それでは……
本編どうぞ!
「くっそ!一体どこにいるんだよ!?このままじゃ日を
妹紅は地団駄を踏んでいた。いくら探しても見当たらず、いくら人に聞いての居場所がわからないことに苛立ち始めていた。
「落ち着いてください妹紅さん、冷静でないと何も見えてこないですよ」
「お前よく落ち着いていられるな。天子があの天邪鬼と一緒にいるのに不安じゃないのかよ?」
「……私は天子さんを信じています。優しい天子さんのことですのできっと何か考えがあって天邪鬼と行動を共にしているのだと……願っています」
そう言う妖夢は天子を信じているが、八雲紫が指名手配する程の妖怪天邪鬼が共にいることに不安を感じているのが見て取れた。妹紅はそんな妖夢の気持ちをわかってか何も言わなかった。
「そうか……さてと、次はどこを探すかな……あ?」
「どうしました妹紅さん?」
妹紅は何かを発見したようだ。空を見上げていた。妖夢も釣られて見ると見覚えのある人物が飛んでいた。
金髪に魔女を連想させる白と黒の衣装を身に纏い箒に乗る少女が見えた。その少女はキョロキョロと辺りを見回して何かを探しているようであった。
「あれは魔理沙さん……何をしているのでしょうか?」
「さぁな……取り合えず聞き込みの続きだ。あいつなら何か知っているかもしれないしな」
「そうですね」
妹紅と妖夢は何かを探している魔理沙の元へと近づいていく。
「おい針妙丸、地底へ続く穴ってどっちだっけ?」
「私に聞かれても知らないよ……思い出せないの?」
「異変の時に地底へ行ったきりだな。萃香が天子の奴を地底へ連れ去った時に私もお邪魔する気だったんだが霊夢の奴にボコられてな……嫌な事件だったぜ」
針妙丸は一体何の事?と思ったが、魔理沙が苦い顔をしていたので何も聞かない方がいいと思い黙っていた。そんな二人の前に声をかける人物がいた……妹紅と妖夢だった。
「よっ!白黒魔法使いに……小人?初めましてだな。私は藤原妹紅、そしてこっちが魂魄妖夢だ」
「初めまして小人さん」
「あっ、どうも。少名針妙丸です」
「私達は今急いでいるから軽い自己紹介済ませて悪いが、聞きたいことがあるんだよ」
「何なんだぜ?」
「天子さん、もしくは指名手配されている天邪鬼について知っていることがあれば教えてもらえませんか?」
残り少ない可能性にかけて魔理沙と針妙丸に聞いてみる。
「それなら知っているぜ。私達はその鬼人正邪に会いに行くところたんだぜ」
「居場所を知っていると?」
「だぜ!」
グッと親指を立てて意思を伝える魔理沙に妹紅と妖夢は顔を見合わせて明るくなる。どこからの情報二人にはわからないが、居場所を知っているならば二人の次の行動は決まったも当然だ。
「魔理沙さん、私達も一緒についていきます!」
「お前らもか?」
「天子の奴も一緒らしいしな。何か訳があるんだろうが……色々と聞きたいことがあってよ」
「なるほどな、わかった。私についてきな!」
自信満々に胸を張る魔理沙がこれほど頼もしく見えたのは錯覚だろうか?どちらにせよ妹紅と妖夢の二人にとっては嬉しいことだった。天邪鬼の居場所を知っている魔理沙についていけば自然と天子の元へとたどり着けるのだから。
そんな時に、魔理沙の襟を針妙丸が何か言いたそうに引っ張っていた。
「どうした針妙丸?私に何か用か?」
「魔理沙、ついてきな!って自信満々に言っているところ悪いけど忘れてない?」
「何をだぜ?」
「地底の入り口の場所思い出せないんでしょ?」
「あーそうだったぜ……」
「「……」」
妹紅と妖夢から地底の入り口を聞くことになってカッコがつかない魔理沙だった……
「……」
地底へと向かう四人の後ろをこっそりとついていく影があったが誰も気づいていなかった。
「ここだ」
「そうだそうだ!ここだったぜ!」
そこには大きな底の見えぬ穴が開いていた。ここは地底へと通ずる穴だ。妹紅と妖夢が魔理沙と針妙丸を連れて到着した。そして早速地底へと四人が向かおうとしたところに声がかかった。
「なに勝手に地底へと向かおうとしているのよ?」
「げぇ!?れ、れいむ!?」
「霊夢さんが何故ここにいるのですか?」
魔理沙は咄嗟に妹紅の影に隠れる。別に悪い事はしていないのだが、何故か隠れたくなった。妖夢も何故ここに霊夢がいるのか驚いていた。
「人間以外が地底に行くだなんて違反行為よ」
霊夢は妖夢の問いに答えず淡々と述べる。地上と地底の条約は人間以外に限られる話だ。異変の時も霊夢と魔理沙が地底へと迎えたのはそのためだ。人間以外がここを通ろうとするのは条約に違反する……もう一度問題児たちによって違反してしまったがあれは仕方なかったことだが……
そんな霊夢に魔理沙は何か閃いた様子だ。
「霊夢、何を言っているだぜ?私達人間だろ?」
「魔理沙はね。でも他は違うでしょ?」
悪びれる様子もなく言い放つ答えに妹紅と妖夢と針妙丸は渋い顔をする。霊夢にとって三人は人間以外のカテゴリーに含まれるのであろう……複雑な感情が込められる。
「チッチッチッ……霊夢はわかっていないな」
「何がよ?」
「蓬莱
「はっ?」
「……ダメか?」
霊夢は呆れた様子であった。妹紅も妖夢も針妙丸もこれには微妙な反応を示す……が、どこか嬉しそうにしていた。
「屁理屈はいいのよ。とにかくダメよ、それも天邪鬼に会いに行くんでしょ?」
「正邪に会いに行く!正邪に会って色々と話したい!例え天邪鬼だったとしても、異変の黒幕だったとしても私は正邪とお話して分かり合いたい!話合えばきっと分かり合えるもの!!」
針妙丸は真っすぐに霊夢を見つめる。その瞳からは意思の強さを感じ取れた……だが、霊夢はその程度ではうんとは決して言わない。
「まぁ、腐っても博麗の巫女だもんな」
「どういう意味よ」
「こういう意味だ!!」
妹紅は霊夢に対して弾幕を放った。いきなりのことだが霊夢は難なく避けてしまう。
「おい魔法使い!早く針妙丸を連れて行きやがれ!」
「お前はどうするんだよ!?」
「ちょっと喧嘩を売りたくなってな。心配するなよ、こいつを倒したら追って行くさ」
妹紅は魔理沙と針妙丸のために時間を稼ぐつもりだ。魔理沙は霊夢の実力を知っている……悔しい程理解している。妹紅も一度体験している。霊夢には勝てないことなど百も承知であった。それでも妹紅は自分の事情よりも針妙丸を優先した。彼女の意思を感じたのは霊夢だけではなかったのだ。天子に会うことを放棄しても針妙丸を向かわせるべきだと心が動いていた。
そしてそんな妹紅の隣に立つ一人の少女……妖夢も刀を引き抜き霊夢に対峙する。
「魔理沙さん行ってください。私と妹紅さんならば少し耐えることができるはずです」
「妖夢……妹紅も……感謝するぜ!」
「ありがとう妹紅、妖夢、この借りは必ず返すからね!!」
「行くぜ針妙丸!!」
「うん!!」
魔理沙は針妙丸と共に大穴へと降りて行った。そして遮るように妹紅と妖夢が霊夢の前に立ちはだかる。
「はぁ……面倒なことになったわね」
「もっと面倒なことにしてやろうか?」
「霊夢さん、すみませんがここを通すわけにはいきません」
妹紅と妖夢は徹底抗戦の構えを取る。そんな二人に対してやる気なく頭をかく……
「はぁ……ぶちのめしてもいいんだけどね……藍!そこにいるんでしょ!出て来て説明して」
「「はっ?」」
スキマが三人の前に現れ中から現れたのは紫……ではなく藍だった。このスキマは紫のものだが、当の本人の姿はなかった。霊夢は何となくだが、紫がいない訳がわかった気がした。妹紅と妖夢は現れた場違いの藍に戸惑った。
「藍さん!?どうしてあなたもここに!?」
「色々とあってな……それで霊夢、私を呼んで何をしたい?」
「紫はもう天邪鬼と接触したんでしょ?」
「よくわかったな。先ほど紫様から事の経緯を説明されたところだ」
「そう……ならこの二人にも説明してあげて」
「わかった。妖夢、それに蓬莱人よ、現在地底にいる天邪鬼と天人のことについて知りたくないか?」
藍は二人に問う。初めは戸惑った二人だが、藍は何か知っているようだ……答えは決まった。
「教えてくれ狐、何が起こっているんだ?」
「藍さん、お願いします」
「わかった。霊夢も聞いておくといい」
「はいはい」
三人は知ることになる。天子の行動、正邪の過去……今回の異変から現在に至るまでの全てを霊夢含めて。
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どうも皆さん、おはようございますの方はおはようございます。こんにちはの方はこんにちは。そしてこんばんはの方はこんばんは。誰もが知っている比那名居天子です。
いや~色々とありまして地底でお世話になっています。地上では妖怪の皆さんに狙われましたが、無事地底へとやってきて、さとりさんの能力で正邪の過去が明らかになった。辛い過去を引きずって生きてきた正邪に私は何としても助けてあげたい、救ってあげたいと思って手を差し伸べたわけです。胸を貸すと心の内の叫びを全部吐き出して思いっきり泣いた正邪はぐっすりと眠ってしまい、その時に紫さんも地底に訪れていた。さとりさんと何か話し合っていたみたいだけと内容までは知らない。紫さんは正邪のことを良くは思っていない……それは無理もないわ。愛する幻想郷を滅茶苦茶にしようとしたんだから……でも紫さんは正邪を受け入れてくれた。不本意ながらみたいだけど、それでも感謝してもしきれない。
正邪もこれからは過去に苦しめられることは無くなったとは言えないけど安心だろう。今まで貯めていたものを吐き出せたんだから……めでたく今回の正邪の件はこれで終わった。さとりさんが言うには正邪は地上では指名手配されているので地底にいた方がいいとのこと。勇儀も正邪のことは任せておけと約束してくれた。流石勇儀!心の
それで私は地底にずっといることができないので帰らざるおえない。正邪が目を覚ましたら別れを告げて地上へと帰ろうと思っていた。正邪が目を覚ましてひと通りのことを説明し、地霊殿を後にしようかとしたのだが……
「……」
正邪がずっと手を離してくれない。
目を覚ました正邪に天子は事の経緯を話した。八雲紫が来ていたことに驚いていたようだが、いないとわかると落ち着いた。地上では指名手配されているので地底でほとぼりが冷めるまでここで厄介になればいいと伝える。正邪は了承した。正邪も狙われている状態で地上を過ごしたくはない。最も地底でも正邪の味方になってくれる妖怪は数少ないのは事実だが、お互いに嫌われ者同士で何とかやっていけるだろう。さとりと勇儀の監視の元であれば天子も安心であった。
なのだが、天子が地上へ戻ると言った途端に正邪は天子の手を掴んで離さなくなった。
無理もない。正邪の過去を見てしまった天子は一人になりたくない気持ちは痛い程わかる。今まで一人ぼっちで生きてきた彼女にとって天子は初めて共にいることを約束した仲である。心の底に貯め込んでいたものも吐き出して気持ちは軽くなっただろう。だけど不安は少なからず残っている。彼女は不安なのだ……また一人ぼっちになるのではないかと。
「正邪、大丈夫だ。さとりさんもいい妖怪だし、勇儀も正邪を守ってくれる。私が信用する二人だから何も心配することはないよ」
「……」
天子は正邪を勇気づけようとするが、正邪は首を縦に振らない。ずっと天子を見つめて手を離そうとしない。その表情は不安に駆られどこにも行かないでほしいと訴えかけているようだ。
正邪……気持ちはわかる。心の底に溜まっているものを吐き出した今の正邪ならば私がいなくてももう大丈夫だと信じている。もう前までの正邪にはならないと信じているの。それに私は一つ気になることを紫さんから聞いてしまった。
『あなたの秘書が酒に溺れていたわよ』秘書とはきっと衣玖のことだ。衣玖は確かにお酒が好きだ。部屋の中に何本もの酒瓶が転がっていたのをこの目で見たことがあるんだから間違いはない。
紫さんが言うんだから衣玖に何かあった……そう私は思っているの。だから……勝手ながら衣玖の様子を見に行きたい。私ってば本当にエゴイストね……正邪の傍にいると言っておきながら今では衣玖のことが気がかりで仕方がない。正邪はもう大丈夫だとわかった途端にコロッと考えを変えてしまう私はいつか天罰が降るかもしれないわね。
天子は自分勝手な考えに申し訳ない気持ちでいっぱいだ。衣玖のことが心配になり、天界へ戻りたいと思っている。正邪を助けるために天界を離れ、傍にいるとまで豪語しておきながらだ。それでも天子は衣玖のことが心配になっていた。昔から自分を影で支えてくれて無理難題もこなしてくれたパートナーのような存在だ。その衣玖が普段見慣れない行動に不安を覚えてしまったら、恥を忍んでも会いに行きたいとさえ感じていた。それと……
衣玖にはちゃんと謝らないといけないしね……
手紙を残していたものの、衣玖には迷惑をかけ心配させた。そのことについても謝らなければならないと思っていた。
「……あいつが……そんなに心配か?」
「ああ、衣玖には幼い時からお世話になったし、今でもお世話になりっぱなしだからな」
「……天界に……帰りたいのか?」
「……ああ」
二人の間に沈黙が流れる。うつむく正邪の表情がわからないが、握っている手が震えるのを感じる。しばらく沈黙が流れ続けていたが、次第に正邪の震えが治まり、天子の手から離れた。
「……わかったよ。お前にも生き方ってのがあるからな……もう行けよ」
「正邪……」
「だけどな……これだけは忘れないでくれ……」
「私とお前はレジスタンスだ。必ず私に……会いに来い……わ、わかったか!?」
顔を真っ赤にしながら必死に天子を見つめる。潤んだ瞳が正邪の心境を表していた。
「正邪……大丈夫必ず会いに来る。だから指切りだ」
「指切り……子供じゃないんだから……だ、だが……約束は破ったら承知しないぞ!!」
「ああ」
正邪は地底に残ることになった。天子は地上へ帰るためさとり達は総出で見送りに来た。
「さとりはどうしたんだ?」
勇儀におんぶされているさとりさん……お子ちゃまがおんぶされているみたいできゃわいい♪
さとりは能力の使い過ぎで動くことが困難であった。それでも天子を見送りに来てくれたのはそれだけ信頼されていることなのであろう。天子は心の中でさとりを愛でていた。勿論そんなことはさとりには筒抜けである。
「さっさとそのろくでもない思考を放棄して帰ってくれませんかね」
厳しい言葉ありがとうございますさとりさん、その他人を突き放す瞳が素敵です♪なんてね。さとりさんがそこまでして見送りに来てくれたことに感謝しているんですよ?流石さとりさん、その優しさ……そこにシビれる!あこがれるゥ!
「はいはい……もういいですから」
「さとり様は何言っているの?」
「お空、私達にはわからないことだから見守っておくにゃ」
「お兄さんまた遊びに行くね♪」
「紫さんにバレたら大変だぞ?」
「大丈夫大丈夫♪バレなきゃ問題ないもん♪」
バレなきゃ犯罪じゃないんですよっと、どっかの這いよる混沌による迷言を思い出すわね。流石さとりさんの妹ね!こいしの度胸……そこにシビれる!あこがれるゥ!
「はぁ……」
さとりは天子の心を読んでため息をついていた。外見と中身のギャップを知るのはさとりだけだから。
「……」
「おい、お前も何か言えよ」
「お、おすなよ!」
正邪は天子の前へと勇儀によって押し出された。チラチラと天子の顔色を窺う正邪……天子はただ待っていた。天子は正邪が何かを伝えるまで待っているつもりだ。今までの幻聴も幻覚も正邪を苦しめることはないだろう。それもこれも全ては天子のおかげであり、隠していた心の内をぶちまけた相手も天子だ。正邪にとって天子はいつの間にか
そんな正邪は何か意を決して口を開こうとした時だった。
「正邪ー!!」
こちらに向かって来る一人の箒に乗った少女……魔理沙だった。だが、声は魔理沙の声ではなかった。正邪はこの声の主を知っていた。
「姫!?」
「正邪よかった無事?怪我してない?酷い事されなかった?」
魔理沙は天子達を見つけると急降下して降り立つ。肩に乗っていた針妙丸は飛び降りて慌てて正邪がそれを手で受け止めた。心配そうに正邪を確認する針妙丸……魔理沙と針妙丸がここにいるのかこの場にいる者はさとり以外に誰もない。
「姫……何故ここに……?」
「正邪が心配だからに決まっているじゃない!」
「私が?そんなの嘘だ!姫は既に知っているはず!」
「うん、正邪が私を騙していたのは……本当なんだよね?」
「……そ、そうだ。まんまと騙されやがって!私はお前を利用していたにすぎないんだよ!わかったんならさっさと帰れよ!!」
「お前!!」
正邪の言動に魔理沙は掴みかかろうとするが、天子がそれを止める。天子は何も言わずに魔理沙に視線を送る。その視線に込められたものを感じ取り魔理沙は大人しくなった。
魔理沙は不安そうに二人のやり取りを見つめ、他の者も二人を見守っている。
「正邪……聞いて、私ね……正邪のこと恨んでないよ」
「嘘をつくんじゃねぇよ!私はお前を利用した挙句捨てたんだ!打ち出の小槌も後から奪い取ってやろうと……それでも恨まないってのか!?」
「うん、私はそれでも恨まないよ。だって私……決めたんだ」
針妙丸は意を決してその言葉を口に出す。
「私、正邪と友達になるって決めた。正邪が声をかけてくれなかったら、私はただ草葉の陰で生きていくそんな小さな人生を送っていたと思うの。正邪はそんな私にチャンスをくれた。そして私はこの幻想郷がどんなに素晴らしいところか知ったの。強い相手がいて、優しい人もいた。これからどんな生活を送れるのか楽しみなの!そしてそこに正邪がいないと私は満足できない。利用するされる関係じゃなく、お話したりどこかに遊びに行ったりして体は小さくても大きな道を正邪とみんなと共に進みたいの!ああ、でも正邪は今指名手配中だったんだ。どうしよう……」
困った様子で小さな体全体で考える針妙丸は気づいていない。針妙丸を手のひらに乗せている正邪の瞳に液体が溜まっていることに。
震える体を我慢していた。考え込んでいる針妙丸に覚られないように必死に呼吸を乱さないようにしていた。苦しく胸の鼓動が高鳴る……辛いことではなかった。とても体が温かくなったようだった。
心がとても温かい……こんなに温かいだなんて……そう正邪が呟いているように見えた。
「正邪、お前はもう一人じゃない。正邪を思ってくれる人がいる……そうだろ針妙丸?」
「え?あ、あの……あなたは?」
「比那名居天子、天人くずれだ。正邪とは訳があって共に逃げ延びた仲だ。今では
「あっ、どうも、少名針妙丸と言います」
それから魔理沙と針妙丸にはさとりさんが事情を説明してくれた。地底でしばらくの間、暮らすことになった。そのことに針妙丸は正邪の身を案じて納得してくれたようだ。魔理沙もどこか安堵した様子だった。正邪との間で何が起こったのかわからないけど、晴れ晴れとした笑顔をしていた。そして肝心の正邪は針妙丸に気づかれてしまい「泣いてない!」の一点張りを主張していた。心配する針妙丸と照れ隠しする正邪との微笑ましい光景に私は笑っていた。
原作とは異なった光景だが……悪くない。話し合い、心を通わせれば絆が生まれ繋がりができる。そして私にも新しい
天子達はその後、さとり達に見送られて地底を後にした。地上へとたどり着いた先では藍と霊夢、妹紅に妖夢がそこにいた。天子達を見つけた藍はそれを見届けるとすぐに踵を返して去って行ってしまった。
霊夢によれば紫から正邪のことに関して聞かされた事情を話していたらしい。霊夢と妹紅・妖夢が争う必要がなくなったのは幸いだ。霊夢も正邪が生きていたことを確認するとどこか表情が和らいだ様子になったのに気づいたのは魔理沙と天子だけだった。
これで今回の長きにわたる事件が解決し、落ち着きを取り戻した。霊夢と魔理沙も今回は疲れたらしく先に帰ることにした。針妙丸は博麗神社に住むこととなり、一件落着だ。
そして私は妹紅と妖夢と共に帰路についていた。
「初め聞いた時は驚いたぜ。天子は厄介ごとに絡まれやすいな」
ほんとにね~、なんで私こんなに巻き込まれやすいのかな?もしかして私って主人公なんじゃ?そうだとしたら私に主人公属性がついているって証かしらね?まぁ原作の主人公は霊夢と魔理沙だけど。
「私なんて天邪鬼を見つけたら成敗するつもりでした」
妖夢まさか成敗って……考えるのは止そう。なんでも斬れば解決、斬れば分かる辻斬りだけにはなってほしくない。また今度、妖夢に精神論を語るべきかな?
「……天邪鬼にも辛い過去があったんだな」
そう言う妹紅は何とも言えない表情を作った。藍から事情を聞いたので簡易的だが、正邪の過去を知ることができた。妖夢も妹紅と同じ思いだった。
「誰だって生きている。生きているから苦しむことも楽しむこともできる。理不尽にも正邪は苦しみ続けた人生を今まで送っていた。だが、もう大丈夫だ。正邪には針妙丸がついているし、私もいる。勿論、さとりさん達も正邪をサポートしてくれる。きっと正邪はこれから苦しむことだけではなく、楽しんだり、笑っていられる人生を歩んで行くことだろう」
「ちゃっかり天邪鬼を救いやがって……ライバルが増えちまうだろ……」
「凄いです!やっぱり天子さんは私の師匠です!敵がまた一人……いつでも斬れるようにしないと」
妹紅と妖夢が何か言った気がしたが天子の耳には届かなかった。しかし二人から黒い靄がかかっているように見えていた。
なんだか二人から黒い靄のようなものが見えるのは気のせい?多分気のせいだよね、私は疲れているのね。無理もないか……色々とあったもの。
天子は思い返していた。正邪と出会い、正邪の過去を見、
「……天子……お前は……
「ふふ」
「あん?何を笑ってんだよ?」
「天子さんどうかしましたか?」
「いや、なんでもない」
正邪の言葉を
久しぶりの天界で心躍るのだが、天子には最後にやり残したことがある。
「衣玖」
暗い部屋の中……明かりをつけると忘れられない存在が驚いた様子で天子の胸元に飛び込んできた。
「天子様!!」
「衣玖……心配かけた」
「いえ……帰って来てくれて嬉しいです!!」
抱き着く衣玖は腕に力がこもっていた。どれほどの長い時間離れ離れになるか心細かったのだろう。それもお尋ね者の天邪鬼と共にだ。悪評を買ってしまい天界の者達から避難されてしまう可能性もあった。それを考慮して衣玖は天子を突き放した。心苦しかっただろうが、天子のためを思ってやったこと。天子は責めなかった。
天子は衣玖に謝り、衣玖も天子に謝った。何度も繰り返され、しまいには天子の方が先に折れ、お互いに噴出してしまった。落ち着いたことで今までの経緯を説明した。衣玖も納得して正邪のことを悪く思わないようにすることにした。それでもやはり正邪は天邪鬼であるために厄介ごとを振りまくだろう。しかしその時はその時である。それが彼女だ。それにもう幻想郷崩壊に繋がる異変は起こさないだろう(多分)
正邪は小物だ。小物だからこその彼女だ。過去の苦しみから吹っ切れた彼女はこれから小物として、天邪鬼でありながら、鬼人正邪として生きていくだろう。
しかし彼女は変わった。彼女は幻覚にも幻聴にも悩まされることはないだろう。だってもう一人ではないことを正邪は知ってしまったのだから……
「それで……天子様、何人の女性を落とせば気が済むのですか……?」
「……」
違うのよ衣玖!そんなつもりじゃないのよ信じて!!なんで最後はこうなるのよぉおおお!!?
ダーク衣玖の鱗片を感じながら抱き着かれた腕に力が込められ、体が軋む音が響いていた。
「……」
「お姉ちゃん、正邪は何をしているの?」
「こいし、お邪魔だから私達は先に寝るわよ」
「お姉ちゃん引っ張らないでよ~!」
「……天子……また会えるよな……」
地底の天邪鬼は見えぬ天界を赤みがかった頬で見つめていた。