比那名居天子(♂)の幻想郷生活   作:てへぺろん

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紅魔館で一体何が起こっているのか……紅魔館へやってきた天子達の行く末は?


本編どうぞ!




24話 非情なる者

 ついにやってきた。私の目の前には見慣れた洋館が存在している。

 

 

 全体的に赤一色の外装がインパクトを与える紅魔館はレミリア・スカーレットの住まいである。そこに私達は今攻め込もうとしている。異変を解決しに来たわけだが、表現するとそう言うことになる。それにしても真っ赤な色だ、よく目がおかしくならないね。吸血鬼だから赤色の方が良かったりするのかわからないけど、ゲーム内の紅魔館ではなく、本物をこの目で見ると強烈だ。周りも紅い霧に包まれているから辺り一面も赤色で目がおかしくなりそう……早くお邪魔させてもらおう。目に悪いわ……

 だが、そう簡単にはいかない。門番にはあの中華娘の紅美鈴が立ち塞がっているのだから!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……って思うじゃん。門番なんて誰もいませんでした!ええ……美鈴ついに居眠りすら止めて逃走でもしたんですか?っと思ってしまったけど、咲夜とレミリアの状況を考えると美鈴も何らかの影響が及んでいる可能性があるということを忘れていた。もしかしたら美鈴も咲夜みたいになっていると思うと解せない。今回の異変は不明な点が多すぎてわけがわからない。レミリアがおかしいことも、今更異変を起こすことも何から何までが疑問に残ることばかりだ。ただ一つ言えることはこの異変を解決しないと被害が広がっていくってことだ。なら私がやることは一つしかない。

 

 

 「皆、準備はいいか?」

 

 「あたいは準備OKだぞ!」

 

 「天子様、私も心の準備はできています」

 

 「私もいつでも戦える」

 

 

 チルノ、衣玖、神子……真剣な表情だ。この異変は霊夢が今まで解決してきた異変とはわけが違う。命の駆け引きが存在している危険な異変……それに私は神子のように悲しい異変でないことを祈るばかりだ。

 

 

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 「広いな……」

 

 

 天子達は紅魔館に侵入した。そこにはとても広い空間が広がっており静まり返っていた。

 

 

 「それに何の音もしない……不気味ですね……」

 

 

 神子が辺りを見回す。悪魔の銅像や蝙蝠の模様が描かれている柱などが存在し、吸血鬼を連想させる物ばかりだった。見れば二階に通じる階段に左右のドアが存在する。天子はどこに魔理沙とフランがいるか見当がつかない。実際に紅魔館に来るのは初めてで内装のことなど知るわけがなかった。ゲームで知っていても現実では何の役にも立たない事だってあるのだから。こんなことならばパチュリーに内装を聞いてこればよかったと後悔していた。

 

 

 「しまったな、どこに魔理沙とフランがいるかわからない。あの二人を先に確保しておいた方が何かと事情が聞けたりできたかもしれないのだが……」

 

 「ならば、手分けして探しましょう」

 

 「衣玖、だが戦力を分散するのは危険だぞ?相手側には確実に咲夜がいる。彼女の能力をここに来るまでに説明しただろう?」

 

 

 天子は衣玖と神子に説明していた。ゲームと変わらなければ能力は同じなはず、それにパチュリーを襲った襲撃者と言うのが咲夜なら、確実に敵側には咲夜が存在する。咲夜は厄介な能力を持っていた。

 

 

 【時間を操る程度の能力

 時間を止めて自分だけ移動したりすることができる。そしてこの能力によって時間と密接に関係する空間も操作することができ、紅魔館内の空間は彼女によってかなり拡張されている。時間・空間をどの程度まで操れるのかは定かではないが、とてもチート的な能力である。

 

 

 これによりいきなり攻撃されて気がついたら死んでましたということもありえるわけだ。時間を止めるのはまさに卑怯そのものだが、それができるのが十六夜咲夜だ。敵側に咲夜がいることが確実なので注意しなければならないのに戦力を割くのはどうかと天子は思った。

 

 

 「しかし天子殿、魔理沙とフランという子を見つけるには二手に分かれて捜索した方が効率がいい。それにそんな能力が相手なら私達全員集まっていたとしても終わりではないですか?」

 

 「う、うむ……確かに……」

 

 「運命に任せるしかないということですよ。もうここに来てしまったことには今更帰るなんて言えませんしね」

 

 

 天子の考えることは正論だが、相手は時間操作であるためこちらにはどうすることもできない。しかし、このまま逃げかえることなどできやしない。彼女に会わないように願いながら魔理沙とフランの二人を見つけ出す方法しかないようだ。それか彼女の能力が万能でないことを祈るしかない。そうでなければ天子達は勝ち目などないのだから……

 

 

 天子は神子の案に乗ることにした。丁度こちらは4人……それならば二手に分かれた方が見つけやすい。天子は誰を連れて行こうと考えていると当然のように神子が前に出た。

 

 

 「天子殿には私がついて行くとしよう」

 

 「はぁ?」

 

 

 その行動に衣玖の表情が険しくなった。先ほどまでの穏やかな様子など感じられない静かに怒りに満ちた様子だった。

 

 

 「お待ちください、天子様を守るのが私の役目です。関係のないあなたは引っ込んでいてください」

 

 「関係ないとは失礼な。私は天子殿自ら守ってくれると誓ってくれたのだぞ?だから私が傍にいないとダメだろう?」

 

 「今の状況を理解しているのですか?こんな時に何惚気てやがるのですか」

 

 「それは君も同じではないのでしょうか?衣玖殿……もしかして嫉妬ですか?器が小さいですね」

 

 「ハハハ……そっちは胸が小さいですね!」

 

 「あはははは!七星剣の錆にしてあげましょうか?」

 

 

 衣玖と神子の間に再び火花が散る。天子もこの状況をどうしようかと悩んでいたら小さな手が二人を押し分け割り込んだ。

 

 

 「喧嘩はやめろー!大人げないぞ!」

 

 

 チルノが二人の間に入り仲裁した。天子は心の中で「でかした!」とチルノを褒めてあげたかった。

 

 

 「喧嘩は良くないぞ。それに天子のことは心配するな。あたいが天子について行ってやる!二人の分まで天子を守ってあげるから、これで喧嘩もする必要がなくなったぞ!あたいえらいだろ!」

 

 

 予想外の小さな勇者が二人の争う理由を奪っていった。二人は何か言いたそうに天子を見つめるが……

 

 

 「あー……すまないが、二人共そっちは任せていいか?」

 

 「「……はい」」

 

 

 チルノのおかげでややこしいことにならずに済んでホッとしていた天子はチルノと、衣玖は神子と組んで館内を捜索することとなった。

 

 

 「あの二人……大丈夫だろうか……?」

 

 「どうした天子?あたいが悩みを聞いてやるぞ?」

 

 「いや、独り言だ。なんでもない」

 

 

 睨み合っていた衣玖と神子を心配していた。二人の関係が心配だが、今やるべきことを優先しなければならない。この広大な紅魔館から魔理沙とフランを探し出すのが先だ。

 チルノはフランと友達なので紅魔館を何度か訪れたことがあった。しかし、チルノの記憶力じゃ同じような廊下が続く扉の先がどんな部屋かなどそこへの生き方など憶えているはずがなかった。天子は大妖精も連れてこればよかったかっと思っていると、気になることをチルノは話した。フランが外に出る前まで地下に居たこと、その地下は今は使われていないこと、フランの過去の場所であったため気になった。しかし今のフランは姉のレミリアと一緒に寝たり、自分専用の部屋まであるらしいためそこに行く必要があるのか疑問だったが、気になって仕方がなかった。

 

 

 「(気になる……胸がざわつくような……勘というやつかな?一度そこへ向かってみてもいいかもしれないな……)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「はぁ……残念です。天子殿と二人っきりになれるチャンスだったのですけどね……」

 

 

 神子は肩を落とす。危険な状況で男女二人が共に困難を乗り越えていくシチュエーションではお互いの好感度は比較的上昇することを期待していた神子にとってはガッカリな組み合わせだった。

 

 

 「何惚気ようとしているのですか……豊聡耳ミミズクさん」

 

 「衣玖殿は私に喧嘩を売っているようですね……先ほどはチルノに止められてしまいましたが、その喧嘩買いましょうか?後ミミズクと言うのはよしなさい」

 

 「現在の状況理解できますか?敵地にいるのに仲間割れをなさるおつもりですか?空気読めないのですか?」

 

 「衣玖殿の方が空気読めてないと思いますがね?あなた竜宮の使いではなくヤツメウナギではなくて?」

 

 「ハハハ……表に出やがってください」

 

 「丁重にお断りします」

 

 

 女のにらみ合いが白熱する土俵……そこに横やりを入れようとする勇敢な者が現れた。

 

 

 「オジョウサマ……オジョウサマヲ……マモルタメ……ヤツラヲ……シマツシマス」

 

 

 美鈴が闇の中から現れた。女の争いに手を出そうとしている……正常ならばそんなことは誰もしないこと。誰も女の争いに入りたくはないものだ。しかし今の美鈴は傀儡人形そのものだ。美鈴がゆっくりと二人を排除するべく近づいてくる。

 

 

 「神子さん……あなたとの決着は後にしましょう」

 

 「そうですね。今はこの娘を何とかするのが先のようです。それにしても紅魔館の吸血鬼は部下をこんな目にあわすのですか?」

 

 

 体はボロボロだった。戦った後を示す破れた服装に汚れがついたままの肌……そして感情の持たない瞳を見れば手荒な扱いを受けていることは一目瞭然だ。

 

 

 「天子様によれば彼女が紅美鈴という門番のようですね。格闘戦が得意だとか」

 

 「なるほど、美鈴殿……異変解決のために少々手荒な真似をすると思いますが覚悟してくださいね」

 

 「タダ……オジョウサマノ……タメニ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あやや?美鈴さんは不在のようですね」

 

 

 文と霊夢も紅魔館の門前に到着した。いつもなら門前で昼寝をしている頭にナイフが刺さった緑の置物(紅美鈴)はいない。辺りを見回してもメイド妖精一匹すら姿が見えない紅魔館は静寂に包まれている。

 

 

 「私達が最初なのでしょうか?」

 

 「……誰かいるようね」

 

 

 霊夢はそう言うと門を潜り中へ入っていく。文も後を追い二人は紅魔館の扉を開いた。中に入っても誰も出迎えてくれる者は一人もいない。まるで墓場のように静まり返っている。しかし霊夢も文も気を抜いていたりはしなかった。その証拠に……二人の足元に魔法陣が展開され魔術が行使された。それを難なく避けてお互い左右に避難する。

 魔法陣から現れたのは鋭利な無数の刃だった。あのまま魔法陣の中に居れば体はバラバラに切り裂かれていた。パチュリーが不在な今、彼女に変わり魔術を扱う者が二人の前に姿を現した。

 

 

 「ハイジョ……テキハ……ハイジョ……シナイト……」

 

 「小悪魔さん……ですよね?」

 

 

 文が疑問を投げかけてしまった。何故なら小悪魔は名前自体に悪魔とついているのだが、極めて力の弱い下級の悪魔である。小悪魔のことを知っている文にとって目の前にいる存在は悪魔というより生きた傀儡人形……睨むこともしない瞳が霊夢と文を見つめるだけの存在と化していた。文の疑問すら耳に届いていないのか小悪魔は再び魔術を行使しようと動き出す。

 

 

 「そうはさせるもんですか!」

 

 

 霊夢が動いた。呪文を唱える小悪魔を容赦なくお祓い棒でなぎ倒す。小悪魔はお祓い棒に腹をやられて壁に激突した。流石にやり過ぎだと思った文が霊夢に注意しようとしたが別のものに目が行ってしまった。霊夢の攻撃は決して並大抵の攻撃ではなかったのだが、それでも起き上がってきた小悪魔……しかしその表情も先ほどと変わらない無感情の顔だった。

 

 

 「小悪魔さん……これは異常ですね。誰かに操られていると見て間違いなさそうですね」

 

 

 文は小悪魔が誰かの手によって操られていることを確信した。表情一つとして変えずに道具のように使われる……気に入らないことだった。自分の意思とは関係なしにいいように使われてしまっている小悪魔を哀れに思った。

 小悪魔はそんな文に目もくれずに呪文を唱え始める。隙だらけ、小悪魔には戦闘する力はほとんど備わっていない。彼女はあくまでもパチュリーの補佐であり、紅魔館の一員である小悪魔をこれ以上傀儡としての姿を晒す必要はないと文は判断した。葉団扇を取り出して小悪魔に情けをかける。

 

 

 「恨まないでくださいね。霊夢さんに滅多打ちにされるよりかはマシだと思いますから……大丈夫です。あなたを操っている者には必ず天罰が下ると思いますよ」

 

 

 旋風「鳥居つむじ風」!!!

 

 

 葉団扇を振るい発生した小さな二つの竜巻は詠唱中の小悪魔をそのまま飲み込んでいった。すぐに竜巻は消滅し、そこに横たわる小悪魔……脈を測ってみたが気を失っているだけで大丈夫であった。

 

 

 「私に滅多打ちにされるよりかはマシ……ね。まぁ、相手が小悪魔であっても邪魔する者は退治するだけだったけどね」

 

 「あやや、相変わらず容赦ないですね。もし私が小悪魔さんを気絶させてなかったらどうするおつもりだったので?」

 

 「割るわ」

 

 「おお、こわいこわい……」

 

 

 相手が小悪魔で特に苦戦することなく排除した二人。文に介護され壁に小悪魔を寝かすと二人は紅魔館の主の元へと急ぐ……

 

 

 「さっさとこの異変の黒幕をぶちのめして、のんびりしたいのよ。文、急ぎなさい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ククク……紅魔館に愚か者が揃いつつあるな……」

 

 

 片手に赤い液体が入ったグラスを見つめながら笑みを崩さない吸血鬼。グラスを動かすたびに波を作り出し赤い液体は濃厚な味を引き立たせる。

 

 

 「愚かな生き物共め……私の館を穢すなど……奴らの命で償ってやるわ」

 

 

 王座に座りながら独り言を呟いているように感じた。傍には咲夜が控えているがそれには目もくれない。そこには何もなく、いるのは人ではなく物だと認識しているようにも見えた。

 だが、吸血鬼は気にせず優雅に語る……

 

 

 「だが、いい世界だ。この幻想郷こそ私のためにある……殺すも生かすも私次第……価値のあるのは私だけ……この世界に生きるもの全ては私のためにあるのだからな!」

 

 

 グラスを天に向け高らかに突き上げた。

 

 

 「ククク……スカーレットに……乾杯」

 

 

 そしてグラスを口元に近づけて中身を飲み干した。赤い液体……濃厚な血の味は吸血鬼の喉の渇きを潤す……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『「比那名居天子、天人くずれだ!」』

 

 

 「!?」

 

 

 喉の渇きを潤してくれるはずだった。突如として頭の中に響いた声に先ほどまで優雅にしていた吸血鬼が動揺する。

 

 

 「(な、なんだ!?だ、だれだ……今のは……?)」

 

 

 先ほどの光景が吸血鬼の脳内でフラッシュバックする。

 誰か知らない人物が吸血鬼の前に立ち塞がった。その者は美しさと凛々しさを合わせ持った顔立ちに髪は腰まで届く青髪のロングヘアに真紅の瞳も持った男だった。その男は吸血鬼に向かってくる。絶望などに支配されずに真っすぐ向かってくる男が吸血鬼の体を剣で切り裂く光景が繰り返し再生された。何度も切り刻まれ追い込まれていく自分の姿を見てしまった。

 

 

 「(ま、まさか……ありえない。私が見ず知らずの奴にやられる運命などと……!?)」

 

 

 吸血鬼は脳内に映し出された光景がどうしても忘れられなかった。次第に吸血鬼の手に力が入り、手に持っていたグラスが粉々に砕け散る。砕けたガラスの破片が手に深々と刺さりそこから血が流れる。その血だらけで破片が刺さった手で咲夜の首を掴む。咲夜は痛がる感情すら表に出さない傀儡……吸血鬼は咲夜に吐き捨てるように命令した。

 

 

 「メイド!すぐに青髪のロングヘアに真紅の瞳も持った比那名居天子という男を殺せ!そいつは私の脅威になりえるかもしれん!邪魔する者は全て皆殺しにしろ!」

 

 

 乱暴に扉の方向へ咲夜を投げ飛ばす。小さな体にどれほどの力が備わっているかよくわかる。人間など簡単に殺してしまう吸血鬼としての力を持った彼女は動揺していた。自身の体が持っている能力で未来を見たから……

 

 

 【運命を操る程度の能力

 周りにいると数奇な運命を辿るようになり、一声掛けられただけで、そこを境に生活が大きく変化することもある可能性があり、珍しいものに出会う確率が高くなるらしい。未来予知に近いものであり、この能力は将来の出来事が判るというものらしい。しかしそれは一つの選択肢を見ることができるということであるが、決して変えられないわけではない。

 

 

 その運命を見て苛立った吸血鬼に投げ飛ばされた咲夜は床を滑り扉にぶつかった。

 

 

 「必ず殺せ!絶対にそいつの息の根を止めるのだぞ!例え貴様の命が尽きようとも奴だけは生かすな!命令だぞ!」

 

 

 ゆっくりと立ち上がり、掴まれた首筋から多少の血が流れ、乱暴に扱われても表情一つさえ変えない咲夜はお辞儀をし……

 

 

 「カシコマリマシタ……オジョウサマ……」

 

 

 命令を実行するために扉の先に消えて行った……

 

 

 「……なんなのだ……奴は?この私に逆らう愚かな生き物が……!」

 

 

 『「比那名居天子、天人くずれだ!」』

 

 

 脳内に忌々しい存在の名が響く……

 

 

 「比那名居天子……貴様が私にとって……最も邪魔な存在か……どんな手を使っても殺す!私の邪魔などさせぬわ!」

 

 

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 「慧音さん、状況はどうですか?」

 

 「聖殿!来てくれたのか!」

 

 

 私は聖白蓮という者です。私は人里へやってきました。空が紅い霧に覆われていくのを見ました。ただの異変ならば私も幻想郷のルールに従って静観していましたが、この霧には恐ろしい気配を感じました。何か人を惑わし、害を与える感じを……

 私達を受け入れてくれたこの幻想郷も人里で私達を歓迎してくれた皆さんをお守りするためにこの場にいます。慧音さんとはその時に出会い半人半妖ながら人々のために汗水流すお姿に感激しました。人里の皆さんも私達が妖怪にも手を貸していることを知っておりながら良くしてくださった恩を忘れてはいません。少しでもその恩を返そうかと思います。

 

 

 「状況は良くないです。何しろこの霧……嫌な感じです。何かこう……胸が締め上げられるような感覚が襲ってくる気がして……」

 

 「聖、やはりこの状況はよろしくないようですね」

 

 「あなたは……?」

 

 「これは自己紹介が遅れました。私は寅丸星といいます」

 

 

 【寅丸星

 虎の体色のような金と黒の混ざった髪に頭上に花を模した飾りを乗せている。虎柄の腰巻きをつけ、背中には白い輪を背負っている。毘沙門天の弟子で代理人も勤め、命蓮寺内では白蓮に次いで偉い僧侶である。白蓮が忙しい時は、代わりに命蓮寺を守っている。

 

 

 私と星は慧音さんから事情を聴きました。すると天子さんがこの件に関わっていることを知りました。それと豊聡耳神子、彼女も天子さんと共に紅魔館なるところへ向かったという情報を知り得ることができました。天子さんと一緒なら神子さんは安心だと私は思います。心の支えが傍にいるなら私なんかよりも天子さんに任せた方がいいとさえ感じます。そんな時に私達以外に誰もいない人里に走ってくる影が3つも……

 

 

 「慧音!大変だ!」

 

 

 走って来たのは慧音さんのご友人である妹紅さんと見知らぬ二人……小さな子供のような方と宙に浮いている存在……幽霊と言った方が合っているお方がやってきた。

 物部布都さんと蘇我屠自古さん、お二人は豊聡耳神子さんにお仕えする方だった。そんなお二人と妹紅さんは急いで私達の元へやってきたのは何かあったようですね……

 

 

 「それでどうした妹紅?」

 

 「そうだ!人里の入り口に現れやがった……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「――吸血鬼の群れが!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 聖達が見たのは驚くことだった。人里の入り口には大勢の妖精()()()者達がいた。

 

 

 ()()()……今ではその見る影も形もなかった。身に付けている服装からどこかの雇われ妖精であることはわかる……しかし、違うのは容姿だった。みんな幼い姿をしているが牙が生え、妖精の独特な透明感がある羽ではなく悪魔を思わせる羽も生えていた。目は真紅のように赤く染まり、その目に光は一切存在しなかった。

 吸血行為……吸血鬼に血を吸われた者の末路はみんな吸血鬼になりえるわけではない。しかし吸血した側が血を吸った相手を自身の意思で仲間に加えることで新たな吸血鬼が誕生する。その者達は元は妖精……しかしどこかの吸血鬼に血を吸われた跡が首筋に残っていた。慧音には心当たりがあった。紅魔館には妖精メイドが雇われていると知っていた。そして目の前にいる妖精の服装はメイド服……ここにいる吸血鬼に成り果てた妖精達は紅魔館の妖精メイド達であったことが見て取れた。

 

 

 慧音は聖達に紅魔館の妖精メイドであることを伝えた。そしてそこにいる吸血鬼は今、紅い霧を生み出して異変を起こしている。偶然とは思えない……これもレミリア・スカーレットの仕業であると確信した。

 

 

 「チッ!あのガキンチョ吸血鬼!自分の部下まで手を挙げやがったのか!?」

 

 

 妹紅から怒りの炎がメラメラと燃え上がった。非人道的な行為を行っているレミリアに怒っていた。妹紅は不老不死でありこれまで長いこと人間や妖怪を見てきた。その中で見てきたことは何も幸せなことだけではない……理不尽な目にあったことや不愉快に思ったことはいくらでもある。妹紅は死ねない……だが、目の前の吸血鬼と成り果てた妖精達の姿は死人そのものだった。紅魔館の吸血鬼は命を弄び、死を冒涜していると……目の前の現状に腹が立った。

 

 

 なんてことを……私はレミリアさんというお方がどういう人物か知りません。しかしこのようなことを仕出かすお方なのでしょうか……

 

 

 聖は目の前の光景から目を逸らしたかった。今の妖精メイド達は血を求めて人々を狙いにやってきた存在と変わってしまっていた。彼女達は被害者だった。吸血され、吸血鬼に変えられて血を求める獣に成り下がった。しかし、このままでは人里に侵入され人々が襲われてしまう……聖は悲しい表情を妖精達に向け、もしかしたらまだ理性が残っているのではないか、そうすれば手を取り合えないか、話し合いで解決できないかと彼女達に近づこうとした。

 

 

 「――ガァ!!」

 

 「聖殿!?あぶな――!?」

 

 

 慧音の叫ぶ寸前、聖が吸血鬼と化した妖精メイドの牙を受ける前にそれは起こった。妖精メイドの体が真っ二つに別れていた。別れた肉体は光となって自然に帰っていった。

 星は槍を片手に持ち、聖を庇うように前に立ちその堂々たる背中を晒していた。

 

 

 「聖、この者達には話合いも手を取り合うことはできません。聖の気持ちはわかりますが、今は堪えてください」

 

 「星……」

 

 

 仲間がやられたことも気にせず、他の妖精メイド達も聖と星を目掛けて飛び掛かる。しかし炎が妖精メイドを包み込み灰にした。布都が生み出した炎によって二名の妖精メイドは成仏することとなった。

 

 

 「聖殿大丈夫ですか!?」

 

 「慧音さん……すみません。屠自古さんと布都さんも申し訳ありません……」

 

 「気にしないでくれ、それより怪我無いな?」

 

 「ええ、大丈夫です」

 

 「後方からの支援は我に任せるのだ!」

 

 

 慧音達が聖を庇うように後退する。その間も吸血鬼になった妖精メイド達が襲いに来るがそれを星と妹紅がなぎ倒す。

 

 「話は後だぜ!住職さんよ!あんたは知らないかもしれないが、妖精というのは死んでもまた蘇れる。その時には私みたいに状態がリセットされるから吸血鬼状態から解放されると思うぞ」

 

 

 妹紅さんが言ったことはまるで自分も死んで蘇れるような言い回しだった。しかし、妖精達が死んでも生き返るのなら、ひどい言い方をするようですが救いがある。まずは人里に入らせないようにしないといけない。早くこの異変が解決して平和な日常が戻ってくることを祈るしかない。それが今の私にできること……天子さんお願いします。この悪夢から私達を覚まさせてください……!

 

 

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 「ん……うぅ……!」

 

 

 目を覚ました一人の少女。目が覚めて一番に感じたのは胸の痛みだった。

 

 

 「いっ……てぇ……!」

 

 

 霧雨魔理沙は胸の部分に痛みを感じた。痛みを感じた部分は血が染まり服は赤くなっていた。

 

 

 私は何をしていたんだ……胸が痛い……美鈴と小悪魔の奴の様子がおかしかった。アリスがパチュリーを抱えて深夜に私の家を訪れた時はどうしたんだと思ったが、紅魔館は今おかしな状況になっていた。異変を解決するべく紅魔館を訪れたが、妖精メイドの姿が見られず簡単に侵入することができたが不気味だった。ようやく知っている顔にあったらその二人までおかしかった。パチュリーが話していたことは本当だった。美鈴と小悪魔の目を覚まさせてやろうかとマスタースパークを放とうとした時に私は意識を失ったんだっけ?確かあの時はナイフが……

 

 

 胸にナイフが刺さっていたことに血の気が引いていった。あのナイフはおそらく咲夜が放ったもの……死ぬことはなかったが、ミスしたのかわざとミスをして殺さなかったのか……どちらにしても今の紅魔館は異常な空気に包まれている。魔理沙は早くここから脱出しようと辺りを見回していた。

 

 

 周りは壁で窓もない。正面には鉄格子が存在していた……牢屋の中に魔理沙はいた。そして魔理沙は目を疑った。鉄格子の先に見知った顔がいた。向かいの牢屋には鎖に繋がれぐったりとしていたフランの姿があったからだ。

 

 

 「おい!フラン!フランなんだろ!?しっかりしろ!!」

 

 

 魔理沙は声を荒げた。自分の胸の痛みなど忘れるぐらいの動揺だった。フランの服は元々赤い色をしていたが、赤黒い色と化しており地面には赤い液体が溜まっていた。傷が塞がってはいたものの、傷口から大量の血が流れて地面に溜まったことが窺える。そんな状態のフランを心配して魔理沙は必死に名前を呼ぶと薄っすらと瞼をあげた。

 

 

 「フラン無事か!?」

 

 「……ま……り……さ……?

 

 

 意識はあるな。誰なんだ……フランにこんなことをした奴は!美鈴も小悪魔も様子がおかしかったし、パチュリーを襲って私にナイフを刺した咲夜も異常だ。どうなっているんだ今回の異変は!?フランが何か知っているかもしれない……しかし今の状態のフランに無理をさせるわけにはいかない。とりあえずここから脱出しないと!

 

 

 魔理沙は出入り口を探すが鉄格子側にしか扉はない。魔理沙の所持品である箒も八卦炉も手元にはなかった。非力な人間の魔理沙では鉄格子などビクともするわけはなく、どうすることもできなかった。

 

 

 「ちくしょう!どうにかできないのかよ!?」

 

 

 そんな時に音が聞こえてきた。ゆっくりだが、どこか荒々しい足音……その足音はこちら側に向かってきている。誰の足音かわからない……自分達を閉じ込めた本人かもしれない……魔理沙の体に緊張がはしる。一歩ずつ確実に近づいてくるその足音は助けの足音なのか……それとも絶望への足音なのか。

 もう間もなく足音の正体が判明する。すぐそこにそいつがいる……息を呑む魔理沙、フランの状況を考えると非常に良くない結果になるだろうと無意識に感じ取ってしまった。焦りの汗が流れ落ちる……そしてついに正体が露わとなった。

 

 

 「レミリア!無事だったのか!」

 

 

 魔理沙に待っていたのは絶望の足音ではなかった。魔理沙の緊張が一気にきれ、笑みがこぼれる。

 

 

 レミリアは無事だったか!よかった……てっきり怪物か何か現れるかと思ったぜ。それよりもフランだ!早くフランを助けてやってくれ……いや、待てよ。こんな状況でレミリアが来るだなんて……それにフランがこんな様子で平然としているなんて……何か様子が変だ。それにレミリアの奴、手に何を持っているんだ?

 

 

 魔理沙を素通りしてフランの牢屋の鍵を開けた。何も言わずにフランに近づいた。

 

 

 「レミリア……お前何を……?」

 

 

 何をするんだ?っと言おうとした時だった。フランの顔を掴み口を開けさせ手に持っていた赤い何かを流し込む。無理やりに何かを飲まされるフランに苦しみの表情が現れる。抵抗する気力も力もない今の状態のフランはレミリアにされるがままだ。赤い液体は喉を通りフランの胃の中に流し込まれて行く。

 

 

 「や、やめろレミリア!フランに何しやがるんだ!!」

 

 

 魔理沙の必死な叫びも聞こえないのか、聞こえていても無視しているのか、どちらにせよフランは赤い液体を飲み干してしまった。そしてフランに繋がれていた鎖を外していく。その場に崩れ倒れるフランの名を呼ぶ魔理沙。しばらくするとフランの体がピクリと動いた。そしてゆっくりと立ち上がる……魔理沙は見てしまった。フランの瞳は美鈴や小悪魔と同じように光を宿していないことを……

 

 

 「フラン……レミリアお前!フランに何しやがったんだよー!!」

 

 

 鉄格子をガチャガチャと揺らすが音だけしかならない。魔理沙には鉄格子など壊すこともできない。魔理沙は見ていることしかできないのだ。

 

 

 「うるさいぞ小娘、フランは今から私の道具となったのだ」

 

 「道具だと?ふざけるな!フランはお前の妹だろう!?フランを傷つけたのはお前なのか?それと美鈴と小悪魔、咲夜もおかしくなった原因はお前なのか?答えろレミリア!!」

 

 「そうだ、私がやったことだが?」

 

 

 魔理沙の問いに平然と答えた吸血鬼。鎖に繋がれ、牢屋に入れられ、傷つけられて、妙な液体を飲まされたフランの気持ちを考えると今すぐに目の前の存在をぶちのめしてやりたいという気持ちに駆られた魔理沙だった。しかし何故和解したはずの姉妹がこんなことをするのか理解できないでいた。

 

 

 「理解できないという顔をしているな。簡単に言うとフランは私のための道具であり、私の所有物だ。ならば私のために力を行使し、使われるのが当然だろう?出来損ないを飼ってやっている私の身にもなってほしいものだね」

 

 

 何を言ってやがるんだレミリアの奴!?フランとは前の異変の時に仲直りして一緒に宴会で騒いだり、つまらない喧嘩をしたじゃないか!なのに道具?出来損ない?レミリアお前に何があったんだよ!?

 

 

 魔理沙は目の前のことがわからない。何故実の妹であるフランにこんなことができるのか?家族のように接してきた紅魔館のメンバーを裏切るようなことをできるのかと……

 

 

 「小娘、お前に教えておいてやる。さっきの赤い液体は飲んだ相手を強制的に服従させる代物で、メイドや門番共にも飲ませた。おかげで道具がいろいろ揃っているわ!」

 

 「てめぇ!」

 

 「ククク……お前はそこで待っているがいい。私の気まぐれで生かされたことを感謝しながらな……フラン行くぞ」

 

 「……ハイ……オネエサマ……」

 

 「フラン!行くな!」

 

 

 フランは一瞬だけ虚ろな瞳で魔理沙を見た。しかし興味がないように何もそこに存在しないようにフランは暗闇の中に消えて行った。

 

 

 「フラン!レミリアー!ちくしょう!!」

 

 

 鉄格子を揺らすがビクともしないことに不甲斐なさを感じる。フランを助けてやれずに魔理沙は吸血鬼の背中を見ているしかできない。 

 

 

 「待てよレミリア!話はまだ終わっていない!フランをどうするつもりなんだ!お前に何があったか私はまだ知らないぞ!レミリア!!答えろよレミリアー!!!」

 

 

 魔理沙は冷たい牢屋の中で一人で叫ぶことしかできなかった。

 

 


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