そういうことなので……
本編どうぞ!
「ぐぐぐぐぅ!!?」
「がはぁはは!!?」
天子の放った『全人類の緋想天』と幽香が放った『マスタースパーク』がぶつかっていた。
互いの本気を出し合った正真正銘の最後の一撃……これに打ち勝てばその者こそが勝者である。
「ぬっ!?ぐぐぐぅ……はぁあああああああ!!」
「く、くぅ……!?まだまだよ!!!」
押し、押され、お互いの丁度中心でぶつかりあう光の塊……『全人類の緋想天』と『マスタースパーク』がしのぎを削っていた。
一瞬でも力を抜けば全力の塊であるそれが自分に振りかかる……しかし二人にはそんなものなど恐怖に感じなかった。寧ろ二人にとっては相手その者の全てを表しているように見えていた。
「これが幽香さんの全力か……凄まじい!でも負けるわけにはいかないんだ!」
「天人さん……これがあなたの全力なのね……嬉しいわ!でもまだよ!最後に勝って笑うのはこの私よ!!」
「「うぉおおおおおおおおお!!!」」
増々威力を上げていく。体を支えるのに必死で体中の傷口から血がにじみ出て地面を濡らすがお構いなし……二人にはもう目の前しか見えていなかった。
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「「うぉおおおおおおおおお!!!」」
私は叫んでいた。
幽香さんも叫んでいた。
幽香さんを直接見ることはない……だって目の前にある光のレーザーが私の『全人類の緋想天』とぶつかり合っていて眩しいだけでなく、その光景から目を離せない。今の私にはそれしか目に入らないのだから。
ところで必殺技とはなんだろうか?絶対に相手を殺す技?とっておきの中のとっておき?それじゃあなたの必殺技は何?と聞かれたのであるならば私はこう答える……『全人類の緋想天』と。
『全人類の緋想天』とは比那名居天子の最大の技である。詳しくは、赤くなったマスタースパークなのだが、マスタースパークは極太レーザーによる攻撃であり、一見レーザーのように見えるが実はそうではなく、超高速、超高密度の気弾の集まりらしいの。ゲーム上ではわからなかったけど、よーく目を凝らして見ると何となくそんな風に見えたり見えなかったりする……目が良い私にも超高密度まではわからないけどそんな気がするの。この元天子ちゃんの最大の技である『全人類の緋想天』は今まで使おうとは思わなかった。いや違うわね、今まで使えなかったが正解よ。それは何故か?理由は三つある。
一つ、それは実戦ではあまりに不向きだったから。気質を集めるためには緋想の剣が不可欠で、私自身には気質を集める程度の能力は備わっていない。緋想の剣によって出せる技であるが故に生身では出すことができない欠点があった。
二つ、発射するまでの時間が長いこと。周りの気質を集めて繰り出される威力は凄まじい破壊力を持ち合わせている。強化された比那名居天子である私ならば尚更だ。しかし気質を集めるための時間が必要で繰り出す間に相手が逃げてしまったりしたら意味を為さなくなってしまう。
三つ、出そうと思ってもその機会がなかった。これ程の威力を持ったエネルギーをどこに出せばいいんだと思った。私の妄想が実践することを拒んだのだ。修行して強くなったと実感した時に必然的にこの技を覚えなくてはと思って試し打ちしようとしたのだが、気質が集まって来た時のその量が想像以上でヤバいと感じた私は中断を余儀なくされてそれ以来、出すに出せなかった技だった。
しかし、今こうして私の目の前に『全人類の緋想天』が存在しているわけである。幽香さんの100%本気のマスタースパークと互角だなんて思っていなかった。いや違う、もっと気質の集まっている場所ならば今よりも強力な威力で撃てるのではないか?私は実際に繰り出すのは初めてだからこれはまだ未完成の『全人類の緋想天』だと勝手にそう思う。まだまだこれ以上の威力を発揮できるチャンスが必ず来るはずだ。それまでにこれを自分のモノにしないといけないみたいね……
意外に余裕そうに見えても限界なんですよ。若干こっちが押され始めているのが見て取れる……ヤバイわ。幽香さん強すぎるわよ。何?チートキャラなんですかって言いたい……しかし私は諦めない。元天子ちゃんが聞いて居れば喝を入れに来るはずよ。ここで負けるなんて絶対にしない!私は負けない!今まで私の
比那名居天子の覚悟であり、私の意地を見せてやる!!
「いっけぇえええええええええええええええええええええ!!!」
「ぐぅ!?うぐぐぐぅうううううううう!!?」
マスタースパークが押され始め幽香の表情が苦痛に変わる。そして……
マスタースパークが四散した。
「!!?」
苦痛の表情が驚愕に変わり……
「……私の……負け……か……」
幽香は赤い光の中へと消えていった……
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「はぁ……はぁ……幽香さん……」
急いで天子は駆け寄った。地面に倒れ伏している幽香の元へ……
「……私は……生きて……いる……わよ……」
「……よかった」
安堵した。天子はマスタースパークが四散した瞬間に自身の能力を使って幽香を守るように地面を盛り上がらせて盾にした。何重にも重ねて幽香の身を守ったのだ。それによって幽香の命まで失う事にはならなかった。寧ろ全力を出し切ってしまい立てずに幽香は倒れてしまったのだ。
「天子!!」
「天子さん!!」
「あやや大丈夫ですか!?」
観戦していた妹紅、早苗、文がすぐさま駆け寄って来て心配そうにしていた。そのことに天子はとても嬉しかった。
「ああ、私も幽香さんも大丈夫……命に別状はない」
「お前なぁ……もっと自分を大切にしろよ……」
「すまない妹紅……」
妹紅の目には微かに何かが溜まっていた。今にも流れ出てしまうようで気づいた天子は只謝ることしかできなかった。
「でもでも凄いですよ!天子さん勝っちゃうんですから!やっぱり天子さんはこの作品の主人公なんですよきっと!!」
「(東方の主人公は霊夢と魔理沙なんだけどな……)」
「あっ、ちなみにヒロインは私ですよね?」
「あやや、早苗さんがヒロインだったらお笑い話か何かですかね?」
「文さんそれどういう意味ですか!?」
「おお、こわいこわい♪」
そんなやりとりを見ていたら天子は自然と笑顔になれていた。そして笑顔になれたのは天子だけではなかった。
「ふふ……素敵な……お友達ね……」
「……幽香さん」
冷たい微笑でもなければ見る者に恐怖を与える笑みでもない。純粋な笑顔を向ける幽香だった。
「……妹紅とか……言ったわねあなた?」
「あ、あん?……なんだよ……」
まさか幽香に振られるとは思っていなかった妹紅は警戒した。
「……ごめんなさい」
「……はっ?」
「「……えっ?」」
「……」
謝ったのだ妹紅に対して。謝罪された妹紅は訳が分からず、早苗と文もポカンとしていた。天子だけはその様子を見ているだけだった。
「あなたを犬と呼んだことを謝っているのよ……それ以上のことはないわ……」
「お、おう……」
彼女なりのケジメなのだろうか?それだけ言うと幽香はそっぽを向いてしまう。自分では気づいていないのであろうが、天子にはそれが照れていることがわかった。そんな照れ隠ししている幽香の姿を見て笑い声をあげた。
「はっはは!」
「……な、なによ……天人さん……?」
「幽香さんって可愛いなって思ってさ」
「――なっ!?」
天子は幽香の行動に笑ってしまい、正直な気持ちを言っただけだったが、それが効いたのか幽香は頬を赤らめて……
「……ふん!」
むくれてしまった。
「(天子の奴め、後で腹パン決定だ)」
「(はわわっ!天子さん無意識に幽香さんも攻略する気ですか!?早苗
「(あやや、これはこれは……レアなモノが見れて光栄ですね♪カメラが無事であれば収められたのですが……)」
ちなみに文のカメラは無事では済まず流れ弾に当たってその役目を終えたことは内緒だ。
「……二人共無事で何よりでしたね」
「華扇さん……何とかな」
「全くあなた達は……あなたもですよ幽香、天子が最後に守ってくれていなければあなたは死んでいた可能性があったのですから」
「……でも死んでいないわ」
「……まぁその通りなんですけど……ともかく!今は二人共治療が必要です。すぐに永遠亭へ行きましょう!三人共手伝ってください!」
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「二人は鎮静剤を打って寝かしておいたわ。後は私達に任せて頂戴」
「すみません、二人共言っても聞かない者達で……」
永琳に丁寧に謝罪する華扇。既に外は真っ暗になっており妹紅、早苗、文の三人は華扇によって帰宅させられた。少なからず巻き添えとなったのでひと通り永琳達に見てもらった後に自分の帰るべき場所へと返された。
「はい、これでもう大丈夫ですよ」
「ありがとう鈴仙助かりました」
華扇も切り傷などの軽傷を負ったっていたので一応
「優曇華、あの二人の様子を定期的に見ておいて頂戴ね。二人共無理をしそうだから」
「わかりました師匠。では私はこれで」
救急箱を持って部屋から出ていく鈴仙。残った永琳が華扇に質問する。
「……っで?あの二人がここまで重傷を負うことになった理由は?」
「それは……」
華扇は全てを永琳に話すとやっぱりかと言った表情だった。
「全く困ったものよね彼は。幽香もだけれど」
何度目かわからない永遠亭にお世話になる天子。流石の永琳も来ていいと言ったがいつも重症なのはどうかと呆れていた。
「意思が強いのは良い事なんですけど……ね」
華扇も呆れている様子であった。
「まぁなんにせよ、あの二人のことは任せて頂戴」
「はい、お願いします」
「それであなたはどうするの?もう遅いし泊まっていけば?」
「いえ、私ならば大丈夫です。こう見えても私は仙人ですから」
「あらそう?無理に引き止めはしないけどいいのね?」
「ええ、天子と幽香のこと頼みましたよ」
「ふぅ……本当に困ったわね……天子も幽香も……」
永遠亭の門前でため息をつく。永遠亭から漏れる光しか辺りにはなく、周りに誰か居てもわからないぐらいの暗さであった。しかし、華扇は一点だけを見つめてこう言った。
「そろそろ出てきたら?……紫」
「あら、ばれちゃった♪」
スキマが現れ、中から出てきたのは八雲紫。悪戯がバレたような態度を華扇は何も言わずにスルーする。
「あら?無視?私傷ついちゃったわ……ヨヨヨ……」
「わざとらしい泣きマネはやめなさい。妖怪の賢者とあろうものがみっともない」
「もう酷いわね、妖怪ジョークよ」
「どこかジョークなのよ……それで?」
ひと通りやり終わった二人は今度は真剣な表情になっていた。
「なぜ私に会いに来たの?」
「……彼について聞きたいことがあってね」
「……天子のことですね」
紫は何も反応せずに華扇の回答を待っているようだった。
「天子は立派ですよ。武術、剣術、修行に打ち込む姿勢に日常的な面も全て立派なものです。他人に対する思いやりも見事としか言えません。あの風見幽香ですら天子を認めたようですから……今までにはない人物ですよ。今までやってきたことがまるで天子を中心に物語が進んでいるような話ですよ。異変とかまさにそうでした。博麗の巫女だけでは解決できず、天子にしか救い出せない者が居たりと……早苗の言葉を借りるようで悪いですけど正しく主人公みたいですよ」
「……そう」
華扇の感想を一字一句逃さないかのように聞き入っていた紫……その表情からは何も読み取れず只、聞き入っていると言う事しかわからなかった。
「私の感想を聞いてどうするの?」
「いえ……只の参考よ。気にしないで」
「へぇ……そうなの」
「ええ、そうなの。それで手間取らせたお詫びに家まで送って行くわ」
「いいのかしら?」
「ええ、いいのよ。昔のよしみだからね」
「……感謝するわね」
スキマが現れ華扇はその中へと消えて行った。紫もスキマに入り目の前の座布団に腰かける。
「
「ちょっとお散歩よ……って口の中のものを食べてから喋りなさいよ」
「
口をバルーンのように膨れ上がらせているのはピンクの悪魔こと西行寺幽々子であった。ここは白玉楼、妖夢がいない今、藍と橙が住み込みで妖夢の代わりに幽々子のお世話をしているのである。
「幽々子様、お茶をどうぞ!」
「
ズズズとお茶をすすり、口の中にある食べ物と一緒に飲み干し一息する。
「はぁ……いいお茶ね♪」
「幽々子ったら相変わらずね。橙、藍の姿が見えないようだけど?」
「藍様なら今日も先に布団でお休み中です」
妖夢が居ない分のことは全て藍がやっている。橙も少なからず藍のお手伝いをしているのだが、藍は
「またなのね……藍」
「もう!早く妖夢が帰って来ないからいけないのよ!」
「(幽々子が食べるのを控えたらいいだけなんだけどね……)」
紫は思ったことを口にしなかった。言っても無意味だからである。
「ふぅ、ご飯も食べたし……お風呂入ってこようっと♪橙ちゃんも一緒にどう?」
「橙もいいんですか?あっ、でも水は苦手……」
「ふふ、前も一緒に入ったんだから。今日も水になれる訓練あるのみよ!」
「にゃ、にゃぁ……」
「それじゃ紫もどう?」
「いいえ、遠慮するわ。なんだが少し疲れちゃって……」
「あらそうなの?それじゃ先に入るわね」
そう言って橙の手を引いて部屋を出て行った。
「……藍、もう少しだけ頑張ってね。妖夢なら後少ししたら帰って来るから」
紫は何度か地底の様子を密かに覗いたことがある。順調に立て直しされていたり、次覗いたときにはぶっ壊れていたりと残念なこともあったが、最近覗いてみるともう立て直しもほぼ終わっており以前の街並みが戻っていたようだった。後もう少しで白玉楼唯一の救いである妖夢が帰って来るはずになっている。
そんなある日に偶然知ってしまった。あの風見幽香と比那名居天子が戦うことを……
「一度敗れてしまったあなたが華扇の元で修行してまで、再び幽香に挑みに行ったのには驚かされたわね」
風見幽香に好き好んで関わり合う物好きは限られている。メディスンぐらいだろう。メディスン以外なら紫か力を持つ妖怪辺りぐらいだが、紫ですら用が無ければ会うことはない。しかもわざわざ危険をおかしてまで
紫はあの戦いを見ていた。血が流れ、力と力のぶつかり合い、最後の強大なエネルギー同士のぶつかり合いは流石の紫でも冷や汗をかいた。万が一を備えて結界を無意識に張ってしまったぐらいだった。スペルカードルールもない本当の死闘がそこで行われていた。その圧倒的な迫力に紫ですら全神経を使い、誰にも悟られないように静観していた。紫は止めようとは思わなかった……寧ろ見てみたいと思っていたのだ。比那名居天子の姿を……
「前よりも確実に強くなっていた……彼はどこまで成長する気かしらね」
テーブルに置かれた酒を注ぎ口に含む。ふぅっと口から出る息がほんのりと酒の匂いを漂わせる。
「……本当に……比那名居天子……あなたと言う人は……先が読めないわね……」
再び酒を一口飲み、全神経を使って静観していたことで疲れたのか瞼が重く感じる。
「……華扇が言って……いた……あなたって……本当に……」
「……主人公……かも……しれな……い……わね……」
紫は眠気に負けてゆっくりと瞼を閉じて意識を手放すのであった。