比那名居天子(♂)の幻想郷生活   作:てへぺろん

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2019年も最後の日になりました。皆さん来年もよいお年をお迎えください。


紅魔郷編最終話です。


本編どうぞ!




30話 吸血鬼の姉妹

 「……うぅ……ここは……私は……一体……?」

 

 

 ここは……私の寝室?どうしてここに……!?

 

 

 レミリアは何故自分が寝室のベットで寝ていたのかすぐに心当たりがあった。

 

 

 そうだ!私はあの男に……!!

 

 

 レミリアが大好きだった父親、憎くて仕方なかった父親、裏切られてどうしようもない感情がレミリアを苦しめる原因を作った父親の姿が思い起こされた。

 

 

 私はあの男に支配されて……でも、この状況を見ると私は……助かったのね。結局私はあいつに抗おうとしたけどダメだったみたい……でも、霊夢か魔理沙が何とかしてくれたのね。フランや咲夜達にも迷惑かけちゃったかしら……合わす顔がないわね……

 

 

 そう悲観している時にドアを開ける音が聞こえた。そして、その開けた者はレミリアを見るなり駆け寄ってきた。

 

 

 「お嬢様!?やっと目が覚めたのですね!!」

 

 「咲夜……」

 

 

 咲夜の目に涙が浮かんでいる。ドアをノックしないで入ってくるなどメイドとしてあるまじき行為だと普通なら注意するが、今のレミリアにはその気力はなかった。何度もレミリアの体に触れ、感触を確かめる咲夜に怒る気なんて起こらなかった。

 

 

 「咲夜触りすぎ……って!ちょ!?どこ触っているのよ!?」

 

 「はっ!?す、すみません!あそこも大丈夫かなと思いまして……!」

 

 「大丈夫かなって……私の股を……ゴホン!そこまで確認しなくていいわよ。それより咲夜、私が眠っていたのってどれくらい?」

 

 「10日も眠っていました。もしこのまま目が覚めないのではないかと心配しました……」

 

 

 10日も……そんなに眠っていたのね。その間に咲夜達には迷惑かけたでしょうに……それにあの男の気配も体から感じない。私の意識が囚われていた間に一体何が起こったのか……良い事なんて絶対にない。咲夜から色々聞かないといけないわね。

 

 

 レミリアは咲夜から事情を全て聞いた。レミリアに巣くっていたスカーレット卿の魂は消滅し、それには数多くの手助けがあったこと、比那名居天子という天人が中心となって異変を解決したこと、フランやパチュリー達に酷い事をしてしまったことなどレミリアの思った通りの出来事が起きていた。吸血鬼にされた妖精メイド達が人里を襲おうとしたことも聞いた。幸いにも人里には被害が出ずに、豊聡耳神子が人々に事情を説明したことで一大事にならずに済んだ。妖精メイド達は蘇って再び紅魔館で仕事をこなす日々を送っているそうだ。

 比那名居天子という人物はパチュリーから聞いて新聞に載っていたので興味はあったが、会ったことはなかったが後でお礼をしに行かなければいけないと思うのであった。やけにパチュリーが顔のことで褒めていたけど……何だったんだろうとその時は思っていた。そして、一番驚いたことがレミリアが眠っている間に紅魔館の主として雑務や経理などの仕事を手掛けていたのは咲夜ではなくフランがしていたことだ。そういった事務的なことは大半咲夜に任せっきりだったが、咲夜も戦いの負傷で動けなかったこともあり、美鈴は経理は全くダメだし、パチュリーも小悪魔も疲労があって紅魔館を廻す者がいなかった。そんな時にフランが率先して全てを行った。フランも身も心も疲れているはずなのに姉のため、みんなのために働くと宣言して今日も頑張っていると聞かされた。初めてだが、呑み込みの速さで次々に適応していくフランに将来有望な主になる姿が思い起こされる。

 

 

 フランが……なんだか一気に追い越された感じがするわね。私要らずって感じ……あの子も今回の異変で成長したってことね。

 

 

 「それだけではありませんよ。霊夢達もときどき来てくれてお嬢様の様子を見にきてくれたのですから。天子様も妹様のお手伝いをしてくださっているのです。妹様に事務的なことを教えたのは天子様ですから」

 

 「そうなの?」

 

 

 比那名居天子は変わった人物のようだとレミリアは思った。霊夢や魔理沙ならともかく、見ず知らずの異変を起こした吸血鬼にそこまでする義理はないと言うのに……レミリアはますます比那名居天子に興味を持った。

 

 

 彼とはいろいろと話したいわね。でも、今は……

 

 

 レミリアは立ち上がる。咲夜が手を貸そうするが手で制する。いつまでも紅魔館の主である自分がみっともない姿を見せるのはレミリアのプライドが許さなかった。

 

 

 「咲夜、みんなの所に行きたいわ。案内して頂戴」

 

 「――!はい、かしこまりました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「レミィ!?もう動いて大丈夫なの!?」

 

 「パチェ、みんなも心配かけたわね」

 

 

 図書館にはパチュリー、美鈴、小悪魔がいた。レミリアを見つけるなり駆け寄って来ていつものレミリアであることに安堵した様子だった。

 

 

 「本当ですよ!私なんか門番の役割放棄してまで館の修復に尽くしたんですから!」

 

 「美鈴は居ても門番として役になっているか不安だけどね」

 

 「咲夜さんひどいですよ!!」

 

 「事実でしょ?」

 

 「うっ!」

 

 

 咲夜に痛い所を付かれて落ち込む美鈴。相変わらず咲夜は容赦ないとレミリアは思うのであった。

 

 

 「あの……お嬢様、妖精メイド達にその……怯えられたりしませんでしたか?」

 

 

 小悪魔が恐る恐る聞く。今回の異変はスカーレット卿の仕業であったが、レミリアの姿で紅魔館の者達を力づくで支配して妖精メイド達を吸血鬼にした。それ故に事情を説明してもすれ違い様に妖精メイド達怯えられた。レミリアは自分のせいでもあったので怯えられて当然だと思っている。付き従っている咲夜は妖精メイドに怯えられているレミリアを見ていてとても辛そうにしていた。咲夜はレミリアから何も言うなと言われていたので妖精メイド達に何も言わなかった。

 

 

 あんな腐った奴だけれど父親だったんだから、私が責任取らないといけないのよ。妖精メイド達には後で謝りに行かないと……やることが沢山あるわね。気が滅入りそう……でも今は自分のことよりも謝らないといけないことがあるわ。

 

 

 レミリアはパチュリーに頭を下げた。いきなり頭を下げられたことでどうしたのかと戸惑う。

 

 

 レミリアは自分一人で解決しようとしたこと、同じ紅魔館に住み家族同然のみんなに心配かけて酷い事をしたことを謝りたかった。何度も頭を下げた。紅魔館の主としてではなく、一人のレミリア・スカーレットとして謝りたかった。腐っても父親であり、その血を継いでいる自分のせいでこのような事態を招いてしまったことを悔やんだ。悔やんで悔やんで後悔した。大切な家族に酷い仕打ちをしたし、信頼も失ったに違いない……レミリアはもう見限られても仕方ないとさえ覚悟していた。

 だが、そんなレミリアを誰も悪く言う者は一人もいなかった。

 

 

 「レミィ、頭を上げて頂戴。私は何も怒ってないわ。確かに私達を頼ってくれなかったのは寂しいって思うけれど、それはあなたが私達を巻き込みたくなかったからなんでしょ?レミィは私達のことを大切に思ってくれた……思ってくれているって実感したら許すしかないじゃないの」

 

 「そうですよ!私だって空腹で倒れていたところをお嬢様に助けられたんです!あの時の御恩は今でも忘れていません。お嬢様のために私は強くなるって決めたんです。でも、結局お嬢様を守れませんでした……お嬢様も苦しんでいたんですよね?なら、ここはお相子って形でどうですか?」

 

 「美鈴さん……私はパチュリー様の使い魔ですし、パチュリー様に賛成です。それに使い魔の貧弱な私でも一人の家族として接してくれるお嬢様を悪く言うなんてあり得ませんよ」

 

 「パチェ……美鈴……小悪魔……!」

 

 

 レミリアの瞳から温かいものが流れ落ちた。視界がぼやけてはっきりと姿が見えないが、同時に嬉しさが込み上がり自分はここまで慕われていたのかと感じていた。

 

 

 「お嬢様、この十六夜咲夜もお嬢様を悪く言うなんてあり得ません。お嬢様が居てこその紅魔館なのですから」

 

 

 咲夜も……みんな……ありがとう……!

 

 

 ------------------

 

 

 「これでいいかフラン?」

 

 「ありがとう天子お兄ちゃん」

 

 

 私は今、紅魔館の書斎にお邪魔している比那名居天子です。幻想郷を襲った紅い霧の一件以来ここを訪れるようになった。私も今回の異変で負傷したんだけれど、やっぱり天才の永琳さんにかかればこの程度の傷なんて……あらまビックリ!?気がついたら私の体はもう傷が治ってしまっているわ!って感じで退院しました。本当に永琳さんチートです……瀕死状態でもポケ〇ンセンターに行けばピンピンピコピン!っで全回復しているみたいだった。

 あの後大変だったんだよね……人里では妹紅が憎悪の炎を燃やしていたし、天界は私と衣玖が居なくなって地上の者に誘拐されたんじゃないかって噂が立っていて天人達が武器を片手に地上に攻め込もうとしていたことを知った時は焦ってしまった。人里の方は神子が事情を説明してくれて事なき終えた。天界も私が視察だと言って誤魔化したから何とかなった。天界のみんなこんな武力派だったっけ?

 まぁ、そんなことがあったんだけど何とかいつもの幻想郷に戻ることが出来ました。まだ色々と課題は残っているけど、今一番やるべきことは紅魔館の財政だ。派手にやってしまったことで外装はボロボロ、内装も至る所が酷い有様だった。それにレミリアは目を覚まさないし、咲夜達も精神と肉体的疲労で仕事をするなんて難しい。フランは吸血鬼であり、洗脳されていた期間が短かったために咲夜達ほどの肉体的疲労はなかった。しかし、フランは精神的に疲れが残っていると思う。自分の父親がどんな人物なのか知ってしまったのだから……それでもフランはレミリアの代わりに紅魔館を立て直すと言って事務に取り組んだ。

 

 

 そのことを知った私と衣玖はフランの手助けを買って出た。少しでもフランの傍に居てあげて心を癒してあげないといけなかったし、これも何かの運命が私達を引き寄せたのだろうと感じたためだ。事務的なことは私が教えて、衣玖は建物の復興費を計算してくれた。すぐにフランは覚えて実行に移していった。あれ?フラン優秀過ぎない?短期間で自分のものにしちゃうとか……将来はマジもんのカリスマになるかも……!

 そんなこんなで只今紅魔館でフランのお手伝いをしているところです。ちなみにこんなことをやっているので、いつの間にか私のことを「天子お兄ちゃん」と呼んでくれるようになりました。私一人っ子だから心にグッと来るものを感じる……良いわ……もの凄く良い!本当ならば「天子お姉ちゃん」って言って欲しかったけれど……贅沢言わないわ。

 

 

 「?どうしたのお兄ちゃん?」

 

 「いや、なんでもないぞー!」

 

 

 危ない危ない!フランにみっともない姿を見せてしまうところだったわ。そんな姿見せられるわけないじゃない……COOLに、COOLになるんだ私!いつものイケメン比那名居天子になるのよ!

 

 

 「すまない、色々と考えていたのだな。ところでまだレミリアは目を覚まさないのか?」

 

 「……うん……もう10日もなるんだけど……まだ……」

 

 「そうか……」

 

 

 フランは机に並べられている書類に目がいく。書類を読んでいるわけではなく、レミリアのことが心配になって顔を上げることができないのである。気持ちが落ち込んでいる証拠だった。

 

 

 レミリアは体的には問題ないし、やっぱり心の問題か……永琳さんは目を覚ますかはレミリア次第って言っていた。これはどうしようもなかった。でも、早く目を覚ましてほしい……フランのこんな姿をまだ見ないといけないと思うとやるせない気分になるから……

 私にできることはフランを慰めてあげることしかできないのだから……

 

 

 天子は元気がないフランの頭を撫でた。

 

 

 「大丈夫だ。きっとレミリアは近いうちに目を覚ますよ。そしてフランをめいいっぱい褒めてくれるだろう。フランはこんなにも頑張っているんだからね」

 

 

 机に並べられた書類を見ると、フランがサインした請求書の束があった。紅魔館以外で出た被害額を算出して弁償する形となっていた。それもフランが行い、この短期間で異変の爪痕は終息に向かって行っている。天子達が紅魔館にいない間もフランはせっせと働いていたのだ。

 

 

 「お姉様……褒めてくれる?」

 

 「ああ、きっと褒めてくれるよ」

 

 「……ありがとうお兄ちゃん、私元気出たよ」

 

 

 笑うフラン。まだ影が差しているが、笑えるだけの元気はあるようで安心した天子だった。

 そんな時にドアをノックする音が聞こえてきた。入って来たのはチルノと大妖精だった。

 

 

 「フラン!あたい達が加勢に来たのだ!」

 

 「天子さんこんにちは」

 

 「ああ、こんにちは二人共」

 

 

 チルノと大妖精は毎日フランの元に来てくれている。チルノは経理も事務もできないので、元気づけ要員としてここにいる。大妖精の方は中々優秀で、フランのお手伝いをしている。今日もフランのためにやってきてくれたのだ。

 

 

 「二人共ありがとう!飲み物持ってくるね」

 

 「飲み物なら私が持って……」

 

 

 来ようか?そう天子が言おうとした時に再びドアをノックする音が聞こえて入って来たのは衣玖だったが、何やら笑顔であった。

 

 

 「衣玖どうした?何やら嬉しそうだが……?」

 

 

 衣玖が嬉しそうだ。何があったのだろうか?体重計で測ったらこの前より2㎏程痩せていて部屋で踊っていた衣玖の姿並みだ。覗いたのかって?扉が開いていたからちょっと様子窺っていただけだよ?不可抗力で見ただけです。悪気はないんですよ?それに体重気にしている女性の気持ちわかります?私はわかるわ。学校の体重測定の日は必ず朝ごはん抜きにして、体重測る時なんか胃から空気を吐き出して少しでも軽く見せようとしていたぐらいですからね。その時の衣玖並みにいい笑顔なんだけど……?

 

 

 「失礼します。フランさん、いいご報告ですよ」

 

 「衣玖さん、いいご報告って?」

 

 「レミリアさんが目を覚ましました。今は図書館にいるみたいです」

 

 「――ッ!?」

 

 

 フランはそれを聞くと駆けだしていた。すぐに飛び出して向かったのは図書館だろう。

 

 

 「あっ!フラン!大ちゃんあたい達も行こう!」

 

 「待ってチルノちゃ~ん!」

 

 

 すぐに後を追いかけるチルノと大妖精だが、チルノが図書館までの道筋を覚えているわけがないので迷子待ったなしだ。大妖精がいるのが幸いだが……

 

 

 「衣玖、私達も行こう」

 

 「はい、天子様」

 

 

 レミリアが目を覚ましたか……フランも言いたいことがいっぱいあるはずだね。それに家族の対談を邪魔しちゃ悪いし……私達は影から見守るとしますか。

 

 

 ------------------

 

 

 「お姉様!」

 

 「フラン……」

 

 

 フランの目には久しく聞かなかった声の主であり、自分の大切な姉レミリアがそこにいた。フランは一目散にレミリアの元へ駆け寄った。

 

 

 「フラン……私ね……」

 

 「……会いたかった」

 

 

 会いたかった……正直言えばお姉様が目を覚まさないんじゃないかって思っていた。お姉様は今まで一人で全て背負い込んで我慢してきたんだと思う。それなのに私は忘れてしまい、地下に閉じこもっていた時に、何度かわからないけどお姉様を恨んだことがあった。本当は私を守るためだったのに私は記憶がないことをいいことに、お姉様は私の力を恐れて地下に閉じ込めたんだと思ってしまったことが何度かあった。私はすぐにお姉様が悪いんじゃないって自分に言い聞かせたけど、そんなことが何度かあって魔理沙達が異変を解決しに来た時は魔理沙達に八つ当たりしちゃったことがあったっけ……

 それでお姉様は精神的に疲れ切って目を覚ますのが嫌になったらどうしようって心の底で考えていた。天子お兄ちゃんや衣玖さん、チルノに大ちゃんに慰めてもらったけれど不安は消えなかった。けど、今私の目の前にいるのは間違いなくお姉様……私を一番に考えてくれて優しいお姉様がいた。

 

 

 会えた……嬉しい……もう一度お姉様とお話できる……!

 

 

 フランはレミリアに抱き着いていた。いきなりなことだったのでレミリアは動揺してしまう。悪魔の羽が小刻みに震え、どうしたらいいのか咲夜に目で訴えかけるが……

 

 

 「お嬢様、私達はこれより用事がありますので、妹様とお話しておいてください」

 

 「え?ちょ――!?」

 

 

 咲夜達はレミリアとフランを残して図書館を出ていく。これは二人の姉妹に余計な水を差さないための配慮だった。取り残されたレミリアは咲夜達が出て行った扉を見つめていたが、小さな声が聞こえた。

 

 

 「ごめんさない……お姉様……

 

 「……なんで謝るのよ?」

 

 「だって……お姉様が苦しんでいる時に私は大事なこと忘れちゃってたから……

 

 

 レミリアの胸の中で伝わってくる声は震えているようだった。

 

 

 お姉様……ごめんなさい……お姉様が辛い思いをしているのに私は自分のことだけ考えていた。

 

 

 フランはそんな自分が許せなかった。記憶を忘れていたとしてもフランもレミリアの妹、フランにもフランとしてのプライドがあった。姉であるレミリアに任せっきりにしてしまったこと……姉譲りのプライドがそれを強く後悔させた。

 

 

 「私……お姉様に甘え過ぎていたと思う。なんでもできるお姉様に任せておけばなんでも解決してくれるんじゃないかって……」

 

 「でも、それはフランが記憶を忘れて……」

 

 「それは理由になっていないの!忘れてしまったのは私が弱かったから……私の心が現実を受け入れたら壊れてしまう……だから、私自身は記憶を忘れることにした。お姉様だってあの日のこと思い出したくないはずなのに、私だけお姉様を置いて逃げ出したの!」

 

 

 埋めていた顔を上げるとそこには涙を流している一人の少女が悔しそうにしていた。

 

 

 「私達家族なのに、お姉様に丸投げして私は自分の殻に閉じこもった。お姉様は私を守ってくれた……私はお姉様を守れなかった……否、守らなかった。お姉様が苦しんでいるのに、すぐに手を伸ばさなかった……お姉様なら大丈夫って心のどこかで軽視していたんだと思う。お姉様だって生きているし、心だってある。それなのに、お姉様は強いし、一人でもどうにかできるんじゃないかって無意識に考えてしまっていたんだと思うの!私はお父様が言うように出来損ない……お姉様の心の支えにすらならなかったんだから……」

 

 「そんなことないわよ!!!」

 

 

 レミリアは強く否定した。いつもなら見せない必死の表情の姉の姿にフランは何も言えなくなった。

 

 

 「私の心の支えにすらならなかった?そんなわけないじゃない!フランの存在がどれほど私に力を与えてくれたか!あの惨劇の日以来、何度心が挫けそうになったか……紅魔館の全てを廻さなければならなかったし、様々な外敵から身を守る術も独自に身に付けて行った。誰も教えてくれない、頼れる者もいない、私が何度生きていても仕方ないと思った事か!」

 

 「それなら……私を捨てれば……」

 

 「捨てればよかったなんて言わせないわ!フランが居てくれたから私は生きようと思った、フランの笑顔が見たいから頑張れた、フランと一緒に紅魔館に過ごすことで私は一人じゃないって実感できたのよ!だから自分を出来損ないだなんて言わないで……私にとってフランあなたは最高の妹なんだから……あなたがいないとレミリア・スカーレットはここに生きていないんだから……!」

 

 

 瞳から大粒の涙が溢れてくる。大切な妹を強く抱きしめる……離さないように、温もりを感じるように……レミリアにとってフランは家族であり全てである。辛い事だらけだったが、レミリアは今この時は悪くないと思っている。大事なとても大事な妹をこうして抱きしめて居られるだけで幸せだから……

 

 

 「……お姉様……!」

 

 

 吸血鬼の姉妹はお互いの温もりに感謝していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ぐすっ!よかったですね……お嬢様!妹様!」

 

 「咲夜さん、はいハンカチです」

 

 「ありがとう美鈴……!」

 

 

 図書館の扉が少し開いて中の様子を窺っている者達がいた。用事があると言って出て行ったはずの咲夜達にフランを追いかけてきた天子達が図書館の扉の前に集まっていた。

 

 

 「なんで入れてくれないんだよ天子ー!」

 

 「チルノ、今は空気を読んで見守ることが大切なんだぞ?」

 

 「そうだよチルノちゃん。ここは静かにしておいてあげよう?」

 

 「そうなのか?天子と大ちゃんが言うなら仕方ないな」

 

 

 チルノはレミリアとフランが心配で何度も入ろうとしたが、天子と大妖精に止められていた。

 

 

 「ありがとう。あなたのおかげでいつもの紅魔館に戻ることができたわ」

 

 「いや、私はあなたとの約束を守ったにすぎないよ」

 

 「パチュリー様が言うように本当にイケメンですね!外身だけでなく中身もグッドですよ!パチュリー様今ならデートぐらい誘ったらどうですか?」

 

 「ちょっと小悪魔余計なこと言わないで頂戴!!」

 

 

 小悪魔の発言に顔を真っ赤にするパチュリーをいじり倒す小悪魔。名前の通りの悪魔なんだなぁっと天子は少し感心した。

 

 

 「天子様、レミリアさんも目を覚ましたようですし、今日はパーティーにしませんか?」

 

 「そうだな衣玖。よし!久しぶりに私の手料理で満足させてやろうか!」

 

 「天子さんって料理するんですか?天界の料理一度味わってみたかったんですよ!」

 

 

 妄想の中で豪勢な食事をとる自分の姿を想像する美鈴の口からよだれを垂らしてとろけた表情になっていた。

 

 

 「天子様の料理は天界でも大絶賛ですから期待していいですよ」

 

 「おいおい衣玖、あまりハードルをあげないでくれ」

 

 「ふふふ♪天子様が久しぶりに手料理を披露すると聞いて私も楽しみにしているんですから」

 

 「これは気合入れないといけないようだな!」

 

 「天子様、この咲夜もお手伝い致しましょう。あなた様には大変お世話になりましたからね。それに霊夢達も今回の異変に関わった皆さまをお呼び致しましょう」

 

 「それはいいな!皆で今日のパーティーを盛大に盛り上げてやるぞ!」

 

 「「「「「おおー!!!」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ふふ♪今日はパーティーみたいね」

 

 「そうだねお姉様」

 

 

 吸血鬼は元々耳がいいので、扉の先から聞こえてきていることは全て二人の耳には届いていた。

 

 「……フラン」

 

 「ん?なにお姉様?」

 

 「……私の妹で……ありがとう」

 

 「……私の方こそ……私のお姉様でありがとう♪」

 

 

 スカーレットの名を持つ二人の吸血鬼は強く手を握りしめ合うのであった……

 

 


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