比那名居天子(♂)の幻想郷生活   作:てへぺろん

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紅魔郷編も最後に近づいてきた。


それでは……


本編どうぞ!




29話 血塗られ吸血鬼

 剣と槍が激突する。一つは緋想の剣、もう一つはグングニル、二つの武器が火花を散らして激しさを増していた。

 

 

 「クハハハハハ!口だけは威勢がいいな!この体故に傷つけられないとは……貴様はとことん甘い男のようだな!」

 

 「くっ!」

 

 

 天子は苦戦を強いられていた。吸血鬼としてのスピード、パワーは並みのものではなかった。それに一番の問題が体がレミリアのものであることだ。体を傷つけても吸血鬼としての再生能力が発動してすぐに元通りになってしまう。重傷を与えればすぐには傷は戻らないだろうが、スカーレット卿は魂の存在……スカーレット卿にとっては痛くもかゆくもない。レミリアごとスカーレット卿を消滅させれば簡単なことだが、そんなことを天子ができるわけがなかった。すなわち、人質であるレミリアを開放しなければこの戦いに勝ち目がなかった。防戦一方の戦いになってしまっていた。グングニルが天子の体を貫かんと何度も襲い掛かる。

 

 

 「ほらほらどうした!?ナイト様よ!私を倒すのではなかったのか!それともこの体がそんなに大事か?」

 

 「ああ、大事だ。レミリアを傷つけるわけにはいかない」

 

 「甘い考えた。この体ごと私を消滅させればそれで終わることなのに……貴様は甘ちゃんだな!」

 

 

 天子を愚かと笑うスカーレット卿。娘の肉体と力を使って好き勝手する姿に天子は苛立ちを覚えて仕方なかった。

 

 

 「(くそっ!神子早くしてくれ!これ以上レミリアの姿で好き勝手されるのが我慢ならないの!それに私だっていつまでもつかわからない……正直結構きつい!)」

 

 

 神子は天子が押され始めているのに気がついていた。神子の術式に手を取られていて助太刀することはできない故に歯を悔しそうに噛み締めた。その術式も高度なもので時間がかかるものであった。その間ずっと天子一人で相手をしている。魔理沙と咲夜は動けず、衣玖も傍を離れられない。スカーレット卿が二人を人質にする可能性が高いために衣玖が加勢することができなかったのだ。その光景を見ているしかできない神子と衣玖は歯がゆい思いをしていた。

 

 

 「(このままだと天子様が!ですが、お二人から離れるわけには……)」

 

 「おい、衣玖……私のことはいいから天子に加勢してやれよ」

 

 「魔理沙さん、それはできません。今、私が離れれば魔理沙さんも咲夜さんも標的になってしまいます」

 

 

 魔理沙は腹の傷と体の凍えが残っており体力も限界に近い。咲夜は今も意識を失っている。神子も術式を組むことで手が離せない。天子とスカーレット卿の一騎打ちの状態だが、人質をとっている分スカーレット卿に分がある。衣玖は焦り神子に視線を向ける。

 

 

 「(天子殿……耐えて欲しい!もう少し……もう少しで術式が完成する。それまでどうかお願いします!)」

 

 

 神子も焦っていた。スカーレット卿がパワーのごり押しで天子の要石の守りを破壊していく。天子の目でも吸血鬼を捉えるのは苦労する。一気に加速し、天子の体をグングニルが傷つけていく。天子の自慢の肉体でも耐えられないようだ。グングニルが天子の体を切り裂き、肉を貫き、傷口から血が溢れ出て床を赤く染めていく。

 

 

 「クハハハハハ!天人の血はどんな味がするのだろうな?最も貴様の醜い血など興味ないがな!」

 

 「くっ!レミリアの力に頼って恥ずかしくないのか!?」

 

 「恥ずかしい?そんなわけないだろう。寧ろ恥ずかしいのは私の血を受け継いでも私を満足させることのできなかったレミリアとフランが生きていること自体恥ずかしいわ!全くもっての恥さらしどもだ」

 

 「取り消せ!今の言葉を!」

 

 「取り消せだと?事実を取り消すなどありえぬわ!」

 

 

 スカーレット卿はグングニルを再び振るう。緋想の剣で防ごうとするが、天子はスカーレット卿に対する怒りに身を任せてしまったことが悪手と出てしまった。レミリアの体であるために、弾幕が撃てることを頭から離れていた天子に向かって片手から放たれた弾幕が直撃する。

 

 

 「ぐわぁ!?」

 

 

 爆発に巻き込まれて飛ばされる。緋想の剣もその爆発で飛ばされて床に転がってしまった。壁にぶち当たり、口から血が吐き出された。そのチャンスをスカーレット卿は見逃さない。息の根を止めるべく天子の心臓目掛けてグングニルを突き出そうとするが、地面が一瞬揺れ、スカーレット卿の目の前に現れた地面から飛び出た岩が邪魔をした。それのせいで追撃することが出来なくなってしまった。

 

 

 「チッ!貴様こんな技も持っていたのか!」

 

 

 天子の『大地を操る程度の能力』を使い、地盤を変形させて地盤の壁を作ったのだ。

 

 

 「厄介な男だ……やはりここで命を絶っておかねばならない相手のようだ」

 

 「それはどうも……」

 

 

 スカーレット卿がグングニルを振るうと地盤の壁が粉々に砕け散った。傷つきながらもスカーレット卿の前に立つ天子……決してここを通さないと鋼の意思を感じる。

 

 

 「スカーレット卿、ここから先へは通さない。この命に代えても……ね」

 

 「どこまでも……どこまでも……私の邪魔をしおって!!!」

 

 

 スカーレット卿は怒りを爆発させる。体から溢れ出るオーラが室内全体を覆う。

 

 

 「貴様だけは必ず殺す!今ここでな!!」

 

 

 グングニルに魔力が集束するのを感じる。グングニルが一回り二回り大きくなり本来の姿を現す。

 

 

 「(あれは……レミリアのスペルカードの!?)」

 

 

 神槍『スピア・ザ・グングニル』!!!

 

 

 レミリアの代名詞であるスペルカードのスピア・ザ・グングニル……先ほどのグングニルとは違い、神の槍に相応しい程の神々しさを感じとり、宿る力も別格のようだ。それを天子にぶつけようとする……天子は危機感を覚えた。あれを受けてしまえばひとたまりもないと……

 

 

 要石で盾を作り、地盤を変化させて壁も作る。それでも耐えられるか不安だった。否、耐えなければならないと覚悟を決めた。ここで倒れてしまえば、こちらの負けは確定してしまうのだから……

 そしてスカーレット卿が生み出したスピア・ザ・グングニルが放たれた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 が、その不安も覚悟も打ち砕かれることになる。何故ならば、スピア・ザ・グングニルは()()()()()()()()放たれなかったからだ。

 

 

 「(――しまった!?)」

 

 

 天子はすぐに理解した。スカーレット卿がどんな男だったか……スカーレット卿は天子を狙うと見せかけて術式を組むので必死な無防備の神子を狙ったのだ。天子は罠にかかってしまい、自己防衛に回ってしまった。今の場所からでは神子を助けることなどできはしない……そう理解してしまう。

 

 

 「神子!!!」

 

 

 あれ程の力を宿した槍に貫かれれば神子の体は原型など残らないだろう……天子は叫んだがどうしようもできない。手が届かない変えられない結果……答えは神子が死ぬ。その答えに満足しているかのようにスカーレット卿は笑った。強大な力を宿した槍は残酷に一つの命を散らさんとする。しかし、運命は天子達に味方した。

 

 

 「きゅっとして……」

 

 

 誰かの声が聞こえた気がした。天子にははっきりと聞こえた。そして、その言葉が示す意味も……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ドカーン!!!」

 

 

 すると神子の目前まで迫っていた槍がねじ曲がり光の粒子となって砕け散った。この場にいる全員が驚いていた。そして、それが誰の仕業か知っているスカーレット卿は今まで見せたことがない程の怒りを露わにした。

 

 

 「っ!!!フランきさまぁああああああああああああ!!!」

 

 

 スカーレット卿が鬼の形相でフランを睨みつけた。間一髪のところで洗脳が解けたフランが割り込んだのだ。

 

 

 「……お父様……もうこんなことやめよう。お姉様を返して!」

 

 「返さぬ!出来損ないの分際で私に逆らいよって!どいつもこいつも私の邪魔をする!?何故だ!?私はスカーレットの名を持つ者だぞ!?貴様らのような道具どもは喜んで支配されていればいいものを!!!」

 

 「道具なんかじゃないさ……」

 

 「……何?」

 

 

 スカーレット卿は天子を見る。傷ついた体でもしっかりと立ちスカーレット卿に言い放つ。

 

 

 「フランを出来損ないと言ったが、誰にだって欠点がある。私にも貴様にも……力を上手く制御できなかったから?なら、今のフランはどうだ?貴様の放ったグングニルは跡形もなく砕け散った。今では力の制御もちゃんとできている。そんなフランを貴様は出来損ないと言えるのか?」

 

 「……」

 

 「貴様は自分の娘を裏切った、愛する女性を裏切った……愛した男に裏切られる女の気持ちを考えたことがあるか?」

 

 「そんなもの……!」

 

 「ないだろうな。スカーレット卿、貴様はクズ野郎だ。史上類を見ない程にな……最後のチャンスをくれてやる。謝るか謝らないか選べ……謝ったら慈悲をかけてやる」

 

 「最後だと?慈悲だと?はっ!その必要はないわ!そもそもレミリアの体に宿る私をどう倒す?まさかレミリアごと私を消滅でもさせるつもりかな?そんなこと貴様にはできないことなど知っているわ!それでどう私を地獄に送るつもりなのかな天人よ?」

 

 

 レミリアの肉体があるから安心しきっていた。しかし、忘れていた……忘れていた存在が今まさに作業が終了したことにスカーレット卿は気がつかなかった。

 

 

 「その心配はありませんよ!」

 

 

 その声を聞いた時、スカーレット卿は顔を青くした。スピア・ザ・グングニルで命を奪う筈だった神子が術を完成させた。それに気づいたスカーレット卿はその場から逃げようとするが、足には札が張り付いて動けなかった。

 

 

 「こ、これは!?」

 

 「あんたみたいな奴はすぐ周りが見えなくなる」

 

 「貴様は……博麗の巫女!この札は貴様が!?」

 

 「そうよ」

 

 

 霊夢はスカーレット卿に気づかれずに罠を張った。そしてまんまと引っかかり醜態を晒していた。

 

 

 「流石ね天子、注意を天子の方に向けさせてその間に私に罠を仕掛けるように仕向けたんでしょ?」

 

 「霊夢ならそうしてくれると期待していたからな」

 

 「……あなたって侮れないわね」

 

 

 本当に侮れない……霊夢は天子が地底の妖怪のように心が読めるのではないかと疑ったぐらいだ。もし天子が異変を起こす側に周った時にはめんどくさそうと思うのであった。

 スカーレット卿は力任せに暴れようとするが、体はピクリとも動かない。術も完成し、放たれればスカーレット卿は魂だけの存在……スカーレット卿の逃げ場を防ぐように結界も張り巡らされていた。つまりチェックメイトである。その事実に気づいたスカーレット卿の顔から血の気が引いていく。

 

 

 「フラン助けてくれ!私が悪かった!もう一度家族3人でやり直そう!めいいっぱい可愛がってあげよう!フランが欲しいものは全部与えてあげよう!気に入らないことがあったら私がなんでも解決してやるぞ!優しいパパが帰って来たぞ!ほらフランよ、私の元へおいで!!!」

 

 

 スカーレット卿の醜い命乞いに霊夢達は呆れた表情だった。フランは自分の父親に悲しい表情を向ける。

 

 

 「……私の家族はレミリアお姉様とお母様だけ……あなたなんて……知らない!」

 

 

 拒絶だった。その言葉に理不尽にもスカーレット卿は怒りをフランにぶつける。

 

 

 「フラン!貴様には私の血が流れているんだぞ!私の元から逃れられるわけないだろう!貴様は私の娘であることに代わりはないのだ!貴様はこれから他の者達から白い目で見られるだろうな……異変を起こして幻想郷を乗っ取ろうとした悪人のガキとしてな!!」

 

 「黙れ!!」

 

 

 天子の声がスカーレット卿の暴言を黙らせた。

 

 

 「それがなんだ?血が繋がっているから家族なのは間違いない。だが、貴様はその血さえ愚弄した。それに例え血が繋がってなくても家族である絆がある。咲夜も美鈴もパチュリーも小悪魔もフランの家族だ。レミリアだってそうだ。だが、貴様のような奴に親を名乗る資格もなければ絆もない。スカーレット卿、貴様はただの罪人だ。それもどうしようも救いのない程のな」

 

 「き、きさま……!!」

 

 「安心しろ。この世界には閻魔様がいるんだ。貴様に相応しい罰を与えてくれるだろう」

 

 「比那名居天子……貴様さえいなければ……貴様さえいなければ私はこの世界を……!」

 

 「支配なんてできないさ。私なんかよりも素晴らしい仲間たちが貴様を葬っていただろう」

 

 

 スカーレット卿は見た。散々下等生物と見下してきた者達に哀れな目で見られていることに……自分は下等生物如きに負けたのだと……

 

 

 「貴様に……フランとレミリアの父親を名乗る資格はない!神子!!」

 

 「ようやくですね!スカーレット卿、あなたの欲は強すぎた。自分の犯した罪を地獄で悔い改めなさい!」

 

 「――ッ!?」

 

 

 天子の声に応えて神子が術を発動する。光がスカーレット卿を包み込み、レミリアの体から黒い霧のようなものが現れた。それこそがスカーレット卿の魂である。

 

 

 「ぐぎゃぁあああああ!!!」

 

 

 魂は苦しみの断末魔をあげた。やがて黒い霧が集まり一つの塊に変化した。その塊に天子は緋想の剣を手に持ち近づいた。

 

 

 「地獄へ行ってもスカーレットの名を語るな!!」

 

 

 緋想の剣が魂を両断し二つに分かれた魂は消滅した。消滅したことで紅い霧が消滅していき、割れたステンドグラスからは太陽の光が紅魔館に降り注いでいた。スカーレット卿の魂が完全に消滅したことを意味していた。こうして幻想郷を騒がせた異変は幕を閉じることになった。

 

 

 ------------------

 

 

 「……異変は解決したようね」

 

 「はっ!紫様」

 

 

 スキマを覗く一人の女性……八雲紫は安堵していた。今回の紅い霧は大変危険なものであった。あのまま紅い霧が幻想郷に充満していたら、幻想郷中の生き物たちは吸血鬼と化していた。あの霧はレミリアの血を混ぜた魔力の霧であり、長いこと浴びていたら身も心も吸血鬼に変貌してしまうものだということを紫は突き止めていた。しかし、紫は今回動かなかった。大変危険なもので、幻想郷の危機だったのに……

 

 

 「紫様、一つお聞きしたいことがあるのですが……」

 

 「……なにかしら?」

 

 

 藍に向き直る。藍は何故自分を異変解決のために動かさなかったのか疑問に思っていた。下手をしたら取り返しのつかないことになっていた。霊夢がいるから?しかし、彼女も人間だ。もしものことも無いとは言えなかった。紫は藍に「異変に関わるのは様子を見てから」そう言われて待機していたが、最後まで藍が出向くことはなかった。そのことについて聞きたかった。

 

 

 「……彼を見たかったのよ」

 

 「……比那名居天子のことですね」

 

 

 天界からやってきた天人である比那名居天子は紫に大きな衝撃を与えた。鬼の萃香に勝利し、天界そのものを変えてしまい、神子を改心させるなど大きな功績を見せた。彼は幻想郷のパワーバランスを担う一人として紫の中にはあった。それだけではなく、紫の友人である幽々子も天子に絶大な信頼を寄せている。紫は力ある天子を警戒していた。強すぎた力には何かしらの代償を伴う……自然の摂理だ。だが、それだけが理由ではない。

 

 

 「比那名居天子……今回の異変を通じて彼はまた幻想郷に深く貢献した。幽々子が言うように彼は悪人ではない。それは私にもわかっているわ。でもね、彼は自分が思っているよりも周りに与える影響は大きい……萃香も幽々子も影響を受けて彼女達も成長した。でも、彼一人では今回の異変はどうにもならなかった。そうでしょ藍?」

 

 「はい、その通りです」

 

 

 天子は確かに強いが、今回の異変は霊夢や神子、チルノ達の活躍があったからこそ解決できたものだ。誰か一人でもかけていたら異変解決は難しかったであろう。それ故に紫は手を出そうとしなかった。紫が手を出せば、スカーレット卿の魂を能力で切り離してそれで終わりであった。でも、それは彼女達のためにも幻想郷のためにもならなかった。紫は彼女達の成長を邪魔したくなかったのだ。

 

 

 幻想郷では妖怪達の自我が強い。他者と手を取り合おうと協力しようとする者は数限られている。今回の異変では多くの者が手を取り合い、お互いの敵のために戦った。これはチャンスだと紫は思った。自分が愛してやまない幻想郷を利用する形となったが、結果的にはいい方向に向いた。それも比那名居天子が居たからだと紫は考えていた。

 

 

 「霊夢にもいい薬になったと思うわ。異変に対する態度を改める機会だったし、妖怪の恐ろしさも再確認できたでしょうから。それに……」

 

 

 スキマを覗き込むと紅魔館が見えていた。そこには衣玖に心配される天子の姿を上空から覗いていた。

 

 

 「(比那名居天子……あなたという存在自体が幻想郷に異変を起こしているのかもしれないの……どんな小さい可能性も見逃さない。あなたは強い……おそらくだけど、あなたの試練はまだ終わっていないはずよ。これからあなたの周りで数々の異変が起こるはず……私は監視しないといけないの。例えあなたが優しい天人さんであったとしてもね……)」

 

 

 紅魔館の上空に存在していたスキマが閉じた。

 

 

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