比那名居天子(♂)の幻想郷生活   作:てへぺろん

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初敗北!しかしここで立ち止まる訳にはいかない天子、敗北とは終わりではなく新たなる始まりでもあるのです!


敗北の先に天子が求めるものとは?


それでは……


本編どうぞ!




43話 敗北の先に

 明るい……光……目に入って来たのはそれだった。

 

 

 それはどこかの天井だった。嗅いだことのあるにおい……薬品のにおいが鼻につく。

 

 

 「……永遠亭……」

 

 

 ここは永遠亭だった。目が覚めて自分の体を見れば包帯が巻かれてベットの上に寝かされていたようだ。この状況を見れば嫌でも察しがつく。

 

 

 「幽香さんのマスタースパークを受けたんだったな。私は……負けたのか……」

 

 

 決闘で自分は負けた……今の状況がそれを物語っていた。

 

 

 「そうみたいだね」

 

 

 ボソッと呟いた言葉に誰かが返して来た。辺りを見回しても誰もいない……聞こえて来たのは子供のような声だった。天子はその声の主を探していたらベットの下から妖気を感じたので訪ねてみた。

 

 

 「……てゐちゃんかな?」

 

 「ありゃ!私のことご存じ?」

 

 「……まぁ……な」

 

 

 【因幡てゐ

 癖っ毛の短めな黒髪とふわふわなウサミミ、もふもふなウサ尻尾を持つ。服は桃色で、裾に赤い縫い目のある半袖ワンピースを着用している。

 迷いの竹林と、その奥にある永遠亭を住処とする妖怪兎であり、竹林や永遠亭に住む妖怪兎(モブイナバ)達のリーダーであり、てゐの手下である。

 

 

 ベットに何故隠れていたかは知らないが、鈴仙に悪戯でもして隠れていたのだろうと予測する。けど今はなんだか相手にする気がないなぁ……

 

 

 ベットの下から這い出たてゐは表情が優れない天子に疑問を持った。

 

 

 「落ち込んでいるみたいだね。相談にでも乗ってあげようか?」

 

 「いや……別に……」

 

 「遠慮する必要ないよ。私ぶっちゃけ今暇だから。今回は特別サービスで相談料とか言ってお金なんて取らないからさ」

 

 

 普段はお金取っているのかと思う天子であったが、てゐは構わず話を続けていく。

 

 

 「負けちゃったから落ち込んでいるんでしょ?でも仕方ないと思うな。だって相手はあの風見幽香だよ?勝とうと思う方が馬鹿げていると思うよ」

 

 

 てゐはこう言っているが違う……私が落ち込んでいることはそこじゃない。

 

 

 「私は負けたことで落ち込んでいるわけではない」

 

 「えっ?そうなの?じゃあ、なんなのさ?」

 

 

 てゐが不思議そうに覗いてくる。ふわふわなうさみみがぴょこぴょこ動いて普段の私ならテンションが上がるはずなのだが、今はそんな気分じゃない。私の気分を害していることは一つ……

 

 

 「……幽香さんと親友(とも)になれなかったんだ……」

 

 

 私は素直に答えた。心に思っていたこと……私は幽香さんの期待に応えてあげられることができなかった。それが悔しかった……戦いに負けたこと自体は気にしてない。誰だって一度ぐらい負けてしまうことはあるもの。でも、負けてしまったから結果として私は幽香さんが期待していたのに応えてあげられる力がなかったことが悔しかったの。

 幽香さんは強かった。今まで戦ってきた相手の中でも一番だった。幽香さんの体に傷一つつけることもできずに私は負けた。完全なる敗北……期待していたと言ってくれたがその期待を無下にしてしまい、最後の幽香さんの言葉を思い出すと心が痛む……

 『「さようなら……変わり者の天人さん」』結局私は名前で呼んでもらえることはなかった。幽香さんと親友(とも)になれなかったことがこんなにも重くのしかかるなんて私自身も思っていなかった。『「なんだそんなことで落ち込んでいるのか」』そう思えたらよかったのだが、私は幽香さんの期待に応えたいと心から思ってしまった。そのせいで、期待を裏切ってしまった自分自身が許せなくなっていた。

 

 

 私が転生してから私は変わった。誰かのために何かしたいと本気で思えるようになった。私自身でもビックリしているし、そんな私自身のことを悪くないと思っている。だから、こんなにも期待に応えてあげられなかったことが私自身を責めているのだと思うわ……

 

 

 天子は暗い顔を自身の体に向けた。包帯が巻かれている体が目に入るが、天子の目に映っていたのは幽香の寂しそうな表情であった。天子とてゐの二人の間に沈黙が続く……

 

 

 「……あんたってバカなの?」

 

 「――えっ?」

 

 

 てゐの言葉に反応して顔を上げると呆れた表情をしたてゐと目があった。

 

 

 「あの風見幽香と友達になれなかったから落ち込んでいるとか相当変わっているわよ?」

 

 「……幽香さんも私のこと『変わった天人さん』って呼ばれたよ。最後まで名前で呼んでもらえなかったな……」

 

 

 対等として認めてもらえなかった……結局名前で呼んでもらえることがなかったことに少し寂しさを感じていた。そんな天子にため息が出るてゐ。

 

 

 「本当に変わっているわ……変人?」

 

 「――私は天人だ」

 

 「ボケたつもり?面白くないよ」

 

 「うぐっ!?」

 

 

 別にボケたつもりなかったけど面白くないって言われると傷つくわ……てゐちゃん毒舌……私の(ライフ)に1000ポイントのダメージを受けたわ……

 

 

 ため息交じりでてゐが天子に質問した。

 

 

 「あんたにとって友達ってなに?」

 

 

 いきなりの質問に天子は目をパチパチと(まばた)いた。

 

 

 「……親友(とも)か……私にとってはかけがえのない存在だ。私には親友(とも)が沢山いる。衣玖に萃香、妖夢に神子とそれから幽々子さんに紫さん、それだけじゃない。霊夢に魔理沙に早苗、妹紅と慧音、文やはたてに椛とにとりだけじゃないぞ。聖達もレミリア達もな。それから……」

 

 

 自然と口から名前が出た。今まで出会い、共に異変を解決したりして交流し合った仲。忘れられない存在……私は堂々と言える……彼女達は私にとっての親友(とも)だとね。

 

 

 「そうなんだ……じゃ、あの風見幽香にたった一度負けた程度で友達になることを諦めるつもりなの?友達になりたければ諦めずにまた挑戦すればいいじゃん。死んでないんだしさ、あんたの友達としての価値ってそんなものなの?」

 

 「――!?」

 

 

 てゐの言葉に衝撃受けた。てゐにとっては何気ない言葉なのかもしれないけれど、てゐの言ったことが正しいと理解した。

 

 

 ……私ってバカね。そうだわ、一度負けたから諦めるなんて何を考えていたのかしら。自分の中で諦めムードを発していたなんて情けない……すぐに諦めるような簡単な女(外見男だけど)じゃない!萃香の時も神子の時もレミリアの異変の時だって、私は最後までやり通したじゃない。こんなんじゃ元天子ちゃんに笑われてしまうじゃない……一度の敗北でめそめそするような私じゃない。そんなの比那名居天子じゃない!最後まで抗って、時には悩んで、ちぐはぐなことを思って行動してしまう私だけど、そんな私にも誇りがあるわ。諦めないという誇りが!

 

 

 天子の表情が柔らかくなりクスッと笑みがこぼれた。その瞬間を見たてゐの頬が薄く赤みがさしていた。

 

 

 「てゐちゃんのおかげで吹っ切れたよ、ありがとう」

 

 「……べ、べつに……私はただ暇だったから話に乗ってあげただけだし……」

 

 

 照れ隠しなのかそっぽを向いてしまった。ふわふわなウサミミがぴょこぴょこと反応していた。めちゃかわいい♪ウサミミも犬耳も猫耳も私は大好きですYO♪

 

 

 「こらてゐ!どこに行ったのよー!!」

 

 

 廊下の方から鈴仙の声が聞こえてきた。悪戯された鈴仙がてゐちゃんを探しているようだ。てゐちゃんは私に口止めをして再びベットの下に隠れてしまった。患者のベットの下に隠れるとは……てゐちゃんだから仕方ないね。

 するとまたしても聞き覚えのある声が聞こえてきた。永琳さんが騒いでいる鈴仙を見つけたみたい。何かを話し合った後、廊下を掛けていく音が聞こえ戸が開かれた。

 

 

 「あら、起きたのね」

 

 「永琳さん、またお世話になっています」

 

 

 永琳さんにお世話になりっぱなしだね。何かあるごとにここに来ているんだから……なんだかそう思うと申し訳ない気がするが、永琳さんはもう慣れてしまったらしくいつものように振舞ってくれている。そう気軽に接してもらえるとありがたい。

 それから私は体の調子を調べられて明日退院することができるようだ。そう言えば一緒にいた妹紅と早苗はどうしたんだろうか?

 

 

 「ああ、あの二人ね。あなたのこと心配していたわよ。妹紅の方は特にね」

 

 「それで二人はどこに?」

 

 「妹紅の方はあなたが倒れてから風見幽香とやりやったみたいよ」

 

 「妹紅がか!?」

 

 

 そのことを聞いた天子は驚いた。自分が負けてしまった後で幽香とやり合うなど想定もしていなかったからだ。

 

 

 「でも、途中で守矢の巫女に止められたみたいだけどね。ここに来た時とても不機嫌だったわよ」

 

 「……だろうな」

 

 「それで妹紅も怪我を負っていたから休ませてあげていたのよ。彼女は治療要らずの体だから放って置けば治るからね。あなたの様子を見ていたら外の空気を吸ってくるとか言って出て行ったわ。ちなみに守矢の巫女の方は姫様とすまぶら(?)とか言うゲームで遊んでいるわ」

 

 

 スマブラ永遠亭にあるの!?後でやりに行こう……じゃなくて!二人には心配かけてしまったわね……特に妹紅には。早苗は相変わらずの様子で安心した。私のために妹紅は怒ってくれたのかしら……それだと申し訳ない……妹紅に会いに行こう。

 

 

 「ありがとう永琳さん、私は妹紅に会いに行ってくる」

 

 「そう、あなたは身体は丈夫だから心配ないと思うけど無理はしないでね。患者なんだから」

 

 「ああ、本当にありがとうございます」

 

 

 私の心は目が覚めた時よりも軽やかになっていた。

 

 

 ------------------

 

 

 頭を下げてお礼を言い、天子は部屋から出て行く。戸が閉まり、辺りには静寂が支配する。

 

 

 「てゐ、出てきなさい」

 

 「やっぱりお師匠様にはバレちゃうか」

 

 

 ベットの下から顔を出したてゐ。テヘッ♪と舌を出しておどけた様子を見せる。小さな体が這い出てそのままベットに腰かける。

 

 

 「お師匠様、さっきの患者と親しく話していたけど知り合い?」

 

 「てゐがいない時にここに訪れたことがあったのよ。その時も怪我をしていたわ。彼は良く怪我をする方のようよ。てゐは名前も聞かずにお話していたのかしら?」

 

 「初対面で暗い顔していたら名前を聞くタイミング逃しちゃって」

 

 「彼は比那名居天子、天界に住む天人よ。新聞に載っていたでしょ?」

 

 「そう言えばどこかで見たことがあると思ったら……アレ(天子)って相当の変わり者だよね?」

 

 「?どういうことかしらてゐ?」

 

 

 てゐは先ほどの出来事を永琳に語った。悪戯好きのてゐでさえ関わり合おうとしない幻想郷屈指の凶暴な妖怪……風見幽香と友達になろうとする者なんていない。向こうから友達になろうと言われても首を縦に振ることはないだろう。同じ妖怪から恐れられる存在でもあり、人間にとっては恐怖以外の何物でもない。太陽の畑は彼女の縄張り故に誰も近づかないのはそのためだ。触らぬ神に祟りなしとはこのことだ。

 しかし、天子は幽香と友達になれなかったと嘆いていた。てゐにとってはこいつどうかしているレベルだったが、初対面の相手に口に出すほど冷たくはない。暇つぶし程度に相手が望むであろう回答をしていたら天子にお礼を言われた。その時の笑みに心が跳ね上がったなど言えるわけもなく、そういう所はぼかして永琳に伝えた。てゐにとっては風見幽香と仲良くしようとする天子は変わった者に見えたのだ。

 

 

 「そうね、でもそれが彼の魅力なのではないかしら?それが彼の長所でしょうね。妹紅も彼を気に入っているみたいだし」

 

 「あの妹紅がね……」

 

 

 ボケっと考えていると廊下から声が聞こえてくる。戸が開かれて入って来たのは鈴仙だった。

 

 

 「師匠、メディスンちゃんを連れて来ました……ああ!てゐこんなところに!!」

 

 「ヤバッ!?」

 

 

 ボケっとしていたので鈴仙に見つかってしまった。鈴仙に悪戯をして逃げている最中だったと思い出す。戸には鈴仙が立ってこちらを睨んでいるためそこからの逃走は不可能。ならば別のルートからと窓から逃走を図る。

 

 

 「あ!こらてゐ待ちなさい!!」

 

 「ヤダよー!捕まえてみてよ鈴仙ちゃん♪」

 

 「ムキー!もう怒ったわよ!てゐ絶対に捕まえてお仕置きしてやるんだから!」

 

 

 ドタドタと廊下を走って行ってしまった鈴仙に冷たい視線を送る永琳のことなど知る由もなかった。

 

 

 「(病室で騒ぐなんて……二人共後でお仕置きね)」

 

 

 鈴仙とてゐのこの後の運命は既に決まったも同然だ。ご愁傷様……

 

 

 「――はぁ……ごめんなさいね。あなたのこと放っておいて行ってしまうなんて」

 

 

 永琳が話しかけるのは鈴仙と一緒について来た一人の少女に見える人形だった。

 

 

 「ホント、私を放っておくなんて悪いウサギだ」

 

 

 【メディスン・メランコリー

 金髪のウェーブのかかったショートボブであり、瞳の色はブルー。赤いリボンが蝶結びで結ばれており、黒と赤を基調とした物を着ている。ロングスカートをはいており、リボンを胸元と腰に付けている。

 全体的に幼い印象が目立ち、身長はやや大きめの腹話術の人形程度。外見は人間の子供とほとんど同じ容姿であり、またその傍らには常に小さなメディスンに似た妖精のようなものが飛んでいる。

  鈴蘭畑に捨てられた人形が、長い年月を経て妖怪化した人形であり、妖怪化してからはまだ数年程度しか経っていない。

 

 

 メディスンは頬を膨らませてご機嫌斜めのようだ。傍にいるミニメディスンのような妖精が飛んでいる。その小さな妖精もうんうんと頷いていた。

 

 

 「ごめんなさいね。メディスン、それで今日も持ってきてくれたんでしょ?」

 

 「あっ!そうだったわ。はいこれ」

 

 「ありがとう」

 

 

 メディスンは時々永遠亭にやってくる。 瓶に入った紫色の液体……ちなみに毒である。メディスンは永琳に毒を提供する代わりにそれ相応の報酬を貰うという友好関係を築いている。永琳にとってもメディスンは貴重な存在であるためとても大切にしている。しかしそれだけではない。

 

 

 「ところで幽香とは仲がいい様子かしら?」

 

 「うん、幽香はとても優しいからね!」

 

 

 メディスンは先ほどてゐが言っていた風見幽香と親しい間である。メディスンにとっては幽香をお姉さん的な存在だと思っており、唯一彼女に物申すことが出来るとしたらメディスンだけだろう。永琳は幽香が決して凶暴な妖怪というだけではないと言うことは知っている。鈴仙もてゐもそのことを知っているが、それでも幽香とはあまり関わりたくはないと思っているようだ。

 

 

 少しの間おしゃべりしていた。メディスンが幽香のことを自分のように誇らしげに話をする。話をしている時なんか無邪気な子供そのものだ。永琳が幽香を褒めた時なんかはメディスンの目が輝いて得意げだった。

 

 

 「メディスン今日もありがとうね。はい、これ……ちょっと今日は大目に入れておいたわ。それにクッキーも持って帰りなさい」

 

 「うわー!ありがとう!」

 

 「どういたしまして」

 

 

 その後、鈴仙を呼び出してメディスンを送って行った後、机に戻りカルテに目を通す。

 

 

 「比那名居天子、今度も危ない事に首を突っ込んでいるようね。あなたにあの妖怪と肩を並べられるかしらね……まぁ、結果がどうであれ怪我をしたらいつでも歓迎するわよ」

 

 

 ------------------

 

 

 永遠亭の池に小石を投げ込む不貞腐れた少女がいた。

 

 

 「……ちくしょうめ……」

 

 

 妹紅は落ちている石を何度も池に投げ込んでいる。楽しんではいない……イライラを少しでも解消するための行動であった。

 

 

 天子の奴が負けた……幽香の野郎に……あいつは天子をどうこうするつもりはないようだが、気に入らなかった。私は天子が負けたことに腹を立てたのか、それとも幽香が勝ったことが気に入らなかったのか、私は無意識に幽香の奴に殴りかかった。早苗が驚いていたが私は怒りが収まらなかった。何度もぶっ飛ばしてやろうかと拳を振るうが天子が届かなかったように私も幽香の奴に一撃もお見舞いしてやることができずにあしらわれた。何度か反撃され体が悲鳴をあげた。だがそんなこと気にも留めずに殴りかかろうとしたら早苗が止めに入った。暴れる私にコブラツイストなんか掛けやがって……だが、早苗が言ったことは間違ってないと思う。

 

 

 『決闘の勝ち負けがどうであれ、その結果に水を差すのは天子さんに対する侮辱ですよ!』

 

 

 早苗がまともなことを言ったのには驚いたが、自分が情けないと感じた。天子の戦いに水を差すようなことをしてしまった自分を恥じた。私だって決闘に水を差されるのは嫌だ……それが結果が負けたとしてもだ。

 

 

 「はぁ……私って何していたんだ……」

 

 「妹紅……」

 

 

 ビクリと肩が跳ね上がる。後ろを振り返ると包帯姿の天子がいた。

 

 

 「お前起きて大丈夫なのかよ!?」

 

 「ああ、明日には退院できる。それよりも私のために怒ってくれたんだろ?その時に怪我をしたと聞いたが……大丈夫だったか?」

 

 「私が不老不死であることは知っているだろ。私は何ともないさ、怪我なんてしてもすぐ治るし平気だ」

 

 

 まぁ……痛みは感じるから本当は嫌なんだけどな……

 

 

 自分は平気だと平静を装おうがそんな妹紅の手を天子が握る。いきなりのことだったので何も対応できずにポカンとした表情のまま固まってしまった。

 

 

 「だからって女の子がそんなことを言うな。妹紅の性格は知っているし、痛みは感じるのだろう?もっと自分を大切にすることだ。そうじゃないと慧音も私も心配するからな」

 

 

 天子の姿が慧音の姿と重なる……私を女の子扱いして心配してくれるということに胸の奥が熱くなった気がした。そして、握られている手も熱くなっていった。慌てて手を引っ込めたが、体が熱を帯びていることを感じる。

 

 

 「ま、まぁ……天子の言う通りだな。慧音にも心配かけるのはまずいし……ごめん。それに決闘の勝敗に水を差してしまった……天子は幽香の奴に本気で挑んだのにそれを侮辱するような真似をした……」

 

 「謝らないでくれ、もう過ぎたことを言っても仕方ない。今度は勝てばいい話だ」

 

 「今度はって……お前また幽香の奴に戦いを挑むつもりか?」

 

 「ああ、今度こそ勝って幽香さんと親友(とも)になるんだ」

 

 「お前そんなこと思っていたのか……」

 

 

 天子って意外と馬鹿なのかと思う所がある。あの野郎と仲良くしたいだなんて……こいつの目は本気で言っているな。幽香の奴が天子のことを変わり者と言ったことに賛同できる気がする……複雑な気分だ。

 

 

 たまらずため息が出る。

 

 

 だが、そこが天子の良い所でもあるんだがな……誰にでも隔てなく接しようとすることなんて中々できるものではない。天子のそう言ったところがとても眩しく感じるよ。

 

 

 そんなことを思いっている時に妹紅の耳に雑音のような聞きたくない声が聞こえてきた。

 

 

 「あらららら~♪妹紅ったらこんなところでデートとか場所わきまえろってんだ」

 

 

 幽香の奴よりも会いたくない奴が来たようだな……!

 

 

 「輝夜てめぇ!!」

 

 

 【蓬莱山輝夜

 ストレートで、腰より長い程の黒髪を持ち、前髪は眉を覆う程度の長さのぱっつん系。服は上がピンクで、大き目の白いリボンが胸元にあしらわれており、袖は長く、手を隠すほどであり、真っ直ぐに長い黒髪や手足の先まで隠す服は純然たる和風の美を感じさせる。

 永遠亭に隠れ住んでいる月人。竹取物語のかぐや姫その人自身であり、不死の体を持つ蓬莱人。決して死ぬことはないとされている。月で禁忌とされる蓬莱の薬を飲んで不老不死になってしまい、その罰として処刑されるが、不死のため処刑が出来ないと判ると地上への流刑となった。そのために現在は幻想郷で暮らしている。

 藤原妹紅とは因縁の間柄であり、事あるごとに殺し合いをする仲である。

 

 

 「おお、こわいこわいわ~!これだから野蛮人は……そうでしょう?比那名居天子さん」

 

 「おい天子!輝夜の奴に言ってやれ!お前の方こそ野蛮人だってな!」

 

 「あら?何故私が野蛮人なのかしら?わからないわ~妹紅ってば人を見る目がないわね~節穴よね~♪」

 

 「こ、この野郎!!」

 

 

 妹紅がたまらず輝夜の胸倉を掴む。

 

 

 「妹紅ったら嫌だわ!すぐに暴力を振るうのはやっぱり自分が野蛮人だって認めているじゃない」

 

 「な、なんだと!?」

 

 「殴りたければ殴れば?そうすると妹紅が野蛮人だって証明することになるけどね!」

 

 「ぐ、ぐぬぬ!!」

 

 「ほらほらどうしたのかしら?殴らないの?肝っ玉が小さいわね~♪あなたもそう思うわよね比那名居天子さん……どうしたの?」

 

 

 天子の奴は輝夜の方を見つめてボーっとしていた。一体どうしたと言うのだろうか? 

 

 

 「……はっ!?い、いや……なんでもない」

 

 

 慌てた様子だった。その様子で察したのか妹紅の気分を不愉快にさせた。

 

 

 こいつまさか……輝夜の奴に見惚れていやがったのか!天子の奴も結局男ってわけかよ!ちくしょう!腹が立ってきた!!……っとそういうわけで!!!

 

 

 「死ねや輝夜ー!!!」

 

 「がぼぉお!?」

 

 

 妹紅の右ストレートが輝夜の顔面に綺麗に入った。ぶっ飛ばされて塀に輝夜の形をしたクレーターができる。

 

 

 「も、もこう落ち着け!!」

 

 「うるせえ!輝夜なんかに鼻の下伸ばしやがって!」

 

 「わ、わたしは鼻の下なんて伸ばしていないぞ!ただちょっと綺麗な方だなぁ、私にもその美貌が欲しいなぁって思っただけで……」

 

 「お前今でもカッコイイのにこれ以上求める気かよ!十分だろ!まさか実はお前ナルシストだったのか!?」

 

 「違う!外見は男だけど中身は女の子で……」

 

 「はっ?」

 

 「――なんでもない!なんでもないんだ妹紅!とにかく私は鼻の下など伸ばしていない!断じて!!」

 

 

 いつも以上に狼狽えた様子の天子だった。何か天子が言ったような気がしたが、それよりも視界の端に映ったボロ雑巾(輝夜)が動き出した。()らねば……!

 

 

 「この野蛮人がぁ!乙女の顔に何しとるんじゃぁあああ!!!」

 

 「誰が野蛮人だごらぁ!てめぇなんざ乙女じゃないわ!ボロ雑巾だろうがぁあああ!!!」

 

 「二人共!?や、やめるんだ!!」

 

 

 天子の制止も聞かずに二人の拳が顔面に直撃する……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――っかに思えたが!

 

 

 二人の間に結界が生じ、拳が結界に阻まれた。この結界を作り出した人物はいつの間にか天子の傍にいた。

 

 

 「早苗!」

 

 「はい!ピンチの時に現れる風祝(かぜはふり)東風谷早苗ちゃん只今参上です♪」

 

 

 ペ〇ちゃんみたいに舌を出して可愛さアピールをしている。そんな早苗が現れたことで辺りには静けさが舞い降りて来てくれた。天子は早苗のことを心の中で良くやったと褒めていた。

 

 

 「もう、輝夜さん対戦の途中で居なくなるなんて酷いじゃないですか!折角私とル〇ージのコンビネーションで完封するつもりだったのに」

 

 「ごめんなさい。でも鬱陶しいハエが永遠亭に入り込んでいたようだから叩きのめしてあげようと思ったの」

 

 「なんだとこらぁ!!」

 

 「あらららら~?何を怒っているのかしら~?別に妹紅のこと言ったわけじゃないんだけどね~!もしかして自分がハエだって自覚していたの~?超うけるんですけど~!!ぷぷぷー!!!」

 

 「輝夜てめぇぶっ殺す!!」

 

 「やれるもんならやってみなさいよ!クソもんぺ野郎!!」

 

 

 二人が再び戦闘態勢に入りそうになった時に早苗が妹紅と輝夜に差し出して来た。それを見た二人はキョトンとしてしまった。

 

 

 「……なんだよこれは?」

 

 

 天子は知っている。それはゲームをするために必要なコントローラーだった。

 

 

 「決着をつけたいならこれで勝敗をつけましょう。天子さんも一緒にやりましょうスマブラ!これで丁度4人なのでバトルロワイヤルができますよ!NPC相手じゃ退屈なので是非ともやりましょうよ!!」

 

 「……ふふ、そうだなそれがいい。二人共早速対戦しよう(やった!NPCじゃなくて対人でスマブラできる日が来るなんて!)」

 

 「「……」」

 

 

 早苗と天子はゲームをするために戻って行った。残されたのは妹紅と輝夜の二人だけ……

 

 

 天子の奴、妙にウキウキしてやがったがどうしたんだ……慌てたり変な奴だぜ。早苗もこんなもので決着つけろって……これで殴り合うのか?

 

 

 妹紅はコントローラーと言うものを知らないので凝視してしまう。その様子がおかしかったのか輝夜が妹紅を見て笑う。

 

 

 「プッ!」

 

 「おい何笑ってるんだ!」

 

 「くくく……別になんでもないわよ。でもたまには違う方法で決着つけるのも悪くわないかもね」

 

 「全く……早苗が止めなければもう一発顔面に打ち込めたと言うのによ」

 

 「あら?あの子が止めなければ私の拳が妹紅の顔面をぶっ壊すことになっていたと思うけど?」

 

 「へっ!そんなことあるかよ。絶対に私の拳がお前の顔面に直撃してたぜ?それに輝夜の拳を受けてもすぐに再生するから気にも留めねぇな」

 

 「随分と自分を蔑ろにするのね。自分を大切にしろって言われたばかりなのに?」

 

 

 ピクリと眉が動く。

 

 

 「……いつからいたんだ……?」

 

 「妹紅が不貞腐れて池に小石を投げ込んでいるところから」

 

 

 全部じゃねぇかよ!初めから覗き見ていたのかよ!?そのことに気がつかなかったとは……自分が嫌になる。

 

 

 輝夜に一部始終を見られていたことに心の中で地団駄を踏んでいた。

 

 

 「まぁ、見ていると外見だけじゃなく中身もいい男みたいだし……妹紅が彼にお(ねつ)になるのはわかるけどね」

 

 「は、はぁ!?」

 

 

 妹紅の顔が赤くなり体温が上がっていく。傍から見ても落ち着きがない状態で視線が泳いでいた。

 

 

 わ、わたしが天子にお(ねつ)だって!?そ、そんなことはないさ。あいつとは友達だからな、輝夜の奴ったら私のこと見る目がないとか言ったくせに自分はどうかと思うぜ。だが、決して天子のことが嫌いとかそういうのじゃなくてだな……その……友達だからなあいつとは。うん!そうだ!私がどっかの小鬼のように異性として好きになるとかそういうのはない……ないはずだ。それに……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もし好きになっても必ず先に逝ってしまうからな……

 

 

 その言葉だけで妹紅の顔は赤みを失い、体温も下がっていく。落ち着きがなかった様子も見られない……彼女は知っている。蓬莱人以外の者には必ず終わりがあると言うことを……

 妹紅は黙り込んでしまう。

 

 

 「……はぁ」

 

 

 そんな妹紅を見ていられないのか腕を強引に引っ張った。

 

 

 「痛っ!何しやがんだよ輝夜!」

 

 「妹紅、私達は蓬莱人よ?永遠に生きる運命(さだめ)を背負った罪人なのよ。私達は他の者とは違う……そんなことは百も承知でしょ?」

 

 「……ああ……わかっているよ……」

 

 「……わかっているなら今を楽しみなさい。いつか別れが来るのは避けられない。それなら楽しめる時に楽しんで、悲しい時に悲しめばいいじゃない。だから今の内に恋もしたっていいじゃないの。彼が言うようにあなたは藤原妹紅であり、一人の女の子なんだから……」

 

 「か、かぐや……?」

 

 

 輝夜は妹紅に温かい言葉を送った。いつもは見ない輝夜の姿を見た妹紅は呆然としてしまっていた。

 

 

 「……な~んてね!誰が妹紅なんか心配してやるもんですか!ば~か!ば~か!!このクソもんぺ野郎!!」

 

 「て、てめぇ……」

 

 

 罵倒する輝夜の声にいつもなら激昂するのだが、何故か今だけは少しだけ安らぐような気がしてならなかった。

 

 

 「さぁ、私達も行きましょう。早苗と彼を待たせるのはいけないしね。決着はこれで決めましょう」

 

 「……ああ、望むところだ輝夜!コテンパンに叩きのめしてやる!!」

 

 「ふふ、そう来なくっちゃね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「死になさい妹紅!ファルコン・パーンチ!」

 

 「なぁ!?まだだぞ輝夜!!私はまだやられちゃいねぜ!くらえ!フジヤマヴォルケイノ(PKファイヤ―)!」

 

 「輝夜さん、妹紅さん、私を忘れちゃいけませんよ!ル〇ージのアッパー攻撃です!」

 

 「「なにぃ!?」」

 

 「(対人戦はやっぱり最高やわ♪)早苗隙を見せたな!サ〇スのチャージショットだ!」

 

 「はわぁ!ル〇ージがぁ!!?」

 

 

 天子、妹紅、早苗はその日、永遠亭にお世話になることとなり、夜遅くまでゲームで盛り上がった。輝夜と妹紅がゲームで戦っていたためにいつもよりかは永遠亭が比較的平凡であった。転生前では部屋で引きこもり、NPC相手に無双していた天子が一位であった。ちなみに輝夜も妹紅はお互いを真っ先に消そうとするのでおいしい所を早苗に奪われてビリだったとさ。

 

 


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