比那名居天子(♂)の幻想郷生活   作:てへぺろん

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宇佐見家に居候することになった天子と早苗は現代社会相手にどう立ち回っていくのか?


それでは……


本編どうぞ!




80話 新たな一日

 「いただきます!」

 

 「……いただきます」

 

 「召し上がれ♪」

 

 「……」

 

 

 私の目の前には笑顔のお母さんがいる。笑顔のお母さんを見るのは久しぶり……私が原因で笑顔を見せなくなったのはわかっていた。だから笑顔のお母さんを見るのは新鮮な気分だけど……余計な()()が二人いる。

 

 

 胸の位置ほどまである緑のロングヘアーで、昨日まで変わったコスプレ衣装を着ていた変人がガツガツと朝食を胃袋に入れていく。そんな遠慮のない人物は東風谷早苗であり、もう片方の人物は男性で腰まで届く青髪のロングヘアに真紅の瞳に、こちらは静かに朝食を遠慮しがちに食べていたのは比那名居天子であった。そんな二人をジト目で睨みながらもチビチビと食事にありつく菫子。

 天子と早苗は今日からしばらくの間、宇佐美家で過ごすことになった。コスプレ衣装で過ごすのはどうかと言う事で菫子の母親が二人に衣服を用意(天子は父親の物を拝借)してもらい、四人生活が始まった。

 

 

 「昨日も食べさせてもらいましたけどとても美味しいです!この目玉焼きGOODです!あっ、ご飯おかわりください」

 

 「はいはい、ちょっと待ってね早苗ちゃん」

 

 「それと海苔かふりかけでもありませんか?それも久々に食べてみたいので!」

 

 

 なんなのよこいつは!人様の家で遠慮もなく物を頼む普通!?ちょっと顔がかわいいってぐらいで何お母さんと既に打ち解けているのよ!?

 

 

 眼鏡の奥から鋭い殺気を放つ菫子に早苗は何も気づかずにご飯をお代わりしていった。しかし、ちゃんと気づいていた者がいた。天子は菫子から放たれる殺気に気づいていた。

 

 

 「(すごい殺気ね……)」

 

 

 菫子の背後に地獄の魔王がいるように見える……気配をころして存在を薄くしていた天子は自分に向けられることなくて良かったと心の隅で感じていた。殺気を放たれている当の本人は知る由もなくまた一つ、二つ出された料理を口に運んでいく。

 

 

 「んまぁい!!」

 

 

 早苗は今日も絶好調である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ぐぅえへ……て、てんし……さん……お腹が重いです……」

 

 「食べ過ぎだ」

 

 

 ポンポコたぬきのお腹のように膨らんでソファに横になっているのは当然早苗だ。早苗は元々外の世界の住人であったため、なつかしい家庭の雰囲気を感じながら食べる料理に歯止めが効かずについつい頬張ってしまった結果だった。天子は呆れてため息が出る。

 

 

 「行って来るけど、勝手に私の部屋に入らないでよね」

 

 「ああ、わかった」

 

 「特に食べ過ぎて横になっているそこの人が入らないようにしてくださいね」

 

 「早苗が勝手なことしないように見ておくよ」

 

 

 天子さんだっけか、この人は礼儀も正しいし顔も……カッコイイしまだ信用はできそうだけれども、緑髪(早苗)は信用ならない。初対面の私のお母さんにあそこまでずかずかと遠慮も無しにご飯をたかるし、ご飯を恵んであげるだけだったのにどうして一緒に住むことになってんのよ!?常識あるのかしら!?

 

 

 早苗に常識があるだと?ない、そんなのあるわけないだろう。

 

 

 と、とにかく勝手にプライベートを覗かれる訳にはいかないわ!天子さんの方は見られても黙っていてくれそうだけれど、緑髪あなたは絶対喋るタイプであることは間違いない。特にお母さんに告げる最悪のタイプ……悪気なしにやらかしそうだと私の勘がそう告げていた。

 

 

 菫子の勘は何かと間違っていなさそうだった……

 

 

 「絶対にお願いしますよ!では……」

 

 

 菫子は気になりつつも学校へ行かないといけないために家を飛び出して行った。菫子が出ていくのを確認すると先ほどまで苦しそうにしていた早苗の表情が変わり真剣な表情に切り替わった。

 

 

 「……天子さん、お願いがあるんですけど菫子さんの部屋に連れて行ってください」

 

 「今の話聞いていたか?入るなと言われただろうに。それに休みたいのであればここで休めばいいだろう……なんでそんな真顔なんだ?」

 

 「それはやらねばならないことがあるからです」

 

 「……それはなんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「思春期の女子が隠していそうな薄い本&大人の玩具の在りかを探しに……」

 

 「やめい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「なんだろう……心配で仕方ないわ……」

 

 

 授業が始まってからも心配事が消えなかった。

 

 

 ------------------

 

 

 <天子と早苗が香霖堂から消えたすぐ後の出来事>

 

 

 ずずず……

 

 

 「はぁ~今日もいい天気ねぇ~」

 

 「ホントだなぁ~」

 

 「萃香は昼間からお酒なんだね」

 

 

 縁側に座るは霊夢と萃香と新たに博麗神社に住むことになった針妙丸。異変が解決され元の日常へと戻り平凡な日差しを浴びながらお茶(萃香は酒)を口には含んでくつろいでいた。

 

 

 「はぁ~♪」

 

 

 のんびりとした吐息が自然と出て気分が良い様子の霊夢。

 

 

 ピキンッ!

 

 

 「――!?」

 

 

 そんな時に霊夢は感じた。この平凡な日々をぶち壊されてしまうであろうということを……それがすぐ近くに近づいてきていることに。

 

 

 「はぁ……はぁ……」

 

 

 そう……実際に近づいていた。それはもうすぐ博麗神社に辿り着くところだった。息を何度も吐き出しながら階段を上っていき鳥居はすぐそこだ。

 

 

 「や、やっとついた……れ、れいむ……」

 

 

 霊符『夢想封印』!!!

 

 

 「うわぁあああああああああああああ!!?」

 

 

 霊夢の夢想封印が炸裂した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ごめんなさい霖之助さん、うっかりやっちゃった♪」

 

 「ごめんで済むか!!!」

 

 

 霊夢の夢想封印による犠牲者は真っ黒の焼けこげとなった霖之助だった。霊夢は平凡な日常を壊される前に始末しようと夢想封印を放った結果がこうなった。原因は霊夢にあるのだが、悪びれる様子もない霊夢に対して霖之助は抗議を続けようとするが、そんな霖之助の裾を引っ張る小さき影……朱鷺子の姿があった。

 

 

 「あら?あんた……誰だっけ?」

 

 「……」

 

 

 霊夢が朱鷺子を見つけると朱鷺子は霖之助の後ろにサッと身を隠す。霊夢は憶えていないが、道端で楽しそうに本を読んでいたところ、通りすがりの博麗霊夢に何となく不意打ちで攻撃されてけちょんけちょんに退治された&持っていた3冊の本を全て奪われた過去がある。朱鷺子は来たくはなかったが、今回は特別だ。博麗の巫女である霊夢に用があるからだ。

 

 

 「この子は朱鷺子って言うんだ。それで霊夢に聞いて欲しい事があるんだ」

 

 「嫌」

 

 「話ぐらい聞いてくれよ!?」

 

 「聞こえませ~ん」

 

 

 耳を塞いで聞こえないフリをする。霊夢はめんどくさいのだ。天邪鬼が起こした異変で大いに働いたと言うのにまた厄介ごとを持ってこられたら溜まったものではないからだ。

 

 

 「頼むよ霊夢!緊急事態なんだ!」

 

 「あ~~~~、聞こえんな!!」

 

 「聞こえてるだろ!!」

 

 

 某アニメの獄長さながらの発言をする霊夢は聞く耳を持とうとしない。

 

 

 「……ども」

 

 「おう、貧弱男(霖之助)の所のやつだな。まぁ、座ってろって、それと一杯飲むか?」

 

 「……いらない」

 

 「あぁ?私の酒が飲めないってのか?」

 

 「あぅ……」

 

 「萃香それはやめてあげようよ……」

 

 「ちぇ、つまんない」

 

 

 酒飲みに絡まれていた朱鷺子は針妙丸が止めに入り、自然と針妙丸の隣に座る形となる。危うくパワハラの餌食になりそうだった。止められた萃香はつまらなさそうに伊吹瓢に口をつける。

 

 

 「ごめんね、萃香は鬼だけど心まで鬼じゃないから」

 

 「……わかった」

 

 「私は少名針妙丸、あなたは?」

 

 「朱鷺子」

 

 「朱鷺子って言うんだ。それで朱鷺子はあの男の人と何しに来たの?」

 

 

 針妙丸は博麗神社に住んでそれほど経っていない。しかし多くの人妖がここを訪れる。お茶をたかりに来る白黒魔法使いやクッキーをお裾分けに来る人形遣い、最強と自称する妖精に一瞬で現れる紅魔館のメイド長など様々な人物が訪れた。そしてふっと思い出す。

 

 

 「(そう言えば正邪を助けてくれた……比那名居天子って人は見かけないね)」

 

 

 以前の騒動の中心にいた天邪鬼の鬼人正邪を保護した天人のことを思い出した。お礼もしていないし、ここの住んでから彼が訪れた姿を見たことは無かった。この時、ただ頭の片隅で思い出しただけだった。だが、霖之助と朱鷺子はその天人のことでここへ来たのだとわかるまで数秒前……

 

 

 「聞いて……緑髪のうるさい人と青髪のお兄さんが消えたの」

 

 「消えた?」

 

 

 どういうことかわからず針妙丸は首を傾げる。その隣でただ酒を胃にベルトコンベヤーの用量で流し込む鬼……大した話ではないと寝転がりながら会話を左から右へと受け流していた。

 

 

 「うん……香霖堂にやってきた二人組。お似合いの二人だったんだけど、その内の一人が奇跡がどうとか言ってそしたら光り輝いて二人が消えたの」

 

 「……ど、どういうことなのかさっぱりだよ?萃香はわかる?」

 

 「わかるわけないだろ。でも私にはどうでもいいことだから話かけるなよ」

 

 

 そう言って再び伊吹瓢に口をつけて酒を飲み始めた……だが、朱鷺子の次の言葉で酒なんて飲んでいる場合じゃねぇ!状態となる。

 

 

 「名前が確か……東風谷早苗と比那名居天子だったっけ?」

 

 「おい今なんて言った」

 

 

 天子の名を聞いた途端にいつの間にか身を起こして朱鷺子に鋭い視線を送るのは萃香、最近天子と会っていなかったこともあり、敏感に反応した体はズイッと鋭い視線の次に体ごと朱鷺子に近づき不機嫌な気配すら放っていた。正直なところ針妙丸には悪いが、天邪鬼を萃香は好いていない。嘘や騙し討ちしかできない弱小な種族だと見下しているところがある。そんな中で天子が天邪鬼といい雰囲気であったと針妙丸の会話から察した萃香は心の隅で腹立たしさを隠していた。友人の紫から事の詳細まで聞き出したぐらいだったが、天邪鬼の事情を知ると今回は渋々見逃した。もしも過去のトラウマの件が無ければ天邪鬼に一発拳をぶちかましていたであろう。

 天子が他人を見捨ててはおけない性格なのは知っている。そこが甘く見えてカッコイイ……天子の活躍が耳に入ってくるたびに萃香は鼻が高くなっていた。そんな時に今度は守矢の巫女と一緒にと来たものだ。乙女心に嫉妬の影が見え隠れする……

 

 

 先ほどまで興味を示さなかった萃香が身を乗り出して、しかも鋭い視線で朱鷺子を睨んでいる。その瞳の中に一人の男性の姿が映し出されていたことに気づくことができるのはこの場では霊夢だけだったが、今は霖之助相手で気づくことはなかった。萃香の瞳を直で受ける形となってしまった朱鷺子は体が硬直してしまう。汗が流れ言葉が発せず息を詰まらせる。萃香自身怖がらせる気はなかったが、鬱憤も溜まってか話が気になって仕方ない。

 

 

 「おい、聞こえなかったのか小鳥野郎」

 

 「ひッ!?」

 

 

 鬼の中でも四天王である萃香に睨まれて平常心を保っていられる者などそういない。朱鷺子は硬直した体がガクガクと震えて縁側自体を揺らしていた。それでも萃香は気にも留めずに睨み続けたままだ。このままだと萃香の機嫌が更に悪くなるのは目に見えている……朱鷺子の方は既に目から涙がこぼれ落ちていた。

 

 

 「ちょ!?なにやっているの萃香!泣いちゃったじゃない!」

 

 

 朱鷺子の涙にハッとなって我に返る針妙丸は萃香に直で睨まれているわけではなかったので体が硬直するまでには至らなかったが、今の萃香に話しかけるには勇気が必要だった。しかし目の前に泣いている朱鷺子を放っておけずに勇気を出してガンを飛ばす萃香に注意する。萃香の視線が針妙丸に移り、目を向けられた針妙丸がビクリと背筋が伸びてしまう。不機嫌な萃香に殴られたりするのかと最悪な想定をしていると興味を無くしたかのように萃香の視線は二人から逸れた。

 

 

 「……悪かったよ……お前の話に出てきた奴が気になっただけだ。お前は悪くない……謝るから怯えるなよ」

 

 「あぅぅ……」

 

 

 そう言われても一度恐怖を味わった朱鷺子は針妙丸の影に隠れてしまう(小さすぎて隠れられていないが)

 

 

 「大丈夫だから、萃香は鬼だからこれぐらいいつも通りだから。昔から変わっていないから」

 

 「お前、この前ここに住み着いたばかりだろう?」

 

 「あ、そうだった」

 

 

 萃香にツッコミされると朱鷺子をあやす針妙丸は手が離せない様子で、朱鷺子自身も萃香を怖がって話せそうにない……ならばと萃香は縁側から立ち上がり霖之助の元へと近づいて行った。

 

 

 「だから話だけでも聞いてくれって!!」

 

 「右から左へ受け流す~!」

 

 「受け流すなよ!!」

 

 

 まだ霊夢と漫才をやっている辺りすぐ傍で起きていたプチ騒動に気にも留めていなかったご様子だ。しかしそんなこと萃香には関係ない。グッと霖之助の尻を摘ままれる。

 

 

 「あぎゃああああああ!!?い、いたたたたたたぁああ!!!な、なにをするんだい!!?」

 

 

 鬼に摘ままれて痛くないわけがない。

 

 

 「霊夢が聞かないなら私が聞いてやるから早く話せ!」

 

 「えっ?あ、はい……」

 

 

 霖之助は香霖堂で起きた出来事を語る……霊夢達はまた天子が厄介ごとに巻き込まれたのを知ることになった。

 

 

 ------------------

 

 

 キーコーンカーコーン!

 

 

 学校のチャイムが鳴った。それは授業の終了と学生たちの一日の終わりを告げるものだった。各教室の担任教師はホームルームを行い、担任教師の声と持って今日一日の全ての学校生活は真の終わりを告げた……っと同時に駆け出す一つの影があった。その影はいつもは目立たことなどないのだが、その行動は同じ教室の生徒たちに注目され、そして生徒たちは意外そうな表情をした。それもそのはずだ。その影は誰とも関わらないようにひっそりと行動し、大胆な行動などしないし、ましてやホームルームが終わり次第に飛び出すなど考えられない行動だったからだ。影は教室を飛び出して靴箱へと向かい、早々と靴を履き替えて猛ダッシュで校門へと向かう。そこには警備員が立っていたが、猛烈な風に襲われた。気がつくと一つの影が通り過ぎた後だった……

 

 

 教室ではあまりの出来事に生徒たちは動けないでいた。そして生徒の内の一人が言葉を発した。

 

 

 「ね、ねぇ……今のって……」

 

 「い、意外よね……」

 

 「宇佐見さんどうしちゃったんだろう?」

 

 

 宇佐見菫子は疾風の如く速さで下校したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 早く帰らないとあの緑髪(早苗)が何か仕出かす前に!いや、仕出かしているかもしれないけど……もしそうだとしたら私の超能力で……!!

 

 

 菫子は猛スピードで駆けていた。その体のどこにそれほどの体力があるのか疑いたくなるぐらいの持久力を見せていた。菫子が通った場所は突風が吹き、野良猫は空へ舞い上がり、人々は飛ばされないように踏ん張っていた。嵐が人の形をして猛威を振るっているかの如くであったが今の菫子には自宅の心配(特に早苗)で周りの目など気にしていられない。

 駆け続けて自宅が見えてきた。嵐の如く鍵を取り出しそのまま鍵穴に差し込み扉を開けること1秒足らずの出来事だった。

 

 

 「お母さん!天子さん!緑髪(早苗)は何もしていない!?」

 

 

 帰宅後の一言目がこれだ。余程早苗が何か仕出かしていないか心配だった様子だ。

 

 

 「あら?今日はいつもより早いわね?」

 

 

 菫子の母親は不思議がるが菫子はそんなことよりも自宅の現状を早く知りたかった。

 

 

 「走って帰って来たの、だからお母さんあの二人は今どこに!?」

 

 「天子君と早苗ちゃんは今、お買い物に行ってくれているわよ」

 

 「そ、そう」

 

 

 よかったと菫子は胸をなでおろす。自宅にいなければ何もできないことに安堵したのだ。しかしここでふっと不安が現れた。

 

 

 「お母さんあの二人はお金なんか持っていないんでしょ?」

 

 「そうよ。お買い物はうちのお金で買ってきてもらうから心配ないわよ」

 

 

 そういうことじゃないのよお母さん、私が言いたいのはそういうことじゃない。

 

 

 「……お金を持ち逃げされるとは思わないの?」

 

 

 天子と早苗に持たせたのは宇佐見のお金だ。少ないにしても見ず知らずの他人(しかも昨日会ったばかり)に私てしかも買い物まで頼んでしまう……菫子はお金を騙し取られてしまうのではないかと危惧した。少なからず菫子から見た二人は決して悪い人物には見えない。しかし現代社会に生きる菫子にとっては赤の他人のことを信用しろと言うのがおかしなことだ。人と人との繋がりなどほとんどないのだ。実際に隣人のこともほとんど知らないのだから。

 不安げな表情をする菫子だったが、その表情は驚きにかわる。菫子は見たのだ。自分の母親が笑っていたのだから……

 

 

 「ど、どうしたのお母さん?」

 

 「うふふ♪いえ、確かに菫子のいう通り持ち逃げされるかもしれない……けれど私は信じたいの」

 

 「な、なにを?」

 

 「天子君と早苗ちゃんは悪い人じゃないって。菫子が連れてきたんだからきっといい人なんだろうって信じたくなっちゃったのよ。昔、菫子は困っている人がいたらよく助けてあげていたから。それに昨日会ったばかりだけど二人共良い子達ってお母さんにはわかるのよ」

 

 「……」

 

 

 菫子は何も言えなくなっていた。自分の母親が能天気なのは自覚があったが、それ以上に母親が菫子のことを「信じたい」と言った。最近自室に籠りっぱなしで母親とは最低限の会話しかしていなかった。作業的で明るい話題などなかったのだ……昨日と今朝のようには正反対に静か二人だけの食卓だったのだ。しかし天子と早苗が現れて母親は笑った。菫子も見ることのなかった()()()()()()()()だった。自分では母親を笑顔に出来なかったし、笑顔にしようとさえ思っていなかった。だが、昨日母親の笑顔を見た時には心の底で何かくすぶっているものを感じた。天子と早苗を連れてきた菫子を「信じたい」と言ってくれたのだ。だから二人のことも「信じる」ことにしたのだと理解した菫子は言葉を発することなど出来なかったのだ。

 

 

 「それにね、今日は天子君と早苗ちゃんが私の代わりに料理を披露してくれるんですって!」

 

 

 母親は興奮気味に言った。実際興奮しているのだろう……天子と早苗いわく「世話になるのだから料理ぐらい手伝いをさせてくれ」とのことだった。子供のように興奮する姿を見せる母親にふぅっと甘いため息が出る。

 

 

 「もう……お母さんってほんと能天気よね」

 

 「あら?私って能天気だった?」

 

 

 自覚なかったの?はぁ……まぁいいわ。心配するのも馬鹿らしくなってきた。どうであれ帰って来なければ警察に通報すればいいだけだし、もし帰って来たらそれはそれでまぁ良しとするわ。手料理か……飯マズなんてことがあれば容赦なく叩いて罵倒してやるわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「「美味しい~♪」」

 

 

 舌鼓を打ちながら頬いっぱいに頬張る宇佐見親子。

 

 

 ちょっと何よこの美味しさ!!?それにバリエーション豊富すぎない!?スーパーの肉ってこんなに柔らかかったっけ?いつもなら硬さがあって食べにくいけどこれは口の中でとろけてしまう~♪それに魚介類盛りだくさんのサラダもドレッシングとマッチしていて手が止まらないわ♪

 

 

 宇佐見家の食卓には料理が並んでいた。しかしそれはいつもとは異なる料理だった。スーパーで買ったものであるはずなのだが、食卓にはステーキハンバーグにポテトフライ、貝やエビがふんだんに使われたサラダ、それに濃厚とろみ増しのコーンスープにデザートは冷蔵庫に保管されているフルーツが添えられたパフェが食事の最後に今か今かと待ち受けていた。味もとても美味しく満足いただけるものであることは親子を見れば一目瞭然だ。

 

 

 普段ならば決して用意することなど面倒でできない&ここまでの美味しさを出せはしない。それを可能にする人物が比那名居天子だ。天子は早苗と共にスーパーで買い物を済ませた。居候させてもらっている身として何か手伝いたかったのだ。早苗を家に置いておくと何をするかわからないのでそれの牽制を含めての行動だったが、手伝いたかったのは本音だ。だからこうして今晩の料理をすることを引き受けた。しかし渡されたのは宇佐見家のお金で大層な料理で財産を食いつぶすことはしたくなかった。一般家庭の範囲で美味しく美しい料理を出せればと思い工夫して喜ばれる料理を作ろうとした。菫子の母親の手料理には愛情が籠っていたことを天子は知っている。だから自分も愛情を持って答えようとしたのだ。いつも以上に気合を入れて準備した結果は天子が予想していたものよりも遥かにいいものだった。

 

 

 「モグモグ……天子さんの手料理はやっぱり美味しいですねモグモグ……!」

 

 

 早苗も天子の料理を手伝いをしていた。早苗自身もいつも神奈子と諏訪子のご飯の準備をしている身である。手料理にはなれているつもりだったが、予想以上の天子のスペックに驚きつつ、邪魔にならないように調味料の分量や皿などの準備を手伝ったのだ。邪魔したら天子の手料理を満足に食べれなくなることを危惧した早苗の行動だった。

 

 

 「およ?菫子さんほっぺに食べかすがついていますよ?」

 

 「えっ!?」

 

 

 そんな中、早苗はふっと斜め向かいに座る菫子を見た。そして菫子はあまりの美味しさに夢中となっていて口の周りに食べかすがついていることに早苗の発言があるまで気がつかなかった。慌てて口を拭き、恥ずかしいところを見られたと頬を染める。

 

 

 「どうだ?満足してくれたか?」

 

 「もうお母さんこんなに美味しいの初めてよ♪このまま天子君この家の子にならない?それか菫子のお婿さんでもいいのよ?」

 

 「ちょ!?お母さん!?」

 

 

 菫子が驚く。いきなり自分の母親がこんなことを言えば誰だって驚くのは無理もない。

 

 

 「ありがたいことですが、私はまだ身を固める気はありません」

 

 「そう……残念ね。毎日食べれると思ったのに」

 

 

 ちょっとガッカリそうな母親に天子は苦笑していた。そんな様子を傍で見ていた菫子は……

 

 

 なんでガッカリしているのよお母さん……これが毎日食べれたら外食する必要がなくなっちゃうけど……けれどやっぱり私はお母さんの手料理の方がいいかな。

 

 

 ふっとそんなことを思ってしまう。味も抜群で正直なところ母親の料理よりも美味しい……美味しいが菫子は不思議と母親の手料理の方が恋しくなっていた。

 

 

 「そうガッカリしないでください。まだお代わりがありますから」

 

 「本当!それじゃお母さん今日はいっぱいお代わりしちゃうわね♪」

 

 「天子さん、私にもお代わりお願いします。それとデザートはみんなで一緒に食べましょう。そっちの方が美味しさが増しますよ」

 

 「そうね、そうしようかな」

 

 

 早苗の提案に自然と菫子も賛同する。この時、菫子は輪に溶け込めていた。食卓を囲んで談話し、笑い共に食事をする……他人を見下すことなど存在せず遠慮する必要がない家族の輪が宇佐見家の食卓にあった。

 

 

 食後のデザートの一口で菫子の表情がとろけたのは言うまでもなかった。

 

 

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