比那名居天子(♂)の幻想郷生活   作:てへぺろん

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今回はいつもよりも少し長めに書いてしまいました。
地底で天子はどうなっているのでしょうか……


それでは……


本編どうぞ!




37話 暴れ鬼

 「さとりはいるか?」

 

 「これは……こいしも一緒とは珍しいですね」

 

 「やっほー!帰ってきたよお姉ちゃん♪」

 

 

 皆さんこんにちは。私は古明地さとりと申します。こいしのお姉ちゃんをやっております。今日はいつもと変わらない日を送る予定でしたが勇儀さんが私の元にやってきたようです。それも厄介ごとを抱えて……

 

 

 私は(さとり)妖怪なので、心を読むことができる能力を持っています。この能力で心を読めないのはこいしだけ。勇儀さん、ヤマメさん、パルスィさんが一度にやってくるのは稀なこと……心を読んでみるとややこしいことが地底で起きているみたいです。私の立場と言うものを理解してほしいものです……

 

 

 「さとり、実はな……」

 

 

 勇儀がさとりに事情を説明しようとするが、さとりは心を既に読んで把握したため、それを手で制する。

 

 

 「比那名居天子さんと言うお方があなたの友人である伊吹萃香さんに監禁されている件でしょ?」

 

 「流石さとりだな。話す手間が省けて嬉しいぜ」

 

 「はいはい、その代わり私の負担が大きくなりますけどね……それで原因であるパルスィさんはどうするんですかね?」

 

 「どうって……」

 

 「パルスィさんのせいで地上にいる八雲紫という人物と話をしなければならなくなりましたよ?地上の鬼である萃香さんが地底に何度も来ていたことを放って置いた私にも責任がありますが、これからいろいろと地上との問題が発生することでしょう。あ~あ、私の仕事が多くなってこの貧弱な体がいつまでもつか……一体誰のおかげなんでしょうかね~?」

 

 

 ジト目でパルスィを見つめる瞳にはなんてことをしてくれたんだとそう訴えているような瞳をしていた。

 

 

 「わ、わるかったわよ!でも仕方ないでしょう知らなかったんだから!」

 

 「そうですね。これに懲りてやたらむやみに他人にパルパル(嫉妬)するのを止めてほしいですよ」

 

 「ぜ、ぜんしょするわ……」

 

 「それで私達はどうしたらいい?このまま天子と萃香の奴を放って置くわけにはいかないだろ?」

 

 

 勇儀の問いにヤマメも頭を縦に振って同意する。今の天子は萃香に監禁されている状態だ。ここまま放って置くわけにはいかない……勇儀は友人の萃香の醜態をこれ以上晒させたくない様子だった。

 

 

 「地上とコンタクトを取ります。もし萃香さんを抑えられなければ旧都にも被害が及ぶ可能性もありますからね。それに地上と連絡を取り合っていないと私達が天子さんを誘拐した犯人の一味だと思われてしまうかもしれませんので。地上との連絡がつき次第に作戦会議して天子さんを救出しますのでそれまでは待機でお願いします」

 

 「早くしてほしいぜ。同じ鬼として萃香のこれ以上の醜態を晒させたくないからな」

 

 

 いつも酒を飲みまくって他人にちょっかいかけているあなたがそんなこと言えますかね?

 

 

 「あん?さとり何か言いたそうだな?」

 

 「いいえ何も……勇儀さん我慢してください。萃香さんが天子さんに手を出すことはないはずですし危険はないでしょうが、すぐに対処しますので……」

 

 

 とは言ったものの……問題はパルスィさんの能力で影響を受けた萃香さん……天子さんを取り戻そうとすると必ず邪魔してくるのは確実ですね。八雲紫と連絡が取れればベストですがあの子に行ってもらいますかね。もし彼女とコンタクトが取れなくても地上の者達と協力して萃香さんを抑え込めれば万事解決ですけど……どちらにしても私への負担は後が絶たないようですね。やれやれ、なんでこんなことになるのでしょうか……最近やることばかりで気が滅入ります……胃薬どこにしまっていましたっけ?

 

 

 そんなことを思っていた時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドカーン!!

 

 

 大きな爆発音が聞こえ地霊殿が揺れた。

 

 

 「ふぇ!?なんやの一体!?大きい音が聞こえてこの揺れは……一体何が起こったんや?」

 

 「旧都の方からだよお姉ちゃん!」

 

 

 こいしが窓を開けて旧都の方角に指を指した。

 

 

 なっ!?あ、あれは……例の萃香さんと……誰!?

 

 

 さとり達は見た。旧都で巨大な鬼を退治しようとする者達の姿を……所かまわずに攻撃を仕掛けて旧都が見るも無残に崩れていく様を見ていた。

 

 

 ああ……旧都が……萃香さんやめてください……地底での問題ごとの後始末は誰がすると思っているのですか!!どこの誰かは知らないですが萃香さんと戦うのは構いません寧ろありがたいのですけど、周りを見てくださいよ!あなた方の攻撃の余波で旧都が滅茶苦茶に!!?

 

 

 さとりは外の光景を目の当たりにしてストレスが溜まって行くのを感じた。胃薬だけでどうにかなるレベルの後始末では済まされそうにない……

 

 

 「あれは萃香じゃないか!?ちくしょう!でっかくなって暴れやがって!!」

 

 「ちょっと勇儀!勝手に行くなんて妬ましいわよ!」

 

 「大変や!さとり、うちは心配やから二人を追いかけるわ!」

 

 

 勇儀達は地霊殿を飛び出していった。それと入れ替わるように二人のペットたちが慌ててやってきた。

 

 

 「さとり様大変です!巨大な怪獣が現れました!」

 

 「だからあれは巨人だって言っているだろお空!」

 

 「違うよお燐!角が生えて火を噴くなんて怪獣に間違いないよ!」

 

 「巨人だって火を噴く奴いるだろ!」

 

 

 【火焔猫燐

 深紅の髪を両サイドで三つ編みにし、根元と先を黒いリボンで結んでいる。髪型はいわゆるおさげで、頭には黒いネコ耳が生えているが、人間同様側頭部にも人の耳が付いているので耳が4つ付いている。黒の下地に何やら緑の模様の入ったゴスロリファッションのようなものを着用し、手首と首元には赤いリボン、左足には黒地に白の模様が入ったリボンが巻かれている。

 灼熱地獄跡で怨霊の管理や死体運びを任されている妖怪で、霊や死体と会話することができる。趣味は灼熱地獄の燃料となる死体集めで、手に入れた死体は自前の猫車に積んで持ち去ってしまう。古明地さとりのペットの1匹である。みんなには自分のことをお燐と呼ばせている。

 

 

 

 【霊烏路空

 服装は白のブラウスに緑のスカート。長い黒髪に緑の大きなリボンをつけている。鴉らしい真っ黒な翼には、上から白いマントをかけており、そのマントの内側には宇宙空間が映し出されている。

 親友のお燐(火焔猫燐)と同じく古明地さとりのペットで、通称はお空。地霊殿に住まい、灼熱地獄跡の温度調節を仕事として平和に暮らしている。

 

 

 お空とお燐が言い争っている……やめてほしい。外の光景を見た私はストレスがマッハになったのにこれ以上面倒ごとを増やさないでお願い!ああ……胃薬ほしいわ……もう胃薬だけじゃこの痛みを抑えられそうにないけど……

 

 

 「さとり様は怪獣だと思いますよね!?」

 

 「さとり様、巨人が地底に攻めてきたと私は思っています。さとり様はどうですか!?」

 

 

 この二人私に何を求めているのよ……こっちはパルスィさんのおかげで外が(えら)い事になっていると言うのに……地底で問題を起こされると全部私に振りかかってくるのに……お願い、私に負担をかけないで!

 

 

 さとりは胃が痛くなるのを感じながらお空とお燐に向き直る。

 

 

 「今は二人の戯言(たわごと)に付き合っている暇はないです。あれは怪獣でも巨人でもありません!勇儀さんと同じ鬼の伊吹萃香さんという方ですよ。今の萃香さんはパルパルするどっかさんのせいで制御不能になっている状況なんです」

 

 「ああ……嫉妬姫のせいですか」

 

 「うにゅ?」

 

 

 今の説明でお燐は理解してくれたけど、お空はダメね……放って置きましょう。それよりも今は旧都が大変なことになっています。萃香さんとどなたか知らない方が暴れてこのままだと旧都が崩壊してしまいます!そんなことになったら私……ストレスで死んでしまう……勇儀さんも行ってしまって益々現場が大乱闘になるのは目に見えています。もう責任者辞めたい……

 

 

 「それでさとり様はあれをどうするつもりですか!?」

 

 「止めるに決まっているでしょ!お燐、あなたは地上に行って八雲紫とコンタクトを取ってください。それで萃香さん達を止めることに協力してもらいなさい!早く行って!私の胃がまだ残っているうちに!」

 

 「にゃ!?わ、わかりましたにゃ!!」

 

 

 お燐は急いで地上に向かうため部屋を出て行った。

 

 

 「さとり様、私は何をすればいいですか?」

 

 

 お空は戦える力があるけど、お(つむ)は残念……もし核なんか撃とうものならまた私の胃にダメージを受けてしまう……お空には大人しくしておいてもらいましょう。そうしよう!

 

 

 「お空はこの騒動に乗じて怨霊達が暴れださないように管理しておいてください」

 

 「わかりましたさとり様!」

 

 

 お空も自分の仕事をこなすために部屋を出る。さとりの口からため息が吐き出される。

 

 

 「はぁ……萃香さんと戦っている方々はどなたなのでしょうか?萃香さんを止めてくれているのはいいですが、関係のない旧都に被害を出さないでくださいよ。あっ……また一つ店が吹っ飛んだ……」

 

 

 窓から旧都の悲惨な光景を見ているさとりの胃に穴が開いてしまうのではないかと思ってしまう。彼女は地霊殿の主であり、能力に目を付けたとある閻魔によって地底の管理を任されることとなった。それ故に地底が無くなるようであれば閻魔にこっぴどく説教されることは間違いない。そんなことを想像してしまうとまた胃が痛くなる。

 

 

 「うぅ……上の立場にいる者なんていいことないわよ……こいしもそう思うでしょ?」

 

 

 そうこいしに問いかけたつもりだったが、そこにはさっきまで居たはずのこいしの姿はなかった。

 

 

 「こいし?無意識を操っているの?この部屋にいるの?それとも私が気がつかない内に出て行ったの?」

 

 

 さとりは辺りを見回してみてもこいしが現れる気配はない。

 

 

 本当に出て行ってしまったの?一体どこに……ま、まさかこいし!?

 

 

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 「おわぁああああああ!萃香さんが暴れているぞぉ!逃げろぉおおおお!!!」

 

 「ひぃえええ!!?」

 

 「踏みつぶされるぞー!みんな走れー!」

 

 「ああ!俺の店がぁああああ!!!」

 

 

 旧都は大混乱になっていた。そこら中の建物が崩れて行き逃げ惑う妖怪達。だが、そんな状況の中で暴れている鬼を見上げる一人の少女の姿がある。

 

 

 古明地こいしだ。こいしは萃香が旧都で暴れている姿を見ると興味を持って、勇儀達よりも先に地霊殿を飛び出して行った。彼女の無意識を操る能力で姉のさとりや勇儀達にも気づかれることなくその場を後にした。今もこいしの姿は周りの者達からは見えていない。激闘が繰り広げられている戦場でスキップをしながらこの状況を楽しんでいた。

 

 

 『おっきいなぁ!』

 

 

 こいしは巨大な鬼を見上げている。大きくなった萃香は今まさに誰かと戦っているがこいしにとって興味を抱く程にはならなかった。こいしはこの状況を楽しんでいるだけなので、この激闘を止めようとも思っていない。萃香が動くたびに建物が瓦礫(がれき)に変わり、拳を振るえばそれが吹っ飛んで行く。このままだと旧都は壊滅してしまうだろう。そして、その萃香と戦っている者達も斬撃や雷撃で建物に被害が及んでいる……お互いに周りのことが目に入っていない様子だった。こいしは近くにまだ残っている妖怪を発見した。発見したが、その者達は逃げるよりも萃香に近寄って行った。

 

 

 「こんな時しか萃香ちゃんのドロワなんて拝めないぞ!勇士達よ、己の欲望をさらけ出せ!」

 

 「萃香ちゃんのドロワを拝めるなんて……はぁ……はぁ……俺死んでもいいわ♪」

 

 「今のうちに堪能しろ!見るだけじゃダメだ!においも嗅げ!そして脳内メモリーに記憶するのだ!」

 

 「萃香ちゃんデュフフフ♪」

 

 『……変態だ……』

 

 

 地面に背中を向けて萃香のドロワを覗き見る姿の妖怪達に無意識のこいしでもドン引きしていた。萃香ファンクラブの妖怪達はこんなことぐらいでは折れたりなどしない。時には命よりも大切なものがあるのだから。

 

 

 「天子様を返してください!!!」

 

 

 萃香と戦っている一人が放った雷撃を避けようと巨体の足が動いた。その足の下には小さな豆粒のような者達がいる。巨大な足が米粒達を踏みつぶす。

 

 

 「「「「ぎゃあああああああ!!!」」」」

 

 『あっ、つぶれた』

 

 

 巨大な足に踏みつぶされた妖怪達……こいしは離れていたために無事だった。潰された妖怪達は「萃香ちゃんに踏んでもらえてご褒美です♪」と揃いも揃って訳の分からないことを言っていた。何故踏みつぶされても死んでいないのか?変態はゴキブリ以上の生命力があるからこんな程度では死なないのだ。踏みつぶされた妖怪達はペラペラになった状態でも幸せを感じて風圧によってどこかに飛ばされて行った。こいしはそんなことどうでもいいように無視をし続けた……興味などなかったからだ。こいしの興味を惹いたのは別のことだった。

 

 

 『天子様ってあのお兄さんのことだったよね。今どうしているかなぁ?ちょっと会いに行ってみようっと♪』

 

 

 天子に興味を持ったこいしは例の洞穴へと向かうことにした。鼻歌を歌いながらスキップする姿は誰にも認識されることはなかった。

 

 

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 どうも皆さん、比那名居天子です。ヤンデレ萃香に拉致されて地底で監禁状態の生活を送っております。悲しいことに萃香から逃げるチャンスをことごとく逃してしまったどんくさい私ですが、只今おかしなことが起こっています。私の目の前にいるプチ萃香達が私を守るように陣形を組んで入り口の方を睨んでいる。本物の萃香もどこかに行ってしまった……何やら険しい顔つきだった。ここ最近萃香が甘えた顔をよく見ていたがそんな余裕が一切ない表情だったの。私は少なからず小さい可能性を見つけ出した。

 

 

 誰かが助けにきてくれたのでは!?

 

 

 そう思った。先ほどから度々洞窟全体が揺れる。地震とは違う揺れ方だ。誰かが暴れているような……もしかして萃香が暴れていたりするのではとも思えた。助けが来たという嬉しい反面、萃香怒るだろうなという恐怖心が生まれている。私萃香に後ろから刺されたりしないかなって何度思ったことだったか……だが、このままここで一生を生きていくつもりはない。プチ萃香達が向こうを向いている隙に何とか鎖を外したいのだが、この鎖は特殊な鎖だから外すのには至難の業だ。しかし、私はそんな万能すぎるタイプではない。例え元天子ちゃんのスペックが高いからと言っても今の私はそこまでの技術は身に付けていない……もう私の人生GAMEOVERですねこれは……

 

 

 『……おに……て……いる……』

 

 

 ん?今誰かの声が聞こえたような気がしたけど?もしかしてプチ萃香?

 

 

 天子は誰かの声が聞こえたような気がして小さい萃香達を順番に見るが、どの小さい萃香も天子に背を向けているだけだ。誰も天子に声がかけた様子は見られない。

 

 

 おかしいな?空耳か?それか私の幻聴か……遂に私のメンタルがおかしくなってしまったのだろうか……!

 

 

 『……お兄さん……』

 

 

 再び天子は耳にする。先ほどと同じような声が聞こえてきたのだ。

 

 

 まただ!でも今度はさっきよりもちゃんと聞こえたぞ!?一体誰が私を『お兄さん』と言ったの?

 

 

 天子は周りを見渡す。だが、どこにもおらず、いるのは天子と小さい萃香のみだ。誰も隠れるような場所はないので今の声は一体何なのかわからなかった。

 

 

 プチ萃香達がまだ気がついていない。私も声を上げて探したいけど、プチ萃香達に気がつかれてしまう。そうならないようにしないといけない。誰かいるはずなのにそこには誰もいない……まさか忍者!?忍法隠れ身の術とかで姿を消しているとかは……流石に無いよね。ずっと地底での監禁状態だから頭が正常に働いていない気がしてきた……ん?地底……地底には地霊殿があってそこには……そうだ!あの子がいるじゃないか!!

 

 

 天子は頭に思い浮かんだ人物の名前を小声で呟く……

 

 

 「古明地こいし……ここにいるのか?

 

 

 小さい萃香達には聞こえないように呟いた名に姿なき少女が答える。

 

 

 『お兄さん気づいてくれた?こいしだよ』

 

 

 ビンゴ!!やっぱりこいしちゃんだったよ。誰にも気づかれずにいられるのは無意識を操っているからだろうね。おかげでプチ萃香達は何にも反応を見せず入り口を見張っている。声のした方向だとすぐ隣にいるみたいだ。こいしは何故ここにいるのだろうか?

 

 

 「こいしちゃん、君は何故ここにいるんだい?

 

 『うっとね……』

 

 

 こいしは天子に事の経緯を話した。

 

 

 こいしちゃんによると萃香が巨大化して旧都で大暴れしているみたいだ。それも話を聞くと良く見知った感じがする3人が萃香と戦っているらしい。帰って来ない私を探しに地底までやってきたのはいいけど、旧都を壊さないであげて!このままだと旧都が消滅してしまうわよ……早く止めないといけないわ!その前にこの鎖とプチ萃香達をどうにかしないとここから抜け出せそうにないし……そうだ!

 

 

 天子はあることを閃いた。傍に居るはずのこいしに小声で伝えると天子は小さな萃香達に声をかける。すると小さな萃香達は天子の方を向き「何か用」と首を傾げる。

 

 

 「実は汗を掻いてしまってな、それでお風呂に入りたいのだがいいかプチ萃香達?」

 

 

 小さい萃香達は集まって何やら身振り手振りは話し合っている(言葉を発してはいないのだが)

 一人が前に出て来て首を縦に振った。どうやらOKの合図らしい。

 

 

 「ありがとう。それでなんだが、この鎖を外してくれないだろうか?お風呂に入る時はいつも外してくれているだろ?」

 

 

 天子はそう言ったが小さい萃香達は首を横に振る。

 

 

 むっ、これはお風呂に入ってもいいけど、本物の萃香が帰って来るまでは我慢しろってことか?困ったぞ……プチ萃香達は何とかなるが本物の萃香が相手では分が悪い……それに本物の萃香が帰って来たら旧都がもう終わっている可能性がある。こうなったら別のプランで行こう!

 

 

 「今から入りたいんだ。汗が気持ち悪くてな、お願いだかわいいプチ萃香達……それにこの鎖を外してくれるなら一緒にお風呂入ってあげてもいいぞ?」

 

 「「「!!!」」」

 

 

 小さい萃香達の目が変わった。メラメラと緑色の光が目から放たれていた。

 

 

 いつもお風呂には本物の萃香と二人っきりで入っている。その間、プチ萃香達は見張り役でお風呂場の外だ。今まで一度も私と一緒に入ったことはない。

 つまり私の考えではこのプチ萃香達も本物の萃香と同じく私に執着しているはずだ。それを利用させてもらおう。騙すようで心は痛むが仕方ないと思っている。このままだと地底が大変なことになるからね……既になっているけど。

 

 

 小さい萃香達はお互いの顔を見合わせると天子の鎖に近づいて外してしまった。本物の萃香だけ一緒に入っているのに、自分達も萃香なのに一緒に入れていない……天子と一緒にお風呂に入りたくて仕方なかったのだ。その欲が勝り鎖を取り外したのだ。

 

 

 「それじゃ、入る準備をするから向こうに行っていてくれ。流石に()()()()プチ萃香達の視線を浴びながら着替えるのは恥ずかしいのでな」

 

 

 小さい萃香達は天子に言われると頬を赤色に染めて入り口の方へと向かって行った。

 

 

 ()()()()の部分を強調することでプチ萃香達の視界から逃れる……これこそ技前だ。イケメンのみに許される無意識に女の子を落とすイケメンロール!まぁ、無意識ではなく意図的ですけどね。そしてプチ萃香達は近くにいない今がチャンスだ!

 

 

 「こいしちゃん、頼んだよ!」

 

 「うん、いいよ♪」

 

 

 姿を現したこいしはすぐに天子に抱き着くと徐々に二人の姿が薄っすらと透き通っていき、洞穴から二人の姿が消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ふぅ~、もういいよこいしちゃん」

 

 「ここまで来たらもう安心だね」

 

 

 監禁現場から遠くに離れることに成功した。こいしちゃんの無意識を操る程度の能力を使ってもらい、こいしちゃんに密着されることで私の存在を無意識領域に入れることに成功したのだ。女の子を抱き着かせるとか変態野郎と思うかもしれないけど、私は中身女の子なのでノーカンですよ。まぁ、正直言うと成功するかわからなかったが、無事成功して万々歳だ。

 だが、気を抜けない。何故なら私の視界に入っている見知った顔の者達が暴れているのだから……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 萃符『戸隠山投げ』!!!

 

 電符『雷鼓弾』!!!

 

 人符『現世斬』!!!

 

 眼光『十七条のレーザー』!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウワーキレイダナー……建物が粉々に砕けていくし、弾幕が着弾して残骸に火柱を生み出していく。想像していたよりヤバいですはい……戦場ですよここは。それにやっぱり衣玖達だった。私の居場所を突き止めて迎えに来てくれたんだとわかるけど、関係無い旧都を巻き込むのは止めてあげよう?もう現場は悲惨過ぎて見ていられないわ……萃香が巨大化して暴れまわり、衣玖達が応戦しているけど皆周り見えていないよね?火の海になりつつあるんですけど……ん?あれは……!

 

 

 天子は旧都の現状を見て呆然と眺めていると地底を代表する人物を発見した。

 

 

 「おらぁ!萃香!目を覚ませよ!!」

 

 「萃香落ち着いてえな!原因はパルスィのせいなんよ!暴れたいんやったらパルスィに当たり散らしてや!」

 

 「ちょっとヤマメそれは流石に止めて!!」

 

 

 あれは勇儀さんにヤマメとパルスィだ。萃香を止めようとしてくれているみたいだけど……

 

 

 「勇儀もワタシと天子の邪魔スルノカ……?」

 

 「ああ、悪いな。今の萃香には天子は勿体ないんでな」

 

 「天子はワタシノモノだ!ダレニモワタサナイ!どけぇえええええ!!!」

 

 

 萃香は勇儀に向かって拳を振りかぶった。勇儀はそれを避けて地面にクレーターができるぐらいだったが、ヤマメとパルスィは衝撃で吹き飛ばされてしまった。天子とこいしは瓦礫の物陰に隠れて様子を窺っていたが、二人は天子の居る方角へと吹き飛ばされた。天子はすかさずに物陰から飛び出して二人を受け止める。

 

 

 「大丈夫か二人共!」

 

 「天子!?無事やったんやね!」

 

 「えっ?あ、あの時の……」

 

 

 ヤマメは天子を見た途端に笑顔だ。パルスィは原因を作った側なので気まずそうにしていた。ヤマメとパルスィを抱く姿を見た鬼の拳はワナワナと震えていた。

 

 

 「天子!?お前ら天子にフレルナ!メスブタドモメ!!」

 

 

 萃香は巨体を揺らしながら近づいて来る。しかし、それを阻むもう一人の鬼の姿がある。堂々と萃香の前に躍り出る。

 

 

 「待ちな萃香、そう急ぐなよ。鬼同士の喧嘩……久々にやろうじゃないか?」

 

 「ぐぬぬ!勇儀ワタシノ邪魔をシテ……ソンナニ邪魔したいのか!!」

 

 「今の萃香は萃香じゃねぇ。同じ鬼であり、お前の友である私は嫉妬心に支配されている惨めな姿を見たくないんだ。普段の萃香なら手を貸したが、今の萃香は好ましくないんで邪魔させてもらうぞ」

 

 「うガァアアアアああ!!!」

 

 

 萃香は怒りで咆哮する。その巨体から繰り出される咆哮で周りの瓦礫は吹き飛ばされて行く。あまりの大きさに耳を塞いでしまうほどだ。咆哮をし終わった萃香の瞳が完全に勇儀を敵として捉えていた。睨み合う二人と天子に駆け寄る3人の姿……

 

 

 「天子様!」

 

 

 衣玖が真っ先に駆け寄ってきた。一瞬ヤマメとパルスィに冷たい視線を送るが……ヤンデレ萃香みたいな瞳をしてました……怖いです。そ、それはともかく!妖夢と神子も駆け寄って来てくれて久しぶりの再会だ。

 

 

 「天子様お怪我はございませんか変なことされませんでしたかもし何かされたのであれば私があのちびを地獄に突き落としてわんわん泣き声を叫びださせてゆっくりと血祭りにして差し上げます!」

 

 「衣玖落ち着いてくれ、リラックスリラックスだ。私は大丈夫だよ、まぁ……いろいろとあったがな……」

 

 

 本当にいろいろとあった……衣玖も萃香みたいに怖いから何も言わないけど……

 

 

 「天子さん!ご無事ですか!?」

 

 「天子殿、何故地上から姿を消したのですか?それに萃香殿の様子が変ですよ?」

 

 

 妖夢と神子も心配そうに見つめてくる。本当に申し訳ないです……これにはいろいろと事情があるんだけどね。

 

 

 「それならうちが話してあげる」

 

 

 ヤマメは衣玖達に丁寧に説明し始めた。

 

 

 ドカーン!

 

 

 説明している間にも向こうで鬼同士の戦いが始まってしまい、衝撃を避けるために物陰に全員で隠れることにした。その間にヤマメは事の経緯を説明した。衣玖は途中から歯ぎしりをしたり、目に光が無かったりと天子を内心恐怖させていた。妖夢も「絶対斬らなければ」と物騒なことを言っていた。神子は「天子殿と一緒にお風呂だなんて……羨ましい!」と顔を赤く染めてチラチラと天子の方を見ていた。

 衣玖達も天子が行方不明になっている間にやれることをやっていた。幸いなことに天界の天人達は宣戦布告することなく仕事に勤しんでいるようで天子は安心していた。ナズーリンの活躍によって天子が地底にいることがわかると誰かの制止声も聞かずに地底まで3人はやってきていた。地底との条約など頭から無くなってしまう程に急いでいたのだ。地底についたのはよかったものの、天子の肝心な場所までわからないため悩んでいた衣玖達の前に萃香が現れた。何故ここにいると思ったが、衣玖は霊夢が萃香を見かけないと言っていたのを思い出し、萃香が天子を地底に誘拐した犯人だとわかったのだ。それからは頭に血が上り、がむしゃらに戦っていたわけだ。

 

 

 「つまり……パルスィさん、あなたが元凶と言う訳ですね……」

 

 

 衣玖の冷たい声がパルスィを射抜く。誘拐したのは萃香だが、萃香がおかしくなった原因はパルスィだ。彼女が余計なことをしなければこんな事態にはなっていなかったのではないかと思えてしまう。

 

 

 「衣玖さん、私にやらせてください。丁度斬ってみたかったんですよ……人」

 

 「ひっ!ちょ、ちょっと斬るだなんて本気じゃないでしょうね!?それにあなた目がマジなんだけど!?」

 

 「……私に斬れぬものなどあんまりないのですよ?パルスィさん……一斬りだけでも……?」

 

 「一斬りでも絶対やめて!」

 

 

 パルスィは妖夢の問いに背筋が寒くなるのを感じた。マジで斬ろうとしていると本能でわかってしまって顔が引きつる。

 

 

 「安心してください。死んでも青娥に頼んでキョンシーとして蘇らせてあげますから」

 

 「何よそれ!?本当にそれだけはやめて!!」

 

 

 神子もさらっととんでもないことを言うのであった。

 

 

 「皆、私はもう大丈夫だからパルスィを許してやってくれ」

 

 「……天子様がそうおっしゃるのでしたら……」

 

 

 衣玖達は渋々納得してくれた。私は別に気にはしていない。ただ、ヤンデレは勘弁してほしいな……さてと、このまま萃香を放ってはいけない。でも、元凶のパルスィが居るんだからどうにかできると私は思っておりました。

 

 

 「やってみるけど、萃香の中に芽生えている嫉妬心が大きくなりすぎて制御するのに時間がかかってしまうのよ。だから、その間、あの鬼の注意を逸らしておいてほしいのよ」

 

 

 なるほど、耐久ですかね。結構耐久はきついのよね……ゲームで何度も体験したから知っている。でも、やるしかない。萃香には元に戻ってほしいからね。ヤンデレ萃香は嫌いじゃないけど好きにはなれない。特に怖いし……いつもの萃香が私はいいのだから。そうと決まれば行動に移すしかない!

 

 

 そう思い、衣玖達に指示を出そうと振り返った時に見てしまった。小さな萃香達がこちらに向かって来ている姿を目視してしまった。

 

 

 「あっ!お兄さん、プチ萃香達がやってきたよ♪」

 

 

 この状況を楽しんでいるこいしが指を指すとみんな振り返った。数は10程度だが、萃香の分身だ。手加減はできない。相手は手加減などすることはないだろう。天子を攫いに来たと思っているのだから。

 

 

 

 プチ萃香がやってきてしまったか!……それに皆涙目になっている?もしかして私と一緒にお風呂に入ることができなかったから泣いているの?それは心が痛む……ごめん。でも、ここは心を鬼にしないと。私の自由もかかっているんだからね。それに萃香を元に戻さないとここが荒れ地にリフォームされてしまう……

 

 

 「衣玖、妖夢、神子はプチ萃香達をお願い。ヤマメとこいしはパルスィを頼む」

 

 「天子様はどうするのですか」

 

 「私は萃香と話して少しでも時間を稼ぐよ。お願いできるか衣玖?」

 

 「天子様にお願いされたら断れないですよ……」

 

 

 衣玖はどこか嬉しそうに言った。妖夢と神子にも視線で合図すると頷いてくれた。ヤマメとこいしもやってくれるみたい。パルスィを守ることが必須条件だ。それに、萃香と戦ってくれている勇儀さんのためにも……萃香を元に戻さないといけない!

 

 

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 私達はナズさんから「天子は地底にいるかもしれない」その言葉を聞いた後の記憶はほとんど残っていない。気がつけば私達は古い時代の建物が立ち並び、ぶら下がる無数の提灯が街を照らし出してとても明るい光景が目に入ってきた。上を見上げればそこには岩があった。すぐに地底に私達はいることがわかった。私達と言っているのは私以外にも見知った顔がいたから。

 魂魄妖夢さんと豊聡耳神子さん(ミミズクさん)も驚いた表情でした。二人も気がついたらここに居たと言った感じでした。

 

 

 「お二人共、いらしていたんですか?」

 

 「そう言う君こそ、私は天子殿が地底にいるかもしれないと聞いて……いつの間にか地底にいるようだね」

 

 「衣玖さん、神子さん、そんなことよりも天子さんを探しましょう!早く見つけないといけませんよ!」

 

 

 妖夢さんはいつの間にかここに居ることなどお構いなしだった。早く天子様を見つけたくて仕方ないご様子……私も早く天子様に会いたい。毎晩天子様の寝室の扉を開けたらそこには、笑顔の天子様が笑ってくれていることを願っていました。でも、それは叶いませんでした……天子様の不在を気にする者は天界には大勢いましたが、理由をつけて天界から離れていることを嘘の説明することで事なき終えていた。しかし、その間も私の心は痛んでいました。嘘が本当ならどれほどよかったか……天界で天子様の帰りを待ち、家に帰って来た時に「おかえりなさい」と言えたのならば私の心はどれほど軽かったか……

 天子様は何者かに誘拐された。今すぐに天子様に会いたい。妖夢さんの気持ちよくわかります……必ず犯人を見つけ出し報いを受けさせてやらねば!

 

 

 そう衣玖が思っていた時に意外な人物が3人の前に現れた。

 

 

 「あっ!萃香さん!」

 

 

 妖夢の声に衣玖と神子が反応した。顔が下に向いていて見えなかったが、特徴的な2本の角と小柄な体型が彼女だと証明していた。

 

 

 萃香さんがこんなところに?そう言えば度々、地上と地底の条約を無視して地底にいる友達とお酒を飲み交わしていると聞いたことがありました。なるほど、萃香さんがここに居てもおかしくはないですね……ないはずですけど……空気がおかしい。彼女から漂う空気がおかしなものであることが感じ取れる……これは?

 

 

 「衣玖殿、妖夢殿、警戒してください

 

 

 小声で神子は二人に伝える。妖夢はキョトンとしていたが、衣玖には理解できた。萃香から敵意を感じることを理解できたのだ。

 

 

 「……ダメ……だ……ダレニモ……ワタサナイ……」

 

 

 萃香さん……私達に明確な敵意を見せています。一体なぜ?しかもここは街の中……何かあるようですね。

 

 

 「ワタサナイ……ワタサナイ……ワタサナイ……!」

 

 「萃香殿、何を渡さないと言っているのですか?ちゃんとわかるように説明してほしいですね」

 

 「ワタサナイ……ダレニモ……ワタシだけ……天子はワタシだけのモノ……!」

 

 

 天子!?萃香さん今あなた天子と?天子様のことを知っているのですね!

 

 

 衣玖は一瞬萃香に駆け寄りそうになった。だが、駆け寄るという行動は捨てた。萃香の目を見たから……

 緑色の光が放たれ、こちらに向ける視線は獲物の息の根を止めようとする肉食獣の瞳とよく似ていた。そして、衣玖の中で一つの可能性を発見した。

 

 

 「まさか……天子様を誘拐したのは……萃香さん!?」

 

 

 その言葉を聞いて妖夢は驚いた様子だった。神子は薄々わかっていたのか特に驚くことはなかったが、腰の七星剣に手をかけていた。

 

 

 「天子はワタシのことをスキと言ってくれた。ワタシモ天子がスキだ。これは相思相愛ダカラワタシタチは恋人同士なんだ。恋人同士は一緒にいるべきナンダ……ソウダロ?ソウニ決まってイルダロ?お前達は邪魔ナンダ……回れ右シテカエレ」

 

 

 地底に住む妖怪達は萃香と対峙する衣玖達を見学していた。中には喧嘩ごとだと思って観戦する者や萃香の幼い体を見ようとする変態も混じって周りが野次馬だらけになっていた。

 

 

 何を言っているのですか萃香さんは……天子様があなたを好き?天子様は誰にでも優しくする方でございますから好きと言ってくれるのはあり得ることです。しかし、それは友達としてでしょう。本当の愛LOVEの方の好きは私のためにあるのですから……気に入りません。萃香さんのことがわかっていたつもりでしたが、私はまだまだのようですね。相思相愛?私達が邪魔ですって?ふふふ……全くこのちびは何を言っているのでしょうかね……

 

 

 衣玖の体に電気が纏う。それは萃香に対して威嚇しているように見えた。

 

 

 「カエレ……そして天子に近づくナ。天子は……ワタシのモノダカラ……お前たちナド……見向きもサレナイダロ?」

 

 「見向きも……されない……?」

 

 

 ふふふ……萃香さん、何故か調子に乗っているようですね……そう言えば鬼は喧嘩がお好きだとか……いいでしょう。その喧嘩買ってあげましょう!

 

 

 「衣玖殿、落ち着いてくれませんか?萃香殿の様子がおかしいのはわかるはずですよ?」

 

 

 神子は顔に青筋が立っている衣玖を(なだ)めようとするが……

 

 

 「耳毛もカエレ、ワタシと天子の邪魔をするな。天子にはお前は相応しくナイ」

 

 「はぁ?耳毛……相応しくないと……私がですか……?」

 

 「そうだ……脇などミセヤガッテ……耳毛神子ではナク、脇神子か?いや、脇毛神子ダナ!」

 

 

 プチッ!

 

 

 神子の何かがキレた音がした。腰の七星剣抜き出して手に握っていた。

 

 

 「萃香殿……あなたも脇を見せているでしょうに……いいですよ……この喧嘩乗りました。二度と蘇られぬようにしっかり封印を施してあげますよ!」

 

 

 今にも萃香に斬りかかろうとする神子を妖夢は必死に止める。

 

 

 「二人共落ち着いてください!萃香さんもやめてください、どうしたんですか!?」

 

 

 妖夢は萃香がいつもとは違うことはわかっていたが、どうして違うのか彼女は知る由もなかった。そんな妖夢に萃香の挑発めいた言葉が振りかかる。

 

 

 「ハッ!何もカモ半人前のヤツが……ダカラ胸も半人前ナンダな!」

 

 「きさまぁあああああああ!!!もういっぺん言ってみろぉおおおおおおおお!!!」

 

 

 妖夢の堪忍袋はすぐにキレた。それがきっかけだった。これから旧都に大惨事を招く争いが始まるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しばらく激戦を繰り返していると萃香とは違う鬼の姿と金髪の二人組が現れた。萃香の拳がもう一人の鬼に振るわれたが、それを避けたことで吹き飛ばされた二人を受け止めたのは望んでいた人物の姿を発見する。

 

 

 あ、あれは……!天子様!!?

 

 

 衣玖達はようやく見つけることができた。数日だが彼女達にとっては何年も離れ離れになっていた感覚だった。すぐに天子の元へ駆け寄る。

 

 

 「天子様!」

 

 

 ようやく会えました……いつもと変わらないお姿……衣玖はとても寂しかったです……!もしもあのちびに天子様が汚されたのであれば……私は許しません!それとあなた方は誰ですか?天子様に受け止められて幸せなのはわかりますがそろそろ離れてもらえませんかね……?

 

 

 衣玖の視線に気がつくと金髪の二人は天子の元から離れた。

 

 

 「天子様お怪我はございませんか変なことされませんでしたかもし何かされたのであれば私があのちびを地獄に突き落としてわんわん泣き声を叫びださせてゆっくりと血祭りにして差し上げます!」

 

 「衣玖落ち着いてくれ、リラックスリラックスだ。私は大丈夫だよ、まぁ……いろいろとあったがな……」

 

 

 はっ!?いつもの私に戻らないと天子様に嫌われてしまう!ゴホン……これで私はもう大丈夫です。少しお疲れのご様子ですね……いろいろとあった?やっぱりあのちびは許しておけませんね!

 

 

 「天子さん!ご無事ですか!?」

 

 「天子殿、何故地上から姿を消したのですか?それに萃香殿の様子が変ですよ?」

 

 

 確かに神子(ミミズク)さんのいう通りですね。言葉も何かおかしいような気がしますし……一体何が?

 

 

 「それならうちが話してあげる」

 

 

 黒谷ヤマメさんと水橋パルスィさんと言う方は地底に住んでいる妖怪のようでした。それにこの子供は古明地こいしと言う地霊殿に姉がいる子でした。天子様に協力してくれた子のようです。そして向こうで萃香さんと戦っているのは星熊勇儀さんと言う方で萃香さんを止めてくれています。しかし、そんなことどうでもいいのです。問題はパルスィさんです。ヤマメさんにも問題がありますが、話を聞くとパルスィさんが原因で萃香さんがおかしくなったとか……

 

 

 衣玖は冷静さを取り戻していた。天子が誘拐されたことで頭に血が上っていたがヤマメの説明で納得がいった。

 

 

 「つまり……パルスィさん、あなたが元凶と言う訳ですね……」

 

 

 パルスィに冷たい声と視線が突き刺さる。

 

 

 「衣玖さん、私にやらせてください。丁度斬ってみたかったんですよ……人」

 

 「ひっ!ちょ、ちょっと斬るだなんて本気じゃないでしょうね!?それにあなた目がマジなんだけど!?」

 

 「……私に斬れぬものなどあんまりないのですよ?パルスィさん……一斬りだけでも……?」

 

 「一斬りでも絶対やめて!」

 

 

 妖夢さん、一斬りだなんて……寧ろ粉微塵にやっちゃってください。

 

 

 パルスィの顔が引きつっているが構わず続けていく。

 

 

 「安心してください。死んでも青娥に頼んでキョンシーとして蘇らせてあげますから」

 

 「何よそれ!?本当にそれだけはやめて!!」

 

 

 パルスィの顔が真っ青に成り果てるところを天子が庇う。

 

 

 「皆、私はもう大丈夫だからパルスィを許してやってくれ」

 

 「……天子様がそうおっしゃるのでしたら……」

 

 

 天子様が言うことなら仕方ありません。いつもの天子様で私は安心です……相変わらず天子様はお優しい方です。久しぶりに顔を合わせて見ると更に魅惑的で吸い込まれてしまいそうです……♪

 

 

 衣玖は数日ぶりの天子の顔にうっとりしていたが、天子本人はそれどころではなかった。パルスィに萃香を元に戻してもらうように頼んだのだが……

 

 

 「やってみるけど、萃香の中に芽生えている嫉妬心が大きくなりすぎて制御するのに時間がかかってしまうのよ。だから、その間、あの鬼の注意を逸らしておいてほしいのよ」

 

 

 そう上手く終わりを迎えることはなかった。パルスィでも膨れ上がった嫉妬心を制御するには時間がかかるようだった。それをわかった天子は衣玖達に指示を出そうとした時に見てしまった。

 

 

 「あっ!お兄さん、プチ萃香達がやってきたよ♪」

 

 

 こいしさんの指を示す方向に振り返るとそこには無数の萃香さんがいた。ちなみにこいしさんより小さい……なるほど、それでプチ萃香なのですね。それよりもこの状況はよろしくないと判断しますね。ですが、何故涙目なのでしょうか?辛い事でもあったのでしょうかね?

 

 

 涙目の小さい萃香を見て考えていると天子が衣玖達に頼んできた。

 

 

 「衣玖、妖夢、神子はプチ萃香達をお願い。ヤマメとこいしはパルスィを頼む」

 

 「天子様はどうするのですか」

 

 「私は萃香と話して少しでも時間を稼ぐよ。お願いできるか衣玖?」

 

 

 天子様……そんな顔でお願いされたら……仕方ない天子様ですね。でも、天子様の困った顔も素敵です♪

 

 

 「天子様にお願いされたら断れないですよ……」

 

 

 天子様はそう言うと本物の萃香さんの元へ行ってしまう。

 

 

 「寂しいですね。あまり構ってもらえないのは」

 

 「私なんて天子さんに謝りたいことがあるのに……」

 

 

 妖夢と神子は天子に構ってもらえなかったことが寂しいようだった。

 

 

 「今の天子様は萃香さんを止めることで精一杯なんですよ。だから、今回の件をちゃっちゃと終わらせて元の日常に戻りましょう。天子様には天界へ帰って来てもらわないと大変なんですよ?」

 

 「天界は天子殿で回っていると言っても過言ではありませんものね。そしたら私達のやることは……」

 

 「斬るだけですね!」

 

 

 そう言って妖夢は刀を構える。神子も腰から七星剣を引き抜き戦闘態勢に入る。目の前には小さな萃香がこっちを睨んでいた。

 

 

 やる気満々のようですね。萃香さんのことは嫌いじゃありませんし、今回は出来事は事故のようなものですので大目に見て差し上げますけど天子様からのお願いです……ここは通させませんよ!

 

 

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