最強の前にて君臨する鬼 作:破門失踪
喉からアニメ伊之助の「ゴメンネ……」が出せるように
皆様ご自愛専一にて精励くださいますようお願い申し上げます
外からの光が煩わしくて、目が覚めた。
……知らない天井だ。なんで僕はここで寝ているんだろう。
頭の整理ができていない。とりあえず布団から起き上がろうとして、足を痛みが襲った。その痛みで寝起きのぼんやりした気分は吹き飛び、引き換えにここに寝ている理由を思い出した。
そうだった。自分は師匠に弟子入りして……いや、弟子となれるか試されて……
足だけではなく、身体中に鈍い痛みを感じながら今度こそゆっくり体を起こす。起き上がると同時に、靄がかかった昨日の記憶を探り始める。
夜の山を月明かりだけを頼りに登っていたはずだ。師匠の屋敷を目指して。多分ここは師匠の屋敷の一室に違いない。
たどり着けた記憶は無い。もしかしたら自分は師匠の試練を越えられず、途中で倒れてしまったのではないか。
嫌な予感がすると同時に自分が倒れた記憶が蘇った。倒れた時の衝撃も雪の積もった地面の冷たさも鮮明に蘇ってくる。
そこから立ち上がりかけた記憶はあるが、その先は一切思い出せない。
ようやく記憶がはっきりして、同時に理解してしまった。
僕は……強くなれないのか……
頬を涙が滑り落ちる。屋敷にたどり着けなかった自分は弟子になることができない。それを理解して、絶望した。
掛け布団を握りしめ、それに涙で染みをつくる。
望む未来は絶たれたと言うのに、頭の中では昨日のあの光景が何度も何度も繰り返される。その度に心が大きく揺さぶられてしまう。
それほどに憧れたのだ。あの英雄の後ろ姿に。そして迎え撃つ師匠の姿に。どうしようもないくらい。
……いや、諦めない
龍馬さんが言った。諦めなければなんだってできると。
それに師匠も言ってたじゃないか。泣くしかできない子供には教える事は何も無いと。また泣いていたら今度こそ弟子にして貰えないかもしれない。
手で目元を乱暴に擦った。涙の跡を隠すように。その動作の終了と、師匠がこの部屋に入るのは同時だった。
「起きたか……」
痛む身体に鞭を打ち、布団から這い出て正座する。そして床に額を落とした。
「何の真似だ?」
「屋敷にたどり着けませんでした。力不足なのはわかっています。才能が無いのもわかっています。でも諦めることは出来ません。……お願いです。弟子にしてください!」
「……何を言っている?」
やっぱりダメか?いや……まだだ!!
「どうかお願いします!!」
すぐに答えが返ってこない。この時間が異様に長く感じた。
「覚えていないのか?お前は日の出までにたどり着いたではないか」
「………………え?」
想定外の言葉に驚き顔をあげる。師匠の表情は変わらず、冗談には見えなかった。
たどり着いていた?僕が?この屋敷に?
「半ば無意識だった故に、無理もないか」
そうか自分は意識を失ったまま山を登っていたのか。そして気がつかないうちに屋敷へとたどり着き、師匠に運ばれてここで眠っていた……らしい。全く記憶に残っていないが。
「はは……そうか……良かった」
安堵した途端身体に力が入らなくなった。ふにゃっと布団に身体を預ける。同時に緊張からも解放された。
「まだ身体が痛むだろう。横になっていろ。食欲は……」
ここで口より先に僕のお腹が大声をあげてしまった。
「……あるな」
この後師匠が持ってきてくれた食事は山の幸をふんだんに使用したもので、とても美味しかった。その食事を終えるとまたすぐに睡魔が襲ってきた。
次に目覚めて、なんとか身体を動かすことができるようになった。動く度にピリッとした痛みが走るが、前ほどじゃない。
それにこれから師匠の弟子として鍛えてもらえると思うと、その高揚感の方が勝っていた。
師匠に連れられて屋敷のとある一室に入る。そこは目立ったものはあまり無い、机と座布団だけが置かれたシンプルな和室。師匠と自分で机を挟むように向かい合う。
「体調はどうだ?」
「大丈夫です」
簡潔にそう応えると師匠の視線は少し鋭くなり、自分の全身を上から下へと確認し始めた。
「本当か?まだ脚の方は痛むだろう」
「いえ、このくらい平気です」
「…………一輝よ。無理をさせた私が言うのもあれだが、身体のことに関して偽りはよせ……お前はまだ幼い。下手に負担をかけると取り返しのつかないことになりかねん。お前もそれは不本意だろう?」
「はい、わかりました」
「それと常日頃から自分の身体に意識を向けるように。それは最低限必要な事だ。
今更聞くまでもないが……私の弟子として生きることに迷いはないのだな?」
「はい!」
「私が課す修行は過酷だ。道半ばで心身が耐えれなくなるやもしれん」
「覚悟の上です」
「そうか……たった一日で随分見違えたものだ。ならば、初めに私の素性について語るとしよう。ただし……
ここから先は人に漏らさぬように。場合によっては私がお前を斬らねばならん。私は存在自体が秘匿されているようなのでな」
神妙な顔で自分を見つめる師匠に頷きで答えた。それにしても存在自体が秘匿されているとはどういう事なのだろうか。
「私の名は継国巌勝。人をやめた鬼だ。かれこれもう五百年程生きながらえている。
詳しい理由はいずれ語る事になるだろうが、人が人外の存在になれる。私という存在がそれを証明している為、私は社会より秘匿されている」
鬼というのは知っていた。龍馬さんが言っていたから。それに今は違うが、師匠のあの六つ目の顔と実力、威圧感は人間のそれではなかった。まるで物語の中の話だが、あれを見たら嘘だという人はいないだろう。
というかそれ以前に……
「元々人だったのですか?」
「……当たり前だ」
ちょっと会話に間があった。表情には出ていないけど、少し不快に思われたのかもしれない。
「いや、その……あの強さを見てしまったら、もう人間と言うより生まれつき鬼と言われた方が納得できるというか……」
「この世には人の身のまま私を瞬殺できる者もいた」
え……何その人。師匠を瞬殺?神様か何かですか?
そう語る師匠の雰囲気はいつもより柔らかかった。
「次にこれからの方針だが、初めは厳しい事はせん。この山の生活になれつつ、適度に身体を動かすぐらいになるだろう」
その具体的な内容も聞いていく。主に師匠の案内で山を登ったり下ったり走ったり。その間に自給自足をしろとの事。無理な修行はせず、肉体が限界を迎えれば座学だそうだ。
正直言って拍子抜けと言うか、それで師匠のような力が手に入るとは思えない。
「……意外か?」
顔に出ていたらしく、自分の心境は読まれてしまった。
「お前はまだ幼い。だからと言って甘やかすという訳でもない。今は準備の段階なのだ」
師匠曰く、今の僕の様な時期は身体がまだ未完成であり、主に神経が発達する時期らしい。その間に身体を自由に動かせる様にする。その為に山での自給自足の生活は適していると。
そして一気に成長する時期に合わせて、最適な修行方法を行っていくらしい。
「取り敢えず春先までだな」
え……春先って3ヶ月程しか無い。それ以降はどうするのだろう。
「何を驚いている。一輝には学校があるだろう?」
「あっ……」
それはそうだけど学校に通いながらだとあの強さが手に入らない様な気が……
いやさっきもそうじゃないか。師匠の事だから何か深い考えがあるに違いない。
「義務教育は大事だ。世の中の常識を学ばねばならん……というのも常識とは━━━━……」
理由は法律だった。ついでに存在自体が常識外れな師匠から常識について諭される。しかも修行内容よりも熱く語られた。要約すると常識が無い奴は周囲に多大な悪影響を与える可能性がある為、人として最低限は身につけなさいとの事。
そうして始まった山での自給自足。正直言って舐めていた。
最初の数日は屋敷付近の山の中を師匠に案内された。五感を使って地形を理解しろと言われ、師匠は歩きながら食べれる植物やきのこを示す。同時にこの場所には猪や鹿が出る。魚はこの川で穫れなどと教えてもらう。
師匠は歩きながらだが、僕はほぼ走っていた。大人と子供の歩幅の違いはあるだろうが、それでも走ってるのかと思うくらい移動がスムーズで無駄が無かった。
動物を獲る際は何か道具を使うのかと思ったら、使ったのは石とか枝とかの自然物。ある程度鋭い枝を拾い、川面から跳ねた魚に投げ刺す。小さな石を指で弾き、空飛ぶ鳥を撃ち落とす。
枝や石に軽く魔力を通す事で僕でも可能と言われたが、それ以前に当てることができるだろうか。
「私が教えるのはあくまで一例に過ぎない。何を使っても、何をしても良い。頭で考え、体を使って様々な方法をとるといい。そして一日の糧を手に入れ、お前と時間に余裕があれば別の事を指南してやろう」
一週間後から師匠に自分一人で食材を集めてこいと言われた。朝早くに起きて、師匠から今日の献立とそれに必要な食材のメモ、籠、簡単な昼食を貰い山に繰り出す。
自分でやってみて初めてわかるが、まったく師匠のように上手くいかない。
霊装を構えて猪を狩ろうと思えば、怒り狂い追いかけ回される。
鳥に石を投げてみれば難なく躱され、馬鹿にするように糞を落とされた。
川で魚を穫ろうとすれば、魚からはバレているのか川面を一匹も跳ねてくれない。覚悟を決めて手掴みで捕まえようとしても、冬の川は動けない程寒い。
そして夕暮れが近づくと、時間切れの合図である屋敷からの焚き木の煙と匂いが上がる。それを見て未だ軽い籠を背負い、とぼとぼと屋敷へと戻る。
屋敷に辿り着くとその一角にある畑で野菜をとり、成果報告の為師匠の許へ。探し出すと師匠は屋敷から少し離れた鍛冶場に居た。
ちなみに他にも陶芸工房やその為の焼き窯、蔵などもあり師匠の多芸さがわかる。五百年の間にやってみた趣味だそうだ。最近はPCなどの電子機器にも手を伸ばしているらしい。
「ただいま戻りました」
師匠はスカスカの籠を見て一言。
「意外と難しいだろう。明日は励む事だ」
そう言って十分ほどで残りの食材を山から集めてきた。僕の一日は師匠の十分に満たなかった。
そして夜は座学。肉体の構造や剣術の基礎、時には戦術論について学び、一般教養についても抜かりなく叩き込まれた。どうやら師匠はまず頭で理解してから行動に移す人らしい。
そうして月日が経った。
師匠が父に連絡を取り学校には通う。その間は山から下りて、頂いた修行内容でゆっくりと肉体を強化していく。
休みも修行と命じられたので筋トレとかは言われた以上しなかったが、自分自身やスポーツ選手、それこそ有名な伐刀者の身体の動かし方について研究したりした。
ちなみに学校での体育や運動会の度に、同級生や教師から引かれていくのは何故だろうか?
長期休暇になれば再び山に拉致されて扱かれた。
山での生活もだんだんと慣れてくるもので、朝の数時間で食材を集めることができるようにもなった。ただ、僕が簡単になってきたと実感した段階で、行動範囲を広げられたり、魔力を使うななどの縛りを入れられる。
見えてない筈なのに少しでも魔力を使った瞬間、師匠が打ったであろう短刀が木々を切り裂きながら飛来し、僕の足元に突き刺さる。ちなみにその短刀を拾うと刀身に『次は額』とだけ彫られており、心底恐怖した。
剣の修行はまだ基本的な事しかさせて貰えない。成長するに従ってまず体術から仕込まれた。その他にも足運びや、反射等を鍛えられたが肝心の剣術はまだ基礎の部分だけだ。
こうして中学生になる手前までこのような生活が続いた。そしてようやく待望の言葉が貰える。
「身体もある程度完成した。今日からはその仕上げと剣術を教える」
「はい!」
「私が教えるのは身体操作の基本にして極意。著しく増強させた心肺により、一度に大量の酸素を血中に取り込むことで、瞬間的に身体能力を大幅に上昇させる特殊な呼吸法……全集中の呼吸だ」
ンー難産だった。山での生活を書けば書くほど
これ鬼じゃなくて仙人の間違えじゃね……と。
前話のアンケートありがとうございました。
意外と永世ボッチ鬼族票多いなーと思いました。が、感想で頂いた、武家の長男ならお世継ぎがいる……セヤナー。
てなわけでこの世界でも子孫いるよーつくるよー。よーし鬼ぃちゃん今晩は頑張っちゃおうかなー!
評価感想そして誤字報告ありがとうございます。
ちなみに所々サイレント修正しています。ユルシテ……ユルシテ……