最強の前にて君臨する鬼 作:破門失踪
……?!文が進まぬ!!まさか血鬼術?!
A.いいえ見切り発車の弊害です。
そんな感じの第3話。
僕は荷物を背負い家を出た。望む未来を掴むために。
自らを『黒死牟』と名乗る師匠と共に。
しかし……どうして…………どうしてこうなった!
「ヒィィィ!!」
「ジタバタするな。辛抱しろ」
そして今は師匠の背中に掴まり、歯を食いしばっていた。歯の隙間からはみっともない音がこぼれていた。
黒鉄家の敷地を出て、師匠の屋敷へと向かうと言われた。ただ少し距離があるため、僕の足に合わせていたら時間が掛かるらしい。車かバスか、それとも電車なのか、はたまた飛行機の距離なのか。
そう考えていたところで、まさかのおんぶである。これは幼い僕に配慮してくれたのだろうか。
だが、背負われた瞬間、新幹線顔負けの速度で走り出した。……配慮するならば事前に一言欲しかった。
人目につかないように進んでいる為か、一般的な道路等はほぼほぼ通らなかった。山や林の中を走り、道が無ければ木の枝を伝いながら。街に入ると家屋の屋根や電柱を足場に飛び、川や湖に至っては水面を駆けていた。おそらく師匠はほぼ直線で帰宅しているのだろう。
さらに驚かされたのは激しく動いているはずなのに足音も大きな揺れも無く、尋常じゃ無い速さなのに風圧も無い。身体的には非常に快適な道中だった事。
ただ心はさながら事前告知無しでジェットコースターに強制乗車させられた気分になっている。
この時点でもしかしたら自分は弟子入りする人を間違えてしまったのではと思えてきてしまった。師匠はもしかしたら常識がずれているんじゃないだろうか。
体感は長いようで実際には非常に短い時間が終わると、どこかわからない山の中にいた。目の前には山を分けるように巨大なフェンスが連なっていて、フェンスゲートの傍に掛かっている看板には『危険!関係者以外立ち入り禁止!!』の文字が見える。
「着いたぞ」
「え?……ここですか?」
周りはうっそうとした木々が広がるばかりで、屋敷らしいものは何も見えない。唯一あるのは目の前のフェンスゲートの先に細い道が奥へ伸びているだけだ。
「この柵より先は私の土地だ。名目上は政府が管理している事になっているが……」
「この山の全てですか?!」
体感でしかないが、まだ山の下層。これより上がほぼ師匠の持ち物となるならば、その広さは計り知れない。黒鉄家の裏山もそれなりの大きさだが、ここはおそらくそれ以上だ。
「世界大戦の際、一振りの見返りとして頂いた。実際はその前から住んでいたが、所有権ははっきりさせておいた方がいいからな」
そういいつつ師匠はフェンスゲートの鍵を解く。耳障りな音を立てながら巨大な門が口を開けた。そして師匠が振り返る。
「さて、私自身の事やこれからについて聞きたいことは山ほどあるだろうが、先にお前の覚悟を問わねばならん」
「覚悟ならあります!」
自分を見つめる師匠を見つめ返す。しばらくの間を置いて、師匠は目で山を登る細い道を示した。
「この道は一本道だ。舗装も整備もされていないが、迷うことはまずない。そして道は私の屋敷へと続いている。水や食料も所々で置いといてやろう。日が昇るまでにたどり着くことだ」
師匠は闇に紛れるように離れていく。その背中から檄が飛んでくる。
「山でただ泣くことしかできん子供に教えることなど何も無い」
先ほど実家の裏山で遭難していた事を言っているのだろう。まだ少ししか経ってないとはいえ、あの時の自分とは違う。自分は先の英雄譚に憧れたのだ。
「僕は……強くなるんだ!」
自分に言い聞かせるように大声を出し、山を登り始めた。
意を決して登り始めたが、その思いはすぐに揺らぎ始める。月明かりしかないので暗いし、夜の冬山でとても寒い。背中の衣服等が入ったリュックも重い。
何よりキツイのが、どのくらいのペースなら間に合うのかがわからないのだ。
道も確かにあり、補給も置かれているので迷ってはいないのだろう。だが、間に合わないかもしれないという不安からペースが安定しない。
ある程度登ると寒さに耐えれなくなってきた。できるだけ重ね着して、リュックはもう置いていこう。
歩く。
ただ歩く。
ひたすら歩く。
「はぁ……はぁ……」
上に行けば行くほど雪が積もり始める。足を取られ体力が奪われる。気づけば空気も薄くなり、息苦しくなる。身体中に疲労が溜まり、最後には足がもつれて倒れてしまった。
起き上がろうと両手に力を込めるが、身体がいうことをきかない。重ね着した服が鉛のように重く感じる。地面と接している箇所から体温が更に奪われていく。
目が霞む……意識が遠のく……眠くなってきた……
いつの間にか寒さや痛みが曖昧になり、逆に心地良い睡魔が自分を包む。やるべき事はわかっているのだが、身体はもうその誘惑に素直になろうとしていた。
行かなきゃいけないのに……もう……ダメなのかな……
━━━━━こんな所で諦めるのか?小僧
瞼を閉じかけた時、今は亡き英雄の声が聞こえた気がした。
ついに幻聴まで聞こえ始めた。だけどそれはこの状況ではこの身と心を奮い立たせるにはちょうど良かった。眠気は一気に霧散し、意識がはっきりする。
自分の僅かしかない魔力を振り絞り、肉体を強化する。魔力と精神の後押しを受け、身体を持ち上げようとする腕に熱が戻るのを感じる。
「まだだ。もう逃げないし、諦めない!」
よろけながらもなんとか立ち上がり、それからほぼ無意識で歩みを進める。気がついた時には視界の奥に微かだが暖かい光が闇の中に現れた。
山の中腹、その開けた場所にある木造の屋敷。その庭で焚き火を起こす。
薪の燃える音と柔らかな光が暗闇を照らした。ここが一輝の目指す場所である。
私が一輝に課したこの試練。幼き体にはあまりに酷な仕打ちは、私の弟子となる上では必須の事。私が教える全集中の呼吸の特性故である。
全集中の呼吸は超人のような力を得るものだが、あくまでも技術である。その身を酷使する程の修練を重ねる以外に習得方法はない。
それはつまり、心身共に修練を乗り越える頑健さが必要であり、逆に言えば特別な才能が無くとも習得そのものは誰にでも可能である。
故に生半可な覚悟では教えるだけ無駄であり、このくらいの試練で音を上げてもらっては困るのだ。
とはいえ一輝はまだ幼子。道も示し、補給も整えた。それにこの山の中であれば、私なら何処にいようと手に取るように状況を掴む事ができる。命を落とさないようには配慮した。
それもそのはずで、これは肉体ではなく心を試すのが目的だからだ。その為に具体的な距離などは伝えていない。夜闇で先が見えないのも不安を掻き立てるだろう。
何処で力尽きるかで今後の修練の内容や手順を考えねばならぬが、果たして何処まで来れるか。
丸太を椅子に座り焚き火にあたりながら、この山に意識を広げていく。
一輝はどうやら半分を過ぎた辺りで倒れている。鼓動も弱く体温も低下している。意識が遠のいているのだろう。やはり子供には酷だったか。
「ここまでか……」
この程度で落胆はしない。元々これは彼を測るだけの試練。それにあの齢であそこまで歩みを進めただけでも大したものだ。
日が昇る前にたどり着けとは伝えたが、できないからと言って弟子にしないとは言っていない。彼は幼いながらも私に覚悟を見せたのだ。
このまま放置してはそれこそ死んでしまう為、回収しに行こうと腰をあげる。
そこで私は彼の真なる覚悟に驚かされた。
一輝は再び立ち上がり、たどたどしくも歩み始めたのだ。既に身体は満身創痍の筈。もう限界だろうに彼はまだ此処を目指している。
ならば彼の覚悟を見届けねば。私は再び腰を下ろし、新たな弟子の到着を待った。
一輝が到着したのは、暁の頃。空が白み始めたその時に姿を表した。労いの言葉でもかけようとしたのだが、彼はすぐに意識を失ってしまった。
力尽きた一輝を布団に寝かせ、私は久しぶりにこの山の頂へと訪れた。
本来の黒死牟が浴びることが出来なかった御来光をその一身に受ける。山頂には二つの影が並んで伸びた。
一つは私自身が作る影。もう一つは縁壱の墓石が作る影。私が素人ながらに作った無骨で等身大の岩が作る不格好な影だ。
この山に隠るおよそ四百年の間、変わらない朝の陽を浴びその場に座り込む。二人分の盃に持ってきた酒を注ぎ一つを墓前へ。もう一つを自身の口元へ。
およそ五百年の慣れと、鬼の身体故か効きにくくなった酒も、今日という日は格別だった。
「今日は……色々あった」
龍馬に腕を落とされ、一輝を弟子にした。この一日で私の世界ががらりと変わってしまった。
もう縁壱はおろか、私にすら迫る者は現れないのだと何処かで冷めていた。
才ある者を見出し、教えるも成果は出ないのだろうとただ待つだけの生活。
永き時間を微睡んで生きてきたかのようだ。目が覚めたというのはこういう心情を言うのだろう。
「お前はすぐに現れると言ったが、五百年でようやく腕一本だ。それともお前にとっては五百年も一瞬なのか?」
皮肉めいた言葉で縁壱の言葉をくつくつと笑う。しかしすぐさまその笑みは消えた。
「ただ……私も少々……怠け過ぎたか……」
確かに龍馬は英雄だった。彼の生涯をかけた研鑽の対価として、腕一本くれてやっても良いと思える。それ程の者だった。
だが私は……俺は負けるわけにはいかない。
縁壱に近しい実力を持つ者の到来を期待し待つ一方で、その者に勝利をくれてやる訳にはいかない。
その場に立ち上がり、手に持つ酒瓶を頭上へと軽く投げる。そのまま腰の刀へと手をかけた。瞳を閉じ身体の隅々、指先にまで意識を向ける。常日頃より行う特殊な呼吸を確認する様に丁寧に行う。
「月の呼吸━━━━弐ノ型 珠華ノ弄月」
即座に抜刀し、下から空中の瓶を目掛けて切り上げる。一太刀に能力により幾多の斬撃を付加したそれは、刀身で瓶を切断した後、無数に発生した見えざる月輪の刃がそれを更に切り刻む。
そうして瓶だった物は塵へ返り、山の風に吹かれて消えていく。
そして私の口から溢れた嘆息もまた、その風に掻き消されていた。
「弟子を鍛える以前に、私自身を研ぎ澄ます必要がありそうだ」
黒死牟「お……は……よ……う……」テテドン!(絶望)
常識から大きく外れた弟と生活していた為、自身も常識から結構かけ離れているのに、自分は常識人だと思っている鬼いちゃん。
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やはり鬼滅の刃の人気を実感しました。世界的ですもんね。乗るしかないこのビックウェーブに。
この鬼いちゃんは子供を作ったか。なお家庭の話はほぼしない書けない作れない。
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いる。やったね、鬼いちゃん子孫が増えるよ
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いない。ブラコンの果て永世独身鬼族