それでは……
本編どうぞ!
「天子さんお久しぶりです」
「そんなにか?私と早苗がこちらに飛ばされて結構経っていたしそれもそうか」
小さな体でこの世界ではどう見てもコスプレしている光景にしか見られない猫耳を生やした橙が幻想郷から天子達の居場所を突き止めて迎えに来たのだ。
「さぁ天子さん、幻想郷へ帰りましょう。神奈子さんと諏訪子さんが早苗さんを心配し過ぎて倒れてしまったのですにゃ。だから早苗さんも早く帰らせてあげないと」
「ああ……あり得る話だな。親は子に似るって言うし……逆か?まぁどちらにせよ少しだけ待ってくれないか?」
「わかりました」
天子はそう橙に伝えて一度家の中に入った。そこではまだ二人が楽しく談笑している姿があった。それを遮る形になるがそれでも伝えなければならないことだった。
「早苗、ちょっとこっちに来てくれ」
「それで神奈子様と諏訪子様がですね……およ?なんですか天子さん?」
「どうしたの?」
「菫子ちゃんはそのままで、早苗と二人きりで話がしたいんだ」
「二人っきり……ま、まさか天子さん!私があまりにも可愛いからって愛の告白を!?」
「ええっ!?」
いつもの早苗の妄想に頭が痛くなりそうだったが、橙を待たせてあることもあり堪えてやり過ごす。
「……早苗冗談はそれぐらいにしておけ」
「ええー!冗談じゃないんですけど!!真剣と書いてマジですよ!!だって私って可愛いですもん♪」
「告白じゃないから……とりあえずこっちに来てくれ」
「告白じゃないならなんなんですか……はっ!?まさか私に乱暴するつもりですか!?エロ同人みたいに!!」
「するかバカ!!!」
天子は早苗の首根っこを掴みズルズルと引きずりながら連れて行った。「いや~ん初めてが奪われる~!!」とか言っていたが鈍い音と共に静かになる……そして菫子は一人ポツンと残された。
「ほぇ~橙ちゃんのコスプレした子なんてよく見つけましたね?」
「本人だ」
「またまた~天子さんは冗談うまいですね♪」
「……はぁ」
目の前にいる橙がコスプレした子供だと思っているタンコブを生やした早苗にまた頭が痛くなる天子である。
「あの早苗さん、橙は本物です」
「およ?そうなんですか?」
「はいですにゃ」
「そうなんですか……それじゃオリジナル橙ちゃんはどうしてこんなところに?」
「おりじなる……?それは天子さんと早苗さんを迎えに来たんですにゃ!」
早苗が首を傾げていてしばらく考えていた。いきなりで色々と頭が追い付いていないのだろう……しばらく考え込んでいた早苗だったが……
「えええええええええええええええええ!!?」
「声が大きい!!」
「むぐっ!?」
早苗の絶叫が響いて近所迷惑になるため、天子は早苗の口を塞いで黙らせた。しかしそれぐらいの驚きであることは間違いない。
「早苗、驚くのはわかるが静かにしろ。いいな?」
「むぐむぐっ!」
首を縦に振る早苗を確認すると手を離して自由にしてやると橙に詰め寄った。
「そんなこと急に言われても心の準備ができていません。それにまだこっちでやりたいこといっぱいあるんですよ!まだ読んでいない漫画やゲームに食べ歩きに旅行すらまだ行っていないのですよ!!」
「それはわかっています。でもいつまでもこうしていると皆さん心配していますにゃ。神奈子さんも諏訪子さんも衣玖さん達も心配していますし……それにいつまでもここに居るとお二人は力を失ってしまい空も飛べなくなってしまいますにゃ!」
「力を失う?」
「橙、どういうことだ?」
早苗と天子は橙の言葉に反応した。それを橙は順を追って説明していく……
橙によれば天子は元々幻想郷の住人故に長い間いれば、天人と言う存在が架空の存在だと認識されているこの世界では次第に自身の存在を保てなくなると言う話だ。すぐにと言うわけではなく徐々に存在を保てなくなり最終的にどうなるか不明らしいが、危険であることには変わりはない。早苗は元々この世界の住人であったが、幻想郷と言う繋がりを持ってしまったために存在が固定化されて次第に完全に力を失うのだとか……
天子と早苗がこの世界に来て能力が使えなくなったのもその原因らしい。今はまだ二人共そこまで悪影響を及ぼしていないがその内に何か起こることは避けられない。
話を聞いた二人の顔には明るさはなかった……
「辛いかもしれないですけど、お二人のためなのですにゃ!」
「……わかった」
「天子さん!もうここからバイバイするつもりですか!?」
天子が了承したのを見て早苗が反論する……だが天子自身はそれほど落ち込んではいなかった。何故なら……
「大丈夫だ早苗、私達が帰ってもスキマを使ってまたこればいいじゃないか」
「……お、おお!そうでしたね!その手がありました!!流石天子さんです!!数々の女性を丸め込んだだけはありますね♪」
「褒めていないだろ……って言うか丸め込んだ憶えはないぞ!!」
「~♪ハーレムになった気分はどんな気持ちですか?ねぇどんな気持ちですか?
「(イラッ!)」
「……あの……一つ言っておくことがありますにゃ」
「「……?」」
橙は神妙な面持ちで二人に何かを伝える……それは……!
「それじゃ天子君も早苗ちゃんも帰っちゃうのね……」
「はい……明日帰ろうかと」
「寂しくなるわ……もうあの美味しいご飯が食べられないかと思うと……ああ……!」
「大丈夫です!毎回は無理ですが時々遊びに来ます!」
一度橙は幻想郷へと戻っていった。残された天子と早苗は丁度そのタイミングがで帰って来た菫子の母親をも交えて明日幻想郷へと帰ることを伝えた。母親は寂しそうにしていたし、菫子はずっと俯いたままで何も話さない。
「……」
「……それじゃ、今日はもう寝ましょうか天子君、早苗ちゃん。私はちょっと菫子とお話があるから」
「……わかりました。行こうか早苗」
「……はい」
居間から二人が出て行った後には沈黙が辺りを支配する。今も俯いたままの菫子を抱きしめる。
「大丈夫よ、二人はただ帰るだけなんだから……ね?寂しいのはわかるけど、また会えるって言ってくれてたでしょ?」
「……うん」
「菫子は天子君と早苗ちゃんにお友達になれた?」
「……うん」
「よかった。友達になれたのだから……明日は笑顔で見送りましょう。寂しいのは少しの間だけだからね?」
「……うん」
抱きしめられた菫子の呟く言葉は震えているようだった……
「「……」」
扉の外で聞いていた二人はとても悲しい思いに浸ってしまった。何故なら菫子と再び出会うのは彼女の記憶が失ってからなのだから……
「今日はとても楽しかったわ。それにご飯もデザートもとても美味しかったわよ天子君」
「ありがとうございます」
「本当ならまた明日にでも作ってほしいけど……」
「……大丈夫です。次に会う時に必ず作りますから」
「ふふ……菫子、あなたも黙り込んでないでさよならの挨拶ぐらいしなさい」
「……」
夜中、宇佐見家の庭に集まっていた。天子と早苗が幻想郷へと帰ってしまうため菫子と母親は見送りに来た。二人がこの家に居るのも今日まで……やりたいことをやった。
買い物にゲームにパーティーと楽しめるものであった。それでも帰る時になってしまうと菫子と早苗はお互いに俯き菫子の母親もどこか悲しいそうな瞳であった。それでも笑顔を絶やそうとしない……
「こら菫子、お母さんとの約束忘れちゃった?」
「……忘れて……ない」
「なら……笑顔でいなきゃね」
「……」
ゆっくりと俯いた顔を上げれば今にも泣きだしてしまいそうな表情を我慢して笑顔を作っていた。
「早苗も……ほら、菫子ちゃんは笑顔だぞ。早苗は笑顔になれないか?」
天子は早苗に諭すように優しく語り掛けた。ゆっくりと顔を上げたその瞳は強い意志が籠っていたのを天子は見た。
「菫子さん、私達は今やフレンズです。そしてこれからも……だから……だからさよならなんて言いませんよ!今度会った時はベッド下の秘密を暴いてあげますから!」
「なによそれ……そんなものないわよ。それよりも……今度は早苗が言う奇跡を見せてもらうからね!」
「ガッテン!私が起こす奇跡に度肝抜かれるといいですよ!!」
「ふふ……♪」
「ふふん♪」
「……若いっていいわねぇ……」
「菫子ちゃんのお母さんもお若いですよ」
「天子君はやっぱりいい彼氏さんね、早苗ちゃんが幸せ者ね」
「えっ!?いや、私と早苗は恋人関係じゃないのですが……」
それぞれの別れを惜しんでいるとスキマが現れて橙が迎えに来た。時間通りであり、これで天子と早苗とはお別れの時である……
「……天子君、早苗ちゃん……またいらっしゃいね。お母さんも菫子も待っているわ!」
「……今度は私の方から行くわよ!自分のこの超能力で会いに行くから!!」
その言葉を聞いたのを最後にスキマは閉じた……
「……あら?菫子こんなところで何をやっているの?」
「えっ?お母さんこそ……なんで?」
「変ね……遂にボケちゃったのかしら……嫌だわ」
「う~ん……何か私……忘れているような……」
「それよりも中に入りましょう。明日学校なんだから風邪を引いたら大変よ」
「……うん」
親子はいつも通りの生活へと戻っていき、変わったところと言えば菫子とクラスメイトが一緒に登校している姿や以前よりも彼女は明るくなって窓の外を眺めている姿を見るようになったことだろう。しかしその原因の二人のことは思い出さぬまま彼女はまた学校へと歩き出している……
「……もう私達のこと忘れてしまったでしょうね……」
スキマから帰って来て出迎えてくれたのは橙だけだった。気を利かせてくれたのか傍にいるのは天子だけだったのでなんでもいいから吐き出したい気分の早苗はボソッと呟いた。
「……記憶は消えたとしても思い出があるさ。それに……また会える」
「……私達から行けばいいですが……頻繁には行けませんし……会っても見知らぬ人としか見てもらえないかも……」
早苗はいつになく落ち込んでいた。だが、天子は希望があるのを知っている。
「大丈夫、思い出は体に染み込んでいる……そう簡単に消せないように色濃く残っているさ。きっと近いうちに会えるさ……きっとな」
「……そうですね。今度私の奇跡を思う存分に菫子さんに見せてあげますよ!!」
天子と早苗と出会い過ごした記憶は消えても思い出は残っている……そう信じて天子と早苗はいつも通りの日常へと戻って行くのであった……
「見つけたわよ」
「ま、まさかこっちにまで追ってくるなんて!ねぇもう許してよ」
「もう茶番は終わりよ。あなたは今保護する対象に入った」
「そんなこと言ってまだ帰してくれないのー?」
後に意外な形で彼女は……
「私は楽園の巫女 博麗霊夢である!」
オカルトボールというアイテムを使い……
「どうあっても結界は守る!」
一人の巫女で対峙する……
「そして人間を軽々しく死なせるもんか!」
宇佐見菫子は……
「人間界 最期の夜を」
「幻想郷 最初の夜を」
まだ知らない……
「遺伝子の奥底にまで刻み込め!」
「悪夢を見飽きるまで刻み込め!」
記憶にはない楽しい思い出と共に過ごした二人がいることなど、この時は夢にも思わなかった。