それでは……
本編どうぞ!
「ふぅ……いいお茶ね……」
今日もいい天気……こういう天気の日に一杯のお茶を飲むと心が癒されるわ。
縁側でのんびりとしているは仙人の茨木華扇。最近忙しかった日々から一転してのんびりとした朝を迎えていた。
「竿打と久米も日向ぼっこして……今日は何もやる気が出ないわね……」
華扇は珍しく何に対してもやる気が起こらなかった。それは……
うぅ……朝目覚めたら天子の手作り料理が食べれないなんて……愛情たっぷり&イケメンを堪能できる機会がないなんて……
心の中で悲しんでいた。華扇の元へ修行していた天子は元の日常へと戻るために天界へと帰って行った。それまで天子は華扇の屋敷で住み込みで修行していたので、華扇の代わりに掃除も洗濯もご飯の準備も全て天子がやってくれていた。これぐらいしないと罰が当たってしまうとか言っていた。華扇もその行為に甘えた。毎日楽しみにしていたことが華扇にはあった。早起きしてせっせと華扇と動物たちの朝ごはんを用意して華扇を起こしに来る……それが彼女にとって堪らなかった。
毎日起こしに来てくれて……「華扇さん、おはよう」なんて朝言われたら胸キュンするに決まっているじゃない!愛する夫を起こしに来る妻かって!私が夫で天子が妻……普通逆じゃない?そうなんだけども……これ意外と悪くないかも♪仕事に行く
ああああああああああぁ!もう味わえないのよねぇ……このドキドキがよかったのに~!!!
当然、華扇なら天子よりも早く朝起きすることができたのだが、このシチュエーションを味わいたいがために必ず天子よりも遅く起きることにした。密かに寝たふりをして起こされるのを待っていたなど天子には当然秘密だ……仙人なのに欲丸出しである……
天子と共に生活している毎日は充実したものだった。しかしその充実した毎日が終わりを告げた。今まで華扇は動物たちと共に生活して決して一人きりではなかったのだが、やはり天子がいるといないのとでは大いに違いがある。
愛のこもった手料理、毎日起こしに来てくれるドキドキのシチュエーション、汗を流してその匂いを堪能できたり、何かと気にかけてくれる優しさ、やることなすこと全てがイケメンの天子……数えられない楽しみがあった。そう、今までそれを堪能できていた……のに……うぅ……あの毎日が帰って来ることはないのでしょうか……
数々の思い出に浸りながら嘆いていると……
「よっ!どうしたんだい?そんなしけた顔して?」
癖のある赤髪をトンボでツインテールにしている死神の小町がいつの間にかやってきていた。
「……うぅ……小町……」
「うわぁ、本当にどうしたんだい?今のあんたの顔ひどいよ……鼻ちーんしなよ」
「……す"み"ませ"ん……」
「あんたがこんな顔するなんてねぇ……なんか嫌なことでもあったのかい?」
「……嫌なことではないですが……」
「相談に乗るよ?こう見えたって愚痴を聞くのは慣れているからね」
胸を叩いてあたいに任せろと胸を張る。その張った豊満な胸を見て華扇は一瞬イラッと来たがなにかと抑えた。自分だって小さくはないはずだと信じて……信じて……
「……私のは霊夢より大きいもん……」
「何か言ったかい?」
「……いいえ、なんでもないわよ?」
「そうかい?それよりも何か相談したいことがあるんじゃないのかい?」
「……実は……」
「……っと言う訳なのよ……」
「……仙人になったのに欲丸出しだね」
「し、しかたないでしょ!手料理は美味しいわ、掃除も洗濯もしてくれるし、カッコイイ天子が悪いのよ!あなたも一度味わえば二度とこちら側には戻って来られなくなるに決まっているわよ」
悪いのは私じゃない、ハイスペックの天子が悪いわ。どこを探しても天子のような超優良物件はない!断定できる自信がある。それを取り逃してしまったのは痛い……天子は多くの人物から慕われているようだし、私如きが勝てるなんて思わなかったけど……でも夢見たっていいじゃないのよ!仙人とか言う前に私だって一人の女性なんだから……でも勿体ない。同じ屋根の下で共に暮らしていたのって私ぐらいじゃない?それなのに幽香と試合をした後、そそくさと帰っちゃうなんて……私ってもしかして女として天子に見られていないんじゃ……!?
次々と頭に浮かぶ妄想に翻弄されて残念なことになっている華扇に頭を悩ます小町。
「まぁまぁ、過ぎたことをとやかく言っても仕方ないだろ?仙人なら仙人らしく我慢するしかないね。こればかりは」
「うぅ……全部天子が悪いのですよ……彼が超優良物件なせいですよ……うぅ……」
頭を抱え込んで悩む始末、これほど重症になっているとは……一度美味しい味を占めたら中々手放すことができない生物としての定めなのであろう。今更になって色々と後悔していると……
「私が悪いってなんのことだ?」
……はっ?今どこかで聞いたことのある声が……?
華扇は聞き覚えのある声にはっと顔を上げる。そこにいたのは……
「どうも華扇さん、この前ぶりです」
そこには今まさに悩みの種であった天子がいた。一緒に彭祖もいることから、彭祖に案内されてここまでやってきたものだとわかる。
「おお!旦那聞いたよ、風見幽香に勝ったんだって?すごいじゃないか!」
「小町さんもお久しぶりです」
「四季様に説教されて以来だったね。あの時の旦那は何もかも燃え尽きたように真っ白になっていたね」
「ナンノコトカキオクニアリマセンナ」
「ああ、旦那悪かったって……だから死んだ魚みたいな目は止めなって!」
「……」
…………………………………………
……………………
…………
……ええ!?どうして天子がここに!?しかもこのタイミングでなんで!!?
この場にいるはずもない存在に
結界を張っていたはず!?いや、天子の力量ならばあれぐらいの結界なんて意味ないでしょうしね。この屋敷を発見されないようにする程度の結界だからね……本当に天子はなんでもできてしまうわね。
「そ、それよりも旦那よ、ここに来たと言う事は華扇の奴に用があったんだろ?だから戻って来ておくれよ」
「はっ!危ない危ない……もう少しで
「えっと……どんな訳で来たのかしら?」
「実は……」
天子は華扇に今までの出来事を全て語った。
「……っと言う訳なんです」
「ほぇ……旦那の両親は凄いじゃないか。行動力があって見直しちゃうね!」
「そ、そうね……」
な、なんてこと……天子が結婚するなんて……しかも明日!?それも結婚相手を連れてこいだなんて滅茶苦茶な話よ!なんて親なのかしら、これは説教ものよ!!
許し難い行為だと言う事がわかった。自身の息子の気持ちも理解しないで話を進めてしまう両親に対して説教心が抗議の声を上げていた。
「それで華扇さんならばいい案が無いかと思って会いに来たんだ」
「わざわざここまで足を運ぶなんてね……華扇の他に相談できる相手はいなかったのかい?」
「華扇さんが適任だと思ったんだ。今まで色々と教えてくれたからな」
「なるほどね~♪案外頼られているじゃないかい♪このこの♪」
ちょ、ちょっと小突くのはやめなさい!ゴホン、まぁ誰よりも私を頼ってくれるのは嬉しいですね……こ、これは天子の期待に応えなくてはなりませんよね?ここで良いところを見せたら天子の好感度アップに繋がるのは間違いなしね!!
「ゴホン!いいわよ。私の力を貸してほしいなら貸しましょう。誰でもないあなたのためならば……ね!」
「華扇さん!」
ふふふ……決まったわね今の私は誰もが見ても頼れるお姉さんに見えたはず。天子も「華扇さんカッコイイ……素敵だ♪」っと私に惚れてしまうはずよ。この調子でどんどんと好感度アップしていけばいつかは……!
「華扇さん、私は決めたんだ。華扇さんが欲しい!」
「いけないわ。あなたは天界の総領息子……只のしがない仙人の私とは上手くいかないわ……」
「そんなことない!私は……華扇さんだけが好きだ!何者にも邪魔はさせない!」
「天子……」
「華扇さん……」
その夜、二人は朝まで
ぐへへへ♪なんてことになったりして……!!!
「……お~い華扇や~い、涎なんか垂らしていると汚いぞ?」
「はっ!?」
小町の声で我に返った。周りからの視線が集中している……悪い意味で。
「……ゴ、ゴホン!と、とにかくこれは忌々しき事態です!何としても止めなくてはいけません!!」
「華扇さん……ありがとう!」
お礼を言われちゃった♪ですが、忌々しき事態なのは確かですね……これは天子には悪いですが両親二人に説教する必要がありそうですね。そうと決まれば善は急げなのですよ!
「天子、今からご両親に会いに行きますよ!」
「今からか?」
「当然です!天子はご両親に感謝しているかもしれませんがハッキリと断らないといけません。嫌なものは嫌と伝えないと事が勝手に流されていってしまいますからね。天子の悪いところは優しすぎるところです。ご両親の思いを無駄にしたくない気持ちはわかります。しかしながら自分の人生は自分で決めなければなりません。だから今回のことはキッパリと言うべきです!わかりましたか?」
「……そうだな、華扇さんの言う通りだ。父様と母様は私にとって大切な方々だ……だから父様と母様の思いを踏みにじらないようにしたいと思った。けれど、それは自分のためにならない……ありがとう華扇さん!キッパリ断ろうと思う」
「ふふ、それでいいのです。私も一緒に行って第三者の目線からも物申すとしましょう」
「おやおや、それは旦那のためって言うよりも自分が説教したいように見えるよ?」
「うるさいですよ小町、私の説教心が叫んでいるのです。是非とも説教しなければならないと!」
「うわぁこわっ!」
小町はブルリと体を震わせた。自分の上司を思い出してしまい華扇の姿と重なったのは言うまでもない。
「一応私の父様と母様なので適度にお願いしますね?」
「任せなさい。私のありがたいお話で改心させてみせますから!」
「大丈夫かなぁ……?」
天界へと向かって行く二人の姿を見送る小町には不安しかなかった。
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「っと!到着した」
「……」
天界へ初めてやってきた彼女はその光景を見て、美しいと言葉を発してしまう程の衝撃を受けていた。地上の光景とはまた違った建物が立ち並んでいた。現代風マンションのような建物や銭湯にレジャーランドと言った娯楽施設があり、外の世界に誤って出てしまったのかと思ってしまう程、和風の建物も立ち並んでいるでおり、ここに居ると地上との差を嫌でも思い知らさせてしまう。
その光景に驚きながらも二人は目的の場所へとやってきた。そして更に華扇は驚くことになった。何故なら目の前には西洋風のお城が日の光に照らされてその外装を自慢げに誇っているように建っていた。紅魔館とは違い対照的な神聖さを印象づけるお城の光景に呆然とするしかない。
「華扇さん……?心ここにあらずか?」
呆然とする華扇の肩を軽く揺する。
「華扇さん、華扇さん!」
「――はぇ!?な、なんでしょうか……?」
「驚くのはわかるが中に入ろう」
「あ……ああ、そうですね」
扉のチャイムを鳴らし、待つこと数分後……
「あら~天子いらっしゃ~い♪」
現れたのは天子の母親がいつものニコニコ笑顔で出迎えた。
「天子から来てくれるなんてママ嬉しい~♪なでなでしてあげる~♪」
「は、ははさま……や、やめてください……」
母親の方が背が低いのだが、それも気にならないぐらいに優しく天子を抱擁し子供を褒めるようにいい子いい子と撫でられてしまう。抱擁されながら頭を撫でられている天子は恥ずかしがっており、滅多に見られない姿を見た華扇はまた呆然とするのであった。
「天子はいい子~ね~♪あら~?あなたはどちら様~?」
ようやく華扇の存在に気付いたのか頭に?マークを浮かび上がらせて首を傾げた。
「……あ、あの、私は茨華仙、本名は茨木華扇と言います。私は今日あなたの息子さんである天子に連れられて地上より招かれた……」
「あ~ら~♪天子の恋人さんね♪」
「違います母様!」
腕から逃れて母親の間違いを素早く正す。勘違いされるために華扇を連れてきたのではないのだから。
「あらあら~♪天子ったら照れちゃってかわいいわね~♪」
「照れてません!母様勘違いしないでほしい!」
「あの、私は只の未熟な仙人でして……」
二人が説明しようとした時に奥から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「マ~マ~ァン!早く戻ってきて~!」
甘い声……声質からして男性……この城は天子が両親のためにと建てたもので、お城には
「早くあ~んしてくれないとパパ死んじゃうよ~!」
「は~い♪今行くから待っててね~♪」
「……くぅふ!」
もうわかるだろうがさっきのは天子の父親の声であった。天子は忘れていたわけではないが、自分の両親がこう言う人物であることはわかっていた。しかし実際に他人である華扇に見られると流石に恥ずかしい……天子の顔は羞恥に染まっていた。
これには華扇は苦笑いするしか反応できなかった。
「華扇ちゃん、お話は中で聞くわね。パパがママを待っているから行かないといけないのよ~」
「(華扇……ちゃん……)」
ちゃん付けで呼ばれることなどなかった華扇はちょっとこそばゆかった。
「天子、華扇ちゃんを客間に連れて来て頂戴ね♪」
ルンルン気分で父親の元へ帰って行く母親を尻目に羞恥で小刻みに震える天子にまたまた華扇は驚いていることばかりであった。
気持ちを切り替えた天子に連れられて外装はお城、内装は家庭的な家具や装飾品が置かれており、二人暮らしとは思えない程の広々とした空間が広がっていた。そんな広間を歩いているとふっとした拍子で華扇が話しかける。
「天子のご両親は仲が良いのですね」
「まぁ……良すぎると言った方がいいのか……家に居る時は勝手だがお客の前ではやめてもらいたいな……」
「……でも羨ましいですね……家族がいるのって」
「華扇さんにも彭祖や竿打に久米、その他の動物たちがいるじゃないか。華扇さんとしてはペット的な扱いなのかな?」
「ちゃんと家族として見ていますよ。でも、やっぱり人と人との関りが欲しいと思っています。彭祖らが相手にしてくれない時はいつも一人なので……修行するときもそうです。彭祖らは私の修行相手にはどうしてもなれないので……」
「……華扇さんも一人は寂しいか?」
「みんなそうだと思うわよ?人間も妖怪も一人で生きていくなんて無理な話なんだから……」
「……そうだな、一人は誰だって寂しいもんな」
「ええ……そうですよ」
ちょっとした会話のはずだったが、何やら空気が緊張したのを感じた。この緊張が解かれたのは客間についた時だった。
「はい♪ラストのあ~ん♪」
「あ~ん……ううん!ママが食べさせてくれるプリンはと~ても
「あら~パパったら~♪」
「「……」」
扉を開けて一番に目に入って来たのは天子の両親の姿だった。先ほどののほほんとした母親の傍にいるのは天子に勝るとも劣らない顔立ちの男性が座っていた。しかしその容姿に注意がいったわけではない……テーブルの上に置かれたガラス細工に乗っていたであろう最後の一口大の大きさのぷるんとした物体が口の中に運ばれて行った。それを食べた男性はまるで赤ん坊のような純粋な笑みを浮かべて喜んで甘えている姿にギャップを覚えた。
この男性が天子の父親であることは華扇の一目でわかった。女性を惹き付ける容姿とは裏腹にとろけて母親に甘える成人男性にまたもや驚くことばかりで言葉が出て来なかった。天子は呆れて何も言葉が見つからずにその光景を無心で見るばかりだ。
「パパ、天子と華扇ちゃんが来てくれましたよ~♪」
「むぐむぐ……ごくん!ふむ、二人共まずは座ってくれ。ママ、二人にお茶を」
「は~い♪」
天子と華扇は父親と向かい合う形で座る。テーブル台は広々としており大人が手を伸ばしても向かいの相手には触れられない程の距離があった。そんな中でお茶を持って来た母親を含めてポツンと4人だけが座っている。
「ふむ、まずは自己紹介からだ。私は比那名居天子の父、そしてこっちが私の最愛なる愛おしく可愛らしい誰にも負けない優しさを持ち心の底から愛を捧げる妻である」
「もうパパったら恥ずかしい~♪」
「はっはっはっ!当然のことを言ったまでだ!」
「ああん♪パパったら~!でもそんなパパが私は……だ・い・す・き❤」
「んもうママったら~!パパも大ちゅき~❤」
「……父様、母様、そんなことは後にしてください。それよりも今日はお話があってここまで出向いたのですが……」
周りの目など気にも留めずにイチャイチャし出した両親にバッサリと切り捨てる。天子には見慣れた光景だがあまり他人に見せたくはないし、何よりもこの二人の子である天子が一番恥ずかしいのである。そんな光景を見ている華扇もどこかソワソワしているようであった。
「おお、そうであったな。その前に彼女は誰かな?」
「わ、わたしは地上で仙人をしている茨華仙、本名を茨木華扇と申します」
「これは初めましてご丁寧に……それで天子、今日はどういったご用件かな?」
「……この前の結婚話なんですが……」
そのことを言いかけて母親はそうだと思い出したように呟いた。
「そうだわ!天子が今日ね恋人を連れて来てくれたのよ~♪」
「なに!?本当か!!」
「違います!!」
咄嗟に反発するがその程度ではこの親バカはものともしない。
「なるほど、そこの華扇殿が恋人なのか。天子はやはり見る目があるな!」
「華扇ちゃんを見た時ママ感じたわ~。華扇ちゃんはいい子だってね♪」
「父様母様!話を聞いてください!!」
「それで華扇殿、天子のどういうところに惹かれたのだ?」
「無視しないで父様!!」
「そうそう聞きたいわ~♪あなたのこと色々としりたいもの~♪」
「母様も私のこと無視しないで!!」
身を乗り出して興味津々の両親に天子の声は全く届かない。天界に来てからというもの天子の普段見せない姿に驚かされる。それだけではない……天子の両親からグイグイと質問攻めにされて押され始めている。「どこで知り合ったのか」「何がきっかけで付き合うことになったのか」「どこまでいったのか」など二人の関係を知ろうと追及してくる。だが、華扇は忘れていなかった。天子の両親の行いに物申すと……例えどんな状況になっても天子の師である自覚がある華扇はキッパリと言ってやろうと決意を固めていた。
「ゴホン!すみません、天子の御父上様、御母上様、私が今日来たのはあなた方に物申したくてやってきたのですよ」
「物申すとは?」
「……私と天子は恋人関係ではありません!」
「……なに?」
「あら~?」
ピタリと音が静まり返る……呼吸音ですらうるさく感じられるまでに。
「……本当か天子?」
「本当です。それで今日ここへ来たのは結婚話をお断りするために来ました」
「……そのことについて詳しく聞かせてくれ」
天子と語った。今回の結婚話は無茶ぶりであったこと、まだ結婚する気がないと言う事、思ってくれる気持ちはありがたいが自分のことは自分で決めたいなど心の底から訴えた。時々華扇の説教が効果的な場面もあり、二人は天子の熱弁に聞き入っていた。しばらく聞き入っていた天子の父親が口を開いた。
「……天子の気持ちはよく分かった。言葉一つ一つに気持ちがこもっておりパパの心を奮わせてくれた」
「それじゃ……!」
「今回の結婚話の件は取りやめよう。そしてパパとママは天子を思うあまりに先走ってしまったようだな。悪かった」
「ごめんさないね天子、ママももう少ししっかりあなたの気持ちを考えていればよかったわ~」
その言葉を聞いて天子は息を吐いた。ため息でも安堵したため息だった。
「華扇殿にも迷惑かけた。わざわざ天界までお越しいただいて……」
「ごめんなさい華扇ちゃん……」
「いえ、私は気にしていません。お二人が話の分かる方で良かったです」
二人が頭を下げるが手でそれを制する。華扇にとってこの二人が本当に天子のことを思って行動したことがわかっていたため説教は控えめだ。それに素直に自分達が悪かったと認めて反省していたし、何よりも自分の子供である天子に対する愛情は本物であることを感じた華扇の心は満足していたのでこれ以上は何も言う事はなかった。
「さてと、そうと決まれば『名居』の皆さんに謝罪しに行かなければならないな」
「父様……」
「そんな顔するな天子、パパが勝手にやってしまったことだ。お前は何も気にする必要はないぞ?それに比那名居家の名が落ちることはない。『名居』の皆さんとは仲が良いから手見上げを持って行けば許してくれるだろう」
「結婚式場の件も無くなっちゃうわね~……天子の花婿姿見たかったわ~……」
残念そうにする二人の姿に心を痛める天子。何せ、天子のことを思って用意してくれたものを全て断ることとなったのだから……しかしそんな時に意外な提案が出た。
「ならママ、天子に花婿姿になってもらえば良くないか?」
「でも~天子は断るって言って……」
「花婿姿を見るだけなら本当に結婚する必要はないだろう?そうだ!華扇殿、一度ウエディングドレスを着てみたくないか?」
「――ふぁい!?」
いきなり話を振られた華扇は驚いて変な声を荒げてしまった。
「父様何を言いだすんですか!?」
これには天子も自分の父親が何を言っているのか訳がわからなかった。
「落ち着くのだ二人共、実を言うとなパパもお前の花婿姿を見てみたいと思っていたのだ。しかし今回の結婚話は無くなってしまった。しかし実に惜しいのだ……そこでパパは考えてみたんだ。花婿姿を見るならば本当に結婚する必要はない!折角式場を確保したのにキャンセルするのも勿体ない……ならば今後のために一度結婚式というものがどんなのか経験してみるのはどうだと言う事だ」
「それと華扇さんがウエディングドレスを着ることとなんの関係が……?」
「わからないのか天子?経験と言っただろう……本物と同じように結婚相手は必要だろ?」
「言っている意味がわかりませんが……」
何を言っているのだこの親は?と言った表情になってしまう。折角熱弁してまで断ったのに今度は予行練習と来たものだから呆れてものも言えない。
「それにそんなことに華扇さんを巻き込むわけにはいきませんよ」
こんなことに付き合わされる華扇の身にもなれと言いたいように天子は父親に察しろと言う意味を込めた言葉を投げかけたのだが……
「……ま、まぁ……練習であるならば……わ、わたしも付き合っても……良いと思いますよ」
「……えっ?」
華扇の口から発せられた言葉に耳を疑った。
「あら~!いいの華扇ちゃん~?」
「あ、あくまで練習であるならば……問題ないです」
「あら~嬉しいわ~♪やっぱり華扇ちゃんはいい子ねぇ~♪」
「うむ、そうと決まれば天子盛大にするぞ!『名居』の皆さんにも協力してもらい本物さながらの結婚式にするぞ!」
「うふふ♪本当に楽しみね~♪」
意気込んでいる父親と大喜びする母親の歓声に場が支配される中、天子だけがこの状況で取り残されていた。
「それでは楽しみに待っているぞ二人共!」
「華扇ちゃんまたね~♪」
そう言って天子と華扇は見送られて地上へと降り立った。
「……華扇さん良かったのか?」
「えっ?なにがですか?」
天子は素朴な疑問をした。
「何故父様の提案を飲んだのだ?断ってよかったのに……」
「……笑わないですか……?」
「……笑うようなことか?」
顔色を窺うようにチラチラと天子の表情を盗み取る。天子には何を言いたいのかさっぱり訳がわからなかったが聞き入れる準備はできていた。
「……いえ……ただ……一度結婚がどんなものか体験してみたかった……ので……」
それだけ言うと頬を赤く染めた。天子は自然と笑みを浮かべていた。
「(結婚は女性にとっての人生最高の瞬間だからねぇ♪華扇さんにも女の子らしいところがあるんだな……修行は鬼畜だけど)」
「……な、なんですかそんな優しい目をして……!」
「いや、華扇さん可愛いなと思って♪」
「――!?も、もう私は帰ります!!」
「ああ、華扇さん送って行くよ!」
「結構です!!」
プンスカと怒って早々と去って行く華扇の後姿を頬を掻きながら困った様子で見送る天子であった。
「……あなただから提案に乗ったんですから……」
去って行く彼女の言葉は彼には聞こえなかった……