとりもすぐに打ち解けてしまうのは当然だったのだと感じました。あなたの笑顔は人を引き付ける魅力を持っている……いえ、あなたの存在自体が人を引き付けているのやもしれませんね。

 

 

 「それではお言葉に甘えましょうか」

 

 「ああ、文にもわかりやすく説明してあげよう」

 

 「あやや……お手柔らかにお願いしますね」

 

 

 天子さん、これから先あなたにどのような試練が起きるのか私にはわかりません。ですが、私はあなたを応援していますよ。それがたとえ苦しい道だとしてもね……

 

 


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