比那名居天子(♂)の幻想郷生活   作:てへぺろん

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流血表現、暴力表現あり注意です!


それでは……


本編どうぞ!




65話 双天の出会い

 ここは何もかも逆さの場所……城ではあるが、空に浮かび、天と地が逆さとなっていた。その城の名は【輝針城】逆さなので天守閣からは幻想郷を見下ろせる絶景となっている。そしてその城には少名針妙丸と鬼人正邪の拠点になっていた。

  薄暗く、壁は赤色で染まっており、障子や屏風が金色に輝き、畳には白く光る灯篭が置かれている。豪華そうな城の内装をしているが、逆さ城であるため床は天井にある。そんな内装など気にも留めず、針妙丸と正邪は着々と異変を引き起こしていた。

 

 

 「姫もう少しですよ!」

 

 「うん!あともう少しで弱者が見捨てられない幻想郷に変わるんだ!」

 

 「そうですそうですよ姫!」

 

 

 小槌の魔力を使って願いを叶えていく。もうすぐで下克上の世界という大きな願いを叶えられる……弱きものが見捨てられない世界へと変えることができることに喜びを感じていた針妙丸……傍に居る天邪鬼はケタケタと笑みを浮かべていることに気づかないまま……

 

 

 「(ケケッ!バカな奴だな、利用されているとも知らないでよ♪使うだけ使って後はこいつをそこら辺の犬か猫にでも与えてやればこの幻想郷はこの鬼人正邪様の物だ♪)」

 

 

 野望を叶えてくれる針妙丸を馬鹿にしながらまだかまだかと待っていた。すると針妙丸が何かに気づいて小槌を使うのを止めてしまった。

 

 

 「姫?一体どうしたのですか?(なんで止めちまうんだよ!?)」

 

 

 表向きでは針妙丸を心配しているように装うが、内面では舌打ちをしていた。

 

 

 「アレ見て!誰か居る!」

 

 「――なに!?」

 

 

 正邪は慌てて針妙丸が指さす方向へと視線を凝らす。そこには巫女装束に身を包む一人の少女がいた。

 

 

 「(あれは博麗の巫女!?ケッ!来ることはわかっていたが、あと一歩のところで現れるとは……だが、あいつこっちに気づいていなさそうだな。こいつが小槌を使いきるまで何としても時間を稼がないと私の計画は全て水の泡だ。そうはさせるかよ!)」

 

 

 正邪は何としても針妙丸に小槌を使わせようと考えた。

 

 

 「(そうだ!)姫、あれは八雲紫の手先である博麗の巫女でございます!」

 

 「博麗の巫女……確か聞いたことがある。妖怪を退治するいい人って」

 

 「いいえ違います。表向きにはそう伝えられていますが、真実は違うのです。八雲紫と言う幻想郷を支配している妖怪に付き従うのが博麗の巫女、そしてその博麗の巫女は八雲紫の邪魔となる妖怪を排除しているのです!人間ながら悪しき妖怪の手先が博麗の巫女なのです!」

 

 「で、でも排除って私達悪い事してないよ!」

 

 「そうです。それが八雲紫が望まない事……弱者が救われることなど八雲紫は望んでいないのです。奴めは弱い妖怪を快楽で始末して遊んでいるのです。それを実行するのが博麗の巫女……そして始末されるその様子を遠くの空間から嘲笑っているのが八雲紫と言う悪しき妖怪なのですよ!」

 

 「――なっ!?なんて身勝手な奴なの!!」

 

 

 針妙丸は正邪の話を聞いて八雲紫と言う名の妖怪に腹を立てた。しかしこれは正邪のでっち上げ、妖怪の賢者と博麗の巫女が仲間であることを針妙丸の頭に植え付けるための嘘であった。

 

 

 「姫!私が時間を稼ぎます。その間に姫は小槌を使って弱者が見捨てられない世の中に変えてください!」

 

 「正邪が危険だよ!?」

 

 「私なら大丈夫です。姫が必ず願いを叶えてくれると信じていますから」

 

 「正邪……」

 

 

 正邪の言葉にグッと胸が締め付けられた。そして針妙丸は決意する。

 

 

 「うん!小槌を使えるのは私だけ……弱者のために、正邪の思いを無駄にしない!私は願いを叶えてみせる!」

 

 「そうです姫!さっ!早く小槌に願い続けるのです!」

 

 「うん!」

 

 

 針妙丸は再び小槌を使い始めた。正邪はそれを確認し、背を向けて歩き出した。

 

 

 「――正邪!」

 

 

 針妙丸の呼びかけに正邪は振り返る。

 

 

 「気をつけてね……」

 

 「……ええ!」

 

 

 親指を立ててその場を後にした……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ば~か!!

 

 

 舌を出してアッカンベーのポーズを取る。

 

 

 「ケケケッ!まんまと騙されやがって!本当のバカだぜあいつ!ぎゃははははは!!おかしくって腹痛いわ~♪」

 

 

 腹を抱えて笑い声が響き渡る。騙されているとも知らずに針妙丸は正邪を信用した。それがおかしくておかしくて笑いが堪えられなかった。

 

 

 「あひぃ!あひぃいひぃ!もう傑作だ!こんなに利用しやすいだなんて……小人って言うのは脳みその中身も小人サイズだったってわけかよ!ぎゃははははは!!!」

 

 

 正邪はひとしきり笑った後、肩で息をしながらも次の行動に出る。

 

 

 「ふぅ笑った笑った……笑えたが……ケッ!あのバカが小槌を使い終わるまで何としても博麗の巫女から守らねぇとな。はぁ……面倒くせ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あんたが今回の黒幕でしょ!白状しなさい!!」

 

 「ち、ちがう!喧嘩を売ったのは私達だけど私達じゃないの!」

 

 「そ、そう!ただ調子に乗っていただけなの!」

 

 

 霊夢に胸ぐらを掴まれて脅迫されている哀れな付喪神が二人……恐怖で顔を真っ青にしながら弁解をしていた。

 

 

 【九十九弁々

 髪は薄い青紫色で、ショートヘアと長い二つ結びを組み合わせたような髪型をしている。瞳の色は紫色で、葉付きの白い花の髪飾りを付けている。服装は薄い黄褐色のワンピースを白の長袖シャツの上に重ね着しており、足元は裸足である。

  琵琶の付喪神で、九十九姉妹である九十九八橋のお姉さん。姉妹なのだが、実は同時期に付喪神になっただけで、血の繋がりはない。しかし仲は本物の姉妹のように良い。

 

 

 【九十九八橋

 茶色のショートヘアにカチューシャを付けている。瞳の色は髪と同色で、服装は薄紫色のラインの入った白い上着に、紫のリボンや模様が付いた黒いスカートで、要所にジグザグ状の装飾がなされている。足元は裸足である。

  お琴の付喪神で、九十九姉妹である九十九の弁々の妹。二人の絆は固く、お互いに大事な存在である。

 

 

 「じゃ誰よ!こんな面倒な異変を起こしたのは!!」

 

 「し、しらない……!」

 

 「嘘つくじゃない!張り倒すわよ!!」

 

 「弁々姉さんは嘘なんてついてないよ!本当だよ~!!」

 

 

 霊夢の鋭い瞳が二人を睨みつける。今にもちびってしまいそうになりながらも意識をしっかりと保っているのがやっとの九十九姉妹。

 霊夢は不機嫌だった。のんびりとした一日を過ごすはずが、博麗神社に押し寄せた妖怪達によって見事に打ち砕かれた。今の博麗神社は萃香が守っているので問題ないが、下手をしたら博麗神社が潰される結果になる可能性もあった。次から次へと押し寄せる妖怪達を退治するよりも異変の黒幕を見つけ出して叩きのめすことにした。しかしまだ見つかっていない……次第に霊夢の機嫌が悪くなり、九十九姉妹に怒りの矛先を向ける始末であった。

 そんな不機嫌な霊夢が睨みつけている……恐ろしくなり瞳に薄っすらと涙が溜まっていく。そして霊夢はため息をついて胸ぐらを掴んでいた手を離した。

 

 

 「ゲホゲホッ!」

 

 「弁々姉さん大丈夫!?」

 

 「だ、だいじょうぶよ……ゲホッ!」

 

 

 胸ぐらを掴まれていた弁々はむせ返ってしまう。

 

 

 「――ったく、どうやら本当のようね。ほら、もうあんた達には用はないからさっさとどっか行きなさい」

 

 「「は、はい!!」」

 

 

 ピューッ!と音を立ててその場を逃げ出した九十九姉妹。だが、これでまた振り出しに戻ってしまった。霊夢はまだ見える黒幕に苛立ちを募らせていた。そんな時だ……霊夢の元へとやってくる二つの影……魔理沙と咲夜であった。

 

 

 「霊夢こんなところに居たのか」

 

 「魔理沙と咲夜じゃない……あんた達も異変を解決しに来たのね」

 

 「当たり前だろ?ちなみに私は(バカ)と人魚を退治して来たぜ」

 

 「私の方は頭が取れる珍しい妖怪とオオカミさんでしたわ」

 

 「チルノと……後は知らない奴らね。まぁ、どうでもいいわよ。そんなことよりもこっちは早く黒幕を見つけ出さないといけないのよ!」

 

 「機嫌が良くないようね霊夢」

 

 「当たり前よ!のんびり過ごそうとしたら博麗神社に妖怪共が押し寄せるわ、異変を起こした黒幕はまだ見つからない……ああもう!見つけ出してギッタンギッタンのボッコボコの血祭りにあげてやるわ!」

 

 

 霊夢は地団駄を踏んだ。空に浮かんでいるのに衝撃が体中に伝わってくるのはそれだけイライラが募っていることを示していた。

 

 

 「霊夢を怒らせると怖いからな……今回の異変の黒幕はかわいそうなことになりそうだぜ」

 

 「ホントね」

 

 

 魔理沙と咲夜は相手側に同情した。こうなった霊夢はとことん退治することを知っている二人には事の結末が容易に想像できる。

 そんな時だった。

 

 

 「ん?お、おい!霊夢、咲夜あれを見てみろよ!」

 

 

 魔理沙が指さした先を目で追っていく。するとそこには先ほどまで気がつかなかった逆転した城が空に浮かんでいた。

 

 

 「……城?でしょうか?」

 

 「咲夜、あれは城にしか見えないでしょ。それにしてもあんなものは前までなかったし……あそこに今回の黒幕がいるわ!」

 

 「霊夢、どうしてわかる?」

 

 「勘よ、勘!」

 

 

 霊夢の博麗の巫女としての勘があそこに黒幕がいると伝えていた。

 

 

 「勘ね……ですがあのような奇抜な建築物に何かあるのは間違いないようね」

 

 「そうだぜ!それに霊夢の勘はよく当たるからな、そうと決まればあの逆さ城目指して行くぜ!」

 

 

 魔理沙が一番乗りしようと前に出たその時、霊夢の勘が何かを察した。

 

 

 「魔理沙避けなさい!」

 

 「えっ?うぉ!?」

 

 

 魔理沙は向かって来る何かを咄嗟に避けた。

 

 

 「弾幕……一体誰だよ!宣言もせずにいきなり放ちやがったのは!?」

 

 「これはこれは……申し訳ありません。あまりにも隙が多すぎたので……」

 

 

 地上の木々からふわりと浮かぶ影が魔理沙達の前に現れた。

 

 

 「あんたが今回の黒幕かしら?」

 

 「ふっふっふっ……さぁ?それはどうでしょうかね?(勘のいい巫女だな、こいつは始末しないと後々面倒なことになりそうだ)」

 

 

 霊夢に対して内心舌打ちをして博麗の巫女の面倒さを改めて実感する。そして今の状況に唇を噛みしめる。先ほどまでは博麗の巫女一人だったのに今では白黒の魔法使いとメイドまで加わっていた。

 1対3と言う圧倒的不利な状況……だが、ここで逃げてしまったら今までやってきたことが無駄になる。小槌で願いさえ叶えてしまえば後はどうとでもなるのだから……

 

 

 「まぁ、どうでもいいわね。ぶちのめせば同じことだし」

 

 「霊夢、あなたって巫女じゃなく野蛮人に見えるわよ?」

 

 「うるさいわよ咲夜、私が今とても不機嫌なの知っているでしょ」

 

 「待て霊夢、ここは私がやるぜ。あいつ不意打ちしてきやがったんだからこっちもそれ相応の対応をしてやらないといけないんだぜ!」

 

 「こんな雑魚に手こずったら承知しないわよ?」

 

 「任せておけって!」

 

 

 霊夢と咲夜は魔理沙に正邪の相手を任せることにしたようだ。一度で3人同時にかかれば瞬時に終わること……正邪もそうなる可能性を危惧していたがそうはならなかった。余裕だと笑みを見せる魔理沙に正邪のはらわたが煮えかえる思いだった。

 

 

 「(ケッ!余裕ぶっこきやがって……ムカつくぜ!いつもそうだ……弱い奴のことなど何も考えない……!!)」

 

 

 歯を噛みしめていた。正邪の奥の方から何かが湧き上がってくる……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『「お前弱いからいらないな」』

 

 

 『「あっちいきなさい!弱っちいくせに!」』

 

 

 『「生意気なんだよ!雑魚が!」』

 

 

 『「弱い奴はゴミでも食ってろよ」』

 

 

 『「ざまぁねぇ!お前が弱いからそうなるんだよ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「(……弱いだと……ふざけんなよ……)」

 

 

 「私が相手だぜ!お前のような不意打ちしてくる卑怯者には()()()()が必要だろうからな!」

 

 「――ッ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『「お前には……()()()()が必要だろ?」』

 

 

 「(……いたい……)」

 

 

 『「自業自得だ!反省しろ!」』

 

 

 「(……わたしが……なにをしたんだよ……)」

 

 

 『「お前は存在自体が邪魔なんだよ!」』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「(……ふざけんじゃねぇよ……!)」

 

 

 正邪の中で何かがキレた!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ふざけんじゃねぇ!!!

 

 

 魔理沙達は体が震えた。先ほどまで紳士的な態度だった目の前にいる妖怪がいきなり声を荒げたからだ。柔らかな雰囲気は四散し、鋭い牙が並んだ口、射殺すような視線を魔理沙達に向ける正邪。明らかな殺気を感じ取れる……

 

 

 「ど、どうしたんだよ……お前!?」

 

 

 魔理沙も気迫されてしまう。弾幕ごっこでは感じることができない殺気が自分にも向けられている……各地で暴れる妖怪を退治した時でも殺気が感じられなかった。だが、目の前の妖怪は確実に魔理沙の命を欲している……そんな目をしていた。

 

 

 「霊夢、これはまずいのではなくて?」

 

 

 咲夜は危険視した。目の前にいる妖怪はスペルカードルールに付き合う気がない……いや、先ほどまではスペルカードルールに基づく弾幕ごっこができる相手だった。しかし今の相手はそうではなくなった……何が一瞬にして彼女を変えたのか咲夜には見当がつかなかった。

 

 

 「殺してやる!ぶっ殺してやる!!」

 

 

 瞳は充血し、命を奪う獣と化している正邪……理性が存在しているのかわからない。人間と差ほど変わらない姿の正邪だが、今だけは人間に恐怖を与え、捕食し、天敵と称された存在となっていた。下手な化け物の姿をした妖怪よりも恐ろしい……魔理沙は正邪の瞳に怯えてしまう。それが引き金となった。

 

 

 「殺す!!」

 

 「ひぃっ!!」

 

 「魔理沙!!?」

 

 

 正邪は魔理沙に飛び掛かった。咲夜も反応が遅れてしまい、能力が間に合わない……正邪の鋭い爪と牙が命を狩り取るために魔理沙の首元に襲い掛かる……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ぐちゃ!

 

 

 血が流れた。赤黒い血が空から地面に雫となって落ちていく。

 

 

 「あっ……あっ……!」

 

 

 魔理沙は口をパクパクさせていた。魔理沙の瞳は一点だけを見つめて動かせなかった。

 

 

 血が滴り落ちる……そう……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「がふぅ!?」

 

 

 正邪の腹から……

 

 

 一本の針が正邪に刺さっていた。それは霊夢の封魔針(針状の武器)だった。

 

 

 「れ、れいむ……」

 

 

 魔理沙が霊夢を見た。そこにはいつもと変わらない表情の霊夢……しかし瞳の中だけは妖怪を幾度も退治していた躊躇のない瞳であった。

 力無く霊夢に掴まれている正邪はピクリともしない。魔理沙は恐る恐る瞳が問いかける……死んだのかと。

 

 

 「もう死ぬわ」

 

 

 残酷な宣言だった。しかし幻想郷では当たり前なことである。妖怪に襲われたら生き残るか死ぬかのどちらかの運命だ。そして霊夢は博麗の巫女、巫女として人間を守り、妖怪を退治することが役目である。霊夢はその職を全うしただけだった。

 

 

 「こいつの自業自得よ。スペルカードルールを無視して来るなんて……」

 

 「で、でも霊夢……」

 

 

 魔理沙が何か言おうとしたのを咲夜が遮る。

 

 

 「もう少しであなたの方が死んでいたのよ?同情はいらないはずよ」

 

 「咲夜……」

 

 「私達は異変を解決するために来たのよ。それにあれを見なさい」

 

 

 霊夢は示す先には地上で霊夢達を見つけて唸っている妖怪の群れだった。

 

 

 「このまま長く異変が続けば被害が広がり続けて大規模な異変になるわ。今回の異変を甘く見ていたわ……早く異変を解決しないとこいつと同じ運命をたどる奴が出ることになるのよ。わかった魔理沙?」

 

 「……ああ」

 

 

 霊夢に言われて魔理沙は納得する。今回の異変を霊夢は甘く見ていた。ただの人騒がせな異変だと軽い気持ちで挑んだが、一人の妖怪が犠牲になる結果となった。霊夢は魔理沙と妖怪の命を天秤にかけることはしなかった。するまでもなく魔理沙を取るからだ。魔理沙の命を守るために妖怪の命を奪うことになる……たった一人の犠牲かもしれない。だが、普段の異変なら犠牲者など出ることもなく宴会でどんちゃん騒ぎして新たな一日を迎える……今回はそれはできなさそうだ……

 

 

 「魔理沙、咲夜行くわよ。ちゃっちゃと黒幕をぶっ潰してこんなこと終わりにしましょう」

 

 

 魔理沙と咲夜は頷く。二人も先ほどまでの陽気な雰囲気とは違い、真剣な眼差しが逆さ城を見つめていた。

 

 

 霊夢の手から離れて地上へと落ちていく妖怪……霊夢達はその光景を目に焼き付けながら逆さ城を目指した……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空から落ちていく……

 

 

 赤黒い液体をまき散らしながら……

 

 

 そして……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドシャッ!

 

 

 地上へとぶつかった。

 

 

 空から落ちたのは正邪だった。正邪の体が地面とぶつかり衝撃で跳ね上がり、再び地面に叩きつけられる。鈍い音が鳴り響いた。人ならば体中がぺしゃんこになり、肉塊となっていただろう。妖怪であった正邪は形を保っていられた。しかし見るからに酷い有様だ。確実に骨が折れているだろうし、叩きつけられた衝撃で皮膚もずる()けている。そして腹から赤黒い血が流れ出る……幸いなことに腹に刺さった針は一度目に地上にぶつかった時に運よく抜けたようだ。下手をしたら針が地面と衝突に体内に押し入れられることになったであろうがそうはならなかったことが奇跡だった。

 

 

 正邪に反応はない……「もう死ぬ」と霊夢に言われた。本人は聞こえていたのかそうでなかったのかわからない。どちらにせよ動くことのない肉体が地面に転がっている。

 

 

 ポツリ、ポツリと空から雨が降り始める。先ほどまで快晴だった空が暗雲に支配され、地上から明るさを奪っていく。雨に流され赤黒い血が辺りを染め上げる……

 

 

 「おい、あそこに何かあるぜ?」

 

 「なんだなんだ?」

 

 「死体か?」

 

 「血の臭いだな」

 

 

 血の臭いに誘われてやってきたのは正邪と同じ妖怪達だった。その妖怪達は動かぬ正邪を観察していた。

 

 

 「ふんふん……血が流れてからそれほど経っていないようだな」

 

 「新鮮!?これは早く味合わないといけないな!」

 

 「女の妖怪の肉か……柔らかそうだ♪」

 

 「人間が良かったが……仕方ないよな。それにここに残っていても邪魔なだけだから俺たちに食われた方がこいつも成仏できるだろうぜ!」

 

 

 現実は非情だ。誰も悲観することはない、妖怪達は正邪を食料としか見ていなかった。しかしそれも仕方ないことでもある。弱肉強食……強い者が勝ち、弱い者が負ける……それが世界なのだから。例え同じ妖怪同士でも食い食われることがある。人間を食べれない時は妖怪同士でも食い合って生きているのだから……これが幻想郷の自然の一部なのだ。

 

 

 「俺は内臓をもらうぜ」

 

 「俺は目ん玉がいい!」

 

 「腕と足は残しておいてくれよ?」

 

 「骨まで味わうぜ!」

 

 

 妖怪の一匹が正邪の肉体に力を加え始める。掴まれた正邪の腕がピキピキと言う嫌な音を立て始める。

 

 

 「…………………………………………っ

 

 「ん?」

 

 

 腕を掴んでいた妖怪が何かに気づいた。

 

 

 「おい、こいつ生きているぜ」

 

 

 「生きている」それはまだ死んでいない証拠だった。命の鼓動はまだ尽きてはいない……人間ならばすぐに助けを求めるか救おうとするだろう。だが、妖怪は違った。

 

 

 「生きてんのかよ!なら生きながら踊り食いできるじゃんか!」

 

 「そのまま腕を引きちぎってくれ!悲鳴が聞きたい!苦しむ悲鳴を聞かせてくれ!」

 

 「死なすんじゃないぞ!そのまま新鮮さを保ちながら骨をバリバリ食うんだ!

 

 

 人間が聞けば気が狂ったような言葉だった。だが、妖怪にとっては普通の出来事……幻想郷の影の部分では人間にとって残酷なことでも行われている。寧ろ必要なことなのだ。ただそういう部分は普段から影に隠れているだけ……妖怪は人間に恐怖される存在……恐怖を与えることも存在意義なのだ。

 

 

 「…………………………………………っよ

 

 「おい、こいつ何か言っているぜ?」

 

 

 正邪の口が何か言っている……耳を澄まさなければ聞き取ることのできない声量でとても弱々しい。

 

 

 「遺言か?聞いてやるぜ」

 

 

 妖怪の一人が正邪に耳を近づけた。

 

 

 「…………………………………………っよ

 

 「聞こえねぇな……もっと大きな声で話せよ!」

 

 

 そう言いつつ更に妖怪の耳が正邪の口元へ近づいた時だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「…………………………………………気安く触れるんじゃねぇよ!!

 

 

 正邪が妖怪の耳に噛みつきそのまま引きちぎった。

 

 

 「ぎゃぁあああああ!!?お、おれの耳がぁあああああああああああ!!!」

 

 

 妖怪は血が流れる耳を抑える。正邪がその隙をついて妖怪から距離を取る。

 

 

 「――な!?てめぇ!!」

 

 

 他の妖怪達は黙っていない。敵意むき出しにして正邪を睨む。

 

 

 「はぁ……はぁ……私を食おうって言うなら100万年早いぜ!てめぇら如きに食われるような鬼人正邪様じゃないんだよ!ば~か!!!」

 

 「こいつ……!」

 

 「痛めつけてぶっ殺してやる!!」

 

 「死ねー!!」

 

 

 妖怪達が襲い掛かる……正邪はそれを避けようとするがもう体力は残っていなかった。不意打ちの反撃だけで残っていた体力も底を尽き、視界もぼやけていた。封魔針を受けて元々虫の息……それなのに挑発的態度を取った。正邪にも譲れないプライドがあり、それを実行した。しかしもう後がなかった……妖怪達が一斉に正邪に攻撃し、正邪の体は地面に叩きつけながらバウンドして転がった。

 

 

 穴と言う穴から血が流れ出て正邪の体中が赤黒い血だらけになった。骨も既に折れており、体力も底をついている……今度こそ正邪は指一つ動けなくなった。

 

 

 「ふ、ふざけやがって!俺の耳を!」

 

 

 耳を食いちぎられた妖怪は足を振り上げ、正邪の腕に振り下げる。

 

 

 バキバキッ!

 

 

 「ぐぁあ!!?」

 

 

 残っていた正常な骨が砕かれる音が聞こえた。激痛が全身に走る……次第に痛みが引いていく。痛みすら感じられない程に肉体が死に絶え始めていた。

 

 

 「(ち……くしょう……こ……こんな……ことが……この……きじん……せいじゃ……さまが……とりみだして……しったいをおかすなんて……!)」

 

 

 正邪は呪った。力のない己自信を……

 

 

 「(しかも……こんな……やつらのえさに……なるだなんて……)」

 

 

 正邪は恨んだ。弱い己自信を……

 

 

 「(ちく……しょう……!)」

 

 

 正邪は悔しんだ。何もできない己自信を……

 

 

 「息の根を止めてやる!!」

 

 

 妖怪の鋭い爪の刃が正邪に突き立てられる!

 

 

 正邪の下克上の夢は……今……潰えた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガギンッ!

 

 

 しかしその夢が潰えることを拒む者がいた。

 

 

 「な、なんだお前は!?」

 

 「(……だ……れ……だ……?)」

 

 

 一瞬……一瞬だけだがその誰かを見ることができた正邪は何故か安堵できた。そして耐えられなくなりそのまま意識を失った……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「私は比那名居天子、非想非非想天の息子であり、天人くずれだ」

 

 

 ()()()()()……二つの()が初めて出会った瞬間だった。

 

 

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