それでは……
本編どうぞ!
「それで?姉さんを餌付けしてどうするつもりなの?」
「私はただ……」
「ただ……なに?『私に世話されてみないか?』って言ったけど、こんな貧乏以外に取り柄の無い姉さんを養うなんて何を考えているの?まさか姉さんの貧相な体目当てで本当に孕ませるつもりなんじゃないの?」
「それは違う!断じて!!」
私はとても困っております。何故なら女苑に疑いの視線を向けられて、その視線は私を変態として捉えている……解せぬ!わかるよ、彼女の言いたいことは同じ女性だからわかるよ。いきなり見ず知らずの男性から声をかけられて食事&裕福な私生活を提供しようとする人物が近づいてきたら警戒するのは当たり前のことだけれども、その視線を私に向けないで!その変態扱いする瞳が私のメンタルを削ぎ落としてしまうから!!
「まぁまあ、女苑の言いたいことはわかりますが彼、天子さんはそんな破廉恥な方ではありません。私が保証しますよ」
「むぅ……」
天子達は詳しく説明するために場所を移した。女苑が提案して命蓮寺へと決まり、聖白蓮も踏まえての会談中に聖は天子を擁護する。聖は天子の人としての良さも今までの活躍も知っており、女苑の姉である紫苑の世話を買って出ても邪な考えを持つわけがないとわかってくれていた。それに対して女苑と天子は先ほど初めて会ったばかりで信用がないのは当然だ。だから天子を怪しい人物として捉えている……それに男が一応貧相でボロ雑巾のような身なりの紫苑も女、それに女苑は口では何かと姉に対して厳しく言うが心の中では心配で気になって仕方がない。天子に某謙虚なナイトのように「マジで親のダイヤの結婚指輪のネックレスを指にはめてぶん殴るぞ」と言わんばかりに噛みついて来る……もしも紫苑に何かあれば相手が誰であろうともぶん殴るだろう。彼女ならばやりかねない……それ程に大切にしているようだ。
女苑は聖と知り合ったのはごく最近だが、彼女の言うことは信用できる。その聖が言うのだから警戒を解いてやってもいいかもしれないが、そこは姉を守る妹として譲れない。そして何よりも嫌な予感がしていた……大事な姉をどこの誰かもわからない自称天人と主張する男に取られてしまうのではないか……と。
「……姉さんはどうなのよ?姉さんも信用できないでしょ?」
「う~ん……」
「泊めてもらってありがとう聖、そして……すまなかった」
「……ごめんなさい」
「いいんですよ天子さん、紫苑も謝る必要なんてありませんよ」
昨日は聖のご厚意に甘えて命蓮寺へと泊まることになった私達だったんだけれど……紫苑の能力がここで発動してしまうなんて予想もしていなかった。紫苑の『自分も含めて不運にする程度の能力』は紫苑自身でも能力を制御できないもので、誰にでも不運にしてしまう能力だ。それにより昨日の命蓮寺で数々の不運が巻き起こった。
数々の不運……例えば星なんかは大切にしていた宝塔がなくなったり(いつものことか)ナズーリンのダウジングロッドがポッキリと折れたり、村紗と一輪が隠していた秘蔵の酒が全て割れてしまったり(当然聖にお仕置きされた二人)響子ちゃんの喉に魚の骨が刺さってしばらく声が出せなかったり、ぬえは何故か背中の翼(?)が抜けてしまったり、マミゾウさんは持っていたお気に入りの煙管が壊れたりと散々だった。
そして一番の被害は聖だ。何故なら何もしていないのにいきなり服が弾け飛んだ……しかも全員が揃う食事時に。昨日に限って聖はサイズが小さくなった(特に胸のあたり)服を着用していた。理由は他に着る服が洗濯中であった為に仕方なく無理やり着ていたんだとか。それが聖のナイスバディに耐えられずに全員の視線が集まる場で弾け飛んだようだ。顔を真っ赤にして恥ずかしさに耐えられず泣き出してしまった聖がやたらと可愛かった♪それにしても胸がキツイだなんて理由で服が弾け飛ぶとは……これが不運にする程度の能力か。いや、それ無しにしても聖の胸は大きい……これが大人の魅力ってやつね。私とは大違い……元天子ちゃんがこの場にいればブチ切れていただろうね。
聖の表情は少し赤かった。それもそのはず、昨日全員の目の前で裸体を晒してしまったのだから当然その場には天子がいた。すぐさまナズーリンに目を塞がれて肝心な箇所は見えなかったが、あの光景は忘れられることはないだろう。お互いに気まずくなる為あえて話題を避けているのは必然であろう。
これも紫苑の能力が制御できないことで発生した因果だと思われる。しかしこの出来事の中で天子は確信した。元々そうなのではないかと思っていたが、昨日の命蓮寺で起きたことで無事だったのは天子と女苑の二人だけだった。女苑は疫病神だから姉である紫苑の能力が及んでも意味をなさないのか不明だが、昔から一緒にいる。その時から能力に悩まされることはなかったらしい。女苑は姉妹である為に理由は大体納得できるが、天子は血縁関係でもない。それなのに一切の不運に見舞われることはなかった。それは原作と同じで天子には紫苑の能力が通じないようだった。それを今回の件で確信を得られたのは大きいことだ。原作と違い天子が男性として生きている為に、知らない異変が起きて差異が生じている。もし紫苑の能力が自分に通用するようになっていたら何かと不便になってしまうと思っていたが杞憂に終わったことでホッとした。
「姉さん……本当にいいの?」
「うん、この天人様についていくことにした!私の能力も跳ね除けちゃうなんて凄いし、それにタダで食べさせてくれるんだから何の問題もない!寧ろ天人様に出会えて私は幸せ者!!」
紫苑は本当に貧乏神なのかと思わせるような煌々とした笑顔を浮かべてこれから待ち受ける数々の料理を想像して涎が溢れ出ていた。
「姉さんはしたない」
「じゅる……ごめん、けれど今から待ちきれないのよ♪」
「もう……ダメダメな姉さんね。ねぇあんた、こんなダメな姉さんだけど襲おうなんて考えないようにね」
「わかっている」
「ホントかしら?こんな不潔な姉さんの世話をしたいとか言い出す男はみんな変態なのよ」
私もう泣いていい?泣いちゃうわよ?女苑の棘のある言葉が心にぶっ刺さって痛い……私は変態じゃないわよ~!中身は純粋な女の子なのよ~!綺麗な心を持っているのにそんなこと言われたら悲しいわよぉ……
紫苑を当分の間は天界で保護することになった。そのおかげで妹の女苑からはますます疑いの目を向けられている天子、一日そこらで信用しろなんて無理な話でもあり、あっさりと乗って来た紫苑の方が警戒心が薄すぎやしないかと心配してしまう。
「いけませんよ女苑、それでは天子さんお気をつけて」
「ああ、行こうか紫苑」
「うん、女苑またね!」
「あっ……」
天子と共に行ってしまう紫苑の背中を姿が見えなくなるまで眺めていた女苑はどこか寂しそうにしていた。
「あむあむ……う~ん!!!お・い・し・い~♪」
テーブルに並べられた様々な手料理を舌鼓を打ちながら味わう貧乏神こと紫苑はこれでもかと満面の笑みを浮かべて、口を膨らませて満足していた。その様子を傍から見つめるのは天子と衣玖だ。
「幸せそうですね彼女」
「ああ」
衣玖と天子は次から次へと口に料理を絶え間なく入れていくも、幸せな表情を見ていると注意することも忘れてしまう程に心が晴れていた。
癒されるわ……紫苑は本当に美味しそうに私の手料理を食べてくれている。それだけで心が満たされるわ♪貧乏神で能力の性質上、いつもひもじい思いをしている紫苑が食事にありついている姿を見ているだけで、東方ファンとしての私は感激している。ただ漫画で天子が紫苑と一緒にいるのを眺めているだけであった私自身が紫苑に手料理を振舞っているのよ?これ以上の感動はあるかしら?いやないでしょ!!
天子は内心興奮してこの光景を脳内メモリーに保存するのであった。
「衣玖、いきなりですまなかった。どうしても彼女を放って置けなくてな」
「わかっていますよ。天子様はお優しいですからね」
「そんなことはないさ。ただ彼女とは運命的な縁があってな」
「運命的な縁……ですか……」
おっと私ったらまずいこと言っちゃったかしら……?衣玖の視線に鋭さを感じる……このままだとダーク衣玖になってしまう。誤解なのよこれは【てんしおん】と言うカップリングで……あれ?私は男だし、紫苑は女だからこのカップリングただのカップルになっちゃうんじゃ……?いやいや待て待て、紫苑とはフラグなんか立ててない。ただ恵む者と恵んでもらう者との関係よ。だから私はまだ手を出していない……だから衣玖、その視線はやめて!光が消えかかっているから!ダーク衣玖にはならないで!!と、とりあえず話題を変えないと……
「そ、そうだ衣玖!紫苑の能力のことは把握しているな?」
「……はい、『自分も含めて不運にする程度の能力』でしたね」
「そうだ。そのせいで紫苑の傍にいる衣玖にも被害が及ぶかもしれないのだ。私は天人としての格の違いが左右しているのかわからないが、私自身には影響がなかった。私は紫苑の傍にいることは問題ないが、衣玖に迷惑がかかってしまうかもしれないのだ」
「……それで、私はどうすれば?」
「影響がなければいい……だがもしもの時は考えないといけない」
「大丈夫ですよ。私は気にしませんから……私は天子様が傍に居ればそれだけで幸運……いえ、幸せなんですから」
「衣玖……」
素敵過ぎるわよ衣玖……私泣いてしまいそう……今晩は衣玖に秘蔵のお酒を振舞ってあげないと!
「そうか……ならば衣玖、紫苑を共に養っていこう」
「はい、天子様」
こうして紫苑は天界で天子と衣玖と共に生活することになった。
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「ねぇ村紗、あの子どうしたの?」
「最愛の姉を取られちゃって不機嫌みたいだよ。いつもは自分の姉のことなんて何とも思っていない態度取っている癖にさ」
「あら、そうだったのね。可愛いところあるじゃない♪」
「あんたら聞こえているわよ!!」
「おっと、一輪逃げるよ!」
「そうね。姉想いのこわ~い疫病神様に酷い目に遭わされる前に逃げないとね♪」
「誰が姉想いよ?!」
「はぁ……はぁ……に、逃げ足の速い奴らめ……誰が姉想いよ誰が!?」
息があがって……はぁ……はぁ……落ち着きなさいよ女苑……はぁ……もう大丈夫……くそっ!あんの酒飲みコンビめ!次会ったら財布の中のお金干乾びるまで搾り取ってやるんだから!!
女苑は流れ出る汗を滴らせながら己の体力の無さを恨む。この命蓮寺の連中は聖の説法によって体力がついていた。それに比べて女苑はごく最近ここへと厄介になったばかりでもあり、厄介になりだしたばかりの頃しか真面目に取り組んでいなかった為に村紗と一輪に逃げられる羽目になった。縁側で色々と考え事をしていたところを二人に揶揄われてついカッとなって追いかけたが、今思えば初めからそんなことするんじゃなかったと後悔した。
「……姉さん……大丈夫かしら……?」
急に一人になり本音がこぼれる。口では自身の姉である紫苑のことを冷たくあしらっていたがたった一人の姉である。いつも貧相でボロボロで小汚い姉ではある……いつもお腹を空かせ腹の虫が鳴り響いてうるさかった。食べ物を持っていくと満面の笑みを浮かべ、美味しそうに味わいながら噛みしめる姿に呆れてしまうこともあった。そんなこともあったけれど……
『「うん、女苑またね!」』
そう言ってホイホイとつい昨日会ったばかりの天人の元へとついて行ってしまった。貧乏神だから誰かに憑りつくことはあるけれど、あれはどう見ても飼われてしまっていた。餌をくれる主人についていく子猫のようだった。
姉さんちょっと可愛かったなぁ……って!?そうじゃない!あの比那名居天子とか言う天人に何かされなければいいけれど……もうどうしてこんなに姉さんが心配なのよ!?別に姉さんがどうなろうとその時は自業自得じゃない。もし何かあっても、私が親切心で言ってあげたのにホイホイついて行くから私のせいじゃない……けれど……何なのよこのモヤモヤ!姉さんなんてどうなったって私には関係ないはずなのに……!?
命蓮寺の中を言ったり来たりとウロウロして落ち着かない様子……自分は何故こんなにもいつもならば心配するはずのない姉のことを気にかけてしまっているのかわからなかった。そんな時に彼女は閃いた。
そうだわ……天人は高貴な人物ばかり……それならばお金持ちがいっぱいいるはず……ウシシ♪姉さんの様子も見れてついでにお金儲けもできる。あ、あくまでも姉さんはついでなんだからね!つ・い・でに見るだけなんだからね!!そうと決まれば向かうのは……!
命蓮寺から女苑は飛び出し、ついでとは名ばかりの姉の様子を見に行くのであった。