比那名居天子(♂)の幻想郷生活   作:てへぺろん

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久々の平凡な回です。少し前までがドタバタ劇過ぎた……


それでは……


本編どうぞ!




61話 面霊気の少女

 「……っと言うことが天界で起きてたんだ……」

 

 「そ、そうだったんですね……」

 

 「そ、それはご苦労様です……」

 

 

 人里の飲食店で机に屈伏していたのはおなじみ比那名居天子だ。その表情は何日も徹夜して原稿を書き上げた漫画家のようなやつれて哀れな姿だった。そんな天子を相手にしている不幸者は稗田阿求と本居小鈴であった。

 

 

 天子は()()()()()()お話を受けている最中に運よく紫、藍、霊夢によって助け出された。どんなお話をしていたのかって?それは天子も思い出したくはないらしいので語れない……

 とにかく紫達に助け出されて九死に一生を得た(精神面以外は)天子に待っていたのは地上での広がり過ぎた結婚話が誤報であったことを謝りに行かなければならなかった。華扇もついて行って頭を下げてみんな優しかったので怒ったりせずに心配された(主に天子の容体を見て)

 何度も謝罪を済ませて日も落ち始めた頃に紫が現れた。流石に可哀想(天子の容体を見て)だと思ったのかスキマで天界まで送ってくれた。それから色々とあって衣玖達も普段と変わらない様子に戻りいつもの日常へと戻って行った。

 

 

 「……苦労なされたのですね」

 

 「……ああ……」

 

 「……天子さん元気ないですね」

 

 「……ああ……」

 

 

 阿求と小鈴は困っていた。ここまで衰弱した天子は見たことがなかった。曖昧な返答を返されると疲労がヤバそうだ。

 

 

 「あの……そろそろ帰った方がよくないですか?」

 

 

 阿求の問いにコクリと頷いてヨロヨロと立ち上がる。

 

 

 「……お代此処に置いておく……それじゃ阿求……小鈴……また……」

 

 「「お、お大事に……」」

 

 

 フラフラと体を揺らしながら天子は店を出て行った。その後姿を眺める二人は……

 

 

 「「(どんなお仕置きをされたと言うの!?)」」

 

 

 それを知る者はそこに居た当事者しかわからないだろう……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……」

 

 

 トボトボと人里を歩いている。誰も振り向きはしない、関わろうとせずに道を譲る始末……それが比那名居天子だとわかる人物はいない。まるで別人のように生気がない姿を天子だとは思わないからだ。

 

 

 「……ん?あれは……」

 

 

 しかしそんな姿をした天子にゆっくりと近づいてくる影が一つあった。

 

 

 「あの……もしかして天子……さんですか?」

 

 「……鈴仙か……?」

 

 

 鈴仙・優曇華院・イナバ……彼女は今、ラフな着物を着て長い耳と髪を編み笠で隠し、周囲の人間に溶け込むような男性的な恰好をしていた。 人間に扮して永遠亭の薬を売りに来ていたのだ。そんな時に偶然天子を見つけたのである。

 

 

 「うわぁ……本当に天子さんなんですか……?別人みたいですね……」

 

 

 鈴仙が言うのも無理はないことだ。鈴仙でも本物?と疑っているぐらいである。天子だと見抜いた鈴仙は意外に凄いと言えるだろう。能力の影響があったかもしれないが、どちらにせよ今の天子を見る目は戸惑いが大きい様子だ。

 

 

 「……色々とあって……な……」

 

 「そ、そうですか……」

 

 

 鈴仙はこれ以上聞かない方がいいと判断した。これ以上聞くと天子の心をえぐることになりそうだからである。

 

 

 「あっ、そうだ」

 

 

 そんな様子を見かねてか鈴仙は一つの小瓶を取り出して天子に差し出した。

 

 

 「天子さん、よければ差し上げます。元気が出る栄養剤が入っているので飲むとみるみるうちに元気100倍ですよ!」

 

 

 力こぶを作る真似をする。元々鈴仙にはそれほど筋肉はないので服の上からだと全く力こぶなど見えなかったが、その明るさに少し天子は元気を貰えた気がした。

 

 

 「……いくらだ……?」

 

 「今回は特別です。今の天子さんの状態を放って置くわけにはいかないので」

 

 「……そうか……ありがとう……感謝するよ……」

 

 

 天子はヨロヨロと小瓶を受け取って歩きだそうとした時だ。

 

 

 

 

 

 『ええじゃないか!』

 

 

 

 

 

 誰が発したのだろうか、そんな声が聞こえて来た気がした。

 

 

 「えっ?今のって……?」

 

 

 鈴仙は何事かと思ったが、不意に天子が口にした。

 

 

 「……ああ……【心綺楼】の異変か……」

 

 「えっ?天子さんそれはなに……?」

 

 「……でも今回は参加する気力がないから……パス……」

 

 「えっ?えっ?」

 

 

 混乱する鈴仙を放って置いて天子はフワフワと天界へと帰って行った。

 

 

 そのすぐ後だった。幻想郷中を巻き込んでの異変……精神的影響を受け、普段より好戦的かつ派手好きになっているの者達が引き起こす事件の数々……そしてその中の一人の少女が全ての黒幕であった。

 

 

 ------------------

 

 

 「……遂に……!」

 

 

 遂に比那名居天子……待望の復・活!!

 

 

 皆さんお待たせしました。ようやく比那名居天子が元通りになりました。人里で鈴仙から貰い受けた元気になる薬を飲み続けて数日後に衰弱状態であった私のステータス異常が正常に戻ったところです。あの永琳さんが開発した薬でもこれほどかかるとは……何故ここまでの状態に追い込まれたのかって?言わせないでほしいです……天界で()()()()()()お話と言って衣玖達にありがたいお仕置き(意味深)を受けていたなんて言えない……

 人生最大の地獄を味わっている時に紫さんと藍さん、それに嫌々ながらも駆けつけて来てくれた霊夢には死ぬほど感謝した。本当にありがとうございます!!まぁ、干されてしまって衣玖達の機嫌が直るまでは更に地獄だった……朝起きて寝るまで殺気を秘めた気配がいつも付きまとう……そのおかげで眠れなかったこともあった。よく生きていたと自分を褒めてあげたい。何度も機嫌取りしてようやく元の日常に戻ってよかったと思う……ホントに……

 

 

 ちなみに華扇さんともあれから普通に接しているわ。私が衣玖達にありがたいお仕置き(意味深)を受けている間、華扇さんは耳を塞いで震えていたのが記憶に鮮明に残っている……怖いもの見せてごめんなさい。トラウマにならなければいいけど……

 でも華扇さんが私のことを好きだと言ってくれたのは驚いたけど嬉しかったな♪……華扇さんも衣玖達のようにならないでほしい……華扇さんは純粋のままいて欲しいです(切実な願い)

 

 

 コンコン!

 

 

 「天子様、朝ごはんができました」

 

 「衣玖か?今行く」

 

 

 元に戻ってくれて本当に助かった……ダーク衣玖のままだったら私の精神崩壊してたわよ。でも何もかも元通りになった。またいつもの一日が始まる……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「それで父様と母様は何と?」

 

 「忙しいだろうが、時間がある時に友達を連れて遊びに来てくれとのことでした」

 

 

 結婚式の日以来、何を勘違いしたのか父様と母様は私が地上の者達のために何か為になることをしていると思ったらしく、応援メッセージが何件も手紙で届いた。勘違いで応援されているという不思議な状況……まぁ、地上で起こる異変を解決して来たわけだから貢献していないことはないから嘘ではないか……複雑な気分だわ。今更説明するのも面倒なので放っておこう。あの二人だからまた変な勘違いされたら堪ったもんじゃないからね。さて、今日も手紙が来ていたらしくここ数日状況が状況だったので手紙を返していない。そろそろ送り返さないと心配して乗り込んでくるかもしれないし書くことにしますかね。

 

 

 「そうか、父様と母様に返事を書かないとな」

 

 「それがいいかと思います」

 

 

 筆を取り、何を書こうかと迷っていると衣玖が世間話を始めた。

 

 

 「そう言えば天子様、最近地上で異変が起きたのは知っていますか?」

 

 「異変?」

 

 

 異変……異変……ああ!地上で鈴仙から元気になる薬を貰った時に何かあったわね。あの時の私はクソメンタルだったから関わらなかったけど……それがどうかした?

 

 

 「なんでもその異変は地上の方々の希望の感情が失われて、刹那的な快楽を求めるようになったとの異変だったみたいです」

 

 

 あっ、私自身が何か言ってた気がする【心綺楼】って……っとすると例の面霊気の仕業だったわね。でももう既に終息したみたいだし何も問題ないのだけれど衣玖がその話題を出すとは……?

 

 

 「そんな異変が起きていたらしいな。それで衣玖はどうしたのだ?異変自体は既に霊夢達の手で解決されているはずだが?」

 

 「その異変の首謀者の子が博麗神社で能楽を披露するみたいなのです。それも今日披露する日なので天子様とご一緒に見に行きたいと思いまして……」

 

 

 モジモジと指をいじくりながら照れ臭そうにする。どうやら能楽と言うものを見てみたい……っと言うよりも本当の目的は天子と一緒にイベントに参加したいと言うのが本音だろう。衣玖のこの提案は悪くないと天子は思った。

 

 

 幻想郷中の皆には迷惑かけたし、霊夢にもまだお礼していなかったな。紫さん達も来てくれればいいけど流石にわからない。それに()()()とも出会っておいた方が何かと後々話しやすそうだしそれがいいね。

 

 

 「そうだな、皆にも顔を見せておかないとまた心配されてしまう。手紙を書いたら一緒に行こうか衣玖」

 

 「は、はい!」

 

 

 衣玖は内心ガッツポーズで喜んだ。

 

 

 「(久しぶりの天子様とデート♪)」

 

 

 衣玖はいつも以上におめかししようと意気込んで準備に取り掛かった。

 

 

 ------------------

 

 

 ……な、なぜです……なぜこの方達がここに!?

 

 

 天子と楽しく能楽を堪能するために意気揚々と朝早くからおめかししてきたのに……

 

 

 「……なんでミミズクさん達がいるのですか!?」

 

 「ミミズクと呼ぶなといつも言っているだろう!これはこれは()()天子殿、こんなところで会えるとはやはり私達は運命の相手なのですね♪」

 

 

 衣玖と天子は博麗神社へやってきた。公演は夜、そこに集まった者は主に今回の異変に関わった者が多かったがその中に天子の姿を見ると一目散に駆け寄って来た。その人物とは神子だった。予期せぬ人物がいたことに内心衣玖は舌打ちした。

 

 

 チッ……迂闊でした。霊夢さんや魔理沙さん達は想定内ですが、命蓮寺の連中は天子様を狙うメス豚はいないのでともかく……まさかミミズクさんが居るとは……もっと情報を慎重に吟味する必要がありました。華扇さんも恋敵(宿敵)となり、先手を取られていて焦った代償ですかね……ここは我慢するしかないですか。

 

 

 天子の姿が見えたことによりその他のメンバーも周りに集まりだした。

 

 

 「天子殿、この度は太子様がご迷惑をおかけした」

 

 

 屠自古さん、そう思うならミミズクさんを持って帰ってほしいですね……

 

 

 「衣玖も久しいな、元気だったか?」

 

 「私は元気ですよ、でも主にそこのミミズクさんのおかげでドンドン元気がなくなっているところですが……」

 

 「ははは、まぁ我慢してくれ。あれでも私達のリーダーなんだよ。天子殿以外のことならば優秀なんだがな……」

 

 「苦労していますね」

 

 「苦労しているよ、太子様が帰って来たから余計だ。いっその事、地底でずっと働いていた方が良かったのかもしれないな」

 

 

 ……地底でも建物を金ぴかにしようとしたりして邪魔したことはありましたけどね。あの時は皆様疲労していたから無理はないですが……

 

 

 「皆は相変わらず元気そうだな。屠自古、布都も青娥さんに芳香も」

 

 「うむ!お主も元気そうだな!我は元気いっぱいじゃ!」

 

 「そうですわよ、わたくし達は元気ですわ。あの結婚話さえなければ無駄な努力をせずに済みましたけどね。ねぇ~疲れたわよね~芳香ちゃん♪」

 

 「むだな~たいりょくを~つかわせたな~!」

 

 「結婚話の件は本当に誤解を招いて申し訳ない……」

 

 

 子供のように元気らしさをアピールする布都に、ニコニコ笑顔で芳香の相手をする青娥も居て神霊廟メンバーが全員集まっていた。そんなメンバーに頭を下げる。

 

 

 天子様が謝るなんて……結果誤報でよかったと思っていますもの。でももし結婚式が本当ならば今頃華扇さんは……

 

 

 一瞬、衣玖と神子の顔に雲がかかったように周りの者達には見えたが……気のせいだと思われる。そう思わないと怖くてやっていけないからだ。

 

 

 それにしてもミミズクさんは勝手に天子様を自分のものにして……!仙人系統はみんな性欲丸出しなんでしょうか!私だって天子様を独り占めにしたいですよ!脇なんて出して髪型をそんなのにしているから萃香さんから耳毛なんて言われるんですよ……自業自得ですね。

 

 

 神子を睨みつける。少し前まで味方だった神子も衣玖を睨み返す。『昨日の味方は今日の敵』その言葉通りにまた味方とは限らない。天子を巡る争いは日常生活の中にも常に存在している……そして今日のこの時も。

 

 

 「むっ!衣玖殿、あなたから良からぬ欲が聞こえてくる気がしてきてなりませんね」

 

 「私は何も言っていませんよ?ミミズクさん、頭の中は大丈夫ですか?電気マッサージ要ります?」

 

 「はっはっはっ!衣玖殿とはちょっと向こうで()()する必要がありそうですね!」

 

 「そうですね、それがいいですね!」

 

 「「はっはっはっ!!」」

 

 

 衣玖と神子はお互いに笑い合って林の中へと姿を消した。天子達はこの後何が起こるのか察して他人のフリをしておこうと決めた。

 

 

 ……一撃で逝かないように加減してジワジワと絞めましょうか……豊聡耳ミミズクさん♪

 

 

 ------------------

 

 

 「……全く、あなたが私に突っかかってくるからこうなったのですよ?」

 

 「衣玖殿は私のせいだと言いたいのですか?」

 

 「ミミズクさんがこの場にいなければこういうことは起こらなかったのは確かです」

 

 「天子殿のおまけが何を言いますかね?」

 

 「はぁ?今度はミミズクのから揚げにして差し上げましょうか?」

 

 「竜宮のかば焼きなんて面白いかもしれませんよ?」

 

 「こらこら二人共喧嘩は止めろ」

 

 

 天子を挟むように衣玖と神子が陣取っている。そして少し離れて屠自古達、衣玖と神子だけは体中ボロボロだが……誰も気にせずに能楽が始まるまで会話を楽しんでいる。二人に挟まれている天子は大変そうだが……

 

 

 「よう天子、天界では散々な目に遭ったんだってな?」

 

 「魔理沙……その話は止めてくれ……霊夢、あの時は助かった」

 

 「本当は行きたくなかったんだから。紫の奴が金をチラつかせ……ゴホン!紫の奴がどうしてもって言ってね。私は心優しいから仕方なくついて行っただけ」

 

 

 魔理沙と霊夢が天子の元へとやってきた。霊夢から天子の状態を聞いていた魔理沙は天子を心配していたが、今の状態を見たらホッとしていた。霊夢の方は相変わらずである。

 

 

 霊夢から金がどうとか聞こえたけれど……まぁ霊夢が来てくれなかったら紫さんと藍さんだけでは荷が重かったのは間違いない……本当に衣玖達を説得(詳細は語れない)してくれたことに感謝してもしきれない。

 

 

 「……って、天子あんた天界であんなことされたのにまだそいつらとつるんでるの?」

 

 

 霊夢が示しているのは勿論天子の両隣を支配する衣玖と神子のことだ。その霊夢の一言に二人の気に障ってしまった。

 

 

 「今のはどういう意味でしょうか……霊夢さん?天子様は私達とお情けで一緒に居るとでも?」

 

 「もしかして私達が天子殿に相応しくない……そう言いたいのでしょうか……!」

 

 

 衣玖と神子は霊夢の発言に対して遺憾の意を示す。霊夢としてはなんてことのない疑問をぶつけただけなのだが受け止める側の二人にとっては「天子と一緒に居る必要はない」と感じ取れてしまう。これも天子に対する好感度の違いと言うものだろうか……それともまだ結婚騒動の血の気が抜けきっていないのか、霊夢に対して敵意さえ向け始める。魔理沙も場の空気の違いに焦りを見せるが、直接敵意を向けられている霊夢はそれでも平然としている。

 

 

 「別に私はどうでもいいわ。天子が決めることだもの、でもやり過ぎには注意することね。あんた達のせいでこっちは本来ならば遭わなくてもいい出来事に巻き込まれたんだから」

 

 「すまない霊夢、衣玖と神子を責めないでやってくれ。皆あの時はちょっと我を見失っていただけなんだ」

 

 「あれがちょっとって言えるのかしら……」

 

 「衣玖達の気持ちを考えずに行動を起こした私がいけないんだ。だから今回のことは私の自業自得……華扇さんにも迷惑かけた罰が当たったんだ。私は衣玖達のことをそんなことで嫌いになったりはしないし、これからも皆と仲良くやっていくつもりだ」

 

 「天子様……!」

 

 「天子殿……!」

 

 

 衣玖と神子が私を輝いた目で見てくれているわ。ちょっと気取っちゃったかしらね?魔理沙も驚いているし、霊夢は……ため息をついているわね。呆れられてしまった……けど、そんなことで衣玖達のことは嫌いになったりしないのは本当のことだからね。今回は色んな方に迷惑かけたからその罰を受けただけなの。逆に私を嫌ったりしないでいてくれている皆には感謝しないといけないからね。

 

 

 「ふ~ん、そう……まぁ好きにしなさい。でも天子、助けたことには変わりないから……わかっているわよね?」

 

 

 霊夢は指で丸を作る。俗に言う……金を示す時のジャスチャーだ。

 

 

 「わかっている。それと天界の料理と酒も一緒に送ろう」

 

 「なら問題ないわね♪もうすぐ公演が始まるし楽しんでいって頂戴ね。魔理沙行くわよ」

 

 「おう、天子もまたな」

 

 

 霊夢は魔理沙を連れて自身が陣取っている酒と飯がたんまり置かれている特等席へと戻って行った。

 

 

 「天子様……寛大なお心遣いありがとうございます」

 

 「やはり()()天子殿だ。妻として誇らしい」

 

 「はぁ?何言っているのですかミミズクさん……頭が遂に逝っちゃったようですね」

 

 「はっはっはっ!もう一度()リあいましょうか?」

 

 「……二人共大人しくしていてくれ……」

 

 

 衣玖と神子はこれだからもう……慣れ始めている自分が怖いわ。屠自古達ですらため息ついてるのに……

 まぁ、今は二人の事は置いておかないと話が進まない。これから()()()の能楽が始まるんだから邪魔しちゃいけない。それに能楽なんて初めて見るから実は楽しみだったのよ。能楽を見れると知ってワクワクして眠れなかったのは内緒よ♪

 

 

 そんなこんなで時間が経った。すると設置された舞台上が明るくなりそこに一人の少女の姿があった。

 

 

 周りには3つの面がその少女自身であるかのように宙に浮き、扇子を持った少女の顔にも面がついている。少女の素顔を隠した面がゆっくりと宙に浮いて彼女の頭へと引き寄せられたことにより、その者の素顔もハッキリとわかる。

 

 

 【秦こころ

 薄紫色がかって見えるピンク色のロングヘアに、同じ色の瞳。服装は青のチェック柄の上着に長いバルーンスカート。上着には胸元に桃色のリボン、前面に赤の星、黄の丸、緑の三角、紫のバツのボタンが付いている。スカートを囲む顔のような模様は穴になっており、よく見ると足が覗いている。面を顔からずらして着用し、着けている面からは赤の面紐がなびいている。

 多数の面を周りに浮かべた少女。これらの面は彼女の感情を司り、被った面によってその性格は様々に変化するが、こころ自身の表情は全く動かない。面は66種類あるそうだが、主に喜怒哀楽のものが使われている。

 

 

 遂にこころちゃんの登場のようね。異変自体終わっているし、ある程度話すぐらいの仲になるんだろうか?同じ女の子として、あの独特のスカートが気になって仕方ない……顔のような模様の穴から見える足チラが誠にけしからん!それに何よりこころちゃんは身体は大きいが非常に子供っぽいのよ。感情を学ぶために色々とこの後行動を起こすはずだけどすぐに騙されそうな気がしてならない。だから私はこころちゃんが心配……それにこころちゃんは命蓮寺と神霊廟を繋ぐ大事なパイプ役にもなるし、神子とも大いに関わってくる。心を消そうとして異変を起こしたことのある神子の前に現れたこころちゃん……何かしらの因果を感じる。神子のためにもこころちゃんを見守らないといけないわね。

 

 

 天子は舞台の上で音楽に合わせて能楽を披露するこころにしみじみと感じていた。

 

 

 能楽が披露されて場は大いに盛り上がった。見る者を魅了するこころの能楽は大成功したと言えるだろう。音楽が止み、能楽は終わると盛大な拍手がこころに向けられる。それでもこころの表情は一切動かなかった。異変に関わった者ならば彼女の表情が動かないのはわかるが、衣玖はそんなことは知らない。感情を見せることのないこころに疑問を抱く。

 

 

 「あの子……何も感じていないのでしょうか?」

 

 「そんなことないぞ衣玖、こころちゃんは喜んでいる」

 

 「流石天子殿ですね。こころ殿の感情を初見で見抜くとは!」

 

 

 初見じゃないんだよね……

 

 

 「えっ?天子様、あの子の感情がわかると?」

 

 

 しかし天子はこころが喜んでいたことを見抜いている。それもそのはずだ……天子は転生者であり東方の大ファンの一人だ。なのでこころの設定を知っているのは当然であった。

 

 

 「わかるぞ。福の神の面……あれは嬉しいときの面だな。こころちゃんは面が66種類あって、主に喜怒哀楽の感情を表している。他にも般若の面や猿、狐やら蝉丸と言った面があるぞ」

 

 「ど、どこでそれを……!?」

 

 「……それは秘密だ」

 

 

 知らないはずの情報を知っていた天子に驚く衣玖。天子は理由をはぐらかしておいた。面倒なことになったら嫌だったので悪戯っぽく秘密としておいた。秘密と言われてしまった衣玖の頬は膨らんでいた。

 

 

 「やはり天子殿は侮れませんね。それはそうと……聞いてください天子殿、この前の異変はこころ殿の面の一つが紛失してしまったことで起きた異変だったのです」

 

 

 神子は異変の内容を話し始めた。その内容は天子が知っている原作とさほど変わるものではなかったことで安心できた。

 

 

 希望の面がなくなったことが原因だったんだよね。そして神子がこころちゃんに代わりの面と渡したと……

 

 

 「それでこころ殿の失った面の代わりに私が彼女に渡したのが……」

 

 

 天子は異変の内容も知っていたし、神子が語った通り、こころの【感情を操る程度の能力】の影響で自身も自身以外の感情が暴走するというものである。彼女は面の一つでも失われてしまうと制御ができず、暴走してしまったわけである。そんな状態に陥ってしまったこころに神子は新たに面を与えた……のだが……

 

 

 「それでなんですが……こころ殿が私が作った面を嫌々所有していまして……一度もこころ殿がそれを付けている姿を見たことがないのです……」

 

 

 肩を落とす神子……どうやらそのことで悩んでいるらしく、今日はその希望の面を被ってくれると期待していたようだ。

 

 

 「それで明日命蓮寺で私達と神子さんとで、どうしたらこころちゃんが希望の面を付けてくれるか会議することになったのですよ」

 

 「この前ぶりだな聖」

 

 「はい、結婚騒動以来ですね」

 

 

 肩を落とす神子を励ましにやってきたのは命蓮寺の僧侶である聖だった。

 

 

 当然聖達にも結婚話は届いていて謝りに行った。南無三されずに済んでよかったと後々思ったわ。それにしても聖と神子の関係は良好で何よりだわ。宗教的なもので対立するかと思ったけど仲が良くて安心した。

 

 

 「どうしたらこころ殿に……私の力作である希望の面を付けてくれるのでしょうか……天子殿!お力を貸してください!」

 

 

 ガバッと天子に詰め寄る。その時に鼻をスンスン言わせて表情を(ほころ)んだ神子の様子を見た衣玖は睨みを利かせていたが、残念ながら天子は気がつかなかった。天子は希望の面に思う所があり、そのことを考えていた。

 

 

 確かにこころちゃんの気持ちわかる……あれはないと思う。あれプレゼントされても人前で使いたくないもの……仕方ないわね。こころちゃんのために私も協力しますか!

 

 

 「神子、聖、私も明日の会議に出席してもいいか?」

 

 「構いませんけどよろしいのですか?」

 

 「ああ、こころちゃんのために一肌脱ごうと思ってな」

 

 「な、なんと!?天子殿が脱ぐと!?はぁ……はぁ……い、いけません。天子殿……二人っきりの時ならまだしもこんな大勢の前でだなんて……!!」

 

 「何を考えているんですかね……このエロミミズクさんは」

 

 

 衣玖の言う事は最もである。何か良からぬを妄想し始めた神子はスルーされ、聖はこの提案に快く感謝した。

 

 

 「ありがとうございます。こころちゃんのために……」

 

 「気にしないでくれ。そういうわけで衣玖、明日命蓮寺に厄介になるぞ」

 

 「はぁ……仕方ありません。天子様はお優しいですから……命蓮寺ならこのエロミミズクさんを止められる聖さんが居るから心配はいりませんけど……私もついて行きたいのところですが、仕事が残っていますので聖さん、天子様を守ってください……絶対ですよ?」

 

 「え、ええ……わかりました」

 

 

 衣玖の鋭い視線に身の危険を感じてしまった。

 

 

 「て、てんし殿……そ、そこはダメです!そ、そこは脇で!で、でも天子殿になら触られても問題ありませんよ!どうぞ触ってください!で、できれば舐めてくださいぃいいい!!!」

 

 「「「……」」」

 

 

 トリップする神子に冷たい視線を向けながらこの日は幕を閉じた。

 

 

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