比那名居天子(♂)の幻想郷生活   作:てへぺろん

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あけましておめでとうございます!新年度初投稿です。


新たな物語の始まりでございます。


本編どうぞ!




東方萃夢想 恋路編
31話 鬼の探し物


 「だぁああああああああああああ!!!ちくしょうぅううううううううううう!!!」

 

 

 地底で一人の鬼がやけ酒していた。もう何本目になるかわからない酒瓶を次々に飲み干していく。そんなに飲んだら体に毒なのでは?そう思うだろうがそれでも体は欲していた。否、鬼だからこそ酒を飲んで飲みまくっても体には毒どころか薬になるのだろう……多分。

 そんな鬼は店の中で叫んでいた。店に他にも客がいたが、誰も注意しようとしない。注意出来ないのだ……ただの鬼ならばよかったのだが、ここにいるのは山の四天王一人で、地底で多くの妖怪から姐さんと呼ばれている星熊勇儀の友の伊吹萃香だったからだ。地上と地底は勝手に出入りするのは禁止されている。地底には忌み嫌われた者達が住まう所であり、特別な許可が出なければ地上に出ることも地底に入ることも許されない。それなのだが、萃香はそんなことお構いなしに地底にやってきている。萃香の『密と疎を操る程度の能力』で体を霧状に変えて賢者に見つからないように密かに何度も酒を飲みにやってきていた。(賢者の方は既に知っているが言っても聞かないので放っている)

 

 

 萃香の様子がおかしかった。一人で店に入り、いつも一緒にいるはずの勇儀はいない……周りの客たちはどうしたものかと様子を窺っていた。そんな時に萃香に声をかける妖怪がいた。

 

 

 「およ?誰かと思えば勇儀姐さんと一緒にいる小鬼さんやないか」

 

 「「「「(ヤマメちゃんキター!!!)」」」」

 

 

 【黒谷ヤマメ

 金髪のおだんごポニーテールに茶色の大きなリボンをしている。瞳の色は茶色をしており、 服装は黒いふっくらした上着の上に、こげ茶色のジャンパースカートを着ている。スカートの上から黄色いベルトのようなものをクロスさせて何重にも巻き、裾を絞った衣装をしている。

 種族は土蜘蛛であり、病を操り、人間に感染症などの病気を掛ける能力を持つ。感染症などの病を操るうえに好戦的な為、地上では嫌われ者。

 

 

 そんな彼女は地底世界では人気者であり『地底のアイドル』とも称されている。彼女には多くのファンがおり、ファンクラブまである噂だ。ヤマメがこの店に立ち寄ったのは偶々で、うなだれている鬼を見つけて声をかけたというわけだ。

 

 

 「んぁ?なんだ……土蜘蛛のヤマメか……今日はお前に構っている気力ないんだ……どっか行ってくれ……」

 

 「おやぁ?どないしたん?いつもの元気あらへんやん?」

 

 

 ヤマメはいつも勇儀と一緒にどんちゃん騒ぎしている萃香の姿を目にしたことがある。しかし、今の萃香はシワシワにしぼんだ風船みたいになっていた。気になったので周りに散らかっている酒瓶をどけて隣に座る。

 

 

 「(ヤ、ヤマメちゃん!萃香さんのために!?ヤマメちゃん優しすぎ!マジ萌える!)」

 

 「(ヤマメちゃんボクにも君の愛の優しさをちょうだ~い!!!)」

 

 「(ヤマメちゃんLOVE!!!)」

 

 「(……抱かれたい!!!)」

 

 

 周りの卑猥な目をものともせず(気がついていない)萃香に話しかける。

 

 

 「そんなに飲み過ぎたら体に毒よ?」

 

 「鬼には万能薬だよ……放っておいてよ……」

 

 「何か嫌なことあったん?うちで良ければ相談乗るで?」

 

 

 ヤマメはそう言うと店員に自分の分の酒も用意させて話の場を作る。

 

 

 「(ヤマメちゃん、萃香さんと話ができるように自然と自分も酒を頼んで一緒に一杯やろうと誘う作戦か!マジ萌える!マジ萌えポイント500点追加だ!)」

 

 「(ボクの悩みも聞いて……ヤマメちゃんとデートするにはどうしたらいいのかって!)」

 

 「(LOVE!LOVE!!LOVE!!!)」

 

 「(……抱かれて罵倒されたい!!!)」

 

 

 変態どもの視線など気にせず(気がついていない)萃香にお酌する。

 

 

 「一人で抱え込んでいても解決せんで?うちが聞いてあげるさかいに、抱え込んでもええことないで?」

 

 「……聞いてくれるのか……?」

 

 「勿論!うちで宜しければなんでも聞いてあげる!」

 

 「「「「(な、なんでも!!?)」」」」

 

 

 ヤマメの言葉に反応する変態どもだが、ヤマメは何も知らない……知らない方が幸せなことだってある。萃香は少しずつだが話し始めた。

 

 

 紅い霧が発生した時、萃香は妖怪の山で酒に酔いしれていた。妙な気配を感じて起き上がると辺り一面紅い霧だった。嫌な感じを漂わせる霧であったが、霊夢が何とかしてくれるだろうと軽い気持ちで深い眠りについてしまった。そして、目が覚めると霧は跡形もなく無くなっていた。霊夢なら当然だなっと思って神社に帰って事の経緯を聞いた。すると、萃香が思っていた以上に大事だった。萃香にとってスカーレットのお家事情など知ったことではなかったが、天子がそのことに首を突っ込んでいるとは知らなかった。お人好しだなぁっと思いつつ萃香は嬉しかった。他人のためにそこまでしている天子が誇りに思えたのかあるいはまた違う感情なのか……とにかく萃香は嬉しかったのだ。数日後、そんな天子のために今度こそいい酒を飲ませてやろうと厳選した酒を持って紅魔館に行ったのだが、そこで見た光景に衝撃を覚えた。

 

 

 楽しそうにパーティーを開き、紅魔館の連中と仲良くする天子の姿があった。それだけではない、霊夢も魔理沙も来ていた。そして、衣玖に神子の姿もあった。しかも、文まで仲良く食事をしていたのだ。萃香は紅魔館の窓から眺めていたが、心に何か針が刺さったように感じた。しかも、出されている料理は聞こえてくる話からだと天子の手作り料理とか……いつもの萃香ならその場に乱入していただろうが、何故か踏みとどまってしまっていた。

 笑う天子の姿を見つめる小鬼は紅魔館の窓から中を眺めるしかできなかった。パーティーには今回の異変で関わった者達だけが呼ばれていた。だが、萃香はそんなこと知らない……人里で見かけた蓬莱人もいたし、半人半妖の教師も混じっていた。布都の姿もそこにあったし、見かけない尼さんらしき人物もそこにはいた。しかし、萃香には声もかからなかった……萃香は無性に寂しい思いになった。

 

 

 萃香は気がつけば森の中にいた。知らないうちに森の中にまで入ってしまったのだろうと思い返していたが、思い出すのは先ほどの光景……天子が笑っている姿だった。大勢参加していたが、そこには自分は混じっていない現実だけが思い起こされた。

 

 

 ため息が出た。自分は何をやっているんだろうと馬鹿らしくなった。折角天子のために持ってきた酒だが、無性に飲みたくなった。なんでもいいから口に入れたかったと言った方が正しいだろう……萃香は乱暴に酒瓶のフタを開けようとしたら、手が滑り、酒瓶は岩に叩きつけられて割れてしまいもう飲めなくなってしまった。酒瓶が割れたことで萃香の何かも一緒に割れたような気がした。何もやる気が起こらなくなり、博麗神社に帰る気力が湧かなくなっていた。その場で横になり萃香は寝た。

 

 

 次の日になって頭が冷えたのか冷静だった。何であんなに気分が落ち込んでいたのか考えた。

 

 

 天子の手料理が食べれなかったから?それなら乱入して食べればよかったがそうしなかった。

 

 自分の苦手な奴がいたか?そんな奴は誰もいなかった。閻魔ですらいなかったのだから。

 

 じゃあなんだ?いつもならお邪魔して酒をたかっているはずなのに?

 

 

 答えが出てこなかった。何故自分はお邪魔しなかったのか……何度考えても答えは出ることはなかった。これ以上を考えても仕方ないので、代わりに考えてくれそうな勇儀に意見を聞いてみることにした。萃香は地底に向かうことにした。

 

 

 地底についたのはよかったが、勇儀はどこかに行っているようだ。地底にいることは間違いないのだが、どこにいるのかわからない。自分の能力で生み出した分身に探させようかと思ったがやめた。ここにはめんどくさい地霊殿の主がいる。心を覗かれてほくそ笑まれるのは嫌だったから……一人で店に入って酒を注文して初めは大人しく飲んでいたのだが段々と腹が立ってきていた。何度も思い返してしまうあの光景……天子が他の奴らと楽しく笑っている姿を思い出す。誰が何を話そうが別にどうでもいいはずだった……はずだったのだが、何故か飲むスピードが速くなり、手が止まらなくなっていった。酒を味わうというより胃に流し込む作業になっていた。

 

 

 そんな時に現れたのがヤマメであり、萃香はこうしてやけ酒に溺れていたのだ。

 

 

 「へぇ、そないなことあったんや」

 

 「全く訳がわからない。こんな変な気分になったのは初めてだ」

 

 

 そう言って口に酒を運ぶが、味なんて感じなかった。舌が麻痺しているとか味がない酒とかではなかった。萃香が味など味わうこともしなくなっていた。先ほどからあの光景に苛立ちを感じているばかりだったのだ。

 

 

 「ふ~ん、なんとなくうちにはその原因がわかった気がするんやけどなぁ~」

 

 「ほ、ほんとうか!?」

 

 

 萃香は自分の求めていた答えを知っているヤマメに釘付けになった。

 

 

 「うわぁ!お酒臭い~!飲み過ぎやでぇ!」

 

 「そんなこといいから教えろよ!!」

 

 

 グイグイとヤマメに近寄って行く萃香の口から強烈なお酒のにおいが放たれる。流石のヤマメも大量の酒を飲み干して混じりあった臭いにたじろぐ。鼻を抑えて萃香を手で制止させようとするが、土蜘蛛相手でも抑えるには難しい鬼だ。ヤマメは力負けして萃香に詰め寄られる。

 

 

 「(ヤ、ヤマメちゃんが追い詰められている……追い詰められるヤマメちゃん……マジ萌えきゅん!)」

 

 「(ボクもヤマメちゃんに追い詰められたい!)」

 

 「(LOVE!!!YAMAME!!!LOVE!!!YAMAME!!!)」

 

 「(……抱かれて滅茶苦茶にされたい!!!)」

 

 

 萃香がどんどんとヤマメに近寄り、ヤマメはこのままでは萃香に押し倒されてしまうだろう。その光景を望んでいる客も少なからずいるが……ヤマメはこの臭いをどうにかしたいので萃香を落ち着かせようとする。

 

 

 「教えるから席に戻って~な!」

 

 「む、わかったよ……」

 

 

 何とか萃香の暴走を止めることができて一安心だが、萃香は答えが気になって仕方ない。

 

 

 「早く教えろ!私の納得しない答えなら一発だからな」

 

 「(それ聞いてないんやけど!?)」

 

 

 拳を握りしめる萃香にビビるヤマメ。萃香は我が儘なところがあった。勇儀と違い鬼の中でも異質なところがあったために理不尽なこともお構いなしだ。今の萃香はそれぐらい気持ち的に余裕がなかったのだ。

 

 

 「どうした?知っているんだろ?嘘だったなんて言わないよな?」

 

 「嘘なんて言ってないよ……でも、今から言うことはうちが話を聞いて思ったことだから正解かどうかわからないけど……ええか?」

 

 「いいに決まってるだろ!私が望む答えならな」

 

 「(理不尽ちゃうこの子……)」

 

 

 改めて鬼の怖さを思い知らされたヤマメ。もう後戻りできなくなっていた。覚悟を決めて萃香に言う。

 

 

 「小鬼さん……あんた……その天人さんのこと好きなんちゃう?」

 

 「……ふぇ?」

 

 「「「「(な、なんだってー!!?)」」」」

 

 

 ヤマメの一言で店は静まり返った。一番うるさかった萃香も固まったままだ。ヤマメはそんな萃香に対して自分が思ったことを伝え続ける。

 

 

 「聞いていると、嫉妬しているようにしか見えへんかったで?他の女の方と話して楽しそうにしている天人さんに嫉妬して苛立っていたんと違う?独占したいとか思っているんと違うの?もしかして自分で気づいてへんかったの?聞いてる側からしたらただの嫉妬話やで?」

 

 

 「「「「(ヤマメちゃんグイグイいったー!!!)」」」」

 

 

 ヤマメの容赦のない回答に周りの妖怪達は冷や汗をかいていた。萃香は気に入らない答えならば一発ぶん殴る宣言をした。もしヤマメがぶん殴られるもんなら萃香の人気は地の底に落ちてしまうだろう。地底の人気者に手を挙げれば、ヤマメちゃんファンクラブの連中が黙っているわけはない。例え相手が山の四天王だろうが報復しに来るだろう。地底で鬼とファンクラブメンバーの壮絶な争いが起こってしまうのではないかと危惧していた。

 

 

 「……ふふ……えふぅ!ふひゃ!」

 

 「(やばいよやばいよ!萃香さん変な笑い方になっているよ!)」

 

 「(ボク、ヤマメちゃんとデートするまで死にたくないですー!!!)」

 

 「(……DEAD……)」

 

 「(……抱かれながら死ぬ……実にいいぞ!)」

 

 

 萃香から奇怪な笑いが聞こえる。周りの妖怪達は萃香がキレる寸前の様子だと思い、己の最期を予感した。ヤマメはそんなことわからないので、どうしたといった様子で見ていた。そして、萃香の様子が変わった。

 

 

 「わ、わたしが……て、てんしのこと……す、すき……だなんて……そ、そんなことないもん!あいつは……その……親友(とも)だから……すき……とかじゃなくて……親友(とも)として好きだから……れ、れんあいとか……私には……無関係で……その……ち、ちがうから!そ、そそ、そっそそそ、そんなんじゃないんだから!ぜ、ぜんぜんそんなんじゃないんだからな!!」

 

 

 顔を真っ赤にして湯気が立ち上っていた。周りの妖怪達は初めて見る萃香の乙女の顔を見て時間が停止してしまっていた。

 

 

 「(ホンマに気づいてへんのか……恋している自体に気づいてへんとは……鈍感な小鬼さんやで)」

 

 

 ヤマメは何も気づいていない小鬼を哀れに思った。恋していること自体に気づけないとそれより先には決して進むことができない。このままでは萃香は一生やるせない思いを抱いて生きていくことになる。そう思って不憫に思ったヤマメは萃香に手を貸すことにした。

 

 

 「小鬼さん、うちが協力してあげるさかい、乗ってみいひん?」

 

 「ふぇ?」

 

 「恋の手助けしてあげるって言ってるの」

 

 「こ、こここここ……恋!?わ、わたしは天子にこ、こここここい!だにゃんて……!しょ、しょしょしょっしょ、しょんなことは!けっして……ありゃしないのにゃ!!!」

 

 「(あちゃ~これは重症みたいやわ……)」

 

 

 噛みかみになって話す萃香はいつもの山の四天王と恐れられた姿など感じさせないものだった。ヤマメも先ほど受けたプレッシャーもすっかり無くなっており、寧ろ今の姿を見ていると協力したくなってしまっていた。

 

 

 「とりあえず、飲んだらうちが仲間を集めて作戦会議しよう!話はそれからやで!」

 

 

 ヤマメと萃香は酒を飲み干した後、お金を払い店を後にした。その後店からは「萃香ちゃんマジ萌えー!!!」という妖怪達の雄たけびが聞こえて、萃香ファンが増え、萃香ファンクラブも創設されたとか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「衣玖、おやすみ」

 

 「天子様もおやすみなさい」

 

 

 天子は天界で一日の仕事を終えて寝床に入ろうとしていた。紅魔館のパーティーで不甲斐なくはしゃいでしまい、みっともなかったかと思ったが、そんなことはなかった。天子が作った手料理も大いに好評だった。レミリアとフランも楽しんでくれたし、もう天子達が手を貸さなくてもやっていける。時々紅魔館に遊びに来てくれとも言われた。色々とレミリア達には残っているが、絆が深く結びついているなら大丈夫だろうと天子はいつもの日常に帰ることとなった。

 いつもの日常に戻り、明日も仕事に励もうと意気込んでベットで眠るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「よ、よ~し!て、てんし……悪く思わないでくれよ!

 

 

 天子が寝ている傍に霧が集まり形となった。その影には角が生え、天子のベットごと持ち上げた。天子は最近色々とやることだらけで疲れていて目を覚ますことはなかった。

 

 

 「天子……私と一緒に地底に来てくれ!

 

 

 新たな異変に巻き込まれる天子に休息の時はあるのだろうか……

 

 


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