そして天子はあの方と出会う……
まだまだ真面目な回が続いております。
それでは……
本編どうぞ!
「……おい、これからどうするつもりだよ……?」
「……ノープランだ」
やってしまった……遂に私は転生前でも経験しなかったことを仕出かした。それは……
「お前……家を飛び出してよかったのかよ……?」
私、比那名居天子は家出しました。
いや、あの……家出って言っても衣玖と喧嘩したとかで飛び出したとかではないのよ。父様と母様とも何もないから……これには私の覚悟があってのことなんだけれど……
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これは天子が家出する前の出来事だ……
「私もレジスタンスに入れてくれないか?」
きっかけは天子が唐突に放った言葉……
「……」
正邪は固まってしまった。止めることのなかった手も止まり、視線を天子を捉えて離さない。否、離せなくなってしまった。何故なら正邪は天子が放った言葉に衝撃を受けたからだ。
『
正邪が掲げていた旗そのものの言葉だ。天邪鬼である正邪を表す言葉でもあった。自分が天邪鬼であり、異変を起こした黒幕であると知られているのではないかと脳が危険信号を発する。もしそのことがバレていて知っていて治療を受けさせて
「(ま、まずい……!こいつ知っている!ここに
正邪は意志だけで硬直した体に喝を入れた。体がビクリと反応して勢いよく立ち上がる。その拍子に椅子が吹き飛ぶが知ったことではない。今は一目散に逃げることが必要だったが、足を踏み出した時に激痛が体中に走った。永遠亭から連れ出された正邪の体はまだ完治しておらず、無理に動かせば体が悲鳴をあげる。
「ぐぅ!?」
痛みで足がもつれて床に打ち付ける形で倒れてしまった。倒れた拍子に顔を打ち、鼻から血が流れて声にならない悲鳴があがる。
「(に、にげないと!!)」
それでもお構いなしに這ってでも逃げようとしたが目の前を影が覆う……見上げるとこっちを見つめる天人が扉の前を防ぐ形で立っていた。
「(チクショウ!何がお人好しの野郎だ……結局はどいつもこいつも……!)」
『「騙された方が悪いんだ!つまりお前が悪いんだよば~か!!」』
『「天邪鬼のくせして騙すのが嫌だとか……バカだろお前!」』
『「泣いてやがる!そんなにいい子ぶりたいのかよ~!!」』
「(……チクショウ……!)」
歯が砕けんばかりに噛みしめる。頭の中に響くそれらは正邪をいじめる……何もできない自分が憎い、弱い自分が恨めしい……悔しさで正邪の瞳に光が失いかけた時だった……
「立てるか正邪?」
そこには手があった。
そしてもう片方の手が正邪に近づいて顔に何かを優しく押し当てる。押し当てられたそれはハンカチだ。そのハンカチは鼻血を拭き取って赤色に染まっていた。
正邪は再び体が硬直してしまった。今度は戸惑いだった。目の前の天人は心配そうに正邪を見つめ、優しく語り掛ける。
「まだ完治できていないだろ?無理はするな、一人でできないことがあれば私が手を貸すことぐらいはできる。だから頼ってくれ」
何を言っているのだろうと正邪は思った。敵ではないのか?疑いの目が天人を見つめる……
「その目は疑っているな?大丈夫だ正邪、私は正邪の敵ではないから安心してくれ。正邪に酷い事をしようなんて考えていないし、異変を起こした黒幕だって言うことも知っているがそんなことは気にしないから安心してくれ」
正邪は嘘だと思ったが、何故か体が安堵した様子であった。先ほどまでの痛みは消え去りゆっくりと手を伸ばしてその手を掴んで立ち上がる。
「……お前……なんで……?」
信じられないといった顔……無理もない。正邪にとって目の前の天人は今まで会った人物の中で特に異質だった。天邪鬼と知っていて良好に接してくる相手などいなかった。しかし目の前の天人だけは違っていた。正邪にとっては正に異物を見る形となって映っていた。
「なんで?っか……放っておけないから……ではダメかな?私が正邪のことを放っておけなかったからって理由では納得してくれないかな?」
優しい笑みを浮かべる天人の姿にたじろいでしまう。嘘偽りのないその太陽に照らし出されたように輝く笑顔が正邪を混乱させる。
「わ、わたしは天邪鬼だと知っていてか!?」
「ああ、知っている。異変を起こしたこともね。だが、それがどうした?傷ついた少女を放っておけるほどの度胸は私には持ち合わせていない小心者なんだ」
正邪はこの天人はもしかしたら自分と同じ天邪鬼ではないのかと一瞬疑ってしまった。天邪鬼と知っていて悪意を持って起こした異変の黒幕を助けるひねくれものなのではないかと思ってしまった。
「……お前は私の敵……でないのは間違いないのか?」
「そうだね、正邪の敵ではない」
「そうか……」
正邪は少し安心した。先ほどまで頭の中で響いていた声も聞こえなくなっており、気持ちがだいぶ楽になっていたことに気づく。そのおかげで安堵したため息が出る。
「はふぅ……」
「どうした?ため息なんかついて?」
「なんでもねぇ……それで……お前の名前はなんだった?」
「私は比那名居天子、非想非非想天の息子であり、天人くずれだ」
「天人くずれ?」
「不良天人って言えばわかるかな?」
「……不良には見えねぇが?」
「原作では不良天人なんだ」
「???」
正邪にはよくわからないが、どうでもいいとさえ思えた。今肝心なことを聞きたい気持ちが先走る。
「ケッ!まぁそんなことどうでもいい話だが……レジスタンスの仲間になるって?この意味わかっているのかよ?」
「ああ、それでなんだが……正邪に聞いてほしいことがある」
「……なんだよ」
「それは……」
天子は語った。
『弱者が見捨てられない楽園を築く』と美辞麗句を用いて、小人族の少名針妙丸を唆して騙した挙句、秘宝【打ち出の小槌】の魔力を利用して幻想郷転覆を企てた天邪鬼の鬼人正邪。異変を引き起こした正邪は後に幻想郷の住人から狙われることになること。勿論、正邪がゲームのキャラであることなど等は伏せて話した。
「ケケッ!上等だ!この鬼人正邪様があんなふんぞり返って威張り散らす奴らなんぞに捕まるかよ!この私を誰だよ思っているんだ?天下の天邪鬼の鬼人正邪様だぞ!」
「(頼もしい限りだね。自身だけは誰にも負けない根気強さも持っているわね……諦めが悪いって言った方がいいのか今の正邪は明るい表情で安心できるね)」
正邪の様子は至って元気で安心した天子であったが、そんな時に正邪は急に慌てた素振りを見せる。
「どうした正邪?」
「そうだ!異変はどうなったんだよ!?」
肝心な秘宝【打ち出の小槌】を回収しようとしたが、永遠亭で自我を失ってしまった。それから今までに時間がだいぶ過ぎていた。すっかり忘れていた正邪は慌てて天子に問うが……
「もう間に合わない、霊夢達が異変を終わらせるだろうな。地上を覆っていた異変の気配も今では薄くなってきている……残念だが諦めることだ」
「そ、そんな……」
もう回収することができず野望も潰えてしまうと悟ってしまった。やはり落胆するかとこの時の天子は思ったが……
「こんなことで終わらせるか!異変が失敗したのならばもう一度異変を起こすまでだ!!」
グッと拳を握りしめ天子がいるのにも関わらず宣言してしまう正邪。天子であるからよかったものの、その他の人物であればこの場で絞められていただろうに……
「……諦めるつもりはないのか?」
「ない!それとも何か?お前が邪魔するってのかよ!」
「いや、邪魔などしないさ……やはり覚悟しておいてよかった」
「覚悟って……何のことだよ?」
さっぱり話がわからない正邪は一人で納得している天子を不気味に思う。
「正邪、再び異変を起こそうとするならば大勢に追われることになる……覚悟はできているのか?」
「……ケッ!お前が言うように誰がどれだけ来ようとも逃げ伸びてやる!」
「そうか……ならば私も共に行こう」
「――はぁ!?」
今度こそ正邪は訳がわからなかった。一度異変を起こし、そして再び幻想郷の転覆を狙った異変を起こそうとする正邪についていくと言ったのだ。こればかりは天子の思考を疑うしかなかった。
「私が言うレジスタンスを入るとはそういうことだ。大丈夫、腕には自信がある程度あるから心配ない。正邪と共に逃げ延びてみせるさ」
「まてまてまてまてまて!?お前意味わかっているのか!?お前天人、私は悪党だぞ?それなのに私に味方をするのかよ!?」
「正邪、勘違いしないでほしいが私はただ正邪と共に逃げ延びるだけだ。悪事に手を染めるつもりはないし、幻想郷の転覆を望んでいるわけでもない。もし襲われたら反撃はするだろうがな」
「それじゃなんでレジスタンスに入るって言ったんだよ!?」
「正邪の傍に居たい……ではダメか?」
天子の言葉に正邪は反論できなくなった。正邪は目を見開いて驚いている様子だった。辺りも静まり返りしばらく静寂が続く……
「な、お、おま……お前は何言っているんだよ!?ば、ばかか!お前はおばかだ!ば~か!!」
正邪の顔が真っ赤になり、バカと連呼する辺り動揺を隠しきれていない。
「そうだな、私はバカのようだ。バカな私が傍に居たらダメか?正邪を守る
「……べ、べつに……ま、まぁ……仲間なんてこの鬼人正邪様には要らねぇが仕方ないな!特別に家来にしてやるから誇りに思えよ!!」
ビシッと人差し指を突き付ける。平常心を保っているように見せているが少しにやけそうな顔をしていたのは本当は仲間ができるのが嬉しかったのかもしれない。
「ああ、よろしく頼む正邪!」
こうしてレジスタンスはここに誕生したのであった……
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こうして私はレジスタンスの一員(正邪と天子だけ)になって正邪を見守ることになったんだけれど、原作だとこれから正邪は数々の東方キャラ達との戦いを繰り広げる。原作ではアイテムを駆使して逃げ延びるんだけど……この幻想郷の正邪には何かある。永遠亭で見せた正邪の瞳……悲しい瞳だった。あの瞳を忘れることはできないし、正邪もどこかおかしい……このまま一人にしておくのは良くないと思い理由を無理やりつけて仲間にしてもらった。だけど正邪と仲間になるということは逆に他から敵としてみなされる。私自身の立場もあって、私は天界から自ら去ることを選んだ。ちゃんと手紙も残してきたし、後は何とか衣玖がやってくれるはず……それに一生天界から去ろうなんて思っていない。正邪が一人でも大丈夫なようになれれば私の協力もいらないだろうし、皆に後でちゃんと説明すればわかってもらえると信じている。そうなるまでどれほど時間がかかるかわからないけど、それまでは正邪を見守ってあげることにした。
そう、ここまでは大丈夫か?と聞かれても……大丈夫だ、問題ないっと答えられるのだけども……ここから先が大丈夫じゃない、問題だ。
正邪を見守ること以外に具体的にどうこうすると言う思考が抜けていた。つまり……何も考えていませんでした。どこで一夜を過ごすのかとか、お金は所持金しか持ってきていない……勢いに任せて貯金を下ろしてくるのを忘れてたし、正邪の豹変する原因を突き止めるために傍にいるだけでどうにかできるのかと言えばわからない。問題が山積みであることに気がついた。何やっているんだろ私……カッコよく飛び出して来たのにカッコがつかない現状……しかも正邪にそのことを指摘されてようやく気づくという……とても恥ずかしくて穴があったら入りたい……
「ノープランとか……あれだけ言っておいて呆れるぜ」
すみません……その失望した目を向けないで……私泣いちゃうからやめて!!ベッドびちゃびちゃに濡らしちゃうから!ご慈悲を……ご慈悲をください!!
結局は天子と正邪は途方に暮れることになった。仕方ないので湖を眺めながらいい案が浮かぶのを待つことしかできなかった。
…………………………………………
……………………
…………
……何も思い浮かばない……
あれから結構時間が経ったけれど何も案が浮かんでこなかった。隣にいる正邪は諦めたのか、疲れ果ててしまったのかもう横になって寝してしまったし……これからどうしよう……
湖を眺めている間に空は既に日が落ち始め影が生まれていく。
このままじゃ夜になっちゃう……今更天界に帰るなんてカッコ悪いし……もう既にカッコ悪い所見せてしまったけれど、これ以上の失態みせたくないしなぁ……
「はぁ……」
そう思っていると自然とため息が出てしまう。ガックリと肩を落として現実を受け入れるしかないのだろうかと考えていた時だ。
「ため息なんてついてどうしたのかしら……比那名居天子」
体が一瞬跳ね上がる。そして背筋が一気に寒くなる。天子はその声を聞いた途端に体中から冷や汗が流れ出るかと思うぐらい意識が活性化された。それもそのはずである。今一番会いたくない人物とまるっきり同じ声が背後からしたのだから……
「……もう来たのか……」
「……紫さん」
「この前以来ね……天子
鋭く尖った視線を向ける八雲紫の姿がそこにいた。
WARNING! WARNING! WARNING!
全神経が危険だと警告していた。
最大危険度MAX!紫さん現る!!?
遂に来てしまった……いきなりラスボス
いやいやまてまてまってまって!?今日の紫さんはいつものニコニコ顔だが、目がこちらの様子を窺っているのは確かだけど……だがまだ慌てる時ではない。私は正邪に味方するとは言ったけど悪事に手を染めるつもりはないし、正邪にもそんなことさせるつもりはない。あくまで弾幕ごっこの範囲内なら私だって文句言えないけれど……
原作なら正邪が異変を起こす前に幻想郷の住人から逃れなければならない。そしておそらく今がその時である……その時であるはずなんだけど……初手が紫さんはちょっとクソゲーになっちゃうかな。手加減してくれるとかそんな雰囲気は感じられないし、何よりも……敵意を感じ取れる。
天子の頬を汗が流れ落ちる……予想外の相手が現れたことで場の空気も一変した。
「う~ん……なんだよ……折角寝ていたのに……ぬわぁ!?誰だお前!?」
「初めまして
「お前があの……!?これはこれはあの偉大なる幻想郷の母なるあなたはわたくしめに一体何か御用でしょうか?」
「……一つ聞きたいことがあったのだけれど答えてくれるかしら?」
「はい、わたくしめにお応えできることであればなんでも……」
「そう……それじゃ遠慮なく……」
「異変の黒幕はあなたね」
のしかかられたような重みが体中にかかる。そして冷たく辺りに響く声……紫の眼光が正邪を捉えて離さない。鎖に繋がれて虎が入っている檻にでも入れられた錯覚を感じてしまう。小妖怪ならこれだけで失神してしまう……正邪も一瞬の意識を失いそうになった。しかし、正邪はこの程度では屈しないし、支配などされはしない。
「――ッ!」
歯を噛みしめ、拳に力を込める……それでも震えてしまう足に乱暴に爪を突き立てる。痛みで震えを中和する。腹の底から反吐が出てしまう程に嫌いな存在であり、野望を為しえるためには必ずしも乗り越えなければならない妖怪……だが、自分では抗うことすら困難な相手である。正邪には逃げる選択肢しか残されていなかった……一人であったならば。
「紫さん待ってほしい」
この場には正邪と紫だけでなく、天子もいる。隣に立っている天子の横顔が先ほどのうっかり屋さんの時とは違い頼もしく感じられる気がした。
「……何かしら?」
「確かに紫さんの言う通り正邪は異変の黒幕だ。それは否定しない」
「やっぱりそこの天邪鬼が黒幕だったのね……それで?あなたはその天邪鬼を助けたようだけれど……まさかその者を見逃してくれと言うんじゃないでしょうね?」
「ああ……見逃してほしい」
「……どういうことかしらね。幻想郷を脅かそうとした元凶を見逃してほしいだなんて……それも天界に住むお偉い比那名居家の御子息であるあなたがそんなことを言うなんて……何を考えているの」
更に重くのしかかる威圧感を天子を襲う。
……流石紫さんだ、直接敵意を向けられるのは初めてだけどこれほどとは……!正邪が怯えるのも無理はない。私も内心めっちゃ怖い……でもここは譲れない。今、紫さんに正邪を渡してしまえば豹変する原因も掴めずに下手したら正邪がロストしてしまう可能性がある。そうならないと願っているが紫さんが幻想郷を愛する心は本物……神子の時は被害も最小限で何とか許してもらえたけど、今度はそうはいかない様子だ。だからこそ、今は渡せない。正邪も今の好感度ではフラグも建てられていないから改心してくれることはないだろうけど危険なのだ。正邪の身に何が起こっているのか知る必要があるからね。
「今の正邪は一人にするのは良くないのだ。それに正邪を渡せば……どうするつもりだ?」
「それ相応の対応をさせてもらうわ。今回は弾幕ごっこの範囲内で終息したからよかったものの、そこの天邪鬼はあろうことか次も異変を起こそうとしているのよ?あなたも横で話していたら知っているわよね。これを見過ごせと言うの?ただの異変ではなく、幻想郷のバランスを崩す重大な異変を起こさせるわけにはいかないのよ」
「紫さんの言いたいことはわかるが、私は正邪と約束したんだ。私の身勝手なことだが約束は約束だ。破る訳にはいかない……破ったら萃香にぶん殴られてしまうからな」
「約束……例えあなたが約束を守ってもそいつは天邪鬼……平然と約束を破るわ。約束は破るもの……天邪鬼は嫌われることを喜びに感じ、他人が嫌がることを望む妖怪……裏切られるわよ?」
「何度も裏切られたとしても私は約束したんだ。そして私はこう思っている……天邪鬼でもお互いに話し合って、交流を深めて絆を結めば気にしてくれたり、優しく接してくれると信じている。天邪鬼だって生きているのだから笑ったり、泣いたり、怒ったりと私達と何も変わらない。だから向き合えばいつかはわからないが共に並んで道を歩むことができるようになるとな」
「……」
紫はそれから何も話さなかった。ただお互いに視線を交差させている二人を交互に見比べて突っ立っていることしかできない正邪が取り残されているばかりであった。
しばらくそうしていると不意に紫は踵を返して天子と正邪に背を向ける……大きく開いたスキマの入り口に足を踏み入れて一言……
「天邪鬼が改心できるといいですわね……天子
それだけ言い残してスキマと共に消えてしまった。
ふぅ……怖かった……!!!完全に敵視している目だったわ。これで紫さんの好感度駄々下がりね……折角上げた好感度が……紫さんか正邪かの
心の中で謝罪と意思の在り方を整理していると騒動の原因となる正邪が呼びかけた。
「……おい」
「ん、なんだ正邪?」
「ケッ!余計なことしやがって!なにが『共に並んで道を歩むことができるようになる』だ。ならねぇよそんなこと、お前は私の後ろをヨチヨチとついて来たらいいんだよ。この鬼人正邪様は孤高の存在なんだ。だから友達なんか要らねぇし、仲良くなる気もない!お前の夢なんて一生叶わないんだぜ!ざまぁないぜ!アホ!バカ!マヌケ!!」
ゲラゲラと天子を指さして笑い転げる。天邪鬼としての性質なのか罵倒する言葉を並べていく。アホやバカと煽って更に天子を怒らせる素振りを見せたりしたが天子は怒りを感じることは一切なかった。
天子は正邪がそういう人物なのだということを知っているから。
「夢は叶わないっか……そんなのやってみないとわからないだろ?」
「無理だよ無理、お前の頭ン中は石っころでできているのかよ?」
「石っころよりかは硬そうだがな……まぁ、なんにせよ
「
「どうした?」
「ケッ!なんでもねぇ……それより妖怪ババアに見つかったんだ。早く何処かに隠れるぞ!」
正邪が一瞬暗い顔をしたような気が……気のせいかな?それと正邪、ババアはまずい……それは放送禁止用語よ!お願い紫さん、スキマで覗き見していませんように……!
心の中で神に願って禁止ワードが紫に届かないよう祈るのであった。
「おいどうした!早く来いのろま!!」
「ああ、今行くさ」
これからが本番よね……正邪と私の逃亡劇の始まりが……!!
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予想通り……それだけの結果だった。
草むらを踏みしめる音が聞こえて藍が振り返った先には主である紫の姿があった。
「紫様、一体どこへ行かれていたのですか?」
「どこへですって……決まっているでしょ」
「天邪鬼に会って来たのですか?」
「ええ、その通り……でも天邪鬼だけではなかったわ」
「――っと言いますと比那名居天子……ですか?」
「お利口ね藍は、話を聞いてもしやと思ったけれど……彼が居たわ」
予想通り……当たってほしい時には当たらず、当たってほしくない時に当たる……不思議なものね。生物の勘ってやつは……彼の場合は勘と言うよりもそう仕出かすだろうと性格上予想した。そして的中してしまった。彼……比那名居天子はあろうことか異変の黒幕である天邪鬼、鬼人正邪側についた。愚かなことをしたわね。天邪鬼は救いようのない弱小の中の弱小妖怪であり、他者の不幸を喜び、嫌われることを好む正に愚か者。そう言う妖怪であるならば仕方ないと放っておいた。これも自然の理であり、幻想郷の意思なのだから……でも許せないことだってある。あの天邪鬼だけは……
歩く度にぐしゃりと音を立てて雑草を踏みつぶす。ただの歩く音に聞こえるかもしれないが、長年、紫に付き従っている藍には自分の主が腹を立てて物に当たっているように聞こえていた。
「……紫様、気をお静めください」
「私は何も怒ってないわよ?」
「……比那名居天子のことでは?」
ぐしゃりとまた雑草を踏みつぶす。今度は明らかに力を込めて踏みつぶしていた……まるで雑草を気に入らない相手の肉体に見立てて踏みつぶしているかのようである。
比那名居天子……お人好し過ぎるのもいい加減にしてほしいわね。あなたのその優しさが人によっては苛立ちを覚えさせるだけの好意になるということもある。そんなことにもなりえるのだと理解してほしいものね。あなたが優しさを向けるのは勝手よ、だけどあの天邪鬼だけはいけない……あいつは私の幻想郷を滅茶苦茶にしようとした。遊びのつもりでも、知らずにやったことではない。正真正銘の悪意……例えあいつが小物であったとしても見過ごせば各勢力に示しがつかないし、甘くみられることだってある。それに放置すれば必ず再び異変を起こす……今度はもっと危険な異変かもしれない……
パワーバランスを気にしつつ霊夢達が自分達の力だけで異変を解決できるように幻想郷を見守る彼女は影ながら支えてきた。しかし紫は不安だった。
『幻想郷は全てを受け入れる』
紫自身が創った【幻想郷】に対する価値観を述べている。この2行に幻想郷の自由さや怖さが表されており、何とも言えぬ深みを出した台詞である。しかしその言葉通りにすべてを受け入れるわけでは無い。
受け入れられるのは彼女が敷いた法に則ってやって来たもの、あるいは害を成さないものだけであり、不法に入って来たもの、入り込みながら幻想郷に従わないものは排斥され、紫には敵として認定される。自由であれど無法ではない、常に意識しなければならないものなのである。
そして正邪はこの枠組みから外れた害ある者だと認定された。
「……紫様?」
押し黙ってしまった紫を心配そうに見つめる藍に背を向ける。そして紫は藍にこう命令した。
「藍、お願い聞いてくれる……?」
「……はい、何なりとお申し付けくださいませ」
「鬼人正邪を指名手配するわ。すぐに手配書を制作して!」
「――ッ!わ、わかりました!!」
何故あなたは……そこまで愚かなの……
紫は背を向けたまま暗い森の中へと消えて行った。その後姿はいつもの紫の姿に見えなかったのは気のせいだったのだろうか……?