比那名居天子(♂)の幻想郷生活   作:てへぺろん

67 / 89
正邪が影で針妙丸を利用していた。そんな時、異変を解決するために現れた霊夢達……


正邪は時間稼ぎをしようとしたが様子がおかしい……


シリアス展開が多くなっていくと思われますのでご注意ください。


それでは……


本編どうぞ!




66話 異変の影で

 「あなたとは本当に縁があるようね」

 

 「すまない……永琳さん」

 

 

 迷いの森の奥に佇む和風の建物……その建物の名は永遠亭。診察室にて薬師の永琳と対面しているのは非想非非想天の息子である天子、静まり返る診察室で二人だけの声が辺りに響く。

 

 

 天子は永遠亭を訪れていた。一体何度目だろうか?永遠亭にお世話になるのは……しかし今回は違っていた。永遠亭にやってきた天子は戸を叩く。出迎えたのは運良く永琳だった。彼女でなければきっと騒ぎになっていただろう……戸を開けて目に入って来たのは服に血がべっとりとついた天子の姿だったが、彼女は決して取り乱すことはなかった。何度も大怪我を負って永遠亭にやってきたのだから永琳でもまたかと疑った。しかしその血は天子のものではなかった。寧ろ天子には傷一つなかったのだ。ではこの血は一体誰の血か……?

 

 

 「謝らなくていいわ。これも仕事だもの……血だらけのあなたを見た時はまた仕出かしたかと思ったけれどそうじゃかったようね」

 

 「ああ、何度も世話になる」

 

 「頼ってくれるのは嬉しいわ。けれどあなたが連れてきた子は誰?見たことがないけど?」

 

 「名は鬼人正邪、天邪鬼なのだ」

 

 

 天子は正邪を永遠亭に運び込んだ。そうなる経緯はというと……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「な、なんだお前は!?」

 

 

 妖怪は驚いた。いきなり現れた人物によって攻撃を受け止められたからだ。その人物はこう名乗った……

 

 

 「私は比那名居天子、非想非非想天の息子であり、天人くずれだ」

 

 

 天子だった。団子屋で正邪らしい人物を見かけて天子は近々起こるであろう【輝針城】での異変の様子を見に来ていた。原作と異なる異変が起きていたため今度の異変も何か変わっているところがないか調べようとしていたのだ。そして地上に降り立ち、ぶらぶらしている時にこの場面へと出会った。状況がわからないが、血まみれで今まさに止めを刺さんとする妖怪に咄嗟に割り込んだのだ。

 

 

 「てめぇ!こいつの仲間か!?」

 

 「仲間ではないと思う……だが、仲間でなくとも助けるのに理由など必要ない」

 

 

 天子はきっぱり言い放った。天子には血だらけで倒れているのは正邪だとわからなかった。全身血に染まり、攻撃された箇所が腫れあがってもいた。確認する暇もなく妖怪の爪を緋想の剣で受け止めたため認識していなかった。けれどそれが誰であろうと天子には関係ない……幻想郷に生きるということは非情な運命(さだめ)も受け入れなければならない時がある。自然が時に牙を立てて猛威を振るうことだってある。幼い子供が妖怪の餌になるこの幻想郷……それでも譲れない思いがある、背けられない意思がある、綺麗事を言う様であるがそれでもそうしないといけないと体が動いた。理由など後でどうとでもなる……ただ天子は目の前で儚く散ってしまう命を見捨てることができなかった。

 

 

 「邪魔するな!そいつは既に死にかけだったんだ!!それを俺たちは食おうとしただけだ!そいつが抵抗したからこっちも抵抗しただけだ。それにお前人間じゃないだろ?俺たちだって生きるために食うんだ。人間じゃないお前ならわかるだろ?」

 

 

 攻撃を受け止められた妖怪は直感できた。「この男は強い」そう感じ取り、無駄な争いは避けるべきだであると考えた。そして妖怪は天子を説得する。幻想郷の暗黙の了解……食う食われるのは避けられない事実。そして妖怪達はそれに従ったまでのこと……弱肉強食だ。

 

 

 「人間も生きるために家畜を食べる……それと一緒だ。どのみちそいつは死ぬんだ。それならば俺たちが食ってやるのが供養ってもんだろう?」

 

 

 妖怪の言う事はよくわかる。正邪に耳を食いちぎられてもこの対応ができるのは比較的知性がいい妖怪なのだろう。冷静に対応してくれるだけで良心的だ。妖怪の答えに納得しても自然の出来事のため文句を言う者などどこにもいない。

 だが、天子はそれを良しとはしない。良しとできない……それが自然の掟でも天子は従うことはしない。

 

 

 「すまない……話はわかる。だが、見捨てられない……この者が誰であろうと命の(ともしび)を消して知らんふりを出来る程の寛大な心を持ち合わせていない小心者だ。見捨ててしまえば私は一生後悔する……後悔の念に押しつぶされて生きていけなくなる。この者のためだけに助けるのではない、私自身のためにでもあるのだ。だから……」

 

 

 天子は妖怪に深々と頭を下げた。

 

 

 「見逃してくれないか」

 

 

 妖怪達がざわめく。ただの妖怪風情に頭を下げるなど普通するものかと疑う程だ。これは何かの罠か?それとも何かの策か?妖怪達が警戒する中で、耳を失った妖怪だけはジッと天子を見つめていた。

 

 

 「……わかった。今回だけは見逃そう」

 

 「――!ありがたい!」

 

 

 天子はその言葉に感謝した。そんな光景を見て他の妖怪達が驚いていた。

 

 

 「見逃すのかよ!?」

 

 「ああ、こいつは相当の実力者だと見た。俺たちが束になっても敵わねぇ」

 

 

 その言葉に顔を見合わせる妖怪達……半信半疑だが従ったようだ。耳を失った妖怪はこの中で一番実力が高い事が窺える……その妖怪が言うのだから回りは従うしかなかったのだ。

 

 

 「この者にはちゃんと言っておく。あなたの耳を食いちぎったことをきつく叱っておく」

 

 「いや、その必要はない。俺は妖怪だ、耳もまた生えてくるし、俺の不注意が招いた結果だ。相手をなめてかかったが為に受けた傷だ。だからそいつには言う必要もお前に心配される筋合いもねぇ……」

 

 

 そう言って妖怪は天子に背を向けて歩き出した。

 

 

 「一つ言っておくぞ。この世の中は弱肉強食……弱い者が死んでいく世の中だ。そんな弱い者につくお前には得なんて何もないぜ」

 

 

 そう言葉を残して妖怪達は去って行った。

 

 

 「……誰だって初めは弱者だ。損得かで助けるんじゃない……少なくとも私は助けたいから助けただけだから……」

 

 

 妖怪が去って行った方に言葉を送った。届くことのない言葉は自分自身にも言い聞かせているように聞こえた。

 

 

 天子はすぐに血だらけで横たわる人物に駆け寄った。抱き起し脈を測れば鼓動が動いていることに少しは安堵するが気は抜けない。危険な状態であり、肌が所々腫れて痛々しく血が体中を染め上げている。そして天子は顔を覗き込むとそれが誰なのかを知る……

 

 

 「――鬼人正邪!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――と言うのが事の経緯だったのだ。

 

 

 「天邪鬼……人が嫌うことを望む変わった妖怪だって聞いたことあるけど……あの子が天邪鬼だったなんてね。一度解剖してその脳内を見てみてもいいかもしれないわね」

 

 「それはやめてあげよう……それで永琳さん、正邪の様子は……」

 

 

 天子は心配だった。天子が駆け付けた時は死にかけで命の(ともしび)がいつ尽きてもおかしくない状況だったのだから。

 

 

 「峠は越えたわ。後はあの子次第ね」

 

 「そうか……よかった」

 

 「相変わらずのお人好しのようね」

 

 「私はそういう天人だからな」

 

 「そうね」

 

 

 クスリと笑う。わかっていると言わんばかりの反応の笑みであった。

 

 

 「でもあの子、問題がありそうよ」

 

 

 そう言って永琳は診察台に置かれた一本の針を手に取る。

 

 

 「博麗の巫女……博麗霊夢の使う武器があの子の傍に落ちていたんですってね?」

 

 「ああ」

 

 「そして傷を調べたところ、ピッタリ一致したわ。あの子があんな状況に陥るきっかけを作ったのはこの針が原因って訳よ」

 

 

 封魔針は一般の人間が使えばただの凶器にしかならない。しかし博麗の巫女が使えば封魔針に霊力を宿し、対妖怪の武器の出来上がりである。正邪は妖怪、対妖怪化した封魔針を受けたために致命傷を負ったのだ。しかし問題はそこではなかった。霊夢が殺す選択をしたと言うことは、正邪がスペルカードルールに反した行動を取った、あるいは退治される原因を作ったことが窺える。

 

 

 「あの子が何をしたかは知らないけれど、おそらくは今起きている異変と関わりがあるとふんでいるわ。そしてあの子は霊夢と出会いスペルカードルールに反した行動を取った。そのためにこれを受けた……下手をすればあの子じゃなしに霊夢があの子の状況に陥っていたかも知れないわね」

 

 

 博麗の巫女を殺す行為……そんなことを妖怪の賢者が知れば黙っていない。それに博麗の巫女である霊夢が殺されれば大勢の関係者が黙っているはずもない。実際には魔理沙が危険だったが、そこまで永琳でもわからない。霊夢がいなくなれば幻想郷のバランスが崩れ、幻想郷の崩壊にもつながる可能性もあったのだ。そうなりかねない行動を起こした正邪を永琳は抱え込みたくなさそうにしていた。

 

 

 「永琳さんが正邪を嫌がる理由はよくわかる」

 

 「話が早くて助かるわ。私達まで八雲紫に睨まれるのは嫌なのよ。でも治療はしてあげるわ。お仕事だもの」

 

 「……それでなんだがもう一つ……正邪のことで言っておかないといけないことがある。今起きている異変についてだ」

 

 「妖怪が暴れたり、人里では道具が勝手に動き出したりと薬売りから帰ってきた優曇華から聞いたわ」

 

 「そう……そしてその異変を起こした首謀者は……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「正邪なんだ」

 

 

 ------------------

 

 

 『「弱い……弱いガキだ……大した力なんて持ちやしねぇ』

 

 

 ……わたしが……よわい……?

 

 

 『「ちょっと近づかないでくれる?あんたが近くにいるだけで不愉快なのよ」』

 

 

 ……なんでそんなこというの……?

 

 

 『「全く……何故お前のような奴が生まれてきたんだ……」』

 

 

 ……どうして……どうしてなの……?

 

 

 『「弱いあんたにやる飯なんてないわよ!とっととあっちに行きなさい!」』

 

 

 ……たたかないで……いたいよ……!

 

 

 『「なんだ?まだ生きているのか……邪魔なゴミめ」』

 

 

 ……ゴミじゃない……!

 

 

 『「はぁ……決めたわ」』

 

 

 ……やめて……それいじょういわないで……!

 

 

 『「ああ……決まりだな」』

 

 

 ……なんでもするから……それだけは……やめて!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『「「お前(あんた)みたいな弱者はもういらないわ」」』 

 

 

 ……わたしを……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……すてないで……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「――ッ!?」

 

 

 飛び起きた。息も絶え絶えで体中に嫌な汗が流れ出る。視界がぐらつき気分が悪い……腹の底から喉元まで何かが流れ出ようと上がって来たのを手で口を押えて我慢する。しばらくすると気分が幾らかマシになり、吐き気も引いていく。流れ出ていた汗も止まって落ち着きを取り戻し呼吸も整えることができた。

 正邪は目を覚ました。体中に包帯が巻かれ、医薬品のにおいを漂わせる病室でベッドに先ほどまで寝かされていたようだ。

 

 

 「……どこだここは……?」

 

 

 正邪はここがどこなのかわからなかった。永遠亭の存在は知っていたが、それがどんな所かまでは知らない……いつの間にか知らない場所で何者かの手によって包帯が巻かれていた事実に頭を悩ませる。

 

 

 ……誰かが助けた……?

 

 

 一体誰に助けられたか思い返してみる……

 

 

 …………………………………………

 

 

 ……………………

 

 

 …………

 

 

 ……心当たりがねぇ……

 

 

 当然である。正邪はこれまで一人で生きてきた。助けてくれる仲間などいなかったし、欲しいとも思っていなかった。自分を助けたのはお人好しの甘ちゃん野郎しかいないと断定するが……

 意識を失う前、一瞬だけ見た。後ろ姿で誰かはわからない……会ったことのない相手のはずだった。しかしその後姿に何故か安堵していた自分がいたことに正邪は気づきもしない。

 

 

 あのクソ妖怪共から私を助けた?どこの誰だか知らないが余計なことをしやがって!……まぁなんだ……誰か知らないがお人好し野郎のおかげで生き残れたわけだな……褒めてやるよ。

 

 

 そう言うが、その誰かが来てくれていなければ正邪は今頃妖怪共の腹の中であることぐらい理解できる。悪態はつくが一応の感謝はあるようだった。

 

 

 「……それにしても……」

 

 

 自分の体を観察する。包帯男……包帯女になった気分だった。顔面にまで包帯が巻かれており、パッと見たら誰だか認識できないだろう。

 

 

 「クソ妖怪共め!今度会ったら死んだ方がいいと思えるぐらい痛めつけてやる!」

 

 

 自分をこんな目に遭わせた妖怪共と遭遇するならば今度は容赦しないと心の底で誓う正邪であった。こんな状態でも元気はあるようだ。

 

 

 「包帯が汗で濡れて……気持ちわりぃ……」

 

 

 汗を流したために包帯が吸収し、湿っていたことで触れている肌に違和感があって気持ちが悪いせいで正邪を不快にさせる。しかし正邪を不快にさせたのはそれだけではない……

 

 

 「……」

 

 

 『「「お前(あんた)みたいな弱者はもういらないわ』 

 

 

 「……ケッ!」

 

 

 クソッ!胸糞悪いったらありゃしない!……クソ!クソ!!クソ!!

 

 

 正邪は見てしまった悪夢に苛立ちを感じ辺り構わず殴りつける。枕をムカつく相手に例えて何度も殴り投げ捨てる。するとゴトンと言う音と共に、近くにあった花瓶に枕が当たりバランスを崩した。

 

 

 ガシャンッ!

 

 

 花瓶が落ちる。飾られていた花は水と一緒に辺り一面にまき散らされた。

 

 

 「――何の音!?」

 

 

 勢いよく扉が開かれてうさ耳を生やした妖怪が入ってくる。鈴仙だった。

 

 

 「あっ!起きたんですね……花瓶が……」

 

 「……ここに置いておくのが悪いんだぞ。危ないだろ!気を付けろ!」

 

 

 私は悪くない、悪いのは飛んで行った枕だ。枕の先に物を置くここの住人が悪いのだ。私は何も悪い事などしていないから謝ってやらねぇ!

 

 

 自分は悪くないと主張する。鈴仙は何故見ず知らずの相手に怒られたのかいまいち理解できなかった。彼女は正邪が天邪鬼であることも異変に深く関わっていることなどこの時何も知らないのである。

 

 

 「い、いきなりなんなのよ……重症なのに元気はあるみたいね。運び込まれた時は死にかけだったのに……」

 

 「あん?お前が私をここまで運んだのか?」

 

 「違うわよ、私じゃなく天子さんが連れて来てくれたの」

 

 

 てんし……さん……?誰だよそいつ……やっぱり身に憶えのないお人好し野郎か。まぁいい……それよりもあれからどれぐらい経ったんだ?異変はまだ終わっちゃいないよな……?

 

 

 「おい、ビッチうさぎ異変はどうなった!」

 

 「び、びっち!?わ、わたしはビッチなんかじゃない!」

 

 「そんなことどうでもいい!異変はどうなったんだよ!?」

 

 「ぐぬぬ……!(なにこの失礼な奴は!?)異変はまだ続いているわよ!」

 

 「――!!」

 

 

 正邪はそれを聞くな否や包帯だらけの体を動かしてベッドから飛び降りる……

 

 

 ズキリッ!

 

 

 「――いってぇ!?」

 

 

 足を着いた瞬間に体中に痛みが走る。当然ながら先ほどまで死にかけであった体のため、いくら永琳の薬が効くからと言ってすぐに完治できるほどの傷ではない。激しく体を動かせば今みたいに痛みが伝わってくる。正邪は歯を噛みしめて痛みを我慢するが、我慢するだけで精一杯……痛みでうずくまってしまう。

 

 

 「もう!いきなり動こうとするなんて馬鹿なんですか!?」

 

 「う……うる……さい……!」

 

 

 クソ……!いてぇ……けど、このままだと打ち出の小槌を回収できなくなってしまう……それはまずい!博麗の巫女に渡ってしまったら奪う事なんてできないし、あのちびが何もかも喋る可能性も……!折角幻想郷の転覆(てんぷく)が叶うのに!!

 

 

 正邪は何としても小槌を取り返したかった。小槌の力で願いが叶えられ、幻想郷に弱者が強者を蹴落とす世界を作るはずだった。しかし霊夢が針妙丸を倒して事情を知れば、正邪が針妙丸を利用したことが明るみになり、小槌も手に入らず今までの計画が全て水の泡と化してしまう。だから異変が終息する前に小槌だけは取り返したかったのだ。失敗したのは正邪自身……霊夢や魔理沙に咲夜と対峙する正邪は怒りに支配され時間稼ぎをするということが出来ず、しまいには重症の傷まで負ってしまう。もう既にこの時で計画は終わっているように見えた……が、正邪は諦めたくなかった。

 

 

 折角……折角……!折角苦労して見つけて騙してやったって言うのに……私が今までやってきた時間は何だったんだよ!!我慢してきたことは何だったんだよ!!

 

 

 悔しさが唇を噛みしめる。血が滲み出てくるがそれでも噛みしめ続ける……そんな時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『「弱いガキめ!生きているだけで鬱陶しいんだよ!」』

 

 

 『「この世からいなくなりなさいよ!目障りよ!」』

 

 

 頭の中で聞こえてくる声……それを聞く正邪の顔色が優れない。怒り、憎悪、悲愴……負の感情が入り混じった滅茶苦茶な気分になる。しつこく付きまとう声……正邪は頭からその声を振り払おうとする。

 

 

 うるせぇ……うるせぇ!どっか行け!私に話しかけるなッ!!!

 

 

 『「クズ!ゴミ!死んじゃえ!」』

 

 

 ……うるせぇ……

 

 

 『「価値のないのに何で生まれてきたのよ?」』

 

 

 ……好きで生まれたんじゃない……

 

 

 『「汚い奴だな、お前にお似合いのゴミ飯だ」』

 

 

 ……汚いはどっちだよ……

 

 

 『「悔しかったら抗ってみせろ!」』

 

 

 ……黙れ……

 

 

 『「何もできないのかよ?」』

 

 

 …………………だま……………れよ………………

 

 

 『「やっぱりお前は……」』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『「弱者だな」』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だまれ!!!

 

 

 ------------------

 

 

 正邪は飛び掛かった。

 

 

 「えっ?――がぁっ?!」

 

 

 鈴仙の首を絞め始める。爪を立て、首の皮膚に突き刺さる。

 

 

 「な、なにぃを……がっ!?」

 

 

 鈴仙は咄嗟の事で反応できなかった。首を絞められる鈴仙に戸惑いと危機感がアラームを鳴らしている。しかし彼女も妖怪……正邪の手を離そうと力を入れるが想像以上の力で引きはがせない。体も逃げられないように馬乗りに乗っかかり、鈴仙を絞める力が徐々に強くなる。鈴仙は力がダメならと能力で波長を操り、混乱させようとしたが……

 

 

 「(こいつ波長がぐちゃぐちゃ!!?)」

 

 

 ぐちゃぐちゃな波長は精神が乱れているということ……そして鈴仙は見てしまった。正邪の目が深淵のように復讐心に駆られていた……今の正邪がまともな状態じゃないということが理解してしまう。どう言う訳がわからないが、目は鈴仙を捉えていない。鈴仙ではない者に復讐しようとしているようだが、今の状態の正邪には鈴仙など視界に入っていないと言う事だろう。しかし当の鈴仙は命の危機にさらされている……このままでは!

 

 

 「(なんとかしないと……でも……息が……!)」

 

 

 首が絞められて呼吸が困難になる。次第に意識もかすんでいき、力も体中から抜けてしまう。

 

 

 「(だ……だれ……か……!し……ししょう……)」

 

 

 ガラッ!

 

 

 音がした。そして一目散に駆け寄って鈴仙と正邪を引き離す二つの影……

 

 

 「ゴホッゴホォうぇ……!」

 

 「――大丈夫かしら優曇華!?」

 

 「ゴホッ……し、ししょう……」

 

 

 鈴仙を心配そうに見つめていたのは永琳だった。

 

 

 「よ、よかった……し……しょう……」

 

 

 永琳の姿を見て安心したのか鈴仙は眠るように意識を失った。

 

 

 「(――!命に……別状はないようね。よかったわ……でも……!)」

 

 

 永琳は鈴仙から視界逸らした先には天子に押さえつけられた正邪だった。

 

 

 「正邪!どうしたんだ!?気をしっかりしろ!」

 

 「ふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんな!!!」

 

 

 天子に押さえつけられても尚も抵抗する正邪。手がダメなら今度は牙で噛みつこうとする。しかし正邪程度では天子の皮膚には傷一つ付くことはない。それどころかそのまま噛み砕こうと力を入れ始める……天子の強固な肉体は岩よりも硬い……それを噛み砕こうとしている正邪の牙が耐えられずに血がにじみ出る。

 

 

 「やめろ正邪!落ち着くんだ!!」

 

 

 天子は必死に呼びかける。正邪がどうしてこうなったからわからない以上どう対処したら天子にもわからない。しかも正邪の状態が正常でないことが天子を動揺させる。

 

 

 「気絶させて!彼女は理性を失っているわ!」

 

 「――ッ!わかった!」

 

 

 永琳からの指示を受けて天子は正邪に一撃を入れて意識を狩り取る。

 

 

 「がはぁ!?」

 

 

 肺の空気が漏れだし正邪は静かになった。

 

 

 「……一体何があったんだ……?」

 

 「私にもわからないわ……それよりもその子危険よ。あなたの証言を信じるならば優曇華を襲っていたのも異変のためかしら?」

 

 「例え異変の黒幕である正邪でもそんなことのために鈴仙を傷つけるような真似は……」

 

 「……とにかくその子はしばらく拘束する必要があるわ。優曇華も後遺症が残らないか調べないといけないし……後冷たい事を言うけど、その子をここでは預かれないわ。異変を起こし、スペルカードルールを無視し、優曇華にまで手をかけようとした。被害がこちらに向けられたら溜まったものじゃないから」

 

 「……永琳さん……」

 

 「これでも良心的よ、殺さないだけね。治療もしてあげたんだから……優曇華も私にとって家族なの。そんな家族が危険な目にあうことになるなら……天子あなただって私の気持ちわかってくれるわよね?」

 

 

 永琳は正邪を危険分子だと判断した。天子の話を聞いた永琳はまだ異変を起こした黒幕程度の認識であったが、何かが割れる音が聞こえてきて病室を覗くなり、そこで見た光景は鈴仙の首を絞める正邪の姿だった。それに正邪はまともには見えなかった。これ以上永遠亭に厄介ごとを持ち込ませないために正邪を追い出すことにした。鈴仙やてゐ、輝夜……永琳にとって家族と等しい3人を守るためにも医者であることを放棄するのだ。

 

 

 「一応付け加えておくわよ。私は本来なら医者ではないの。薬師なの、でも医者のような真似事はできるけど精神科医のようなことまでは私には難しいわ。カウンセラーはできる……けれどその子は悪意を持って異変を犯した。その子がまた暴れて優曇華、てゐ、姫様に被害が出てしまうのならば……」

 

 

 「……わかった。目を覚ましたら正邪を連れてここを出る」

 

 

 そんな永琳の思いを感じ取ったのか、天子は了承する。しかし永琳は思う……正邪をどうするのかと。

 

 

 「その子をどうするつもり?」

 

 「正邪は異変の黒幕……それも下手をしたら幻想郷のバランスを崩すことになる異変を起こした。おそらく紫さん達から睨まれることになるだろう」

 

 「それならば尚更その子に構う必要はなくて?」

 

 

 何故そこまで天子は正邪にこだわるか……

 

 

 「……先ほど正邪の目を見た……その目は……泣いていた」

 

 「……泣いていた?」

 

 「ああ……とても悲しそうな目をしていたよ」

 

 「……またお人好しの押し売りでもするつもりなのかしら?そんなことをしてもその子が感謝すると思うの?その子は天邪鬼よ?」

 

 

 天邪鬼……人が嫌がることを好み、人を喜ばせると自己嫌悪に陥り、人の命令は絶対に聞かない、得をしても見返りは与えない、嫌われると喜ぶ妖怪。それが天邪鬼だ。

 永琳は天子が正邪を助けても感謝などしないだろうと予想した。恩を仇で返すのが天邪鬼の流儀のようなものだと聞いたことがあったからだ。優しくしても優しく返してくれることはないだろうと。

 

 

 「天邪鬼だからなんだ?天邪鬼だって生きている、生きているなら喜んだり、楽しんだり、悲しんだりする。ただ天邪鬼は少し変わり者ってだけ……私と同じようにね」

 

 「そういえばあなたって変わり者だったわね」

 

 「ああ、だから私が正邪に新たな生き方を教えようと思う」

 

 「教えようってあなたね……」

 

 「絶対に大丈夫とは言えない、けれど最近、私が感情を教えた少女がいてな。その子は今まで無表情だったんだが、一度だけ笑ったんだ。もう一度笑うために今も頑張っている……あの子にできて正邪にできないことなんてない。天邪鬼だって幻想郷の一員であり、正邪とも親友(とも)になりたいと思っているしな」

 

 「……はぁ……あなたには呆れたわ」

 

 

 永琳が額を抑えてため息を吐く。

 

 

 「本当にお人好し……子供ができたら甘やかしすぎるタイプだってことがよくわかったわ」

 

 

 天子の意思は変わりそうにない。前にも親友(とも)になるために戦ってボロボロの姿で永遠亭にやってきたことを思い出す。

 

 

 「わかりました。私からはもう何も言いません。好きにして頂戴」

 

 「ああ、好きにするさ」

 

 「……最後に言っておくわ」

 

 

 永琳は鈴仙を抱えて天子に一言告げる。

 

 

 「……頑張りなさい」

 

 「……ああ」

 

 

 永琳は病室から出ていき、ベッドの上にゆっくりと正邪を寝かせて、目が覚めるまで傍で見守ることにした。

 

 

 ------------------

 

 

 その頃、人里は大変な騒ぎになっていた。

 

 

 動くことのない道具達が至る所で走り回り、飛んだり跳ねたりして人里は様々な道具達で大騒ぎ!

 

 

 「クソったれ!慧音そっちに行ったぞ!!」

 

 「いたっ!私を踏み台にしただと!?」

 

 「チッ!すばしっこくて捕まえられない!こうなったらいっそのこと焼却処分してしまった方が早いな!」

 

 「駄目だ妹紅!みんなの大切な生活必須需品も燃やしたら生きていけなくなる!」

 

 「じゃあどうするんだよ!?」

 

 

 下駄(げた)草鞋(わらじ)が逃げ惑いそれを追いかける妹紅と慧音、他にも巻物や鍋までも二人の手を()い潜る。あれこれ捕まえても他の道具達が助けに入り、捕まえた道具はまた逃げ出してしまう……それの繰り返しで妹紅は堪忍袋の緒がキレそうだった。慧音も今のままだと平行線の状態が続くだけ……しかし下手に退治してしまえば破損したりする恐れがある。逃げ惑う道具の中には思い出の品もあった。だからできるだけ壊したくはなかったがどうすればいいか……

 

 

 「任せろー!」

 

 

 声が聞こえて来た。しかしどこか感情の入り具合が乏しいような声……

 

 

 「今のは……!」

 

 

 慧音と妹紅は逆光に照らされた三つのシルエットを見た!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「表情豊かなポーカーフェイス!泣く子も黙る面霊気とは私のこと……秦こころ!」

 

 「閉じた恋の瞳……けれど恋心までは無くしちゃいない可愛い子……古明地こいし!」

 

 「ゆ、ゆかいな忘れ傘!ええっと……お、おどろけー!…………………………………多々良小傘(超恥ずかしい!!?)」

 

 「「「三人合わせてツクモンジャー!!!(……です……)」」」

 

 「「……」」

 

 

 ババーンッ!と背景に大きな文字が浮き上がったのは錯覚だろうか?派手な登場をしたこころ達とは打って変わって慧音と妹紅それと道具達もピタリと動きが止まり辺りは静寂が残された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「もう!小傘っちが恥ずかしがるから受けなかったよ!」

 

 「ええ!?わちきのせい!?(小傘っちってわちきのこと!?)それにこいしは付喪神じゃないじゃん……」

 

 「これは減点ものだな、罰としてこれを被れ」

 

 「こころもわちきのせいだと言いたいの!?って言うか何このダサいお面!?絶対に嫌!!」

 

 

 こころが出した希望の面は拒否された。罰として取り出したのが希望の面であったことを神霊廟の太子辺りが見たら泣き出すのは必然だろう。慧音達を放ったらかしにして言い合っている三人……

 

 

 「……はっ!?こ、こころじゃないか!?それに小傘も……それとお友達か?お前達何している!?」

 

 

 真っ白になっていた思考が回復し、質問を投げかける。

 

 

 「おおー!そうだった。寺子屋の先生よ、私達が助けに来たから問題ない」

 

 「助けにって……大丈夫かよ?」

 

 

 妹紅は頼りなさそうな三人を見て不安そうな表情だった。

 

 

 「ツクモンジャーである私達を舐めていると痛い目を見るよ!」

 

 「こいしそれはもう置いとこうよ……恥ずかしい……

 

 

 ますます不安になった妹紅。しかしふっと思い出す。古明地こいしは天子との会話の中で出て来て地霊殿の主の妹らしいこと、秦こころはこの前異変を起こした首謀者であることを思い出した。二人共実力はあるはず……小傘?それは管轄外だと妹紅の脳は考えるのをやめた。

 

 

 「ならお前達がどこまでやれるのか見せてみろよ」

 

 「まかせてろー!」

 

 

 こころは駆け出し道具達の元へと迫る。それをきっかけに道具達は我に返り再び逃げ出そうとするが……

 

 

 「そい!」

 

 

 こころの薙刀が道具達を薙ぎ払う。吹き飛ばされる道具達だが、吹き飛ばされた方向にはこいしと小傘が待機していた。

 

 

 「やるよ小傘っち♪」

 

 「わ、わかった!」

 

 

 小傘は己と等しい存在の唐傘を突き出して開く。そして飛んできた道具達を(すく)いあげ回し始める。いわゆる傘回しだ。

 

 「よ、よっと!はい!いつもより多く回っております!」

 

 

 見事な傘回しだ。道具達は小傘の唐傘の上で回されてなすすべがなくされるがままだ。その光景を見ている慧音と妹紅はたまらず「すごい」と口ずさんだ。それに気を良くした小傘は段々と回す速度を上げていく。

 

 

 「よし!こいしパス!!」

 

 

 小傘が唐傘をはじいて傘に乗っていた道具達が一斉に待機していたこいしの胸の元へと落ちていく。

 

 

 「ほい!ほいほい!ほほいの……ほい!」

 

 

 こいしは全ての道具達をキャッチした。一瞬にして道具達を捕まえてしまった三人の連係プレーに慧音と妹紅は感心するしかなかった。

 

 

 「すごいな……小傘、お前なら大道芸人でも食っていけるのではないか?」

 

 「えへへ、それほどでもないよ♪わちきはただの唐傘お化けだよ~♪」

 

 

 慧音に褒められて満更でもない様子の小傘。とろんとした顔がだらしない。こいしは妹紅に道具達を手渡した。目を廻したのかわからないが、一切動く気配はなかった。

 

 

 「本当に助かった、さっきは疑って悪かった。実は強かったんだなお前達は」

 

 「もっと褒めて褒めて♪」

 

 

 こいしも妹紅に褒められて上機嫌の様子だ。そんな二人を見てムスッとしているのが一人……

 

 

 「私だってやったのに……」

 

 「わわわ!すまないこころ!忘れていたわけじゃないんだ。小傘とこころの見せ場に釘付けにされて……」

 

 

 頬を膨らませていたのはこころだ。二人だけ褒められたことに不服を申し立てていた。慧音も慌ててフォローする。

 

 

 「勿論、こころの一撃も驚いたぞ!道具を一つも壊さずに無力化するなんてすごいじゃないかこころ!」

 

 「私すごい?」

 

 「ああすごいぞ」

 

 「……うん♪満足♪」

 

 

 こころは満足した。周りの能面も満足したかのように踊っているかのように見えた。

 

 

 「よーし!このまま異変を起こす悪者を私達が退治してやるぞー!行くぞ小傘、宿敵よ!」

 

 「あっちょっと待って!慧音先生、妹紅さんそれじゃ!」

 

 「バイバーイ♪」

 

 

 三人は嵐のように解決し、嵐のように過ぎ去って行った。

 

 

 「こころ達は大丈夫だろうか……」

 

 「小傘ちゃんは心配だが、こころとその友達のこいしは中々の実力の持ち主らしい。特にこいしは心が読めない……本来なら地底にいる地霊殿の主の妹らしいからな」

 

 「天子の情報だな。こういう時に天子が居てくれたらもっと楽になるのに……」

 

 「慧音、天子に頼ってばかりはいけないぞ?」

 

 「おや、言うようになったじゃないか。この前までは天子に嫌われたかもって泣いていたくせに」

 

 「あ、あの時はあの時だ!わ、わたしはもう行くぞ!こいつ(道具達)らを元の持ち主のところに返してやらないといけないからな!」

 

 「わかったわかった、他にも逃げ出している道具がいるはずだから手分けして探すぞ!」

 

 

 慧音と妹紅は人里の混乱を少しでも鎮めようと行動するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ねぇ……二人共人里から出ちゃったけどいいの?」

 

 

 小傘は尋ねる。今いるのは先ほど居た人里ではなく森の中……異変の黒幕を探すべく飛び出したのだが……

 

 

 「その黒幕の居場所ってわからないんでしょ?」

 

 

 小傘は不安だった。先ほどの絶賛から酔いが醒め、現実に引き戻されて気がついた。この二人について行けばどこまで突き進んでいくのかわからないのが不安であったのだ。

 

 

 「大丈夫大丈夫♪きっと見つかるよ♪」

 

 

 そんな小傘に対してこいし陽気に答える。スキップしながら現在の状況を楽しんでいた。

 

 

 「私を信じろ小傘」

 

 

 胸をポンと叩いてみせる。こころになんでそんなに自信があるのか聞きたいような気がしたが、そこで小傘とこころが何かに気づく。

 

 

 「?あれ?」

 

 「ん?どうしたの小傘っち?それにこころも?」

 

 「……何者かがいるな」

 

 

 こいしには感じ取ることができなかった。小傘とこころだけが感じ取ることができた……二人の共通点、それは同じ付喪神であること、そして二人はこの先に自分達と同じ存在がいることを直感したのだ。

 

 

 三人は恐る恐る茂みをかき分けて突き進む……そこには大きな石に腰かける女性と傍に立つ雰囲気がよく似た二人の女性だった。

 

 

 「雷鼓姐さん、博麗の巫女はとても危険でした。相手にするのはまずいと思います!」

 

 「そうだよ雷鼓姐!弁々姉さんはもう少しであの鬼巫女にボコられるところだったんだよ!」

 

 

 そこにいたのは弁々と八橋の九十九姉妹だった。そしてその二人が姐さんと呼ぶ相手……

 

 

 「道具の楽園を築くためにも博麗の巫女とは敵対同士にはなりたくないわね……」

 

 

 【堀川雷鼓

 赤いショートヘアーで、黒い生地の上に赤いチェックが入った上着の上に白いジャケットを羽織り、ピンクのネクタイを付け、白いラップスカートを穿いている。靴が特殊な形をしており、踵の部分にバスドラムのビーターが付いている。

  元々は和太鼓の付喪神で、とあることをして、依代として外の世界のドラムと奏者を手に入れた。これにより己の個と言うものを手に入れ、ただの道具ではなく堀川雷鼓と言う個として生きていけるようになった。

 九十九姉妹にもこの方法を教えたことで二人は個を保てるようになる。

 

 

 そんな経緯から九十九姉妹から姐さんと慕われるようになり現在に至る。

 

 

 現在異変が進行している。道具達は意思を持ち、様々な行動をし始めた。しかしそれは一時的なものであり、異変が終息して小槌の魔力が失った時、道具達は再びただの道具に戻ってしまうのだ。これを知った雷鼓は同じ付喪神となった九十九姉妹に教えた。しかし全ての付喪神化した道具達に教え回る時間はないと悟った。その時に雷鼓は決めた。道具の楽園を築くためにこの異変を生き抜くと。

 そして雷鼓はどうしようかと考えていた。九十九姉妹も目を離した隙に小槌の魔力に当てられて上機嫌になり運悪く博麗の巫女に喧嘩を売ってしまった。結果はご覧の通り、博麗の巫女とは敵対したくないと思っていた雷鼓に痛手を負わせてしまった九十九姉妹に頭を悩ませていた。

 

 

 そしてこの会話を聞いていた事情を知らない三人組が傍にいた……

 

 

 「ねぇねぇ聞いた?あいつら黒幕だよきっと!」

 

 「そうだな宿敵、奴らを倒して天子に褒めてもらうんだ!」

 

 「で、でも相手は三人もいるんだよ!?」

 

 「大丈夫大丈夫♪私達も三人だからいけるいける♪」

 

 「わちきも入っているの!?」

 

 

 小傘が驚いた拍子に立ち上がってしまい、その瞬間目があった。

 

 

 「……あんたも付喪神かい?」

 

 「え、えっと……」

 

 

 小傘がどう答えようかと悩んでいたら、ザッと飛び出すこころとこいし。

 

 

 「お前達が黒幕だな、この秦こころが成敗してやるぞー!」

 

 「やっちゃうぞー!」

 

 「雷鼓姐さん、私達何か勘違いされている?」

 

 「雷鼓姐も弁々姉さんも私達は黒幕なんかじゃないってば!」

 

 

 八橋はそう言うが、勘違いした二人の耳には届かなかった。やる気十分のこころとこいしにおどおどする小傘……やれやれといった感じで立ち上がり対峙する雷鼓は構えを取る。

 

 

 「雷鼓姐さん!?」

 

 「聞く耳持たなさそうだから一度叩きのめしてから話を聞いてもらった方がいいと思うの……おチビちゃんらは準備はいいかしら?」

 

 「ちびじゃない、私は一番背が高い!」

 

 「へぇーそれはいいよ、来ないならこっちから行かせてもらうよ!弁々!八橋!行くわよ!!」

 

 

 こころの訴えは空を切る。人が知れぬ場所で付喪神達の弾幕勝負が開始された……(一人だけ付喪神でないのは気にしてはダメだ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ようやくついたわね」

 

 「気分が悪くなる城だったな……」

 

 「全てが逆の城とは恐れ入ったわ」

 

 

 霊夢、魔理沙、咲夜の三人はようやく逆さ城の奥地にたどり着いた。そしてそこにいるのは着物を着た少女。

 

 

 「何奴……!?あなたは博麗の巫女!?」

 

 「そうだけど何か」

 

 

 霊夢の眼光に一瞬体がビクつく針妙丸だったが、負けられない覚悟があった。

 

 

 「(博麗の巫女がここに来たということは正邪は……いや!正邪が死ぬわけない!だって正邪は私よりも強いし、私を助けてくれた!きっとうまく逃げてくれているよね……)」

 

 「あんたが今回の黒幕ね、悪いけどさっさとこの異変を終わらせてもらうわよ」

 

 

 霊夢が放つ言葉には重みが感じられた。八雲紫と言う妖怪の手先で弱い妖怪を快楽で始末して遊んでいる……そして始末する係が博麗の巫女……気迫され足が震える。今にも逃げ出したくなる針妙丸……しかし彼女は逃げない。逃げたくない思いがある。弱者が見捨てられない世の中を作り上げるために……そして!

 

 

 「悪いけど……異変は終わらせない!この幻想郷のため!弱者のため!そして……正邪のためにも!」

 

 

 針妙丸は構える。その瞳に映るは博麗の巫女達……

 

 

 「博麗の巫女!そしてそれに属する者達よ!私は……お前達に挑戦する!!」

 

 

 針妙丸は小槌を守るために……正邪の願いを叶えるために……今、博麗霊夢達に挑戦する!!

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。