比那名居天子(♂)の幻想郷生活   作:てへぺろん

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正邪もさとりと対面の時、過去が明らかになるまでもう少し……!


それでは……


本編どうぞ!




73話 手の温もり

 くらい……

 

 

 くらい……くらい……

 

 

 くらい……くらい……くらい……

 

 

 ひかりもなにもない……

 

 

 ここはどこなのだろうか……

 

 

 真っ暗な闇が視界に広がっていた。見るもの全てを拒むようにどこを見渡しても何も映らない……

 

 

 くらい……くらい……なにもない……

 

 

 闇には何もない。何も存在しない。あるのは虚空だけ……

 

 

 つめたい……ひとり……

 

 

 だれも……いない……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 わたしには……だれも……いない……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「う……ん……?」

 

 

 眩しい……頭がいてぇ……

 

 

 目が覚めた。また知らない天井を見ていた。視界がぼやけてクラクラする頭を何とか持ち上げる。

 

 

 どこだここ……?永遠亭……じゃないよな?また知らない場所かよ、私って何度知らない場所で目を覚ますんだよ……

 

 

 自分自身でも訳がわからないぐらいに呆れていた。異変を起こしてからというもの短期間で同じようなことが何度かあった事実にため息が出てしまう。

 

 

 でも、ベッドの上で目が覚めるだけマシか。森の中で目が覚めるよりかはいい……森の中?

 

 

 目が覚めて少し時間が経ち始めてクラクラしていた頭が正常に働き始めた。自分は森の中に居たはずなのに今ではどこか知らない場所のベッドの上にいる。意識を手放すまでの出来事が次第に蘇ってくる。

 

 

 『「弱者に生きる価値なし♪」』

 

 

 ビクリッ!

 

 

 鮮明に思い出される言葉が正邪の心臓を鷲掴みにする。鼓動が高鳴り呼吸が詰まる……体中に震えが現われ汗が流れ始める……が、それはすぐに収まった。鼓動と呼吸は落ち着きを取り戻して震えも汗も止まった。

 

 

 ど、どういうこと……だ?体中の震えも汗も……止まった?いつもならこんなに早く止まらないのに……?

 

 

 正邪は何度も体験したことだったからわかっていた。始まってしまえば落ち着くまで時間がかかる……はずなのに今回に限ってそれがない。一体どうしたものかと不思議に思っていた。

 

 

 「あっ」

 

 

 温かい……そう思った。

 

 

 右手がとても温かく自然とリラックスできているのがわかった。それと同時に正邪から声が漏れた。

 

 

 比那名居……天子……

 

 

 右手を見れば手が握られていた。正邪の手を握りしめているのは天子の手……男らしく綺麗な手だが優しく包み込むような感触を覚えた。

 

 

 こいつが私をここへ連れて来てくれたのか……それにこいつ寝ていやがる。……意外と寝顔は可愛いんだな……顔が整っているからか?

 

 

 正邪は寝ている天子の顔を覗き込む。だが、ハッとして顔を逸らしてしまう。

 

 

 何をやっているんだ!男の寝顔を覗き込むなんてバカかよ私!?

 

 

 逸らした顔は赤く染まって火照っているようにも見えていた。鼓動が高鳴り呼吸が苦しい……だが、この苦しみは辛く感じることはない。何故かはわからないが、気分のいいものだった。ゆっくり静かに呼吸を整えてそっと視線を右手に戻す。

 

 

 こいつ……まさかずっと手を握っていたのか?寝ている間ずっと……ず、ずっと!?

 

 

 また鼓動が高鳴り呼吸が苦しくなった。どうかしてしまったのかと多少混乱する正邪だが、冷静さを保って考えを導き出そうとする。

 

 

 ま、まだ起きてないよな……よし、よし……起きていないな。はぁ……何かわからねぇがこいつがここまで運んでくれて私は無事に生きているってことだな。それは間違いなさそうだな……あの忌々しい幻覚に踊らされるとは……天下の大悪党である鬼人正邪様がなんてこった……

 

 

 森での出来事を思い出す。忌々しい声が頭の中に響いてくるような錯覚さえ覚える。

 

 

 ちくしょう!あの声が頭から離れねぇ……いつまでこんな生活を送らなければならないんだよ!!

 

 

 唇を噛みしめ、悔しさが拳を握りしめさせる。正邪の顔には疲れも少し見えていた。今まで何度声に踊らされてきたことか……最近になって益々聞こえる頻度が多くなり、幻覚まで見るようになった。疲労が正邪の体を蝕むのも時間の問題だろう。

 だが、正邪は不思議と気持ちが楽になっていった。疲労は少し残っているが、体がだるいとは感じない……寧ろ以前よりも軽く感じる。「自分の体に何か変化でもあったのか?」と疑問を感じ、いつもと違う場所を探すが、爪や歯が折れたりしているがそれ以外は特に変わったところがないと断定する直前に気がつく。

 

 

 あっ……手……

 

 

 天子が正邪の手を握りしめている。肌と肌が触れ合って体温の温かさが伝わってくる。

 

 

 ……温かい……こいつの手……触れているだけで何だか……いいなぁ……♪

 

 

 無意識にもう一方の手を伸ばす。そっと天子の手に乗せると正邪の左手にも温かさを感じて自然と優しい笑みを浮かべられた。

 

 

 こいつの手ってこんなにも温かいのか……もうちょっと……このままでいいかなぁ♪

 

 

 ぎゅっと手に力を込めてこの感触を忘れないように刻み込むのであった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……ん?正邪……起きたのか?」

 

 「わぁああああああああああああああ!!?」

 

 

 正邪の目潰し攻撃が天子の両眼を襲った。

 

 

 ------------------

 

 

 「ば、ばか野郎!?い、いきなり目を覚ます奴がいるか!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちょー痛いんですけど!!?

 

 

 えっ!?なに!?なにが起こったの?起きたらいきなり目潰し攻撃くらったんだけど……って目潰し攻撃って危ないわよ!?私が天人だから痛い程度で済んだけど、ただの人間だったら失明してたかもしれないのよ!?天人の丈夫さが役に立ってホント良かったわ!良い子は絶対真似しちゃダメですからね!!絶対だよ!!

 とりあえず何故目潰し攻撃されたのかわからない……目覚めたらいきなり目潰しって……鬼畜の所業よ……

 

 

 「い、いたい……!」

 

 「驚かせた罰だ!思い知ったか!!」

 

 

 天子をケラケラと笑っていた正邪は元の意地悪な天邪鬼に戻っていた。

 

 

 正邪は目を覚ましたのよね……今は落ち着いているみたいで良かったわ。ふぅ……逃げなかったようで安心ね。私は寝ている間、ふっと夢の中でドレ顔のあの人に会えるか探して冒険してました。結局会えなかったのだけれどね……えっ?彼女の登場はまだ先ですって?知ってる。とにもかくにも、正邪が目を覚ましたってことはさとりさんを呼んでこないといけないわね。書斎はすぐ傍だし正邪と離れるのは一瞬だけだから錯乱することはないでしょう……それに誰かが呼んでこないといけないしね。

 

 

 「正邪、少しさとりさんを呼んでくるからここで待っていてくれ」

 

 「えっ……!」

 

 

 痛みが引いた天子は立ち上がり、正邪にそう伝えて背を向けて出ていこうとした。

 

 

 「い、いくな!!」

 

 「せ、せいじゃ……?」

 

 「あっ」

 

 

 正邪は天子の手を掴んでいた。そのことに気づいて慌てて手を離す。

 

 

 「ち、ちがッ!これはなんというかこうじゃないような……ええっと……と、とにかくなんでもねぇんだよ!バカ!ば~か!!」

 

 

 なんで罵倒されるの……解せぬ。変な正邪ね……また精神が不安定なのかしら……それなら離れるわけにはいかないんだけど……

 

 

 そう思った矢先に扉を開ける音が聞こえた。そこにはお燐が軽めの食事を用意して持ってきてくれたようだ。

 

 

 「にゃい♪持って来たよおにぃさん……にゃ!そっちも目が覚めたのかい?腹が減っているなら食事を用意するけど?」

 

 「え?あ、ああ……仕方ないから貰っておいてやるわ!」

 

 「なんで上から目線なのにゃ?まぁ別にいいけど」

 

 「燐、すまないがさとりを呼んできてくれるか……ああ、食事を取ってからの方がいいよな」

 

 「それならある程度したらさとり様を連れて来るにゃ」

 

 「すまない助かる」

 

 

 お燐はそのまま正邪の食事を用意するために一度部屋を後にした。すぐさま戻って来て正邪の食事も用意して二人で食べている間にこれまでの出来事を話していた。そして、正邪を地底へ連れてきた理由も伝えると食べ終わって満足そうにしていた正邪が大人しくなる。

 

 

 「……」

 

 「正邪、さっき言ったようにさとりの能力は【心を読む程度の能力】だ。それを応用して他者の記憶を具現化することができる。だが、それはトラウマを具現化することで苦しいことになるだろう。それでも私は正邪の事を知りたいし、正邪を苦しみから救ってあげたいんだ」

 

 「……」

 

 

 天子は強要はしたくなかった。正邪の精神は思った以上にダメージを受けているだろうし、これほどダメージを受ける程のことがあったのだ。それをもう一度体験させようと言うのだから本人の了承を必要だ。だが、誰もトラウマを体験したくはないだろう。嫌な思い出、痛みを味わった日々、それらがリアルに再現されてしまう。そんなの見たくはない……

 正邪はだんまりだ。俯いて微かに震えている……余程思い出したくないのだろう。

 

 

 怖いのね……私だって映姫さんに黒歴史ノートを読み上げられた時は死のうと考えたぐらいだから……それと同じにしちゃダメね。正邪のは私と違って辛い記憶だろうし、他人に知られたくはないでしょう。でも……それでも私は正邪を知らないといけない!知ってあげなきゃいけない!一人で抱え込むなんて苦しいだけ、その苦しみを私が少しでも肩代わりしてあげるから!

 

 

 「正邪!」

 

 

 天子が正邪を肩を掴む。ビクッと体が震え目が合う。正邪の瞳はフルフルと怯えているようだった。

 

 

 「正邪、私を信じてくれ。会って間もない私だが、私は正邪のことを信じている。今は天邪鬼とか関係なしに鬼人正邪として私を信じてみれくれないだろうか?」

 

 「……おまえ……」

 

 「……頼む」

 

 

 これで無理なら諦めて正邪が心開いてくれるまで待つしかない。いつになるかわからないけどそれでもいい。信じていればいつかはきっと心を開いてくれる時が来るだろうから……

 

 

 「……………………………………………………いいぞ

 

 

 ――え?今なんて?

 

 

 とても小さく聞き取りにくかったが、天子には願っていた答えが聞こえて来た気がした。

 

 

 「……いいぞ……って言ったんだよ」

 

 

 今度はハッキリと聞こえた。肯定する正邪の答えを!

 

 

 「正邪!」

 

 「ば、ばか!勘違いするなよな!この鬼人正邪様にトラウマなんてない!具現化がどうしたってんだ!そんなもの笑い飛ばしてやるだけだよ!ケケケッ!」

 

 「そうだ、その意気だぞ正邪!」

 

 「……な、なんか調子狂うな……ゴホン!や、やるならさっさとやれよ!この鬼人正邪様を待たせる気か!これだから下僕は……」

 

 「わかった。すぐ燐さんに呼んで来てもら……『その必要はありません』さとりさん?」

 

 

 扉を開けて入って来たのはさとりと勇儀にお燐だった。さとり達の姿を見た正邪は一瞬動揺するが根性で我慢した。

 

 

 「お燐、食器を片づけてこいしと一緒に向こうの部屋で待機していて頂戴。あなた達には刺激が強すぎると思うから」

 

 「わかりましたさとり様」

 

 

 お燐はそう言うと食べ終えた食器類と共に部屋を出ていった。残ったのは正邪と天子を含めて四人のみ。

 

 

 「勇儀も残るのか?」

 

 「ああ、何かあった時の保険は必要だろ?」

 

 「勇儀さんなら正邪さんが暴れても押さえつけられますし、私の能力でトラウマを具現化しても精神面でも中々強いですから居るに越したことはありません」

 

 

 勇儀とさとりの説明に納得し、頼もしく感じる天子。だが、正邪は鬼が居るとは思わなかったのか少し顔色が優れない様子だ。

 

 

 「大丈夫ですか正邪さん?」

 

 「だ、だいじょうぶに決まっているだろ!?覚妖怪如きに心配される筋合いはねぇ!」

 

 「勇儀さんにビビっているようですが?」

 

 「び、びびってねぇって!出鱈目なこと言ってんじゃねぇぞ!!」

 

 

 地団駄を踏んだ。ギシギシと揺れるベッドを見て「壊れるのでやめてください。勇儀さんに頼んで黙らせますよ?」と脅すとすぐに静かになった。意外と正邪は素直なのかもしれない。

 

 

 「それで交渉は……どうやら了承を得たようですね。先に自己紹介だけしておきましょう。私がこの地霊殿の主である古明地さとりです。天子さんから説明を受けているようなので詳しい事は省略しておきましょう。隣にいるのが星熊勇儀さん、彼女も協力者ですのでよろしく」

 

 

 天子は能力便利だなと改めて思う。

 

 

 「それでは早速始めましょう……天子さんはこちらへ、正邪さんはそのままベッドに腰かけてこちらを見てください」

 

 「……ほ、ほんとうにやるのか?私はお前達とは関係ないし、これは私だけの問題だから……」

 

 「私だけの問題じゃない!」

 

 「――!?」

 

 

 天子は正邪の言葉を否定した。強く違うことを示すように。

 

 

 そうよ、これはもう正邪だけの問題じゃないわ。あんなに苦しんでいるのに一人で抱え込むなんてことは絶対にしてはダメ!困った時は誰かに頼る……一人では絶対生きていけないのだから!

 

 

 「もう正邪だけの問題だと思うな!困った時は助けを求めろ!一人で抱え込むことなんてやめろ!それに私と正邪はレジスタンスの一員だろ?」

 

 「レジスタンス……!」

 

 

 正邪はその言葉に強い魂が宿っていた気がした。正邪は意を決した覚悟の目をさとりに向けた。勇儀もどこか満足そうにこの光景を見ていたのだった。

 

 

 「決意が決まったところですが、最後に確認します。これから見せるのはあなたのトラウマを具現化したものです。本物ではありませんが本物と変わらない苦痛と痛みが記憶によってもたらされるでしょう。それでもいいのですね?」

 

 「鬼人正邪様にトラウマなんてないこと証明してやる!」

 

 「(嘘ばっかり……ですが、さっきよりかはマシですね)わかりました。それではいきます……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 想起『テリブルスーヴニール』!!!

 

 

 彼女の過去(トラウマ)が明らかになる……!

 

 

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