比那名居天子(♂)の幻想郷生活   作:てへぺろん

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萃香戦ラストです。



本編どうぞ!




4話 喧嘩の決着

 とある森の奥地で繰り広げられていた戦いは激しさを増していた。大地が砕け、空を裂くように鋭い刃が肉を絶つ。そこは戦場と化していた。赤い生暖かい液体が体から流れる鬼がそこにいる。口から流れる赤い血は地面に染み込まれていき戦場を赤く染めていた。鬼である萃香の体に無数の傷がついてそこから血が流れ出ていた。

 

 

 「はぁ……はぁ……」

 

 

 何度ぶつかっただろうか?何度叩きのめされただろうか?何度剣の刃に切り刻まれただろうか?憶えてはいない。しかし、確かに萃香の体は傷つき、打撲の跡も見受けられた。息をきらしているが、そんなことなど気にも止めない。気にしている余裕などどこにもなかったからだ。

 

 

 「はぁ……はぁ……へへ……はぁ……へへ……へへへ……!」

 

 

 嬉しかった。ただそれだけだった。退屈だった日々にたまに弾幕勝負が舞い込んでくる日常と毎日飲むことができる酒。それだけでは萃香は満足できなかった。鬼である者ならば誰もが避けて通れぬ道……命を科して戦い自分とも渡り合える強者との死闘に無意識に恋していた。昔ならそういう者達は大勢いた。しかし、今はどうだ?スペルカードが主流になり、戦いこともごっこ遊びになった。命を懸ける必要もなくなった。争いが少なくなり、平和になったはいいが、平凡でつまらない日常でもあった。鬼と戦える者は少なくなり、戦うことすらなくなった今の幻想郷に恋い焦がれていた死闘がやってきた。そして、萃香は体感している。

 

 

 萃香は自分の体を見る。傷口から血が流れて痛々しい。何か所か血が滲み、紫色に変色している部分もある。

 天子が持っている緋想の剣は鬼である萃香の強固な肉体を容易に切り裂いた。天子が操る要石に何度も痛めつけられた。そして、天子の体術が萃香の攻撃を難なくと受け流す。萃香は今まで圧倒的な力で天狗を河童を自分と同じ鬼達を従えてきた。萃香に文句を言える者もそういないし、誰も逆らおうとさえしない。

 自分は強いから当然だと思っていた。しかし、目の前の天人はそんな萃香を翻弄した。

 

 

 萃香は押されていた。自分はこんなにボロボロなのに、天子の方は初めの腹に決まった一発と拳がかすった程度でしかなかった。萃香は実戦経験がないなんて嘘だと思ってしまっていた。しかし、天子は嘘は言っていないとわかっている。だから尚更自分が押されている状況に驚くしかなかった。萃香は本気で戦っていた。体を霧状に変えて戦ったり、炎を吐いたり、巨大化して踏みつぶそうともした。それでも、天子はそれを掻い潜ってきた。萃香の技を攻撃を掻い潜って来るたびに驚かされた。

 

 

 「……はぁはぁ……比那名居天子……私が今まであった男の中でお前は最高の男だよ」

 

 「ありがたい。萃香も最高の相手だ」

 

 「嬉しいね……惚れちまうよ……♪」

 

 

 萃香の頬がほんのり赤みをおびていた。その瞳には天子しか映っていなかった。

 

 

 鬼は引かない。目の前の天人が自分よりも強いということを実感してもプライドが許さない。相手が強いほど鬼の闘争心は熱くなる。そして、萃香は一つの思いを抱いた。

 

 

 「(だからこそこの技で仕留めてやる!)」

 

 

 絶対に勝ってみせると……!!

 

 

 「天子……次が最後の技だ。思う存分味わってくれ!」

 

 「そうか……ならば……!」

 

 

 天子は緋想の剣と要石をしまった。これには萃香も頭に?マークを作るばかりである。

 

 

 「?何のマネだい?」

 

 「味わってくれと言っただろ?ならば私は萃香の攻撃をこの体で受けてやる!」

 

 「本気か!?耐えられなかったら死ぬぞ!?」

 

 「死なないさ。それに期待に応えずに逃げるなんて死んだ方がましだと思えるからな」

 

 「(ああ……なんてやつなんだこいつは!)」

 

 

 今にも嬉しさで絶頂しそうになったのを我慢した。鬼である萃香の攻撃を真っ正面から受けると天子は言ったのだ。妖怪でもこんな無謀なことはしない。しかし天子は確かにそう言った。嘘などではない本気の言葉だった。

 

 

 「そうか!ならば私の攻撃を耐えることができたなら天子の勝ち、耐えられなければ私の勝ちでどうだ?」

 

 「望むところだ萃香!」

 

 

 向き合う二人に沈黙が流れる……

 

 

 「行くぞ天子!」

 

 

 萃香の拳に力が収束するのがわかる。能力を使って自分のありったけの妖気を力に変えて拳に集めていた。尋常じゃない程の力を感じる。決してごっこ遊びでは見ることが出来なかった萃香の本気の拳で天子を貫かんとその拳は解き放たれた。

 

 

 「終わりだー!!!」

 

 

 ------------------

 

 

 萃香強すぎ……正直だいぶしんどいです。

 何度も何度も攻撃を繰り返してきて倒れる様子はないし、鬼の耐久性侮ってました……緋想の剣で萃香の肉を絶ち傷つけるごとに心が痛むけれど、これは真剣勝負なため手を抜いたら萃香に失礼です。

 私は要石で萃香を翻弄して緋想の剣で肉体の弱点をつき、強固な硬さを誇る鬼の肉を切り裂いていった。更には要石で追撃し痛手を負わせた。どんな硬いものでも弱点をつければ容易いものである。緋想の剣ってある意味チート武器じゃないかな?でも、聞いた話だとこの剣をうまく扱えないと意味をなさないんだとか……

 それで萃香はボロボロの姿だ。完全に私の方が優勢な状況を作った。このままいけば確実に勝てるが萃香を侮るなかれ……まだ彼女の瞳には敗北を悟った目ではなかった。

 

 

 「はぁ……はぁ……」

 

 

 萃香は息をきらしていた。

 

 

 「はぁ……はぁ……へへ……はぁ……へへ……へへへ……!」

 

 

 萃香は笑い出した。卑屈な笑いではなく、楽しみで仕方ないように煌々と輝いていた。

 

 

 「……はぁはぁ……比那名居天子……私が今まであった男の中でお前は最高の男だよ」

 

 「ありがたい。萃香も最高の相手だ」

 

 「嬉しいね……惚れちまうよ……♪」

 

 

 ヤダ私ったら萃香に褒められただけじゃなく、惚れられてしまったかも♪お、おちつくのよ私!萃香と禁断の愛に目覚めることはないはずよ!これは喧嘩した者同士でしかわからない熱い友情に違いない。私達女の子同士ですもんね!あ、私の体は男だったわ……だ、だけど萃香は喧嘩好きだし、きっと河童のように盟友として見てくれていると私は思う。そうじゃないと私はこれからどう接したらいいかわからないから……

 

 

 そのような勝手な妄想を抱いている天子に対して萃香は言う。

 

 

 「天子……次が最後の技だ。思う存分味わってくれ!」

 

 「そうか……ならば……!」

 

 

 萃香の最終奥義か……これは全力で受け止めてあげないといけないようだ。

 私は緋想の剣と要石をしまって万全の状態を作る。私の()()()()()を見せる時が来たようだ。

 

 

 「?何のマネだい?」

 

 「味わってくれと言っただろ?ならば私は萃香の攻撃をこの体で受けてやる!」

 

 「本気か!?耐えられなかったら死ぬぞ!?」

 

 「死なないさ。それに期待に応えずに逃げるなんて死んだ方がましだと思えるからな」

 

 

 萃香の顔がとろけたようになる。いけません女の子がそんな顔しちゃ!萃香嬉しいのはわかるけど落ち着こう?COOLに!COOLに行こう!

 

 

 「そうか!ならば私の攻撃を耐えることができたなら天子の勝ち、耐えられなければ私の勝ちでどうだ?」

 

 「望むところだ萃香!」

 

 

 天子は受ける。場は必然と無音の世界へと変わった。

 

 

 「行くぞ天子!」

 

 

 走り出してこちらに向かってくる萃香の拳に絶大な力の収束しているのがわかった。これは私でも耐えきれるか?否、耐えねばならない!引かぬ!媚びぬ!省みぬ!比那名居天子に逃走はないのだー!!!

 

 

 「終わりだー!!!」

 

 

 萃香の拳が天子に迫る!

 

 

 とっておきを発動するなら今しかない!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『無念無想の境地』!!!

 

 

 

 

 

 萃香と天子が激突した……

 

 

 ------------------

 

 

 戦いは激しく周りの者は岩陰に隠れてその様子を窺っていた。

 

 

 「……」

 

 

 紫はただ見ているしかなかった。本気の戦いに水を差すわけにはいかないし、自分もこの戦いを望んでいたから。しかし、紫の想像とは現状の様子はかけ離れていた。

 

 

 紫は萃香に食って掛かる程度の器が天子に備わっていることが見て取れていた。ならば実力はどうか?紫の予想では萃香より劣る、良くてもう一歩の所までで萃香には届かないと思っていた。違った……現状は萃香の体がボロボロになり、天子が受けたのは最初の一発がまともだった。他はかすった程度のものだった。それだけではない。萃香が本気で相手にしている。久々に萃香の本気の戦いを見た。彼女が本気になることなど大昔の事以来だったし、本気の萃香と戦っても天子の方にはまだ余裕があるように見えた。

 

 

 手に持つ剣は鬼の体を傷つけ、宙に浮かぶ石はまるで生き物のように自在に動き萃香を襲った。そして、それを操っている天子は萃香の攻撃を紙一重でかわしている。萃香の攻撃を耐えた天子の肉体も驚きだった。予想外のことが多すぎる。

 

 

 「(あの天人がこれほどまでの実力者だったなんて……)」

 

 

 そう思っていた。天子の方が萃香を押していた。萃香のあんな姿は見ることはないだろう。他の者達もそうだった。

 

 

 「伊吹様……押されてる……!?」

 

 

 にとりは信じられない顔をしていた。自分達を支配していた鬼の萃香のボロボロな姿を見ているのだ。これほどの光景は生きてきた中で一番の驚きだった。

 

 

 「萃香もそうだけれど、彼は凄いわね。こんな戦いは普通じゃ見られないわよ」

 

 「そうね。レミィが知れば興味津々になるのは間違いないわね」

 

 

 アリスとパチュリーは岩陰に隠れながら感想を述べる。意外と魔法使いの二人は落ち着いており、状況を観察していた。

 

 

 「こ、これは大大大スクープですよ!まさかあの伊吹様に血を流させるなんて……!こんな記事は一生に一度ないでしょうか!?」

 

 

 文は手に持ったカメラを戦っている二人に向けて撮影し続けている。あまりに集中し過ぎて岩陰から半分以上身を乗り出す形だが、アリスが操る糸でしっかりと体を結ばれてそれ以上出て行かないようにしてくれていた。

 

 

 そして一人……紫は戦っている天子の姿をずっと凝視していた。

 

 

 「(イレギュラーな天人……比那名居天子……彼が幻想郷に一体何をもたらしてくれるのかしら?)」

 

 

 

 

 

 

 戦いは長引き遂に萃香が息をきり始めた。そして今天子との死闘に決着をつけるために宣言する。

 

 

 「天子……次が最後の技だ。思う存分味わってくれ!」

 

 「そうか……ならば……!」

 

 「(彼が己の武器である剣と要石をしまった?何をするつもりなの……?)」

 

 

 天子の行動を見た紫は疑問に思う……萃香も同じだったらしく首を傾げていた。

 

 

 「?何のマネだい?」

 

 「味わってくれと言っただろ?ならば私は萃香の攻撃をこの体で受けてやる!」

 

 「本気か!?耐えられなかったら死ぬぞ!?」

 

 「死なないさ。それに期待に応えずに逃げるなんて死んだ方がましだと思えるからな」

 

 「(萃香の拳をあえて受けると言うの!?萃香の攻撃をまともに受けようとするなんてあなたはどうかしているわ!?)」

 

 

 紫の顔にも明らかな動揺が見て取れた。萃香の拳は鋼鉄をも軽々と砕くものであり、しかも本気になれば大地は砕け散り辺り一面は荒野になるだろう。それをあえて受けると言う……鬼の拳を受けた彼ならば、萃香と戦っている天子ならばそんなことぐらいはわかるはず……戦っている内にどうかしてしまったのだろうかとも紫は思いそうになったが、すぐにその考えは捨てた。

 比那名居天子には萃香の拳を耐える自信がある。そう紫の思考は考えを出した。

 

 

 「(まさか……そんな!?鬼の拳を耐える方法があるなんて……!?)」

 

 

 馬鹿げた力を振るう鬼のしかも四天王である萃香の拳を受ければ紫ですら耐えることはできないだろう。スキマを使って攻撃を回避するしか方法はない。しかし、天子にはそんな力はない。もしかしたらありえないことが起こってしまうのではないだろうかと思った。

 

 

 「そうか!ならば私の攻撃を耐えることができたなら天子の勝ち、耐えられなければ私の勝ちでどうだ?」

 

 「望むところだ萃香!」

 

 

 この戦いがどちらが勝つかわからない……もしも萃香が負けるようなことがあれば……

 

 

 「行くぞ天子!」

 

 

 萃香が天子に向かって走り出した。天子が何を仕出かすのか、いつの間にか罠を張ったのか、紫は決して見逃さないように、意識を集中した。

 二人の距離がゆっくりと縮まっていくようにも見えた。緊張が紫達を支配し、時間がゆっくりと動いているような感覚に陥った。

 

 

 そしてその時は来た……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「終わりだー!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 周りの木々は根元から宙を舞い、岩は砕け飛び、その場にある空気までもが衝撃で吹き飛んだように思えた。圧倒的な威力を持つ拳が大地をえぐり、その場にいる生き物全てを飲み込んでしまうような一撃が一人の天人を飲み込んでいった。鳥も虫も小動物でさえ、誰も存在しなくなった場にはただ立っている者がいた。

 

 

 伊吹萃香……鬼の四天王にして鬼の最強格の存在。大地をえぐりとった拳を振るった者……が立っていた。

 

 

 「……」

 

 

 萃香はただ放った拳の先を見つめるしかなかった。彼女はその先だけを見ていた。何も無くなった空間に一体何があるというのだろうか……?

 

 

 その場には居たのは萃香……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……だけではなかった。

 

 

 「……今のは……効いたぜ……!」

 

 

 天子もそこに確かに立っていた。

 

 

 萃香の拳を受けた天子は吹き飛ばされるも足で踏ん張り耐えたのだ。体に走った衝撃は背中を突き抜けて天子の後ろ側の木々や岩を破壊した。驚愕の威力だった。生きとし生ける者があんなのを食らえば即死どころか意識すらせずに天国へ行ける……いや、魂までもが消し炭になってしまうんじゃないかと思うぐらいだった。その攻撃を天子は耐えた。そして生き残った。決定的な天子の勝利が形となって表れていた。

 

 

 「……へへ……負けちまった……」

 

 

 萃香は自らの拳を下げて悟った。自分は負けてしまったのだと……

 

 

 「危なかった。下手していたら本当に死んでいた」

 

 「でも、生き残っただろ?天子は凄い奴だよ……私の完敗だ」

 

 

 そう言うと萃香は尻もちをついた。そして全てを吐き出すように言った。

 

 

 「ああ!負けたのはいつぶりだったけなぁ~?憶えてないや。まぁ、そんなことはどうでもいいか!今日という日がこれほど喜ばしい日になるなんて思わなかったよ」

 

 「ふふ、私もそうだ。私も萃香に出会えたことを誇りに思う」

 

 

 天子は笑顔で萃香を見る。萃香の方は薄っすらと頬が赤くなっているように見えた。戦っていて体が火照っていたのだろうか?萃香は慌てて天子の目から逃れるように視線を離す。

 

 

 「わ、わたしも……天子に出会えてよかったよ……」

 

 「萃香……ありがとう」

 

 

 天子は萃香に手を差し伸べる。萃香はその手をチラチラと横目で何度か見ていた。少ししてからその手を握り立ち上がった。

 

 

 「ま、まぁ……天子が耐えきったんだから天子の勝ちだぞ」

 

 「ああ、それはわかっているが?」

 

 

 天子は萃香が何か言いたそうにしているのがわからなかった。頭に?マークが浮かんでいる。

 

 「敗者は勝者の言うことは聞くものだ。勿論、この首を差し出せと言われても私は構わない。天子なら喜んでこの首差し出すよ!」

 

 「「伊吹様!!?」」

 

 

 萃香が自分の首を差し出してもいいと言った。これには文もにとりも黙っていなかった。鬼である萃香にはプライドがあった。鬼として敵を蹴散らしてその屍を踏み台にして勝利の雄たけびを上げる鬼としてのプライドが……しかし、萃香は心の底から完敗を認めてしまった。鬼の中でも変わり者の萃香でも天子に敗北を認めてしまったためにそのプライドは意味をなさなくなっていた。もう萃香は満足していた。この戦いを決して忘れないし、自分を打ち負かした比那名居天子という存在は永遠に萃香の心に刻み込まれていた。死んでも悔いはないとさえ……

 

 

 沈黙が支配する。文とにとりは萃香と天子を見比べていた。もし萃香の首を欲しいと天子が言ったらどうしようかという若干の不安があったからだ。それに、天子という人物が二人にはわからない。萃香を打ち負かした天人としか知らない。悪い天人ではないように思えるが……もしものことがある。二人は萃香に恨まれてもそれだけはさせるべきではないと心の中で動けるように準備していた。

 

 

 「……そんなことはしない。それに私はただこの異変の情報を得ようとしてここまで来ただけだ。本当は喧嘩しに来たわけでもなかったからな」

 

 「ああ……そういえばそうだった……忘れてた」

 

 

 萃香は完全に忘れていたようだった。そのことに周りの者達がズッコケるような錯覚をおこした。

 

 

 「まぁ、私が勝ったのも日々の努力があってのものだ。それに萃香の能力を知っていたことも勝利のパーツでもあったってわけだ」

 

 「そうなのか!私のこと知っていてくれたのか……?」

 

 「ああ、萃香のようなかわいい子を知らないなんて天罰が当たってしまうよ」

 

 「あっ」

 

 

 萃香の顔がみるみる赤くなっていき、萃香は慌てて天子から離れてしまう。

 

 

 「?どうした萃香?」

 

 「にゃ、にゃんでもにゃい!」

 

 「?猫マネか?」

 

 「ち、ちがうわ!!」

 

 

 顔を真っ赤にして怒る萃香とそれをなだめる天子の姿が喧嘩を終わらせる証明となっていた。

 

 

 ------------------

 

 

 「……今のは……効いたぜ……!」

 

 

 皆さん、いきなりですけどひとこと言わせてくれない……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 超痛いんですけど!!?

 

 

 なに私気取ったセリフ言っているんでしょうか!?めっちゃ腹痛いです!!私は元天子ちゃんの『無念無想の境地』によって防御力を極限以上に強化したんです。本来ならば『無念無想の境地』は、一時的に身体能力を強化し、あらゆる攻撃に怯むことなく行動できるようになるが、代わりにガードができなくなるいわばスーパーアーマー状態になる。スーパーアーマーとは、ゲーム内のキャラクターが相手から攻撃を受けると『のけぞる』『よろめく』など攻撃や移動などのアクションがキャンセルされてしまう事がある。しかし、アーマー持ちならばこのようなキャンセルが発生せず、即座に反撃へ転じられるという利点がある。

 ……のはずなんですが、私吹っ飛ばされて、のけぞる&よろめきそうになりましたよ!?それほど萃香の一撃がヤバかったものだというものがわかった。調子こいてもし私の防御力より萃香の攻撃力の方が上だったら今頃私は……

 

 

 考えるのは止そう……結果どうであれ萃香に私は勝った。比那名居天子として、元天子ちゃんの名誉を守ることに成功しました。原作じゃ負けちゃうけどね。それよりも腹が痛い。我慢強いのは流石元天子ちゃんの体だ。我慢することに何の抵抗力もないのが感じ取れる。やっぱりこの体の影響が私の性格にも少し影響しているみたいだね。今後の参考にさせてもらおう。

 

 

 「……へへ……負けちまった……」

 

 

 萃香がショックを受けているのかな?負けたからか?でも……清らかな顔だ。寧ろ清々しいって表情を萃香はしている。きっとこれは漫画である満足する戦いに敗れ去った者の表情に違いない。我が生涯に一片の悔いなし!とか言いそう……言ったら死んじゃうから全力で止めるけど……

 

 

 「危なかった。下手していたら本当に死んでいた」

 

 「でも、生き残っただろ?天子は凄い奴だよ……私の完敗だ」

 

 

 またまた褒められました。萃香からの評価高すぎじゃないかな?そんなことないか、萃香に勝ったんだし。まさか本当に勝てるとは思わなかったけど。

 

 

 「ああ!負けたのはいつぶりだったけなぁ~?憶えてないや。まぁ、そんなことはどうでもいいか!今日という日がこれほど喜ばしい日になるなんて思わなかったよ」

 

 「ふふ、私もそうだ。私も萃香に出会えたことを誇りに思う」

 

 

 そう言うと萃香の顔が赤い気がする。運動したせいでもあるよね。まさか萃香本気で私の事をす……駄目です!私は中身は女の子なんですよ!でもちょっと嬉しい♪でもそれはありえないかな?萃香は喧嘩仲として私を好いていてくれていると思うしそんな都合の良い事はない。現実は非常である……

 だが、私は心の底からこう思える……萃香に出会えて本当によかったと……!

 

 

 「わ、わたしも……天子に出会えてよかったよ……」

 

 「萃香……ありがとう」

 

 

 萃香に感謝です。初の東方キャラとのバトル一発目が本気の萃香なんてびっくりです。衣玖はチュートリアル的な練習だったし、森で出会った雑魚妖怪では話にならなかった。これは生涯忘れられない戦いになった。

 

 

 私は感謝の意味を込めて萃香に手を差し出す。

 

 

 「ま、まぁ……天子が耐えきったんだから天子の勝ちだぞ」

 

 「ああ、それはわかっているが?」

 

 

 萃香が私に何か言いたそう……なんだろうか?

 

 

 「敗者は勝者の言うことは聞くものだ。勿論、この首を差し出せと言われても私は構わない。天子なら喜んでこの首差し出すよ!」

 

 「「伊吹様!!?」」

 

 

 え”え”!?首とれって言うの!?冗談でしょ!?私は萃香の首チョンパなんか見たくないし、絶対にしない。鬼ならではの回答だと思うけど、私は嫌だ。折角萃香や紫さん達に出会えたのにおさらばなんて望まない。私のエゴかもしれないけど、そうでないと私が納得いかない。文もにとりも驚いているし……

 

 

 私が出す答えは当然ながらNOだ!それに、ただ地底で起こっている異変がいつ頃終わるか聞きに来ただけなんだけど……もしかしたら忘れてるのか?

 

 

 「……そんなことはしない。それに私はただこの異変の情報を得ようとしてここまで来ただけだ。本当は喧嘩しに来たわけでもなかったからな」

 

 「ああ……そういえばそうだった……忘れてた」

 

 

 やっぱり忘れていたみたいだ。私も途中戦いに集中し過ぎで忘れていました。人のこと言えません。なので黙っておきます。イケメンは醜態をさらけ出さないのだ!

 

 

 「まぁ、私が勝ったのも日々の努力があってのものだ。それに萃香の能力を知っていたことも勝利のパーツでもあったってわけだ」

 

 「そうなのか!私のこと知っていてくれたのか……?」

 

 

 あ!また余計なことを言ってしまった!?ここは……イケメンロールで誤魔化そう!

 

 

 「ああ、萃香のようなかわいい子を知らないなんて天罰が当たってしまうよ」

 

 「あっ」

 

 

 セーフ!私はゲームであなたを知っていますなんて言って残念なイケメンにならずに済んだ。それにしても萃香が挙動不審だ。一体どうしたんだ?

 

 

 「?どうした萃香?」

 

 「にゃ、にゃんでもにゃい!」

 

 「?猫マネか?」

 

 「ち、ちがうわ!!」

 

 

 プンプンと子供のように怒る萃香をなだめる……何が萃香を怒らせた?あれかな?イケメンに耐性がなかったとかかな?ふむ……萃香の性格的に何に怒っているのかすぐにわかると思ったんだけど……?もしかしたら萃香に本当に惚れられてしまったとか?それは……どうしよう?ありがたいけど私はムラムラしない。中身女の子だもん。

 だが、答えを出すのは不味い。早とちりで「お前何言ってんの?引くわー」とか言われたら私は天界から飛び降りよう……地上に激突してもこの体で死ぬかわからないけれど……まぁ、今はそれは置いておこう。とりあえず私が勝ったんだから萃香はさっき「敗者は勝者の言うことは聞くものだ」そう言った。ならばお願いしようかな……

 

 

 「ならば、萃香にお願いがあるのだけど?」

 

 「ふぇ?お、お願いか……なんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「今度、宴会しないか?」

 

 

 ------------------

 

 

 目の前には私の拳で荒れ地と化した戦場にあいつは居た。

 

 

 「……今のは……効いたぜ……!」

 

 

 天子の奴が私の拳を受けて立っていた。私は唖然とするしかなかった。そして私は悟ってしまった……

 

 

 「……へへ……負けちまった……」

 

 

 私の口は勝手に言っていた。負けてしまった……心の底からそう思えて仕方なかった。天子は私の拳を受けてしかも生きていた。私の渾身の一撃を受けても立っていたんだ。これはもう完敗だよ……正々堂々と戦って負けたんだ。もう私……満足だ。

 

 

 「危なかった。下手していたら本当に死んでいた」

 

 「でも、生き残っただろ?天子は凄い奴だよ……私の完敗だ」

 

 

 本当に凄い奴だよ。天人はどういつもこいつもつまらない生き物だと思っていたけど、天子のような奴がいただなんて……嬉しいな。天子ともっと仲良くなって親友になりたかった……

 

 

 「ああ!負けたのはいつぶりだったけなぁ~?憶えてないや。まぁ、そんなことはどうでもいいか!今日という日がこれほど喜ばしい日になるなんて思わなかったよ」

 

 「ふふ、私もそうだ。私も萃香に出会えたことを誇りに思う」

 

 

 誇りに思うだなんて……天子、お前は本当にいい男過ぎるよ。こんな日は一生に一度あるかないかだったよ。こんなに心の底から吐き出せたのはいつ以来か……

 天子の顔綺麗だよな……男のくせに美形すぎるし、まるで女がそこにいるようだよ。なんだか見つめられていると照れてしまうね♪

 

 

 「わ、わたしも……天子に出会えてよかったよ……」

 

 「萃香……ありがとう」

 

 

 手を差し出されたので握る。天子の手は温かかった。私のような酒飲みの手とは違う綺麗な手だった。男の中でも見たこともないほどの綺麗な手……ちょっとドキッてしてしまった私自身をぶん殴ってやりたい。天子に失礼だ。

 

 

 「ま、まぁ……天子が耐えきったんだから天子の勝ちだぞ」

 

 「ああ、それはわかっているが?」

 

 

 こいつ私が言いたいことわかっていないらしいな。敗者は勝者に従うしかない。鬼である私にだってプライドがある。何を言われても受け入れてやるし、天子になら例え体をボロ屑にされてもいいとさえ思えてくる。不思議な感じだなぁ……私は一体何を思っているんだ?

 わからない……わからないから今はどうでもいいか。それよりも天子がわかっていないから口で伝えてやるか。

 

 

 「敗者は勝者の言うことは聞くものだ。勿論、この首を差し出せと言われても私は構わない。天子なら喜んでこの首差し出すよ!」

 

 「「伊吹様!!?」」

 

 

 天狗と河童が驚いているがそんなことはどうでもいい。この首、天子にならくれてやってもいい。いや、見栄を張った。この首をくれてやりたい。そう思えるんだ。天子になら私は殺されてもいいと……

 

 

 「……そんなことはしない。それに私はただこの異変の情報を得ようとしてここまで来ただけだ。本当は喧嘩しに来たわけでもなかったからな」

 

 「ああ……そういえばそうだった……忘れてた」

 

 

 そういえばすっかり忘れていた。元々私と喧嘩しに来たんじゃなかった。天狗の奴に用事があったんだったな。私は一人で勝手に話を進めていたらしい……今思うと恥ずかしい……

 

 

 「まぁ、私が勝ったのも日々の努力があってのものだ。それに萃香の能力を知っていたことも勝利のパーツでもあったってわけだ」

 

 「そうなのか!私のこと知っていてくれたのか……?」

 

 「ああ、萃香のようなかわいい子を知らないなんて天罰が当たってしまうよ」

 

 「あっ」

 

 

 それは卑怯だ……天子のそんな笑顔で見つめられたら……わ、わたしは何をしている!?天子はただ笑顔を向けてくれただけだろ!?そ、それに私のこと知っていたみたいだし……あ、あれ?なんで嬉しいんだ?そ、それにかわいいだなんて……わ、わたしを子供扱いしているな!私はこう見えても大人の仲間入りなんだぞ!!

 だけど、なんなんだ……この感情は?何故か天子を直視できない……さっきまで大丈夫だったのに……体が何故か先ほどから熱い……私は一体何がどうしたんだ!?

 

 

 「?どうした萃香?」

 

 「にゃ、にゃんでもにゃい!」

 

 「?猫マネか?」

 

 「ち、ちがうわ!!」

 

 

 こ、こいつ私を猫なんかと間違えやがって!もう怒った!コテンパンにしてやるー!

 

 

 萃香が怒っていると天子がこう言った。

 

 

 「今度、宴会しないか?」

 

 

 宴会か……天子と一緒に……最高だ!私を倒したお前とならいつもよりも楽しめそうだな!それに私は決めたぞ。私は天子と……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 親友(とも)になるんだ!!!

 

 


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