それでは……
本編どうぞ!
「髪型よし!服装の乱れ無し!体中に変なところは……問題ないようね。これでよし!完璧!!」
鏡の前でしきりに身だしなみをチェックしていた。
ふふん♪昨日は中々寝付けなかったわね~♪それもそのはずよね~♪なんたって今日は……!
イケメン天子との結婚する日なんだから!!
……まぁ今後天子が誰かと結婚するかもしれないからその練習相手だけどね……
でもでも!今日私は憧れのウェディングドレスを着ることができるのよ!!一度外の世界の本を読んだ時に見た衝撃は忘れない……和風の着物での結婚式もいいけどあの純白のヴェールに包まれてレッドカーペットの上を歩く姿が印象的だった。一生味わうことができないと思っていたのにまさかこんなチャンスが来るなんて……!
当然ながらだけど幻想郷にウェディングドレスなんか扱う場所はないと思っていた。けれどまさか天界で扱っているとは思わなかった。しかも天子が結婚式場を建てたそうで、教会と言うのだけどとても神聖な建物だった。見ていると心が浄化されてしまうような気がしたわ。それにしても凄いわよ天子、教会を建てて、ウェディングドレスまで揃えていたのには私も何度目かわからないぐらい驚いてしまった。天界は天子のおかげで変わったと言っても過言ではない。それに私が楽しみにしているのは結婚式を体験できるからだけではない。結婚相手が天子であることが楽しみなのよ。
いやぁ……天子はカッコイイし、料理も掃除もできて親切で何でもできる優良物件だって言っていたけど……一人の異性として見ているの。初めはイケメンで性格も良く、やることなすこと完璧にできてしまうダメなところが一切ない相手と結婚出来れば何不自由なく暮らせると思っていたけど……天子と一緒に過ごして共に修行をし、天界へ出向いて彼の意外な一面を見たら彼も一人の天人なんだなぁって思って……一気に心が惹かれてしまったと言うか気持ちが確実なものになったと言うか……一緒に居たいと思うようになって天子のお父様の提案に乗ってしまったの。
仙人失格だと思ってる。欲まる出しと思うかもしれないけど……それでもいいとさえ思っているわ。天子と要る時間が長ければ長い程、離れると寂しい気分になる。少しでも傍にいてほしい……傍に寄り添いたいと思ってしまう。イケない事だと仙人である私が止めようとするけど止められない。私の心は天子と共にありたいと強く願っているのだから……
だから……天子を独り占めできる今日が楽しみで仕方ないの♪萃香には悪いけど地底でいざこざを起こすのが悪いのよ。それに今回のことは地上の誰にも知られていないし、これはあくまで練習だから誰も文句はないはずよ。今頃萃香は地底でタダ働きしている頃だし当分の間は帰って来ないから関係ないことよねぇ。その間だけでも天子と一緒に居ても罰は当たらないわよね♪
そして練習相手である私に天子がもしその気になってプロポーズでもされたら……
「華扇さん、私の妻はあなたしかいない!」
「そんな……私はただのあなたの練習相手になっただけで……」
「練習なんかじゃない、私と本当の結婚式をしてほしい!」
「天子……」
「華扇さん……」
その後、二人はめでたく結婚しましたとさ♪
ぐへへへ♪たまりませんわぁ~♪
涎を垂らして幸せに酔いしれていた。
おっと!天子を待たせたら悪いわね。待ち合わせをしているんだったわ……行かないと。
ルンルンとスキップしながらペットたちの食事の準備をする華扇をジトっとした目で見つめるのは華扇の動物たち。彭祖らは華扇の考えていることなどお見通しと言わんばかりに呆れていた。そんな彭祖らを見て悪戯な笑みを浮かべて自慢げに胸を張る。
「ふふん♪ご主人様が幸せになることが解せないのかしら?それともあなた達は結婚できていないから悔しいのかしら?どうなの?ねぇどうなの?どんな気持ちなの?!」
いや、お前も結婚してないだろという視線など今の華扇には届かない。寧ろ今の華扇は酒に溺れているのと同じで彭祖らにとってはめんどくさいことこの上ない……
「私は今から出かけてくるから家のことは任せたわ。お腹がすいたらいつもの場所に置いてあるから勝手に食べなさい。それじゃ行って来るわ!」
スキップしながら山を下りていく華扇に手を振りながらめんどくさいのがいなくなったとため息交じりに安堵する彭祖らであった。
「ルンルル~ン♪」
鼻歌を歌いながら待ち合わせの場所へと向かっている。まだ時間はあるのだが、幸せな気分が華扇に余裕の自信をつけさせていた。そんな時に一人の白狼天狗とすれ違った。
「これは仙人様、おめでとうございます!」
「~♪ええ、ありがとう♪」
「それでは私は仕事がありますので失礼いたします」
それから何人かの白狼天狗とすれ違い様に同じようなことを言われた。すれ違い様に何故か祝福の言葉をかけられた……何故?しかもすれ違った全員がである。普段の華扇ならば違和感に気づいただろうが、今の華扇はフワフワとわたあめのように柔らかく甘い気分になっていたためにそんなことは微塵にも感じなかった。そのまま鼻歌を歌いながら下山していたのだが……
「お待ちを!仙人様!」
「あら、あなたは……確か椛ね。どうかしたの?」
華扇の前に現れたのは白狼天狗の犬走椛であった。彼女はわざわざ華扇を引き止めた。そして彼女の手元には綺麗な色をした果実が握られていた。
「それはあなたの食事かしら?」
「いいえ、仙人様に差し上げようと思って持ってきました」
「私に?ありがとう」
華扇は何の疑いもなく受け取った。果実自体はどこもおかしくない普通の果実だ。だが、椛は彼女なりに祝福を祝うために用意した代物だった。
「その果実は今が旬なのでとても甘いのですよ」
「へぇ、そうなんですか。ありがたく受け取っておきますね。それじゃ私は行くところがあるので」
「はい!お気をつけて!それから……お幸せに!」
椛からも祝福の言葉をかけられた。華扇は気分がわたあめになっていて何の疑問も浮かばずにありがたく貰った果実を口に運ぶのであった。その果実の甘さを味わえるのは今だけだと言う事は華扇は知らない……
「ここね」
妖怪の山の
良い気持ちね……風が気持ちいい……いつもはそよ風程度にしか思わないけど今日は一段と良い気持ちになれる。やっぱり今日が結婚式だからかなぁ……ぐへへへ♪
この後が楽しみでウキウキが止まらないだらけきった様子を誰も見ていないはずだった。
パシャンと水しぶきが音を立て、そちらに顔を向けると……
「――ひゅい!?」
河童がいた。
「「……」」
お互いに目があった。
……見られた。
「……見たわね?」
「――ひゅい!?み、みてないよ!涎垂らして気持ち悪い姿なんか見てないよ……!……あっ」
「……」
「……にげ……!」
バシュッ!
川へと逃げようとした河童の背中のリュックを手が掴んだ。正確には手の形をした包帯であったが……捕まえたことは捕まえたのだ。手形の包帯が引き寄せられて行き、掴まれたリュックと共に河童も引き寄せられて地面に転がされた。
「ひゅぃいいいいいいい!!?」
腕が伸びたと勘違いした河童は相手が人間でないことを理解した。そして目の前の包帯をした女が河童を見下ろし、見下ろされた河童は恐怖を感じていた。
「み~た~な~!!」
「ひゅぃいいいいいいい!!?お許しをぉおおおおお!!!」
私の姿を見たものは決して誰であろうと許さん――ってこの子って……
「にとりじゃない、何しているのよ?」
「……ひゅい?」
怯えていた河童はキョトンとしていた。
なんだにとりじゃないの。相変わらず強い者に対しては下手に出て、弱い者に対しては強く出る……変わってないわね。
華扇は昔を懐かしんでいるようであった。そしてにとりに対して言い放つ。
「ほら、なにボケっとしているのよ。さっさと立ちなさい」
「えっ?あ、ああ……わかった……」
言われるがまま立ち上がったにとりは相変わらず華扇の顔を見ながらキョトンとしていた。
「?なに?私の顔に何かついているのかしら?」
「あ、いや……」
どうしたのかしら?にとりの奴……何故かよそよそしいし……聞いてみるか。
「にとりどうしたの?なんでそんなによそよそしいのよ?」
「あ、えっと……」
にとりは何故か言いにくそうにしていた。にとりは強い者に対しては下手に出るタイプなので遠慮しているのではないか……そう思ったが何か違う感じを華扇は感じていた。しばらく待ってあげているとにとりは口を開いた。
「……あの、どこかで会いましたか?」
「……はっ?」
「いや、私は河城にとりって言う……いや!河城にとりと言います。それであなた様は……?」
いやいや何言ってんの?にとりとは昔に会ったことあるじゃない!私が〇〇だった頃……!!!
華扇は思い出した。今の自分は仙人の茨木華扇であると言う事を……昔に出会った〇〇の時の華扇ではない。危うく自分の正体をばらしてしまうところだった華扇はフワフワしたわたあめのような気分が一気に現実へと引き戻された。
「わ、わたしは妖怪の山で修行をしている仙人よ!あなたのこと天子から聞いて知っていてね!発明好きな河童がいるって!」
「なんだ盟友の友達だったのか!」
「そ、そうよ。天子とは知り合いなのよ!」
危ない危ない!もし私の正体が知られでもしたら……気分が浮かれていたようね。今日が結婚式の日だからって気を抜いていたら足元をすくわれるわね……気をしっかりしないと。
天子の友人だとわかったにとりは態度を和らげて接して来た。
「それにしても驚きだよな!」
「?何がです?」
「何がって……盟友が結婚するんだよ?聞いてないの?」
「えっ?結婚?」
「なんだ知らないのかい?盟友は今日結婚するらしんだよ」
……はっ?にとりが言う盟友って天子のことよね?その天子って私の知っている比那名居天子よね?まさか同姓同名とか……それはありえないわね。っとすると今日結婚する……そして私は天子と練習だけど結婚する……んん?
華扇はようやく違和感を感じた。
「ちょっとにとり……その天子が結婚するって話なんだけど……相手の名前とかわかる?」
「えっと……確か
私の名前……えっ!?もしかして地上に私達の結婚が知れ渡っているの!?そう言えばここに来るまでに白狼天狗の何人かに祝福じみた言葉をかけられたけど……まさか……そんな!?
「……もう一つ聞きたいんだけど……誰からの情報?」
「情報って言うかみんな知ってるよ?今、人里でも話題になっていて私もこれから盟友に向けての花火を用意しているところなんだ」
大変なことになってる!?ただの練習なのに私と天子が本当に結婚することになっている!?結婚することには間違ってないのだけど、間違ってないんだけど間違ってるの!練習なの!ただの練習なのに本番になったらそれはそれで……いいかもしれない♪いや!駄目よ!!そんな卑怯なことをすれば地底にいる萃香が黙っていない……もしこのことが萃香の耳に入ったら……!
『「華扇お前……卑怯な手段を使って天子を手に入れたらしいな……仲間と思っていたのに……お前は仙人になってセコイ手段に手を伸ばすようになったか……お前なんか仲間じゃない!!ぶっ殺してやる!!!」』
私が卑怯者扱いされてしまう!!それだけじゃない……天子を慕っている連中がいるらしく、萃香と同じように地底でタダ働きする日々を送っているのだとか……
その連中に知られでもしたら萃香と共にやってきて
戦えばいいかもしれないが萃香……いや、萃香だけじゃなく他にもチラホラいると考えると……もしかしたら勝てないかも……そんなことになってしまえば私は……!!!
「仙人様?」
「――はぅ!?」
にとりに声をかけられて思わず変な声が出てしまった……しかしまだ慌てる時ではない。何とか説明して事情を言えば許してくれるはず……
この時、華扇の頭脳に要らぬアイデアが浮かんでしまった。
そうだわ、萃香は今、地底にいるんだったわ。情報が地底まで行くわけないし、何よりも式場は天界……流石に地上の者達が無断で天界に入るワケがなく、天子が地上に来た時に祝おうとかそういう算段のはずよ。結婚式場には天人達でいっぱいなはずだし、それに練習なんだから地上の者を呼ぶわけない。どっから漏れた情報かわからないけど、私と天子が無事に結婚式(練習)を挙げてからみんなに頭を下げればいい。いえ、下げる必要もないわね。だって勘違いしたのはそっちなんだから私達が頭を下げる通りなど何一つとしてないわけです。まぁ、優しい天子ならば頭を下げることはするだろうけど、楽しみを堪能してからでも遅くはないわね♪
それにみんな祝ってくれるんだし邪険にする必要はないじゃない。寧ろ喜ばれていることよね?お騒がせ騒動なんて幻想郷ではよくあることだし、これも小さな異変として残ったとしても問題なさそう……
華扇の中の悪魔が囁いていた。楽しむのが先だと……
いえ、駄目よ。私は仙人なんだから間違いを犯して自分の楽しみを優先するなど愚の極みよ。例えそれが相手の間違いだとしても説明して納得させることが必要よ。練習なんていつでもできるんだし……
華扇の中の天使が良心に働きかけようとする。しかし悪魔が黙っていない。
地底にいる連中の復興作業が終わりもしかしたら這い出てくるかもしれない……そうなったら練習どころではなくなり、天子の取り合いになるかも!しかも天子のご両親の花婿姿を見るという願いが先延ばしになったり、見れなくなってしまう……ご両親の期待に応えて取り入るチャンスを逃すつもり!?
昔のようになれ……今は悪魔が微笑む時代なんですよ!!
その言葉が決定打を打った。
……今を楽しまないと損よね♪今じゃないと後々邪魔が入りそうだし♪天子に口止めしてもらえばバレないバレない♪
勝ったのは悪魔だった。
「仙人様どうしたんだい?」
「いえいえ、なんでもないのですよ。それよりにとり、天子のために用意しなくて大丈夫なの?」
「そうだった!それじゃ仙人様また会ったら私の発明品を見せてあげるね!」
「はいはい、さようなら~」
にとりは川へと帰って行き、しばらくして天子が要石に乗ってやってきた。
「すまない待たせたか?」
「ううん、今来たところよ♪」
「?華扇さん……なにかあったか?」
「いえいえ、なんでもないわ。さっ!早く天界へエスコートしてもらえますか比那名居天子様♪」
「(やけに機嫌が良いみたいだ)ああ、わかった。それじゃ行こうか」
ぐへへへ♪結婚式……楽しみだわ♪
この時に良心を選んでおけば運命が変わっていたのかもしれないが……
今を選んだ華扇の運命は如何に……!
「そう言えばさっきの仙人様の名前聞けなかったけど……どこかの誰かに似ていたような気がするなぁ……昔に会ったことがある誰かに?むむむ……まっ、思い出せないならどうでもいい事だろうしいいか!」
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空に向かう男女の姿があった。それはたちまち空の彼方へと昇って行き、その先にある天界へと消えて行った……
それと同じく空の彼方を眺める6つのシルエット……
「天子があそこにいるんだな?」
1つ目のシルエットは髪が長く、手や体からメラメラと燃える炎が宿っている……
「はい、あそこに天子様とメス豚がいるはずです」
2つ目のシルエットは帽子を被っており、体中に雷を身に纏う……
「華扇の野郎……いい気になるんじゃないぞ!」
3つ目のシルエットは鎖に三角、丸、四角の形をした重りをつけ、頭の左右に長い突起物が生えている……
「私に迷いなどありません……切れぬものなどあんまりないのですから……例えそれが仙人の首であっても!」
4つ目のシルエットは手に持つ2本の刀と傍に浮かぶ大きな物体を従えて……
「殺してしまうなんてとんでもないですよ、ゆっくりとキョンシーにして差し上げるのが優しさというものですよ?」
5つ目のシルエットは腰に剣を差し、髪の部分は耳のような形をしている……
「ふふ……みんな……準備はいいかしら?」
6つ目最後のシルエットは傘を持ち、シルエット越しでもわかるような不気味な笑みを浮かべている……
「「「「「おう!!」」」」」
最後のシルエットに応える謎の影ら……
「それじゃ……乗り込むわね♪」
6つの謎の影が空へと一斉に飛び去って行った……