比那名居天子(♂)の幻想郷生活   作:てへぺろん

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まだ平凡な回でございます。平和でええなぁ……


それでは……


本編どうぞ!




62話 こころの面

 「――っと言うわけでして、どうしたらこころ殿に私の力作である希望の面を付けてくれるのか……それを皆の者に考えていただきたい!」

 

 

 命蓮寺の屋根の下、堂々とした態度でお悩み相談をする神子。そして天子と聖達……ここには聖以外にマミゾウ、そして村紗水蜜と封獣ぬえの姿があった。

 

 

 

 【村紗水蜜

 ウェーブのかかった黒のショートヘアーに青緑色の瞳。

 服装はセーラー服、兵服ともいう。下にはセーラー服に合わせたデザインの膝上までの穿き物を穿いているが、その形はキュロットスカート。上下の服装には白の布地に青緑色の縁取りがされており、青緑の生地には各所それぞれに3本の白いラインが引かれている。

 聖白蓮を慕う妖怪で、とある経緯により聖輦船と共に地底世界に封印され、永らく地底で暮らしていた。しかし異変が起きて法界に封印されている聖白蓮復活のためにかつての仲間達と行動を開始した。聖輦船とは村紗の操る船であるが、「飛倉」と呼ばれる不思議な倉で『船』と『倉』を両立できる。

 

 

 【封獣ぬえ

 黒髪のショートボブで右の後ろ髪だけが外に跳ねた左右非対称の髪型をしている。瞳の色は深紅。背中からは赤い鎌のような三枚の右翼と、青いグネグネとした矢印状の左翼が三枚生えている。

 『正体を判らなくする程度の能力』を所有しており、蛇になったり鳥になったりと不定形な「正体不明の種」なるものを対象に仕込み、その対象に対する認識をかく乱する能力。種を仕込まれた対象は、形状、音、匂いなど「その対象固有の情報」を奪われ、後には行動だけが残る。先入観やイメージによって勝手に姿を補完し、「見た目」が変わるという仕組みである。

 

 

 ここに集まった6人で神子の悩みを解決していくわけだが……対して快く協力したはずの聖の表情がよろしくない。他のマミゾウ達もだった。神子はその様子に気づくことがなくどうしたらこころに希望の面を付けてくれるのかと頭を捻っていた。

 

 

 う~ん……まぁなんとなくわかっていた結果なんだけどね……

 

 

 そんな中で天子は聖達の表情がよろしくない理由がわかっていた。それは……

 

 

 「……ダッサ!」

 

 

 ぬえの一言が全てを物語っている。

 

 

 「なっ!?私の力作である希望の面をダサいなどと言うのですかぬえ殿!」

 

 

 ぬえの発言に遺憾の意を示す神子。

 

 

 「いや、これはダサいのぉ」

 

 「うん、ダサいね」

 

 

 マミゾウと村紗もぬえと同じ感想だった。

 

 

 「なっ!?マミゾウ殿と村紗殿まで!?ひ、聖は私の希望の面をダサいなど言わないでしょうね!?」

 

 「あの……神子さん……すみません……」

 

 「なっ!?」

 

 

 聖からも賛同の声が上がらなかった。力作である希望の面をダサいと言われて体が震える神子……最後の望みをかけて天子に救いの視線を送るが……

 

 

 「……ノーコメントで」

 

 「そ、そんなぁ!!?」

 

 

 神子に救いはなかった……

 

 

 希望の面……神子が集めた信者の希望の結晶(人気)から創り出した面。希望の象徴であるのは間違いではないのだが、問題があった。作者の神子自身の顔を模していて作られていたのだ。非常にシュールな表情で希望を微塵も感じられない顔立ちとなっている。

 つまりダサいのだ。ここに集まった聖達は希望の面のシュールさを知らなかった(天子は原作で知っていた)ため協力したつもりだったのだ。しかし神子が希望の面のレプリカを見せた瞬間に場は冷めきった。こころに何故付けてもらえないか頭を悩ます神子を尻目に、聖達はこころがこの仮面を嫌がる理由を瞬時に理解したのである。

 誰もがこんな面を被りたくはないと心が一つになった瞬間でもあった。

 

 

 その後、会議は中止となった。力作だと意気込んでいた神子は魂が抜けたかのように干乾びてしまい、聖は神子のメンタルを元に戻すために付き添う形となっていた。

 

 

 「あれを渡されたこころの気持ちは複雑じゃったであろうな。儂は一度見せてほしいと言ったところ断られたのはあれが理由じゃったのじゃな」

 

 「そうだね、私がこころだったならあれは受け取りたくはない」

 

 

 マミゾウに同感の意を示す村紗。ぬえもうんうんと首を縦に振る。

 

 

 「じゃが中々面白いものが見れた。聖人殿の燃え尽きた姿なぞ滅多に見られるものではないぞぉ!そうじゃな天子よ?」

 

 「初めて見たな……あんな姿……」

 

 

 ハニワのような表情になっている神子なんて普通見ないわよ。デザインはアレだけれどちゃんとした代物になっているのは間違いないんだけど……間違いないんだけどね……やっぱりあのデザインはないわぁ……

 

 

 「ふぉふぉふぉ!天子もそう思うかのぉ、当然と言えば当然じゃからな。こころが嫌がるのも無理はない」

 

 「うんうん、本当にダサすぎ……ん?」

 

 

 ぬえが何かに気がついたようだ。視線の先には廊下を忍び足で大きな木箱を背負う一輪の姿があった。

 

 

 「お?お~い!一輪何してるの?」

 

 「ひゃ!?む、村紗!いきなり声かけないでよ!」

 

 「怒らなくたって……コソコソとしている一輪が怪しいからだろ?」

 

 「うぐっ!それはそうだけど……」

 

 「それでお主は何をしておったのじゃ?」

 

 「ぬえとマミゾウはともかく天子までいるなんて……そっちの方こそ何をしているのよ?」

 

 

 手短に一輪に今日集まった経緯を話した。

 

 

 「ああ、確か姐さん昨日そんなこと言ってましたね」

 

 「そうじゃよ、して……儂らは答えたから一輪の番じゃよ」

 

 「その背中の大きな木箱はなんなの?」

 

 

 ぬえが興味津々に一輪が背負う大きな木箱を指さす。背負う木箱からは揺れるたびにカチャカチャと硬い物同士がぶつかり合う音が時おり聞こえてくる。ガラスが当たる音とそっくりだ……

 

 

 う~ん……一輪は何か隠している気がする。一体なんだろう?先ほどからカチャカチャと音がするし、コソコソ行動している時点で怪しい……

 

 

 天子は疑いの目で一輪を見ていると、視線に気がついたのか慌てて箱を地面に下ろす。

 

 

 「勘違いしないで!別に怪しいものじゃないわよ!」

 

 「ではそれはなんなのじゃ?」

 

 「……姐さんには内緒よ」

 

 

 下ろした木箱のフタを開ける……すると村紗は目を輝かせ、ぬえとマミゾウは呆れていた。

 

 

 あっ!これは……

 

 

 一輪がコソコソと人目を気にして行動していた理由がわかった。木箱の中身が命蓮寺に在ってはいけないものだったからだ。

 

 

 「お酒だ!!」

 

 

 そう、木箱の中身にはお酒の入った瓶が積み込まれていたのだ。

 

 

 あちゃ~、ここの一輪は不真面目だったか……幻想郷の住人は皆、お酒好きだけど命蓮寺での飲酒は禁止だからお祭りか宴会の時のようなイベント事じゃないと命蓮寺のメンバーは飲めないから昨日うんと飲んだはずなんだけどなぁ?

 

 

 一輪は昨日の能楽の時に居たのを天子は憶えていた。そのことで一輪に聞いてみたが、聖が居ると一杯しか味わえないそうだ。だからいつも聖とお祭りや宴会に参加するときはもどかしい思いをしていたようなのである。それに昨日久しぶりにお酒の味を味わえたことで欲求が抑えられなくなり衝動買いしたとか。

 

 

 「一輪だけずるい!私にも頂戴よ!!」

 

 「もうわかったわよ!あんたも飲んでいいから姐さんには絶対内緒よ!?」

 

 「OK!」

 

 

 村紗は難なく買収されてもう既に手には酒瓶が握りしめられていた。しかし、ぬえとマミゾウはそうはいかなかった。ぬえは聖にバレた時が怖いため、マミゾウは命蓮寺の門下生でもないので縛られることはない(聖に配慮して命蓮寺での飲酒は控えている)この二人は買収されることはないだろう。

 そんな二人に懇願する眼差しで迫る一輪。

 

 

 「お願い!雲山にも頭を下げて見逃してもらったの!今回だけ、今回だけ見逃して!ね?」

 

 

 ウルウルと瞳に涙を浮かべる一輪……そんな目でお願いされているぬえとマミゾウは了承するしかなかった。

 

 

 「ありがとう二人共!天子もこのこと喋らないでね!」

 

 「ああ……まぁバレないようにな」

 

 「よし!村紗、早く木箱を私の部屋へ持って行くのを手伝って!姐さんに気づかれる前に!」

 

 「合点承知の助!!」

 

 

 一輪と村紗は木箱を大事そうに運んでいった。残されたぬえとマミゾウはため息をついた。

 

 

 「はぁ……聖にバレたらただじゃすまないのに……村紗も買収されちゃうなんてさ」

 

 「ぬえよ、欲には勝てぬと言う訳じゃ。そうじゃろ天子……天子?」

 

 

 固まったように動かぬ天子に首を傾げる。一体どうしたのかと声をかけようとした時だった。マミゾウとぬえは悪寒を感じた。冷たく凍った感覚を感じた……それも自分達の背後……自分達3人以外にも誰かいる。しかもその誰から明確な殺気を放っていた。そして理解した……天子はこの悪寒を感じて動けずにいたということを……そしてぬえは知っている。この感覚は自分も向けられたことがあった……正確には以前隠れてお酒を飲酒していたことがバレた時と同じ……この殺気は誰から放たれているのか……

 

 

 「……一輪と村紗には改めて修行をつける必要がありそうですね……」

 

 「ひ、聖……!」

 

 

 聞き覚えのある声に振り向く。すぐに表情が真っ青になるぬえ、そして3人の背後に立っていたのは聖だった。仏の笑みを浮かべた断罪人にしか見えなかったが……

 

 

 「天子さん、すみませんが急用ができてしまいまして……神子さんのことはマミゾウさんに任せてよろしいですね?」

 

 「お、おお……聖人殿は儂が見ておこう」

 

 「そういうわけでして用事を済ませて来ます。」

 

 「あ、ああ……」

 

 「い、いってらっしゃい聖……」

 

 

 笑顔の聖を見送るマミゾウ、天子、ぬえはようやく殺気から解放されて気分が楽になった。

 

 

 やっば!激おこぷんぷん丸の聖は怖かった……殺気が漂って来た瞬間にこう背筋がピキーンって立っちゃって重圧に押しつぶされそうだった。きっと一輪と村紗は聖に『南無三!』されてしまうのでしょう……南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏……

 

 

 天子達は部屋で何も知らずにお酒を堪能している二人に心から合掌するのであった。

 

 

 ------------------

 

 

 雲一つない快晴の空の下、命蓮寺へと続く道を歩む一人の少女……少女と言えども人ならざる者であった。

 

 

 「……」

 

 

 秦こころ……彼女は付喪神であるが、投棄物の付喪神とは違い、神楽という一種の呪術に利用された千数百年前の代物で、付喪神という概念からすればかなりのエリートである。そんな彼女は新しい希望の面を手に入れた後、マミゾウのアドバイスを受けて無表情だった自分自身に感情を身につけ能力を安定させるべく各地を回ることを心掛けている。

 命蓮寺の門が見えてきた。そこでこころは気づく……見たことのない知らない人物がいることに。

 

 

 髪は腰まで届く青髪のロングヘアに真紅の瞳を持った背の高い男性……それは天子のことだ。その隣にはマミゾウとぬえの姿があった。こころは天子のことが気になったので忍び足で近寄った。

 

 

 「……」

 

 

 ソロリソロリと距離を詰めていく。

 

 

 「……」

 

 

 ソロリソロリ……

 

 

 「……」

 

 

 まだソロリソロリ……

 

 

 「……」

 

 

 もう一つソロリソロリと……

 

 

 「……何をやっているんだ?」

 

 「――!?」

 

 

 こころは驚いた。表情は驚くこと無かれども、面が大飛出(おおとびで)(驚いた時の面)にすり替わっていた。いつの間にか目の前には天子が迫っていた。否、表現が違う……こころが隠れた気でいたが、近寄り過ぎて天子の目の前まで近づいてしまったが正解だ。マミゾウとぬえも何をしているんだと首を傾げていた。

 

 

 「……隠れていたのに見つけるなんて……やるな」

 

 「いや、隠れるなら物陰とかに潜まないと隠れたとは言わないぞ?」

 

 「ムムム……ちゃんと隠れられたと思ったのに……」

 

 

 こころはこう見えても隠れたつもりなのだ……全く隠れられていなかったが。今度は(うば)の面(悲しい時の面)に替わる……それでも表情だけは変わらない。

 

 

 「すまぬな天子よ、こころは少し子供っぽいのじゃよ」

 

 「子供じゃない、大人だ」

 

 「体だけは大きいけど中身が小さいよね」

 

 「がーん」

 

 

 ぬえの一言でこころはショックを受けた。擬音語を口にするなど子供でもしないことをしてしまうのは色々と慣れていないせいでもあるのかもしれない。

 

 

 「これこれ、こころをいじめるんじゃない。今日も感情を身につけに来たのじゃな?」

 

 「うん」

 

 「そうかそうか、それは結構じゃな。おおそうじゃ!天子お主こころに色々と感情を教えてやってくれんか?」

 

 「いいぞ」

 

 

 マミゾウの唐突なお願いを引き受ける天子に提案したマミゾウ自身も拍子抜けしてしまった。

 

 

 「おや?あっさりと引き受けたのぉ」

 

 「元々こころちゃんの力になってあげたくて会議に参加しようと思っていたからな。何もおかしなことではないぞ?」

 

 「ふぉふぉふぉ!そうじゃったな、こころのことは天子に任せた方がいいようじゃな。儂は聖がお仕置きしている間に聖人殿を元に戻さんといかんからのぉ……こころもそれでいいか?」

 

 

 こころはコクリと首を縦に振る。

 

 

 「本人の了承も得たしまた後でのぉ」

 

 

 そう言ってマミゾウは干乾びている神子がいる部屋へと向かって行った。

 

 

 「ぬえはどうするんだ?」

 

 「私はぶらぶら散歩でもするよ。聖のお仕置きは一度始まったら長いから……」

 

 

 語るぬえの体が一瞬ブルリと震えたように見えた。その時の聖の姿を思いだしたのかそれ以上何も語ろうとしなかった。

 

 

 「――さて、こころちゃん、自己紹介といこう。私は比那名居天子……しがない天人くずれだ」

 

 「秦こころ」

 

 「(自己紹介短っ!?)昨日の能楽とても楽しめたよ」

 

 「おおー!見てくれていたのか?そうだろそうだろ!楽しかっただろ!」

 

 

 扇子をどこからともなく取り出して舞いのポーズを取る。能楽を楽しんでもらえたことに満足している様子を表しているようだった。

 

 

 「ああ、とても良かったよ。流石こころちゃんだ」

 

 「照れる~♪」

 

 

 こそばゆいのか頭を掻く仕草をする。褒められて嬉しいようだった。

 

 

 「お礼も()ねてなんだが、先ほどマミゾウさんが言った通りにこころちゃんに手を貸したいと思ってな。こころちゃんはどうしたい?」

 

 「……今日はここに用があったけど……気が変わった。人里へ行こう」

 

 「わかった。そう言う訳で人里へ行って来る」

 

 「夕方にはこころを帰せよ」

 

 「わかっている」

 

 「いってきますー!」

 

 

 ぬえと別れて天子はこころと共に人里へ向かうのであった。

 

 

 ------------------

 

 

 「おおー、相変わらず人間がいっぱいだ」

 

 「人里だからな」

 

 

 こころちゃんの感情を習得するためのお手伝いをすることになって人里へとやってきた。今日はいつにも増して人の行き来が多いようね……ん?あれは……

 

 

 人だかりになっている箇所を発見した天子はこころを連れて近づいた。するとそこでは人形達が観客を湧かせていた。見たことのある人形を操っていたのはアリスであった。アリスは時々こうして人里で人形劇をするために訪れることがある。そして今日がその日だったのだ。

 それを見つめるこころの表情に感情はない……しかし瞳が人形を捉えて離さない。傍にいる天子にはハッキリとこころが興味を持って人形を見つめていることが理解できた。

 

 

 こころちゃん、食い入るように見てる……瞳がキラキラと輝いているのがわかるわね。アリスの人形劇を見るのも久しいし、何より何度見ても面白いものだ。

 

 

 「こころちゃん、折角だから終わるまで見ていこう」

 

 

 コクコクと首だけ振って答える時も人形から決して目を離さなかった。

 

 

 そして人形劇が終わり、人々が解散していく中で天子はアリスに声をかけた。

 

 

 「アリス、人形劇とても面白かったぞ」

 

 「あら天子、結婚騒動以来ね。天界で何かあったのよね?」

 

 「う、うんっと……何もなかったぞ」

 

 「嘘仰(うそおっしゃ)い、霊夢から聞いたのだけど酷い目に遭ったそうね?まぁ、誰にだって知られたくないことがあるみたいだから私は何も詮索しないわ」

 

 

 うん、そうしてくれると助かります……思い出したくないことだってあるのだから……流石アリスだ。プライベートを守ってくれるできる女!憧れますっ!!

 

 

 「それで……あなたは?」

 

 「ああ、こっちは命蓮寺でお世話になっている秦こころちゃんだ。訳あって人里を見て回っているところなんだよ」

 

 「秦こころ……です」

 

 「アリス・マーガトロイドよ。どうだった私の人形劇は?」

 

 「面白かった!」

 

 

 両手を万歳して喜びを表すこころだが、これも無表情である。アリスはこころの表情が動かないことに首を傾げる。

 

 

 「あなた……この前の異変の時の子じゃない?」

 

 「そうだ、こころちゃんは感情を身に付けるためにこれから様々な経験を付けさせていくつもりだ。そして私はそのお手伝いをしているわけだ」

 

 「そういうこと……なるほどね。色々と経験させて感情を身に付けさせる……あなたは子供なの?」

 

 「私は子供じゃないぞー!」

 

 

 腕をグルグルと振り回して般若の面を被る。怒っているのがわかりやすい……まるで子供が大きく見せようとしているみたいに見えてクスっと笑みがこぼれるアリス。

 

 

 「笑ったなー!」

 

 「ごめんなさいね。可愛かったものだからついね」

 

 「私が可愛かった?」

 

 「ええ、そうよ」

 

 「おおー!私は可愛いのかー♪」

 

 

 先ほどまで般若の面だったのに、今ではすっかり福の神(喜びの面)であった。

 

 

 「(大きなお子様のお守りってことね)」

 

 「(簡単に言えばそうだな)」

 

 「?天子とアリスはヒソヒソ話して何している?」

 

 「なんでもないわ。気にしないで頂戴。それじゃ、私はこの後に用事があるからこれで失礼するわ。天子ご苦労様、こころ諦めないで頑張るのよ」

 

 「おおー!任せろー!」

 

 

 こころちゃんの行動は癒されるわね♪子供はかわいいって言うけど……うん、かわいいわね!かわいいこころちゃんのために色んなところを見てもらわないといけないわね。

 

 

 天子達はアリスと別れ様々な店先に立ち寄った。団子屋、寺子屋に道具屋だけでなくその他諸々と見て回ったがこころに感情が現れることはなかった。

 

 

 「……成果なしか……」

 

 

 そう簡単にはいかないようね。元々そういう原作設定だし……しかし色々と経験を積めたのは事実。団子を見つめるこころちゃんに奢ってあげたし、寺子屋では子供達と一緒に遊んだりした。そこでこころちゃんが寺子屋の女の子と紙風船(かみふうせん)で遊んでいるのを思い出し、ふっと道具屋に立ち寄った。物色していると目当ての物を見つけた私はこころちゃんのために買ってあげた。それを手渡した時は驚いていたけど、素直に受け取ってくれて喜んでいたようでプレゼントした甲斐があった。だけど、こころちゃんがジッと私を見つめていたんだけど……喜んだ様子とは違う気がした。一体あれは何だったんだろうか?

 他にも見て回ったが、残念ながらこころちゃんの表情は相変わらずだった。しかしちゃんと楽しんでいたようでよかった。だから少しは役に立てたと思う。まだまだ先は長そうだけれども楽しんでいってもらいたいよね。

 

 

 天子は今日の出来事を整理しているとこころが服の袖を引っ張った。

 

 

 「……ありがとう」

 

 「何がだ?」

 

 「今日いっぱい人里見て回った。団子美味しかった、子供達と遊んだ、そしてこれも買ってくれた」

 

 

 紙風船(かみふうせん)を取り出した。少し力のかけかたを間違えてしまうと例え子供の力であっても簡単に破れてしまう紙風船(かみふうせん)を大事に包み込むよう両手に収まった。

 

 

 「私は感謝している。聖に教えてもらったの。感謝の気持ちを伝えるには『ありがとう』って言うんだって」

 

 

 こころはもう一度「ありがとう」と言って頭を下げる。表情はそれでも何ら変わりのない形だが、天子にはこころが笑っている姿が一瞬見えた気がした。

 

 

 「ありがとう」……大切な言葉よね。子供も大人も関係なく感謝した時に一番思いが伝わる言葉……大人になっていくと中々言えなかったり、言うのが恥ずかしくなっていくものだ。けれどこころちゃんは私に伝えてくれたし、買ってあげた紙風船(かみふうせん)を大事に扱ってくれているのを見たらなんだかこっちは嬉しくなっちゃう。

 体は大きくても純粋な子供のようであって愛おしいわねぇ……お持ち帰りしたいくらいだわ。お持ち帰りしたらダーク衣玖に何をされるかわからないからしないけどね。

 

 

 空を見上げると日が沈みかけており、今は夕暮れ時……もうそろそろ神子も元通りになっているはずである。

 

 

 「こころちゃん、そろそろ命蓮寺に帰ろうか?」

 

 「うん」

 

 

 頷いたこころは天子の横を歩く。自然とこころの手が天子の手と重なって、天子も自然とこころの手を軽く握る。夕日に映る二つの影がゆっくりと命蓮寺へと向かって行った……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ただいま」

 

 「遅かったのぉ天子よ……これはこれは!こころお主、天子のことが気に入ったようじゃな」

 

 「うん」

 

 

 コクリと頷く。それを見ていたマミゾウはニヤニヤと悪戯じみた瞳が天子を見つめる。

 

 

 うわぁ……マミゾウさんの瞳が私に何か言いたそうにしている……これはろくでもないことに違いない。私の勘がそう言っている。

 

 

 「……なんですかマミゾウさん」

 

 「いやなに、何人の女子(おなご)を射止めるつもりなのかと思ってのぅ♪」

 

 

 揶揄われた。私はそういうつもりは全くないです!射止める気はないけど的に当たっちゃうだけなのよ!

 

 

 天子はマミゾウに抗議の視線を送るが全く相手にされなかった。クスクスとほくそ笑む姿がまさに狸だ。

 

 

 「……ねぇマミゾウ、聖はどこ?」

 

 「ん?聖なら……来よったわ」

 

 

 奥から天子とこころの元へと走って来たのは聖……ではなく神子であった。

 

 

 「天子殿!今まで私を置いてどこへ行っていたのですか!?それにこころ殿も来ていたのでしたら声をかけてほしかったです!私はどれほど寂しい思いをしたか……!」

 

 

 干乾びた状態から復活した神子だったが天子は既におらず、先ほどまでこころが命蓮寺に来ておりながら自分に会いに来てくれなかったことが不満だったらしい。ワンワンと不満を口にする神子は傍から見ればただの子供に見えた。

 

 

 「神子さん、もうそれぐらいにしましょう」

 

 「ひじりぃ……ん?……………………?!」

 

 

 聖も神子に遅れてやってきた。だがその姿を見た全員がギョッとした。何やら血が飛び散った形跡があった……出血だが聖のものではなく返り血であることが見て取れる……ニコニコと笑顔で振舞う聖に天子達の表情が固まるがいつの間にか傍にいたぬえが耳打ちしてくれた。

 先ほどまでどうやらお仕置きしていたらしい……それを聞いて天子とマミゾウは納得した。こころと神子だけは事情を知らないので聖から自然と距離が遠くなっていく。

 

 

 おお村紗よ、一輪よ、しんでしまうとはなさけない。

 きっとあの二人は無事なんだろうけど……聖は一体どんなお仕置きをしたの……?私も最近衣玖達と()()()()()()お話したから大体想像がつくけど……いや、想像したくないわね。どちらにせよ二人にはこの念仏を送っておこう……南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏……

 

 

 「すみません天子さん、少し村紗と一輪と話し込んでいまして……こころちゃんの面倒を見てもらったとか」

 

 「いや、私がこころちゃんの力になってあげたくてここに来たのだから何も問題はない」

 

 「天子さん……ありがとうございます」

 

 「ふぉふぉふぉ!やはり天子に頼んでよかったのぉ。こころよ、どうじゃった?」

 

 「楽しかった!」

 

 

 こころの面が福の神にすり替わる。福の神は喜んでいる証拠だ。どこから出したかわからない扇子を手に持ち喜びを表そうとクルリと回転したりして表現した。そんな姿を見ていると皆、自然と心が癒されるような気がした。そんな時、こころのポケットからポトリと何か落ちた。

 

 

 「なんだこれ?」

 

 

 ぬえが拾ったのは紙風船(かみふうせん)だ。天子が道具屋でこころに買ってあげたもの……ぬえの手に紙風船(かみふうせん)が握られているのを見てこころが自慢するように言った。

 

 

 「それ……天子が買ってくれたの!」

 

 「ふ~ん天子がね……えっ?」

 

 「「「えっ!?」」」

 

 

 全員こころに驚いた。何故驚くのかとこころは疑問に思った。

 

 

 「どうしたのだ?」

 

 「こ、こころ……お主……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「――笑っておるぞ!」

 

 

 こころは初めて笑えていた。

 

 

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