本編どうぞ!
天子達が振り返った先に居たのは日傘をさしてニッコリと笑う一人の女の姿があった。
「現れやがったな!」
妹紅はすぐに臨戦態勢へと移る。出会い頭に睨みつける妹紅の行動は失礼に値するがそんなことはお構いなしだ。しかし睨みつけられている当の本人はそんな態度を取られてもニッコリと笑顔を崩さない……崩さないのではなく、崩す必要もないということなのだろうか?まるで妹紅のことなど眼中にないように天子に語り掛けた。
「どうかしら変わり者の天人さん?私が育てた花達のこと、気に入ってくれたかしら?」
「てめぇ!私のことは無視か!」
妹紅が更に睨みを利かせるがそれでも眉一つ動かすことのない。笑顔が顔に張り付いたような表情のまま天子の回答を待っている。
「妹紅、落ち着くんだ」
「チッ!」
苛立って舌打ちをする。一切の警戒は緩めずに日傘を差して笑みを浮かべている女を睨み続けている。
「変わった犬を飼っているのね?」
その言葉に妹紅の顔に青筋が立つ。
「犬じゃない、私の友人である妹紅だ」
「ふ~ん……まぁそれは置いておいていいわ。私は天人さんに聞いているの……この花達はどうかしら?」
またもや妹紅の顔に青筋が立つ……徹底的に無視を続ける女に今にも飛び掛かりそうだ。心配になった天子が妹紅の前に出て遮ることで無駄な争いを避ける。
「とても美しい光景だ。辺り一面花達が咲き誇り風に吹かれて幸せそうだ。一本一本丁寧に育てられて愛情を注がれていることが見て取れるし、花達もわかっているのかあなたが現れてから花達も嬉しそうに揺ら揺らと揺れているぞ」
「へぇ……なるほどね。天人には美的センスの欠片もないかと思っていたけどね」
「あの……どういうことですか?」
恐る恐る天子の後ろに隠れている早苗が聞いた。ちなみに早苗は先ほどまで戦う気満々だったが、いくら早苗でも目の前の妖怪には逆らったら不味いと思い身を縮こませている。初めの勢いはどこへ行ったのやら……
「天人という種族はみんな刺激の無い生活をしていると聞くわ。何も変わらない毎日を過ごし平凡に一日が過ぎていく。当の本人たちはそれで満足している……けれど私達から見たらそれはつまらない、本当につまらないことなのに天人は誰もそのことに気がつかない。あなたを除いてね」
女妖怪の綺麗な指先が真っすぐに天子だけを指さしている。
「新聞を読んだわよ。天人さん、あなた近頃よく新聞に引っ張りだこじゃないかしら」
「新聞を出している文とはたてとは仲がいいからな」
「仲良しなのね。ふふ、不老不死の蓬莱人に現神人を引き連れているから人脈は広いみたいね。地底にも行ったそうじゃない?なんでも色恋に溺れた哀れな鬼に無理やり付き合わされたとか。ひどいものね、鬼は身勝手な奴ばかりだけど、ここまで来ると呆れちゃうわね……お馬鹿な鬼さんよね。天人さんもそう思うでしょ?」
「萃香のことを馬鹿にしてほしくないな。私のことを想ってやってしまったことだ。私は嬉しかった……地底を滅茶苦茶にしてしまったがな。だから私は萃香のことをお馬鹿なんて思わないさ」
女妖怪の言葉は所々に棘があり、相手の神経を逆なでするような言い方だった。いや、寧ろそうなるように仕向けているようにも思えた。女妖怪はつまらなさそうに言葉を吐いた。
「そう、まぁどうでもいいわ。私には関係ないことだし……ところで天人さん、今暇よね?」
「私とお茶……しましょ?」
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「どう?いい味出ていると思うけど?」
「ああ、これはとてもいい味だ。今までこのようなおいしいお茶滅多に飲んだことはないな」
「お世辞ありがとう。まだあるからお代わり自由よ」
私達はある方の自宅に招待された。木造の建築ハウスでいたってシンプルな造りの家だった。中を開けて見ると外見とは違って花が飾られていたり、花が至る所に植木鉢に植えられていた。花達が主役のような印象を受ける家で印象に残る光景だった。招かれた私達はテーブルに座り、入れられたお茶を楽しんでいた……妹紅は警戒を解かずに睨みを利かせていたけど、早苗は珍しく静かにお茶を飲んでいた……まぁ無理もないわね。相手はあの方だもの……
「流石だな。幽香さんなら何でもできてしまうのではないか?」
「ふふ、それは褒め過ぎよ。私だってできないことぐらい山ほどあるわよ」
【風見幽香】
癖のある緑の髪に真紅の瞳。白のカッターシャツとチェックが入った赤のロングスカートを着用し、その上から同じくチェック柄のベストを羽織っている。首には黄色のリボンを巻いている。
『花を操る程度の能力』を持っており、花を咲かせたり、向日葵の向きを変えたり、枯れた花を元通り咲かせたりすることができる。だが他の強力な妖怪に比べればこれはおまけのような物である。幽香の真価はその純粋な妖力・身体能力の高さにあり、高い基本能力を誇る妖怪らしい妖怪である。
幽香さんから入れられたお茶はとても甘くて濃厚な味わいだ。とてもおいしい♪話をしているとただの優しいお姉さんに見える……だが、私にはわかる。幽香さんは妖気を隠しているつもりでも、目を見れば闘争本能を押し殺しているのが伝わってくる。つまり戦いたくて仕方がないという意思を感じ取った……ここの幽香さんは戦闘狂でしたか……人里で噂になっていることも嘘ではない気がしてきたが、今は置いておこう。
なんでも私のことは新聞で知って初めから興味を持ってくれていたようだった。初めと言えば萃香と喧嘩した時の新聞だったわね。私はそれで戦闘狂の幽香さんに目をつけられてしまっていたようだ。それから新聞で私が異変を解決したりして益々私と会いたくなったとか……だいたいわかりました。きっと私と戦いたいから寺子屋に花を置いてここへ来るように仕向けたわけだ。何となく既に展開がわかっていたけれどね……
「あなたと話をしていると楽しいものだわ。そうよね天人さん?」
「そうだな、中々ためになる話ばかりで私も楽しいぞ。それとなんだが、天子と名前で呼んでほしいのだがな?」
「ふふ♪それは駄目、私に名前で呼んでもらいたければそれ相応の存在になることね」
幽香さんにとっては私はまだ取るに足らない存在だと言うことね。幽香さんの評価中々厳しいようだわ……でもこうしてお茶に誘ってもらっているだけでも幽香さんから目を付けられているって証よね?ううむ……良いのか悪いのか……本物の幽香さんに出会えて嬉しい反面もの凄く怖い……笑顔が作り物の仮面を被っているみたいでゾワゾワってする。流石幽香さん……幻想郷のパワーバランスを担うだけはある。でも、できれば私は幽香さんと対等の立場で一緒にお話したいなぁ……ユウカマイフレンドみたいに。
「ふふ、さてと……ねぇ、そろそろ私から質問していいかしら?」
「……なんでしょうか幽香さん……?」
私のセンサーが反応した。これはおそらく……
「天人さんは……強いのよね?」
「まぁ、弱くわないと思っているな」
「へぇ……そうなの……」
会話が止まる。私達が止まれば周りの花達も時間が止まったように気配を殺し、早苗も縮こまり、妹紅はいつでも仕掛けられるように準備していた。
私のセンサーがビンビンに反応している。私は一つの結果を今、思い描いている。
「天人さん、一杯ご馳走してあげたのだから……私のお願い聞いてくれるかしら?」
やっぱりそろそろ来る頃間と思ってました。もう私は逃げられない……次に幽香さんは「私と戦ってくれない?」と言う。
「私と戦ってくれない?」
ほらね。そのために呼んだんでしょうが……まぁ私も少し期待していた。元天子ちゃんの影響力で戦いに興味を持つようになり戦闘狂要素が今の私にはあるんだ。そのおかげで今、ほんのちょっぴり楽しさを感じている……幽香さんも同じだろうか?戦いになればこの楽しさをもっと感じることになるだろう。
幽香さんの瞳の中に燃え上がる炎が見える。戦う相手がいなくて飢えている肉食獣のような瞳だ。弾幕ごっこでは欲求を解消できなかったようだわね。幽香さんは私のことしか見ていない、妹紅も早苗も眼中にないようでおまけ程度でしか思っていないだろうね。
「やっぱりてめぇはそのつもりだったんだな!天子と戦うために寺子屋に勝手に花なんか置いていきやがって!」
言葉を聞いて妹紅は勢いよく立ち上がり、椅子が倒れるのなどお構いなく突っかかる。それでも幽香は顔色一つ変えることはなく冷静であった。
「そうよ。でも、それの何が悪いのかしら?花を置くことが罪にはならないでしょ?そんなこともわからない残念な脳みそなのかしら?何度も死を経験して脳みそが無くなっちゃのね。かわいそうに……」
「てめぇ!焼き殺してやる!!」
「も、もこうさんステイ!ステイ!です!」
挑発めいた言葉に今にも襲い掛かろうとする妹紅を早苗が止める。
「離せ!それにその言い方だと私が犬みたいじゃないか!」
「うるさいわよ、ワンワンと吠えないでくれるかしら?私は天人さんに言っているの。あなたじゃないわ犬」
「こ、この野郎!!!」
「――邪魔者は……消えなさい!」
今にも幽香に殴りかからんとする妹紅に傘が向く。妹紅を抑えている早苗にも向けられてしまっているので「ひっ!」と短い悲鳴をあげる。流石の早苗でも幽香相手は怖いようだ。彼女の瞳から殺気が感じ取れていた。
これはまずい!幽香さんを止めないと二人が『こんがり上手に焼けました~!』ってなってしまう!?早苗に何かあったら神奈子さんと諏訪子さんになんて言ったらいいか……妹紅は不老不死だけれど痛みはあるし、何よりも女性だ。女性を守るために男の体はあるようなものよ!今こそ動け私!妹紅と早苗を守るのよ!!
「幽香さんやめてくれ、二人を脅すのは。あなたの目的は私だろ?」
天子は妹紅と早苗を守るように二人の前に躍り出た。その様子に幽香は面白そうだった。
「ふふ、そうよ。あなた以外どうでもいいわ……それで答えは……どう?」
答えなんて……これはもう強制イベントでしょ?負け確定イベントなだけじゃないからまだいいけどね。これは受けるしかなさそうだよね……
「わかった。幽香さんの誘いに乗ろうじゃないか」
「天子お前本気かよ!?こんな奴の言うことに従う必要なんてねぇ!!」
「あら、天人さんは私の誘いを
超が付くほどの眩しい笑顔の裏には肯定しないと殺すわよ♪なんて思っているんでしょう……幽香さん怖い……けど戦いたいって気持ちが湧いてくる。私ってどうしようもないわね。
天子は妹紅を落ち着かせて説得した。幽香は天子との決闘を望んでいるが妹紅は幽香のことは気に入っていないし、馬鹿にされて腹が立っている。落ち着きは取り戻したが忌々しい姿を視界に入れるだけでまるで永遠亭にいる
妹紅にはここに来る前からわかっていた。視界に映る幽香は戦闘狂で有名な妖怪だ。弾幕勝負もあまり乗る気ではないし、本気など出すことはないだろう。しかし、天子は新聞に大々的に活躍が乗っている。山の四天王でもある萃香と戦ったこと、神子が起こした異変の解決、紅魔館での出来事などのことが新聞を通して伝わっている。知ってしまったのだ……天子が並みの妖怪よりも強いと言うことが……ならば戦闘狂の幽香が天子を呼び出すなんて一つしかない……戦うためだ、争うためだ、血を流し合うスペルカードルールに縛られない
その風見幽香は立ち上がると天子達をある場所へと連れて行った。
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太陽の畑から離れた場所に位置する人気もない広々とした場所に天子達は居た。この場所は今から決闘の地へと変わるのだ。
私はあの妖怪、風見幽香は気に入らない。人を見下す態度が気に入らない。あの笑顔が張り付いたような顔をぶちのめしたくなってくる。今もそうだ……あいつは妖怪のくせに化けるどころか堂々と人里に入ってきやがる。そのおかげでみんな怯えてしまう……それはあいつが只の妖怪ではないのを知っているからだ。あいつは他者をいたぶるのが好きな野郎だ。慧音だってあの野郎に苦手意識を持っている。あいつを好く奴などどこにもいないはずだ。天子を誘い出してあろうことか己の欲棒のために決闘することを無理強いさせてくる。天子も断らずに決闘が執り行われることになってしまった。
私は心配している。何をだって?それは天子のことだ。天子は誰でも優しく手を差し伸べる甘ちゃんな奴だ。私も最近よく地上に来た時に会って世間話に花を咲かせて楽しんだり食事を奢ってもらったこともあった。だが、そんな時に私が不老不死だとついうっかり話してしまった時だった……
正直私は慧音以外の人物から良く思われていないんじゃないか……そう心の隅で感じていたのかもしれなかった。だからつい口を滑らせて話してしまった時は体が震えた。天子とは地上で間欠泉が噴出す異変の時に知り合ってから交流が続いていた。時々人里に下りては寺子屋を訪ねて子供と遊ぶ姿を見たこともあった。天子が天界に住む天人であることは里の者は誰もが知っている。正確には人間ではない天子を受け入れている人里は私にとっても魅力的だ。私のことを不老不死であることを知っている里の連中とは初めは色々と揉めた。今思えば懐かしい記憶だ。今では私を受け入れてくれているこの人里に感謝している。だが、その一方でごく一部からは私のことを良く思っていない連中もいる。それに正直言うと怖い……真実を語り、拒絶されることが今でも怖いんだ……
慧音はそんな私を初めから受け入れてくれた友人だ。だから今でもよく慧音の元へと通っている。
そして不老不死であることを隠してきた私が、酒の力にうっかりと天子に語ってしまったのだ。私が不老不死であることを知れば初めは誰もが見る目を変える……良くも悪くもな。話終わった私は自分で語ってしまったことに血の気が引いた。酔いなど一瞬で吹き飛んでしまった……拒絶されると思った。慧音のように受け入れてくれることなんてないだろうと……「どうなったら不老不死になれる?」「不老不死なる秘密を教えろ!」「このバケモノめ!」「近づくな!」様々な反応だった。今まで私を初めから受け入れようとしたのは慧音が初めてだった。私の正体を知ったかつての友人も離れて行った……今度もそうなるかもな……そう思っていた。
……しかしそうはならなかった。
天子は「それも妹紅の素敵な魅力な一つだ」そう言ってくれた。今まで生きてきた中で私の不老不死を魅力だと言うやつは一人もいなかった。慧音ですら初めは戸惑っていたと言うのにこいつは一体何を言っているんだ?まだ微かに酒の酔いがあってそう都合よく聞こえただけではないか?そんなことを考えていたと思う。驚きもしないで平然としている姿はまるで初めから私が不老不死であることを知っているようだった。あいつは私がキョトンとしていると頭を撫でてこう言った。
「不老不死だろうと妹紅は妹紅だ。妹紅が自分自身をどう思っているかは知らないけど、私は妹紅のことを友人だと思っている。それに妹紅の長く綺麗な髪に、勇敢な性格、慧音を思う優しい心を持っているじゃないか。不老不死がなんだと言うのだ?妹紅は魅力あふれる女性だ。自分自身を誇るがいいさ」ってな。
私は不甲斐なく体が熱くなってしまった。天子の顔をまともに見れなくなっていた……全くあいつはそんなんだから監禁なんかされちまうんだ。私も……ほんの少しだけ……ドキッとしてしまったじゃないか……
ま、まぁ!そんなわけで……天子が心配なんだ。あの野郎……風見幽香の奴にいいように扱われないか心配でな。あの野郎なら天子を使うだけ使って平然と捨てることなんてやってのけるだろう……そうはさせないさ。天子は私を友人と思ってくれていた。私は心の奥底で友人の
だが、その前に決闘だ。天子と幽香の野郎が決闘する。スペルカードルールではない本気の決闘だ。私の本音は天子に勝ってもらいたい。あの野郎の顔に天子の拳が入ったらどれほど気分がいいか!……しかし、それは難しいだろう。あの野郎はただの花が好きな妖怪じゃない……暴力的で残忍でただ……強いのだ。幻想郷でもトップクラスの実力者だ。それは認めてやるさ、だからこそ天子が負けてしまわないか心配だ。負けてしまえばきっと幽香の野郎に好き放題使われてしまうんだから……
「天子……そんな野郎に負けるなよ」
「ああ、難しそうだが勝ってみせるさ」
笑っていやがる……どんな痛い目を見るかわからないのにいい笑顔を作りやがって……
「みせるじゃなくて勝て!負けたらあの野郎の言いなりにされちまうぞ?」
「それは困るな、絶対に勝たないといけないな」
天子の笑みから伝わって来たのは戦うことの喜びだった。
「喜んでいるように見えるぞ?」
「……正直に言うと少し戦えることにワクワクしている私がいる」
「おお!オラ、ワクワクしてきたぞ!ですね天子さん!天子さんはスーパーサ〇ヤ人だったんですね!」
早苗が訳の分からないことを言っていると痺れをきらしたのか幽香がこちらに問いかけてきた。
「女を待たせるなんていけない天人さんね、それとも怖くなったかしら?」
「いや、そんなことはないさ。妹紅、早苗は見守っていてくれ」
天子は幽香と距離をおいて向かい合う……始まるのだ。今から
天子……そんな野郎に負けるな……絶対に勝てよ!!!