比那名居天子(♂)の幻想郷生活   作:てへぺろん

6 / 89
気分が乗りに乗っているので投稿しちゃいます。



本編どうぞ!




5話 異変の終わり

 「絶対だぞ!ぜっっっっっっっっったいに次の宴会の時には顔出すんだぞ!」

 

 「大丈夫だ萃香。鬼との約束をやぶるマネなんてしない。萃香と飲める日を楽しみにしているよ」

 

 「ああ!私も楽しみで仕方ないよ!」

 

 

 勝敗が決した戦場だった場所はいつの間にか小さな鬼と変わり者の天人との約束を誓った場所になっていた。

 

 

 「今度、宴会しないか?」その一言で天子は次の宴会に出席することとなった。今回の地底での異変が解決したら萃香達は宴会を開くだろう。しかし、天子は急遽地上に下りてきたので天界をほったらかしにしている状況だ。それに慧音と妹紅も人里で待っているので帰らねばならなかった。それ故に、次の宴会には出席すると約束を誓ったのだ。

 

 

 鬼は約束を重んじるものであり、嘘が嫌いな種族だ。約束を破ることは失礼極まりないし、報復が恐ろしい……鬼との約束は絶対に守らないと後々怖いものだ。しかし、天子は何も怖くて約束したのではない。心の底から萃香と一緒に酒を飲んでみたいと思っていた。だから、約束した。

 

 

 「それでは皆さん、また会いましょう」

 

 「また会おう天子!心の親友(とも)よー!!」

 

 

 鬼と天人との友情の証としても約束したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ふふ~ん♪」

 

 「……嬉しそうね萃香」

 

 「ああ!嬉しくて堪らないよ!楽しみで仕方ないよ!天子と親友(とも)になれたんだ!それに一緒に飲もうって言ってくれた。これは勇儀の奴にも自慢してやりたい!!」

 

 

 子供のようにはしゃぐ姿をした小鬼がいる。服はボロボロで体中も傷だらけだが、心の中はとても清々しい気分でいっぱいだった。自分を打ち負かした天子と約束した。鬼である萃香との約束は特別だ。内容は大したものではない……一緒に酒を飲もうとのこと。大したものではないが、萃香にとってはその約束の日が楽しみで仕方なかった。その日の出来事を想像する……一緒に酒を飲み交わし、酒を注ぎ合い、酒の早飲みをしたり……酒のことしか普段の萃香ならそう思っていたが今回は違った。

 天子がいるのだ。萃香に勝った天子が、親友(とも)でありたいと願った相手と親友(とも)になった。嬉しかった。萃香は大好きな酒よりも天子の事で頭がいっぱいになっていた。

 

 

 「天子と一緒に酒……いや待て!まず一緒に美味い飯を食べながらもいいな!それから何しようかなぁ……ああ!でもやっぱり酒は外せないし……うえぇい!やりたいこと多すぎてどうすればいいんだ!?紫教えてくれよー!!」

 

 「え、ええ……」

 

 

 紫は目の前にいる鬼が萃香なのかと疑ったぐらいだった。萃香はいつもなら酒と喧嘩だけに酔いしれているがそうではなかった。今の萃香はどこか小さな鬼の面影はなく、何かに夢中になっている女の子に見えている気がしてならなかったのだ。

 

 

 「(萃香……あなたあの天人を……?)」

 

 「?どうしたんだ紫?私の顔に何かついているか?」

 

 「いえ、なんでもないわよ。そうねぇ……」

 

 

 ------------------

 

 

 「それじゃ私は準備があるから帰るぞ紫」

 

 「ええ、ほどほどにね……」

 

 

 萃香は誰よりも先に帰って行った。魔法使いのアリスとパチュリーが萃香に治療を受けるよう勧めたのに萃香は断った。「この傷も勝手に治ってしまうけれど、忘れられない宝なんだ。だから、消えるまで私の体に残しておくし、消えても天子と戦った思い出は一生消させない」っと言って治療を断った。傷ついた体を大事そうにしているなんて鬼という生き物は変わっていると思う。それに萃香は知り合いに次の宴会の時、天子に何が相応しいかを聞くために帰ったのだ。おそらく霊夢と魔理沙が異変を終えて宴会になるだろうが、それをほっぽりだして帰ってしまった。鬼である萃香が宴会に出席しない事態異変などではないかと錯覚するような感じがした。実際に異変だと思う者もいるだろうし……

 

 

 「……比那名居天子……ねぇ……」

 

 

 私はあの天人の名を口ずさんだ。私自身意図したものではなかった。しかし、名が出ていた……萃香と同等以上に戦ったあの天人の名を……

 

 

 私の結界を抜けてくるなんて只者ではないわ。それに、彼はとてもカッコよかった……警戒していたにせよ、初めて見た時うっかり見惚れてしまっていたなんて言えなかった。それも相手は地上の事をよく思っていない天人だったし、こんな人気もない所までやってきたのだ。何を企んでいるかわからない人物……それが萃香の提案で彼の実力を見ることが出来たけど、予想を遥かに超える状況だった。鬼の萃香を認めさせ、萃香の信頼を勝ち取った。話では人里の方でも人間達から信頼を得られたとか言っていた。天界に比那名居天子のような者がいるだなんて……調査する必要があるようね。一体比那名居天子がどういう人物なのか……

 

 

 「あやや……気になります?」

 

 

 射命丸……大人しいわね。いつもの彼女なら特ダネだと言ってすぐ飛びつくのに……流石に相手が上司の萃香を倒した存在だから慎重になっているのかしらね?そうだわ、この際に彼女達から彼がどう見えるか意見を聞くのも一つの手ね。

 

 

 「あなた達はどう思うのかしら?彼のこと?」

 

 

 紫がこの場に残った文、にとり、アリス、パチュリーに問う。その問いには紫の素朴な質問と何かを期待するような問いかけだった。皆それぞれの思いを答える。

 

 

 「私は彼はいい天人だと思ったわ。それに彼はとても強い……初めての実戦とは思えないほどの才能を持ち合わせているみたいだし、私としては非常に興味深いわ」

 

 

 アリスは天子に心底興味が湧いたようね。アリスにとっても天人は初めて出会う存在だし、何よりも戦いの中で見えた才能の方に興味を持ったようだったわ。アリスにとっては純粋な興味と言った感じかしらね。

 

 

 「私は……私よりもレミィが興味を持ちそうな男性だったわ。戦いについては私の管轄外だから何も言えないけど、とにかく彼は凄いと思ったわ。それに彼はイケメ……んん!中々凛々しい方だったし……」

 

 

 今イケメンって言おうとしたのかしら?確かに彼に見惚れてしまったわけだし否定はしないわ。しないけど、紅魔館のお子ちゃま吸血鬼は必ず彼に接触を望むはずよね。この子自身はそれほどって言ったところかしらね……顔には興味あるみたいだけど。さて、河童の方は……

 

 

 「伊吹様に勝っちゃうだなんて凄いよ!いやぁー私の発明を見せてあげたくなるよ!」

 

 

 純粋な感想って感じね……危機感はなしっと……先ほどから難しい顔をしている天狗はどうかしらね?

 

 

 「あなたはどうかしら?射命丸?」

 

 「……」

 

 

 文は黙っていた。答えを出すかどうか迷っていたように見えた。しばらくしてから文は言った。

 

 

 「天子さんは素晴らしいお方だと思います。私のインタビューにも今度受けてくれると言ってくれましたし、伊吹様の無茶ぶりにも答えてもらえたこともあって優しいお方だと私は思います。それ故に彼が与える影響は大きいものでしょう。伊吹様に勝ったことで天子さんに我もと挑戦する者が現れると思います。天子さんの登場で幻想郷のバランスに影響が及ぶ可能性も0ではないと私は思います」

 

 「そう……」

 

 

 そうよね。射命丸の言う通りのこともあるわね。幻想郷の鬼である萃香を倒したことは大きな影響を及ぼすに値するわ。あなたを慕う者達にも影響を与え、数々の者達が彼に挑戦することでしょう……できれば情報を操作してなるべくこの決闘のことは伏せたかったけど、萃香は絶対周りに自慢したがるし、情報操作は難しいわね。射命丸でさえ、このことを記事にするか悩んでいるみたいなのに……逆に情報を提示してしまう手もありね。余計な事態が起こらないためにも……

 

 

 「あなたはこのことを記事にしないの?」

 

 「迷っているところですよ。流石に伊吹様が負けたとなっては動揺が大きいのは確実ですし……」

 

 「私は寧ろ情報を早めに伝えた方がいいと思うわよ。萃香の方も自慢話でそこら中に言いふらすと思うし……」

 

 「あやや……確かにそれはありますね。今回は事が事なので内容は吟味させていただきます」

 

 「よろしくね」

 

 

 力あるものには必ずそれ相応の出来事がやってくる。世界のバランスとはそういうものだ。うまい具合に作られている。そこに突如として現れた比那名居天子……これからあなたが幻想郷にどう関わってくるか……幻想郷の賢者として見定めてもらいます。

 

 

 異変解決の数日後に号外が幻想郷に配られた。

 

 

 ------------------

 

 

 「……戻ってこれたな……」

 

 

 やっと戻ってこれた。流石に応えた……萃香と仲良くなれたのはよかったけれど、まだ殴られた箇所が痛い。どんだけ萃香の攻撃の威力が高かったかがわかる。萃香に勝ったのは様々な条件が揃ったことで勝ったものだと私は思っている。あのまま続けていたら私はもしかしたら負けていたかもしれないもの……

 まぁ、それ以上の対価をもらえたからいいけどね。文とは今度取材を受けることを約束したし、にとりとも関わることができたし、次合うことがあれば迎え入れてくれるだろう……迎え入れてくれるかな?アリスも興味を持ってくれたし、パチュリーはチラチラとこちらを窺っていたけど何だったんだろうか?紫さんには私はこんなにやればできる子だということをアピールできた。もし、困ったことがあったら私は手を貸せる程の存在だと証明したから十分だった。この場に居たら元天子ちゃんも喜んでくれるだろうか……?

 

 

 宴会に出席する約束もしたし、地底の異変はもうすぐ終わるみたいだし慧音と妹紅に伝えに人里へ戻ってきたところだ。二人はどこにいるかな?あそこにいる自警団の方に聞いてみようかしらね。

 

 

 「すまない、慧音と妹紅の居場所は知っているか?」

 

 「おお!あんたは子供を救ってくれた天人の兄ちゃんじゃねぇか!二人なら見回りしている頃だと思うぜ」

 

 「そうか、教えてくれてありがとう」

 

 「いいってことよ。子供を救ってくれたんだ。子供達は次世代の希望だからよ」

 

 

 いい人だなぁ……自分の子供じゃない子でもこんなに優しくできるなんて温かい。生前の私なんか居たこと自体忘れ去られていたことだってあるもん……そう思うと現代より便利な物は少ないけど人と人との繋がりがあるって素敵だと実感できるわ。幻想郷のこともっと好きになれそうだ。

 

 

 天子は自警団のおじさんと別れて見回りをしているなら動くより待っていた方がいいと思い、寺子屋へ向かうことにした。寺子屋の前まで行くと丁度見回りを終えた慧音と妹紅を発見できた。

 

 

 「慧音、妹紅」

 

 「天子!随分と遅かったじゃないか。射命丸の奴は見つからなかったのか?」

 

 「いや、見つかったことは見つかったが、訳があって鬼と喧嘩した」

 

 「なに!?お前鬼と戦ったのか!?もしかして死んだ?ここにいるのはまさか亡霊か?」

 

 

 妹紅落ち着こう?なんで私は死んだことになっているの?妹紅は私に死んでほしいの?蓬莱人ジョークですかね?鬼と戦って無事に帰ってこれたことに驚いていることはわかるけど私は無事です。

 

 

 「妹紅落ちつくのだ。私はこの通り大丈夫だし、どこも悪くないぞ。それに、ちゃんと今回の異変の情報も仕入れてきた」

 

 

 私は慧音と妹紅に伝えた。すると二人は安堵した様子だった。もう人里は安心だろう……さてと、私もそろそろ体の限界かな。先ほどどこも悪くないと言ったけど、無理をしている。萃香の拳を受けて平静を装っていられるのは元天子ちゃんの我慢強さのおかげなだけなの。服は幸いにいつでも戦闘することを想定して天界でもレアな素材で作った特注品なので耐久性も抜群だ。少し汚れたが、破けることはなかったので、帰っても騒がれないだろう。それにすぐにでも帰って休みたい……疲労も溜まっているし、ここに居ても邪魔になるだけだ。邪魔者はさっさとお(いとま)しないといけないしね。

 

 

 「以上だ。私ができることはこんだけだ」

 

 「いや、天子が居てくれて本当によかったと思っている。天子のおかげで救われた命があったし、無関係の私達のためにここまでしてくれたんだ。本当に感謝しています」

 

 

 慧音が頭を下げる。それには感謝と尊敬がこもったお辞儀のようにだった。

 

 

 「私も礼を言うよ。天子ありがとうな」

 

 

 妹紅からもお礼言われて気分上々です♪人から感謝されるのは気分がいいわね。ポカポカする……心が温かい♪

 

 

 「私も慧音と妹紅に出会えたことが嬉しいよ。また、地上に下りた時はよろしく頼む」

 

 「ああ、天子なら大歓迎……『天子様ーーー!!!』ん?何の音だ?」

 

 

 音っというより声だな。……はて?どこかで聞いたことのある声だ。その声も何やら頭上の方から聞こえてくる気がしているぞ……頭上?上?空……ま、まさか……!?

 

 

 天子、慧音、妹紅は声をした方を見る……

 

 

 「天子様ーーー!!!総領息子様ーーー!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「天子様ご無事ですか!?」

 

 「衣玖……」

 

 

 永江衣玖が地上に降り立った。降り立った彼女はすぐに天子の元へ駆け寄る。

 

 

 「天子様ご無事でございましょうか!?何か悪いものでも食べていないでしょうか!?何者かに襲われたとかないでしょうか!?もし天子様に危害を加えるような者がいるのでしたら天界の者達総出でそいつを狩り取りましょう!しかし天子様に危害が及ぶなど決して許しません!天子様に傷一つつけようものならば私はこの身を犠牲にして刺し違えてでも……!」

 

 「衣玖落ち着け」

 

 

 本当に落ち着いてください。そうしないと慧音と妹紅が唖然としてこっちを見ているし、ご近所迷惑です。それに既に妖怪に襲われましたし、萃香と喧嘩もしました。時すでに遅し……天界の皆が私のために地上に降り立ったら確実に異変じゃないですか……っていうか天界に戦える天人なんて私ぐらいなのに……敗北確定的なんですが?まぁ、衣玖がそこまで心配してくれていることがわかったから嬉しいのだけど、とりあえず落ち着こう?

 

 

 「はっ!?す、すみません!と、とりみだしてしまいました!」

 

 「私を心配して駆けつけてくれたのはありがたいが、慧音と妹紅が困っているだろ?」

 

 「あっ」

 

 

 衣玖はたった今気づいたみたいね。そんなに私のこと心配してくれるなんて涙が出ちゃうじゃない!私が生前に捻挫した時でも誰もが「ふーん」みたいな反応だったから心の中では大号泣です……衣玖優しすぎる!そして生前の私って周りからどんな目で見られていたの?私普通の女の子だったよ?引きこもりだったけど……

 

 

 衣玖は慧音と妹紅に気づいてすぐさま二人に対してお辞儀をした。

 

 

 「お見苦しい所をお見せして申し訳ありませんでした。私は比那名居天子様にお仕えする永江衣玖と申します。以後お見知りおきを……」

 

 「天子の知り合いだったのか……」

 

 「天……子……!?」

 

 

 ん?どうしたの衣玖……あ!慧音が私を呼び捨てしたのが気に入らないのか!?天界じゃ私のことを呼び捨てにするのは父様と母様だけだ。他の皆に呼び捨てで構わないと言ったら「天子様をそのように扱うなど大変失礼極まりないことでございます!」っとか言って恐縮されてしまった。私が天界で生活している時にあまりにもやりすぎてしまったことが原因かな?私はただ元天子ちゃんの名誉と彼女のためにやっただけだけど、完全に原作を無視したのがいけなかったんでしょうかね?でも、とうに過ぎてしまった事をとやかく言っても仕方ないです。私は結果として皆が自分のタイミングで呼び捨てにしてくれたらよかったし、様付けでも気分が悪いわけじゃないから問題なかったわけだけれど……

 

 

 何故に衣玖の目が敵意むき出しにしてるの!?目からメンチビーム出てますよ!睨まないであげてください。慧音が困っているから止めてあげてよ!衣玖能力使ってほしい……空気読んでください。これは私が何とかしないと……

 

 

 「衣玖、慧音と妹紅は私の友人だ。警戒することはないさ」

 

 「私は警戒なんてしてません……よ……」

 

 

 めっちゃ警戒してますよね?衣玖、体から電気出てるよ?衣玖が私を守ろうとしてくれているのはわかったけれど、このままじゃ慧音と妹紅と不快な仲になってしまうよ?私は衣玖と慧音達が不仲になるなんてごめんだ。

 何とかするために私のとっておき……イケメンロールで対応だ!

 

 

 私は衣玖の手を両手で優しく包み語り掛ける……

 

 

 「衣玖、慧音も妹紅も私に危害を加えたりはしない。信用できる二人なんだ。()()()()()()()()()()()。だから警戒なんてしないで二人と仲良くなってほしい。それにいつも通りに接してくれ。私はいつも通りの衣玖がいいのだから……」

 

 「て、てんし……様!?」

 

 

 衣玖の顔が真っ赤に染まり、握っている手から体温が上がっていくのを感じ取れた。そんな光景を見ていた慧音と妹紅も顔が赤くなっていた。

 

 

 ちょっとやり過ぎてしまったかな?でも、これならば衣玖は大人しくなってくれると思う。イケメンにお願いされて断れる女はいないはず……私なら断らない!

 

 

 「天子様がそう仰るなら……んん!慧音さん、妹紅さん、先ほどは大変失礼態度をとってしまい申し訳ありませんでした」

 

 「い、いや……私達は気にしてはいないのだが……な、なぁ妹紅?」

 

 「あ、ああ……私も気にしてない。大丈夫だぞ」

 

 

 ふぅ……この場は落ち着いてよかった。衣玖にも後で細かく説明しておく必要があるみたいだな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は慧音と妹紅と別れて衣玖と共に天界へ帰ってきた。地上が異変騒動でドタバタしていても天界はいつも通りのようだ。私がもし地上で危険な目に合っていると知ったら皆どうするのかな?衣玖が言う通りに地上にやってくるのか……え”!?私ってそんなに重要視されてたんだ……知らなかったわ。なるべく天界の皆には余計なことは言わない方がよさそうだ……

 

 

 天子は疲れた体を癒すために自室へ戻ろうとすると衣玖が天子の腕を掴んだ。

 

 

 「ん?どうした衣玖?」

 

 「天子様……失礼します」

 

 

 衣玖は私を部屋に押し入れると鍵を閉めて私の服に手をかけてきた……

 

 

 ふぁ!?な、なんで服を脱がせようといているの!?まさかイケメンロールで悩殺してしまったのかしら!?ごめん衣玖!そんなつもりじゃなかったのよ。ただあの場を落ち着かせるためにやったことなのよ!それに私達は女同士よー!中身限定だけれどー!!!

 

 

 そんなことを考えている私だったが、衣玖が手を止めた。止めれくれたのかと思っていたが、根本的なことから私は勘違いをしていたようだった。

 

 

 「天子様、嘘をつかないでください……」

 

 

 衣玖は私にこう言った。嘘とは一体何のことかと初めは思った。

 

 

 「()()()()()()()()()()()なんて嘘つかないでください……」

 

 

 上半身をまくり上げている私の肌を見ながらこう言った。

 

 

 血が滲み、紫色に変色していた。天子自身でも痛みを感じていたが気に留めていなかった。そこは萃香との戦いで天子が油断して一撃を受けた箇所であった。拳の跡が今でも残っていた。

 衣玖はそれを確かめるために天子の服を無理やり脱がせたのだ。

 

 

 「あ、衣玖これはだな……その……地上の者との友情を育む儀式みたいなものでな……」

 

 

 やばいやばい!?萃香と喧嘩して殴られましたなんて言ったら、衣玖が言うことが本当なら天界VS地上になってしまうじゃないか!ど、どうにかして誤解されないようにしないと……!

 

 

 「……知ってます……」

 

 「へ?」

 

 

 衣玖は今何と言った?

 

 

 「天子様がお優しい方だというのは私が良く知っています。私だって地上の事をまるっきり知らないわけではありません。戦いが好きな者がいることも、天子様がお強いことも、何か理由があって行動したことも私にはわかっております」

 

 

 衣玖が私のことを知っていると言ってくれた。衣玖は私が天界に移住した時から知っている。私自身が転生して初めて会ったのも衣玖だ。私が評判を変えようと躍起になっている時でも傍に居てくれた。いつも衣玖が居た。そうだよね、私の事を知ってくれているのは天界でも父様でも母様でもなく、衣玖が私と一緒にいる時間が長かったんだもんね。もしかしたら私は自分のことわかっていないのかもしれない……衣玖の方が私の事を見ていたのかもしれないね……謝ろう……

 

 

 「済まない衣玖……心配かけてしまった」

 

 「……本当に……心配したんですから……」

 

 

 衣玖の瞳に何かが溜まっているのが見えた。

 

 

 涙が今にも目から流れ出そうになっていた。衣玖は私の事をそこまで心配してくれていたなんて……これじゃ、衣玖にも元天子ちゃんにも面目立たないじゃないか……私自身まだまだ未熟らしい……

 

 

 「本当に済まない衣玖……衣玖がこれほど心配してくれているのに私は……」

 

 「いいんです。天子様は地上の輩にそう簡単に負けるお方ではないことぐらい知っています。それで、天子様と戦ったのは妖怪ですか?」

 

 「ああ、妖怪だ」

 

 「その方は強かったですか?」

 

 「ああ、とっても強かった」

 

 「その方とはどういう関係ですか?」

 

 「その者とは喧嘩を通じて友となった。今度宴会に行くと約束してきてしまったんだ……怒るか?」

 

 

 衣玖の反応を待つ。しばらくして答えが返って来た。

 

 

 「怒りはしません。それに友となったんですから宴会に行くべきです。約束を守らないのは天子様自身に泥を塗ってしまいますからね。私は天子様のお世話をする身です。私がどうこう言う立場ではありませんし、私は鬼ではありません。天子様が地上に出向くことも止めませんから安心して出かけても怒ったりしませんが、ちゃんと伝えてから出かけるようにはしてくださいね?」

 

 

 よかった!怒ってないみたいだ。それにしても衣玖が話がわかる!なんだかお母さんの話を聞いているようで新鮮な感じがした。途中で鬼という単語に体が反応しそうになった私だったけど、地上に出かける許可も取れたしこれで次の宴会の時に萃香と一緒にお酒が飲めるぞー!衣玖マジ天使!天子は私だけど……

 

 

 「ありがとう衣玖、衣玖が居てくれてよかったよ」

 

 「ほ、ほめてもなにも出ませんよ!」

 

 「あはは!済まないな」

 

 「もう……それよりも怪我しているのですから横になってください。治療薬をとってきますので」

 

 

 私をベットに寝かせて衣玖は部屋をあとにした。出て行った扉を私は見つめて私はこう言う……

 

 

 「……ありがとう」

 

 

 『ありがとう』相手に感謝を伝えるに最適な言葉を衣玖にもう一度送った……

 

 

 ------------------

 

 

 見つけた!私は地上を眺めて探した……天子様、天界に革命を起こした素晴らしいお方。その天子様が天界で姿を消した。私は天界をくまなく探したがいなかった。すると、考えられることはただ一つ……

 

 

 地上に行った。これしかないと私は思った。天子様は元地上の人間だったお方。そのお方が天界から地上へ行ってもなんの違和感もない。しかし、天子様は天界へやってきてからは地上へはお戻りにならなかった。それが何故何も言わずに地上へ降り立ったのかは不明だが、地上には礼儀知らずな妖怪や残虐な生き物が生息する。天子様はとてもお強いお方ですが万が一もしものことがあったら私は……!

 そうして、私は雲の上から地上を捜索していた。所々で間欠泉が噴き出ている様子が見えたがそれどころではない。そして視界の端に見知ったお姿が映った。それは天子様だった。人里を歩いているお姿を見つけることができた。私は何も考えられなかった。いつの間にか空を飛んで居たのだから……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「天子様ーーー!!!総領息子様ーーー!!!」

 

 

 見つけた!天子様のお姿が見える!

 

 

 「天子様ご無事ですか!?」

 

 「衣玖……」

 

 

 天子様が目の前にいる。よかった……妖怪に襲われたりしなかったでしょうか?少しお姿が汚れている気がしてなりません。もしかしたら私は見つけるのは遅かったのかもしれない……!

 

 

 「天子様ご無事でございましょうか!?何か悪いものでも食べていないでしょうか!?何者かに襲われたとかないでしょうか!?もし天子様に危害を加えるような者がいるのでしたら天界の者達総出でそいつを狩り取りましょう!しかし天子様に危害が及ぶなど決して許しません!天子様に傷一つつけようものならば私はこの身を犠牲にして刺し違えてでも……!」

 

 「衣玖落ち着け」

 

 

 天子は衣玖を手で制した。その行動で衣玖は我に返る。

 

 

 「はっ!?す、すみません!と、とりみだしてしまいました!」

 

 「私を心配して駆けつけてくれたのはありがたいが、慧音と妹紅が困っているだろ?」

 

 「あっ」

 

 

 天子様に夢中で私ったら知らない方達の前で……は、はずかしい……私は何をしているのでしょうか!?絶対私は落ち着きのない女だと思われた。天子様の迷惑になることをしてしまいました……

 で、でも、ここでまた取り乱したら天子様の威厳に関わる……冷静に対応すればいいのよ。そう、私はできる女なのだから……!

 

 

 「お見苦しい所をお見せして申し訳ありませんでした。私は比那名居天子様にお仕えする永江衣玖と申します。以後お見知りおきを……」

 

 「天子の知り合いだったのか……」

 

 「天……子……!?」

 

 

 天子様を呼び捨て……!?天人様達ですら天子様に失礼に値するので呼び捨てなどしないのに……この者は平然と天子様に向かって呼び捨てをした。私ですら呼び捨てにしていないのに……私がまだその決心がついていないだけですけどこの者は一体何様のつもりなのでしょうか!?

 

 

 衣玖は自分でも意図していないのに目に力が入り、慧音を睨む形になっていた。

 

 

 「衣玖、慧音と妹紅は私の友人だ。警戒することはないさ」

 

 「私は警戒なんてしてません……よ……」

 

 

 警戒なんて……ただなんだか私が嫌だっただけでして……

 

 

 そう思っていると天子が衣玖の手を優しく包んだ。

 

 

 ふぇ!?て、てて、ててて、てんし様!?ダメですよ!?いきなり公共の場でそんなことをしては!?あ、温かくてお優しい力加減で私を見つめるその瞳をずっと味わっていたいですけど!天子様が私のような者にお戯れをするなど天子様の威厳が落ちてしまいますのに……

 

 

 衣玖が混乱していると天子は衣玖に語り掛けた。

 

 

 「衣玖、慧音も妹紅も私に危害を加えたりはしない。信用できる二人なんだ。()()()()()()()()()()()。だから警戒なんてしないで二人と仲良くなってほしい。それにいつも通りに接してくれ。私はいつも通りの衣玖がいいのだから……」

 

 「て、てんし……様!?」

 

 

 天子様……天子様には敵いませんね。天子様が言うなら何でも聞いてしまう私がいます。ああ……天子様の優しい手の温もりを感じていたいけれど、私が醜態を見せることは天子様に失礼です。ここは気持ちを切り替えてお二人に謝らないと……

 

 

 「天子様がそう仰るなら……んん!慧音さん、妹紅さん、先ほどは大変失礼態度をとってしまい申し訳ありませんでした」

 

 「い、いや……私達は気にしてはいないのだが……な、なぁ妹紅?」

 

 「あ、ああ……私も気にしてない。大丈夫だぞ」

 

 

 その後は慧音さんと妹紅さんと別れて天子様と共に天界へ帰って行きました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 天界へ帰って来た天子様。やはり天子様のお姿が天界にないと見栄えが良くないですね。天子様がいないから天界が醜いわけではないですが、天子様がいると一段と輝かしいお姿に天界はなるのですよ♪

 

 

 衣玖は天子の後ろを付いて歩き、自室まで送ろうとした。

 

 

 「(……ん?)」

 

 

 天子様の周りに漂う空気がいつもと違う?何か少し気だるさを含んだ空気……お疲れだと思いますが、それとはまた違った空気の流れ……これは一体?

 

 

 衣玖は天子を観察しているとふっと目に入った。天子が無意識に腹を庇うように手を置いていることに……

 

 

 地上にいた天子様は服が少し汚れていた、地上では今異変が起きている、お腹を庇うような仕草……ま、まさか天子様が!?

 

 

 衣玖はすぐさま行動に移した。天子の腕を掴み逃げられないようにした。

 

 

 「ん?どうした衣玖?」

 

 「天子様……失礼します」

 

 

 天子様には無礼を承知で確かめないと!この方はわかっていたとしても心配かけまいと黙ってしまう……

 それはいけない。天子様にもしものことがあれば私は……!

 

 

 衣玖は無理やり天子の上半身をまくり上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……………………………やっぱり!

 

 

 「天子様、嘘をつかないでください……」

 

 

 やっぱり天子様は……

 

 

 「()()()()()()()()()()()なんて嘘つかないでください……」

 

 

 怪我をしているのに平静を装っていた。天子様は自分の事は後回しで他人のために尽くすことばかり……私にだってそうだった。自分のことは二の次にして私の事を最優先で行動してくれた。嬉しかった……けれど今は……!

 

 

 「あ、衣玖これはだな……その……地上の者との友情を育む儀式みたいなものでな……」

 

 

 天子には珍しい狼狽えた様子だった。滅多に見せない天子の様子に驚く暇など今の衣玖には余裕がなかった。

 

 

 「……知ってます……」

 

 「へ?」

 

 

 私は知っています……天子様のことを……

 

 

 「天子様がお優しい方だというのは私が良く知っています。私だって地上の事をまるっきり知らないわけではありません。戦いが好きな者がいることも、天子様がお強いことも、何か理由があって行動したことも私にはわかっております」

 

 

 だからこそ、そんな天子様の傷ついた姿を見るのは嫌です。黙って背負い込む天子様は卑怯だと思います。天子様が地上から天界へやってきた時から私はあなたの傍に居たのです。初めは仕事上で仕方なくでしたが、途中から私はあなたの傍にいたい、あなたの役に立ちたいと思ったのです。私に頼ってくれた時は嬉しかった。私を必要としてくれたことが喜ばしいことだった。だから、だからこそ、黙って何事もないように傷を抱え込もうとするなんて私は許しません!

 

 

 「済まない衣玖……心配かけてしまった」

 

 「……本当に……心配したんですから……」

 

 

 本当に……本当に心配したんですよ。天子様がお強いことは知っていてもこの世の中には上には上がおります。おそらくですが、妖怪と戦ったのでしょう……跡が残っていますし……しかし、もしものことが起きて天子様が居なくなってしまったら天界は……私は……!

 

 

 衣玖は一度気持ちを落ち着かせようと思った。このままでは天子に食って掛かりそうだった。もう天子は子供じゃないし、一人前の天人だ。衣玖が全てをお世話するのはもう既に過ぎている。だから、天子を許してあげることもまた天子を信じる者の願いなのだ。

 

 

 「本当に済まない衣玖……衣玖がこれほど心配してくれているのに私は……」

 

 「いいんです。天子様は地上の輩にそう簡単に負けるお方ではないことぐらい知っています。それで、天子様と戦ったのは妖怪ですか?」

 

 「ああ、妖怪だ」

 

 「その方は強かったですか?」

 

 「ああ、とっても強かった」

 

 「その方とはどういう関係ですか?」

 

 「その者とは喧嘩を通じて友となった。今度宴会に行くと約束してきてしまったんだ……怒るか?」

 

 

 そんな不安そうな顔をしないでくださいよ。私だって天子様のことを考えていますし、天子様を鎖で繋ぎ止めようとは思いません。天子様は自分が良しとしたことをしたんですから、思うようにやったらいいのですよ。帰りを待つのも私の役目ですから……

 

 

 「怒りはしません。それに友となったんですから宴会に行くべきです。約束を守らないのは天子様自身に泥を塗ってしまいますからね。私は天子様のお世話をする身です。私がどうこう言う立場ではありませんし、私は鬼ではありません。天子様が地上に出向くことも止めませんから安心して出かけても怒ったりしませんが、ちゃんと伝えてから出かけるようにはしてくださいね?」

 

 

 目をキラキラさせて衣玖を見つめる天子の姿は少し子供のように見えた。

 

 

 「ありがとう衣玖、衣玖が居てくれてよかったよ」

 

 「ほ、ほめてもなにも出ませんよ!」

 

 「あはは!済まないな」

 

 「もう……それよりも怪我しているのですから横になってください。治療薬をとってきますので」

 

 

 衣玖は天子の部屋から出て行き一息つく。

 

 

 「全く天子様は……」

 

 

 衣玖は治療薬を取りに廊下を歩きだした。その背中に感謝の言葉が投げかけられていたことは衣玖自身は知らない……

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。