ゆっくりしていってね!!!
それでは……
本編どうぞ!
84話 最凶最悪の貧乏神
「……遂に来たか!」
「どうしました天子様?」
「いや、なんでもない独り言だ」
「……?」
いつも通りに書類にただサインするという簡単なお仕事(量は山積み)をベルトコンベヤーの上に流れてくる不良品を取り除く要領で淡々とこなしていた時に一つの情報が飛び込んできた。
『なにやら地上が騒がしいようです』
天界の天人の娘が報告しに来た。たとえ地上が騒がしくとも天界には関係ないことなのだが、最近天子が地上を気にしていることは周りの目から見ても一目瞭然だった。そのため気を利かせてくれた娘が報告に上がってくれたのだった。
報告を終えた娘は去り、天子は全てを察していた。
「……衣玖、すまないが少々下界を見てみたい」
「どうされたのですか本当に?」
衣玖は首を傾げて不思議そうにしていた。
「……異変だ」
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私は比那名居天子……ただの総領息子である。
最近は天界で大人しくしていた。早苗と外の世界で暮らしていた間に幻想郷中の皆には迷惑をかけてしまったのだった。そのおかげで早苗と幻想郷に帰って来た後は散々な目にあった……
萃香には背骨が折れてしまうのではないかと思うぐらいに抱き着かれたり、神子にも抱き着かれお気に入りの服が涙と鼻水でべちゃべちゃに……涙はまだいいけど鼻水はやめてほしかった。妹紅には焼かれるわ(物理的に)妖夢を泣かしてしまうわ(泣き姿可愛かった……天使かな?)幽香さんからは笑顔でアイアンクローされた……なんで?そして華扇さんからは説教&説教だった。みんな心配してくれていたし本当に頭を下げ続ける毎日が続いていたぐらいだった。それにしても橙と藍は現れたのに紫さんは現れなかったのはもしかして避けられている?まさかね……
まぁ色々とそのことがあって私は反省を含めてしばらくは厄介事に巻き込まれないように天界で大人しくするしかなかった。私がどこにも行かないことで衣玖の機嫌が毎日良かったのは言うまでもない。
けれど嬉しいこともあった。なんと私と早苗のことを忘れてしまったはずの菫子ちゃんと出会えたのよ!出会いは偶然だったけれど、私と妹紅がみすちーの屋台で一杯やっているとそこに現れたのが菫子ちゃんだったのよ。突然の事に酒を吹きかけたのを憶えている……妹紅とは異変の時、激闘の末にお互いを称え合い、友人のような関係になっていたので別におかしいことはなかったのだけれど色々と思うことはあった。初対面を装おうか迷ったけど杞憂に終わった……記憶は失っても過ごした時間は失うことはなかった。私を見つけた瞬間に菫子ちゃんは泣いてしまった。妹紅には「お前また手を出したのか!!」と怒られたが無実だと身の潔白を証明しようとしたら菫子ちゃんに抱き着かれて更に怒られた……解せぬ。
こんなにも早く思い出してもらえるとは思っていなかったが嬉しい誤算なのは間違いない。短い間だったけれど、あの時間は忘れたくても忘れられない絆として残っているのが証明されたのも同然だったのだから。
何故ここに菫子ちゃんが居るのか……原作同様に幻想郷のことを内側に秘めたからか、彼女は寝ている間だけ幻想郷に入れるようになったおかげで時々夢と現実の間で会えるようになり、後日守矢神社へ訪れた時は早苗とも感動の再会を果たした。それから近いうちに菫子ちゃんの自宅に訪れようかと思っている。きっと菫子ちゃんのお母さんも思い出してくれる……だって「時々遊びに来ます!」と約束したしね。大丈夫よ……きっとね。
天子には不安はなかった。菫子は天子と早苗のことを憶えていてくれたし、きっと母親も憶えていてくれている……また外の世界へ行けるように用意は怠っていない。それまではいつも通りの日常に明け暮れるのであった。
そして今地上では……いえ、幻想郷では新たな異変が起きていたようだった。
【東方紺珠伝】東方を知っている人ならばこの作品のえげつなさは忘れられないだろう。従来のストーリーに比べて異変の規模が桁違いに大きく、それに比例して弾幕の難易度も高い。初見ではクリアできないようなパターン化必須の弾幕が多いのが特徴的で何度も泣かされたか……忘れんぞあの屈辱は!!!
玉兎×2匹にドレ顔さん&片翼の女神、鬼畜ピエロ(←マジ許早苗!)に人妻(鈴仙LOVEの人)そして変Tと言う後ろの三人組はインパクト大で印象に残ってしまった。記憶に刻み込まれた深い傷(特に鬼畜ピエロの弾幕)に関われなかったことが少し残念であったが無事に異変を解決したようだ。霊夢と魔理沙は流石ね。早苗は変Tに血祭りに挙げられたとかこの前遊びに来た萃香が言っていたな。鈴仙にとっては関連深い異変だったわね。まぁそんなことが終わり私はソワソワしていたのだ。それは何故か……東方のナンバリング通りならば次に起きる異変は決まっている。次の異変は私……いえ、比那名居天子が大きく関わるキャラが登場するのよ。カップリングが必然的に作られる程の関りが深い相手だから私も今か今かと待ち続けて来てようやくである。
【東方憑依華】それが今地上で起きている異変だった。
「何が見えるのですか天子様?」
「……霊夢が戦っている」
下界に目を向ければそこでは霊夢は青色の髪をなびかせている少女と戦っているのが見えた。そして最近私に構ってくれない紫さんと青髪少女の妹もいる(憑依している)のは間違いない。何故わかるのか、私は目が良いからその気になれば地上の様子を天界からでも窺えるのだ……チートですって?なにを今更のことを。そんなことよりも青髪少女が私は気になっている。それもそのはずよ、彼女こそが
天子は地上での異変騒動の終幕を観戦していた。霊夢の前に立ち塞がる『最凶最悪の双子』の二つ名を持つ姉の方に視線が最後まで釘付けになっていたのだった。
「衣玖出かけて来るぞ」
「今度はどんな女性を娶る気なんでしょうかね……」
「ご、ごかい……誤解だ衣玖……決してやましいことなど考えてないぞ?」
「ふ~ん……」
私がその子に会いに行こうとしたら衣玖に疑惑の目を向けられた……なんで!?そんなに私は女の子をぽいぽい寝取っているような言い方やめてほしいんだけど!!?いや衣玖の言う事はわかるんだけれども、今回は私が出向いてあげないとあの娘見ていられないのよ。
家の裏側でポツンと一人で段ボールの中にいる姿を見ていた。そんな姿を見つけてしまって私には耐えられない。あの子の存在があそこだけスラム街の雰囲気を醸し出していた……私の良心が早く行けよ行けよと叫んでいるの!あの子も私が必要なはずだから行くしかない!ごめん衣玖!!
「……というわけでな、衣玖よ夕飯は要らない。用事が済めば戻ってくるぞ」
「まったく……いつもいつも私に心配ばかりかけて……でも待っています。最後は私のところに帰って来ると信じていますからね?」
ああ……衣玖はやっぱり優しいわね。今回はそのお言葉に甘えよう。
「ああ、それじゃ行ってくる」
天子は地上へと降りていった。
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「それでね奥さん聞いてよ」
「まぁ!それって本当?」
「おかあさんあれかってー!」
「これとあれください」
「まいどありー!!」
ざわざわと飛び交う声や行き交う人でいっぱいの人里から少し脇道に逸れた裏路地にポツンと一人の少女がいた。人一人が入れる段ボールの中で体育座りをしながらボケっと空虚を見つめ続けているみすぼらしい姿の青髪少女……段ボールには『誰か拾ってください』と書かれた紙が張り付いており、通りがかった人々は彼女を見るなり関わり合わないように目を逸らしていた。彼女の存在のせいでここだけがスラム街であるかのような錯覚を受けてしまう。
「……はぁ……」
何度目のため息だろうか?自分でも憶えていないぐらいため息を吐いていた。
【依神紫苑】
青のロングヘアーと薄汚れたパーカーに青のミニスカートを着用している。『貧相』と言ってよい出で立ちで、パーカーの下に下着も着ておらず、足元は靴はおろか靴下すら履いていない。服やリボンには「請求書」「差し押さえ」「督促状」といった札が大量に貼られている。黒猫と思しきぬいぐるみを所持しており、いつもやる気のない表情をしている。
『最凶最悪の双子の姉』と呼ばれており彼女自身は貧乏神である。能力も『自分も含めて不運にする程度の能力』で自分自身で能力を制御できないためいつもひもじい思いをしている。
「ひもじいよー 恵んでよー」
ボソリと紫苑は呟いた。周りには誰もおらず手を差し伸べてくれる相手もいない……紫苑は妹と共に異変を起こした。しかし博麗霊夢と八雲紫によって解決されてしまい、異変の目的は疫病神である妹が不特定多数の人に取り憑いて、富を巻き上げそのおこぼれにあずかることであったが叶わなくなってしまった。
異変後でも、能力を制御できない貧乏神である彼女は誰からも嫌われ、どこにも引き取り手が現れないという不運が続き、仕方がないので元々貧乏な博麗神社で過ごすことにした。だが、先日賽銭箱が爆発するという謎の事件が起こり霊夢は怒り心頭……原因は紫苑の能力で霊夢に不運が訪れたのだった。博麗神社から追い出されてしまい途方に暮れていた……というのが現状で会った。
ぐぅ~ッ!
腹の虫が鳴り響き、ひもじい思いをしている紫苑に追い打ちをかける。だが紫苑にとっていつものことながらやっぱりこればかりは慣れたくないものだ。お腹を空かせて今日も雑草を探すことになるのかと思っていた時だった。
「そこのお嬢さん、良かったらこれを差し上げましょうか?」
声だった。気がつくと目の前には自分よりも美しい青髪を風になびかせる凛々しい姿をした男性が立っていた。そして手には袋に山積みの饅頭が入っていた。それを見つけた瞬間、紫苑の口から涎が留めなく流れて滴り落ちていく。傍から見ればドン引きの光景だが、その男性は一向に笑顔を崩さない。
「お腹空かせているのだろ?どうぞ」
「――ッ!?」
紫苑の鼻の先に差し出される饅頭……瞳はその饅頭に釘付けとなり甘い匂いが鼻につく。紫苑は堪らずその饅頭を奪い取り口の中へと押し込んでいく。
甘い……一口噛みしめる度に口の中に広がる甘さを感じながらもほとんど噛まずに飲み込んでいく。味わうよりも先に胃を膨らませようと体が動いていた。そのため急いで口に押し込んでしまったために紫苑は咳込んでしまった。
「――ゴホッ!ゴホッ!!」
「そんなに勢いよく食べなくてもいいぞ。こんなにあるからな……これを飲め」
差し出されたのは水であった。その水を勢いよく口の中へと流し込み、再び饅頭を押し入れていく。その作業の繰り返しで紫苑が気がついた時には袋に山積みだった饅頭はいつも間にか空になっており、紫苑のお腹はポッコリと膨らんでいた。満足した紫苑の表情はそのまま天国へと召されてしまうのではなかろうかと思ってしまうほどに晴れやかだった。
「うぷっ……食べ過ぎちゃった。けどいつ食べられなくなるかわからないからこれぐらいでいいよね♪」
でっぷりと突き出た腹を撫でながら満足そうにしている紫苑はこの瞬間幸せを味わっているだろう。先ほどまではガリガリにやせ細った少女が今では腹の貯蔵庫に貯められたのは饅頭ばかり、しかしそれでも彼女にとってこれほどお腹を満たすことができたことは幸せ以外の何物でもないと断言できる。
「食べ過ぎは良くないぞ。それに早食いは体に毒になる。次から注意するようにな」
「は~い……ところでお兄さんは……誰?」
「ああ、私は……」
「ああー!!?」
自己紹介をしようとした時に新たなる声が裏路地に響き渡った。その声に驚き、声の主の方を天子と紫苑が振り返る。
「姉さんが……姉さんが……姉さんが!!?」
わなわなと体を震わしながら顔を真っ赤にしたド派手な装飾品をつけた少女が立っていた。
「姉さんが孕まされている!!?」
「「違うから!!?」」
男性と紫苑の叫びが同時にこだました。
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「――ってなんだ。てっきり姐さんを餌付けして性欲をぶちまけたのかと思ったわ」
「女の子がそんな下品な言い方は止せ」
男性は誤解だと主張しド派手な少女はようやく納得したようだった。
男性の正体は既にわかっていると思うが当然ながら紫苑を探しに来た天子だった。そしてド派手な格好の少女は紫苑の妹である疫病神の女苑であった。
【依神女苑】
小さいシルクハットにサングラスを着用し、そして茶髪お嬢様縦ロールである髪型。さらにジャケットとミニスカに加えてネックレスに指輪とブランドバッグなど各種アクセサリーで煌びやかに着飾った格好をしている。
泣く子も黙る疫病神であり、姉の紫苑は貧乏神と最凶最悪のコンビである。
あぶな……私もう少しで変態にされるところだったわ。そんな噂が立ったら社会的に死んでしまう……誤解が解けてよかった。それにしても女苑が現れるとは思いもしなかった。今は異変騒動が終結して一時的に命蓮寺に引き取られ更生させられることになっていたはずだけれど……?
「女苑は何しに来たの?」
「それは姉さんが心配になっ……ゴホン!姉さんの哀れな姿を見に来たのよ。私がいないと何もできない姉さんを笑ってやろうとここまで来て上げたのよ。感謝しなさいよね」
はは~ん、姉の紫苑のことが心配で様子を見に来たわけね。口ではこう言っているけど根は良い子って言うわけか。とても良質なツンをいただきましたありがとうございます!
「それはそうとあんた誰よ?姉さんに餌付けして一体何が目的なの?」
女苑は疑いの視線を天子に向ける。見ず知らずのしかも男が道端でひもじい思いをしている少女に食べ物を恵むなど傍から見れば怪しさ満点であった。
「私は比那名居天子、ただの天人さ」
「天人?もしかしてお金持ち?」
「……そうだな、少なくともお金は人よりも多く持っているぞ」
「そう♪」
女苑の瞳の色が変わった。まぁ私のお金を狙っていることは確かね……異変で懲らしめられても彼女の性格は直せないわけか。けれどこう見えてもとある夢の人物に「貴方は本当は慎ましく質素に暮らしたいのね」とのこともあり、疫病神という種族の持って産まれた性なのか金品を奪い派手に着飾り散財する彼女の振る舞いと、慎ましく質素に暮らしたいという彼女の内面が非常に素敵だと思わない?たとえ財産目当てで近づかれても不快な気分はしない。寧ろ取り憑かれてて毎日一緒に背中洗いっこしたいです!あっ、私の体は男だった!?そんなことしたら本当に社会的に死んでしまう!ちくしょう!!
やるせない思いが渦巻いているが、天子はハッとする。目的をすっかり忘れるところであった。
「女苑の噂は聞いている。私の財産目当てであろう?残念ながら丁重に断らせていただく(本当は取り憑いてほしいけど!)」
「やっぱりね、そう簡単にはいかないものね。顔もいいし優良物件だと思ったのにね……それで肝心なことはまだ終わってないわよ。姉さんに何するつもりだったの?」
「そうだな……強いて言うならば……紫苑」
「ん?なに?」
「私に世話されてみないか?」
「「……はっ?」」
こうして天子は最凶最悪の双子と出会ったのであった。