最強の前にて君臨する鬼   作:破門失踪

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三話のアンケート見てから速攻で作ってたのがコチラ。


最初は時透君が主人公のクロスオーバーを作ろうと構想していた。
その後脳内を縁壱様に塗り潰された。




第9話

ある日屋敷に電話の音が鳴り響いた。

 

この電話は昔ながらの形をしているものの、その使用時の重要性危険性を考慮して、最新の防諜システムが組み込まれた世界で三台しかない特別製。

 

これまでにこの仰々しい電話がなる時は、ほとんどが総理大臣もしくは連盟日本支部長官の交代の時だ。

 

 

山に籠っている為限られた情報になるが、総理大臣の月影獏牙も連盟日本支部長官の黒鉄厳も交代するとは聞かない。獏牙にいたってはついこないだ就任したばかり。

 

戦争や日本での大規模テロといった、私という過剰戦力を望むような事も起きていないはずだ。

 

 

何かの間違いか、二人の内のどちらかが急にその座を降りることになったのか。どこか訝しい気持ちを抱えつつ、その電話に出る事にした。

 

 

「……私だ」

 

『黒死牟殿……貴方に相談したい事があるのです。どこかでお会いできるでしょうか?』

 

私に連絡を取ってきたのは獏牙の方だった。それも酷く思い詰めたような声音で。何かがあったのだろうが、私はもう手は貸さないと決めている。それは彼も理解している筈だ。

 

「念の為確認しておくが……日本政府としてか?お前個人としてか?」

 

『私個人として貴方に頼みたい事があるのです。貴方が懸念するような案件ではございません』

 

 

 

 

 

特にやることも無く、一輝の修行ももう付きっきりでなくてもいい。獏牙の様子も気になったので私は彼と会うことにした。

 

指定された日時に、他人に知覚されないようにビル群を駆ける。

 

都内の指示されたビルの一室に辿り着いた。部屋の扉に佇む護衛の男に獏牙からの言われた偽名で話しかけると、その男は私を通し、部屋の扉から離れた場所にまで移動した。

 

 

部屋の中には正真正銘この国の長、総理大臣月影獏牙だけがいた。私が来た事に気が付いた彼は、私に対して軽く会釈をし部屋の応接セットへと案内する。

 

「護衛を下がらせて良かったのか?」

 

「貴方の前ではいてもいなくても関係無いでしょう。ともあれ、わざわざ御足労いただきありがとうございます」

 

「私の足の方が早いだけのこと。気にする事は無い。して……相談とは?」

 

「貴方が弟子をとっている事は聞き及んでいます。ご迷惑かもしれませんが、一人貴方の弟子にして貰いたい子供がいるのです」

 

私に新たな弟子を?私という特殊な人物に弟子入れさせるのだから、何やら理由がある筈だ。

 

自分で言うのもあれだが、私の存在といい《覚醒》の事といい、私は機密や禁忌の塊だ。

 

一輝の様に私自らが弟子を取るならまだしも、国家機密を誰よりも守る必要のある一国の長が、それを破る行為をするのだ。その理由も余程ものになるだろう。

 

「……詳しく話せ。まずはそれからだ」

 

「弟子入りという形で面倒を見て欲しいという方が正しいのかもしれません。私はもうその子に関われなくなるので……私の知人夫婦、友人の子供なのですが」

 

「その夫婦に頼まれたのか?」

 

獏牙は力無く悲しげに首を振る。

 

「その子はもう天涯孤独の身になってしまいました。先日発生した解放軍(リベリオン)のテロによって」

 

確か報道で流れていたな。海外でそれなりの死者が出た大規模のテロがあったと。

 

 

「そのテロで両親と双子の兄を一気に失いました。同時にその時のショックで記憶すらも失ってしまい……」

 

 

生き残った双子の弟、記憶の喪失……まて、何か頭に引っかかる。

 

 

「それだけなら私の友人の息子といえども、孤児として扱うのですが……問題はそのテロリスト達を暴走したように返り討ちにしたのです。そして記憶は失ったのにテロに対しての怒りが溢れている。

 

……その子は私に力が欲しいと懇願してきたのです」

 

 

襲撃者を……返り討ち。あと少しでこの違和感がすっきりしそうなのだが、まるで頭に霞がかかっている様だ。記憶をはっきりさせる為に、あと何かが足りない。

 

 

「どうかされましたか?」

 

「何でもない続けてくれ。お前がそれだけで私を師に据えようとするとは思えん」

 

「えぇ、その通りです。それだけなら他にも師はいました。多くの門下生を持つ《闘神》の南郷さんをはじめとして幾人か」

 

 

《闘神》南郷寅次郎。私をいないものとして考えれば、日本最高齢の魔導騎士であり、龍馬の戦友でありライバルでもあった。第二次世界大戦の際に龍馬と共に私の監視及び案内役として同行した者でもある。

 

 

「友人の血筋を整理しているとそこにあったのですよ。消されたはずの貴方の真の名……継国巌勝の文字が」

 

 

「私の……子孫だと?」

 

 

それが鍵となって頭の霞が一気に消えていった。道理で思い出すのに時間がかかった筈だとも納得した。

 

この記憶は私の前世の記憶なのだから。長い時間でもうほとんど忘れてしまったが、私の子孫というきっかけで思い出せたようだ。

 

 

だが……そんな偶然が有り得るのか。私たち兄弟以外に原作の人物が生まれているなど。

 

 

ただそうなると獏牙が私に弟子入れさせようとしているのは……

 

 

「その子供は今近くにいるのか?」

 

「はい、離れた部屋で待機させています。ここにお呼びしましょうか?」

 

「……頼む」

 

 

 

獏牙が部屋の外に出る。その間の私の心中は複雑だった。

 

たまたま全ての条件を満たした別人という可能性もあるが、ここまで揃うと確信めいたものに見えてくる。

 

目を閉じ、物思いにふける。少しの時間を長く感じてしまう。

 

こんな感覚は何十年、いや何百年ぶりだろうか。……これだけ生きてまだ緊張しよう事があるとは。

 

 

 

ノックが鳴り扉が開く。獏牙に連れられて一人の少年が入ってきた。

 

 

その姿を見て、予想していた筈なのに衝撃が走った。やはり記憶の中の彼だった。

 

腰に届く程の髪を伸ばした、小柄で中性的な少年。雰囲気がはっきりせずぼんやりしている印象を受ける。獏牙の後ろに隠れる様に現れた彼には、不安や戸惑いが見て取れた。

 

「今ちょうど君を紹介していたところだ。挨拶しなさい」

 

 

「時透……無一郎です」

 

彼に近づき向かい合う。無意識の内に彼の頭の上に手が伸びかけた。

 

 

その事に気付き、我に返って手を止める。本来の黒死牟が殺してしまった子供に触れる。その事に少し躊躇いがあったのだ。

 

だが、その葛藤もほんの僅かな時間。少ししゃがみ、彼と目線の高さを合わせ、彼の頭の上に軽く手を乗せる。そして彼の目を見つめた。

 

 

自分自身すら失った空っぽの瞳。これに光を灯さなければ。そんな使命感が私の中に溢れてくる。

 

 

『黒死牟』は『黒死牟』。『私』は『私』だ。だが、完全に無関係というわけではない。

 

ならば『黒死牟』としての力で、『私』が出来る事を……この子に。

 

 

「……力が欲しいのか?」

 

「はい」

 

「それは何の為だ?」

 

「わからない。僕には記憶が無いから……でも、力が無かったから悲しくて、怒っている事は身体が覚えてる」

 

「そうか……」

 

一輝と同じ様にこの子にも力を与えてあげよう。原作の彼のような、これから新たに出来るだろう大切なものを守れる力を。

 

この子は今文字通り"無"だ。だが私は知っている。無一郎の"無"は無限の"無"である事を。

 

 

無から有を生み出すのは難しい。零には何を掛けても零でしかないのだから。

 

 

だから私はこの子に、無限に繋がる最初の一を与えてあげよう。

 

 

それが『黒死牟』としての贖罪。

 

本来の私が奪ってしまった、あの優しく勇敢な少年に対する償いだ。

 

 

「失った記憶もいずれ戻る。今はまだ霞が広がっているだろうが、いつかささいなきっかけで自身を取り戻し……それは晴れる。不安だと思うが、焦る必要は無い」

 

無一郎はコクリと頷いた。

 

「黒死牟殿……お言葉ですが、この子に自身の記憶を見せても実感が無いそうなのです。それに後遺症で記憶保持能力にも影響が……」

 

「そうか……お前はそういう事が出来る能力者だったな。だが心配する事はない……大切な思い出ほどふとした時に自然に思い出すものだ」

 

「そうですか……ならば、どうかこの子をよろしくお願いします……無一郎君、私はまだこの方と話す事があるから、さっきの部屋で待っていてくれるかな?」

 

 

 

 

 

 

 

「……まだ何かあるのか?」

 

「えぇ……ここからは日本国総理大臣、月影獏牙としてですが」

 

先ほどの顔とは一転、まるで仮面の様に表情が変わった。これがおそらく獏牙の政治家としての顔なのだろう。

 

「政府としての相談とは聞いていないが?」

 

「貴方様の意思は重々承知しております……だからこそ私が行う事にも介入しないで頂きたい。それを説明させて頂くだけです」

 

 

そうして語られる獏牙の内政計画。日本の《連盟》からの離脱を目的に、世論を誘導する為に学生騎士の祭典、《七星剣武祭》を徹底的に破壊するというもの。

 

現在日本の伐刀者に対する権利は《連盟》に加盟している事で奪われていると言っていい状態。育成や懲罰すら政府の意見では満足に行えず、《国際魔導騎士連盟》の許可が必要だと言う状況。

 

その問題を理由に、権利を取り返すという口実で、日本と連盟との仲を修復不可能なまでに引き裂く。その仲を引き裂く手段こそ、連盟によって育てられた七つの魔導騎士養成学校の学生騎士より、日本が独自に育てた学生騎士の方が強い事を証明する事。

 

その舞台が国民も世界も注目する七星剣武祭であり、その結果をもって脱連盟の是非を問う国民投票で過半数以上を獲得する。

 

その後《同盟》に鞍替えする事で、前に見せられた日本の破滅の運命から逃れようとする計画だ。

 

 

ただ今から日本独自で学生騎士を育てても、時間も実力も足りない。その為闇の世界の実力者達、《解放軍》のエージェントを生徒として起用する。

 

それを聞いて私は彼の説明に待ったをかけた。そして先程の彼の言葉の意図を理解した。

 

「待て……お前が無一郎に関われなくなるとは……」

 

「えぇお察しの通りです。私はこの国を救う為に、あの子の仇と手を組みます。ならばもうあの子とは会うことは出来ない。許されることも無いでしょうから……

 

あの子には情もある。私の友人を奪ったテロリストには私も思うところはある」

 

彼は語る間に自然と握りこぶしを作っていた。それが小刻みに振るえている。

 

しかし震えがピタリと止まり、私の顔を見て決意を口にした。

 

 

「だがそんな事よりも責務が勝る」

 

 

あらゆる感情をそんな事と言い切り、私情を抑え込む一国の長の姿がそこにはあった。

 

 

 

 

「この計画の決行は三年後……だからこそ貴方には打ち明けるのです」

 

三年後……それは一輝が魔導騎士養成学校に入って二年目となる頃だ。無一郎も入って一年目の時期になる。無一郎はこれからの修行次第だが、一輝に至っては確実に同年代では桁外れた実力を持つようになる。

 

「貴様は……その計画で私の弟子を使いたいとでも言うのか?それともその祭典に出るなとでも?」

 

「そんな事は考えておりません。私が危惧するのは弟子の晴れ舞台を壊されて、貴方に介入される事です……本当なら決行年をずらしたかった。

 

だが、計画の準備や根回しにはまだ時間がかかる。かと言ってこれ以上後ろにずらせば間に合わなくなる……苦渋の決断なのです」

 

 

「私の弟子は、一輝は強いぞ。そして無一郎も……あの子は天才だ。お前の計画に牙を剥くだろう……それでも良いんだな?」

 

 

 

「そうですか。あの無一郎君が……ふふっ、それは良かった」

 

 

 

私を前にして、今まで皺を寄せながら対峙していた獏牙の表情から一気に力が抜ける。疲れたように笑いながら、安堵の表情へと変化した。

 

「……良いのか?随分前から練っていた計画なのだろう」

 

「そうですね……あの悪夢を見てからずっとこの計画の成就の為だけに生きてきました。私の力ではこうすることでしか運命を欺けない。貴方のように運命をねじ伏せる力があればとは思わずにはいられなかった。

 

これは今の私が打てる最善の手。これ以上の事は私では不可能だ。だからこそ……

 

私のこの計画を正面から壊してくれる程の子供達が、運命すら乗り越えてくれる子供達がこの国にいるのなら……

 

 

私も心置き無く、若い世代に託す事が出来るというものです」

 

 

「勝っても負けてもお前(日本)の勝ちか……ずるい大人だな」

 

「これでもかれこれ十年程政治家の椅子に座ってますから」

 

獏牙の表情が再び固くなる。先程の本音を言う疲れた笑顔から一転、政治家としての仮面を身に付けた。

 

「だが、そう易々と託す事は出来ない。だから私は全力で壁になる。若い彼らに、日本の未来を担う子供達にまだその力が無いのなら……

 

それまでは私がやらなければならない。それが大人というものでしょう」

 

 

日本を救うと誓った男としての顔。責務を果たさんとする総理としての顔。そして……子供に期待する大人としての顔。

 

様々な想いと考え、重圧が混じった獏牙の覚悟に心の中で敬意を表する。ならば彼の言うように私があれこれするのは余計な真似か。

 

「この計画は胸に秘めておくとしよう。二人にも何も言わん。その上で……

 

お前の期待に応えられるよう二人に修行をつけねばな」

 

 

「ははは……お手柔らかにお願いします」




作者・月影総理「良し、原作からの追放も完了」


何だかんだ月影総理が好きな作者。

時透君の二次創作出ねぇかなぁ……


昨日書店行ったらいつの間にやら落第騎士の最新刊出ててびっくり。この原作インフレおかしいから(褒め言葉)、今の構想ぶっ壊されないか出る度にヒヤヒヤしながら読んでる。

いつも感想評価等ありがとうございます!

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