比那名居天子(♂)の幻想郷生活   作:てへぺろん

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今回天子の出番はほぼ無い回でございます。


本編どうぞ!




35話 捜索隊

 時は遡り……天子が消息不明になっている間のお話だ。

 

 

 天子の姿が天界から消えてしまい、消えてしまった天子の手がかりを探しに衣玖と神子と妖夢の3人は命蓮寺を訪れていた。

 

 

 「やぁ響子殿、聖はいるかい?」

 

 「あっ!神子様……おはようございます!

 

 

 響子の挨拶が衣玖達の耳に衝撃を与える。キーンという耳鳴りが頭に響く。ちなみに神子は既に経験済みだったので対策はバッチリだ。衣玖と妖夢だけが被害に遭い頭を痛めていた。

 

 

 「す、すごい声量ですね……」

 

 「彼女は幽谷響子、命蓮寺の門下生です」

 

 「どうもよろしくおね――むぐぅ!?」

 

 

 また大声で挨拶されるより前に神子が響子の口を塞ぐ。衣玖と妖夢は助かったと心の中で安堵した。

 

 

 「響子殿、早く聖を連れてきてほしいのですがね?」

 

 「むぐぐ……ぷはぁ!わ、わかりました。少々待っててくださいね」

 

 

 響子は聖を探しに命蓮寺へ戻って行った。それからしばらくして響子に連れられて聖がやってきて神子達は中へ通された。神子達は聖に今回の件を伝えた。

 

 

 「天子さんが誘拐!?そ、そんなことが……!」

 

 「私が朝呼びに行った時に返事がなかったのは、その時既に部屋にいなかったのではないかと思います」

 

 

 聖は大変驚いた様子だった。神子を救い出し、紅い霧の異変を解決した英雄と呼べる存在である天子、紅魔館パーティーに出席した時も会ったことがあるし、何より他人から恨まれるなんてあり得ないと思っていた。しかし、神子の過去を知っていた聖にとってあり得ないことではないとも思っている。人から尊敬されればされるほど裏を返せばそれほど恨まれる可能性があるということだ。聖も体験している……人々を救っていたのに、妖怪にも救いの手を出していることが人間側にバレて封印された経緯がある。どんなに善良に生きていても、人はすぐに心変わりする……裏切られることもある。だから天子が人から恨まれる可能性は0ではない……聖はもし誘拐が本当ならば天子を救い出さないといけないと思うのであった。

 

 

 「天子さんの誘拐された可能性は0ではないですよね……それで私に何をしてほしいのでしょうか神子さん?」

 

 「聖のところにいるナズーリン殿を呼んでもらえないだろうか?」

 

 

 【ナズーリン

 ダークグレーのセミロングに深紅の瞳を持ち、先のほうが切り抜かれた奇妙なセミロングスカートを着用している。肩には水色のケープ、首からはペンデュラムをさげている。

 毘沙門天から遣わされて星の監視役になっている。主従関係は星の方が上であり、ナズーリンは一応は星の部下となっている。

 

 

 「確かにナズーリンならば天子さんの手がかりを掴める可能性が高いですね。一輪はいるかしら?」

 

 

 聖が一輪と誰かの名前を呼ぶと襖を開けて見たことがない女性が現れた。

 

 

 「私を呼びましたか姐さん?あっ、どうも」

 

 

 【雲居一輪

 髪色は水色で、頭には尼を思わせる紺色の頭巾を被っており、頭巾の下からは髪が左右に覗いている。上着は主張の少ない雲のように白い長袖の上着。スカートは、上は白、下は藍色の2色に分かれている。そして、何より彼女の傍には親父顔の雲の妖怪がいつも共にいる。

 

 

 【雲山

 雲の妖怪であり、一言で言うなら頑固親父である。一輪と共に行動しており、自我があるれっきとした妖怪なのだ。一輪とは長いこと付き従った間である。

 

 

 一輪と雲山は神子達に一礼して聖に向き直った。

 

 

 「一輪、ナズーリンを呼んできてもらえる?今日も無縁塚で探し物しているはずだけれど」

 

 「わかりました。雲山行きましょ」

 

 

 一輪は雲山を引き連れてこの場を後にした。

 

 

 「私達、命蓮寺のみんなで天子さんの捜索をお手伝いさせていただきます」

 

 「え?でも、いいのでしょうか?そちらにも都合があると思いますけど……」

 

 

 妖夢の言うことはもっともだ。しかし、聖は揺らぐことのない意志で言った。

 

 

 「誘拐犯の目的が何かわかりません。もしかしたら秘密裏に天子さんを亡き者にしようとしているかもしれません。もしそうならば早く見つけ出さないと天子さんは……」

 

 「天子様……」

 

 

 衣玖は聖の言葉で最悪な事態を想像する……拳に力が入り唇を噛みしめる。絶対にそんなことさせないし、やらせはしない。衣玖は立ち上がり部屋から出て行こうとする。

 

 

 「衣玖殿、どこへ行こうと言うのですか?」

 

 「神子さん……私は天子様が心配です。先に捜索させてもらいます」

 

 「……そうですか……何かあれば命蓮寺か神霊廟を頼ってください(こういう時だけ神子と呼ぶのですか……)」

 

 「はい……ありがとうございます」

 

 

 衣玖は一足先に命蓮寺を出発した。そして、残されている妖夢も立ち上がった。

 

 

 「……もしかして君も居ても立っても居られなくなったか?」

 

 「はい……私は天子さんに謝らないといけないことがあるのです。それに天子さんの弟子を名乗っているのです……こうしている間にも天子さんの命に危険が及んでいると思うと我慢できなくて……」

 

 

 妖夢も聖の言葉を聞いて居ても立っても居られなくなっていた。これ以上醜態を晒せない妖夢は焦っていた。天子に最悪の未来が待っていた場合、謝らることもできずに一生の別れをしなくてはいけない……それは嫌だと彼女の心が叫んでいた。

 

 

 「よ、ようむさん……私が言ったのはあくまで可能性の話でして……」

 

 

 聖は自分が発言してしまったことで衣玖と妖夢に焦りを生じさせたと理解した。何とか落ち着かせようと妖夢に語り掛けるが……

 

 

 「すみません聖さん……私も探しにいきます。のんびりしている暇はないのです!それでは……!」

 

 

 妖夢も天子を探しに行ってしまった。残されたのは神子と聖のみ……聖は自分のせいで二人を急がせてしまったと後悔した。

 

 

 「……気に病む必要はないですよ聖」

 

 「……神子さん……あなたも心配ではないのですか天子さんのこと?」

 

 「心配ですよ。心配し過ぎて夜……眠れないと思います」

 

 「だったらどうしてそんなに冷静なんですか……?」

 

 

 神子は冷静に対処していた。聖が神子の立場ならば衣玖と妖夢のように今すぐに探し出そうと躍起になるはず……自分が良くない発言をしてしまったことで二人に刺激を与えてしまったことが原因だとわかっていたのだが、それでも聖は何故ここまで神子が冷静なのか疑問なのだ。

 

 

 「二人の気持ちは凄くわかります。二人共天子殿を好いていますから……私もそうですが、私は人の上に立つ者です。上に立つ者が冷静でなくてはいけません。上の者が乱れれば、下の者にも動揺が生まれてしまう。あの二人は今は落ち着きがありませんが、少ししたら冷静な判断ができるようになります。今ここで彼女達を止めても言い争いに発展してしまう可能性がありました。それを避けるために好きにさせたのです。二人とも馬鹿ではありませんし、誰かに手を借りに行くはずです。私達以外にも二人にはそれなりの交友関係がありますからね。その者達に協力を要請すると私は予想しているのですよ」

 

 「……」

 

 

 聖は何も言えなくなっていた。神子がここまで読んで行動していたとは思っていなかったからだ。それらを見越しての行動……聖は神子に感心した。

 

 

 「(凄い方です……そこまで読んでいるだなんて!流石人々のために自分すら犠牲にしようとした方です。暗い過去を乗り越えて新しい道を歩む神子さん……私なんかとは大違いです……!)」

 

 

 聖は神子の偉大さに感激し、見習わなければならないと気持ちを高めるのであった。

 

 

 「(……ああ……足が痺れた……足さえ痺れなければ天子殿を探しに行けたのに……!)」

 

 

 当の本人はただ足が痺れて動けなかっただけなのだが……そんなことを正直に言う神子ではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「それで聞いてくださいよ霊夢さん!神奈子様と諏訪子様とが取り合いになって……!」

 

 「はいはい……」

 

 

 博麗神社には客(決して参拝客ではない)がやってきていた。

 

 

 東風谷早苗に霧雨魔理沙と十六夜咲夜にアリス・マーガトロイドだった。

 

 

 「聞いてますか霊夢さん!」

 

 「聞いてないわよ……神同士の饅頭の取り合いだなんて」

 

 「聞いてるじゃんかよ……」

 

 

 魔理沙が霊夢に対してツッコミを入れるが、そんな魔理沙を睨む。魔理沙は紅い霧の時に重傷を負ったが八意永琳のおかげでもうすっかり元通りだ。

 

 

 「はぁ……私が折角のんびりお茶している時にぞろぞろと集まって来て……喧嘩でも売っているの?」

 

 「あら?私はちゃんと手見上げ持って来たけれど?」

 

 「私もクッキー持ってきてあげたじゃない」

 

 「あんた達はいいのよ。問題はこの二人……」

 

 

 咲夜とアリスは霊夢に手見上げを持ってきた。霊夢もそれには大喜びだったが残り2人は手ぶらだった。早苗と魔理沙に対しては態度が冷たく出されたのは咲夜とアリスはお茶に対し、早苗と魔理沙はただの水だった。

 

 

 「なんだよ、私は重症だったんだぞ?もっと怪我人を養ってくれよな」

 

 「もう怪我は治ったんでしょうが。もう関係ないわ」

 

 「相変わらず冷たいな」

 

 「申し訳ありませんわ……魔理沙……」

 

 

 咲夜が頭を下げた。魔理沙を傷つけたのは咲夜だ。操られていたとはいえ、魔理沙に怪我させたことを今も後悔しているようだ。これには魔理沙も慌ててしまう。

 

 

 「あ、あたま上げろよ咲夜!もう気にしていないから!」

 

 

 それでも何度も頭を下げる咲夜に魔理沙はあたふたしている光景を3人は見守っていた。

 

 

 「無事異変が解決してよかったわね霊夢」

 

 「本当よ……全く嫌な異変だったわ。あんな異変はこりごりよ……アリスだって嫌だったでしょ?」

 

 「そうね、あの異変は異変じゃなくもはや侵略だったわね」

 

 

 霊夢とアリスは改めて恐ろしさを感じた。弾幕ごっこが通じない相手の恐ろしさを……もし天子があの場に居なければ幻想郷はどうなっていたか……想像したくない。

 

 

 「流石天子さんですね。天子さんが守矢神社を贔屓(ひいき)してくれれば神奈子様と諏訪子様の信仰もうなぎ上り間違いなしです!」

 

 「あんたは本当にいい性格しているわね」

 

 「褒めても何も出ませんよ?」

 

 「褒めてないわよ!」

 

 

 早苗と霊夢のコントを横目で見ているアリスはため息をつく。ふっと空を見上げると一つの影がこちらに向かって来ているのが見えた。

 

 

 「あれは……?」

 

 

 こちらに近づいてくる影の主はアリスには見覚えのある人物だった。

 

 

 「皆様方、こんにちは」

 

 「あら?衣玖さんじゃない。どうしたんですか?」

 

 

 博麗神社に降り立ったのは衣玖だった。何やらアリスを見つめる顔は真剣そのものだった。その様子を見てアリスはある程度理解できたようだった。

 

 

 「衣玖さん、何かあったようね」

 

 「はい……実は……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ええ!?天子さんが誘拐されたんですか!?」

 

 「マジかよ!?」

 

 

 早苗と魔理沙はとても驚いていた。咲夜とアリスは平静を保っているが少し動揺しているようだった。霊夢だけは縁側でお茶を飲みながらアリスからもらったクッキーと咲夜のケーキを口に運んでいた。

 

 

 「まさか天子さん……悪の組織の秘密を知ってしまったとか!?もしくはどこからか来た宇宙人に攫われて人体の研究をされているとか!?ああ大変です!きっと天子さんは改造されてロボットにされるか宇宙怪獣にされてしまうに決まっています!!」

 

 「早苗、少し黙りましょうか」

 

 「むぐぅ!?」

 

 

 アリスは糸を使って早苗を黙らせた。口に巻き付いた糸を必死に取ろうとするがそう簡単に取れるようにしていない。うるさい早苗を問答無用で静かにさせる策、その間に話を進めようとするアリスは優秀だ。 

 

 

 「それで天子様が攫われて連れていかれた場所はわからないと?」

 

 「……はい」

 

 

 咲夜は衣玖から話を聞いて考えた。手がかりは命蓮寺にいるナズーリンとか言う者に会えば探してもらえると聞いた。それなのに衣玖がここにいると言うことは私達にも協力して欲しいということ……咲夜は衣玖の情報から推測した。咲夜も優秀だ。

 

 

 「私達に天子様の捜索の手助けをしてほしいとお願いしに来たというところですね?」

 

 「はい、その通りです」

 

 「そうなのか?ならこの霧雨魔理沙様に任せろ!幻想郷を回って天子を見つけてやるぜ!」

 

 

 魔理沙は衣玖がここに来た理由を理解して協力することにした。天子に世話になったお礼もしたかった魔理沙は喜んで天子の捜索に乗り出す気満々だ。

 

 

 『わたしもイクさんのおてつだいします。てんしさんをかいぞうするなんてぜったいゆるしません!ぷんぷん(いかりマーク)せいぎのみかた、こちやさなえがてんしさんをすくいだしてあげます』

 

 

 口に巻き付いた糸が取れないのでどこからか取り出したプラカードに文字を書いて会話に混ざってきた早苗……アリス達は本当にどこから出したと疑念の眼差しを送っていた。アリスの策も早苗には意味を為さない。

 

 

 「ああ……悪いけど私はパスさせてもらうわ」

 

 「なんでだよ霊夢!?」

 

 『そうですよ!それでもはくれいのみこですか!おに!あくま!わきみこ!ぷんぷん(いかりマーク)』

 

 

 霊夢は協力に否定したことで魔理沙と早苗が反応した。プラカードに文字を書く素早い動きは会話しているのと変わらない程だ。

 

 

 「最近萃香を見かけないのよ。あいつどこに行ったのかしら……早苗それ鬱陶しいからやめて」

 

 「あら?萃香が?どこかでお酒でも飲んでいるんじゃない?」

 

 

 アリスが言うことはもっともだと霊夢は思うが気になっていた。博麗の巫女の勘が何かを訴えている……しかし、今のところは気になっているだけだった。霊夢自身も萃香をそれほど探し出そうとは思っていない。ただ天子なら何となく問題ないと思えたのだ。

 

 

 「とにかく私はパスよ。博麗の巫女の仕事だって残っているしね」

 

 「のんびりお茶していたのはどこのどいつだよ……」

 

 

 魔理沙はそう言うが霊夢はお構いなしだ。こうなってしまえば霊夢にいくら言っても無駄なのは魔理沙が良く知っている。

 

 

 「仕方ねぇな、霊夢抜きで私達で天子を探そうぜ!」

 

 「皆様……ありがとうございます!」

 

 

 衣玖は頭を下げた。これも天子の人徳がなせる業だと思い知らされた。

 

 

 「とりあえず私は箒に乗って空から捜索してみるぜ!」

 

 「私はお嬢様達にも伺ってみます」

 

 「私は人里に行って犯人らしい人物を見てないか聞いてみるわ」

 

 『わたしはカナコさまとスワコさまにこころあたりがないかきいてみます』

 

 「皆様……よろしくお願いします!」

 

 

 魔理沙達はそれぞれ飛び去って行った。残ったのは衣玖と霊夢、そんな時不意に衣玖に話しかける。

 

 

 「そうそう、あんた萃香を見かけたら言っておいて。いつまでも遊んでないで帰って来いってね」

 

 「え、あ……はい、わかりました……」

 

 

 そう言うと霊夢は食べ終えたクッキーの箱とケーキの箱を潰して部屋に戻って行った。

 

 

 「(萃香さんが帰ってきていないのですか……それよりも早く天子様を見つけないと!)」

 

 

 衣玖は頭の隅っこに置いておくぐらいで止めておいた。今は天子を探すのが先だったから……衣玖は知らない。萃香が今回の犯人であるということに……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「幽々子様!お話があります!」

 

 「あら妖夢お帰りなさい。どうしたの?天子さんに会えた?」

 

 「……それが……」

 

 

 妖夢は幽々子に全てを話した。幽々子はそのことを真剣に聞いていた。

 

 

 「なるほど……天子さんが誘拐されるなんて……」

 

 「はい、それで幽々子様にもお力添えをしてもらおうと」

 

 「手がかり無しじゃね……でも、ナズーリンって子が居れば手がかりが見つけられるはずなんでしょ?妖夢はその子に協力しなさい。私は私で天子さんの居場所を探すから」

 

 「幽々子様……!ありがとうございます!」

 

 

 そう言うと妖夢は部屋を飛び出して行った。

 

 

 「全く妖夢ったら天子さんになると必死ね……それにしても天子さんが誘拐されるなんて……天子さんが目的なのは確かなようだけど、相手は天子さんを誘拐してどうするつもりなのかしら?そもそもなんで天子さん……?」

 

 

 幽々子は妖夢の話から色々と思考を巡らせた。伊達に亡霊をやっていない。

 

 

 「紫にも協力してもらう必要があるかもしれないわね。でも、それは最後ね。まずは犯人の人物像を探らないと……」

 

 

 幽々子はテーブルの上に乗っているみかんを口に運んでもしゃもしゃと食べ始めた。

 

 

 「おいし~♪さてと、栄養も摂取できたし私の予想では犯人候補は……3人ね」

 

 

 幽々子の瞳が鋭くなった気がした。3人と明言した。幽々子には既に犯人の目星がついているようであった。

 

 

 「妖夢の話を聞く限りだと天子さんに恨みを持つ者は無し。すると必然的に天子さんに直接関りを持つ人物が何かしらの目的で誘拐した可能性が高い……それも天界の誰にも気づかれずにベットごとになると天子さんは男性……ベットの重さも加算すると人間では難しい。妖怪が妥当ね。しかし、誘拐したのはいいけれど天子さんは幻想郷のパワーバランスを担う一人と紫に言わせている。そんな彼が大人しく今までアクションを起こさないのは考えにくい。彼の力を抑える何かの力が働いているなら話は別だけれど……」

 

 

 幽々子は再びみかんに手を伸ばして口に運んでいく。

 

 

 「不確定要素が多すぎるし、あくまで妖夢から聞いた話での推測なため確証はないわ。犯人は天子さんと並ぶ力を持っている可能性が高いわね。それに隠密にかけている……私が知っているのは3人……」

 

 

 残り三つになったみかんをテーブルの上に並べる。

 

 

 「一人は幻想卿の賢者で天子さんの実力を認めており、隠密能力が無くてもスキマで回収すれば何の問題もなくなる人物……でも、それは無いに等しい。天子さんを誘拐して何のメリットもないし、就寝中の彼を誘拐してまでお話するような迷惑なことはしないはず……よって彼女は除外ね」

 

 

 三つの内の一つを口に運んで食べてしまう幽々子。残るみかんは二つ……

 

 

 「二人目は彼の傍にいつも居てもおかしくない人物……昔から彼の世話をしている彼女なら天子さんを誘拐に見せかけてどこかに閉じ込めるなんてことは可能……天子さんも彼女相手なら手が出せない……だけどこれも無し。彼女にそんなことする意味はない。そんなことをするほど彼女は落ちぶれていないわ」

 

 

 二つ目のみかんも口に運んで消えてしまった。残るは一つだけ……

 

 

 「そして最後……天子さんのことを気に入り、酒に酔いしれる小さな小さな小鬼さん……あなたの能力は隠密にピッタリの能力よね。それに力持ち……天子さんを独り占めにしたい願望もお持ちよね?恋する小さな小鬼さん♪」

 

 

 幽々子は残ったみかんを見つめながら呟いた。もう犯人は特定していると言わんばかりに……

 

 

 「妖夢には悪いけど、私から犯人を言うべきではないわね。それにこれは私の推測……余計な結果を招かねざる負えないし……それとこれが小鬼さんの独占欲で動いた結果だとしたら、私は出しゃばらない方がいいかもしれないわ。協力はしてあげるけど、解決するのは妖夢……あなた達がやらないといけないのだからね」

 

 

 幽々子はそう言うと最後のみかんを口に運び食べた。

 

 

 「恋って言うのは……難しいものよね……良くも悪くも」

 

 

 幽々子は白玉楼から見える冥界の空を眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「天子♪ワタシと一緒に風呂入ろ♪」

 

 「えっ!?い、いや、私は一人で入れる……」

 

 「……」

 

 「……す、すいか……?」

 

 「……ハイロ?」

 

 「……ハイ……ヨロコンデ……」

 

 

 天子の苦悩は始まったばかりだ。

 

 


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