比那名居天子(♂)の幻想郷生活   作:てへぺろん

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あらすじ


妹紅「酒!飲まずにはいられない!」

ミスティア「ほどほどにしてくださいね」

小町「恋バナ聞かせて♪」

妹紅「ゲ〇リンチョ」

ミスティア「私の店がぁああ!?」

妹紅「(私……天子のこと好きなんだ……)」


――っと言う前回です。……どういうことだってばよ?


訳がわからんあらすじは置いておいて……


本編どうぞ!




47話 白と黒の裁き人

 「話し込んでいて帰り遅くなっちった。まぁ、あのヤツメウナギ美味しかったから良しとしますか♪」

 

 

 ミスティアの屋台から帰って来た小町は腹を擦りながら満足感を味わっていた。

 

 

 「こんな時間までどこをほっつき回っていたかと思えば……飲みに行っていたんですね小町……」

 

 

 そんなランラン気分の小町の背後から声がかかった。その声を聞いた瞬間に背筋が寒くなった小町は察することができた。

 

 

 「(……終わった……)」

 

 

 この言葉が相応しいと思ったことはないだろう。何故ならそれは……

 

 

 「聞いているのですか小町!」

 

 

 振り返ると眉間にシワを寄せた上司が立っていたからだ。

 

 

 「きゃん!すみません四季様お許しください!!()()()()しますから!!!」

 

 

 【四季映姫・ヤマザナドゥ

 髪は緑色で、右側が少し長い髪。紅白のリボンを付けており、白のシャツの上に青色の服を着て、黒のスカートを履いている。

  仕事に対して非常に真面目で、不真面目な部下である小野塚小町が怠けていると何時も怒っている。上下関係もあってか、小町からは名字に敬称をつけて「四季様」と呼ばれる。

 彼女は是非曲直庁に勤め死者を裁く閻魔であり、幻想郷の閻魔様と言えば彼女の事になる。

 

 

 「ほほう……()()()()ですか。いい心がけですね」

 

 「(ありゃ?あたいまずいこと言ったような気がする……)」

 

 「小町!」

 

 「ひゃ、ひゃい!?」

 

 

 映姫が手に持っているのは【悔悟の棒】と言う(しゃく)。この悔悟の棒に罪状を書き込むと、罪の重さや数で棒の重みが増し叩く数が増える閻魔の所有物。それを小町に突き付ける。

 

 

 「明日私の私用に付き添いなさい」

 

 「……あたいがですか?それで……あのう……四季様の私用ってなんですか?」

 

 

 口から出てしまった言葉は今更取り消せないし、逆らったら説教をくらうのは間違いない。小町は面倒なことになったと後悔した。

 

 

 「(明日()()()に会いに行こうと思ったのに……日を改めるしかないなこりゃ……)」

 

 

 諦めて渋々映姫に付き添うしかないと判断した(そうしないと後が怖いから)が、映姫からは意外なことを口にした。

 

 

 「明日妖怪の山へ行きます。そこで修行をしているという天人に会いに行こうと思っているのですよ」

 

 

 「おっ?」っと小町から声が漏れる。意外も意外なことにミスティアの話題に出ていた天人の元へ出向くと映姫は言い出したのだ。地上になんて天人が滅多に下りてくることはないし、修行なんて面倒なことをしている天人は小町の知る内では一人しかいない。

 

 

 「四季様、もしかして比那名居天子って天人じゃありませんか?」

 

 「おや?よくわかりましたね。その通りですが小町は何故そのことを?」

 

 「あたいも友人に会いに行くがてらその天人にも興味が湧いて会いに行こうかと思っていたところなんですよ」

 

 「それは奇妙な偶然もあるものですね。これは丁度いいでしょう。小町、明日は寝坊せずに時間通りに待ち合わせ場所に来てくださいね?」

 

 「はいは~い!了解しました!」

 

 「『はい』は一回!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日付が変わり妖怪の山……そのとある場所にどこからともなく二つの影が現れた。 

 

 

 「っと!つきましたよ四季様」

 

 「ありがとうございます小町、それにしてもあなたの能力は本当に使い勝手がよろしいのですね」

 

 

 【距離を操る程度の能力

 空間操作に類する能力で自身の居る地点と目的地との距離を自由に制御できる。本来は乗せた死者の霊が現世で積んできた善行に応じて、三途の河の彼岸までの距離を変えることに使用されるが、普通の道などでも使用できる優れものである。

 

 

 「あたい自身も感謝しているのです。こんな山道を歩かずに一瞬で移動できる能力があるおかげで楽ちんなんですから。この能力を使って面倒な道のりをすっ飛ばしてすぐに女将の屋台に行くことができて一杯の熱燗(あつかん)()()()にこう……くいっと飲み干して……!」

 

 「こ~ま~ち~!!」

 

 「――はっ!?」

 

 

 何とも間抜けなことに小町はうっかり仕事中なのにミスティアの屋台に通っていたことをばらしてしまった。目の前に鋭い目つきで小町を睨みつけている上司の顔に血の気が引いた。

 

 

 「小町!!」

 

 「きゃん!!」

 

 「仕事中にあの店に行っていたんですか!?もう怒りましたよ!そこに座りなさい!正座ですよ正座!!」

 

 「うひぃん!!?」

 

 

 ------------------

 

 

 「なにやら外がうるさいと思えば……」

 

 「あれは……こまっちゃんと映姫っきか」

 

 「こまっちゃん?映姫っき??」

 

 「――いや、なんでもない」

 

 

 おっと私としたことが声に漏れていたとは!危ない危ない、華扇さんに変な目で見られるところだったわ。まさか華扇さんの元に小町さん(これからは普通に呼ぼう)が来るのはわかるが、映姫さんも一緒に来るとは予想外だった。華扇さんと映姫さんに接点はないはず……いや、説教魔としての繋がりはあるか……どちらにせよ二人は何しに来たのだろう?とりあえず説教中なので邪魔せずに視聴しておこうそうしよう。

 

 

 「華扇さんお茶入れますので待っていてください」

 

 「あら、ありがとう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「それでがみがみがみ……ですからがみがみがみ……小町あなたと言う人はがみがみがみ……だからいつもそういうことにがみがみがみ……ちゃんと聞いているのですかがみがみがみ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「これだから他の方からがみがみがみ……あなたはもっと自分が死神だと言う事を自覚してがみがみがみ……酒は飲むなと言いませんが仕事中に酒を飲むなどがみがみがみ……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「そもそもあなたはがみがみがみ……いつもいつも寝てばかりでがみがみがみ……だから要らぬところに栄養がいってこんなにボインに――って何言わせるのですか!?がみがみがみ……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いくら待っても終わらないわ……映姫さんどんだけ話し込んでいるんですか?私一回寝ていた気がする……華扇さんよく起きていましたね……華扇さん?

 

 

 隣で瞳を閉じて静かに瞑想しているはずの華扇を覗き込んでみる。

 

 

 「……ZZZ」

 

 

 鼻提灯(はなちょうちん)が出来上がっていた。

 

 

 はい華扇さんも寝ておりました。お茶飲みながらそよ風を堪能しているフリをして目を閉じて寝ておられました。映姫さんの説教は華扇さんも寝てしまう程の威力なのですね!

 おそらくなんだけれど2、3時間は過ぎていると思う。熱いお茶も冷めてしまい私達が寝てしまうなんて相当なものだもん。説教コースに入ったら地獄だね。それに見てください……小町さんの様子はまるで死神のように無心になっていました。目が死んでいる……説教を受けている当の本人が一番つらいと思うけど小町さんは真面目に働いたら優秀なので映姫さんを怒らせることを言ったんだと私は勘づいた。だから自業自得だと頭の中で整理したので助け出そうとは本来ならば思わないのだが、このままだと無限ループまっしぐらなのでそろそろ止めることにした。

 

 

 「華扇さん起きてください」

 

 「ふぅあはぁい……」

 

 

 軽く肩を揺するとかわいいあくびして起きてくれました……萌えちゃうじゃない♪さてと、華扇さんのあくびで癒されたことだし、映姫さんに声をかけてみますかね。

 

 

 「映姫さん、もうそれぐらいにしてあげたらどうですか?」

 

 「がみがみがみ……ですからそうやって小町は……ってなんですか?今、私は部下に説教しているところなんですよ。なのでとても忙しいのです、後にしてもらえますか?」

 

 「あー、でも小町さんが白目向いてますし……」

 

 

 小町は白目を向いて硬直していた。返事がない、ただのサボり魔のようだ。

 

 

 「なっ!?小町!あなた……」

 

 

 小町さんのことを心配する映姫さんはなんやかんやでも理想の上司ですね。

 

 

 「白目なんか向いて私の話を聞き流そうとしていますね!そうはいきません!こら起きなさい!!」

 

 「きゃん!?こ、ここはどこ……?あたいはだれ……?」

 

 「ここは妖怪の山、あなたは小野塚小町です。自分のこと思い出したでしょう?白目を向いている間に私のありがたい話を聞かなかった小町は黒!ですが、私は優しいのでもう一度初めからその頭に叩き入れて差し上げましょう」

 

 「げげぇ!?そ、そればかりはご勘弁をー!!!」

 

 

 理想の上司ですね(白目)……いや、ほんと……何も言えなくなってしまいました。私の存在を無視してまた説教を始めようとする映姫さん、このままだと小町さんの魂が死神にさらわれてしまうんじゃないかと心配するぐらいに悲痛なお顔をしているわね。あ、でも私を見て「あっ、いい男……」と小声で言う程には余裕があるということなのだろうか……?

 

 

 「ちょっと申し訳ないですけど、小町の上司の方ですね?」

 

 「はい?そうです私は四季映姫です。あなたは小町が言っていた友人の方でしょうか?」

 

 「そうみたいですね。私は茨華仙と申します」

 

 「()()()ですか……()()()()ではなくて?」

 

 

 華扇さんの瞳が一瞬動揺が現れた。映姫さんおそらく華扇さんの()()を……

 

 

 「――!?何故私の名を……!」

 

 

 華扇は初めて会うのにこちらの()()を知っている映姫に警戒心を露わにする。

 

 

 「ありゃ?四季様は華扇のこと知っていたんですか?」

 

 「私は閻魔ですよ?死んだ霊からの証言も聞いているんですからその中で彼女のことを知ってもおかしくはありません。彼女は罪深いですから」

 

 「……そう……でしたか……」

 

 

 警戒心は解けたようだがその表情に影がさしていた。

 

 

 「……大丈夫か華扇さん?」

 

 「えっ?あ、ええ、大丈夫ですよ」

 

 「無理はしないでくれ。華扇さんに何かあったら私は悲しいからな」

 

 「天子……ありがとう」

 

 

 励ましの言葉をかけたが、無理に笑顔を作っているようで少し心が痛んだ。私は知っている……華扇さんが何故昔を知られたくないのかを……でも今の私にはどうすることもできない。まだ霊夢も華扇さんの正体を知らないのであろう。この先、霊夢と華扇さんが対峙するまで私は見守っておくしかないようだ……

 

 

 「ふむ、そちらの男性の方が比那名居天子ですね?」

 

 

 映姫さんは既に私のことを知っているようだ。っとすると映姫さんは華扇さんではなく私にご用があるということだろうか?

 

 

 「ああ、天人くずれの比那名居天子です。どうぞよろしくお願いいたします」

 

 「これはご丁寧にどうも、今日はあなたに用がありましてね、それにしてもあなたは噂通りに礼儀正しい方ですね。天人の皆さんはあなたを見本にするべきです。小町も彼を見習いなさい」

 

 「ぜ、ぜんしょします……」

 

 「それで私に用と言うのは?」

 

 「あなたと一度お話したいと思いまして……ここで立ち話は何ですので屋敷に入ってからにしましょう」

 

 「ここ私の屋敷ですけど……」

 

 「さぁ小町あなたも早く来なさい!お茶も出すこと忘れずに!」

 

 「は、はいー!!」

 

 「……私の屋敷なんだけど……」

 

 

 華扇の訴えも虚しく映姫はずかずかと屋敷に入って行き、小町はお茶の用意、天子は映姫に連れられて客室に向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「どうぞ四季様、お茶が入りました。天子の旦那もどうぞ」

 

 「あ、ああ……ありがとう」

 

 

 ここ華扇さんの屋敷なのに何故小町さんがお茶入れることになっているんだ?それに映姫さんが家主みたいになっているけどここの家主は華扇さんなんですが……なんて言える雰囲気じゃないんですなこれが。

 

 

 天子は映姫とテーブル越しに対面して座っていた。映姫の放つ何とも言えない威圧感があるオーラに口出しできない雰囲気になっていた。閻魔としての格の高さと要らぬことを言えば説教をくらってしまうという危機感が自粛させたのかもしれない。

 ちなみに家主の華扇は部屋の隅っこでしょんぼりしていた。「私が家主なのに……」と何度も呟いているのは気にしないでおこう……

 

 

 「初めまして比那名居天子、いきなり押しかけてすみません。あなたとは色々とお話したいと思って非番の時にここに訪れた訳です」

 

 

 映姫さんが私に興味を持ってくれるなんて感激ですね。一体どんな話をしようかな?

 

 

 ――などと天子が考えていると映姫は懐から何かを取り出した。

 

 

 「四季様それって!」

 

 

 げぇ!?そ、それは――!?

 

 

 天子は表情に出さなかったが内心驚いていた。何故なら映姫が取り出したのは()()だったからだ。

 

 

 「いきなりで申し訳ありませんがあなたの行いを見せてもらいましょう♪」

 

 

 【浄玻璃の鏡

 この鏡の前ではプライバシーも何もなく、過去の行いが全て明かされてしまう。浄玻璃の鏡は閻魔ごとに形状が違うとされており、映姫のものは手鏡である。

 

 

  浄玻璃の鏡で覗かれたら私の行いが映姫さんに筒抜けになってしまう……別に大したことがないと思うかもしれない。転生してからと言うもの私は思い出す限りでは悪行など一度も行ったことはない。ちゃんとトイレに行った後も手を洗っているし、食事する前にはちゃんと手を合わせていただきますと言っている。故に何も恐れることはないはずなのだが……考えてみてほしい。それは転生してから、私が比那名居天子として生きるようになってからの人生だ。体は男である私だが、中身は以前の記憶を持っている私だ。そこで問題である……

 

 

 浄玻璃の鏡は過去の行いの全てを明るみにしてしまうプライバシーがなんぼのもんじゃ!?丸裸にしてやる!!っという便利道具(?)です。それに映し出されるのはどの私でしょうか?

 

 

 ➀外見も中身も超イケメンの転生後の比那名居天子としての私

 

 ➁現実は非情である……転生前の黒歴史ありありの私

 

 ➂両方合わさってプラスマイナスゼロの転生前、転生後の私

 

 

 どれでしょう?

 

 

 …………………………………………

 

 

 ……………………

 

 

 …………

 

 

 ……私的には➂番しか選択肢ないのよねぇ。

 

 

 過去の行いが全て明るみになると言う事は転生前の記憶がある私も含まれていることになるんじゃないかと思うのよ。そこで問題点が一つある。大それたことじゃないんだけど、良い行いも悪い行いも全て映姫さんに見られちゃうってことでしょ?私が何故ここまで浄玻璃の鏡を警戒するのは私が中身が女の子であることを知られることが嫌とかではないの。既にさとりさんには知られていることだし……ならば何故と思うかもしれないよね?

 だって……日常生活とかの出来事を見られるのならまだましだ。でもベットで夜な夜なしていたこととか私だって転生前は薄い本にお世話になったことだってある……それを全部丸裸にされてしまうってことだよね?それと私が昔書いた黒歴史ノートの存在も知られてしまうのよね?引きこもりだったからそういうのを作る時間はたっぷりあった訳だからさ……

 

 

 私が恐れているのは悪い行いがあったらどうしようとかではないのよ。私自身悪い行いなんてやった記憶ないし……トイレを流さなかったこととか、宿題やらずにゲームにのめり込んで夜ふかししたことぐらいはあったわよ。でもそれは私がまだ幼かった頃で子供なら誰でもあること。転生後はそんなこと一度もしていないからね!転生前は私自身は優等生って訳じゃなかったのよ!ただの一般人で人間なら誰しもがやってしまうことだから別におかしいことではない。けれど、それら全てを映姫さんに見られるのって……その……アレじゃん?羞恥心とかその他諸々があって……見られたくないというかそんな感じ。だから浄玻璃の鏡なんて使ってほしくないのよー!特に黒歴史ノート!あれだけは見ないでお願い!!!

 

 

 そんな思いもあってか映姫の持っている手鏡を凝視してしまっている天子の額に汗が流れる。

 

 

 何とか話題を変えて映姫さんが私に浄玻璃の鏡を使用することを忘れさせないと……!

 

 

 だが、現実は非情だった。

 

 

 「ではあなたの行いを見てみますね」

 

 

 サッと手鏡を天子に向けて中を覗き込んだ。

 

 

 「あっ」っと言う声も虚しく浄玻璃の鏡に淡々と映し出される映像を確認していく。

 

 

 「……おやこれは……!」

 

 

 ビクッと体が反応する。もしかして卑猥なシーンを見て映姫が反応したのではないかと冷や汗をかいていた。

 

 

 しばらく映姫は確認していたが、目を瞑り手に持っていた手鏡を下す。その行動一つすら見逃せなくなっていた。体中から汗が流れて気が気ではない天子は明らかに目が泳いでいた。

 そんな天子を見ていた映姫は小町に一声かけた。

 

 

 「小町、そこにいる方と一緒に退席してもらえないでしょうか?」

 

 「えっ?あ、はい」

 

 

 小町は部屋の隅で今も尚「私が家主なのに……」と言っている華扇を引っ張って部屋を出て行った。残ったのは天子と映姫の二人だけ……空気が自然と重くなった気がした。まるで平社員が上司と一対一でお話しする場のような何とも言えない空間になっていた。

 

 

 「いきなり変な真似をして申し訳ありませんでした。疑問に思っているかもしれませんがこの手鏡は……いえ、あなたならわかりますよね天子?いえ……比那名居天子として生きているお嬢さん?」

 

 「私の外見と中身が違うことを知ってしまいましたか……」

 

 「ええ、勝手に見て置いて言うのもあれですけど、真人間になりましたね。いや、人間ではなく天人でしたね」

 

 

 正解は➂番でしたか、やっぱりそうですよね。二人を部屋から追い出したのは私の正体を知られないようにするためだろうね。映姫さんの心遣いに感謝です。知られたら色々と面倒ごとに巻き込まれそうですしね……

 

 

 ホッとため息が出る。何を言われるかと心配していたが、映姫は大人な対応をしてくれていることに安堵した天子である。

 

 

 「あなたの正体を知ってしまった私ですけど、言いふらしたりしませんよ。私は閻魔なのでプライバシーは守ります」

 

 「浄玻璃の鏡で私のプライバシーを無視しておいてよく言えますね……」

 

 「私はいいのです。閻魔ですから……そ、それから生前の行いの中でベットの下にアレはないかと……」

 

 

 映姫が少し顔を赤くしながら目を背けていた。

 

 

 「それは転生前だから許して!って言うか今話題にしないでください!」

 

 

 ベットの下は男も女も関係なしに神聖な領域なの!そこはスルーしてほしかった!冷静だったから大人の対応してくれているんだと思ったじゃない!なんで言ったの!?そこは言わないで記憶から抹消しておくのが親切心だからね!?だから浄玻璃の鏡は嫌だったのよー!!

 

 

 「そ、そうですね。大変申し訳ございません……ごほん!それにしてもようやくわかりました。あなたが白でも黒でもなかった訳が」

 

 

 天子は映姫の言葉に?マークを浮かべる。

 

 

 「どういうことですか?白とか黒とかって?」

 

 「私の能力はご存じですよね?」

 

 

 【白黒はっきりつける程度の能力

 自身の中に絶対の基準を持ち、何者にも左右されずに完全な判断を下すことができる。絶対的な善悪の基準を持ち、決して迷うことが無い。そんな彼女は白か黒かではっきりと判断を言い渡すことができるのである。

 

 

 勿論このことに関して天子は知っていた。

 

 

 「ああ、それが何か?」

 

 「私が見た限りあなたは白でも黒でもなかったのです」

 

 「つまりどちらでもなかったと?」

 

 「ええ、あなたの記事を見た時におや?と思ったのです。今までこんなことはなかったので興味を持ちました。今日手元に浄玻璃の鏡を持って来たのはそのためです。あなたがどんな人物が見定めるために」

 

 

 なるほど、映姫さんでも私が転生者とか気がつかなったのか。白でも黒でもはっきりしなかった私を疑問に思ったから会いに来たと……

 

 

 「転生者自体は珍しくないのですが、あなたのように輪廻転生の輪から逃れて転生して来た者を見たのは初めてだったのですよ?」

 

 「私の転生は映姫さんや他の閻魔様がやってくれたものではないと?」

 

 「ええ、記事であなたを知った程ですし他の同僚たちに聞いても知らないと言っていましたので、私達が転生させたことはありません。こんな不思議なことがあるものですね……」

 

 「私自身も驚きです。第二の人生が男性だなんて……別にそれはまぁいいとしても東方の世界に転生するとは夢にも思わなかった」

 

 

 幻想入りできるなんて思いもしなかった。こうして映姫さんとお話できている私は幸せ者です♪

 

 

 「それに外の世界でもない世界からこの幻想郷に流れてくるなんて……あなたが居た世界が気になります。見た所によると私も【東方】と呼ばれる()()()のキャラクターらしいですね」

 

 「ああ、気を悪くしましたか?」

 

 「いえ、別に気にしません。私は私なので」

 

 

 流石映姫さんだ。さとりさんもそのことについては気にしなかったし、幻想郷の住人は皆心が広いですね。そういう映姫さん好きです(キリッ!)

 

 

 映姫に対する天子の好感度がぐぐーんと上がった。

 

 

 「さてと、ここからはあなたのダメなところをビシバシとお話していくことにしましょう♪」

 

 

 へっ?良く聞こえなかったなぁ……今なんと?

 

 

 天子に嫌な冷や汗が流れ始める。映姫に対する好感度がぐぐーんと下がっているようであった。

 

 

 これは……なんだか嫌な予感がする……

 

 

 「今のあなたは非常に良い行いばかりですが、生前のあなたはよろしくない。これも良い機会ですので私がみっちりと導いて差し上げましょう」

 

 「し、しかし私は転生したからノーカンで……」

 

 「それはそれ、これはこれです。知っていますか天子……私説教が日課になってしまっていて説教しないとどうにも落ち着かなくなってしまうのですよ。小町の説教が途中で中断してしまって……私は今、無性に説教したい気分なのです。なので……あなたの黒歴史を私の中で封じ込める代わりに()()()しましょう♪」

 

 

 …………………………………………

 

 

 ……………………

 

 

 …………

 

 

 「理不尽だぁあああああああああ!?」

 

 

 ------------------

 

 

 「理不尽だぁあああああああああ!?」

 

 「ありゃ?今のは天子の旦那の声……四季様に黒認定されちまったのか?旦那強く生きてくれ……」

 

 

 心の中で合掌しておこう。あたいにはどうしようもないからね。おっと、こっちも何とかしないと……

 

 

 「私が家主なのに……」

 

 

 まだ呟いているよ……こいつ仙人になってから肝っ玉が小さくなっちまったのかねぇ……

 

 

 床にコテンと転がって嘆いている物体を見てそう思った。

 

 

 「ちと起きなよ。あんた仙人になったんだからこんなことで()ねるなよ」

 

 「私が家主なのに……」

 

 「はいはい、あんたが家主だよ。わかっているから元に戻りな」

 

 

 バシッ!鎌で頭を軽くたたくとようやく我に返ったようだ。

 

 

 「はぅ!?何するんですか痛いじゃありませんか!」

 

 「仙人がぶつくさ言っているんじゃないよ。華扇あんた日に日に腑抜けになっていってないかい?」

 

 「ふぇ?そ、そんなことはない……わよ」

 

 

 目を逸らして言うかい……まぁ、昔がやんちゃ過ぎたのもあるかもだね。

 

 

 「まぁ、いいさ。あんたの話を耳にしたんで様子を見に来たんだが元気そうでなりよりだ。しかも男と屋根の下で寝泊まりとは熱いじゃないかいこのこの!」

 

 「ち、ちがいます!天子とはそういう関係ではありません!イケメンと寝泊まりは嬉しいですけど……と、とにかく私と天子は師弟の間柄なんですから布団の中でイチャイチャとかお風呂の中でイチャイチャとかそんなことしてません!」

 

 「あたいはそこまでのこと言っていないんだけどね……そういうことにしておくよ。それで、あんたなんで天子の旦那に修行をつけようと思ったの?」

 

 「天子はですね……」

 

 

 あたいは華扇の話に耳を傾けた。聞けば変わった話じゃないか、あの風見幽香と友人になりたいときたもんだ。これには流石のあたいも驚いたよ。何度か会ったことあるけど取っ付きにくい奴でさ、問答無用でぶっ放されたこともあったよ。あいつに近寄りたがる人妖はまずいない……ああ、一人だけいたね。小さなお人形さんが……妖怪化してから間もない人形だったからあいつもそれほど邪険にはしなかったんだろうね。まぁ、あの子は少ない例だね。

 しかし一度負かされても諦めないとは……旦那もお熱い天人だね。妹紅の奴も惚れるわけだ。そんな旦那の熱い思いに共感したのか華扇の奴も張りきって協力しているみたいの様子……まぁそれだけじゃないんだろうけど。

 

 

 こいつイケメン好きだからな……

 

 

 「……な、なんですか?私の顔に何かついてますか……?」

 

 「いや、なにも」

 

 「私を温かい目で見るのはやめて、なんだか腹が立つわ」

 

 「この程度で腹が立つとは……仙人殿もまだまだ修行が足りないね♪」

 

 「その言い方も腹が立ちますよ!」

 

 

 ムキー!と怒るのを落ち着かせるのに数分、ようやく落ち着いた様子で座布団に座る。

 

 

 「失態です……こんなみっともない姿を見せてしまうだなんて……」

 

 「相手があたいだから心配いらないさ。それに()のあんたの方があたいは好きだ」

 

 「……昔の私とは違います。あの頃の私ではないんです……あの頃の私になるつもりもない」

 

 

 確固として硬い意思を感じる。だが、その表情には影が差していたことを小町は見逃していなかった。

 

 

 「そうかい……でもあんた()()を探しているじゃないか。昔に戻るつもりはないのなら探さなくてもいいだろうに……まぁあたいの推測ならば……おっと、ここからはあたいの独り言なので聞き逃してもらってもいいよ。()()は邪気の塊であるがために、放置しておくと人間に災いをもたらしてしまうため放置できなかった。未練は無くてもやはり自分の一部、自分で始末つけようにも複雑な思いがある。そんな時に博麗の巫女と出会い、一つの案が浮かんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「 『鬼退治をやり直す』と言う案がね」

 

 

 ピクリと華扇が反応する。平静を保っているように見えるが拳を握りしめている姿を見ると察することができた。

 

 

 「桃太郎役を押し付けるつもりなんだろうね。妖怪退治のエキスパートである博麗の巫女は打ってつけってわけだ」

 

 「私は――!」

 

 

 何かを言いそうになった華扇を手で制止させた。

 

 

 「言っただろ?これはあたいの独り言なんだ。あんたはただ耳に入っただけだ。答えを出すのは誰でもない自分自身だよ。あんたは偶然耳にした会話を聞いてしまっただけなんだから何を言う必要はないよ」

 

 「……ありがとう」

 

 「お礼を言われることなんてない。独り言だからね」

 

 「……そうね。独り言ね……わかったわ。そうだ、お茶とお菓子を出していなかったわね。家主であるのは私なんだからお客様はキッチリとおもてなしして差し上げないと」

 

 

 華扇は先ほどの暗い表情とか一変して明るい表情で部屋を出て行った。

 

 

 どこまでも世話のかける仙人さんだ。まぁいいや、あいつが元気になってくれたおかげでのんびりとお茶とお菓子を堪能できるんだし良い事だね。

 

 

 そう思っている矢先に戸が勢いよく開かれた。そこには別の部屋で天子と()()していたはずの映姫が立っていた。

 

 

 「小町!こんなところにいたんですね!さぁ、説教が途中でしたので続きといきましょうか!」

 

 「四季様!?なんでそんなに生き生きとしているんですか!?もういいじゃありませんか!」

 

 「駄目です!途中で止めてしまえばあなたの為になりません!」

 

 「……ちなみに天子の旦那はどうしたんですか?」

 

 「私の()()を聞いて感激のあまりトリップしてしまったようです。早めに終わってしまって時間が有り余っているので小町の説教の続きをしないと思いましてね」

 

 

 感激のあまりトリップって……天子の旦那、あんた一体どんな()()をしてたんだい……!?

 

 

 「さぁ小町、あなたと言う人はいつもいつもサボってばかりで上司である私の身にもなってください!それからがみがみがみ……!!!」

 

 「誰か助けてくださいー!!!」

 

 「小町大声を出さないでください!今大事な話をしているところなんですよ!だからあなたはいつもがみがみがみ……」

 

 

 もう……あたいゴールしてもいいよね……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……なにこれ?」

 

 

 お茶とお菓子を取りに行って帰って来た華扇が見たのは真っ白に小町と永遠と説教し続ける映姫の姿があった。

 

 

 ちなみに……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あはは……私の……黒歴史ノートの……中身を……朗読するなんて……映姫さん……鬼畜ですよあなた……」

 

 

 別の部屋では現実逃避して真っ白になった天子の姿があったとか……

 

 


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