比那名居天子(♂)の幻想郷生活   作:てへぺろん

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地底での騒動は終息へ……


それでは……


本編どうぞ!




38話 鬼退治

 「あいつらどんだけのスピードで向かったんだ?」

 

 

 箒にまたがり、空を飛ぶ魔理沙とアリスに咲夜の3人は天子の手がかりを見つけ地底に向かっているところだ。

 

 

 「天狗ですら顔負けの速度だったわね」

 

 「でも、気持ちはわかりますわ。私だってもしもお嬢様が誘拐されようものならば……居ても立っても居られませんもの」

 

 

 ナズーリンが天子の手がかりを見つけたことを知ると例の3人組はその場所へと向かって行った。残像が残るほどのスピードでその場から消えた光景を思い出す魔理沙達。

 

 

 「天子の奴……大丈夫だろうな……?」

 

 「あら?魔理沙、天子様のことが心配?」

 

 「そりゃな、誘拐されたんだろ?お前は心配じゃないのかよ咲夜?」

 

 「勿論心配ですわ。お嬢様方を救ってもらい、今まで通りの紅魔館を取り戻してくれた方ですもの。私だって天子様にはご恩を返したいと思っているわよ?魔理沙だって命を救ってもらっているじゃない」

 

 「ああ、天子には感謝している。どこの誰か知らないが一体何で天子を誘拐なんか……おっ?」

 

 

 魔理沙は紅魔館の時に天子に命を救われた。借りがあるし、魔理沙は個人的に天子のことは気に入っていた。何度か見舞いに来てくれたこともあったし、付き合いもいい方だ。天子が誘拐されたことを聞いた魔理沙は「死ぬまで借りていくぜ!」が口癖だったが命を救われたこともあり恩を返そうと積極的に捜索していた。今もアリスと咲夜と共に目を走らせて探していた……そんな時に魔理沙の視界の端に何かが一瞬映ったそれを探してキョロキョロと探す。

 

 

 「魔理沙、どうしたのよ?」

 

 「アリス、お前は見なかったか?」

 

 「何をかしら?」

 

 「頭に猫耳を付けた奴だよ。どっかで見たことがあるんだけどな……」

 

 

 魔理沙は先ほど視界に映ったそれを思い出そうとしていた時のことだった。

 

 

 「にゃいにゃい、以前の白黒さんや、丁度いい所に居たね」

 

 「うわぁ!?さっきの……お前は確か……」

 

 「火焔猫燐だにゃ、白黒さんや、もしかしてあたいのこと忘れてた?」

 

 「そんなことないぞ、たった今思い出したぞ」

 

 「それは忘れていたと同じことだけれど……」

 

 

 異変の時にコテンパンにのしてやったお燐だった。魔理沙はそんなの居たな程度の感覚で思い出していた。

 

 

 「にゃ?見たことない方達がいるね」

 

 「私はアリス・マーガトロイドよ。こっちが十六夜咲夜」

 

 「よろしくお願いいたしますね。ですが申し訳ありませんが私達は急いでいるので……」

 

 

 咲夜は早々に話を切り上げて地底へ向かおうとしていたが、それを魔理沙が止めた。

 

 

 「咲夜、お燐の奴は地底にある地霊殿ってところに住んでいるんだぜ」

 

 「あら?それでは天子様のことを知っているのですか?」

 

 「そうなんだにゃ!ちょっと聞きたいことがあるんだけど……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「博麗神社ってどこにあるんだい?」

 

 

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 「萃香!!」

 

 「天子!ここに居たら攫われる!ニゲロ!」

 

 

 天子が取られちゃう……ダメだ、あいつらはワタシから天子を奪ってイク……そんなのゼッタイユルサナイ……酒も宝も奪われてもイイけど天子だけはダメだ!ゼッタイユルサナイゾ!

 

 

 萃香の心は乱れていた。萃香は許せなかった……自分から天子を奪おうとする奴らの姿を……旧都を壊すつもりはなかった、暴れるつもりなどなかった……しかし、止められなかった。天子を奪おうとする者達が現れて萃香と天子の仲を裂こうとする妄想が彼女の心を乱し、嫉妬心を増幅させている。目に宿る光が益々輝きの強さを増していた。

 

 

 「へぇ、あんたかい?比那名居天子と言うのは?」

 

 「あなたは星熊勇儀さんですね」

 

 「私を知っているのかい?嬉しいね!萃香から聞いているよ。済まないが手を貸してくれないか?今の萃香をブチのめしに来たつもりなんだけどよ、思った以上に厄介なんだよ。それに私のことは勇儀で構わないさ」

 

 「わかった勇儀、是非手を貸したい」

 

 「そう来なくっちゃね!」

 

 

 勇儀が手を差し出す。それに応えて天子と勇儀が握手を交わす。しかし、その光景を憎たらしく見る瞳が勇儀を捉えている。萃香は目の前で仲良く握手する姿を見せつけられた。二人は意図してやったわけではなく自然の流れで握手することになった。それが今の萃香にとっては更に乱れる原因になってしまった。

 

 

 ドウシテダ?天子はナンデ勇儀と握手スルんだ?勇儀は私と天子の仲を邪魔しているんだゾ?ワタシタチは恋人同士のはずダロ?手を握っていいのはワタシダケナンダロ?スキと言ってクレタじゃないか……嘘ナノか?ううん……チガウ……天子は嘘ナンテつかない!騙しているのはメスブタドモだ!天子を騙して誘惑してワタシから離そうとシテイルんだ!

 

 

 ……サセナイ……

 

 

 サセナイサセナイサセナイサセナイサセナイサセナイサセナイサセナイサセナイサセナイサセナイサセナイサセナイサセナイサセナイサセナイサセナイサセナイサセナイサセナイサセナイサセナイサセナイサセナイサセナイサセナイサセナイサセナイサセナイサセナイサセナイサセナイサセナイサセナイサセナイサセナイサセナイサセナイサセナイサセナイサセナイぃいいい!!!

 

 

 ダレデあろうとワタシと天子のコイジの邪魔はサセナイ!!!

 

 

 「勇儀ぃいいいい!!!」

 

 「うぉ!?」

 

 

 萃香は勇儀目掛けて跳躍して空に飛ぶ。跳躍した拍子に地面が割れ、衝撃が地底全体に広がる。そのせいで一瞬勇儀はバランスを崩してしまい回避が遅れてしまう。それを見逃さずにそのまま降下する勢いで勇儀を踏みつぶさんとする。だが、そうはならなかった。天子が勇儀を咄嗟に突き飛ばして二人の間に下ろされた足がクレーターを作る。

 

 

 「萃香やめるんだ!勇儀に手を出すんじゃない!」

 

 「天子!勇儀に騙されるナ!そいつは天子を騙してワタシタチの仲を裂こうとシテイルんだ!安心シテクレ天子!今のワタシナラ勇儀だって楽々倒せる気がスルンダ。天子はそこにイロ、すぐに勇儀の首を奪いトッテヤルカラナ」

 

 

 そう言って萃香は勇儀の方へ向こうとするときに聞こえてしまった。天子が手に何かを握る音を……

 

 

 萃香は嫌な予感がした。ゆっくりと天子の方を向くと、天子の手には緋想の剣が握りしめられていた。

 

 

 「すまない……萃香を元に戻すためなんだ。萃香の好意はとても嬉しいが勇儀や他の皆に危害を加えることは許さない……だから萃香……覚悟してくれ」

 

 

 ……えっ?どうして?天子がワタシにそれ(緋想の剣)を向けるの?ワタシタチ恋人同士なのに争うノ……?優しかった天子がナンデワタシに……

 

 

 天子に……キラワレタ……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ソンナワケナイ!!!

 

 

 天子がワタシに刃を向けるワケナイ天子は優しいしワタシをタイセツにシテクレテいるきっとこれはユメだそうにきまってイル天子はワタシを裏切るワケナイこいつは誰かが幻術かナニカを使って天子のようにミセテイル偽者だ当たり前だヨナ天子とワタシは恋人同士ナンダからどこのどいつかシラナイが天子の偽者をツクリダスなどナメタことしやがってユルサナイコロシテヤル!!!

 

 

 萃香は鋭く尖った歯をむき出しにして偽者だと決めつけた天子を睨みつけた。

 

 

 「オマエは偽者だ!天子がワタシにそんなもの向けたりシナイ!だからオマエは偽者!偽者は生かすな!天子の姿をマネスルナ!そうだ……コロソウ!コロシテしまおう!ワタシノ天子を侮辱シタオマエはユルサナイ!ユルサナインダゾ!ぎゃははははははは!!!」

 

 「萃香!?」

 

 「萃香……チッ!パルスィのバカ!萃香の奴壊れてるじゃねぇかよ!!」

 

 

 天子は萃香の豹変ぶりに唖然としている。勇儀もこんな姿を目の当たりにして舌打ちをする。

 

 

 「チッ!おい天子!萃香を止めるぞ!このままだと萃香の奴が本当に壊れちまう。パルスィの能力で抑え込めても元の萃香に戻るかわからなくなっちまうからな!」

 

 「あ、ああ……わかった。勇儀」

 

 「ぎゃはははははは!勇儀も偽者もブッツブシテヤル!」

 

 

 天子は高らかに狂った笑い声をあげる萃香を見つめていた。

 

 

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 「ぎゃはははははは!勇儀も偽者もブッツブシテヤル!」

 

 

 ちくしょう!萃香がとうとうおかしくなっちまった。パルスィ後で憶えてろよ。しかし、萃香がここまでおかしくなっちまうとは……それもこれも……

 

 

 勇儀はチラリと横目で窺う。萃香から自慢げに語られた比那名居天子という男がこの場にいる。勇儀も会ってみたいと思っていた人物……髪は腰まで届く青髪のロングヘアに真紅の瞳と派手な色彩の服を着ている美男子だ。勇儀さえいい男だと思えてしまう程に綺麗な姿だった。

 

 

 いい男じゃないか、確かに萃香の気持ちがわかる気がするな。情けないことにさっき萃香の攻撃から助けてもらった。いい男ってのが外見だけじゃないってことがわかるぜ。それに『強い』とわかる。言っていた通りに天子から強者のにおいがする……これは萃香と天子には悪いが今の状況が楽しみになってきたな♪

 

 

 勇儀はニタリと笑う。今の萃香は暴走状態で手が付けられない。勇儀でも一苦労の戦いになることは避けられないのだが、勇儀側には天子がついている。暴走状態の萃香を止めるために天子も戦う覚悟を決めているようだった。鬼である勇儀には堪らなかった。本当は天子と喧嘩してみたかったが萃香が認めた男と共に戦えることを嫌だなんて思わないし心の中では密かに喜びに舞い上がっていた。

 

 

 「天子、悪いな手伝ってもらえるなんて」

 

 「いや、萃香がこうなったのには私の責任もあるから……それにこれ以上萃香が暴れて旧都以外にも被害が出れば萃香はその内誰にも相手されなくなってしまうからな。萃香にそんな思いはしてほしくないのだ……」

 

 「~♪カッコイイねあんた♪」

 

 

 口笛を吹いて揶揄ってみる。特に天子は気にしない様子で萃香を見つめていた。彼女のことを本気で心配していることが窺える。

 

 

 「うがぁあああ!天子に色目ナンカ使うナ!!!」

 

 「おっと!」

 

 

 萃香の拳が勇儀を潰そうとするが、吹き飛ばされる程の力の勇儀ではない。萃香の巨大な拳を両手で受け止めていた。

 

 

 「色目なんか使っていないさ。萃香の方が色目使っているだろ?」

 

 「ウルサイ!天子に色目使ってナニガワルイ!!天子とワタシハ恋人同士ナンダから当然ダ!」

 

 「萃香!萃香の気持ちは嬉しいから暴れないでくれ!これ以上暴れれば萃香に誰も寄り付かなくなってしまうぞ!私はそんな萃香を見たくないんだ」

 

 「天子の偽者メ!天子ならワタシに刃をムケナイ!天子ナラ今きっとワタシの帰りを家で待っているダ!だから天子がこんなトコロニイルわけはナイ!偽者偽者偽者ナンダ!偽者はコロス!!!」

 

 

 天子を偽者だと思っているのか……天子の声も届いていない様子か……私達が思っているよりもご執心のようだな。それに監禁されていたというのにまだ萃香のことを心配してくれるのかい……気に入ったよ。とても気に入った。武勇伝だけじゃやっぱり感動は伝わらないね。本物に出会ってこそ感動は伝わる……まさしくそうだ。器もでかい、肝っ玉も据わっているし、何より強いってのがいいよな。くふふ、柄にもなく興奮してきたぜ!天子と一緒に酒盛りしたくて堪らねぇな!だがな、その前に萃香の奴をぶっ飛ばして正気に戻してやらないとな!

 

 

 萃香の拳を跳ね除けて距離を取る。

 

 

 「おい天子、私達でパルスィの尻拭いすっぞ!勿論ついてこれるよな?」

 

 「ああ、萃香のためにもこれ以上被害は出せないからよろしく頼む」

 

 「へへ、いいぜ。天人と鬼との共同作業……腕がなるね!」

 

 

 勇儀は拳をポキポキと鳴らす。

 

 

 「萃香、目を覚まさせてやるよ!」

 

 

 天人と鬼が一人の鬼を退治する物語が始まった……

 

 

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 「うがぁあああ!」

 

 

 打ち出された拳は地面を叩き割り大地を削る。衝撃で周りの瓦礫が辺りに飛び散る。巨大な鬼が何度も何度も自分よりも小さい的に拳を当てようと振りかざすが、どれも的に命中することはなかった。

 

 

 「くらぁええええええええええ!!!」

 

 「がはっ!?」

 

 

 勇儀が壊れた建物の残骸を萃香目掛けて投げ飛ばした。残骸は萃香の後頭部に命中し頭が揺れた。だがそれも一瞬の出来事ですぐに萃香は拳を勇儀目掛けて振るう。だが、その拳も当たることはなかった。横から割り込んで来た要石が拳に当たり軌道を変えたことによって空を切ったのだ。

 

 

 「うぐぐぅうう!偽者めガァアアアア!!!」

 

 

 要石を放ったのは勿論天子であった。天子を睨むその顔は昔話で語られる鬼そのものだった。

 

 

 萃香やめて!睨まないで怖いから!まるで鬼の形相よ……あっ、萃香は鬼だったからまるでじゃなかったわ……って!こんなこと思っている場合じゃないわ!萃香がおかしくなっちゃったよ……さっきまで私にベッタリだったのに今や私を偽物って思っているみたいなの……そこまで私に嫉妬してくれているのは嬉しいんだけどこのままじゃ本当に萃香じゃなくなってしまうわよ。それは絶対にダメ、私はいつもの酒に酔いしれてちょっと乱暴なところがあるけど、小さくて子供姿なのに色気があり、かわいい萃香が見られなくなるのは絶対嫌なの。ん?ちょっと待てよ……逆に考えるんだ。ヤンデレの萃香も見られて最高だと思えば良くないかな?原作ではヤンデレる姿なんて見られないし、私に夢中になってくれるのが嬉しい……だけど、やっぱりダメだ。パルスィの影響で萃香の心は嫉妬心に支配されているし、周りの方に危害が及ぶのはダメなこと……監禁生活はマジで勘弁よ。

 

 

 それに萃香は私の親友(とも)だ。私の責任もあるからあなたの親友(とも)として覚悟を決めたの。私は萃香を止めて、いつもの日常に戻ろう!

 

 

 「萃香、痛いけど我慢してくれ」

 

 

 天子は駆けだす。巨大な拳が迫るがギリギリのところでグレイズして緋想の剣を振るう。振るえばそこから血が流れ肉体が傷ついた。

 

 

 「うがぁ!?こ、この偽者が!!偽者如きがワタシにキズをツケヤガッテ!!ワタシにキズツケテいいのは天子ダケだ!!!」

 

 

 ちょっとその言い方だと私に傷つけられるのが良いみたいじゃない……ドM発言になるから後で萃香に注意しておこう。

 それにしても萃香の攻撃が単調だ。確かに巨大化してパワーは数段上がっているけど、パワーでごり押ししているようね。萃香と初めて喧嘩した時なんか能力を使ったりしてフェイントとか仕掛けてきたけどそういうことは一切ない。嫉妬で正常な判断ができていないため攻撃を避けることは容易だ。これで無力化できるならそれでいいのだが、鬼はタフだ。命尽きるまで見境なく暴れるだろう……それまでに旧都……否、地底が残っているか心配だ。だから私は願う……パルスィ早く何とかしてください!

 

 

 「シね偽者メが!」

 

 「おらぁ!」

 

 「ぐぅっ!?」

 

 

 今度は萃香がよろめいた。足に激痛が走りぐらりと巨体がバランスを崩し膝をつく。勇儀の足を狙った一撃が効いたようだ。歯を食いしばって痛みを我慢してまで天子を握りつぶさんと掴もうと手を伸ばすが動きが遅く、当然ながら天子が避けてしまうので届かない。萃香の苛立ちは増していく。

 

 

 「くそがぁ!ワタシはマケナイ!天子のタメニマケルわけにはイカナイ!」

 

 

 再び立ち上がり天子と勇儀の前に立ちはだかる。決して負けられない負けたら大切な天子が離れてしまう、天子と一緒に居られなくなってしまう……天子に対する想いが萃香の原動力となっていた。まだ痛む足に無理やり力を入れて立ち上がる。痛みなど天子がいないことよりもマシだと思える程だ。

 

 

 「ゼッタイイヤダ!オマエラナンカに……オマエラナンカに……ダイスキナ天子をワタスモノカ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「がぁ!?」

 

 

 萃香はよろめいて膝をつく。戦いは長く続いており、萃香の体は傷ついていた。それでも何度も何度も食らいついていた。怒りと失いたくない気持ちが彼女に再び戦う力を与える。

 

 

 「マダ……マダダ……天子は……ワタサナイ……ダイスキナ天子ダケは……ワタサナイ……!」

 

 「萃香……」

 

 

 心が痛む……必死に食らいついてくる萃香の姿を見ると手が動かせなくなってきた。ここまで思ってくれているのに、私は萃香を傷つけた……止めるために仕方ないとはいえこの方法は良かったのだろうか……?

 

 

 萃香は私のことを()()だと言ってくれた。その()()は愛しているという恋と言う名の()()だった。出会ってそれほど経っていないし、喧嘩した仲でもあり一緒に酒も飲んだ。勿論私は萃香のことは好きだ。それは親友(とも)としての()()……萃香の()()ではない。デートではっきりと萃香の気持ちを聞いたし感じた。私のことをこんなに思ってくれているのに私は止めるなんて言って刃を向けた。そして傷つけた……体だけじゃない、きっと心も傷ついただろう……本当にこの行動は正しいことだったのか?暴れまわって旧都を壊すことはダメなことだけど、私が必死に説得すればもしかしたら萃香は大人しくなってくれたのではないか?そんなことが頭によぎる。

 でも過ぎてしまったことだ。今の萃香はボロボロだ。勇儀と私の攻撃を何度も受けて膝をついても食らいついて負けを認めなかった。それほどまでの覚悟を私は見た……

 

 

 「天子、萃香の奴はボロボロだ。このまま行けばパルスィを待たずに萃香を無力化できるかもしれねぇぞ」

 

 

 勇儀は天子に対して言った。

 

 

 勇儀の言う通り、このまま行けば萃香を無力化できると思う。私達が優勢であり、萃香は嫉妬に飲まれて単調な攻撃しか繰り出してこない。このままでは私達の勝ちだ……

 

 

 天子はそう思っている。振り返ると衣玖達が小さい萃香達を倒している光景が映る。小さい萃香達も嫉妬に飲まれてしまい衣玖達でも対処できる程だ。本来ならばこんなことはあり得ないのだが、今の萃香達は自分を見失っていた。勝敗は決したも同然だった。

 

 

 そう……勝てるけど……私は萃香とまともに話合っていない。状況に流されるままだったけど、私は思った。このヤンデレた萃香も本来ある萃香の一面なのではないかと言うこと。嫉妬は誰にでもあり、パルスィによって嫉妬心が膨れ上がって自分を抑えることができなくなってしまって今回の騒動は起きた。考えて見れば今の萃香はいつもの萃香とは確かに違う……違うけどこれも萃香の一面なんだと私はそう思ったの。これも萃香が私に対する気持ちの一部でもあり、私をここまで思ってくれているからこそ諦めずに向かってくる……私を偽者だと思う程に萃香の理想が高い理由もあるけどね。萃香の目には私はどれほど綺麗な天子に見えているのだろうか……私内心ではビビりまくったりしているのに……?

 まぁ、簡単に言えばこれ以上難しいことを考えても意味がないってこと。最終的には自分の意思が答えになるものだから……だから私は決めた。私は比那名居天子、天界の総領息子であり、天人くずれだ。そんな私が出した答えは……

 

 

 「萃香……」

 

 「なっ!?おい天子近づいたらあぶねぇぞ!?」

 

 

 勇儀の声も無視して萃香に近づく。歩きながら手に持っている緋想の剣をしまい、要石も天子の周りから消えた。そして、萃香に無防備な状態で近づいた。

 

 

 「天子どうしたんや!?」

 

 「お兄さんやられちゃうよー!?」

 

 

 遠くの方でヤマメとこいしが天子に問うがそれでも天子は萃香だけを見つけていた。

 

 

 「天子様!?いけません!」

 

 「天子さん危ないです!」

 

 「天子殿!!」

 

 

 衣玖達もヤマメとこいしの声で気づいて声をかけても天子はお構いなしだ。天子は萃香の前で立ち止まった。

 

 

 「うぐぅぐ!偽者メ、自分から近づいてクルとはナ……天子の姿をシタ罪はオモイゾ!」

 

 

 緑色の光を放つ鋭い瞳が天子を睨む。目の前の存在が許せないように憎しみのこもった瞳が天子を射殺そうとする。

 

 

 「萃香、私は本物だ。萃香が偽者だと勘違いしているだけなんだ」

 

 「ウソだ!だって天子がワタシを傷つけるわけがナイ!天子とワタシは恋人同士ナンダからナ!」

 

 「そう言われても本物なんだ。確かに私は萃香を傷つけた……体だけじゃなく心も……だから謝りに来た」

 

 

 私は謝りたかった。止めるためとは言え萃香を傷つけたことを……でもそれだけが私の答えじゃない。

 

 

 「偽者が……本物だとイウ証拠はドコにアルンダ!」

 

 「証拠はないが、萃香ならわかってくれると信じている。一緒に宴会で酒を飲み交わし、異変を解決し、デートもした……萃香と一緒にいるととても楽しかった。その思い出は消えない……萃香も憶えていないか?共に過ごしたことを……」

 

 「思い出……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『「絶対だぞ!ぜっっっっっっっっったいに次の宴会の時には顔出すんだぞ!」』

 

 『「大丈夫だ萃香。鬼との約束をやぶるマネなんてしない。萃香と飲める日を楽しみにしているよ」』

 

 『「ああ!私も楽しみで仕方ないよ!」』

 

 

 喧嘩して親友(とも)となって約束したあの時の言葉……

 

 

 『「へ、へん!天子に誘われたんじゃ仕方ない、いいぞ。天界の酒とやらを飲んでやるぞ」

 

 『「そうこなくてはな。酌してあげるよ」』

 

 『「私もするぞ。天子ばかり良いところ見せられないからな!」』

 

 

 天子のために用意していた酒が割れて飲めなくなった時に共に天界の酒を楽しんだ宴会……

 

 

 『「いや~!中々興奮したよ。私に火傷を負わせるなんてびっくりした。でも安心しろ天子、傷はすぐに元通りになるから……この火傷は天子と戦った時のように思い出の証なんだよ。布都の奴、最初は退屈だったけど最後のは私の心まで燃えてしまうんじゃないかってくらいに熱くなる戦いだったよ!」』

 

 

 異変を共に解決し、戦いの傷を誇っていたあの時を……

 

 

 『「私も萃香のことは好きだ。だが、それは親友(とも)としてだな。私にはまだ恋愛は早すぎるし、萃香もまだ私に出会ったばかりだろう?お互いのこともまだ知り得ていないし、感情が先走っている気がする。気持ちはとても嬉しいし、そう思ってくれていると知れて良かったと思っている。だから、まだ今は萃香の想いを受け取ることはできないさ」』

 

 

 デートした時の天子の言葉……正直に気持ちを伝えた時の記憶……

 

 

 それらが萃香の中で思い起こされる。笑顔で笑ってくれている天子の姿、戦っているカッコイイ天子の姿、温かい優しさを感じさせてくれた天子……目の前の天子はそんな天子と全く同じだった。思い出の天子と同じ温かい感じが伝わってくる。萃香は本能的に理解した……この天子は偽者なんかじゃない……本物の天子であると!

 

 

 「……天子……本物……なの……?」

 

 「ああ、本物だよ。すまない、傷つけてしまって……今の萃香は嫉妬心に支配されていると思っていた。だから止めるためと言って力に頼った……けど、今の萃香も本来の一面なんだと私は思っているよ。嫉妬は誰にでもあるものだからね。だから私は萃香を受け入れる」

 

 

 だから私はヤンデレも受け入れてやるわ!監禁生活が何よ!萃香にここまで思われて私は怖いとか思っていたのがバカみたいじゃない!……いや、確かにヤンデレは怖いし、監禁生活は正直止めてほしい……でもね、こんなにボロボロの萃香を見ても心動かされない冷たい天人じゃないの。それに私は萃香の気持ちを蔑ろにはできない……それに私は心を動かされた。私はヤンデレも受け入れるわ。もしかしたら、その内本当に萃香に惚れてしまうかもしれないね。

 

 

 「萃香、私を好きになってくれてありがとう。萃香に好きだと思われている私は幸せ者だ」

 

 「……天子……」

 

 

 鬼の瞳から緑色に輝く光が失われていった……

 

 

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 「……えっ!?嫉妬心が消えていく……これは……」

 

 

 遠くの方でヤマメとこいしに守られていたパルスィが驚いていた。パルスィでも制御できない程に膨れ上がった嫉妬心は戦っている間も膨れていたが、次第に萃香の瞳から緑色の光が消えていき、巨大な体がいつの間にか縮んでいつもの幼い姿に戻っていた。萃香からいつの間にか嫉妬が消えていたのだ。それも天子の言葉を聞いた瞬間から……嫉妬心が消えて我に返った萃香は今、呆然としているしかなかった。

 

 

 天子……私は……自分勝手に天子の気持ちも無視して独り占めにしようとした。今までのこと何もかも憶えている……天子にしてしまったことも旧都で暴れたことも……て、てんしと一緒にお、おふろに入ったり、布団を一緒にして寝たりしたことも全部……でもそれは監禁という名の拷問に近い行為だった。勝手に恋人同士とか言って迷惑かけただけじゃなく他の者達を傷つけた。天子に嫌われて当然の行いをした。しまいには偽者と決めつけて天子を殺そうとした……最悪なことをしたと思っている。胸の奥から湧き上がってきたモヤモヤのせいだなんて私は思わない。私の心が弱かったから抗えなかった……鬼の四天王とか呼ばれていたわりに情けない……私は自分の嫉妬なんかに負けて周りを傷つけたんだ。自分を抑えきれないときに天子を恋人と決めつけて散々振り回した。好き勝手にしてきた鬼の私でもこれはひどいと思う……

 

 

 だが天子は何て言った?『好きになってくれてありがとう』?私は散々天子の気持ちを考えずに監禁し、お前の仲間にも手を出した。嫉妬に支配された私も天子は受け入れると言った。恨まれごとの一つや二つ言われるのかと思ったけど感謝されるなんてな……私に同情しているんじゃないか?天子は優しい奴だから私を止めるために嘘を言っているのではないか……そう一瞬だけ思ってしまった。

 でも鬼の私にはわかる。天子は嘘をついていなかった……真っすぐに曇り一つもない瞳が私を見つめていた。

 

 

 やっぱりお前は優しすぎる……私の想いに応えようとしてくれていた……私が我が儘を言ったばかりに、天子が欲しくて独り占めにしたくて暴れまわった。そんな私を受け入れてくれる……お前はどうしようもない卑怯者だよ……

 

 

 「私はお前が欲しいために他のみんなに迷惑かけたぞ?天子は嫌じゃないのか?こんな私と親友(とも)であることが……?」

 

 

 萃香は天子の顔をまともに見れなくなっていた。天子は他人を重んじるタイプだ。萃香は今回の騒動で多くの妖怪達に迷惑をかけ、天子を束縛し、旧都は荒れ放題だ。こんなことを仕出かした自分と親友(とも)だと知れば天子にも更に迷惑をかけてしまう……それが嫌だから……だから顔を見れなかった。この場で嫌だと言われたら自分はこの先一人だけで生きていく覚悟をしているつもりだった。

 

 

 「嫌だって?確かに他人に迷惑かけることはダメなことだが、そういうことを仕出かすのが鬼と言う種族じゃないか?それに今更だと思うぞ?萃香はやんちゃな小鬼さんだ。私と喧嘩して、一緒に酒を飲み交わし、共に異変を解決した暴れん坊さんだったじゃないか。だが、そんな萃香でも可愛げがあっていい。私は萃香と親友(とも)であることが嫌だなんて思わない。萃香の親友(とも)で良かったし、これからもそうだ。萃香に好きになってもらえるなんて知った時は感激したぞ」

 

 「て、てんし……お前は……!?」

 

 

 卑怯だぞ……そんなこと言ったら私……悪い事をしたのに、天子の優しさにまた甘えちゃうじゃないか……!

 

 

 「私……またお前に迷惑かけて苦労させるかもしれないんだぞ?それでも……まだ親友(とも)でいてくれるのか……?」

 

 

 不安を孕んだ言葉が萃香の口から天子に伝わる。

 

 

 「勿論だ。言ったろ?萃香の親友(とも)で良かったって」

 

 

 いつもの笑顔を萃香に見せる。今の萃香にとっては太陽よりも輝いて見えた。

 

 

 ……そうかよ……もう何も言わないよ。お前はどうしようもない程自分勝手な奴なんだな。鬼である私よりも自分勝手だよ。天子よ、私の我が儘に付き合ってくれるのか……優しすぎる……本当にお前は優しすぎるよ。こっちの気持ちも知らないで……だからそこがいいんだけどよ。だったら私は遠慮なんかしないし周りがどう思うなんて気にも留めない。一度フラれたなんて知らないさ。

 私は我が儘な鬼だ。鬼の中でも変わり者だ。天子のことが大好きな飲んだくれだ。乱暴者で甘えたがりな鬼なんだ。だから私はもう遠慮なんかせずに欲望のまま動くぞ。お前が悪いんだ……天子、お前という存在が私を変えちまったんだ。天子無しには生きられなくなった私は決して諦めないぞ……

 

 

 萃香はボロボロの姿で立ち上がり天子の胸に抱き着いた。

 

 

 天子よ……何度でもお前を手に入れてみせる……いつか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お前と本当の恋人同士になってやるからな! 

 

 

 小鬼は天人に抱きしめられた温かさを決して忘れることはないだろう……周りもその光景を眺めているのであった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ふ~ん……っで?なにこれで終わらろうとしているわけ?」

 

 

 その声に誰もが驚く。先ほどまではこの場にいなかった人物がそこに居たのだから。

 

 

 「れ、れ……霊夢!?」

 

 

 お祓い棒を手にした博麗の巫女がそこにいた。そして他にも……

 

 

 「幽々子様!?」

 

 「青娥も!?何故ここに!?」

 

 

 幽々子と青娥、しかしそれだけではなかった。

 

 

 「無事だったみたいね。よかったわ」

 

 「お久しぶりですね天子様」

 

 「アリスと咲夜……それに……」

 

 

 天子は感じ取った。感じたことのある妖気であり、霊夢達をここに出現させることのできる能力を持っている妖怪を知っていた。

 

 

 「……紫さんか?」

 

 「ご名答よ。流石比那名居天子ね」

 

 

 スキマが現れて中から出てきたのは微笑を浮かべた八雲紫と遠慮しがちのお燐だった。何故彼女達がいるのか……それは天子には容易に想像できた。アリス達は自分を探しに来てくれたこと、お燐は地底の惨状を伝えに地上に行ったこと、そして霊夢は……博麗の巫女としての役目を果たしに来たのだということを。

 

 

 「お話があるのよ……ねぇ、萃香……それと人外3人共、地底がどうなろうと私には関係ないんだけれど、あんた達のせいでゆっくりお茶していたのを邪魔されてね……」

 

 「にゃははは……」

 

 

 お燐は笑って誤魔化すが霊夢に睨まれて黙ってしまう。今の霊夢は非常に不機嫌な様子だった。

 

 

 「霊夢に何かあったのか?」

 

 「あのお燐って子を案内した時に勢い余って魔理沙のやつが博麗神社に突っ込んで霊夢のお気に入りの湯呑茶碗(ゆのみちゃわん)が割れちゃって……せんべいも宙に舞ってなくなっちゃったのよ」

 

 「ああ……」

 

 

 アリスの説明に天子は納得した。こればかりはどうしようと無いなと思った。そして魔理沙はどうなったかと聞いたが帰って来た答えが想像していた通りのことだったのでご愁傷さまと思っておくのだった。

 

 

 「あんた達……覚悟はいいかしら……?」

 

 「れ、れいむさん!わ、わたしたちは天子様を救おうとしていただけです!」

 

 「そ、そうですよ!私達は天子さんのために……幽々子様からも何か言ってください!」

 

 

 幽々子に助けを求める妖夢だが、幽々子は何食わぬ顔のままだ。

 

 

 「じゃあ妖夢、ここを滅茶苦茶にしたのは誰?ここを滅茶苦茶にしておいて正当化されようとしていない?」

 

 「旧都をこんなのにしたのは萃香とその3人だぜ。特にそこの剣士の嬢ちゃんは建物をズッパリ斬っているのが目撃されているらしいぜ」

 

 「なっ!?」

 

 

 勇儀が真実を口にした。妖夢達は天子を救い出すことに夢中で周りのことなど眼中になかったことで旧都で暴れて被害は多大なものになった。その姿も多くの妖怪達に目撃されていた。言い逃れはできないだろう……そして霊夢の機嫌が良くない今、八つ当たりするには十分な理由であった。

 

 

 「青娥……霊夢殿に説得を……」

 

 「最近豊聡耳様は腑抜けているようですので一回根性を叩きなおされたら治ることを期待していますので、わたくしは静観を貫かせてもらいます」

 

 

 神子は青娥ならわかってくれると手を伸ばしたが空振ってしまった。笑顔また神子の心を突き放していた。

 

 

 「れ、れいむ!これには深いわけがあるんだ!」

 

 「へぇ~、どんなわけなの……」

 

 「え、えっと……あっ!そうだ!私を暴れさせる原因を作ったのはそこにいる嫉妬野郎なんだ!」

 

 「ちょ、ちょっと!?」

 

 

 萃香のまさかの暴露にパルスィは青ざめる。自分に矛先が向かってくるとは思っていなかったからだ。パルスィが天子と萃香の仲に嫉妬してしまったせいでこうなったのは事実なのではあるが……

 

 

 「ふ~ん……それで?」

 

 「私は嫉妬で狂っていただけだから……許してくれないかなぁ~なんて……」

 

 「うふふふふ♪」

 

 「あはははは……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「今、私は虫の居所が悪いのよ!5人まとめて退治してあげるから覚悟なさい!!!」

 

 「「「「そ、そんなぁああああああ!!?」」」」

 

 「なんで私もなのよぉおおおおおお!!?」

 

 

 博麗の巫女に退治された5人の亡骸が旧都の荒れ地に転がっていたそうだ……

 

 

 

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