最強の前にて君臨する鬼   作:破門失踪

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原作鬼滅の刃の黒死牟パートを読み終え、何でもいいから、どんな形でもいいからあの兄弟を書きたくなった。その産物が以下のものとなります。





第1話

時は戦国時代。各々の実力が試される血生臭い時代に、私は生まれた。……いや、生まれ変わったと言うべきか。

 

 

私には前世の記憶というものが曖昧に残っていた。今より遥か未来の、いわゆる現代に生きていた平凡な人間だったという記憶はある。そして今のこの身が、その前世の世界のある物語の中にいる人物のものであると思い出した。

 

 

『鬼滅の刃』という作中にその人物はいる。今世の私の名は継国巌勝。鬼滅の刃で『黒死牟』と呼ばれる鬼となる人物である。

 

この人物は弟への嫉妬心から人間から鬼へとなり、作中で驚異的な力を振るう。その厳勝に生まれ変わったのだ。

 

そして、本来の巌勝が鬼となる原因である双子の弟も確かに存在した。

 

 

名前は継国縁壱。私に残る記憶の通り、圧倒的な才を持って生まれた。本来の継国巌勝には嫉妬の対象かもしれないが、私にとっては血を分け共に生まれた可愛い弟である。

 

 

この時代、双子はお家騒動の元になるとして不吉とされ、更に縁壱の方は生まれつき額に痣があり周囲からも不気味に思われ、そのため忌み子として生まれ、疎まれていた。 それこそ実の父親に殺意を向けられるほどに。

 

弟は父に殺されそうになったが、それは母が阻止したそうだ。少し成長した今でも父の差別はあるが、私はそんなものは関係無いと可愛がった。そんな私に父がお咎めを口にする事も多々あったが、それでも私は縁壱を愛した。

 

 

 

 

憑依転生してしまったものはしょうがないと受け入れ、武家の長男として生きていた。しばらく過ごす内にこの世界についてわかってきた事がある。この世界は鬼滅の刃の世界ではないという事だ。

 

まず鬼が存在しない。鬼滅の刃での敵方として出てくる鬼が噂話すら出てこない。無理に探したとしてもそれは物語の中の事。

 

そして私が鬼滅の刃の世界では無いと確証を得たのは、この身に宿った異能と魔力の存在だ。

 

 

鬼滅の刃の作中でも鬼は異能を使用していたが、それは魔力ではなかったはずだ。私の中の薄れ始めた不確かな記憶でもそれは間違いない。この魔力を扱い異能を使える者がこの世界では『侍』と呼ばれ、戦等で活躍している。

 

この魔力を持つ人間は千人に一人の割合とされ、一人前に能力を使える者は大名や豪族に召し抱えられている。また戦国大名といった下克上を果たし、成り上がった者には本人自体が強力な能力者の例もある。

 

そして私は武家の長男である。代々続く家だった事から、魔力持ちが生まれやすい家系なのだろう。例に漏れず私も弟も魔力と異能を持って生まれた。

 

この未知の世界で生き残るため、そして武家の長男として私はこの力と向き合って生きることとなった。

 

 

 

鬼滅の刃の事を知っているため、弟がどんな存在かはわかっていたが、それにしても埒外だった。本来の継国巌勝が弟を「この世の理の外側にいる」「神々の寵愛を一身に受けて生きている」と評したが、正しくその通りだった。

 

 

「俺も兄上のようになりたいです。俺はこの国で二番目に強い侍になります」

 

 

生まれ変わった私からすれば本当に可愛い弟だ。ただ、私には弟程の才がない。弟の期待には応えられない。それはただただ申し訳なく感じた。

 

一応、私もだいぶ才がある方だと周りから言われるが、弟の縁壱と比べられれば霞む。まるで月とすっぽん。私の十や二十の努力を、弟が一で超えていく。天才としか言い表せない存在だった。

 

見てる世界が違う……いや、住んでいる世界そのものが違うのではないか思うほどだ。

 

確かにこれは知っていなければ嫉妬心も芽生えるというもの。私は前々からどんな存在かわかっていたのであまり苦に感じなかった。転生者であり精神が年齢より成熟していたというのもあるのかもしれない。

 

私は私。弟は弟だ。必ずしも兄が上であるという必要も無いだろう。それに私たちは双子だ。私が兄なのも、縁壱が弟なのも母より産まれ出た順番が少々違うだけの事。

 

ただ、兄として弟の目標になれないのならば、いっその事その旨を伝えた方がお互いの為だろう。

 

 

「良いか縁壱。お前は私よりもずっと強い侍になれる。私に遠慮することはない。……お前がどこまで強くなるか、私はそれがとても楽しみなのだ」

 

 

次第に周りからは弟に劣る兄と侮蔑や憐みの目を向けられるが、そんな事は私にとっては些細なことであった。今の私にはこの弟がどれ程の高みへと行けるのか、それを見てみたいという気持ちしかない。

 

 

とある時期に、縁壱に家督を継がせた方がいいのではないかという議論も出たが、それには必死に抗った。別に家を継ぎたかった訳ではない。ただ、弟の枷となるような事をして欲しくなかったのだ。

 

 

しかし、武家を継ぐにあたっては私もそれなりの存在感と実力を見せねばならない。しかも比較対象である弟が出鱈目な存在だ。ただ、この時代長男という立ち位置は絶対的なものである。多少劣りはすれども近しい実力ならば、長男である私がこの家を継げる筈だ。

 

弟に近づく為、必死に自らを鍛えた。気づけば歳を重ね元服し、戦場へと兄弟で赴くようになった。

 

戦場で弟と振るう剣は楽しかった。命の危機は幾度あれども、背を弟に任せていればなんの不安もなかった。それに修練の成果が目に見えてわかる。私の才も捨てたものではないと思えた。

 

しかし、弟は満足していなかった。さらに高みへと飛び立とうとしていた。

 

ならばと私は前世の微かに残る鬼滅の刃の記憶から、全集中とそれを用いる呼吸について弟ならばできるだろうと提案してみた。なんの根拠もない、実際の人間にはできないのではないかという案だったが、その提案を受け弟はすぐさまそれを自分のものにし、剣術の形へともっていった。

 

 

この時は感動したものだ。私が記憶から引っ張ったものを弟が実践する。そうして出来上がったのが、最強の剣術と言っても過言ではない"日の呼吸"である。

 

 

私も必死に会得しようとしたが、原作の通り私には不可能だった。だが、日の呼吸は使えずとも、鍛錬は私を強くした。

 

私は後に月の呼吸と呼ばれるであろう派生剣術も生み出し、その頃から戦場が一変した。周りからは自分たち兄弟を起用した方が勝つとまで言われ、最強の兄弟として讃えられた。

 

 

私は嬉しかった。兄として、弟が生み出した剣が最強と呼ばれることに大きな幸福感を抱いていた。そして派生とはいえ、その剣術を自分も使える事に満足感を覚えた。

 

 

弟はそんな事には興味は無いと、再び剣を磨く道を進んだ。私が少し悦に浸っていたのは恥ずべき秘密である。だが、この感情こそが後々私の人生を変えることとなった。

 

 

 

私は弟に並び立てる存在に居続けようと必死に修練を重ねていると、自分の中で枷が外れたような感覚に至った。そして有り得ないはずの魔力が増加するという現象も起こった。

 

この現象を調べてみるとごく一部の有力な侍がその境地に到り、彼らはそれを《覚醒》と呼んでいると判明した。

 

ちなみに弟は結構前からこの境地に至っていたらしい。

 

 

これを機に私は日の呼吸の習得に見切りをつけた。私には手の届かない理想だったようだ。それに私は厳勝だ。ならば本来の黒死牟が使う"月の呼吸"を極めねばならない。

 

 

 

これがまぁ上手くいかない。弟がポンポンと生み出していたのに比べて、私のは地道なものだった。まず、記憶中の月の呼吸は鬼となった黒死牟のものだ。前提からして人間の身では不可能な型が存在する。

 

今の私に無く、黒死牟にあったもの。それは刀を肉体から生み出す能力である。それにより刀の形状を変えていたのだが、私にはそれが出来ない。使える型はかなり絞られていた。

 

数個の型であっても、強力な剣術には違いなく、弟からも「兄上はその呼吸で妖でもお切りになるのか?」と暗にやり過ぎだと言われたが、一言だけ言わせてもらいたい。未だ日の呼吸を極め続けるお前が言うな。

 

 

 

その後は戦にも出ることもなく、お互いの呼吸を高め合う日々を過した。その中で私にはとある感情が芽生えてきた。最強の座を護りたいという傲慢にも似た感情だ。

 

 

ただこれはもちろん自分の事では無い。私の弟が、日の呼吸こそが最強だと証明したいという思いであった。

 

私では弟を超えられない。それはつまり、私程度を超えることが出来なければ、弟には届きもしないという事。

 

 

その思いから武者修行と称して各地を巡り、強者を下す旅を始めた。噂が広がり私に対する挑戦者も現れだし、それにも勝ち続けた。

 

勝ち続ける事はこの継国厳勝の宿命かもしれない。本来の厳勝も最強の剣士である弟に負け、弟が寿命で決着がつかなくなってから負けるわけにはいかなくなった。

 

修行の旅の中、私の身体に変化が起きた。本気で刀を振るう際に、正しく鬼滅の刃の黒死牟に変貌していたのだ。同時に肉体も異様な再生能力を持ち始めていた。どうやら私は《覚醒》のその先にまで行ってしまったらしい。

 

 

 

そうして私はただただ勝ちを求める鬼となった。

 

 

 

鬼と言っても、鬼滅の刃の鬼というわけではないらしい。身体能力が飛躍し、肉体の再生能力も上がり、歳も取らなくなった。

 

だからといって昼に出歩けないとか食人衝動に襲われることも無く、鬼舞辻無惨が聞けば殺しに来そうな素敵な鬼となった。また、黒死牟の六つの瞳は本気の時だけ開いてしまうが、平時は人間の姿でいられるのには安堵した。

 

 

その報告も兼ねて弟の下へと帰ると、案の定驚愕された。思えば私が弟を驚愕させたのは初めてではないだろうか。今までは私が弟の剣の才に驚かされてばかりだったが。

 

そして私の野望を伝えた。どうせ歳を取らなくなったのだ。お前の最強の座、そして日の呼吸を守ると。

 

弟は当然の如く、そんな事をする必要は無いと説いたが、これは私の自己満足であり我儘なのだと伝える。その決意を聞くと、弟は諦めたようにため息を吐き私に言った。

 

「兄上、私はそれ程大そうなものではない。長い長い人の歴史のほんの一欠片にすぎない。私の才覚を凌ぐ者が今この瞬間にも産声を上げている。彼らがまた同じ場所までたどり着くだろう」

 

などと謙虚な言葉を吐いたが。

 

「ぬかせ。お前みたいな奴が歴史上に何人もいたら、それこそ世が壊れる。そろそろ自分の力を自覚しろ」

 

一応兄として咎めておいた。

 

 

 

 

 

 

 

時間は飛び、この世界に生まれて80の年が過ぎた。

 

未だに私は弟以外には不敗。そして弟は歳を取ったとはいえ未だに私に勝ちを譲ってはくれなかった。

 

徐々に老いていく弟に尋ねたことがある。

 

「お前ならいとも容易く私のように人を超えられるだろう。どうしてそうしない?」

 

私が出来たのだ。弟に出来ないはずがない。そうすれば伸びた寿命、強化された肉体で更なる剣を極めることも出来たはずだ。

 

「私は人として生まれ、人として死にます。……なに、兄上がいるのです。磨き上げた技も生きた証も、何も心配しておりませぬ」

 

何度聞いても返ってくるのはこの答え。私は弟の意志を尊重しているが、先に逝かれると思うとどうも悲しいものだ。だが、どうせ言っても聞かんし、私も野望がある故にまだ逝く事はできん。

 

「そうか……任せておけ。当分最強の座はお前のものだ」

 

「いえ、意外とすぐに彼岸でお会いすることになりますよ……きっと」

 

それ即ち私を超えるような者、それこそ縁壱のような者が早々に現れると弟は予想するらしい。その言葉には確信がある様にも見えた。死ぬまでこの弟は自分がどういう存在か自覚せずにいた。

 

「お前にもっと常識を教えるべきであったと酷く後悔している……」

 

まぁ、たとえ自覚したとしてもこの天才が生き方を変えたとも思えないが。

 

 

 

そしてまるで原作の再現のように、私と死期を悟った弟は最期の戦いを行った。唯一原作と違うのがお互いの心境と表情だろうか。お互いに言葉は要らず、これまでの全てを一刀に込めた。

 

「……見事だ」

 

いつも通り私は地に伏した。弟は立ったまま逝ってしまった。

 

老いた身体とは思えない、私が見た中でも最高の一振りだったと言える。切られた私が感動する程の、神の如き一閃。

 

「まったく……実の兄を切り捨て……満足そうな顔をしおって……」

 

私の胴体は泣き別れる様に切られており、鬼の身体でなければ確実に死んでいた。一切の容赦の無かった最強の剣。それを記憶と身に刻み込み、私は俗世を離れる事にした。

 

 

 

 

 

 

私の目的は弟の最強の座を守る事。その野望が破られた時、それすなわち縁壱と同等、もしくはそれ以上の猛者が現れた時。それまでこの身が持つのかはわからぬが、願わくばあの神の如き剣を超えるもので生涯を終えたいものだ。

 

 

 

 

 

 

 

それからおよそ四百もの年が経った。

 

雪の降る夜。世間は元旦を祝っていたが、私はとある約束を守る為にある山中にいた。山の中腹の少しばかり開けた場所。そこで私は男と向き合っていた。

 

「嬉しいぜ『黒死牟』。約束を守ってくれてよ」

 

私の前に立つカイゼル髭を生やす老人。そのしゃがれた声からは老いたとは思えない覇気を感じる。

 

黒鉄龍馬。ここ四百年の間で唯一私に傷をくれた男だ。この男相手ならば、私も久々に鬼としての力を表に出せる。普段は隠している『黒死牟』としての顔で向かい合う。

 

「礼は要らん……約束を果たしに来た…………いや……待て……」

 

小さき者が近づいている気配を感じる。龍馬もそれに気がついたようで、その方向を向いた。その先には年端もいかない少年がコチラを見ていた。私の姿を見て震えているようだ。目からは涙が零れていた。

 

これは私が悪いのだろうか。確かに鬼としての私の表情は恐怖を与えるものであろうが。

 

「ん?厳のところの小僧か」

 

どうやらこの少年は龍馬の知り合いであるようだ。

 

それが私とその後私の弟子となる、黒鉄一輝との出会いであった。




鬼滅の刃読んだ反動で、この鬼いちゃん縁壱神にぞっこんになってしまった。反省はしている……だが、私は謝らない。


今更ですがクロス先が落第騎士なのは、この兄弟があの世界に生まれていたら……と安易な妄想をしてしまった結果。この作品のテーマは縁壱神の御威光を知らしめる事にあるのです。作品と作品のパワーバランスなど……無きに等しいのです。

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