最強の前にて君臨する鬼   作:破門失踪

7 / 10
説明ばかりの文章になって、あれこれどうしたもんかなと考えて……何もできませんでした。何の成果も得られませんでした!


説明ばかりの第7話でございます。


第7話

私、月影獏牙が総理大臣に就任しまだ日が浅い頃、一本の電話が私の携帯にかかってきた。相手は私に首相の座を譲った前首相。私を後釜にと、これまで大変お世話になった方だ。

 

『やぁ月影君。新しい生活はどうかね?』

 

歳を理由に政治家としても引退したが、その声にはまだ力があるように感じる。今私の両肩にかかる、この重い責任を全うされた前任者だ。

 

「重い責務だと日々痛感しています」

 

『なに君ならできるとも。だからこそ君に託したんだ』

 

「期待に応えられるよう精進いたします」

 

君に託すという言葉に今一度気を引き締められる。私には使命があるのだ。この国を最悪の未来から救うという重大な使命が。その為にただの教師から行政の長にまで、血反吐を吐きながらもたった十年で登り詰めた。

 

 

私の人生が大きく変わったのはおよそ十年前。破軍学園と呼ばれる、魔導騎士養成学校で理事長を務めていた頃の話になる。

 

こんな私だが一応は伐刀者だ。非戦闘系の能力だが、その特性故に国家機密となっている。

 

私が持つ能力は一定範囲内の人や場所の過去を覗き見る力。しかし、因果を読み取る能力は時に、現在の因果線上に存在する未来を、私に予知夢として見せてくるのだ。

 

 

あれは悪夢だった。

 

周りを取り巻く豪炎。耳が痛い程の絶叫。そして、人の焼ける匂い。

 

それが愛する祖国の首都、東京の未来の出来事であると認識するには少し時間がかかった。何故なら、首都東京とは思えない程に地獄絵図と化していたのだから。

 

これをただ一介の教育者でしかない私に見せつけられて、私は酷く絶望した。

 

 

誰がどのように、何がどうなって、そしていつ来るのか。そのいずれもわからない。私の能力は視るだけなのだ。

 

ただ、認められるものではなかった。許せるものでもなかった。こんな悲劇がこの国で起こるなら変えねばならぬと。どんなに人の道から外れた事をしようと、他人から後ろ指を指されようとも。私はあの未来を否定する事を誓った。

 

その為に政治家になり、国を動かす権限を得たのだ。ここまで本当に長かった。

 

 

 

『さて、挨拶はこれくらいにしてだな、今日君に連絡をとったのは総理としての引き継ぎがあるからなのだ』

 

引き継ぎ?それならもう数日前に済んだ筈だが……。

 

「失礼ですが、前の引き継ぎに何か不備でもありましたでしょうか?」

 

『あぁ、違う違う。前の引き継ぎには何の問題は無いと思っておるよ……表の引き継ぎにはね』

 

表の引き継ぎと言う事は裏の引き継ぎでもあるのだろうか。言葉通りに受け取るなら公には出せない案件。この人に限ってそんな暗い思惑があるとは思えないのだが……。

 

『前会った時に個人的に祝いたいから休みを作れと言った日があるだろう?』

 

「えぇ……一応空けることはできましたが」

 

まだ就任直後でかなりの無茶な日程調整にはなったが、この人から言われたなら仕方無い。

 

『その日に私の家に来なさい。君一人でだ』

 

「私一人で……ですか?」

 

自分で言うのもあれだが、私はもう一国の首相。一人であまり出歩けるような身分でもない。だが、次の一言で一人で来いと言う意味を知る。

 

『君に託すものはまだあるという事だ……君にしか託せないものがね。これが日本国総理大臣としての、私の最後の務めだ』

 

私にまだ託すものがある。首相である私にしか託せないもの。護衛すらつけずに呼ばれて託されるもの。それは何だ?私は前首相の決意が込められた声に、何を託されるのか見当もつかなかった。

 

 

 

 

数日後私はその家を訪れた。挨拶も早々に車に乗るように言われ、その方の運転する車で何処かに行く事になった。

 

助手席に乗ろうとするとそこに分厚い茶封筒があった。移動中に読みなさいと言われ、とりあえず乗車する。

 

「すまんな。こんな老いぼれの運転では不安かもしれんが……着くまでにかなり時間がある。その内容を頭に入れてくれ。その書類は読み終わったら処分するように」

 

「わかりました」

 

「眉唾ものと思うかもしれんが、そこに書かれていることは全て事実だ」

 

 

 

その資料は第二次世界大戦の際の政府記録だった。これはコピーされたもので原本はまだこの方が保管しているらしい。

 

 

その中に書かれていたのは、第二次世界大戦中の日本が劣勢気味の時。敵の前線基地であり一大拠点でもある島が、突如瓦礫の山となり実質消滅した件について。

 

それまでは敵戦力に押し込まれ、防衛に徹していた時の内閣。彼らはいち早く日本を戦争から離れさせる為、時の首相を筆頭に停戦条約の締結に注力していた。

 

 

しかし、敵拠点の突然の消失。原因は不明。ただ、わかることは人も、物も、基地も、島自体も、全てが両断されて崩れ落ちているという事だけ。

 

これを彼らは奇跡だと、神が味方していると、今なら日本が覇権を握れると言い始めた。島の消失も都合のいいように解釈し、どこの誰が行ったのかはわからないが、日本の味方には違いないと結論付けた。

 

ならば今こそ逆に打って出るべきだと、首相に詰め寄る形で提案している議事録。しかし、時の首相は首を縦には振らなかった。

 

 

閣議は大荒れに荒れた。内閣どころの話から政界全土に広がり、血で血を洗う政治抗争が起こるまでに。それは世間にも伝わり、過激な帝国主義思想が火がついたように広がり始めた。

 

ただ首相は頑なに必要以上に攻めることを良しとしなかった。攻めれば得られるであろう領土や強国としての権利を捨ててでも、国際協調路線に舵を切ろうとした。その為に《国際魔導騎士連盟》に加盟する決断をした。

 

 

 

「その軋轢の中で生まれたのが脱連盟を掲げる我々与党だ」

 

「そうだったのですか……ところでこの敵拠点の消失というのは、聞いた事も無かったのですが」

 

「そりゃあそうだろう。我が国ではその後すぐに徹底的に情報規制されたからな……

 

歴史からも抹消された、タブー中のタブーだ。

 

そんな事が出来る伐刀者が居ると知られでもしたら、また当時の二の舞だからな。同様に大戦で活躍した《大英雄》黒鉄龍馬とは規模が違い過ぎた」

 

 

その言葉に私は一瞬理解が追いつかなかった。一拍の間を空けて言葉の理解が追いついても冗談かと思う程に。

 

「コレは本当に人の手で起きた事なのですか?!」

 

「そうだとも……そしてこの秘密こそが首相である君だけが引き継ぐもの」

 

日本にその様な方が居るとは。だとしても何故それを秘匿する必要があるのか。その様な存在が我が国にいるのならば、それこそ他国への牽制、抑止力となる筈だ。

 

「その方は少々……いやだいぶ特殊でな。以前君に伝えた《魔人(デスペラード)》とその中でも世界の均衡を保つ三名……それ以上の存在なのだ」

 

 

魔人とは伐刀者(ブレイザー)が辿り着くその先。

 

伐刀者の持つ魔力とは生まれながらに持つこの世界に対する影響力そのもの。だからこそ、その総量は運命として定められており、増える事はないとされる。

 

しかし、この世にはその定義を覆す例外が存在する。自らの強固な意志で運命の鎖を断ち切った者。人としての魂の限界を打ち破り、運命の外側へ至った者。

 

その例外の存在を《魔人(デスペラード)》と呼ぶ。

 

 

 

その例外の中でも世界を三つに分ける勢力に一人ずつ埒外の存在がいる。

 

この世界を大国による分割管理下に置くことを目的とする、アメリカやロシア、中国といった大国が結んだ《大国同盟(ユニオン)》。

 

日本も所属する小国同士が相互協力し今の世界の形を保とうとする《国際魔導騎士連盟》。

 

この世界の闇に巣くう超巨大犯罪結社《解放軍(リベリオン)》。

 

 

この各勢力それぞれに一人強力な魔人がいることで、三竦みとなり均衡を保っている。

 

《連盟》には連盟本部長《白髭公》アーサー・ブライト。

 

同盟(ユニオン)》には二十代という若さで、アメリカの特殊部隊である《超能力部隊(サイオン)》の長を務める《超人(ザ・ヒーロー)》エイブラハム・カーター。

 

《解放軍》には第二次世界大戦以前から裏の世界に君臨する、ならず者たちの王《暴君》。

 

そしてあと数年もしない内に、この三竦みはバランスを失う。《暴君》が寿命を迎えるのだ。そうなれば《連盟》と《同盟》の正面衝突が始まる。この異なる二つの思想は同じ星にて決して共存する事ができないのだ。

 

 

これらの事は私も前から知っていた。政界に入ってから必死で調べたのだ。この世界の構図を。何がどうなり、何が引き金となって日本が破滅に向かうのかを。それまでのタイムリミットを。

 

 

 

「あの三人以上の?!……しかし、第二次世界大戦中の方ということは《暴君》と同じ様にかなりのご高齢なのでは?」

 

「……あぁ、かなりのご高齢だとも。まだ目的地まではしばらくかかる。その資料をしっかり把握しておきなさい……伝説と向き合うのはそれからだ」

 

伝説という言葉に疑問を投げたかったが、運転に集中されてしまっため、私は再び資料に目を通し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「着いたぞ」

 

渡された資料に熱中していたのか、気づけば数時間が経っていた。車から降りるとどこかの山の麓。その山に向けて伸びる細い道を登り始めた。

 

しばらくして山を分けるように連なる長いフェンスが見えてきた。私をここに連れて来た方はそこにあるゲートの錠を解き、更にその先へと進む。

 

「ここにその方が居られるのですか?」

 

「……ここまで来たならいいか。休憩がてら君に少しずつ話していこう」

 

そして語られるこの山の正体。この山は名目上政府が管理しているが、その実態は立ち入り禁止にしているだけ。近隣住民からは禁足地の様な扱いを受けて、誰も踏み入らないし、まず入る事すらもできない。

 

「今日は事前に連絡を取っている為何ともないが、普段は人が入れないように特殊な力場と威圧感の壁が広がっている。それを越えられるのは魔人の中でも一部の者くらいだろう……

 

それを乗り越え、入る事ができた者はこの世界の伝説へと挑む事を許される」

 

「車の中でも言ってましたが……伝説とは?」

 

 

「鬼だ」

 

 

「鬼……ですか?」

 

「人を超えて鬼となった御方。五百年生きる伝説……

 

我々はあの御方の一つ下の次元で、国と国民を賭けた小競り合いをしているにすぎんのだ」

 

 

同時に音もなく一人の男が私達の目の前に現れた。長く深い黒髪を後ろで結んだ若い男。だが、政界の化け物共に揉まれて、強固になった筈の心が震えている。目を背けなかった自分を褒めてやりたい程だ。

 

 

「おぉ、これはこれは黒死牟殿。貴方様自らいらっしゃるとは」

 

「老いたお前の足ではもうこの山道は辛かろう。責務を全うしたのだ。これからはその身を大事にするといい……次は彼が?」

 

「えぇ、彼が次の首相、月影獏牙総理でございます」

 

黒死牟と呼ばれた存在がこちらに向く。ただ見られているだけの筈が、まるで無数の目で私の全てを見透かされている様な視線だ。

 

対峙してわかる。この方こそ絶対者だ。これは伝説と呼ばれるはずだ。これは現実に存在していいものではない。物語の、それも英雄譚や神話にこそ出ていいものだ。

 

 

 

これまで教育者として政治家として様々な伐刀者と出会ってきた。《闘神》の南郷さんやご存命の頃の《大英雄》龍馬さん。最近では闇の世界を生きる者たちにも。

 

だが、そんな化け物じみた伐刀者達も、彼らはまだ人だったのだ。それを目の前に立って理解した。正しく次元が違う。

 

それを理解した私がとった行動は、ただ頭を下げる事だ。

 

この行動の意味は従属や隷属では無い。命乞いでも無い。私の胸にあったのは希望と救いだ。

 

「お願い致します!この日本をお救い下さい!」

 

この方ならば日本をあの滅びの未来から救う事ができる。今、私が未来の為に進めている計画よりも確実に。会ってすぐだが私は確信した。

 

 

 

「その言葉を聞いたのは……これで二度目だ」

 

 

 

目の前の存在は語る。

 

第二次世界大戦の際に時の首相が同じように懇願したと。劣勢気味な戦況を変えるためにどうか力を貸して欲しい。一国の長が涙を流しながら額を地につけたと。

 

「奴は平和主義で人格者だった。戦争を避けようと手を尽くしていたようだが、それでも二度目の大戦は起きた。国の為、国民の為と頭を下げて私を使った結果、何が起こったかわかるか?

 

帝国主義的な国民世論の暴走だ。私の一振りで形勢が一気に逆転してしまったのだ。

 

国を救わんとする願いが、国の暴走を引き起こした。

 

その国民の様子を見て、このままでは止まらないところまで行ってしまうという危機感に駆られ、奴は強引に国際調和へと舵をきった。権利や領土、あらゆるものをかなぐり捨て、周りからの戦争続行の意見をねじ伏せてまで……

 

その時の奴の憔悴した様子は見るに堪えなかった。私も奴も、私の力の認識が甘かった。

 

たった一振りで、人と国が狂った。故に私はもう己の意思以外で刀は握らん」

 

その言葉を聞いて私が見つけた大きな希望は、再び深い絶望へと変わった。

 

だが、そんな簡単に諦められるものか。そうでなければ私は総理大臣になどなれてないし、救える国も救えない。あの未来だけは許す訳にはいかない。

 

 

「……万象を照らせ。《月天宝珠》」

 

月の輝きのような淡い光と共に、自らの霊装を顕現させる。こぶし大の金色の水晶球。これを人前で見せるのはいつ以来だろうか。

 

前首相には以前見せたことがある。彼が後任者を選ぶ際に、接触しコレを見せた。だからこそ私が後釜として育てられたのだ。

 

宙に漂う《月天宝珠》を指で弾く。すると宝珠の鏡面が波を立て、球の下部から一滴の雫が山肌に落ちた。

 

落ちた雫は私たちの地面に黄金の波紋を起こし、次の瞬間どす黒い紅蓮の映像が地面に映る。いつ見ても何度見ても怒り狂う様な光景。

 

映るのは正真正銘の地獄。一面炎に呑まれた東京の姿。その中で生きながらに焼かれる人々。今も崩れた建物の下で人が巻き込まれた。

 

ただの映像ではない。私の見た悪夢を再現している為、炎の熱さも、耳をつんざく絶叫も、人肉が焼け焦げる臭いも感じ取れる。これが私が予知したいつか来たる東京なのだ。

 

自らの能力とこの映像について簡単に説明する。

 

「これが未来の東京か……酷いものだ……」

 

「これを見ても手を差し伸べて頂けませんか?!どうか!……どうか!」

 

再び頭を下げる。ただ一言「助けてやろう」と言ってくれ。

 

黒死牟は目を閉じた。何かを思案するように。答えが返ってくるまでの間が、人生でもひたすら長い様に感じる。

 

 

「私はもうこの時代を生きる者ではない。この時代の事は今を生きるお前たちが対処すべきだ……私のような過去に縋るな。私の出る幕はもう無いのだ」

 

 

その言葉に私は目の前が真っ暗になりそうだった。希望の光は明らかな拒否にて遠くに消えていった。

 

「これからはお前が長だ。ならばお前自身が日本を救え。その為に総理になったのだろう?」

 

……そうだ、その為に総理になったのだ。

 

私が打ちひしがれる事は許されない。歩みを止めることは許されない。

 

必ずや日本を滅びの未来から救うと。他でもない私が。たとえこの方の手を借りずとも。その為のこれまでなのだ。

 

 

全ては愛するこの国の為に、未来の子供たちの為に、私はこの運命に抗わなければならない。

 

この国の行く末は私が決める。運命などに決められてなるものか。

 

それが内閣総理大臣、月影獏牙の務めだ。




無理矢理に近い形で、この鬼ぃちゃんを歴史から追放に成功。ヤッタゼ


時の首相「あの辺にぃ……ちょーっと(戦力的な意味で)消して欲しい拠点があるんすよォ」
鬼ぃちゃん「ふむ……(文字通り)消せばいいのだな?」

ー日本暴走ー

時の首相「コンナハズジャナイノニー!」


んーガバガバ政府過ぎますねぇ……神風が吹いたとでも思ったんでしょうか?

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。