比那名居天子(♂)の幻想郷生活   作:てへぺろん

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正邪の過去を知った天子の行動は……


それでは……


本編どうぞ!




75話 救いの手を伸ばせ

 『「これが正邪さんの過去ですか……天邪鬼でありながら同じ同族からも嫌われた。この出来事があって彼女を変えたようですね。しかしながら彼女は変わりきることができなかった。それ故に今も苦しんでいるというようですね」』

 

 

 言葉が出なかった。天子は夜空を見上げながら自分が流している涙に気づかぬ正邪の姿を見つめている……

 

 

 『「おい天子、大丈夫か?」』

 

 『「……勇儀……」』

 

 『「お前が悲しい顔してどうする?いや、お前だからそんな顔をするんだな。悪い」』

 

 『「謝らないでくれ、だが……私は正邪にどう言葉をかけたらいいのだ……」』

 

 

 天子は言葉に詰まる。正邪の過去は辛く痛ましいものであった。変わらざるを得なかった……だけど心の底まで己を変えることなどできなかった正邪は今も苦しんでいる。天邪鬼であるが故に誰からも嫌われようとした、弱くいじめられていた……だけど誰よりも優しかった彼女は天邪鬼として生きることを選んだ。天子はそんな正邪になんて声をかけたらいいのかわからなくなっていた。

 

 

 『「あなたの思うことそのままを正邪さんに伝えるといいのではないですか?」』

 

 

 さとりは何気なくそう問いかける。

 

 

 『「思ったことを伝えてあげればいいのです。天子さん、そしてあなたが正邪さんとどう向き合いたいか……正邪さんを救いたいと思うのであるならばこちらから手を伸ばさないと彼女は手を伸ばしてくれませんよ」』

 

 『「手を……伸ばすか」』

 

 『「そうだぜ、天子の思うことをぶつけろ。そして無理にでも手を取ってやれ!お前さんならやれるさ」』

 

 

 グッと親指を立てて笑顔を天子に向ける勇儀の姿に少し元気をもらった。さとりにも軽く会釈して感謝の意を示す。さとりにはそっぽを向かれたが少し照れていた。

 空間が歪み天子達は地霊殿へと帰って来た。能力から解放されてどっと体が疲れたように感じたが、天子はそんなことなど気にも留めず彼女を探す。いつの間にかベッドの上から部屋の隅っこでうずくまっている正邪を見つける。さとりと勇儀は音も立てずに部屋から出ていった。二人だけになった部屋で天子は正邪の傍に近寄る。

 

 

 「……くるな

 

 

 正邪が発したのは拒絶の言葉だった。力無く発せられた言葉は静かに……震えていた。天子はそれでも一歩近づく。

 

 

 「……くるなよ……」

 

 

 それでも天子は正邪に近づこうとする……

 

 

 「来るんじゃねぇよ!!

 

 

 部屋に響き渡る天子を拒絶の言葉……怒りと悲しみを含んだ言葉が震えていた。天子は立ち止まり正邪に優しく言葉をかける。

 

 

 「正邪、私だ。比那名居天子だ、忘れたわけではないだろう?」

 

 「……」

 

 

 正邪は何も答えない……ただうずくまり顔を隠していた。天子は構わず続ける。

 

 

 「辛かっただろう、悲しかっただろう、苦しかっただろう……けどもう心配することはない。もう一人じゃないんだ。誰も正邪をいじめたりしない、私がいる。だから少しお話しないか?」

 

 「……」

 

 「正邪はよく耐えたよ。私ならば耐えきれずに逃げ出していたかもしれないな……私も地上から天界へ引っ越しした時はよく陰口を言われたさ。何度悔しい思いをしたか……それでも諦めなかったのは衣玖が傍に居てくれたおかげなんだ。衣玖がいなければ私は途中で挫折していたと思う」

 

 「……」

 

 

 天子は続けた。正邪がだんまりを決め込む中で天子は今まで体験したことを話していた。初めて地上へと降り立った時のこと、戦って親友(とも)となった時のこと、宴会をしたこと、異変を仲間と共に解決したことなど様々なことを話した。正邪がそれを聞いているかわからないが、それでも続けた。彼女を一人にさせないように……傍に自分がいるんだと伝えるように。

 

 

 「それで天界に皆が乗り込んで来てな、ひどい目にあってしまった。まぁ……皆の気持ちを考えず行動した私が悪かったのだがな」

 

 「……プッ」

 

 

 正邪が笑った。顔は見えないが笑っているとわかった。それが天子にとって嬉しいことだった。それからおかしく笑い話を交えつつ自分の失態を話すとその度に正邪が笑いを堪えていた。そしていつの間にか……

 

 

 「プクククッ!お、おまえバカだろ!天界から出てきた時もそうだったが、お前ギャップ差があり過ぎる。本当はダメ天人だったんじゃないのか?」

 

 「何を言うか、こう見えても努力家なんだぞ?」

 

 「そう言うが、『ノープランだ』って言っていたのは忘れたわけじゃないからな!プークスクスッ!やっぱりお前はお馬鹿さんだったんだな!ば~か!ば~か!!」

 

 

 罵倒されていた。腹を抱えて笑う正邪がそこにいた。罵倒されている天子だが、それが気分よく感じられる……決してドМに目覚めたとかではない。これ重要!

 

 

 「ふふ、どうだ正邪?気分が楽になったか?」

 

 「あっ」

 

 

 動きが止まる。正邪自身もすっかり忘れて笑いこけていたようだった。指摘されて気づいたのかガバっとベッドの上に逃れて毛布を頭から被り姿を隠す。

 

 

 「恥ずかしがっているのか?」

 

 「は、はずかしいだって!?ば、ばか言うんじゃねぇよ!やっぱりお前はバカだろ!ばかばかばか!!」

 

 

 今の正邪を見ていると何故かチルノを思い出した天子。何故かとは言わない……毛布を被る丸い塊から天子は毛布を奪い取る。

 

 

 「な、なにをする!?返せよ!!」

 

 

 取られた毛布を取り返そうと手を伸ばすが正邪の身長じゃ届かない。猫のように唸って威嚇もしたりと愛らしい姿を見せる。ぐぬぬとありったけ手を伸ばしているとその手を掴む感触が伝わって来た。

 天子の手が正邪の手を掴んでいた。抵抗するのかと正邪は思ったがその予測は外れた……天子はその手を優しく握りしめ正邪を引き寄せた。

 

 

 「うわぁ!?」

 

 

 バランスが崩れ前倒しに倒れる。咄嗟に目をつぶって衝撃が来るのを耐えようとする……しかし思ったほどの衝撃は来なかった。硬いが優しい感触が伝わってくる。恐る恐ると目を開けると……

 

 

 「……えっ?」

 

 

 口が塞がらなくなった。何故なら正邪は天子に抱きしめられていたからだ。体と体が触れ合い、肌と肌が密着する。最初は何が起こったのかわからなかったが、次第に状況を理解していく。自分が抱きしめられていることに気づくとジタバタと暴れ始め逃れようと必死に足掻く。

 

 

 「だぁ!?ば、ばかかお前は!!?な、なにしてんだよ!!は、はなせ!はなせこの!!」

 

 

 いくら抵抗しても天子は離すことはしなかった。天子の力に抗えずに正邪は無意味な抵抗を見せるだけにしかならなかかった。

 

 

 「(こいつ何考えているんだよ!?ま、まさか……こ、こいつ私の体が目当てで抱き着いたんじゃ……!?)」

 

 

 天子が聞いたら泣いて全力で否定しそうなことだが、正邪は顔を真っ赤にして更に暴れる。恥ずかしさからか途中で何を言っているのかも自分でわからないほどだったが、天子の一言で正邪は抵抗をやめた。

 

 

 「泣いていいんだぞ……正邪」

 

 

 ピタリと動きが止まる。思考も一瞬で停止し正邪の何もかもが止まったようであった。

 

 

 「辛い時、悲しい時、苦しい時は他人を頼るんだ。正邪が天邪鬼になった訳はわかった。だからと言って正邪が一人ぼっちになる理由にはならない。どんな妖怪も人間も神様ですらも一人じゃ生きていけないんだ。誰かがいるから生きていける、傍にいるから立ち上がれる。一人っきりで生きて行くなんて無理なんだ。正邪は嫌われたいと言うが心はそうは言っていない。今だからこそわかる……友達も仲間も要らないと言うがそれは本心ではない。正邪だってわかっているだろう?」

 

 

 優しく語り掛ける……だが、天子の言葉は悲しみを含んでいた。それでも正邪を包み込むようにゆっくりと問いかける。それと同時に体に温かさが伝わって来る……感じることを忘れてしまった温もりを……

 

 

 「嫌がるのはわかる。逃げ出してもいいんだ。でも頼ってくれ……私の元へと逃げて来てくれ。私は正邪の負担を全て肩代わりできるわけではないが、ほんの少しだけでも肩代わりさせてほしい。正邪が苦しいならば共に苦しもう。悲しいのならば共に泣こう……正邪と同じ道を歩ませてはくれないか?」

 

 「……な、なんだよ……それ……なんなんだよ……嘘言ってんじゃないぞ。私は……騙されないからな。そう言って心の中では私を笑っているんだろ……そうなんだろ……?」

 

 「そんなことはない。信じてもらえないと思うが……信じてほしいんだ。私は正邪を見捨てられないんだ……正邪と……親友(とも)になって、笑い合い、馬鹿騒ぎをし、時には怒られて一日が終わる。正邪と一緒に居たいのだ!」

 

 

 ぎゅっと正邪を強く抱きしめる。離さないと……逃がさないと言っているかのように。

 

 

 「なんだよ……お前は……私に何を期待しているんだよ……私は……弱っちくて卑怯者で……誰からも嫌われる天邪鬼なんだぞ!私に同情するんじゃねぇよぉ!!」

 

 

 正邪の声は震えていた。心の底からありったけ振り絞って吐き出したように……彼女の心を表すかのように……拒絶してほしいと願っているかのように天子にぶつけた。

 

 

 「同情かもしれない……しかし私は正邪がそういう妖怪であることを知っている。それが正邪の悪いところでもあり良いところでもあると私は思っている。だが正邪、それは人間も他の妖怪も同じことだ。悪いところがあれば良いところがあり、己の所業を他人になすりつけようとする者もこの世の中にいる。だけど理屈じゃないんだ。私は正邪を救いたい!正邪と共に酒を飲んで衣玖や萃香、妖夢に神子達と共に宴会もしたい。私のエゴかもしれないけど、皆から否定されるかもしれないけど……私は何と言われようとこう言いたいんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「正邪は私の親友(とも)だと自慢したいんだ!!

 

 

 正邪の心の内を振り絞ったかのように天子も心の底から正邪に思いを伝えた。部屋に天子の声が響き静寂が返って来る。何も動かぬ何も聞こえぬ部屋の中で震える体……そして……

 

 

 綺麗に輝く液体が流れ落ちた。

 

 

 「お、おま……おまえは……ほんとうに……バカな……やつだ……こ、こんな……う、うそつきで……よわくて……ど、どうしようもないわたしと……と、ともに……なりたいとか……ば、ばかだろぅ!!」

 

 

 一粒……また一粒と、流れ落ちる液体が正邪の顔を濡らしていく。

 

 

 「お、おまえは……いままで……あったやつの……なかでいちばん……おおばかやろうだぁ!!!」

 

 「ああ、正邪のいう通りに私は大馬鹿者らしい」

 

 「ばかぁ!ばかぁ……ばかぁだぁ……ばかぁばかぁばかぁ……!いっしょうこ、このくつじょくは……わ、わすれないからなぁああ……あ、ああ……あああ……あぁああああああああ!!!」

 

 

 留めなく瞳から流れ落ちる輝く液体は天子の服を濡らしていた。

 

 

 天邪鬼になってから初めて彼女は泣くことができたのだ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……救えたようじゃないか……天子」

 

 

 扉の内から聞こえてくる泣き声に小さく答えるは勇儀だった。扉の外で待機していたさとりと勇儀は今、天邪鬼が救われたとわかった。勇儀は誇らしげに満足そうに笑っていた。

 

 

 「私がいなくても何とかなったようで助かったな」

 

 「そうですね、地霊殿を壊されることがなくて本当に良かったですよ。備品もただではないのですから……錯乱して暴れたら勇儀さんのストレートで強制的に黙らせる算段だったのですが」

 

 「さとりお前えげついな」

 

 「そうですかね?暴れる者は力で黙らせないと被害が拡大しますから……どっかの誰かさんが気分に酔って店を半壊させその後始末をして差し上げたのはどこの誰なんでしょうかね?」

 

 「まだあの時のことを根に持っているのかよ……」

 

 「当然です。一生忘れませんから」

 

 

 さとりの苦労の歴史は一度染みついたら決して忘れることはない……それがいくつもある。さとりは泣いていいだろう……

 

 

 「っと、こんな話をしていては思い出してしまいますからおしまいにしましょう。それでは私達も行きましょうか」

 

 

 さとりはいつもと変わらぬ様子だ。だが、勇儀はわかっていた。なんやかんや言いつつも他人のために働くさとりはいい妖怪であると。

 

 

 「……なんですか気持ち悪い」

 

 「なんでもないさ。それで?さとりどこへ行くんだよ?飯か?」

 

 「違います。そろそろ向こうから会いに来るのではないかと思いましてそのお出迎えですよ」

 

 「お出迎え?」

 

 

 勇儀は首を傾げた。一体誰が会いに来るのかと……

 

 

 「今度の出迎えは早いですね……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「八雲紫さん」

 

 

 さとりと勇儀の前に存在するのは妖怪の賢者だった。

 

 

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