比那名居天子(♂)の幻想郷生活   作:てへぺろん

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ボチボチ投稿でございます。


それでは……


本編どうぞ!




86話 不運な妹

 「あむあむ!むぐむぐ!あむあむ!むぐむぐ……!」

 

 

 ここは天界の一軒家にテーブルの上に並べられた料理を一心不乱に口いっぱい頬張る少女は依神紫苑。その姿を微笑ましく見守る美男美女、事情を知らなければ仲睦まじい家族の光景にしか見えないだろう。

 

 

 「まだまだ作ってあるからよく噛んで食べるんだぞ」

 

 「そうですよ紫苑さん、そんなに急がなくても天子様の手料理は逃げませんよ?」

 

 「ごべんなふぁい(ごめんなさい)あまむにもおびしむて(あまりにもおいしくて)

 

 

 紫苑と天子の出会いは偶然……いや、必然だったろう。裏路地でひもじい思いをしていたところに天子が現れた。そして紫苑を養うこととなり、現在に至る。そして紫苑は今、人生で一番の幸福な時間を過ごしていた。

 

 

 次から次へと出てくる色とりどりの料理の数々にその美味しさはやめられないとまらない状況を作ってしまう。今日を逃してしまえば次にこれほどの料理を味わえるなど無いかもしれないと本能が先走り次から次へと手にとって口の中に運んでいく。細身の体にどれほど山盛りの料理を蓄えることができるのか疑問に思う程に紫苑は食べ進めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「むぐむぐむぐむぐむぐ……ぷぅは!美味しかった……ああ……もうお腹いっぱい~♪」

 

 

 まるまるぽっちゃり姿となった紫苑がいる。食べ過ぎて膨れ上がった体が細身だった彼女の姿からは想像できない。ここまで満腹状態になることのなかった紫苑は今までにないほどに幸せの絶頂に浸っていた。

 

 

 「ご飯に味噌汁と玉子焼きに漬物、それに魚……あれは何の肉だったのだろう?美味しかったなぁ~♪それにうどんも熱々で中に入っていたお揚げさんも出汁も……美・味♪」

 

 

 意識が遠のきかけている紫苑……無理もないことだった。彼女はいつも腹ペコでひもじい思いをしていたし、貧乏神である以上誰からも相手にされることはない。だが天子だけはそうではなかった。不幸にしてしまう能力も天人としての性質か跳ね除けてしまい意味をなさなかった。この出会いが彼女にとって最高の出会いである。

 

 

 「ふぅ……生き返る~♪」

 

 

 夜になればまた美味しい料理を味わえ更には待ち受けているのは露天風呂という待遇だ。何日もお風呂に入れずにいたあの日々とはおさらばした。今の紫苑は天国にいる気分で毎日を満喫している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日……

 

 

 「むぐむぐむぐむぐむぐ……美味しい~♪この()()()()()()とても美味しいです!もういっぱいください!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのまた次の日……

 

 

 「()()()()()って言うのですか?とても気に入りました!!おかわりお願いします!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日後……

 

 

 「もう……死んでもいいや……♪」

 

 

 幸せの泥沼に浸かり切って抜け出せずにいる貧乏神。毎日満腹に食べられるだけでなく、味も抜群に良し。こんな毎日が続いていて天子には能力が通じず、自分自身も不幸にならず、このままでは自分は本来の貧乏神とはかけ離れた生活をしていていいのかと彼女自身思っていた。だが……

 

 

 「デザートはプリンだが……食べるか?」

 

 「――ッ!?食べる!!」

 

 

 もうそんなことはどうでもいいと思えた。自分は貧乏神で周りを不幸する存在だったはず……しかしこんな幸せな毎日を送れるのも天子のおかげであった。そのため紫苑はいつしか彼にべっとりと引っ付くようになっていくのは当然であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「~ごろにゃお♪」

 

 「………………………………………………」

 

 「衣玖よ、待つんだ。冷静に深呼吸をしよう………な?」

 

 「私は冷静ですよ……冷静ですとも……紫苑さんが天子様に膝枕されていることぐらいで……ぐらいで嫉妬なんかしていません……よ……?」

 

 「ならばその殺気を向けないでくれないか?」

 

 

 紫苑が天界で暮らして数日後のある日、天界の広い中庭の一角は不穏な空間に包まれていた。

 

 

 天子の膝の上で寝転がる紫苑……いわゆる膝枕状態で夢の中に旅立っていた。そんな彼女は夢の中に旅立っているために現実で起きている状況に気づけていない。どす黒いオーラを身に纏う衣玖が自分を見下ろしており、辺り一面の空気が重苦しさに包まれていることなど知らない。

 衣玖は紫苑が天子と共に生活することを受け入れたが、やはり天子を慕う本能から嫉妬までは消せなかったようだ。本能に勝てなかったのか笑顔ではあるものの目が笑っていなかった。夢の中に旅立っていたことでこの重圧に気づかなかったことは紫苑にとって幸運かもしれない……が、天子は衣玖を宥めようと必死になっていた。

 

 

 「殺気だなんて……そんな物騒なことを誰がしているのでしょうね?」

 

 「衣玖なんだが……」

 

 「……何か言いましたか?」

 

 「……いえ(ダーク衣玖怖いよぉおおおおおお!!!)」

 

 

 こんな出来事が日常化しつつある天界で、その様子を陰からこっそりと覗いている人物がいた。

 

 

 「(姉さんったら!あ、あんな奴の膝の上で寝て……膝枕されているですって!?あの変態、姉さんを餌付けして自分の思い通りにしようとしているんだわ!)」

 

 

 中庭の岩場の陰からこの状況を見ていた女苑は危機感を感じていた。

 

 

 「(このままじゃ姉さんがあの変態にあんな事やこんな事を強要されて、断れない姉さんが……)」

 

 

 天子=変態だと決めつけていた(こんなこと思われていると本人が知れば号泣ものである)女苑はそう思った。彼女の脳内でその光景が映し出されていく……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「紫苑ちゃ~ん♪今までいっぱい食べさせてあげたんだから……おにいさんにご奉仕してくれるよな?」

 

 「えっ!?で、でも……」

 

 「嫌とは言わせないぞ。もう美味しい料理を食べられなくなってもいいのか?」

 

 「――ッ!?そ、それは嫌!!」

 

 「なら……わかっているよな?」

 

 「……はい」

 

 「でゅふふ♪寝室へ行こうか……二人っきりでとことん楽しもうな……でゅふふふふふふふ♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「(――ッなんてことに……いやぁあああああ!!きもっ!?お、おのれあの変態め!やっぱり姉さんの体が目当てで近づいていたのね!絶対に許さないわよ!!!)」

 

 

 濡れ衣である。実際にはそんなことなど無いのだが、女苑の姉に対する想いが脳を混乱状態にさせた。

 

 

 「(ぶちのめしてやるわよ!!)」

 

 

 岩場の陰から飛び出して一直線に突き進んで行く先にいるのは当然……!

 

 

 「この変態めー!!!」

 

 「だから衣玖落ち着い……なんだ!?」

 

 

 ダーク衣玖のどす黒いオーラに気を取られていた天子は岩場の陰に潜んでいた女苑の存在に気がつかなかった。気づいた時には既に女苑が拳を天子目掛けてぶっ放そうとしているところだった。

 

 

 「――ッ!?天子様の敵は〇ね!!!」

 

 

 ゴキッ!!

 

 

 「ぐふぅぶへぇ!!?」

 

 「ええー!!?」

 

 

 天子を守るため咄嗟の行動に出た衣玖の強烈な腹パンが女苑に炸裂した。ダーク衣玖状態であった為、拳に嫉妬と怒りと八つ当たりその他諸々込めて容赦のない一撃を与えたことで、彼女の体内に蓄積された胃液を全て撒き散らしながら身に付けているサングラスやシルクハットも体ごと吹っ飛ばされて無残にも建物へと激突した。これには天子も驚愕の悲鳴を上げざるをえない。

 

 

 「ちょ!?衣玖やりすぎ!!!」

 

 「すみません、少々イラっと来たものでして……捨ててきます」

 

 「捨てちゃダメだ!紫苑ちょっとどいてくれ!」

 

 「むにゃ……んぁにぃ?」

 

 「紫苑悪いが少し退かすぞ!」

 

 「ひゃあ!」

 

 

 気持ちよく寝ていたのを起こされた紫苑は天子の膝から滑り落ちた。でも寝起きなのかまだ寝ぼけているが、そんなことを気にしていられず天子はダーク衣玖に沈められた女苑の元へと駆け寄る。

 

 

 「おい大丈夫か女苑?!」

 

 「大丈夫ですよきっと、今頃閻魔様に地獄行きにされていますよ。だから放って置きましょう」

 

 「衣玖は少し黙っていてくれ!女苑、目を覚ますんだ!じょおーん!!!」

 

 「むにゃむにゃ……なにぃ天人様?あっ、女苑も来てたんだ」

 

 

 天子の叫びが天界にこだました。

 

 

 ------------------

 

 

 「うぅ……うぅ……!」

 

 「女苑苦しそうに眠ってる……悪戯しちゃお、頬っぺたぷにぷに♪」

 

 「こら紫苑、女苑を寝かせてやってくれ。死ぬほど疲れている」

 

 「おもしろいのに……」

 

 

 実際には死んではいないけど、ダーク衣玖の腹パンが女苑を襲ってベッドの上に彼女を寝かせている状態だ。なにやらうめき声が時おり聞こえてくるが……相当やばかったはずだ。白目を向いて泡を吹いていたぐらいだからね……やっぱり衣玖を怒らせないようにしよう……そうしよう。

 

 

 ベッド上の女苑は身に付けていた指輪も高価な衣装も来ておらず質素な服装で寝かされている。うめき声が時々聞こえてくるが、それは衣玖による腹パンによる痛みが夢の中でも襲ってきているのかもしれない。今はただ彼女をそっとしておくしかなさそうだ。

 

 

 「申し訳ありませんでした。自分を制御できずについ……やっちゃいました」

 

 「やってしまったのは仕方ないとして……女苑が目覚めるまで世話をしてやってくれ」

 

 「……はい」

 

 

 元に戻った衣玖は反省しているらしく大人しい。こんな大人しい衣玖が天子のことになると暴走するのだから人って見た目ではわからないなと改めて思ったそうだ……人ではなく妖怪であるが。

 

 

 「目が覚めたら女苑を家に返してやらないとな。紫苑は女苑の住んでいる場所を知っているか?」

 

 「ううん」

 

 「紫苑は知らないのか?姉妹なのに?」

 

 「違う、家なんて持ってないよ」

 

 「……なに?」

 

 

 紫苑の回答は存在しないとのことだった。彼女が言うには自分達は貧乏神と疫病神である為、今まで他人に憑りついてその家に勝手に住んで財産を消費していっていたようだ。特定の場所に家を建てなかったのはそう言った神様の特性のためであろう。

 

 

 そういうことか。意外とこの二人は苦労していそうな生活を送っていたりするのかもしれないわね。毎度毎度取り憑けるわけではなさそうだし、その日は野宿でもしていたのかしら?帰る家がないとなれば……そうなると命蓮寺辺りに彼女を送った方がいいのかもしれない。

 

 

 天子が考え事をしていると紫苑が袖を軽く引っ張っていた。その瞳は何か案を思いついたようである。

 

 

 「どうした?」

 

 「ねぇねぇ、天人様はお金持ちだよね?」

 

 「ああ、それなりにだがな。それがどうかしたか?」

 

 「女苑もここに住んじゃダメ?久しぶりに女苑と一緒に暮らしてみたい。それに女苑は天人様のこと嫌いみたいだけど仲良くなれるかもしれないよ?……ダメ?」

 

 

 本人は意図していないようだが、その姿が可愛らしい猫のような表情で頼み込んで来る紫苑に胸の鼓動が高鳴る気がした。

 

 

 ぐぅは?!なんて愛らしい生き物なの……!こんな可愛らしく頼み込まれたら「うん!」としか回答できないじゃないのよ!

 

 

 「仕方ないなぁ~いいぞ!」

 

 「やったぁ!」

 

 

 勢いで了承してしまったが、こんなに可愛く頼まれたら断ることなんてできない天子だった。

 

 

 「ま、まってください!このメス豚は天子様を狙っていたのですよ!?そんな豚野郎を傍に置くなんて反対ですよ!寝首をかかれたらどうするのですか!?」

 

 

 天子の身を心配して待ったをかけたのは衣玖だった。

 

 

 「衣玖よ、口が悪いぞ。大体女苑が私を狙った理由は想像がつく。不本意だが……不本意なのだが、私が紫苑に対して淫らな行為をすると思って妹として許せなかったのだろう」

 

 「そうなんだ、女苑ってば私の為にここまで来てくれたんだ。優しい~♪」

 

 「うぅ……!うぅ……!」

 

 「……紫苑、抱きしめ過ぎだ」

 

 「あっ、ごめん女苑……苦しそうな顔……悪戯しちゃお♪」

 

 

 女苑の顔で遊び始める紫苑、いつも妹に優先権を取られてしまっていたことに対する嫌がらせなのか悪戯をしでかす。悪戯されて苦しみの表情が更に苦しみを味わい夢にうなされることになった。

 

 

 「淫らな行為なんて天子様がそんなことをするわけがありません!するならば私にしてほしいぐらいです!」

 

 「衣玖……本人の前で口にするのはどうかと思うぞ……」

 

 「――はっ!?ゴホン……例え理由がそうだとしても天子様を狙ったことは変わりません。この方は天子様にとって危険な存在です」

 

 「……もしかして衣玖は女苑のこと嫌いなの?」

 

 

 女苑で遊んでいた紫苑は衣玖に対して純粋な質問をする。

 

 

 「私達は嫌われることになれている。けれどやっぱり嫌ってほしくない……特に天人様と衣玖にはお世話になったから……私は天人様のことも衣玖のことも好きだから」

 

 「うぐっ!?」

 

 

 穢れ無き瞳が衣玖の心を刺激する。紫苑と女苑は貧乏神と疫病神の最悪姉妹だ。今まで誰にも好まれなかった存在で、嫌われることなど慣れてしまっていた。紫苑は天子に拾われ毎日お腹いっぱいに食事ができる。衣玖にもわからないことがあれば教えてもらい世話してもらっている。紫苑はそんな二人が大好きであった。そんな二人に嫌われたくない……自分と同じ厄介者である血の繋がった妹のことも嫌いになってほしくなかったのだ。

 

 

 「……衣玖……ダメ?」

 

 「うぐぐぅ……!」

 

 

 紫苑の純粋な穢れ無き瞳攻撃で衣玖が葛藤している……だが私にはわかる。アレには勝てない……こころやチルノみたいに子供が持つ瞳と同じでアレに見つめられたら「うん!」としか言えなくなる。すぐに衣玖は……

 

 

 「……わかりました。でもまた天子様を襲うことになったら追い出しますからね!」

 

 「やったぁ!」

 

 

 やっぱり落ちた。衣玖……仕方ないわよ。純粋な瞳には私達のような穢れた心を持つ者にとって効果抜群だから……

 

 

 「これから我が家は騒がしくなりそうだな」

 

 「……そうですね天子様」

 

 「元気出すんだ。衣玖のそういう甘いところも私は好きだぞ?」

 

 「天子様……!!!」

 

 

 ちゃんと衣玖をフォローしておく私を褒めてほしい。私自身を餌に使っているようで卑怯かもしれないけどね。まぁ、私も口ではダメだと彼女に言ったけど結局女苑も養うことになるとは……これも運命かもね。

 

 

 「良かったね~女苑♪」

 

 「うぅ……うぅ……!!」

 

 

 悪戯をまた繰り返す紫苑は嬉しそうだった。妹とまた一緒に過ごせることが嬉しいのだろう……

 

 

 こうして新たに女苑を結果的に養うことになった。後に目覚めた彼女に説明すると文句を言いっぱなしだったが、姉と一緒に居られることがいいのかそのまま居座ることになった。

 

 

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