それでは……
本編どうぞ!
天子と早苗が宇佐見家へ居候してから数日が経った。天子と早苗はもう宇佐見家の一員となり菫子もこの朝食の光景に見慣れてしまっていた。菫子は今日学校が終われば明日は休み、家でのんびりしていられる……早苗さえいなければ。
早苗は何かと菫子に構うことが多い。いつの間にか押し入れから取り出して来たゲーム〇ューブを勝手に起動してみんなでやろうと夜中に誘われて初めは嫌々ながらも意地悪い攻めで負かされた菫子は見返してやろうと没頭したあまりに学校に遅刻したり、帰って楽しみに取って置いていたゼリーを早苗が食べてしまっていたりと腹立たしいこともあった。それも居候することになってすぐのことだ。よく今まで菫子は耐えられてきたと感心する。
今までならば学校に行かなくて家でジッとしていられる休みの日は崩壊し、今ではうるさい緑のピーマンのせいでのんびりしていられる場合じゃなくなり、休みとは言えなくなっていた。そんなことを思いながらご飯を摘まんでいる菫子に早苗が言った。
「明日はみんなでどこか行きませんか?折角の休みなんですからインドア派よりもアウトドア派なサバイバル生活を送りましょうよ!」
「そう言って本当は早苗が行きたいだけじゃないのか?」
「流石天子さん!乙女心をわかってくれる男性ってモテるんですよ!よっ、この女たらし!」
「……はぁ」
早苗に呆れている様子の天子はこれまで早苗の暴走を幾度も阻止して来た優秀な人材であった。もし早苗だけならば菫子のメンタルは崩れ去ってしまっていただろう。今では信頼すら寄せているぐらい菫子にとって需要される存在になっていた。
「早苗ちゃんごめんね、私は明日用事があって行けないわ。折角誘ってもらったのに……」
菫子の母親が申し訳なさそうに言う。
「いえいえ、大丈夫ですよ。私達三人ならばたとえ火の中、業火の中です」
「水の中だ」
「およ?そうでしたっけ?まぁどちらにしても天子さんならいけると思いますから」
「火の中に飛び込めと言うのか!?」
早苗と天子の漫才も見慣れたものになっていた。早苗は天然でボケるつもりはないが、結果的に天子に指摘されて、天子の疲れた様子をよく学校から帰って来た菫子の目に飛び込んで来ることが多々あった。
今まで二人だったのが四人に増えた家庭で、家に帰ると母親が出迎え、真面目な天子が料理を作り、うるさい緑がゲームをしていており、皆を巻き込んでのゲーム大会まで開かれることもあった。菫子はそんな光景を見ることになり自然と静かだった家庭が今では騒がしい毎日だ。そんな光景が数日間続いたある日……
「……」
菫子は騒がしくなったリビングでご飯を食べている……この光景を見ながら。しかし彼女にはこの光景が嫌とは思えない気がしていた。もう慣れたものである。
「ねぇ、菫子は行くでしょ?天子君と早苗ちゃんと一緒に?」
「えっ?ええっと……」
「行きましょう菫子さん!デンジャラスなオープンワールドにぶっとびMAXですよ!!」
「早苗落ち着け」
全員視線が菫子に集中する。早苗と菫子の母親はキラキラとした期待する瞳で見つめており、菫子に逃げ道など存在しなかった。
「……わかった。行くわよ」
「「ヒャッハー!!」」
「「……」」
早苗と母親の奇声に何も言えぬ表情の天子と菫子であった……
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「――と言う訳でアウトドア派なサバイバル生活を体験しましょう!天子さん、菫子さん、拳を高く上げて叫びましょう!エイエイオーっと!!」
「……えいえいおー……」
「……お、おー……」
「天子さんも菫子さんも元気がないですよ?折角山に来たんだから心の底から叫びましょう!いきますよ……エイエイオー!!」
「……エイエイオー!!」
「えい……え、エイエイオー!!」
「菫子さんは若干恥ずかしさが残っていますけど問題ないでしょう。さぁ、二人共私についてきてください!未知なる山に探検しに行きますよ!!」
はい、皆さんおはこんにちわ。どうも比那名居天子です。見ての通り私達は菫子ちゃんが学校休みなので早苗がアウトドア派を主張して山へ登ることとなった。残念ながら菫子ちゃんのお母さんは用事で来れなかったために私達三人だけの登山である。それにしても早苗の適応力には素直に驚いたわ……人様の家に居候になって初日から溶け込むとか私でも遠慮したのに……流石早苗だ。常識に囚われない……ルールなんてぶち壊してしまったわけですねはいわかります。
まぁ、私も居候することになったんだけれど、私はそんな暴走気味の早苗をコントロールすることで手がいっぱいで大変だった。もう言葉では言い表せないぐらいに大変だったわ……神奈子さんと諏訪子さんを褒めたたえてあげたい。毎日ではないだろうけど、はっちゃけ早苗と一緒に暮らしている神奈子さんと諏訪子さんの二人の忍耐力には尊敬すら覚えるわよ……
「うん?諏訪子……なんだか信仰心が増えた気がするぞ?」
「なんかそんな気がしたけど……それよりも早苗いつになったら帰って来るの~!!?」
今頃神奈子さんと諏訪子さんはどうしているだろうか?早苗を連れまわして……いえ、私の方が連れまわされているわね。どちらにせよ、幻想郷では私達を捜索中だと思う。衣玖のことも心配だし、天界をまた放ったらかしにしている状況で、衣玖がやってくれているだろうけど迷惑をまたかけてしまった。帰ったら本気で謝らないと……
そして私達はこっちの世界へやってきて改めて知った事実がある。
それは私達の力……正確には早苗の能力が力を発揮しないのである。私も微妙に力が扱いづらく思う様に操れない。『大地を操る程度の能力』の力加減が上手くいかない……そして早苗の『奇跡を起こす程度の能力』も上手く操れないと早苗は言った。それに私は元々空を飛べないが、早苗も空を飛べなくなっていた。これも外の世界にいることでの影響なのか私達はごく普通の人間とそう変わりない。ただし、能力が上手く使えないからといって私自身の身体能力が落ちたわけではなかったのが不幸中の幸いだった。早苗は少しガッカリしている様子で心配になって声をかけてみたところ「坂道や砂利道を歩かないといけないとかめんどくさい」と愚痴をこぼしていた……心配して損した。まぁ、日常生活には影響はないから問題はないが、このままずっとこちらの世界へいると何かしらの影響がまた出て来るんじゃないかと不安が残る。なるべく早く帰らないといけない気がするわ……
天子の顔色が悪くなる。既に外の世界へと飛ばされて数日も経ち、未だに幻想郷へと帰る手段がない。心配事と不安という重圧がのしかかる……が、早苗は外の世界を満喫しており、天子も付き合わされて特訓以上に神経を使う毎日を送っている。天子自身も外の世界で食事をすると昔を思い出してしまい感情に浸ることもあるが、天子は今は幻想郷の住人であるため帰らないといけない。しかし帰り方が見つからずどうしようもない。早苗は「考えても仕方ありませんから今を楽しみましょう!」っと現状を楽しんでいる。羨ましいと感じる……天子自身早苗のこういう神経の図太さを欲したぐらいなのであった。
それと気になることがある。宇佐見菫子のことだ。天子の見立ては異変が起きたりしていないことは幻想郷内に居た時に確認している。ここにいる菫子は異変を起こす前の菫子だ。友人も作らずに最近までは他人を見下しているようであったが、ここ数日は少なくとも常にボッチ状態ではなくなったらしい。
多分早苗のおかげかしらね。早苗の常識など囚われない(迷惑)行動が菫子ちゃんの冷たい心を動かしたのではないだろうか?まぁ、心に傷を負っているわけではないので環境に応じて心に変化があったのだろう。菫子ちゃんの学校生活が気になった早苗と私は密かに尾行したことがあった。案の定ボッチであったが、喋りかけてくれる何人かは居た様だ。ホームルーム終了時点で全速力で帰宅するという菫子ちゃんみたいな少女には見られない行動をして周りからの印象が変わっただろう。人間は興味が湧くと自分から関わりに行こうとするからそれが功を奏したのか嫌悪されている様子はない。今まで関りずらかったのだろう。相手側もどうやって会話を続かせようかオドオドしている場面があったりもした。菫子ちゃんが突っぱねる様子もなく普通に会話が終わるのを見て私は息を吐いた。少し安心したと言っていい……菫子ちゃんのお母さんも心配していたし、私達は菫子ちゃんをどうにかするという条件で居候すると言ったんだからこれぐらいはしないといけなかった。
それで家に帰ろうとした時に、食堂で堂々と学食を注文している部外者の早苗を見た時に内心イラっとしたのは内緒の話……
生徒の間で、どこの誰かも知らないイケメンと美少女が現れたという噂が学校内で流れたが、菫子はまさか天子と早苗が学校に来ているとは思ってもいなかった。
――っとまぁ、過ぎてしまった話はこれぐらいにして……折角山に登山しに来たんだから楽しまないと損よね。登ると言っても近場の小さな山なので富士山のように本格的な登山ではない。菫子ちゃんでも登れるような簡単な登山だから危険性も少ないし安心ね。怪我などはさせられないし、交流を深めるにはいいチャンスだわ。
「菫子ちゃん、いつまでもボーっとしてないで早苗の後をついて行こう」
「えっ?あっはい……って天子さん、
全力疾走で山を駆け上がる早苗を指さしている。いつもは暴走する早苗を天子が止める係なので「止めてよ」と訴えているようだ。
「いいじゃないか今日ぐらいは。休みだし周りに迷惑をかけなければ少しぐらいはしゃぐのを許してあげようではないか?」
菫子の顔が「少し?」と疑問視していたが、天子は目を逸らしてスルーした。
「と、とにかくこのままでは早苗がはぐれてしまう……菫子ちゃんゆっくりでいいから行こうか」
「わかったわ」
「ぜぇ……ぜぇ……うぅ……うぇぇ……うぼぉえ……!」
「早苗絶対吐くなよ!吐いたら許さないからな!」
私は今、早苗をおんぶしている真っ最中。何故こうなったのかと言うと……
はっちゃけ早苗は全力疾走で山を駆け上る→当然体力が続くわけもなくばてる→仕方ないので近場の休憩所まで早苗をおんぶしていく羽目となった。
もう早苗はこれだから……ここ数日で早苗が私に迷惑をかけた回数三行は既にいっている気がする……それにしても早苗、苦しいのはわかるけど私の背に吐いたら
「本当にこの人は迷惑ばかりかけるんですね」
「これが早苗だからな」
「……二人はどういった関係なんですか?」
お?菫子ちゃんから意外な言葉をかけられた。流石に数日共に暮らしていればそれぐらいの事は気になる年頃よね。
「そうだな……まぁ私と早苗は
「
「友達ではあるが、友達を超えた仲間と言ったところだな」
「……そう」
天子から目を逸らしてしまう……その表情は見えなかったが暗い顔をしていただろうと天子はわかる。
菫子ちゃんは
「菫子ちゃん、そう暗い顔しないで。今日ぐらいは何もかも忘れて楽しもうじゃないか!」
「……私は暗い顔なんてしてませんよ……」
「そう言う事にしておこう。それならば楽しめるよな?」
「……わ、わかりました。わかりましたから女性の顔を覗き込むなんて失礼ですよ」
「あはは!すまない、つい意地悪してしまった」
「もう……」
うん、少し元気出たみたいね。暗い気分のまま登山だなんて面白くないからよかったわ♪菫子ちゃんにはこれから霊夢達に関わっていくんだから引っ込み思案では到底勝つなんてできないし、恐ろしい霊夢の鉄拳制裁を受けるかもしれないから気をしっかり持ってもらわないとこっちが心配になっちゃう。それに菫子ちゃんのお母さんに約束しちゃったし(早苗が)悩みを解決してあげなくちゃね。
「運動して汗を掻いて、お腹を空かせた頃に外でご飯を食べる。きっと美味しいから頑張るんだ」
「天子さんの手料理は美味しいから楽しみだもの!」
毎日晩御飯は私が作っていて、宿題をしていた菫子ちゃんものんびりと洗濯物を畳んでいたお母さんもご飯の時間になったら席についてくれる。早苗だけは「あとちょっと、あとちょっとしたらやめますから!」っと言ってゲームから離れられないこともあるが……宇佐美親子に大好評なのである。
目の色を輝かせる菫子は気合を入れなおして一歩ずつ歩いて行く……
「だし巻き卵最高にGOOD!天子さんはやっぱりいいお嫁さんになれますよ!私が言う事に間違いはない!」
「私は一応男なんだが(中身は一応女だけど)」
「大丈夫ですよ、永琳さんに頼んで男性の象徴を女性の象徴に早変わりしてもらえばいいんですよ」
「絶対拒否!それに食事中に下品な話は禁止!!」
「いたっ!?叩くのは痛いですよ!可愛い女の子に対して暴力を振るうなんて……私をどうするつもりなんですか!?ま、まさか天子さん……私が可愛いからって乱暴するつもりでしょ!エロ同人みたいに!!」
「するか!!」
「いたぁ!?」
山頂の山小屋付近で昼食を食べる天子達。早苗は結局山頂まで天子におんぶされてついた途端に元気100倍となり、食事を要求した。天子の顔に青筋が一瞬浮かんだ気がしたが、菫子の腹が鳴ったことで仕方なしに持参した弁当の蓋を開けた。そこには朝一にせっせと天子が用意した手料理はぎっしりと詰まっていた。それを見た二人の目は輝き、口からは涎が滴り落ちていた。舌鼓を打ちながらドンドンと口に手料理を運んでいく二人は幸せそうな表情であった。ちょっとした会話を楽しみ(?)つつ、一つまた一つと平らげていく。
早苗食事中はお下品な発言は控えてほしい。周りに私達以外の登山客がいなかったから良かったもののこの話は笑えないからこれでお終い。菫子ちゃんは食事に夢中で聞いていなかったのが幸いね。食事中は楽しく、清潔にしなくちゃ。
「どうだ、私の手料理は?今日はいつも以上に気合を入れて作ったんだが?」
「凄く美味しいです♪山道は厳しかったですけど、結果的に外に出てよかったです♪」
「やっぱり私のおかげですね。私も心身ともに苦労した甲斐がありましたよ。私って凄い!えっへん!」
「早苗は途中、私におんぶされて楽していただけだろう……」
胸を張って鼻を高くする早苗にツッコミを入れるが、上機嫌な早苗は耳を貸さない。都合のいいことだけ彼女の耳に届くのであった。
「~♪あっ、そうだ。天子さんは遠くの方から来たんですよね?」
「あ、ああ……まぁな」
「まだ当面の間は帰れないと言う事ですか?」
「……ああ、そうだ」
天子は早苗と遠い土地から都会へとやってきたと嘘をついていた。実際に遠いところからやってきたのは間違いではないが、別の世界からやってきたなんて言っても「何を言っているんだ?」と言う事になるので嘘をつかない程度で話をしていた。
純粋な瞳を向けられると心が痛む……ごめん菫子ちゃん。居候させて食事まで提供してもらっているのに真実を話さないなんて卑怯と言われるかもしれないけど言えないの。今はまだ話す時じゃないから……
「そうですか……でも、私は天子さんが居ると家事も料理も手伝ってくれるのでお母さんが大助かりしていますので助かってます」
「そうでしょうそうでしょう!この可愛くてプリティな東風谷早苗をもっと褒めてくれてもいいんですよ?」
「別にあなたは褒めてませんよ」
「ええっ!?どうしてですか!?」
「あなたは逆に邪魔してばかりですよ。天子さんが掃除している間に居間でゲーム、洗濯物を干している間は漫画をあさってお菓子の食べかすがソファの上にこぼれていることが多々あります。少々手伝っているみたいですだけど、天子さんと比べたら天と地ほどの差がありますから」
「ムムム……そ、それでも今日の休みの山登りの提案出したの私ですよ?菫子さんはその提案に乗ってくれたじゃないですか!」
「そ、それはそうだけども……」
「それに私が居るだけで天子さんは心が落ち着くアロマ効果があるんですから!ねぇ天子さん?」
えっ?なにそれ初耳なんですけど?
「……そんな効果知らないぞ?」
「うぅ……天子さんそこは私に味方してくれてもいいじゃありませんか!」
「ほら、やっぱり邪魔になっているじゃないですか」
「ムムム……!」
悔しそうな顔をする早苗と勝ち誇ったような菫子の二人。日頃早苗から受けたストレスをここがチャンスだと返している様子である。この光景を見て天子は心配に思うよりも安心した。
初めに会った頃よりも明るくなっている様子ね。早苗には厳しい感じだけど心から嫌っているわけではなさそうね。早苗のはっちゃけ具合がいい方向に向かっているみたいでよかった。今まで最低限度の会話で済ませていた親子同士の会話も増えたみたいだったので良しとしよう。まぁ、早苗がゴロゴロしているのは事実なんだから言われても仕方ないこと……諦めなさい早苗。
それから言い合いもあったが、腹が満腹になったのか二人共眠気が襲って来たようだ。なので天気もいいので少しばかり昼寝をすることにした。外にあまり自ら出ようとしない菫子は山登りで疲れてぐっすり眠ってしまった。早苗もポカポカした気温に負けて夢の中へと旅立った。そんな二人を見ながら天子はのんびりと二人が起きるのを待っているのであった。
そして時が経ち、夕焼けに差し掛かった頃に二人を起こし帰ることを告げる。時間も時間なので天子達は下山し始めた。
「う~ん……スッキリしたわ」
「ムムム……もう少しで私が悪の大魔神を倒すところだったのに……ふわぁ……」
気分が晴れた菫子と少しまだ眠そうにしている早苗は天子の前を歩く。天子は二人に負担をかけないように二人の荷物を担いでいた。幸せそうに眠っている二人を時間のために起こしてしまった天子による配慮だった。
「ごめんなさい天子さん、荷物重くないですか?」
「大丈夫だ。男だから問題ない」
これぐらい軽いわ。修行していた時の鉄の塊よりも軽すぎて気にもならないんだから。
荷物を持つと言った時に菫子は少し遠慮して抵抗したが天子の思いに甘えることになった。早苗の方は……語らずとも想像ができるだろう……だから心配する菫子に大丈夫だと言って気にするなと伝える。
さてと、今日はいい一日になったわ。帰って食事の支度しないと……今日は何がいいかしらねぇ……
今日の料理をあれこれ考え始めた。最近色々と幻想郷では手に入りにくい食材を使って料理をするのが楽しみの一つとなっていた天子は歩きながら考えにふけっていた……そんな時に予想外の不幸が襲い掛かる……
ガサッ!
「あっ」
声が漏れた。その声の主は早苗でもの思いにふけっていた天子は反応が遅れてしまった。
早苗は寝ぼけながら歩いていて、うっかり足を踏み外してしまったのだ。普段ならば空を飛べる早苗はなんてことはないのだが、今の早苗は空を飛ぶことが出来ないでいる。我に返った早苗はそのまま崖から転がり落ちそうになった。
「て、てんしさん!!?」
「さ、さなえ!!?」
天子は荷物を放り出して駆け出す。だが、反応が遅れたことで距離が空き手を伸ばしても早苗の体は崖の方へと吸い込まれていく……
ダメだ間にあわない!!
それでも天子は必死に手を伸ばした……
「……あれぇ?」
呆気に取られたのは早苗であった。崖から落ちることなく天子の手が早苗の腕を掴んでいた。間一髪のところで間に合ったのだと思ったがそうではなかった。天子との距離は離れていたし、反応も遅れてしまったために手を伸ばしてもその手が早苗に届くわけはなかったのだ。しかし手が届いた……それはあり得ないことだったが、早苗の体が崖に吸い寄せられる直前に空中で制止した。早苗が止まったおかげで天子は間に合い、崖から転落する事故が起きることを防いだ。しかしいきなり人が空中で制止したりそんなことがあるのだろうか……?
早苗は見た。視界の奥にハッキリとその光景を映していた。そして天子はこんなことができる人物の正体を知っていた。二人の視線が同時に一人の少女の元に向けられる。
「菫子さん……あなた」
「……」
菫子であった。視線を向けられた彼女は浮かない顔をしていた。気まずそうに俯き言葉を返すことをしない……天子は原作知識があるため初めから彼女が超能力者であることを知っている……宇佐見菫子は『超能力を操る程度の能力』を持っていたのだ。
「菫子ちゃんだよね。早苗を超能力で助けてくれたのは?」
「嘘!?菫子さん超能力者だったんですか!?」
早苗は驚いていた。自分と同じく外の世界で「程度の能力」を持つ人物に出会うことなど思いもしなかったのでしょうね。菫子ちゃんの様子だと私達に隠したかったようだけど……私達も「程度の能力」を持っていることなど彼女には知る由もなかったし、何よりも現代社会では超能力なんて存在しないと思われているから何かと複雑な気持ちだったのでしょう。けれど、早苗を助けるために力を使ってくれたなら私のする行動は決まっている。
「ありがとう菫子ちゃんのおかげで早苗は怪我をせずにすんだ。本当にありがとう」
「ありがとうございます菫子さん!」
彼女を褒めてあげなきゃ!
「ありがとうって怖くないの?その……私のこと……?」
不安なのだろう……声が震えていた。
「私が幼い頃にこの力を他人に見せたら怖がられたわ。友達も私から離れていった……どうしてこの力の良さがわからないのだろうって他人を疑ったわ。それ以来この力を他人に見せつけることもせずにずっと心の奥底で疑問視していた……私の方がおかしいのかって……普通じゃない私がおかしいの?」
なるほどね。それで全能感もあって他人を見下すようになったと……霊能サークル会長を名乗って人を寄せ付けないように意図的にしていることもそのためね。けれど、心の奥底で寂しい思いをしていたんじゃないかしら……私にはそう思えてならないのよ。その証拠に声が震えている……だけどもう私の行動は決めちゃった。私達のことを知ってもらわないといけないって。
「普通じゃないのが何が悪いんだ?それに菫子ちゃん
「
「超能力者ではないし、私は人間ではないな」
「はっ?」
菫子は何を言っているかわからない様子だった。自分が普通の人間じゃないことがバレてしまい拒絶されてしまうと思っていた。実際に昔、拒絶された過去があるからその繰り返しになるだろうと決めつけていたはずだったのに、天子からの言葉は意味がわからなかった。
「人は人でも私は天人だ」
「てんにん?てんにんって……天の人と書いての……天人?空の上に住むと言われている?」
「そうだ」
「……」
口をぽっかりと開けて唖然とした。それはそうだろう……いきなり自分は「天人だ」と言われて驚かない方がおかしい。次から次へと頭の中に入ってくる情報に菫子の頭脳でもパンクしそうだった。
「私はピチピチの正真正銘の美少女ですけどね♪遠いところ……本当は幻想郷ってところからやってきたんですよ私達は」
「げんそうきょう……?」
「はい、正確には別の世界って言った方が言いですね。その世界には人だけでなく、この世界で忘れ去られた妖怪や妖精や吸血鬼に鬼などいっぱい幻想的な存在が存在しているのです。ちなみに私の神社には神奈子様と諏訪子様の神様と一緒に暮らしているんですよ。そこが幻想郷なのです!」
「……ッ!」
早苗の話を聞いた菫子の瞳が輝いていた。幻想郷に興味を示した様子で、自ら霊能サークル会長を名乗り超能力も使える彼女にとって妖怪の存在は妄想なのではないとハッキリわかっていた。昔から妖怪などの存在がこの世にいる……そんな気がしていた菫子の思いは今現実となった瞬間だ。
「そ、その話もっと聞かせて!」
グイっと早苗の肩を掴んで輝いた瞳を早苗に向ける。そんな瞳を向けられた早苗は鼻が高くなっているように見えていた。
原作とは違うけど、これで幻想郷のことを知るきっかけになっちゃったわね……私達がその役割を負うことになるとは思わなかったなぁ……けどいいわ。菫子ちゃんは隠していた超能力を使って早苗を助けてくれたんだから隠し事なんてして信頼を失いたくない。それに他人を見下す傾向はなりを潜めているし、私達のことは少なからず信頼されている。その信頼に応えたいと思った。だから私達のことは包み隠さずに話そう……とその前にここで話し込んでしまったら夜になっちゃうわ。続きは家に帰ってからにしないと。
「話を聞きたい気持ちはわかるが、もうすぐ夜だ。帰りが遅くなったら菫子ちゃんのお母さんも心配する。帰ってからゆっくり話してあげるから」
「あっ、そ、そうですね……けど、帰ったら根掘り葉掘り聞きたいこと山ほどあるので覚悟してくださいね!」
その夜、天子と早苗は事情を話して幻想郷からやってきたことを打ち明けるのであった……