最強の前にて君臨する鬼 作:破門失踪
鬼滅の刃がランキングに溢れていて楽しいですね〜。これからもっと盛り上がってくれれば一読者としても嬉しいかぎり。
一輝を弟子にとってからもう六年が経とうとしている。随分大きくなった。子供の成長とは早い。あんな幼い頃から教えている者が今までにいなかった為、余計にそう感じるのかもしれない。
これからは一気に伸びていく時期になる。元服の頃までにはどれほどになるのか。
神経の発達しやすいこれまでの時期に、自らの意思でほぼ完璧に身体を操れる様に修行させた。これからも成長に合わせて調整していく必要があるが、いずれ頭が身体を完全に支配出来ている状態に到達できるだろう。
そしてこれからが修行の本番だ。何故ならばやる事はただただ筋力をつける。呼吸の為にひたすら肺を大きくする。この二点だ。この二点はどんなに効率よく行っても、最後は根性に頼まなくてはならない。
「ここからが本当の修行だ」
「望む所です!」
良い心意気だ。これならば精神の方は折れる事は無いだろう。肉体は物理的に折れる事もあるかもしれんが……私が手加減を間違えなければ大丈夫な筈だ。
「全集中の呼吸は肺が重要になってくる。これから行うのは肺に負荷をかけ、肥大化させていく修行だ」
「肺を大きく……具体的には何をすれば?」
「この山の上層。ここよりも更に空気が薄い場所で……ひたすら私から逃げてもらう。私が追いついたなら、竹刀でお前を打つ。それからまた逃がして、追いついて打つ。……ひたすらに逃がして、打つ」
「……え?」
「もちろんお前の速さに合わせる。手加減もする。受け身は散々やっただろう?応用であり復習だ」
命の危険がある為私は竹刀だ。力を込めすぎると竹刀が折れるどころか握り潰してしまう。結果軽くしか振れなくなる。これなら一輝がちゃんと受け流したり、受け身をとれば死ぬ事はないだろう。
「なに、間違った受けをしなければ大事にはならん」
「師匠……それ鬼の身体基準で考えてませんか?僕人間ですよ」
「では一分後に始める……上手く隠れる事が出来れば、少々逃げる時間が減るやもしれんぞ」
「それわかってて言ってますよね?!」
この山では目を閉じていても、私なら全てが手に取るようにわかる。
私は逃げ回る標的に肉薄し、竹刀を軽く振るう。一輝は避けることを諦め、刀で受ける事を選択した。
結果彼は本日何度も描いた放物線を再びなぞり、木にぶつかってそのまま地面に倒れた。
「ふむ……今日はこれで最後だ」
日も落ちた。一輝の肉体がこれ以上の負荷には耐えきれない。今日は終いにするとしよう。
「いっ……生きてる……人生って素晴らしい……」
大の字になりながら、我が弟子が達観している。
日が沈むまで一輝を追いかけて、竹刀で打ち飛ばした。途中から一輝の足が止まり出したので、檄を入れる為に何度も何度も吹っ飛ばした。
一輝の速さに合わせていた為、空中で五連鎖しかできなかったのは心苦しいが……
「これが真剣ならばお前はその数死んでいる……尚のこと励むように」
「はい……」
晩の食事を終え、一輝を呼び出す。彼はフラフラになりながらも私の許にやってきた。
「お呼びですか?……まさかとは思いますけど……夜もですか?」
非常に諦めが悪い一輝の目が死にかけている……。少々やりすぎてしまったか?
「いや……さすがに夜はせん。筋肉は破壊と再生によって強化される。お前の筋肉はほぼ破壊し尽くした。これ以上は過剰負荷だ」
「ですよね……もう上半身も下半身もボロボロです」
「お前を呼んだ理由はコレだ」
机の上に並べたのは数冊の本。それぞれ作られた時代が汚れ具合、製本方法によって見分けがつくが、書かれている内容は似通っている。
「ずいぶんと古いものに見えますが……」
「私が手ほどきし、呼吸を修めた者たちに書き残させた、各呼吸の指南書だ。数冊人にくれてやった為、これが全てではないが……」
全集中の呼吸は個人それぞれに適性が存在する。体質、育った環境、感情、好む戦術、そしてこの世界では能力。それぞれの要素で合う呼吸、合わない呼吸がある。
合う呼吸を見つける事が出来れば莫大な恩恵を受ける事ができるが、合わない呼吸を使えばむしろ足枷にしかならない。
「これらを読んでお前に合う呼吸を見つけるといい。合わんなら新たな呼吸を生み出す必要があるが……お前ならこの中の多くは適合する筈だ」
「確信めいた言い方ですね」
「幅広く選択できるように身体を作り上げたのだ……性格や感情面はともかく、身体は成長する前で猶予があったからな。それにお前の能力は『身体能力倍加』。能力的な合う合わんはほぼ無い」
「なるほど……自主的な修行をさせて貰えなかったのはこの選択の為ですか」
一輝の言う通り。私が事細かく修行内容を定め、休みを修行として強制させたのは、一輝をバランス良く成長させていた為。私の目で逐一身体の状態を見れる為に出来た芸当だ。
「時間をかけて合うものを見つけるといい。明らかに合わんものを選んだ場合は変更させるが、基本私はお前の決定を尊重しよう。お前の剣はお前の意思で選べ」
懐からメモリーカードを手渡す。
「え?……え?」
困惑した表情で机に並べられた指南書と、手渡されたメモリーカードに交互に視線を移す一輝。
これらの本も私と同じように数百年物。当然時代と共に保存形態も変わってくる。
「傷みが酷くなってきたので最近PDF化した。こっちは修繕か作り直しだな」
「あぁ……はい」
「師匠、聞きたい事があります」
今日も今日とて全力で逃げ惑う一輝に追いつき、竹刀を軽く振るう。同じ修行を数日間繰り返す中で慣れてきたのか、彼は躱しながら私に質問してきた。
「手は止めん……話してみろ」
「ここ数日間、僕は各呼吸の指南書を読み込みました。それで考えた事があるんです」
「もう使う呼吸が決まったのか?」
会話を続けながら一輝の側頭部へ横薙ぎを入れる。彼は身体を無理に捻り回避する。
「うわっ!っと……呼吸って一人一つなんですか?」
僅かな間とはいえ、体勢を崩した者に慈悲は無い。竹刀を脳天に振り下ろす。
一輝の行動は間に合わず、良い音と共にそのまま地に沈んだ。一応狙いが頭の為、当たる寸前で力をほぼ抜くが、寸止めのような甘い事はしない。
「異なる呼吸法を無理に切り替えた場合、身体に非常に強い負担がかかる。呼吸を少しでも誤れば、身体は適応しなくなり途端に動けなくなる。仮に成功したとしても、こうした戦闘状態にてその反動は大きな隙だ。それに型の練磨も疎かになりかねん」
「でも、できない訳ではないんですよね?変幻自在な水の呼吸、一撃に特化した炎の呼吸、爆発的な瞬発力を会得する雷の呼吸、他の呼吸にしてもそうです。
どれも魅力的な長所や特徴がある。ただ特徴があるという事は相手との相性もあるということ。相手によって……いや、その時その時の状況によって最適な呼吸を使い分けることができれば、と思いまして」
一輝は痛む頭をさすりながらゆっくりと立ち上がる。
「二兎を追う者は一兎をも得ず……一つを極める事が強くなる道だ」
「そうですね……普通の人ならっっ!!」
立ち上がるのを待っていた私に向けての不意打ち。これは逃げて身体を鍛えるのが主な目的だというのに。当然不意打ちであろうと私の反応速度の方が早い。竹刀を振るい、再び地面に叩きつけた。
「いたた……前々から考えたんですよね。身体の事、魔力の事、剣の事……色んな事を学んできたので理解できました。僕にはどう頑張っても強さに限界が存在する」
「元々わかっていた筈だ……それとも今更諦めるのか?」
「普通なら諦めるんでしょうけど……やっぱり無理ですね。諦めきれないです……なら普通じゃいられない」
「ならばどうする気だ?」
「違う視点から考えてみる事にしたんです。戦いにおいて自分が相手を倒すにはどんな条件が必要なのか……」
「ふむ……」
「まず大問題が……僕、魔力が全然無いんで攻撃が届かないですよね。特に師匠レベルの凄い魔力量の相手には」
魔力を纏う伐刀者は、同じく魔力を纏った攻撃でしか倒せない。纏う魔力が障壁となり、害ある攻撃から身を守るのだ。
一輝は伐刀者でありながら最低限の魔力しか持っていない。これは《覚醒》するまで変化しない為、私は一輝がこの領域に辿り着くまでの長期間で鍛える構想をしていた。
逆に私は覚醒してもうかなり長い。この間少しずつ総魔力量は上昇した。塵も積もれば山となってしまった。
今の一輝の攻撃では、私が普段から垂れ流している魔力すら破る事ができない。もちろん本腰を入れて防ごうとしたら尚更だ。
「ただ、例え師匠レベルの魔力の持ち主でも、僕の魔力を全部一気に使えれば、その量は充分足りると思うんですよ……こんな風に」
一輝の体から青い魔力光が溢れ出る。それは明らかに彼の持つ魔力量では有り得ない。私は溢れ出る魔力の出処を探るべく彼の身体をくまなく観察した。
そして私は驚愕した。今すぐに気絶させてこの異常を止めるべきだとも思った。
「待て!……何をしているかわかっているのか?」
彼は身体中から魔力を振り絞っていた。文字通りの全力。だが、人類には出来ない筈だ。どんなに力を出しても、なんとか動けるくらいには力を残すように人体はできている。
つまり一輝は人体に備わった生存本能を無視している。こんな事をすれば限界が来た瞬間に、すぐに力尽きて倒れる。
「この状態なら僕の保有する全魔力を一分で使い切る計算です」
一分間……その間に全てを使い切る。その後のことは何も考えていない。生き残る様に進化してきた人の歴史を真っ向から否定している。
「で、そうなると前提条件で一分間しか動けません。だったら能力も暴走させるように使って……」
一輝が瞬間的に加速する。そのまま普段以上の力で私に切りかかってきた。
私からすればまだまだ遅いし弱い。だが、これまでの一輝とは比べ物にならない。彼の持つ能力はただの『身体能力倍加』のはずだ。
今の一輝の動きは倍どころの話ではない。自らの意思で能力の暴走を強制的に起こしているのか。
「そして今、師匠に呼吸について聞いて確信しました。呼吸の切り替え時に身体に負担はかかるが不可能では無い。
なら……一分間くらい切り替えで負担がかかっても構わない。負担がかかって身体が壊れようと壊れまいと、どうせ一分後には自動で倒れますからね!」
継続戦闘の一切を捨てるというのか。それに肉体と魔力の操作、どちらかでも誤れば大きな反動が身体を襲う。諸刃の剣にしてはリスクが大き過ぎる。
「なんと常識破りな……」
「勝てるなら常識なんて捨てますよ。それに……師匠には言われたくありません!!」
そう吠えながら私に向かってくる。それを払いのけるように押し返し、頭部に少しだけ力を入れて打ち、気絶させて止める。
倒れた一輝の身体を再び確認する。今回は私が強制的に止めた為、大事には至っていない。これまでに鍛えられた身体は彼の無茶に確かに応えていた。
問題はこの状態はまだ彼の中では完成形では無い事。
この状態に全集中の呼吸を取り入れ、瞬間的に身体能力の更なる強化を行う。加えて呼吸を切り替える事で、一分の間あらゆる状況に適した剣を振るう……できたとしても果たして身体が耐えられるかどうか。
確かに一輝の言う事もわかる。彼が勝つにはそのような手段を取るしかないのだろう。一刻とはいえ、敵に攻撃を通す条件を満たし、能力と呼吸によって得られる圧倒的な身体能力と剣術にて相手を上回る。
何故狂人としか思えない方法を考えついてしまったのか。
本来は覚醒まで気長に鍛え、その上で彼なりの呼吸を極めていけばいいと考えていたのだが。
しかし、これは彼自身の見つけた活路。狂気の沙汰とはいえ、理にはかなっているそれを否定する訳にもいかん。彼の意志を尊重するとも言ってしまっている。
「これは……私の教え方が悪かったのか……」
溜息混じりにそう零した。こんなにも頭を抱えたのはそれこそ縁壱以来だ。
このあと私は彼の理想を安全に会得するにはどうすればいいか、頭をひねり続ける事となった。
悩みに悩んだ主人公の呼吸の使用法。一輝君の性格ならやっちゃいそうなのよね。それなら同じ主人公の炭治郎みたく、何個か会得して戦ってもらおうと考えました。
評価感想等ありがとうございます。誤字修正本当にお世話になってます。
今回のアンケはちょっとした遊びです。皆さんが何の呼吸が好きかふと気になったので(五枠なので蟲とか音とかはユルシテ……ユルシテ……)。もしかしたら主人公の呼吸の参考にするかもしれません。
Oーキド「ほら、そこに5つの呼吸があるじゃろ?お前に1つやろう……さあ選べ」
「そうか!水の呼吸がいいか!こいつはとても扱いやすく柔軟だ。ただ、欠点として人との付き合い方が酷くなるぞ」
「そうか!風の呼吸がいいか!こいつは荒々しい削り取るような攻撃が特徴だ。ただ、欠点として常に胸元がオープンになるぞ」
「そうか!雷の呼吸がいいか!こいつは他を寄せつけない素早さが特徴だ。ただ、欠点として女性から騙されるようになるぞ」
「そうか!岩の呼吸がいいか!こいつはどっしりと構えて、重い攻撃を繰り出せるようになる。ただ、欠点として目から常に涙を流すようになるぞ」
「そうか!炎の呼吸がいいか!こいつは一撃の攻撃力が高いのが特徴だ。ただ、欠点として目が常に全開となり瞬きができなくなるぞ」
何の呼吸が好みか(派生は除く)
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水の呼吸
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風の呼吸
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雷の呼吸
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岩の呼吸
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炎の呼吸