比那名居天子(♂)の幻想郷生活   作:てへぺろん

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シリアス増しですので注意です。


それでもいいZeという方は……


本編どうぞ!




27話 偽りの家族

 「スカーレット卿!」

 

 

 咲夜が言い放った言葉は予想を遥かに超えるものであった。

 

 

 今回の紅い霧の異変、咲夜達が傀儡のように成り果ててパチュリーや天子達を襲ったのも全てはレミリアがやったことではなく、その父親であるスカーレット卿によって仕組まれたものであった。

 

 

 …………………………………………

 

 

 ……………………

 

 

 …………

 

 

 ……え”え”え”え”え”え”え”え”え”え”え”え”え”え”え”え”え”え”え”え”!!?

 

 

 ちょ!?私も咲夜の様子から何かあるなとは思っていたけど……予想外過ぎました!!スカーレット卿ってレミリアとフランの父親らしい……二人の父親が異変の黒幕だったの!?私は東方好きでゲームも漫画も呼んだけれどこれは予想だにしていませんでした。咲夜が言うにはレミリアの体を使っているってことよね?でも何故自分の娘であるレミリアの体を使ってまだその体に宿っているのかしら………それに今までの咲夜や美鈴の状態、現在のフランの様子から察するに何やら良からぬことがあるに決まっている。それか何か理由があるのか?そうでなければこんなことはしないはず……理由を聞きたい。けれど、聞いてしまえばこのスカーレット卿のことを許しておけない気がする……

 

 

 咲夜達やフランをこんな目に何故合わせる必要があったのか、それを問いただしたい気持ちが大きかった。

 

 

 天子の気持ちを代表するかのようにチルノが問いただす。

 

 

 「やい!レミリアの父ちゃんは何でフランにこんなことをした!咲夜もおかしくなっていたんだぞ!」

 

 「ク……ククク………クハハハハハハハ!!!」

 

 

 スカーレット卿はレミリアの姿で大笑いした。

 

 

 「クハハハハハ!バカな妖精だ。そんなこともわからないのかぁ?」

 

 「なんだとー!」

 

 

 スカーレット卿はチルノから順に見渡していく。妖精、烏天狗、竜宮の使い、仙人、博麗の巫女、魔法使い、メイド……そして天人を見比べた。そして床に散らばったゴミにうんざりするように言った。

 

 

 「道具だからだ」

 

 「道具……とはどういうことですか?」

 

 

 衣玖はスカーレット卿が何を言っているかわからない……否、わかってしまいたくないと思った。スカーレット卿から出た言葉の意味を理解してしまうと二人の吸血鬼の悲しい泣き声を聞いてしまうような気がしたから。

 だが、衣玖は理由を知りたいと質問してしまった。答えを要求した……その答えがわかっていたとしても、衣玖の勘違いであることを望むように小さな希望を持って聞いた……

 

 

 「私のために力を使い、私のために生き、そして死ぬ……それが道具という奴だ。父親である私のためにこき使われて、私が不要だと思ったら自ら望んで捨てられる。私のために己が犠牲になること、それこそが子供には必要であり、親孝行というものではないのかね?」

 

 

 小さな希望はそこにはなかった。道具……言葉通りの意味だった。子供であるレミリアとフランは使われた……道具のように、それがあたかも当然のようなものだとスカーレット卿は語ったのだ。

 

 

 「道具を使って何が悪い?寧ろフランのような出来損ないを飼ってやっている私を褒めてほしいものだよ」

 

 「出来損ない?飼っているだって?」

 

 

 神子にとっては聞き捨てならない言葉だ。彼女も己の野望のために過ちを犯そうとした。それは人々のことを思ってのことだったが、目の前にいる吸血鬼はどうだ?まるで自分以外の者をただの物として見ていないようだった……フランを出来損ないと言うのはどういうことか?彼女が何をしたというのだ……神子の震える拳に力が入る。

 

 

 「ククク……面白い事を教えてやろう。フランが精神的に異常が見られるのはメイドは知っているな?」

 

 「え、ええ……」

 

 「ククク……元々フランは正常だったのだよ。だが、ある事が起こって気が病んでしまったのだよ」

 

 「ど、どういうことですか!?」

 

 

 咲夜は黙っていられなかった。咲夜はフランが精神的に問題があるからという理由で地下に閉じ込められていると解釈していた。レミリアもそのことには語ろうとはしなかった。咲夜はその詳細を知らないため、知りたかった。咲夜がフランに会った時は異常性が見えていても少なからず良心が残っていた様子だったが、元々フラン事態に精神的異常などなかったとスカーレット卿は言ったのだ。一体何がフランを変えてしまったのかということを咲夜はどうしても知りたかったのだ。

 

 

 私が原作で知っているのは、フランはゲーム上では少なくとも495年以上生きているが、少々気がふれているという設定があった。けど、スカーレット卿が言うには元々は普通の吸血鬼の女の子であったと言った。だが、とある原因があってフランの精神がふれてしまったと語った。

 

 

 悪魔の口からぼそりと真実が語られる……

 

 

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 真っ赤に染まった絨毯(じゅうたん)の上に転がる肉塊があった。原型を留めていないただの肉塊だったはずだ。しかし、とても醜悪な臭いが漂ってくる……そこから流れる赤い液体が絨毯(じゅうたん)を赤に染めていたのだ。

 

 

 扉の前でその光景を見つめる一人の少女……まだ幼く背も小さい子供、宝石がぶら下がった変わった羽を生やして小さな牙を見せていた。その少女は肉塊を唖然と見つめているしかできなかった。

 

 

 少女は幼いが、ちゃんと言葉も理解できたし、話すこともできた。でも頭が理解したくなかった。理解したらどうにかなりそうだったから……少女の目の前にはいつも笑顔で食事をして、楽しく話していた見知った顔だったもの肉塊を視界から外すことができなかった。

 

 

 フランドール・スカーレットはその肉塊を見つめていた。

 

 

 「お……かあ……さま……?」

 

 

 目の前に広がっている光景を受け入れることができない。フランはその肉塊を見つけていたが、その瞳には驚愕と動揺が現れている。絵本を読み聞かせてくれたり、時に厳しく当たるが優しい母の変わり果てた姿が転がっていた。その前に血まみれの姿で立っている一人の男……スカーレット家に嫁いできた父親……スカーレット卿の姿だった。

 

 

 「遂にやったぞ!これでこのスカーレット家は私の思うがままだ!クハハハハハ!!!」

 

 

 そこにはいつもの父親はいなかった。吸血鬼のフランから見ても恐怖を感じるほどである。狂ったように笑い続けたスカーレット卿は不意に笑うのを止めてフランを見つけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 紅魔館で4人家族で暮らしていた父親と母親、レミリアとフランだったが、今日は特別な日になる予定だ。フランの誕生日を祝う日なのだ。

 スカーレットは母方の名であり、婿入りという形で父親はスカーレット家に嫁いできた珍しい例だ。吸血鬼の当主は男性がほとんどで、女性の当主に婿入りするなど恥さらしだと多くの吸血鬼は偏見を持っている。しかし、レミリアとフランの父親は喜んでスカーレット家に嫁いできた。初めは多くの反対意見もあったが、二人は結ばれ結婚し、二人の子供を授かった。レミリアとフランが生まれ、楽しい生活を送る人生が待っていることに疑いようがなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのはずだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フランは目が覚めた。誕生日パーティーを思う存分楽しんでいつの間にか眠ってしまっていたらしい。不意に目が覚めてトイレに行こうとベットから出た。隣で眠っていたレミリアが瞳を薄っすらと開ける。

 

 

 「むにゃ……どこいくの……フラン……?」

 

 「……おトイレ……」

 

 

 二人共眠たそうにそれだけ会話してフランは部屋を出て行った。楽しくていつもよりも大騒ぎした誕生日パーティーで遊び疲れてしまったレミリアは睡魔に負けて瞳を閉じる。

 

 

 紅魔館は広いくせにメイドも執事も雇っていなかった。それは両親が家族の時間を大切にしたいという思いから誰も雇う気はなかった。

 そんな静かな紅魔館をフランは一人で歩いていると耳に届いて来た。とても小さな音だが何かが割れるような音が耳に届いたのだ。吸血鬼は目も耳も人間の何倍もよかったために聞こえてきてしまった音に、幼いフランにとっては興味を惹いてしまうには十分な音であった。フランはその音の元へ歩いて行ってしまう。

 

 

 フランは小さな体で音が聞こえてきた方向へと向かう。向かっている途中でも何度か音を聞いた。ますます音の正体が気になって興味をそそられた。聞こえてくる音が段々と大きく聞こえてくるようになる。そして、その音はピタリと止んだ。だが、既にフランはその音の出所についてしまった。

 音の出所は両親の部屋からだった。大好きな父親と母親の姿が思い起こされる。幼いフランは布団にもぐり込んで両親を驚かせようと悪戯心で扉に手をかけて開いてしまった。扉の先には絶望が待っていることも知らずに……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 開けた瞬間に鼻につく醜悪な臭いを嗅いだ。フランは咄嗟に手でその臭いを防ごうとした。その時に目に飛び込んできた。真っ赤な衣装が更に染みついた液体によって、赤黒く変色した色になった衣装に身を包む父親の前に、真っ赤に染まった肉塊……その肉塊には顔があった。よく知っている……先ほどまで一緒に誕生日パーティーを祝い、共に食事をし、絵本を読み聞かせてくれて、楽しく家族の時間を過ごした優しい母の顔にそっくりだった。

 

 

 「お……おとう……さま……?お……かあ……さま?」

 

 

 目の前に広がっている光景を受け入れることができない。フランはその肉塊を見つけていたが、その瞳には驚愕と動揺が現れていた。肉塊がフランを見つめている……大好きな母の顔をして……

 

 

 「フラン……ダメじゃないか。勝手に入って来たら……パパは悲しいぞ」

 

 

 フランの頭は現状に追いつけない……フランには何がなんだかわからなかった。目の前にいるのはよく知っている父……だけどいつもの優しい父ではなく、冷たくこちらを睨みつける瞳……変わり果てた母の姿……フランの頭はパニックに陥っていた。フランは立っていることがままならず膝から崩れ落ちた。ゆっくりと近づいてくる父はピタリと止まり、力無く座り込んでいるフランに手をのばす。

 

 

 「フラン……悪い子にはお仕置きしないといけないね……!」

 

 

 フランの頭を掴む。ゆっくり……ゆっくりと掴んだ手に力が入る。

 

 

 「いたい……いたいよ!おとうさま!!」

 

 

 痛みがフランを現実に留まらせた。離してくれない父の手に必死に懇願するがそれでも力を緩めてくれない。次第に骨が軋む音が聞こえてくる。

 

 

 「いたいいたい!いたいよ!!やめてー!!!」

 

 

 掴まれたフランの体が宙に浮く。痛みに耐えられずにジタバタと暴れだし、痛みで目から涙が流れ声は悲鳴へと変わり混乱する。暗い部屋に浮かぶ闇に隠れた微笑が時より外から差し込む満月の光によって照らし出される。映し出された顔はいつもの優しい父親などの面影は一切存在しなかった。

 娘の苦しむ姿を実に愉快そうに見つめるその瞳は喜びと憎悪に支配されていた。

 

 

 「私を父と呼ぶな出来損ない!お前の中に私の偉大な血が流れていると思うと吐き気がするわ!」

 

 

 怒りに叫ぶ父の声……変わり果てた母の姿……誕生日を共に祝い楽しい一日が過ぎていくはずだった。なのになんだこれは?地獄を見ているのか?夢の中ならこれは悪夢だ。そうだ……これはきっと悪い夢なのだ!そう思いたかった。これが夢ならフランはどれほど幸せだっただろうか……だが、現実は時として非情なものを突き付ける。

 

 

 フランはこれが夢じゃないことを知っている。痛みを感じているし、現実なんだと意識がはっきりと主張している。彼女の瞳に涙が流れている……先ほどまで痛みで流した涙ではなくなっていた。

 

 

 絶望……流れる涙の色は赤色に染まってしまっていた。

 

 

 「死ね」

 

 

 父の手がフランの頭を握りつぶさんとした……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゴトリ……

 

 

 フランは床に落とされた。尻もちをついた傍に腕が落ちた。フランを掴み上げていた父の腕が床に転がった。フランは顔を上げるとそこには片腕が無くなっている父親が睨みつける存在……姉のレミリアが扉の前にいた。

 

 

 「レミリアー!!貴様だれに向かって何をしたかわかっているのか!?」

 

 

 壁にはレミリアが放った槍……グングニルが刺さっていた。レミリアの槍が父親の腕を切り裂いたのだ。グングニルを放った本人は状況を把握できていない。しかし、フランが今まさに命の危機に瀕していた時に冷静でいられなかった。それが例え大好きな父親であったとして姉である自分が守らなければならないと行動していた。

 

 

 「お父様!フランに酷い事しないで!どうしちゃったの!?」

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 レミリアは嫌な予感がした。フランがトイレに行った後、フランが死ぬ夢を見た。傍には大好きな母親の変わり果てた姿があったのを憶えている……そして二人を殺したのは自分の父親だった……そんな怖い夢を見た。布団から飛び起きて体から流れ出た嫌な汗を拭う。呼吸が荒く、心臓の鼓動が収まらない。ゆっくりと深呼吸をし、気持ちを落ち着かせる。次第に気分は落ち着きを取り戻し、隣を見るとまだフランが戻って来ていなかった。心配になってフランの様子を見に行こうと部屋を出た。そして歩いている時に聞こえてきた。

 

 

 妹の悲鳴が聞こえた。レミリアの夢が正夢(まさゆめ)になってしまうのではないかという恐怖に駆られる。レミリアは幼い体を動かして走り出す。扉を開けて目に入って来たのは夢と同じ光景だった。夢で見た母親の姿、フランが命を狩り取られようとしている。その命を奪おうとしているのは自分の父親……その瞬間、体が勝手に動いていた。グングニルを父親の腕に向けて振りかぶった。大好きな父親の腕をグングニルが切り裂き壁に突き刺さる。

 

 

 レミリアは信じたくなかった。悪夢……それが目の前に広がっていた。フランを殺そうとした父親、その傍で変わり果てた母親の姿、大好きだったはずの父親の腕を切り裂いたレミリア……まだ幼い姉妹には辛すぎる現実が待っていた。

 

 

 「お父様!どこか具合が悪いの!?」

 

 

 だが、レミリアは諦めていなかった。母親は父親に殺された……それは自身の意思ではなく、どこの誰かもわからない愚か者が父親を操っているのだと……そう思いたかった。そう願っていたし、そうじゃなくてはいけないと決めていた。

 

 

 「大丈夫よお父様!私がお父様を操っている奴を殺してあげるわ!!」

 

 

 自分自身に言い聞かせる言葉でもあった。きっと父親は操られている……そうに決まっていると!

 

 

 「操られていると……?ククク……クハハハハハ!!!」

 

 「お、おとう……さま……?」

 

 

 赤に染まった部屋に高らかに響く笑い声……狂気に満ちた満面の笑みを浮かべる男……

 

 

 「私が操られているだと?馬鹿か貴様は?いや、馬鹿だったな。貴様らは自分達が愛されていると信じきってのうのうと生きてきたのだからな!私が貴様らのことを一片も愛していないことなど知らずにな!!」

 

 

 心臓を杭で打たれたような感触だった。実際に打たれたことはないレミリアだが、それほどの衝撃だった。操られていない?愛されていない?レミリアの瞳に動揺が走る。

 

 

 「まだわからないのか?ならば死ぬ前に教えておいてやるわ。何故私が、そこに転がっている肉塊と縁を結び、貴様らを生み出したのかを……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とある所に一人の男がいた……その男は欲深かった

 

 

 男は名誉が欲しかった

 

 男は力が欲しかった

 

 男は快楽が欲しかった

 

 

 だが、男は残虐だった

 

 心もない非情だった

 

 平然と騙し命を奪うこともした

 

 

 男は楽しんでいた

 

 自分以外の者は全てクズだとゴミだと思っていた

 

 この世の全ては自分のためだけにあるものだと

 

 

 男は……最低な吸血鬼(バケモノ)だった……

 

 

 男は探した。己の欲を満たしてくれるものを……満足できるものが欲しかった。そんな時にある噂を耳にした。強く優しく美しい女である吸血鬼が当主を務めるスカーレット家の話を……

 男は興味を持った。探した……探して見つけた。美しさに(いろど)られた女がいた。男は満たしてくれるものを見つけた。だが、満たされる手段が見つからなかった……しかし、男は幸運を見つけてしまった。女が結婚していないこと、女の心は一人寂しく心細かったこと、スカーレット家の当主が女であることで同じ吸血鬼から白い目で見られていたことなど心の隙間が大きかった。スカーレット家はそこそこの名誉がある家柄だった。丁度いいと男は笑った。そして考えた……この女を手に入れたら名誉が手に入るし、女と結ばれれば権力が手に入るだけではない。もしかしたら力も手に入るのではないか?そう思った。

 

 

 男は……女を騙すことにした。

 

 

 初めは簡単に落ちるであろうとそう思って甘い言葉で落とそうとした。しかし思った以上に手強かった。気が強く力も持っていた。男はますます欲しくなった。長い時間をかけることにした。幸いにも吸血鬼には時間が山ほどあったから。時には花をあげた。時には宝石をあげた。それでも中々振り向いてくれなかった。何としても男は欲しかった。権力を力を名誉を!そこで男は自分が最も嫌がるものを演じることにした。

 

 

 優しい善良な吸血鬼を装うことにした。

 

 

 女に近づいた。何度も誘いを断られていたが、ある時に女が一人で外出するのを見計らい、女を狙ってやってきた妖怪から女を守ってやった。するとどうだろうか……女と男はそれ以来少しづつだが交流する回数が多くなった。次第に女は男に惚れて行った。だが、これも男が仕掛けた罠だった。妖怪は男が雇って女を襲われるところを救う……マッチポンプと言うやつだ。男が読んだ通り女は少しづつだが、男に心を開いていった。そして、女は気づく。自分はあの男のことが好きであることを……

 男は優しさという仮面をつけていた。仮面の下ではいつも女を(あざ)笑っていた。

 

 

 愚かな女だ

 

 馬鹿な女だ

 

 

 男の笑顔はいつも作り物であった。

 

 

 そして、女は男の告白を受け入れた。男はスカーレット家の名誉を手に入れた。男はスカーレット卿と呼ばれるようになった。だが、まだ手に入れてないものがあった。だから、男はここで止めるつもりはなかった……

 

 

 『ごっこ遊び』はまだ続いていた……

 

 

 男は結婚するとすぐに快楽を求めた。女は何も疑うことがなく応じた。肌と肌が重なり合い、(偽り)(はぐく)んだ。何度も求め合った。女は幸せであった。

 女は自身が女性であり、スカーレット家の当主になってしまった。それを良く思わない他の吸血鬼が女に嫌がらせをしていた。女は心苦しかった。周りに近づいて来る者達は皆、敵なのではないかと思ってしまっていた。そんな時に現れた一人の男、初めは他の吸血鬼と同じくスカーレット家の権力や遺産目当てに近づいて来たのだと思っていた。しかし、妖怪に襲われそうになった時に庇ってくれた。優しい微笑みで女を包み込む男、その男を愛してしまったことに気づいた。そして、その男と結婚し、愛し合った。これほどの幸せを女は自分如きが手に入れてよかったのかと嬉しく思ったが、女には更に嬉しいことが起きた。お腹の中に赤ん坊がいることを知った。大変喜んで自分が母親になったことを信じられないでいた。これから先は子育てに苦労しながら、大変だが幸せな生活を送れるものと疑うことはなかった。

 

 

 男は捨てようかと思っていた。名誉を手に入れ、快楽も手に入った。女は赤ん坊が宿ったことで喜んでいたが、男はつまらなかった。女に飽きてしまっていた。子供など邪魔になる害虫だと思っていた。いっそのこと女と共に子供も葬ってしまおうかと思っていたぐらいだった。しかし、男はまだ手に入れていないものがあった。まだ力が手に入っていなかったのだ。男は赤ん坊が宿る女の腹を触った時に感じとった……生まれてくる赤ん坊には強い力が宿っていることに。またまた男は幸運を見つけてしまった。男は閃いてしまう……成長した子供の力を奪って自分のものにしてしまおうと……

 

 

 赤ん坊の名前はレミリアと名付けた。女は赤ん坊が生まれたことに喜んでいたが、男はその赤ん坊が安定した力を宿していたことに大いに喜んだ。その力を奪い、自分に新たな力を授けてくれると期待していた。大切に育てた。壊れないように優しく愛情(偽り)を注いだ。男の力の餌食になどなることを知らないままレミリアはすくすくと育てられた。そんな時に、もう一人の赤ん坊が生まれた。男はまた期待していた。今度はレミリアよりも大きな力を宿した赤ん坊……名はフランとつけた。この二人は男にとって餌とあること意味していた。じっくりと味を出して、最高な状態で食す……そうすれば男は凄まじい力を手に入れることになるはずだった。しかし、フランは力がうまく制御できずにいた。何度やり方を教えても上手くいかなかった。男は我慢した……好きでもない子供に抱き着かれ、愛してもいない女を抱く……我慢して我慢した。だが、それでもフランは力を制御できなかった。どんなに最高な状態で出されたディナーでも一品の状態が悪ければ味が落ちてしまう……男は表情に出さないが、フランを道具から出来損ないの道具として見るようになった。

 

 

 そんな時に男は知られてしまった。レミリアとフランの力を手にするために用意してあった魔導書を母親が見つけてしまった。母親となった女は初めは何かの間違いだと自分の思い過ごしだと気に留めなかった。男を愛していたから……

 だが、違う日に知ってしまった。魔導書に書かれた術に必要な道具や薬に男が手を出していることを知る。偶々欲しい素材が同じものだと女は自分に言い聞かせた。

 またまた違う日に今度は見てしまった。愛する夫である男が地下で実験をしていることに……魔導書に書かれた術と同じことをしている光景を女は見てしまったのだ。それも一度ならまだいい……しかし何度も地下でその光景を見た。嫌な気分が女を支配した……不安も増していった。毎日同じベットで隣で寝る男の深淵を覗いているように思えて表情に出さないが女は不安に支配されてしまっていた。

 

 

 そんな時に女は聞いてしまった。それも最悪なタイミングで……フランの誕生日を祝ったその日にボソッと聞いてしまったのだ。愛する夫が娘達にそんなことしないと思っているので軽い気持ちで聞いてしまった。それがいけなかった……

 

 

 母親は殺された。男は知っていた。女が自分を疑っていることを……男は不愉快だった。計画を知られ、邪魔されたら男の今までの苦労がおしまいだ……

 

 

 男は残酷であった

 

 男は優しさの欠片もない

 

 男は他者を道具としてしか見ない

 

 

 男は鬱憤が溜まっていた

 

 男は女のことなど愛してもいなかった

 

 男は娘達など餌でしかなかった

 

 

 それ故に男は吸血鬼(バケモノ)だったのだ。

 

 

 だから邪魔となった女を殺した……男の姿は全てが偽りであった。男は何も思うことはなかった。何故なら……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『家族ごっこ遊び』というのをやっていただけなんだから……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……う……そ……」

 

 

 レミリアは父親から全て聞かされた。聞きたくないことばかりだった。全ては偽りだった……レミリアはいつの間にか瞳から流れ出た涙で汚れていた。

 

 

 「クハハハハハ!どうだ!?悔しいかレミリア!貴様なんぞ力のために生かしておいてあった道具にすぎんのだよ。あの女も馬鹿だった。そして貴様も馬鹿だ。愛されていると思い込んで、私に必死に駆け寄って『お父様抱っこして!』なんて言われた時は吐き気がして仕方なかったわ!」

 

 

 スカーレット卿は唾を吐いた。スカーレット卿にとってレミリアもフランも生き物ではなくただの道具なのだと吐き捨てたのだ。

 

 

 怒り、憎しみ、裏切り、混乱、絶望……一気にそれらがレミリアの中に渦を巻き、心を蝕もうとする。体が震え、口が何かを発しようとするが何も出てこず、拳は血が流れ出る程の力で握りしめる。闇の中に生きる吸血鬼が闇に支配されていく。狂気という闇に染まり初めていた。レミリアの脳は狂い、感情が乱れ、全てを破壊しようと動き出そうとした時に小さな声が聞こえてきた。

 

 

 「……ころ……やる……

 

 「……ん?」

 

 

 小さな声は次第に激しさを増す。

 

 

 「……ころし……や……ころ……して……やる……」

 

 

 その声がレミリアを狂気に染まりきるのを思いとどまらせた。

 

 

 「……フラン……!?」

 

 「ころして……やる……ころして……やる……ころしてやるころしてやるころしてやるころしてやるころしてやるころしてやるころしてやるころしてやるころしてやるころしてやるころしてやるころしてやるころしてやるころしてやるころしてやるころしてやるころしてやるころしてやるころしてやるころしてやるころしてやるころしてやるころしてやるころしてやるころしてやる……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「――コロシテヤル!!!

 

 

 真紅の瞳に狂気が宿った瞬間だった。

 

 

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 「それが原因でそこの出来損ないは狂ったというわけだ。やはり私が言った通り自分自身も制御することができない出来損ないだったと言うわけだクハハハハハ!!!」

 

 「クソ野郎が!!」

 

 

 魔理沙は体の凍えなど感じさせない怒りを含んだものだった。話を聞いていて胸糞悪いなんてものではなかった。そんな話を実に滑稽だと言わんばかりに語るスカーレット卿はまさに外道呼ぶに相応しいと感じさせた。

 

 

 「お嬢様達にこんな過去があっただなんて……しかし妹様にお前は殺されたはずなのでは!?」

 

 「ああ、メイドよ。私は確かにそこの出来損ないに殺された。だが、私が何の対策も用意していないと思っていたのか?」

 

 

 スカーレット卿は狂気に染まった暴走したフランによって破壊された。吸血鬼がいかに再生力が強大であったとしても死んでしまえば意味はない。しかし、現在はレミリアの姿でいるのはスカーレット卿だ。どうなっているのか……

 

 

 「私はな……レミリアに保険をかけておいたのだ」

 

 

 保険……スカーレット卿はフランが生まれる前にレミリアに一種の術を施した。自分の魂の一部を植え付けることで片方の命が尽きても、植え付けた魂によって蘇る術を保険としてレミリアにかけていたとそう語った。フランの力はスカーレット卿が想像しているよりも強かったために万が一を思っての保険だった。スカーレット卿はすぐにでも蘇りたかったが、()()()()が邪魔をした。

 

 

 それはレミリアの意思だった。目の前でフランが狂気に陥ったことで、幸いにも無意識のうちに自らの精神を安定化させ、レミリアは狂気に染まることはなかった。だが、フランは強いショックと絶望を味わって精神が歪んでしまった。レミリアは暴れまわったフランを落ち着かせ、疲れ果てて眠るフランの顔を覗き込むその小さな体で決意した。

 

 

 『私がフランを守らなければ!』

 

 

 その意思がスカーレット卿の魂を邪魔したのだ。スカーレット卿の魂は奥に追いやられてしまい出てこらなくなった。フランは記憶の一部を失っていた。幸いなことに母親と父親のことは忘れてしまったのだ。フラン自身の心が自分自身を守るために記憶を忘れさせたのだろう。しかし、精神に強い衝撃を受けてしまったフランは時々気が狂うことが多くなった。レミリアはフランに残酷な過去を思い出してほしくなかった。ましてや、自分の大好きだった父親に利用されていたなんて知りたくはないはずだろうと……暴走から周りの者やフランの心を守るために仕方ないとはいえ地下に幽閉することを決めた。誰にも語らずにレミリアは一人で罪の全てを背負い込むことにした。

 

 

 時は進み、レミリアの心の傷も安定していった。紅魔館には新たな住人が増え、あの惨劇が起きた現場とは思えないような賑やかさが生まれていた。幻想郷へやってきて、フランのために一度は幻想郷に喧嘩を売った。結果は惨敗だったが、フランが外の世界に興味を持ち、チルノや大妖精と友達になった。レミリアにとっては嬉しい結果へと繋がった。このまま何も知らずに幸せに生きてくれればレミリアはそれでよかったのだ。

 しかし、そんな生活を送っている時に闇がレミリアを染め上げようとしていた。スカーレット卿の魂が徐々に力をつけて蘇り始めていた。いつまでも大人しくしているほどの魂ではない。異変にいち早く気がついたのはレミリア自身だ。自分の体の中に憎き魂が宿っていることに憎悪した……だが、誰にも知られるわけにはいかなかった。一人で背負うと誓ったし、誰も巻き込みたくなんてなかった……何とかこの魂を黙らせる方法を探したが見つからなかった。咲夜もフランも誰もが心配する中で、一人で抱え込んだ。何も関係ない者達を巻き込みたくないという優しさが彼女の行動を制限していた。誰にも相談できない状況、その間にも徐々に体を侵食し始めていた魂に抗えなくなる自分を想像してしまい怖くなったその瞬間を悪魔は見逃さなかった。レミリアの意思は闇の奥底へ沈んでいった……

 

 

 「クハハハハハ!最後までフランを守りたいと抗っていたが、結局は無駄だったな!無様な姿だったぞ!毎日ベットの中で震えて怯えている姿はまさに傑作だった!誰にも心配かけまいと無理に気丈に振舞いながら恐怖に怯える情けない姿!私を憎む反面、家族ごっこをしていた頃の光景を夢見る馬鹿な小娘の哀れな姿は実に面白かったぞ!!!」

 

 「きさまぁああああああ!!!」

 

 「咲夜?!」

 

 

 天子の制止も聞かずに、悲鳴をあげる体に鞭を打って走り出した。ナイフを強く握りしめ、憎しみを込めて悠々と椅子に腰かけるスカーレット卿の心臓を突き刺そうとした。

 

 

 ……だが、咲夜にはできなかった。数ミリ程度で胸に突き刺さったであろうナイフは止まっていた。スカーレット卿は特に何もしていない……咲夜にはスカーレット卿に手をあげることなんてできやしない。

 

 

 「できないよなメイド?お前の大好きなレミリアお嬢様の肉体に傷つけるなんてことできないからな」

 

 

 レミリアの肉体に宿っているスカーレット卿に手が出せなかった。それはレミリア自身を傷つけることであり、それがわかっているからスカーレット卿は何もしなかった。実に愉快そうに見つめ笑っている。咲夜の憎しみのこもった瞳がスカーレット卿を睨む。

 

 

 レミリアという肉壁に守られているスカーレット卿は咲夜に手をかざす。そこから衝撃波は打ち出され、咲夜は壁に激突する。

 

 

 「がはっ!?」

 

 「あやや!?咲夜さん大丈夫ですか!!?」

 

 「お前の相手は後だ。後でもう一度薬を飲ませて記憶も操ってやる……お前は道具にしては能力だけは出来がいいからな。捨てるには2、3度使い終わってからだ」

 

 「あなたという方は……!」

 

 

 衣玖も我慢ならなかった。妻だけでなく、自分の子供まで利用するここまで落ちた生き物を見たことはなかった。天人の中でも嫌な人物はいたが、これよりはずっとマシだった。空気が今までと違って息をすることさえ不快に思う……少女の姿をした吸血鬼一人の存在がここまで他者を不快にさせることなど今まであったろうか……

 

 

 「慌てるな、ちゃんとお前たちも私の道具として扱ってやろう……だが、貴様だけはここで殺しておかなければならない……比那名居天子!貴様だけは私の最大の邪魔者であると判断した。これから私は幻想郷を支配し、幸せな毎日を送るためには貴様が邪魔なのだからな!」

 

 

 天子を指さし憎しみの言葉をぶつける。それに応えるかのように天子は前に出る。

 

 

 「天子ダメだよ!挑発だよあれ!」

 

 

 チルノがすかさず止めに入るが、天子の顔を見た時……何も言えなくなっていた。

 

 

 「……チルノ……すまないが止めないでくれ……こんなに怒りを覚えたのは初めてなんだ……」

 

 

 一歩……また一歩……レミリアの姿を借りたスカーレット卿に近づいていく。

 

 

 「……スカーレット卿……一つ言っておく……」

 

 「ん?なんだね?命乞いでもしようというのかね?」

 

 

 スカーレット卿から少し離れたところで足を止める……

 

 

 「選べ……謝ってに地獄に行くか、謝らず苦しんで地獄に行くか……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「――どちらか選べ!!」

 

 

 貴様には地獄こそが相応しい!!

 

 

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