比那名居天子(♂)の幻想郷生活   作:てへぺろん

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幽香戦!どういった展開が起こるのか……!?


本編どうぞ!




42話 二つの闘争心

 「幽香さん、思う存分戦おうか」

 

 「ふふ♪やる気十分ね、でも私から誘っておいて本当に良かったのかしら?嫌ならやめてもいいのよ?」

 

 「折角のお誘いを断るわけにはいかないでしょう。成り行きでこうなってしまったが、実は私の闘争心が吠えているんだ。あなたと戦いたいとね」

 

 「まぁ嬉しいわね、最高の誉め言葉よ。でも私を満足させられるかしらね?」

 

 

 天子の答えに満足な笑みを浮かべてお互いの真紅の瞳が交差する。熱く引き寄せられるように逸らすことのできない闘争心が二人を包み込む。逃さないように二人の周りの空気が重く二人にのしかかるが全く気にも留めることなど感じない。この場には天子と幽香の二人しかいないような錯覚を生み出していた。

 二人を阻む障害物は存在しない。天子は思い返していた、萃香と戦ったあの日、あの場所で親友(とも)となったあの時を……

 

 

 「(萃香の時みたいに幽香さんと親友(とも)になれたらなぁ……)」

 

 

 天子はふっと思ったが、すぐに頭から離した。幽香は天子のことをまだ対等の相手として見てはいない。これには天子も苦笑する。それと同時に納得している部分があった。幻想郷でも風見幽香という人物は我が道を行くタイプの孤高の妖怪である。萃香や勇儀、レミリアに八雲紫などの幻想郷のパワーバランスを担う者達と肩を並べられる人物……その幽香に興味を持ってもらえるだけ凄いものだと言うものだ。幽香に興味を持ってもらうだけでは親友(とも)など持っての他だろう。だから今は余計な考えなど捨てて前を見るべきだと心が言っている。

 それに並みの妖怪ならば興味を持たれないのは勿論のこと、存在すら認識されないのがオチだ。だが、天子は並みではないと判断されて挑戦状を叩きつけられた。幽香の誘いに乗ってしまった以上天子に逃げ場はないし、今の天子は逃げることはしない。闘争心が今か今かと熱を上げて体に訴えかけている。「戦え」と……

 

 

 「さて、幽香さん……準備はいいか?」

 

 「ええ、私はいつでもOKよ」

 

 

 二人が構える。一人は日傘の先を地につけてニッコリとした笑顔で佇んでいる。もう一人は緋想の剣を取り出して堂々と相対する。お互いに遊びなど感じられない雰囲気が見ている者に不安を覚えさせる。

 そんな二人の様子を見て、恐る恐る早苗は手を上げて決闘の開催を宣言する。

 

 

 「そ、それでは、比那名居天子さんと風見幽香さんの決闘を始めます!」

 

 

 手が振り下ろされた。どちらかが先に仕掛ける、または両方共仕掛けに出るとふんでいた妹紅の予想は完全に外れていた。

 開催の宣言をしたが、どちらも動かない……構えを取ったまま微動だにしていない。呼吸音も聞こえず二人の時が止まったように感じた。一言もしゃべらず撃ち合いもしない……ただ二人は佇んでいるだけ。

 だが違う……動かないのではなく動けないのだ。天子にも幽香にも隙が無く、お互いに攻めるチャンスを探っているのだ。

 

 

 「(隙が無い……迂闊に飛び込めないな)」

 

 

 決闘開始の合図と共に挨拶代わりの拳を決めようかとしていたが同じくして幽香の気配に変化があった。表情も表面的には開始前と何も変わらないのだが、内から溢れ出る微かな妖気が異常に膨れ上がった。天子にはハッキリと感じ取れ身の危険を感じた。開幕ダッシュ攻撃を仕掛けようとしていたが本能が止めさせた。汗が流れる……萃香の時は萃香自身が天子を甘く見ていたこともあり、隙があったから攻撃を入れることができたのだ。幽香は天子のこれまでの活躍を知っている。そのため決して天子を初めから甘く見るつもりはないらしい……そのことがわかり天子は内心少し嬉しくなった。

 

 

 「(その程度には見てくれているわけか……だが私はその程度ではないわよ。幽香さんの期待以上に応えてみせるさ!)」

 

 

 いつの間にか頬が釣り上がっていた。

 

 

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 うふふ♪米粒程度しか期待していなかったけれどやるわね……面白くなりそうね♪

 

 

 決闘開始の合図と共に妖気を密かに高めた。すると天子の表情を一瞬変わり警戒を強めた。

 「面白い」幽香はそう思った。妖気を密かに高めたことを見抜いた天子に楽しみを感じ、危機を上手い具合に回避したことを褒めた。妖気を高めたことを知らずにそのまま突っ込んでくるようであれば顔と胴体とをおさらばさせてあげようかと思っていた。死ぬならばその程度の男だった、自分は見る目がなかったと嘆いていただろうがそんなことにはならなかった。逆に今度は幽香の方から攻めずらくなってしまった……

 天子には隙がなく、幽香でも攻め入ろうとはせずに新たに生まれる隙を探っている。

 

 

 この私が攻め入れないなんて……くふっ♪笑っちゃうわね♪

 

 

 嬉しさが込み上げる。幽香は自分の状況を嬉しく思う。

 いつもなら相手が例え手練れた者であっても力ずくで捻りつぶしていた。ただ単に力ずくで潰して終わり……それが彼女にとっての悩みだった。簡単に終わってしまう、張り合いがない、つまらない……心の底でいつも思っていたことだ。

 スペルカードルールによって昔のように殺伐とした空気は影に追いやられ今では『お遊び』の領域の戦いだ。幽香にとってはそれは『お遊び』ではなかったのだ。ただの『作業』と化していた。弾幕勝負に誘われて戦って負けたり勝ったりする……それの繰り返しだった。花達と会話している時は楽しめるが、心のどこかで風が吹いているような感じがあった。

 

 

 そんなある日のこと、優雅にお茶を楽しんでいる時に捏造記事を出すことでも有名な烏天狗の【文々。新聞】を何かに導かれるように手に取ったのが始まりだ。そこには天人と鬼との喧嘩の記事が載っていた。目が離せずに記事の内容をいつの間にか読み進めていた。新聞などいつもは内容も確認しないで捨ててしまうと言うのにその時だけ目が自然と内容を読んでいたのだ。

 その時から少し変わり者の彼に興味を示した。次もその次の新聞に彼のことが載っていた。その内容は幽香を飽きさせないものでクスリと笑みがこぼれたこともあった。載っている写真を見るとこれもまた美男子だ。更に幽香の楽しみを増やすことになっていた。

 ほんの少しの興味が彼と言う存在を彼女に認識させた。久しぶりに他人に興味を示した彼女は人里へと植木鉢に植えられた向日葵と共に向かった……

 

 

 そして今日運命の時が来た。

 

 

 「――!?」

 

 

 このまま睨み合いが続くかと思われた均衡を破ったのは天子の方だった。

 地を蹴り、走り出す。幽香との距離を一気に駆け寄った。

 

 

 結局天人さんから近づいてきてくれるのね。嬉しいわ……でも!!

 

 

 予想以上の動きの速さに驚きながら表情は笑顔を崩さない。自分が予想していたよりも速いだけだ、心なんて乱れることはないし、乱すこともない。なんてことはないものだ……僅かな合間で冷静に天子の動きを分析する。

 

 

 ――右ね。

 

 

 天子から繰り出される緋想の剣による一撃を幽香は傘で受け止める。何の変哲もないただの日傘がいとも簡単に緋想の剣を受け止めたのだ。一瞬天子の顔に驚きが見られた。

 

 

 「あら?ビックリしたかしら?」

 

 「ああ、傘だけをばっさり斬って攻撃手段を減らしてしまおうと思ったのだがな……失敗したな」

 

 「人の物を壊そうとするなんて悪い天人さんね」

 

 「幽香さんは妖怪だろ?」

 

 「うふふ♪そうだったわね♪」

 

 

 攻撃を防いだ幽香は勿論のこと、防がれた天子も笑っていた。血には逆らえないのか、はたまた何かの縁なのか、二人はこの戦いに楽しみを感じ愉悦に浸っていた。

 

 

 「楽しいわね」

 

 「ああ、異論はないな」

 

 「ねぇ、もっと……もっと楽しみましょう!」

 

 

 凶器となった日傘が緋想の剣を振り払い襲い掛かる。それを受け流そうとするが……

 

 

 ガキンッ!ガキンッ!!

 

 

 鉄と鉄がぶつかり合う甲高い音を響かせる。それだけではない……緋想の剣で受け止めたはずの天子の腕が痺れた。一撃一撃が重く、何度もその衝撃が襲い掛かる……何の変哲もないただの日傘がまるで鋼鉄でできているかのような印象が緋想の剣を通して伝わってきた。

 

 

 「くっ!」

 

 

 天子は防戦一方になっていた。的確に隙を見せた場所を狙い日傘が襲い掛かる。反撃しようにも受け止めるだけで腕に負担がかかる重い一撃がのしかかる。今度は天子の方が攻めに転じることが出来なくなってしまった。

 

 

 「さっきまでの勢いはどうしたのかしら!あは♪」

 

 

 真紅の瞳が天子を映す。愉悦に浸った笑顔で日傘を振り上げる様子は傍から見れば恐ろしい光景に見える。遠くの方で小さな悲鳴が上がるが幽香の耳には入って来ない。今は目の前の天人と思いっきり楽しんでいたい気分なのだから。

 

 

 さぁ、これからどうしてくれるのかしら?さっきのはよかったけれどもう防戦一方よ?このままで終わらせないでほしいわ。もっと私と遊びましょう、もっと私と戦いたいましょう、もっと……もっとよ!私を満足させるために期待に応えなさい!

 

 

 何度も何度も攻め立てる。それを防ぎきる目の前の彼に瞳が釘付けになる。他の者など視界に映りはしない。

 

 

 期待がこもった瞳はずっと天人を捉えて離さない。

 

 

 カッコイイ天人さん、私を楽しませて頂戴♪

 

 

 ------------------

 

 

 んぬほほぉ!?手が痺れるぅう!!!幽香さんの一撃重すぎです……幽香さんが妖力で強化していることはわかるけど、それでも緋想の剣でバッサリと斬れないとは予想外でした。妖力超便利!しかし、このままだと防戦一方続きで終わってしまうかもしれない。カッコイイこと言っておいてジリ貧で負けましたなんてことになったら私の威厳が底なし沼にハマった感じで落ちていく一方だ。予想外の幽香さんの戦闘力に焦っている私です。でも楽しんでいる自分がいる……でもこれは仕方ないこと、楽しいのは楽しいから仕方ないじゃない?幽香さんも楽しそう……笑顔が怖いですけど……

 私は幽香さんの一撃を防ぐので手がいっぱいだ。反撃しようにも痺れた腕での攻撃は大した威力にはならないだろう。私の肉体ならば痛いだけで済むかもしれないわ。攻撃を受けたのなら、並みの妖怪ならば受け止めることもできずに粉微塵になりそう……鬼とも互角に戦える力を持っているみたいね。流石幽香さん、私も久しぶりに燃えてきた!!このままでは決して終われないわよ!!!

 

 

 天子は無理にでも攻めに転じることにした。危険な賭けだがそれしかない。防戦一方では面白くもないし、待っているのは敗北だけだからだ。もしも攻撃が当たってしまったらそれはそれでいい。己の肉体を信じるだけだ。ある程度なら耐えられることは天子にはわかっている。それでも不安が残るがやるしか道はなかった。

 

 

 覚悟を決め、幽香の一撃を受け止めた瞬間に狙いを定めていた幽香の足に蹴りを入れた。

 

 

 「甘いわよ」

 

 

 だが、幽香も足で蹴りを防ぐ。天子は内心舌打ちをして次の手に移る。

 要石を出現させて襲おうとしたが、すぐさま幽香は飛びのいて天子との距離を離す。要石がそのまま幽香に目掛けて突っ込んでいくはずだった。

 

 

 「――なに!?」

 

 

 地面が盛り上がり、そこから生えた植物の根っこが要石を捕縛した。幽香は『花を操る程度の能力』を持っており、それを使って根っこを操ったのだろう。捕縛された要石は空中から地面に引き寄せられて力が加わっていく。ミシミシと言う音を立てながら亀裂が走り、やがて要石は砕かれた。これには天子も驚きを隠しきれない。

 

 

 うっそ!?要石が破壊された!!?冗談でしょ!!?

 

 

 要石が壊されるという出来事に意識をほんの一瞬削いでしまった。それが天子にとっては大きな隙を作ってしまった。その瞬間を見逃す幽香ではないがその動きはゆっくりと天子に近づいていく。天子は嫌な予感がして咄嗟に距離を取ろうとするが……天子は気がつくことができなかった。足に植物の根が絡まり付き、動きを封じていることに。

 

 

 「しまっ――!?」

 

 

 今更気がついたところで遅かった……天子の姿がいきなり掻き消えた。否、消えたと思ったら吹き飛ばされていて地面を転がる天子の姿があった。幽香の日傘が天子の横腹に直撃し、衝撃で吹き飛ばされれていたのだ。二回、三回と地面に叩きつけられながらも体勢を整えて衝撃で吹き飛ばされながらも足を地面について踏ん張った。足が地面に擦れて摩擦で熱を帯びるが、気にも留めることもしなかった。このまま地に伏してしまうことなどできないと闘争心が吠えていた。体に鞭を打ち、足に力を更に入れると吹き飛ばされていた天子の体はようやく止まることができた。

 

 

 「あら?逝ったと思ったのだけど……想像していたよりもあなたって硬いのね」

 

 

 地に伏さなかった天子を見る目に更なる期待がこもる。楽しませてくれるという期待が体全身を刺激し、幽香の頬が薄い赤色に火照っていた。

 

 

 それに比べて天子は横腹に手を当てて苦しそうに荒い息を吐いた。

 

 

 ぐっ!?痛い……萃香の本気の拳並みに痛い……完全な不意打ちで防御する余裕もなかった。吐き気がするし、痛みが引かない……これが幽香さんの力か……甘く見ていたつもりはないけど悔しいな。要石が壊された衝撃で注意不足になるなんて……私はまだまだのようね。もっと力を付けないといけないようだわ。だからって私が負けを認める理由にはならないんだけどね。

 この戦いはいい経験になる。勝っても負けても私にとってはプラスになる。妹紅には絶対に勝てって言われたけれどもしかしたら無理かもしれない……それでも私は諦めないわ。元天子ちゃんだってこんなことで諦めることは決してしないだろうし、私自身がまだ戦えるし戦いたい。それに幽香さんが望んでいることだろうし、私はその期待に応えたい!

 

 

 「やる……な……ふぅ……油断してしまった。流石幽香さんだ、お強いようで」

 

 「ふふ♪私の本気はまだまだよ?ついてこれるかしら?」

 

 「……勿論……ついて行ってやるさ!」

 

 

 痛みを力に変えて駆けだす。目前の敵を倒すために、戦いを楽しむために、期待に応えるために……

 

 

 ------------------

 

 

 「はわわっ!ここまで衝撃が届いてくる気がしますよ!?」

 

 

 先ほどから二人の戦いを観戦していた早苗と妹紅は戦いの壮絶さを目の当たりにしていた。

 

 

 「妹紅さん、す、すごい戦いです!天子さんってこんなに強かったんですね!」

 

 

 天子の戦いぶりに興奮を抑えきれない早苗だが、妹紅は眉間にシワを寄せていた。

 

 

 「も、もこうさん?ど、どうしたんですか?シワができていますけど老眼にでもなりました?あっ!妹紅さんはお年寄りでしたもんね。すみません……」

 

 「お前なんで謝るんだよ……なんかムカつくぞ。それに私を婆さん扱いしやがって」

 

 「でもお年寄りの(いき)越してますよね?」

 

 「くっ!(事実だから何も言い返せない!)」

 

 

 早苗に気を取られていたが、我に返って再び決闘の様子を窺う。しかし状況は何も変わっていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 天子と幽香が剣と日傘で撃ち合っている。剣と日傘……傍から見れば剣が勝つだろうと誰もが思う。だが、実際には……

 

 

 「受けなさい!」

 

 「くっ!」

 

 

 剣の方……天子が押されていた。

 

 

 「もう一発よ!」

 

 

 日傘の一撃を受け止めた。しかし先ほどから押されてばかりの状況が続いている。何度も食らいつこうとしている天子は幽香の後ろに回り込み今度こそ一撃を加えようとしたが……

 

 

 「はぁ!」

 

 

 ――相手が悪すぎた。

 

 

 「無駄よ」

 

 

 受け流されてしまった。ついでと言わんばかりに日傘が天子の腹を小突く。天子の腹に食い込み口から体内の空気が吐き出させる。それだけでも恐ろしい威力を込めていることがわかる。天子の足がふらつく。

 

 

 「――天子!!」

 

 

 妹紅の一声で天子はなんとか倒れずに踏ん張ることができた。

 

 

 遠くで決闘を見ている早苗と妹紅の目で見ても天子は疲労していることがわかる。先ほどから攻撃を受けているのは天子ばかりだ。幽香には今だに一撃すら加えられていない。その状況に妹紅は舌打ちをする。早苗も天子が押されている状況にあたふたしていた。

 

 

 「はわわ!天子さんこのままじゃ負けてしまいますよ!?」

 

 「簡単に天子が負けるわけないはずだ。あの野郎なんかに負けるかよ……」

 

 

 そう口では言ったが汗が滴り落ちる。風見幽香と言う妖怪を甘く見ていたつもりはない。しかし、実際に自身の目で見ると自分がどれほど甘かったのかよくわかる。妹紅も自分でも幽香に食らいつくことはできるだろうと思うが、倒せるかと言ったら頷けるか不安だった。自分じゃ勝つことができない……そう本能がそう言っているように感じたのだ。

 「それならばもしかしたら天子も……」そんな言葉が頭に浮かんでしまった。その言葉を振り払うように妹紅は自分に言い聞かせるように言葉を呟く。

 

 

 「大丈夫……天子なら大丈夫……勝ってくれるさ……!」

 

 

 ……だが不安は消えることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「はぁ……はぁ……」

 

 「あら?もう終わりかしら……冗談よね?」

 

 

 時間が過ぎて行った。次第に疲労が溜まっていき、息が荒く、地面に膝をついているのは天子だった。あれから何度も天子は幽香に様々な戦法で挑んだが傷つけることは叶わなかった。天子は幽香に届かなかった……そして天子を見下ろす幽香の表情は勝者の顔ではなかった。今まで見せていた笑みなどそこには存在せず、暗くまるで自分が敗北したかのような呆れた表情であった。

 

 

 「……つまらない……」

 

 

 彼女が呟いた。その言葉が幽香の全てを物語っているかのように天子は感じてしまう。 

 

 

 「天人さん、初めは良かったんだけど後がいけないわね。諦めずに攻めに来てくれるのは嬉しかったわ。でも、でもね、あなたは届かなかった。私に……新聞を読んでいた時は様々な想像をしたわ。あなたがどうやって私に一撃を加えるのか、どんな痛みを味合わせてくれるのか……それを考えただけで眠れない時もあったわ」

 

 

 冷たく心の底から絞り出すように語りだした幽香の言葉はとても寂しそうに感じた。

 

 

 「今日と言う日を待ち焦がれていた。あなたに初めて会う時に戦うって決めていたわ。あなたに期待を込めてね」

 

 「……」

 

 

 天子は幽香の言葉を黙って聞いていることしかできなかった。何も口から言葉が出て来なかった。

 

 

 「でもその期待は途中で消えてしまった。あなたは確かに『()()』部類に入るわ。でも、それだけじゃだめなのよ。あなたは私と『()()』でも『()()()()』でもなかったわ。それがわかってしまった時、あなたには興味を失った」

 

 

 唇を噛みしめていた。悔しそうに……天子ではなく幽香が悔しそうにしていたのだ。

 

 

 「あなたのことを少し認めてあげようかと思っていた。けれど、それは叶わなくなってしまった。あなたが私よりも『()()()()』から……楽しめる……私を退屈から解放してくれる……折角……折角期待していたのに!」

 

 「幽香さん……」

 

 

 天子の心に幽香の言葉が深く刺さった気がした。幽香の目を見れずに逸らしてしまう。

 

 

 「……情けよ、私があなたに情けを送ってあげる」

 

 

 幽香は日傘を天子に向けた。先端部分に光が集束していくのが見える。どんどんと光が集束していき、やがて光の塊となった。そしてそれが何を意味するのか天子には理解できた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『マスタースパーク』

 

 

 今まさに放たれようとしているマスタースパーク……天子は何もしない。遠くの方で早苗と妹紅が何か言っているが耳に入って来なかった。天子はただ出来なかった……否、何もしなかった……

 

 

 「(幽香さん……私は……弱かったんだな……あなたに認めてもらえない程に……)」

 

 

 何もする気は起こらなかった。ただ受け入れようとしていた……彼女の怒りを……彼女の悲しみを……

 

 

 「さようなら……変わり者の天人さん」

 

 

 マスタースパークが放たれた。天子は光に包まれる……そんな時に天子は一つのことを嘆いていた。

 

 

 「(ああ……期待に応えられなかった……残念だなぁ……)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「(……幽香さんと……親友(とも)になりたかった……)」

 

 

 天子は光の中へと消えた……

 

 


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