そういうわけでして……
本編どうぞ!
ここは地上のとある森の中、そこに集まる小さな集団……見た目はみんな幼い子供の姿だが誰もが人間ではない。幻想郷の森の中に留まるなど人間では命取りになる行為だからだ。それも子供ならば尚更、この光景を見たものならばそこにいる子供達は決して人間ではないと判断するだろう。そんな子供の一人が口を開いた。
「遅いねチルノちゃん……」
口を開いたのは大妖精だった。彼女は友達であるチルノをここで待っているようだ。
「チルノの奴、大ちゃんを心配させるなんて……私だって心配するのもの……」
「フランちゃん……」
日傘を手にしている子はフランドール・スカーレットだ。集合時間になっても来ないチルノを心配していた。チルノの友達は大妖精だけではない。フランも友達で今では紅魔館にチルノ達を招待している程だ。そして他にも……
「暇だ暇だな~」
暇そうに道端の草をいじくっているのは地底の妖怪である古明地こいしであった。時々地底を抜け出してチルノ達と遊ぶ仲にまでなって紅魔館に泊まることもしばしばあるそうだ。そしてこのメンバーの中に新たな仲間が加わっていた。
「おなかすいたのだー!」
【ルーミア】
姿は幼い少女で、目は赤、髪型は黄色のボブ。白黒の洋服を身につけ、ロングスカートである。左側頭部に赤いリボンをしており、いつも両手を左右に大きく広げたポーズをよくとっている。
彼女は人喰い妖怪であるため人間にとっては危険だが、妖怪の中では比較的に弱い部類に入る。
新たに加わったメンバーであるルーミアのお腹からぐぅ~と言う音が聞こえており木にもたれかかっていた。あれこれチルノを待っている間に空腹になってしまったのだろう。
「ルーミアお腹減っているの?みすちー、何か持ってない?」
【リグル・ナイトバグ】
人間の子供位の体躯、首元にかかるかかからないか位の緑色のショートカットヘア、甲虫の外羽を模していると思われる燕尾状に分かれたマント、白シャツにキュロットパンツ。
数多い東方キャラの中でもかなりボーイッシュな出で立ちであるがれっきとした女の子である。
また、頭部に生えた虫の触角と後姿から黒光りする例の虫だの言われることも多いが、そうではなくて蛍の妖怪である。
ルーミアの様子を見かねたリグルがみすちーと呼ばれる少女に声をかける。
「ごめん、今は手元に何もなくて……」
みすちーとはミスティア・ローレライの愛称で、親しい間柄では彼女のことをそう呼んでいる。そんなミスティアは申し訳なさそうにルーミアに謝る。
「うぅ……ざんねんなのだー……」
「もうこれもチルノが悪い!私達を呼んでおきながら待たせるなんて……もしかしたら忘れているんじゃない?」
「チルノちゃんが私達との約束を忘れるわけ……あるかも……」
リグルの言葉にどこか不安になる大妖精……チルノに限ってそんなことはないと断言できないのは古くからの友人である彼女が一番よく知っていたから……
「おーい!みんなー!!」
そんな時に待ちわびた声が聞こえてきた。
「もうチルノちゃん遅い!」
「えへへ、それほどでも~♪」
「チルノ、それ褒めてないから」
大妖精の講義もチルノに意味はなさないようだ。ミスティアは呆れてため息が出てしまう。
「なんでチルノこんなに遅くなったの?」
「そうだ、なんでなんで?」
フランとこいしが興味深そうに聞いて来た。
「はっ!そうだ、みんなに聞きたいことがあったんだ!」
「聞きたいこと?なにチルノちゃん?」
「天子って知っているよな?」
天子のことを直接知っている大妖精、フラン、こいしは勿論と答える。ミスティアも妹紅から嫌と言う程聞かされてあの夜のことを思い出して頭が痛くなった。リグルとルーミアに関しては全く知らない名であったため大妖精に説明されることでどういう人物か理解できた。
「っで?その天子さんがどうかしたの?」
「そうリグル、実はさ……」
「ええ!?天子お兄ちゃん結婚するの!?」
「お兄さん結婚するんだ!……かせんって誰だろう?」
「けっこんって何なのだー?」
「ルーミアちゃん結婚っていうのはね……」
チルノの衝撃発言にみんなの反応はそれぞれだった。フランとこいしは驚き、ルーミアは結婚の意味を分かっておらず大妖精に説明され、リグルとミスティアはめでたい話程度にしか思っていなかった。
「そうなんだよみんな!……っで、けっこんってなんだ?」
「チルノちゃんも意味わかってなかったんだね……」
「流石
「えへへ、それほどでも~♪」
「褒めてないから……」
能天気なチルノには大妖精もリグルも呆れてしまう。大妖精の丁寧なチルノにでもわかる説明でようやく理解することができたチルノとルーミア。そしてチルノはそれを聞くな否や一目散に走りだす。
「チルノちゃんどこに行くの!?」
「大ちゃん!めでたい話なら慧音や他のみんなにも知らせないと!」
「あ!待ってよチルノちゃん!!」
走り去ってしまったチルノの後を追いかけて行ってしまった大妖精。折角集まったのにまた散ってしまったメンバーはと言うと……
「チルノは相変わらずだね」
「仕方ないよこいし、あれがチルノだもん」
「そうだねフラン、それじゃ私もお姉ちゃんにこのこと伝えに行くよ。なんだか面白いことになるかもしれないから」
「面白いこと?」
「それじゃねみんな!」
フランの何故面白いことになるのかと言う疑問には答えずにこいしはそう言うとその場から姿を消した。
「こいし消えちゃった……どうしようみんな?」
「フラン、もうこれじゃ集まった意味がないよ。それに……」
「おなかすいたのだー!!」
「ルーミアもあの調子じゃ我が儘を言うだけになりそうだよ」
ルーミアは食べ物が無くてご立腹の様子であった。その内に我が儘を言いだすのがわかっていたリグルは後々面倒なことが起こると知っている。
「じゃ、ルーミア私の屋台で何か食べる?手元に何もないけど屋台に行けば何か奢ってあげるよ?」
「いくのだー!」
ミスティアの提案にすぐさま食いつく。ミスティアの袖を引いて急がせる。ミスティアは別れを早々に済ませてルーミアと共に去って行った。残されたのはフランとリグルの二人だけだった。
「リグルと私だけになっちゃったね」
「そうだね……もうこうなったら仕方ないよね。フランはどうする?」
「私は帰ろうかな……そうだ!リグルも紅魔館に来ない?リグルはまだ来たことないでしょ?」
「えっ?でも……なんだか私一人じゃ悪いし……」
「いいよそんなこと気にしなくて!チルノと大ちゃんはほぼ毎日来ているから気にしないで」
「そう?それじゃお邪魔しよっかな」
「それじゃ行こう。お姉様にも天子お兄ちゃんが結婚することを伝えないとね」
「(う~ん……私の勘がこれは面倒なことが起きそうだと言っているけど……フランが嬉しそうだから何も言わない方がいいよね)」
実際にリグルの勘が当たることになるとはこの時だれも知らない……
「「「先生さようならー!」」」
「ああ、みんなもさようなら」
人里の寺子屋で手を振る慧音は子供たちを見送っていた。授業が終わり後は子供たちの課題をまとめる仕事が残っているだけだったのだが、そんな時に慧音の元へとやってきた者がいた。
「おーい慧音!」
「ん?チルノ?それに大妖精まで?一体どうしたんだそんなに慌てて?」
チルノと大妖精だった。大妖精が息を切らしていたのはチルノのスピードに合わせたからだろう。全力疾走してやってきても息一つ乱れていないチルノは何気に凄いかもしれない。
「こ、こんにちは……はぁ……慧音先生……」
「大丈夫か大妖精?」
「な……なんとか……」
「それよりも慧音聞いてよ!」
チルノが両手を上げて抗議する。早く話を聞いてほしそうにしているみたいだったので慧音は仕方なしに聞いてあげることにした。慧音は子供にはとても優しいのだ。
「わかったわかった。チルノ一体何なのだ?」
「それがね……」
「幽香なにがいいかなぁ?」
人里を歩く小さな少女メディスンは永遠亭から毒を提供した帰りだった。お金を受け取ったメディスンは人里で幽香に何か買ってあげようかとウロウロしているところに……
「なに!?それは本当かチルノ!?」
「本当だよ!この
「チルノちゃんそれを言うなら
寺子屋の前を通りかかった時だった。その会話が聞こえてきたのは……しかしメディスンにとっては知らない相手の会話に興味を持つこともなくそのまま通り過ぎようかと思った時だった。
「
足が止まった。聞き覚えのある名前が耳に届きその会話に意識が集中する。その会話は確かにこの前鈴蘭畑にやってきた幽香と一緒にいた比那名居天子その名前だった。そしてその会話は驚くものであった。天子が自分の知らない人物と結婚する話であった。
「……これは幽香に伝えないと!」
メディスンは買い物も忘れて太陽の畑に急いだのであった……
ところ変わってまたまた森の中、屋台がポツンといい匂いを周りに漂わせて煙を上げていた。
「むぐむぐ……!」
「ルーミアそんなにがっつかなくても逃げやしないよ」
「むぐむぐむぐむぐ……!」
「聞いてないか」
お腹を空かせていたルーミアを屋台に招いてヤツメウナギを提供していた。黙々と大量のヤツメウナギを口いっぱいに頬張っていく。一心不乱に食べ進めるルーミアにミスティアの声は一切届かなかったが、そんな時に屋台を訪れるもう一人の客が現れた。
「よ!今の時間からやっているのはおかしいと思ったがルーミアがいたのか。なら丁度いいや、私も腹が減っていたんだ。私もヤツメウナギを頼むぞ」
「妹紅さん、わかりました」
よくミスティアの屋台を訪れる妹紅は夜でもないのに営業しているのを見つけて何事かと思ったが訳はすぐにわかった。ルーミアはよく腹を空かせて誰かに奢ってもらっているのを目にする。それで屋台にルーミアがいることはミスティアに恵んでもらっていることが一目でわかる。放って置けば人を襲って食べてしまう人食い妖怪はお腹がいっぱいならば安全、襲って食べていい人間とそうでない人間の区別をわかっていても空腹状態の時は危険なためこの対処が一番だ。もし寺子屋の子供や人里の人間を食べてしまえば討伐依頼が来て博麗の巫女に叩きつぶされてしまう……友人であるミスティアにとってはそうなってしまえば悲しいことであるため彼女のために屋台を開いた。そんな時に偶然妹紅がやってきて席を共にすることになった。
「はい、どうぞ妹紅さん」
「おう、サンキュー♪」
出されたのはヤツメウナギの串焼きにお酒だ。出されたタレをつけて口に運ぶとタレの甘みがヤツメウナギとマッチしてとても美味だ。そしてお酒を一杯口に運ぶとこれがまた格別の味になる。妹紅はここで女将であるミスティアと食事するのが楽しみなのである。
「うん、相変わらず美味いな」
「ありがとうございます」
「ルーミアと遊んでいる時のミスティアと屋台をやっている女将状態のミスティアを見ると別人じゃないかと思ってしまうな」
ルーミアたちと遊んでいる時の姿は見た目と変わらず子供のようで微笑ましい。そして一度屋台に立てば大人の雰囲気を漂わせる女将になる。妹紅ですら初めは双子か何かと思ってしまったぐらいだ。
「同一人物ですよ、妹紅さんこそお酒に酔った姿は今とは別人じゃないですか?」
「……あ、あの時は荒れていたんだ……忘れてくれ……」
「店をあんなにしたことは一生忘れてませんよ」
「……あ、あやまったじゃないか……」
「謝られましたが、あの時の光景は一生忘れません……忘れられませんから……」
「わ、わるかったよ……」
ゴゴゴゴゴ!と言う音が聞こえるかのような幻聴がミスティアから漂って来るオーラに秘められていた。そんなオーラに身を縮こませる妹紅であった。
「むぐむぐ……ぷはぁ!もうおなかいっぱいなのだー!!」
この空気を壊してくれたのはお腹が満腹になったルーミアだった。膨れ上がったお腹を擦る姿はどこかのピンクの悪魔にそっくりだった。
「みすちー、ありがとうなのだー!」
「どういたしまして」
食べ終わったテーブルの前の皿を片づけ始める。そんなミスティアを眺めていたルーミアは隣に妹紅がいたことを今ようやく気づく。
「お?妹紅がいるのだー」
「女将にタダで食べさせてもらっているんだから手伝いとかしてやれよ」
「いちどてつだったけど、たべもののゆうわくにはかてなかったのだー!」
「……ああなんとなくわかった気がするわ」
ルーミアが手伝った暁には食べ物がなくなるということがわかったようだった。こいつならば仕方ないと妹紅は納得せざるおえなかった。
「……そうだ、妹紅はしってるかー?」
「あん?何をだ?」
「ひなないてんし?とかいうやつのことー」
「天子か?知っているが……?」
妹紅はルーミアから天子の名が挙がるとは思ってもおらず不意を突かれた形だ。ミスティアは裏で洗い物をしていて会話には気づいていなかった。この後、ルーミアが妹紅に対して爆弾発言をするのを止められたのはミスティアだけだったのに……
「チルノからきいたんだけどー、そいつけっこんするらしいのだー」
「………………………………………………………………はっ?」
妹紅の手からお猪口が滑り落ち地面に落下する。それに気づいたミスティアが何事かと屋台へ顔を出す。
「妹紅さんどうしたんですか!?」
わなわなと震える妹紅の様子に只事ではないと感じた。隣でボケっとしているルーミアに詰め寄る。
「ルーミア!妹紅さんに一体何があったの!?」
「うん?うーんとねー……」
そんな時にいきなり立ち上がった妹紅は何もないはずの森をジッと見つめ始めた。
「も、もこうさん……?」
しかし妹紅の目は森など見ておらず、その目はただ空虚を見つめていた。そしてミスティアは見てしまった。その瞳に光が宿っていないことに……
「……行かねぇと……」
フラフラとおぼつかない足取りで森の中へと去って行ってしまった妹紅に体中の神経が緊張して声すらかけることができなかった。
「どうしたのだー妹紅?みすちーわかるかー?」
「そ、それにはまずルーミア、妹紅さんに何があったか教えてくれないと」
「なにもないぞー?ただきょうチルノにきいたはなしをしただけだぞー?」
「……えっ?それってもしかして天子さんの結婚話のこと?」
「そうだぞー」
ミスティアはわかってしまった。妹紅がどうしてああなったのかを……そしてこの後に待ち受けている現実に関わらないでおこうと心から決めたのだった。
「ただいま美鈴!」
「これはお帰りなさい妹様、それにお友達もお連れですね」
「初めまして、友達のリグル・ナイトバグと言います」
「私は門番の紅美鈴です!妹様と仲よくしてくださりありがとうございます」
「敬語なんてやめてください、なんか調子が狂うって言うか……」
「なるほどわかりました。それじゃリグルさん、妹様と楽しんでいってくださいね」
「はい」
ここは紅魔館、門番である美鈴の元へフランがリグルを連れて帰って来た。リグルは紅魔館を何度も見ているが招かれることは初めてで緊張していたが、美鈴を見ていると緊張も緩和された気がした。門を潜るフランとリグルだが、そんな時にフランが美鈴に言った。
「そうそう美鈴、天子お兄ちゃん結婚することになったんだって」
「ほへぇ!そうなんですか!いや~おめでたいですね!」
「うん!それでお姉様達にも知らせないといけないの。手伝って美鈴!」
「わかりました。しかし妹様、リグルさんと遊んであげないといけないでしょ?その役目は私が代わりにしますのでお二人は紅魔館で遊んでいてください。それで紅魔館総出で天子さんを祝いましょう!」
「わかった。ありがとう美鈴!リグル行こう」
「うん」
「本当美鈴!お嬢様!天子様が……!」
「本当なのね咲夜!?こうしちゃいられないわ!すぐに祝宴会の準備をするのよ!」
「レミィったら……まぁ彼には借りがあるしね。私も得意の魔法でアッと驚く芸でも見せてあげましょうか」
「パチュリー様、それなら不肖ながらこの小悪魔もお手伝いさせていただきます!」
「(天子さんって人、こんなに慕われているんだ……)」
リグルは天子と言う人物の人望がこれほど熱い事に驚いていた。こうして紅魔館に祝いムードが漂っていたのであるが……それとは別の場所ではというと……
「ふ~ふ~ふ~ん♪」
ここは太陽の畑……太陽の光に照らされて花達が己を咲き誇っている。そんな中でじょうろで水やりをしながら鼻歌を歌っている幽香がいた。以前見られた恐ろしさを纏う雰囲気はどこかへ行ってしまったのか今では花に水をやる只のお姉さんにしか見えなくなっていた。
「はいはい、ちょっと待ってね。この子に水やりしたらあなたにあげるから」
楽しそうに花達と会話する姿を以前の幽香を知っている者からすれば恐怖を植え付けてしまう程の衝撃を与えるだろうがここは太陽の畑である。彼女に会おうとするものなど限られているが、幽香の元へとパタパタ走ってくる足音が聞こえる。幽香もよく耳にした足音だ。
「あら、メディそんなに急いでどうしたのよ?」
いつもよりも足音が聞こえてくるのが早かったのを感知した幽香はメディスンが急いで走ってきていることがわかった。それぐらい付き合いがあると言う事だ。そしてやってきたメディスンは急いでいた。
「幽香大変なの!」
「大変?何かあったの?」
「お兄さんが大変なの!」
「お兄さん……天子のこと?」
メディスンがお兄さんと呼ぶのは比那名居天子ただ一人……しかも大変なことが彼に起こったらしいと言っている。幽香は天子と死闘を繰り広げてから彼の評価を改めた。そして天子を名前で呼ぶほど認めるようになった。自称
「それで……メディ、彼に何かあったの?」
「うん……お兄さんが結婚するんだって!!」
「……………………そう」
「……幽香……?」
メディスンは幽香の様子が変わったことにすぐに気がついた。笑顔なのだが先ほどの笑顔とは別物で笑っているのに笑っていない……以前の幽香が戻って来たようであった。
「……それどこで聞いたの?」
「……え、えっと……人里で確か……人間の子供に勉強させる
「ふーん」
幽香の雰囲気が怖く気迫されながらも答えた。その回答を聞くと……
「……メディ、お留守番お願いね」
「……幽香……?」
「ちょっと出かけてくるわ」
明らかな危険性を含んだオーラが彼女を包み込んだ。メディスンは言われたとおりにお留守番することを選んだ。今の幽香は以前の幽香よりもどこか怖かったから……
そんな大妖怪が不機嫌を秘めながら人里に向けて行進するのであった……
ドキドキ!
「ふむふむ、ようやくですか」
ドキドキドキ!
「……ここもやっと元通りになりましたか」
ドキドキドキドキ!
「……店もこれで再開することができるわけですが……」
ドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキ!!!
「ああもう!さっきからうるさいですよあなた達は!!」
大声を荒げたのは地底の管理人である苦労人の古明地さとりだ。さとりは今、地底で問題を起こした連中の後始末の最終チェックをしていたのであった。その問題を起こした連中と言うのは地上の鬼、庭師、聖人に天界の竜宮の使いと地底の嫉妬姫だ。この五人は今まで地底でタダ働きをして旧都を復興してきた。そして長かった作業が終わったのである。最終チェックさえ済めば晴れて
最終チェックに問題があればもう一度タダ働きしないといけないので全員の緊張が半端ない。心臓の鼓動音が高まり、さとりの耳にうるさく聞こえる程である。
「私達は何も言ってないですよ?頭大丈夫ですか?疲労で幻聴でも聞こえたんですかね?」
キョトンとしている庭師こと妖夢が言うと周りの問題児たちも同調する。
「私達は何も言っていないし、無口だったじゃないか!
「全く地底の管理者としては器が小さいですね。背も低いですし……私のような聖人になればみみっちいことも寛大な心で受け止められるものを……」
鬼の萃香と自称聖人の神子は文句たらたらとさとりに悪びれる様子もなく言い放つ。そのせいでさとりに青筋が立つ。
「そんなに言うのならあなた達3人にはもう一度最初から作業をしてもらいましょうかね……!」
「「「すいません私達が悪うございましたマジ勘弁してください……」」」
ストレスを抱えたさとりは誰よりも強かった。日頃のストレスが彼女の力となり強くしてくれる……その代わりに心と体はボロボロになる一方だったが……
「それで私達はこれで帰れるのでしょうか……?」
不安そうに尋ねてくる衣玖は良心的だが、そんな衣玖もこれまでさとりにストレスを与え続けていたことはここで語れない程多くあるので省略させてもらう。
「ふぅ……ふぅ……そ、そう……ですね。ようやく旧都が元通りになりました……本当ならば真面目に復興していれば1カ月は早く帰れたでしょうに」
その言葉を聞いて黙っていないのが問題児たちだ。
「なに!?おい誰だよ!ダラダラしているせいで私が地上に帰るの遅くなったじゃないか!!」
萃香の物言いに周りが反発し始めた。
「失礼ですが萃香さんの我が儘のせいで幽々子様に会えずに天子さんにも会えず……私の大切な刀の稽古時間もなく……私は人生を無駄にしました。どう責任とってくれるんですか!」
「はぁ!?私のせいにすんなよ!だいたいお前だって何かあれば刀で邪魔していたじゃないか!」
「違います!あれは神子さんが悪くてですね……」
「ちょっと人のせいにしないでもらいたいですね。邪魔をしていたのは私ではなく君達の方でしょ?」
「なんだと耳毛のくせに!!」
「神子さん!今のは聞き捨てなりません!刀の錆にしてあげますよ!!」
地底での生活のせいなのか問題児たちはすぐに事を荒立てお互いに牙を向くことばかり起きていた。そして今も一触即発の危機に陥っている。そんな中でさとりのストレスゲージが限界点を突破するまでもう少し……
ピキピキッ!
第三の目が充血し、さとりの顔には青筋がまた立ち始め今にも血管がキレそうな音を立てていた。
「――!!皆さん落ち着いてください!でないとさとりさんが以前のようにトラウマを見せてやるとおっしゃっております!」
空気を読み、場を鎮めようとする衣玖。その衣玖が放った言葉に全員がはっ!と落ち着きを取り戻した。前にもこのようなことが起こり、我慢できなくなったさとりが全員に対してトラウマを具現化させて場が悲鳴だらけになったことから問題児たちはさとりに注意することとなった。勇儀いわく「あれはひどい光景だった……思い出したくもない」とのこと。
衣玖の機転でなんとか場は収まり、さとりのストレスゲージも落ち着きを取り戻し始めた頃に集まる集団がいた。
「よう!やっているか?」
「やっほー!みんな元気しておりますか?」
「……さとり……ご苦労様……」
勇儀とヤマメにキスメが騒動を聞きつけてやってきた。
「ふぅ……ふぅ……勇儀さん達ですか……」
「なんや、また喧嘩でもやろうとしていたんかいな。ホンマ懲りひんな」
「……さとり……また怒る……」
問題児たちの喧嘩は日常茶飯事になっていた。しかしさとりがキレたこと以来はその兆しが少し抑えられていたのは言うまでもない。普段大人しい人物を怒らせたら怖いと言うが、それに当てはまるのがさとりだった……彼女を怒らせたらどうなるかは当の本人たちが一番わかっている。
「それでさとり、パルスィは……そこに居たのかって、真っ白に燃え尽きてやがる……」
先ほどから一言も喋らなかった地底に元々住んでいる嫉妬姫ことパルスィは全てをかけて今日の作業を終えたため気力も体力も燃え尽きていた。
「あの……それでなんですが私達は帰っても……よろしいのでしょうか?」
衣玖が恐る恐る質問する。さとりは息絶え絶えながら答えた。
「ふぅ……ふぅ……はい、あなた達はようやく自由ですよ。もうなんでもいいからさっさと地上でもどこでも行ってください……ああ……また胃が……」
さとりはこれ以上関わりたくないと言わんばかりに背を向けて地霊殿へとフラフラな足取りで去って行く。その後姿に合掌しておく勇儀とヤマメとキスメは管理人じゃなくてよかったと思ったという。
「よっしゃー!さっさと地上へ帰るぞー!」
「おいおい萃香よ、宴会もやらずに帰るのかよ?」
「勇儀、宴会は本当ならやりたいところだけど……今は……天子に会いたい……」
頬を赤く染める姿に勇儀は笑みがこぼれた。あの酒があればどこへだって現れる鬼は今じゃ恋する乙女となり果てていたからだ。
「……そうか、それじゃ仕方ないな。ったく天子の奴め、萃香をこんなに腑抜けにした罪は重いぞ」
辺りを見回すと他の問題児たちも天子に会いたがっていた。そんな光景を見ていると勇儀は心の底から笑いが出てしまいそうになる。
「(くはは!あいつは本当に罪深い奴だよ♪その内、背後から刺されちまうんじゃないのかい?)」
天界に居るであろう
「ぬわぁっと!?こいしか?いきなり現れたらビックリするじゃないか!」
そう、さとりの妹であるこいしが今、地上から帰って来たのである。あの話を手土産として……
「ごめ~ん、急いで帰って来たから勢い余って勇儀の胸に飛び込んじゃった。てへっ♪」
「かわい子ぶってもダメだぞ?それでなんで急いでいたんだ?」
「そうそう!ねぇ聞いて聞いて!萃香ちゃん達も聞いてよ!」
「あん?お前はさとりの妹の……なんなんだよ。私達はこれから帰るところなのに」
「そうですよ。天子様も私の帰りを今か今かと待ち焦がれているはずです」
「衣玖さんは卑怯ですね。天子さんと同じ天界暮らしで」
「天子殿成分を毎日摂取できるなんて……うらやまけしからん!」
衣玖を含んだ問題児は我先にと地上を目指そうと足を踏み出したのだが、こいしの一言でこの場は極寒の大地へと変化する……
「ふ~ん……まぁいいや。それで聞いてよ勇儀、天子のお兄さんがね……」
「――結婚するんだって!!」
「………………………………………………はっ!?」
「………………………………………………えっ!?」
「………………………………………………嘘っ!?」
「………………………………………………なっ!?」
「……お、おいこいし……それ本当か……?」
「出鱈目ちゃうん……やんな?」
「……ほんとう……?」
「うん、私の友達が言ってたもん!」
一気に気温が下がり、勇儀達ですら肌寒さを感じた。そしてその寒さの発生源の皆様は死んだ魚のような目をしており、一切の感情も存在せず、人形のような表情で空虚を見つめていた。
「(これは……やばいな……)」
鬼の勇儀でも背筋が寒くなり震えが止まらなかった。そんな中でヤマメが勇気を出してこいしに質問した。
「……ああ……っで、結婚するなら相手がいるやろ?その……結婚相手とか誰とかわかる?」
「(おいバカやめろ!!)」
勇儀は嫌な予感がしてヤマメを止めようとしたが、凍り付いているような瞳が視界に入ってしまい金縛りにあったかのように動けなくなってしまった。
「えっとね……
「(なん……だと……!?)」
勇儀にはその名前に心当たりがあった。昔一緒に色々やったから憶えている……そして勇儀が知っているならばもう一人の鬼も当然知っている。
「……ふ……ふふ……そ、そうかよ……華扇の野郎……私がいない間に抜け駆けしたわけか……」
萃香が小刻みに震えて拳を握りしめていた。勇儀は萃香の瞳の中に一切の光がないのを見てしまった。しかもそれだけではない……他の3人も同じように光が灯っていないこともわかってしまった。
「……萃香さん……その
光のない瞳で何かを訴える衣玖は萃香に質問する。
「私の仲間だよ……まぁ……たった今……仲間じゃなくなったけどね……」
「そうですか……それを聞いて安心しました……」
衣玖の体から電流が流れる……その表情は冷たく笑っていた。
「私もお供しますよ……その
刀の刃を舐めながら笑みを浮かべている妖夢の姿に勇儀たちは狂気を感じた。
「私を差し置いて……その
神子も七星剣を取り出して刃の部分を握りしめていた。手から流れ出る血など気にも留めない様子に勇儀たちは引いてしまう。
「……さとりの妹のこいしだっけ……
「う、うん……」
こいしですら萃香の迫力に押されて縮こまってしまう。
「それでは……さとりさんにも……よろしくお伝えください……」
「あ、ああ……伝えておくよ……」
勇儀も衣玖の迫力に身を縮こませて適当に頷いておく。
「……行きましょうか……地上に……」
衣玖は他の3人を引き連れて地上へと去って行った。衣玖達が消えてもしばらくの間は誰も動けなかった。そしてようやく周りの空気が緩和され胃に溜まっていた空気を吐き出した。
「ふぇぇぇえ!息が止まるかと思ったわぁ!」
「……こわい……」
ヤマメとキスメは腰が抜けたらしくその場で動けなくなってしまった。
「ぶはぁ……さっきのはヤバかった!私でも下手をしたら死んじまうかと思ったよ……」
勇儀でも今まで感じたことのない迫力に息が詰まっていたようだった。今も星熊盃を持っている手が震えていた。
「はぁ……怖かったぁ……」
「おい、こいしさっきの話本当かよ?天子の奴が結婚したとか」
「正確にはこれから結婚するみたいなこと言っていたけどね」
「言っていたって……友達からの情報だろ?信用できる奴なのかよ?」
「チルノって言う氷の妖精なんだけど、その子が聞いたんだって」
「チルノかよ……」
勇儀は知っていた。地上で
「……とにかくこれから天子の身に危険が及ぶのは間違いなしだな」
「……そうやね……あんな萃香ら見たことないでぇ……」
「……こわい……こわい……こわい……」
「お兄さん……ごめんね」
こいしは面白半分で話したことがここまで恐ろしいことになるとは思っていなかった。謝罪を込めて、勇儀たちとこいしはこれから天子と華扇に起こる不幸に身を震わせながら心の中で無事を祈った……
ちなみにパルスィだけは燃え尽きていたため、この恐怖を味合わずに済んだのは幸いだったのかもしれない。