最強の前にて君臨する鬼   作:破門失踪

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書きたい場面がまだまだ先。もどかしさに悶える第6話でございます。今回も解釈満載。



後半で名無しのオリキャラが出ます。




第6話

修行中に強制的に意識を刈り取った一輝が目覚めてから、私の許へと呼び出す。彼が気絶中に私が頭をひねって考えた、彼なりの呼吸の使用法を伝える為だ。

 

「一輝よ。万能とは響きは良いが、秀でた一に敗れることは多々ある……それは理解しているな?」

 

「もちろんです。ただ勝負の結果、相性で負けたなんて言い訳を僕はしたくない。自分の取れる手段と力の全てを用いて戦いたい。それが僕の考えです」

 

この覚悟を覆す程のものを私は今持ち合わせていない。ならば仕方あるまい。その修羅とも呼べる道を歩む一輝を導く事が師としての責務。

 

「わかった……お前の覚悟を尊重しよう」

 

「ありがとうございます」

 

身を案じ止めるべきなのか、彼を信じ見守るべきなのか。この二択の答えは未来にしかないが、一輝ならばやってくれるだろう。何の根拠も確証も無いが、私は迷いなく彼を信じる事を決意した。

 

 

ただ、師としては苦難の道と言えども最良の道を示してやる必要がある。信じるからと言って全てを投げ出すような無責任者にはなりたくはない。

 

「お前の考えについてだが……条件を付けさせてもらう」

 

「条件ですか?」

 

「まず一つの呼吸を修得する事。それを基に、必要と判断した時に呼吸を切り替える様にしなさい」

 

彼の究極の一分間だけ呼吸が使えても意味がない。平時でも高い練度で使える呼吸が必要だ。いずれは全集中の呼吸を、常時行ってもらう必要があるという理由もある。

 

「土台となる剣術を選ぶ訳ですね」

 

「そうだ。そしてその場合、過酷なのが身体の調整だ。今でこそ幅広く複数の呼吸を扱える身体だが、一つの呼吸を極めていくにつれ、その呼吸に適した身体に近づいていく。

 

結果として人それぞれの慣れや癖が生まれる。そうなる事でその者だけの剣となり、練度が上がり、技は極まると言っても過言ではない。

 

個人個人に奥義と呼ぶものが生まれるのも、呼吸と肉体が完全に適合した状態になっていくからだ……ただ、そうなれば今のお前の適合状態は崩れることになる」

 

「そうならないようにしろということですか?」

 

「今の身体の状況を正確に理解しろ。その状態を保て。一つの呼吸を私が及第点と呼べるまで修得した際に、その状態を保てていたのなら、お前の考えを許可する。その為の修行も組んでやろう。

 

ただし、その間私はお前の身体の状態について一切口にしない。これからは修行の内容も量も、全て自分で判断しろ。

 

筋肉の繊維一本一本。血管の一筋一筋までを認識し、完全に自分の支配下に置け。それが出来なければお前の考えは根本からして成り立たない」

 

「わかりました」

 

「言うまでも無いと思うが、私が言っていることは身体操作の極致とも言っていい。体を動かす度、剣を振るう度、成長する度、どうしても肉体は少しずつ変化していく。それらの変化を逐一把握し、適切に調整する必要があるのだ……

 

それをお前はこれから先、剣を置くまで永遠に続けていく事になる」

 

「もちろん全て覚悟の上です。こんな才能の無い僕でも、人生を捧げて強さが手に入るなら……安いものですよ」

 

一輝は軽く笑みを浮かべて、目を輝かせ言い切る。状況が異なるとはいえ、剣に人生を捧げる覚悟が出来ず、諦めた剣士が何人いた事か。

 

覚悟は知っている。今更確認せずとも、あの始まりの雪の日から。

 

 

ただ、口先だけ、心意気だけでは力にならぬのも、また武の道。

 

 

「ならば……私に示してみろ。半端な状態では私は認めん、良いな?」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

こうして私は初めて一輝の修行から手を引いた。いつか私の手を離れて自分で道を歩むことになるとは思っていたが、当初の予定からはだいぶ早まってしまった。

 

初めは確認も含めて眺めていたが、もうその必要も無いだろう。彼はよく自身の肉体を理解している。

 

心肺を強靭にし、柔軟で引き締まった筋肉をつけ、指南書から選んだ呼吸の型を繰り返す。そして同時に、身体を彼の理想の状態で維持する。

 

 

彼が自身の土台として選んだ呼吸は水の呼吸。

 

水の呼吸の型は、その名の通りどんな形にもなれる水のように変幻自在。状況に合わせた歩法を用いるのが特徴であり、それによって幅広い相手に対応できる。彼が求める理想に一番近いだろう呼吸だと私も考える。

 

そして水の呼吸が対応しきれない相手に対して、他の呼吸に切り替えて戦う。言葉にするとそれだけなのだが、これが如何ともし難い。

 

私の頭の中にある修行法も、数を繰り返し感覚を掴む事だけだ。それだけでも何度も死の淵を見ることになるのだろうが。

 

 

 

 

 

一輝が自身で修行に入り、ひと月が経った。たまに見てやると肉体は呼吸を学んだ事で更に強化されていた。地道な筋力強化も身を結んでいる。懸念していた各呼吸の適合も均衡が保たれている。

 

 

一輝は幼い頃から器用だ。私の動きを良く見て、教えずともコツを掴む少年だった。

 

走り一つにしても、身体の軸や地面の蹴り方、力の入れ方等。様々な事柄についてを見て盗み、私の教えで理解と確信を深め、自身に適用していく。

 

観察力、洞察力、理解力……そして何より私が失って久しい、力への渇望が溢れていた。それは呼吸の修得でも遺憾無く発揮された。

 

 

この世界では呼吸の継承は断続的だ。人喰いの鬼という長きに渡る宿敵が存在しない為、無理に受け継ぐ必要性が無い。今残っている指南書も私が書かせたのであって、自ら残そうと思う者は稀だった。

 

それに加え一般的には能力を伸ばす事が、手早く強くなれる手法と認知されているのも原因だ。作られた時代が古く、一握りしか使い手が存在しない剣術の継承はこうした文献に頼らざるを得ない。

 

よって後から呼吸を得ようとする者は、以前の使い手から長き時を空ける為、指南書でしか受け継ぐことが出来ない。あらゆる武術の基本である模倣。その為の見取り稽古を行える者がいないのだ。

 

 

私は月の呼吸一筋で生きているので、水の呼吸の見取り稽古をしてやることが出来ない。一輝も今までの者と同様に、指南書だけで水の呼吸を会得しなければならなかった。

 

 

指南書だけで呼吸を会得するのは苦難の道だ。言葉と簡単な図でしか説明を受ける事が出来ない。それだけならまだしも、書いた者によって個性が出過ぎている。

 

 

字が汚い、日本語がおかしい、感覚でものを言うのは当たり前。同じ呼吸の筈が人によって書いてある事が乖離していたり、ひたすら根性論を唱えているものもあった。

 

酷いものはその時点で私が加筆したり、書き直しを命じた事もある。時代によってはその者が字を書けず、私が代筆する事もあった。

 

 

そんな理由からPDF化は生き地獄だった。破れや虫食い、昔の表現、誤字脱字を打ち直して入力する箇所が多発したのだ。慣れない作業の途中で『黒死牟』の顔が表に出ていたかもしれんほどに。

 

 

そんな難解な指南書を読み、呼吸の理念を汲み上げ、自ら実践する。それがひと月で様になっているのだから大したものだ。

 

一輝が複数の呼吸を会得できたなら、その呼吸の指南書を書き直してもらうとするか。うむ、きっと今までより良いものができるに違いない。

 

「師匠……今何を考えましたか?」

 

「お前の成長に感銘を受けている所だ……期待しているぞ」

 

「それは僕の剣の腕の事ですよね?他意は無いですよね?」

 

「……呼吸が乱れている……集中しろ」

 

「師匠?」

 

勘の鋭さもなかなかに良き。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一輝が修行で居ない屋敷に電話の音が鳴り響いた。

 

この電話は昔ながらの形をしているものの、その使用時の重要性と危険性を考慮して、最新の防諜システムが組み込まれた世界で三台しかない特別製……らしい。私も聞いただけで詳しくはわからぬ。

 

そんな代物が設置されているのは一つはこの屋敷。残りの二つは総理官邸と国際騎士連盟日本支部の長官執務室。

 

さらに指紋認証等により受話器を上げれるのはそれぞれの場所の長だけに限られている。

 

この仰々しい電話がなる時は大きく二つ。大抵は総理大臣もしくは連盟日本支部長官の交代時に、私の存在について引き継ぎと顔合わせを行う時。

 

 

そして過去に一度しかないのが、どちらかまたは両方からの懇願。

 

 

時の首相は、第二次世界大戦という絶対に負けてはならない戦いに私を投入した。私もこの国を思う気持ちで、様々な条件と大きな対価と引き換えに、一回だけ刀を振るったのだ。

 

 

その結果は懇願した当人にとっても私にとっても、望まぬものとなってしまったが。

 

 

 

「……私だ」

 

『お久しぶりでございます。黒死牟殿』

 

相手は日本行政の長、現職の内閣総理大臣からであった。長い任期を務めている事を思い出し、この電話の意図を知る。

 

「久しいな……そうかもうお前も引退か」

 

『えぇ、かれこれ長い事務めました。党の規則もありますし、歳の問題もありますし……そろそろ次に託そうかと考えております。月影獏牙君という良き後釜にも恵まれました』

 

「そうか……重き務め、御苦労であった」

 

『ありがとうございます。つきましては引き継ぎを行う必要がございます。日程は━━━━……』

 

簡単に日付と時間を確認し、特に予定も無いので了承する。少し先だが、首相職の引き継ぎがあるのだろう。こちらは一輝にも手が掛からなくなった為、いつでも都合がつく。

 

「承知した。入山できるようしておく」

 

『お願い申し上げます』

 

 

 

「そうだ……少し頼みがある」

 

 

『貴方様からの頼みとは珍しい。なんでございましょう?』

 

iPS再生槽(アイピーエスカプセル)なる医療設備があると聞いた。手配できるか?」

 

iPS再生槽とは四肢の切断や臓器の損失程度であれば、たちどころに再生させることができる治療設備だ。一般には普及していない高級設備でもある。

 

鬼として肉体を再生できる私には無縁の物だが、一輝の修行には非常にありがたいものだ。

 

何せ、彼の理想を叶える為の修行は、下手すれば心肺機能が停止。良くても血管の破裂等の危険性を拭えない。私でも未知の世界となる。

 

その点この装置があれば、失敗しても一命を取り留める事ができ、何度も試す事ができる。……随分と時代も進んだものだ。

 

『まさか!貴方様が傷を負ったとでもいうのですか?』

 

「いや……私の弟子の修行に使いたい」

 

『……黒鉄長官から耳にしていましたが、本当にお弟子さんをお取りになっているとは……えぇ、そういう事でしたら造作もない事です。物が物だけに足を運んで貰う事にはなりますが、国が管理している物を使用できる様に手配しましょう』

 

「そうか……恩に着る」

 

『いえいえとんでもない。この国が貴方様に受けた恩を思えばこれぐらいは当たり前でございます』

 

「あれは……」

 

続く言葉を言い淀む。私の認識の甘さが生んだ悲劇。祖国を救わんとした行動が、あの様な結果になると何故考えが至らなかったのか。

 

『皆まで言わないでください。貴方様が悔いておられるのは承知ですが、日本が救われたのは事実でございます……では、また後日お会いしましょう』




特別な電話……この世界におけるバスターコール。


縁壱「兄上……私に散々言っておきながら、何をしでかしたのですか?」
巌勝「いや……それは……」
縁壱「……兄上?」


一輝「どっちもどっちでしょう」



これまで事ある毎に常識を説いていた鬼ぃちゃん。実はやらかしている設定をつけました。これなら常識に敏感になるはず。


アンケート回答ありがとうございます。やはりというかアニメ、単行本で既に活躍している呼吸が人気な模様。雷の呼吸かっこいいっすよね。おのれufo良くやった。


>日本語がおかしい
お前が言うな、という感想はお控えください。わかりきっている事かつどうにもならない事ですので……誤字報告いつもありがとうございます。

感想楽しく読ませて貰っています。是非是非気軽にご意見ご感想頂ければ幸いです。ただ返信のネタ切れはユルシテ……ユルシテ……。

あと前話の感想は拝見していますが、返信は後日ゆっくりさせていただきます。

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