最強の前にて君臨する鬼   作:破門失踪

2 / 10
縁壱信者増えろ増えろ……賛美ぃ……賛美ぃ……





第2話

これは自分黒鉄一輝の無謀とも言える夢が始まった日の出来事だ。

 

 

雪の降る元旦。自分の家には一族の全員が集まっていた。

 

部屋に篭っていても聞こえてくる楽しげな声。その中に自分は入る事は出来なかった。自分はもうこの家ではいないものだから。その声から逃げるように家の裏手の山に入った。

 

その結果、冬の山で道に迷ってしまった。日が沈むにつれ気温も下がり、雪は勢いをまして吹雪へと変わった。だが.......家からの助けは来なかった。

 

わかっていたことだが、本当にいなくても良い存在なのだと示された。ここで凍死したとしても、誰にも何の影響もないのだろう。いや妹は悲しんでくれるかなと思い、涙が伝った。

 

悔しかった。自分の才能の無さではなく、誰も自分は強くなれると信じてくれない事実が悔しかった。

 

 

 

そんな時だった、人生を変える出会いがあったのは。

 

出会ったのは黒鉄家、そして日本の英雄でもある自分の曾祖父黒鉄龍馬さん。白髪でカイゼル髭を蓄えた大柄な老人だ。

 

そして更に、龍馬さんの対面にいる目が六つもある異形。和装に身を包む人の形をしていたが、その雰囲気と顔は人間のそれでは無かった。

 

その異形の前に悔しさの涙は恐怖の涙に変わった。本能が逃げろと叫んでいるが、身体は凍り付いたかのように動けなかった。

 

「ん?厳のところの小僧か」

 

龍馬さんが背後にいる自分に気付いた。それと同時に異形から放たれていた威圧感は多少和らいだ。ただ、ソレは六つの目で自分を見ていた。

 

「こんな所で何してんだ?」

 

龍馬さんに尋ねられ、自分は事の顛末を話した。悔しくて山に逃げて、迷ってしまった事を震える声で話した。そうすると龍馬さんは少年のように笑う。

 

「いいか小僧。その悔しさの粒はまだお前が自分を諦めてねぇ証拠だ。それを捨てんじゃねぇぞ。諦めない気持ちさえあれば人間はなんだってできる」

 

そう言って龍馬さんは自身の霊装を手に異形の方へと向く。

 

「よく見ておけ。諦めない気持ちがあれば、この鬼を退治する事だって可能だ」

 

目の前の異形を龍馬さんは鬼と言った。そしてそれを退治すると。弱くて未熟な自分でも本能で理解出来た。いくら英雄の龍馬さんでもこの鬼には太刀打ち出来ないと。

 

 

「退治とは.......大きく.......でたな.......」

 

鬼は独特な間で声を発した。それだけなのに心臓を鷲掴みにされるような威圧感が再び襲いかかる。そして鬼が腰に差した刀を抜き放った。

 

それは刀とは思えない見た目をしていた。刀の形ではあったが、刀身、柄、縁金の至る所に生きているような目が浮き出ていた。そして血管のように赤い筋が走り不気味さを増していた。

 

「待たせたな。いくぜぇ黒死牟!!」

 

 

 

 

 

 

そこからはまるでコマ送りのように、世界が遅くなった。龍馬さんが走っている筈なのに、その一歩がひたすら長く感じる程に。

 

「月の呼吸━━━━陸ノ型 常夜孤月・無間」

 

そんなスローの世界の中で鬼の刀が残像を残しながら、幾つもの弧を描いた。この世界で残像が見えるほど早く振るわれる剣。優に十や二十を超える斬撃は、まるで剣の壁にも見えた。

 

その壁に向け刀を構えて突撃する龍馬さん。その背中は老いているとは思えない程雄々しく、覇気が溢れていた。そして次の瞬間ゆっくりだった世界は急激に加速した。

 

 

 

血飛沫が舞った。英雄は倒れた。

 

 

 

その大量の血液が龍馬さんから出た事より、自分は別の方に意識を取られていた。六つ目の鬼の左腕が切断され、宙を舞っていたのである。

 

 

自分はこの目で英雄譚を見たのだ。英雄が鬼と対峙するその場面を。その光景は幼い頃の自分の意識をガラリと変え、ひたすらに追いかける憧れとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見事だ。……この身の一部を……落とされるのは……弟以来か……」

 

「人生かけて腕一本じゃ……割に合わねぇがな」

 

明らかに致命傷の筈だが、龍馬は地に伏し血を吐きながらも笑っていた。

 

本当に惜しい。この者が若い肉体、そして長い寿命があればと思わずにいられない。

 

「貴様も……私の様になればいいと……何度も……言ってきたのだが……」

 

「馬鹿言え、あんたの弟とやらは、人間のままあんたを真っ二つにしたらしいじゃないか」

 

見たことも無い縁壱に対して負けん気を発揮しているのか。ただ私の弟は常人とは違う。あれは近付こうとすればする程遠ざかる太陽のようなものだ。

 

「アレは……だいぶ特別だ」

 

「わかんねぇぜ。こうして特別じゃねぇ俺でもお前の腕は取れたんだからよ。いつか才能の欠片もねぇ奴が、お前の首を取りに来るかもしれねぇ」

 

それがこの男の最期の言葉となった。

 

「……」

 

戯言を……とは言えなかった。現にこうして私は腕を切り落とされたのだから。

 

正直言って弟が死んでからの四百年余り、私は酷く退屈していた。弟を超える者はおろか、この私にすら迫る者は現れなかった。もちろん日の呼吸を扱える者も見つけ出せなかった。

 

最初の頃は呼吸法を教え、手ほどきするなどはやっていたがその成果も芳しいとは言えなかった。二百年を越えたあたりからはただ待つようになった。たまに現れる最強を騙る者の許へと赴き、その称号の本当の重さを叩き込む。

 

 

四百年の間に私の世間に対する興味も無くなっていく。二度の世界大戦、日本も巻き込まれ参戦したソレにも積極的な介入はしなかった。

 

私はもうこの時代の人間ではない。この時代の事はこの時代の者が対処すべきと判断した。しかしこの国の長、その時の総理大臣に懇願され、先の大戦で一振りしたのは、侍だった頃の残滓が私を動かしたのだろう。

 

 

こんな怠惰な四百年余り。ようやく私に希望を与えたのが黒鉄龍馬だった。初めはかすり傷。だが最期にはこうして腕を一本持っていかれた。

 

ならいつか現れるのかもしれない。縁壱の領域まで達し、私に引導を渡す者が。

 

 

さて、左腕も既に再生した。龍馬の遺体を担ぎ、この山の麓にあるという彼の生家まで運ぶとしよう。この英雄を此処に放置というの流石に悪い。

 

「あっあの!」

 

ん?そう言えばこの少年がいたか。

 

目の前で自分の知り合いを殺された。その上もう鬼の表情では無いとはいえ、私のあの顔を見られたのだ。此処に放置するのも危ないだろうが、かと言って私に対する心情などを考えると連れて帰るとしても怯えられそうだが……

 

「僕を弟子にしてください!!」

 

「……何?」

 

かつては多く聞いた言葉。二百年前までは積極的に弟子の育成を行っていたが、私の育て方が悪いのか誰一人として私が認めれる程度の剣士にはならなかった。数人ほど《覚醒》までは至ったものの、それまでだった。

 

弟子にしてくれと言われ、最初に見るのはその者の持つ素質だ。縁壱は先天的に、私は後天的に会得した視認した相手の全てを見透かす観察眼。それを用いてこの少年の未来の可能性を予測する。

 

肉体はまぁいいだろう。まだ子供故にこれから幾らでも鍛える事が出来る。これといった障害や病気を抱えていないだけで十分だ。

 

問題は魔力の方だった。『侍』、今の時代では『伐刀者(ブレイザー)』と呼ばれる者たちの中でも、底辺の魔力量しか持っていないのだ。この問題は彼が《覚醒》と呼ばれる領域に達するまでは一切解決しない。

 

「残念だが、お前には魔力が……」

 

「はい、僕は魔力量が少ないです。……でも、諦めない。諦めきれないんです!」

 

「この男に……龍馬に言われたからか?」

 

肩に背負う老人の遺体を目で示しながら尋ねる。目の前で人が一人殺されたというのに、この少年の目は決意と未来への希望で輝いているようにも見える。

 

 

「はい!こんな僕でも貴方に挑む龍馬さんの様になりたいんです!」

 

 

スポーツであれ戦争であれ、勝負の場にて英雄と呼ばれるような人物が他者に与える影響は大きい。特にそれが幼い子供の目の前での出来事なら、その衝撃は世界を塗り替えてしまうだろう。

 

だが断るべきだ。分不相応の憧れに手を伸ばせば人は不幸になるのを私は知っている。……原作での黒死牟の様に。高く強すぎる輝きは必ず影を作るのだ。

 

「悪いが……」

 

 

━━━いつか才能の欠片もねぇ奴が、お前の首を取りに来るかもしれねぇ

 

 

肩に背負う龍馬が耳元で囁いた気がした。まったく……とんだ置き土産を残して逝ったものだ。

 

「いや……良いだろう。お前を鍛えよう」

 

「本当ですか!?」

 

どうせする事も無い。退屈な日々の暇つぶし程度にはなるだろう。

 

となればまずは色々と手回しする必要があるか。また何か言われても面倒だ。

 

「ひとまずお前の親に話をせねばな」

 

勝手に誘拐と見なされてはたまったものでは無い。そう思い、龍馬を背負いこの山を降り始める。しかし、少年の足取りは重かった。

 

「……どうした?」

 

「誰も僕一人居なくなろうと気にしません」

 

「それは……どういう意味だ?」

 

この少年、黒鉄一輝は拳を握り締めながら、ぽつりぽつりと言葉を紡いだ。

 

5歳の誕生日に黒鉄家の当主である父親から「何もできないお前は何もするな」

と最後の言葉を言い渡された。その言葉以降両親はおろか親戚からもいない者として扱われ、家の中では外から鍵をかけられ隔離もされたそうだ。

 

その周囲の環境に私はこの少年に幼き日の弟、縁壱を重ねた。だが弟には確固たる才能があった。加えて父親や周囲からの扱いに私と母親だけは味方であった。

 

一輝にも兄妹がいるそうだが兄は彼に興味を持たず、唯一自分の存在を認めてくれる人間は妹だけだそうだ。

 

 

なんと哀れな少年だろう。今の彼には本当の意味で何も無いのだ。才能も力も周囲からの愛すらも無い。あるのは分不相応な憧れだけ。

 

私は彼に何か与える事はできるのだろうか。我が弟ならこんな問題も如何様にも解決してみせるのだろう。だが私にできることは、力を与えてやるくらいだ。

 

 

 

さて、突如抱える事になった難題を思案しながら、私たちは黒鉄家へとたどり着いた。いきなりの侵入者に敷地内は一時騒然としていたが、『黒死牟』の名と厳を呼べと脅す形で伝えてもらう。

 

正月に尋ねられて大変迷惑だろうが、気にしたら負けだ。

 

数分後その名が示すとおりの雰囲気を持つ黒鉄家の当主、国際騎士連盟日本支部長官でもある『鉄血』黒鉄厳が人払いをしながら現れた。この日本でたった二人、私の存在と居所を把握する男でもある。

 

厳と会うのはこれで二回目。前は私の住んでいる屋敷に彼の父親である前長官と、私についての引き継ぎに来た時に紹介された。

 

「何故貴方がここに居るのだ?」

 

厳の視線はまず私の表情、次に私が肩に背負うこの者の祖父の遺体、最後に一輝を見た。祖父の遺体には僅かな表情の変化が見られたが、自身の息子である一輝を見た時はまるで表情が無かった。

 

「龍馬との約束があってな……英雄に相応しい最期だった。手厚く弔ってやるといい」

 

「他に要件は?」

 

「一輝を弟子として預かる」

 

「どうぞご自由に」

 

返答は驚く程早かった。息子を得体の知れない人間に預けるという事に何の危機感も抱いていない。彼の心情が読めず困惑していると屋敷の中から銀髪の少女が飛び出してきた。

 

「お兄様!!」

 

どうやらこの少女が一輝の妹の様だ。ついてしまった癖で彼女の才を見てしまうが、一輝とは違いしっかりと魔力を持って生まれてきたようだ。服装からも一輝との扱いの差が見て取れる。

 

「荷物を纏めてこい。しばらく戻れなくなる。妹とも少し話してくるといい」

 

徹底的に鍛えるにあたって、私は一輝を私の住んでいる場所に連れていく事にした。定期的に家に戻そうとは思っていたのだが、この様子を見る限り戻るのはかなり長くなりそうだ。

 

「はい、わかりました……行こう珠雫」

 

「?……お兄様どうしたのですか?」

 

妹の手を引き、屋敷とは別方向に向かおうとする一輝。状況が読み込めず困惑してる妹。その画だけを見ればこの場の空気とはまるで違った微笑ましいものであった。

 

「珠雫、ソレと離れて屋敷に戻りなさい」

 

「お父様……」

 

「戻りなさい」

 

実の息子をソレ呼びか。まったくもってこの男が何を考えているのかわからん。だが兄妹の時間を遮るな。五百年たっても弟との思い出は鮮明に思い出せる。それ程本人等にとっては重要な時間だ。

 

「兄妹の時間……それを邪魔するような真似を()の前でしてくれるなよ」

 

厳に対してわかりやすく威圧感を放つ。彼はそれを受けて眉間を顰め瞼を閉じた。それ以上兄妹に何も言う事は無かった。

 

「一輝、私はここで待っている。急ぐ必要は無い」

 

「はい」

 

 

 

 

 

「貴方に人間味があるとは驚きだ」

 

「実の息子にあの態度をとるお前には言われたくない」

 

「私は父親である前に黒鉄の当主。この国の騎士達の規律。それは親である事以上に優先される。その中でアレを他の者と同等に扱う必要は無いと判断したまでた」

 

「それはまた……随分と可哀想な親子だな」

 

その考えは私も知っているし、その渦中にいた経験もある。武家の長男として忌み子と扱われた弟との関わりを幾度も断たれそうになった。だが、私はあらゆる手段を用いて周りの介入を弾いていたのだ。

 

それは私が前世の記憶から、周囲の考えが全てではないとわかっていたからとれた行動なのだろう。もし何も知らない中で、課せられた使命や重い責任に雁字搦めにされるとこのような父親になるのかもしれない。

 

「アレについては好きにするといいでしょう。だが、これは黒鉄家の問題。貴方は部外者だ。これ以上介入しない事を約束して頂きたい」

 

「……承知した」

 

たしかにこれは一輝と厳の親子の問題。私がこれ以上土足で踏み入るのはお門違いというものか。

 

まぁいずれにしろ一輝次第。幾ら哀れとはいえ、ものにならなければそれまでだ。彼の無謀な憧れも、最悪な親子関係すらも。




とりあえず鬼状態の時だけ……←多用する事に。
眼球多すぎて口が上手くまわらない可能性が微レ存。


続きの予定は未定。

感想、評価等ありがとうございます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。