比那名居天子(♂)の幻想郷生活   作:てへぺろん

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妹紅の回……東方で彼女を知って、彼女のおかげでもんぺの良さを知った作者です。


まぁそれはおいておきましょう。それでは……


本編どうぞ!





46話 もどかしい思いが今変わる

 「にゅぁあああ!女将もう一杯くれぇ!」

 

 

 星々が輝き始め、夜空になりかけの下で屋台の光を浴びながら酒に入り浸る少女がいた。

 

 

 「飲み過ぎですよ妹紅さん」

 

 

 藤原妹紅は今とても酒に酔いしれたい気分であった。

 

 

 「うるへぇー!わぁたしは客だじょぉ~!お客しゃまは神しゃまなんだじょぉ~!!」

 

 

 女将は苦笑しながら新しい徳利を取り出す。

 

 

 【ミスティア・ローレライ】 

 異形の翼、爪、羽の耳を持つ。帽子を被り、羽根の飾りが付いている。また靴にも同様の飾りがある。ジャンパースカートは雀のようにシックな茶色だが、曲線のラインにそって蛾をイメージしたような、毒々しさを感じさせる紫のリボンが多数あしらわれている。

 夜雀の妖怪で、焼鳥を撲滅するために八目鰻の屋台を経営している。屋台は「 八目鰻 」の文字が描かれた赤提灯が目印。八目鰻の屋台を経営している時は和服衣装で接客している。

 ちなみにミスティアは山彦である響子と「鳥獣伎楽」というパンクロックバンドを結成しており、若い妖怪、妖精などに人気がある。

 

 

 「今日はいつにも増して酒に酔って……永遠亭のお姫様と喧嘩したわけではなさそうですね。一体どうしたんですか?」

 

 

 ミスティアが何故いつもは静かに飲む妹紅が荒れているのか本人に聞いてみた。すると妹紅は机を叩いて語りだした。

 

 

 「よくぞきいてくれたぁ!きいてくれぇよ女将~!きいてよきいてよきいてよきいてよきていてよきいてよきいてよきいてよきいてよきていてよきいてよきいてよきていてよきいてYO~!!」

 

 「わ、わかりましたから屋台を揺らさないでください!」

 

 

 普段はクールな妹紅の姿とかけ離れた様子にミスティアが困っていた。我が儘な大きな子供を見ているかのようであった。自分から聞いておいて知らん顔はできないし、酔っ払いを放って置くと何をしでかすかわからないので渋々妹紅の話に付き合うことにした。

 

 

 「ええっと……何があったのか教えてくれませんか妹紅さん?」

 

 「ええ~どうしよっかなぁ~?まぁ、そこまで聞きたいのならしかたないけどぉ~♪」

 

 「(うわぁ……めんどくさ……)」

 

 「女将、じつはなぁ~……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「はぁ……天子さんと言うお方があの風見幽香と……」

 

 

 妹紅は酒に溺れながらここへ飲みに来た訳を語った。

 

 

 天子と別れて数日後、あれから何の音沙汰(おとさな)もなかった。天界に帰ったばかりだと思っていたがある日のこと、霊夢が人里に買い出しに来た時に偶然聞いてしまった。茨華仙(茨木華扇)と名乗る仙人の元で強くなるために修行しているそうだ。しかも住み込みで……妹紅はそのことを知ると何故か不機嫌になった。

 

 

 日に日に苛立ちが溜まり、輝夜の元へ何度も足繁く通った。その時の輝夜の顔が妹紅の何かをお見通しの様子だったようで更に腹が立ったようだ。人里周辺で悪事を行う妖怪の退治に率先して参加するようにもなったが、本当は鬱憤を晴らすために参加したようなものだった。何度も解消しようとしてきたが結局解消されることなく最後の手段として酒に酔いしれることで忘れようとしていたのだ。

 

 

 「女将しゃんわかったぁ~?わ~た~し~がぁ~!のんべえになっているわけがぁ~!?ああ……おもいだすとまたムカついてきちゃったぁ~!!」

 

 「う~ん……今の話を聞いていると妹紅さんは天子さんのことを……ああ!やめてください!蹴らないで!!屋台に当たらないでください!!!」

 

 

 屋台に蹴りを入れて、また荒れ始めた妹紅を(しず)めようとするミスティアが困っているとその雰囲気に臆さず近づいて来る人物がいた。

 

 

 「おお?今日は荒れた客がいるな」

 

 「あっ!小町さん!?丁度よかった妹紅さんを何とかしてください!このままだと私の屋台が……!」

 

 

 【小野塚小町

 癖のある赤髪をトンボでツインテールにしており、赤い瞳をもつ。服装は半袖にロングスカートの着物のようなものを着用しており、腰巻をしている。

 彼女は死神であり、地獄の運営を担っている。その役目は大まかに三つあり、死者の魂を迎えに行き刈り取る係、死者の霊を船に乗せて三途の川を渡らせる係、そして地獄の雑務一切を請け負う事務係の三種である。

小町は船頭であり、一般的に想像されるような本来の死神らしい仕事はしない。

 主に幻想郷の死者を担当しており、船に乗せた魂との会話が仕事中の楽しみでもある。サボり癖があり、上司に見つかってはよく怒られている。

 

 

 「はいはい、ちょっとそこの若娘や、なんでそんなに荒れているんだい?よかったらあたいが付き合ってあげるからさ」

 

 「妹紅さんは若娘って歳じゃ……」

 

 「あ"あ"ぁん!?」

 

 「いや、なんでもないです……」

 

 酔っ払いのヤンキー(妹紅)に睨まれて目を逸らしてしまう。

 

 

 「そらそら、女将さん困らせたらあかんで?あたいと一杯やろうよ」

 

 

 妹紅を強引に座らせてあれこれ注文する。酔っ払って呂律(ろれつ)が回らない妹紅に変わって女将のミスティアが小町に説明する。

 

 

 「なるほどね~♪この若娘に遅い青春がやってきたってわけだ♪」

 

 「わたしぃの名はもぉこう(妹紅)だぁ!!」

 

 「はいはいわかっているよ。蓬莱人の藤原妹紅だろ?」

 

 「小町さん、妹紅さんと知り合いなんですか?」

 

 「いやいや、あたい死神だろ?」

 

 「あっ、そう言えばそうでしたね」

 

 「そう言えばって……」

 

 

 一瞬自分が死神だと認識されていないのかと不安になった小町であったが、そのまま話を続けることにした。

 

 

 「あたいは船頭やっているけど、こう見えてもちゃんとした死神なんだ。それで本来ならば人間の寿命が尽きて死んだ魂をあたいが三途の川を経由して地獄へと運んでいるのさ。でも一向に人間の寿命が過ぎても魂は現れない人間が居るってなったら死神の中で噂になるわけだ」

 

 「そうですよね。妹紅さんは長生きしていますし噂になるのは当然ですよね」

 

 「わぁらしぃ()は!婆さんじゃねぇぞぉ~!!」

 

 「はいはいわかってますよ(今日の妹紅さんめんどくさいな……)」

 

 「まぁまぁ、荒れなさんなって」

 

 

 酒瓶を直接口に運びながら自己主張する。酔いが周りに周って赤く染まった顔は不服とばかりに抗議していた。そんな妹紅をミスティアと小町の二人は(なだ)めていた。

 

 

 「話を元に戻そうじゃないか。妹紅、それじゃその天人にアタックする気あるのかい?」

  

 「?にゃんのこと~?」

 

 「わかっていないのかい?妹紅あんたはその天人のこと好きなんだろ?」

 

 

 妹紅は固まった。急に石像のように動かなくなった妹紅に困惑する二人……小町は聞くのはまずかったかと思った。次第に酒で赤みがかっていた色が濃くなり、体全体に行き渡りもんぺの色と同じく真っ赤になった。

 

 

 「でぇへへ♪」

 

 「(だれこれ!?気持ち悪!!?)」

 

 「(ありゃぁ……)」

 

 

 にちゃりと溶けたような笑みを浮かべて照れている見たことがない姿にドン引きしてしまったミスティアととろけた顔を見て言葉が出て来ない小町。いつもは鋭い目つきに、ポケットに手を入れて街中を歩く不良娘のような妹紅だが、今はそんな姿とはかけ離れた別人のようになっていた。普段を知っている者ならば誰もが二度見してしまうほどの変わりようであった。これには小町も自然と距離を取ってしまう。

 

 

 「天子いいやつ~♪わたしぃをこわがらな~い!とてもぉやさしいやつ~♪ラララ~♪」

 

 「……妹紅さんが急に歌い始めましたね……」

 

 「……こりゃ相当酔ってるね……あたいでもどうしようもないね」

 

 

 独りでに歌い始めてしまい、ミスティアと小町は蚊帳の外になってしまった。一頻(ひとしき)り歌い終わったらそのままいびきをかいて寝てしまった。

 

 

 「ははっ、これはそっとしておくしかなさそうだね」

 

 「そうですね、小町さんお酌しますよ」

 

 「おっ、わるいね」

 

 

 お酌された酒を一気に飲み干す。

 

 

 「うん、やっぱり仕事終わりの一杯は最高だ」

 

 「仕事ちゃんとしていたんですか?」

 

 

 小町はサボりの常習犯なので仕事をしていると本人が言っても周りは疑いの目を向ける。ミスティアの疑いの目に苦笑いするしかない小町であった。

 

 

 「それは言わないでおくれよ……それでさっきの妹紅の話なんだけど、仙人が出てきたよね?その仙人の名前ってわかるかい?」

 

 「えっ?」

 

 

 仙人の名前を聞かれるとは思っていなかったので記憶を辿って思い出そうとする。そして妹紅がその名を口にしていたことを思い出した。

 

 

 「えっと……妹紅さんが言ってましたね。確か()()()って方でしたね」

 

 「……へぇ……あいつがね……」

 

 

 仙人の名を聞くとどこか落ち着いた様子で応える小町は隣でいびきをかいて寝ている妹紅を横目で観察していた。

 

 

 「(天人か……会ってみる価値があるな。それに……()()()にも会ってみるか)」

 

 

 酒とヤツメウナギを食べ終えた小町は席を立った。

 

 

 「今日も美味しかった。ごちそうさん」

 

 「はい、お粗末様でした」

 

 

 小町は森の中へと消えて行った。話し込んでいてもう辺りは真っ暗になっていた。

 

 

 「妹紅さんもう店じまいですので起きてください」

 

 「ううぅん……」

 

 「起きましたか?妹紅さんももう帰らないと野宿することになりますよ?」

 

 「……」

 

 「不老不死だからって妖怪に襲われてそのままペロリと食べられてしまうことだってあるんですからちゃんと帰って寝てください」

 

 「……」

 

 「あの聞いてます妹紅さん?」

 

 「……」

 

 「?妹紅さん?」

 

 

 目を覚ましたが反応がない。しかしよく見ると微かに震えているように見える。一体どうしたのかと思っていると……

 

 

 「……うっ」

 

 「……うっ?」

 

 「………………………………………………………………………………」

 

 「も、もこうさん……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「う"ぇえ"え"え"え"え"え"え"え"え"え"え"え"え"え"え"え"え"え"え"え"!!!」

 

 「あっああ!?私の店がぁああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

 

 女将の悲鳴が暗闇の森に木霊した。

 

 

 ------------------

 

 

 「うぅ……体がだるい……」

 

 

 妹紅は二日酔いで頭が痛かった。目が覚めるといつの間にか自宅に居て布団の上で転がっていた。

 

 

 昨日は何していたっけ?確か女将(ミスティア)の屋台で飲んでてそれから……それから……

 

 

 …………………………………………

 

 

 ……………………

 

 

 …………

 

 

 ……記憶がねぇ……

 

 

 やっべ……何やっていたのか全く憶えてねぇ……なんか悪い事したような気もするが……いつの間にか帰って来ていたんだから何事もなかったように見える。うん、そうに違いないな。そういうことにしておこう。

 

 

 妹紅は自身の都合がいいように解釈することにした。

 

 

 「飲み過ぎか……宴会騒ぎの時みたいになっていないよな?少し不安だが過ぎたことをグチグチ言っていたんじゃカッコつかないよな……まぁいいや。はぁ……それにしても体がだるい……今日は何にもやる気が起こらねぇ……」

 

 

 妹紅はそのまま布団に倒れた。

 

 

 「……二度寝しよ……」

 

 

 そう思った時に戸が勢いよく開け放たれた。

 

 

 「妹紅!さっさと起きろ!」

 

 「うわぁ!?慧音!?なんで慧音がここに!!?」

 

 

 妹紅の自宅にはもう一人居た。慧音が奥の戸を開け放ち、妹紅に詰め寄った。

 

 

 「妹紅、昨日ミスティアの店で飲んでいたよな?」

 

 「えっ?あ、ああ……ミスティア女将の屋台で酒を飲んだ記憶は一応ある(初めの方だけだけど)それがどうかしたの……?」

 

 「それでなんだが……私もミスティアの屋台へ行ったんだ」

 

 「そうなんだ……それじゃ私を送ってくれたのは慧音?」

 

 「そうだ。大変だったんだぞ!お前を着替えさせて洗濯までさせられたんだからな!」

 

 

 え?着替え?洗濯?慧音は私の服を着替えさせたのか?

 

 

 自分の服装を見ると着物姿だった。妹紅に代わりの服がないと知ると慧音は無理やり妹紅に渡したものだ。しかし妹紅は着物を着るのが面倒くさいので滅多に着ずに押し入れに保管してあったものだった。

 

 

 「この服は慧音から貰った服だ。なんで私着替えさせられたの?」

 

 「お前憶えていないんだな……ミスティアが泣いていたぞ」

 

 「泣いていた?なんで?」

 

 

 慧音はジト目で妹紅を見ていた。

 

 

 私のせい?私ミスティアに何かした……しちゃったのか?記憶がない間に一体何が……?

 

 

 「慧音……私何をやったんだ……?」

 

 

 慧音は言いにくそうに……

 

 

 「妹紅の……飲んだり食べたりしたものをな……その……屋台にひっくり返したのだ」

 

 「……」

 

 

 マイルドに表現された言葉で気がついた。

 

 

 「私ゲ〇ったのか……?」

 

 「こ、こら!下品な言葉は言うな!」

 

 「……」

 

 

 ごめん……ミスティア本当にごめんなさい……これしか言えない。記憶がない時にそんなことを起こしていただなんて……後でお土産持って謝りに行こう……

 

 

 「全く……妹紅聞いたぞ。屋台では荒れていたようだな」

 

 

 ゲ〇っただけでなく荒れていたのか私は……とことんミスティアには迷惑かけっぱなしだな。土下座の準備もしなければならないか……そう言えば無性にむしゃくしゃしていたような気がするぞ。何に対してだったかな?

 

 

 「天子と会えないからって他人に当たるのは良くない事だ。妹紅ならばそのこと良くわかるだろ?」

 

 「天子……!」

 

 

 そうだ!天子の奴は仙人の元で修行しているんだった。住み込みで二人暮らしているらしい……ケッ!別に幽香の野郎と戦うために強くなるのは勝手だが、男と女が一つ屋根の下で寝泊まりするとはいい身分だよな。唾吐きたくなってきだぜ!

 

 

 イライラが積もっていく。妹紅は感情を表に出していないつもりだが慧音から見れば一目瞭然だ。不機嫌が顔に出ていた。

 

 

 「妹紅、お前の気持ちはわかるから落ち着け。ストレスでその内ハゲるぞ」

 

 「蓬莱人はハゲないよ!って言うか慧音は私の気持ちわかるのか?」

 

 「当たり前だ、何年妹紅の友達をやっていると思っているんだ?」

 

 「慧音……」

 

 

 友達っていいもんだな。心細いときとか傍に居てくれる……天子も傍に居て欲しかったなぁ……

 

 

 妹紅は気づく。先ほどから天子の事ばかり考えていることを……

 

 

 『「不老不死だろうと妹紅は妹紅だ。妹紅が自分自身をどう思っているかは知らないけど、私は妹紅のことを友人だと思っている。それに妹紅の長く綺麗な髪に、勇敢な性格、慧音を思う優しい心を持っているじゃないか。不老不死がなんだと言うのだ?妹紅は魅力あふれる女性だ。自分自身を誇るがいいさ」』

 

 

 私が不老不死だと伝えたあの時、天子が私に語り掛けてくれた言葉を思い出してしまう。その時からだったか……天子の奴と友達になり、あいつと会話することだけでも楽しみになっていたのは……私ってば知らず知らずのうちに天子の事が気になっていたのか。でも駄目だ、私は蓬莱人であいつは天人ってだけ。人間よりも寿命が長くてもいずれは先に逝ってしまう。私は蓬莱人であり、女ではないのだから……

 

 

 自分に言い聞かせようとしていた。自分とは釣り合わない、残されてしまう、自分自身は人間をやめてしまったなどを理由にこの感情を忘れようとしていた。不安が彼女の心を支配していく……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『「……わかっているなら今を楽しみなさい。いつか別れが来るのは避けられない。それなら楽しめる時に楽しんで、悲しい時に悲しめばいいじゃない。だから今の内に恋もしたっていいじゃないの。彼が言うようにあなたは藤原妹紅であり、一人の女の子なんだから……」』

 

 

 そんな時に聞きなれた声が頭の中に響いた。それは永遠亭で意外な人物が妹紅に対して送った言葉だった。その言葉は声の主には珍しく妹紅の心を安心させた。

 

 

 輝夜の声かよ……いつもは濁りきった罵倒の一つや二つ浴びせてくるのにこういう時だけいい子ぶりやがってよ……でも、あいつなりに心配してくれた気がする。あいつに心配されるなんて癪だがよ……

 『「楽しめる時に楽しんで、悲しい時に悲しめばいい」』っか……ふん、そうだよな。未来なんて誰にもわからないし、過去は変えられない。私が今までの人生で何度も見てきたことだから良くわかる。出会いがあり、別れが必ず来る……私は永遠だ。置いていかれるのは慣れているし、看取るのはいつものことだ。だから私にとっては愛も恋も既に過去のものだと思っていた。

 けど、気になり始めた。変わり者の天人であり、顔もイケメンであり美しいとさえ思えた。優しく誰とも分け隔てなく接してスタイルもいいし、傍にいると安心できる……初めての出会いは間欠泉が噴出した時だ。間欠泉と一緒に怨霊も湧き出る異変の最中に子供達が興味本位で里から飛び出して行った。その子供達は自力で帰って来たが一人の少女が置き去りにされてしまった。すぐに私と慧音で助けに行かなければならなかったが、里の男達も手伝うと言った。本来ならば嬉しい事だが、相手は妖怪だ。妖怪と戦う術を知らない連中が徒党を組んでも餌になるのがオチだ。話をつけて慧音と共に少女を探しに行こうとした時に出会ったんだ。天子の奴と……

 

 

 その時は只の美しい美青年だと思った。まさか今となっては共に酒を飲み、こうしてあいつのことで悩んでいる自分がいるなんてその当時の私に言っても信じなかっただろうな。

 不老不死の私を化け物扱いせずに友人と言い、女と見てくれていると知った時は正直驚いた。そんな存在は慧音以外にはいなかったからな。

 

 

 「ふっ♪」

 

 

 笑みがこぼれる。

 

 

 女として見てくれていると言う事に喜びがこそばゆいと感じてしまう。嫌じゃない、寧ろとても嬉しいとさえ思える。私はそんな天子のことを……

 

 

 「妹紅、何やら嬉しそうだな?」

 

 「……また顔に出ていたか?」

 

 「ああ、にやけて気味が悪かったぞ」

 

 「ふん、ちょっと気持ちを整理していただけだ」

 

 「そうらしいな。で?どうなったんだ?」

 

 「ああ……自分の気持ちがようやく理解することができたよ」

 

 「……そうか」

 

 

 妹紅を見つめる慧音の目は優しかった。明るい笑顔の妹紅がそこに居たから……

 

 

 ようやく私自身の気持ちがわかった。輝夜の言葉に元気づけられるなんてな……でも今回ばかりは感謝しないといけないな。天子には竜宮の使いや鬼、半人半霊と脇耳と言うライバルが大勢いる。あいつは女たらしのようだからな。だが、負けていられない。自分の気持ちがわかった今、只で諦めるなんてカッコ悪いことは選ばない。私は私の思うがままに動いてやる。諦めたくないと思ってしまったんだから……だって私は天子のことを……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 好きになったんだから……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「むっ!何やら不穏な空気を感じました!天子様に近づくメス豚の空気を!!」

 

 「衣玖殿それは本当かな?それならば妻であるこの豊聡耳神子が黙っていませんよ」

 

 「はぁ?誰が天子の妻になったってぇ?聞き捨てならないんだが耳毛よぉ!」

 

 「酒癖の悪い君は黙っていてくれませんか?酒の臭いが臭くてかなわん」

 

 「あ"あ"ぁん!?やる気かよてめぇ!!耳毛のくせに!!!」

 

 「神子さんも萃香さんもやめてください!私は一刻も早く幽々子様と天子さんへ会いに行くのですから邪魔しないでください!」

 

 「妖夢さん一人で抜け駆けはいけませんよ?私なんて天子様とこれほど長く会えないことなど天界で一度もなかったのですから……天子様の笑顔も見れず、優しい言葉が聞けない今の私は心苦しいのですから……妖夢さん一人だけ良い思いはさせません……死なばもろともですよ」

 

 「そうはいきません!私は天子さんの弟子ですがまだいっぱい教わらないといけないことがあるのです!私一人でも地上へ帰ってみせます!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……勇儀さん、最近こんな調子なんですか?」

 

 「まぁ……天子に会えなくてストレス溜まっているんだろうな。あの萃香ですら酒ほとんど飲まないからな」

 

 「心を読めばわかりますけど……本当に彼は好かれていますね……嫌と言う程に……彼女達が地上へ帰るのはまだ先になりそうですね……」

 

 

 さとりと勇儀はため息が出た。目の前では4人の女が火花を散らしており、折角立て直した建築物が衝突によって再びバラバラになってしまったのだから……

 

 

 「(天子さんの苦労も大概ですね……あいたた!早く屋敷に帰って胃薬飲まないと……)」

 

 

 地底はまだまだ復興には時間がかかりそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ん?」

 

 「どうしました天子?」

 

 「いや……なんでもない(誰かに同情されている気がしたような……)」

 

 

 当の本人は何も知らずに今日も修行に明け暮れていた。

 

 


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