「話しかけてくんなよっ!」
「お前の隣とか、最悪じゃん」
「死ね、学校来んな」
「消えろ、ブス」
学校でそんなことを言われて。
「うるさい、静かにしろ!」
「また成績落ちて……!」
家にはヒステリーに叫ぶ母親と、酒を飲んで殴る父親。
日に日に増えていく痣と切り傷。
こんな私に、逃げ場なんて無かった。
……ああ、痛い。痛い。もうやめて。
親に隠れてしていた本屋の立ち読みで、人が死ぬ小説を読むと、その人が堪らなく羨ましく思える。
人の怪我を見るよりも、人間によって傷つけられた動物を見た方が、涙が出る。
昔は時折こぼれていた微笑も、いつのまにやら失くなった。
そんな私はもう、壊れてしまっていた。
齢十四の少女にとって、そんな生活は重すぎたのだろう。
だからこそ橋から突き落とされた時、初めに感じた感情が「安堵」だったんだろうか。
明るい光に目を開けた。
柔らかい感触に、白い天井。どうやら病院らしい。
ああ、生き残ってしまったのか。あの地獄に帰ることになるんだ。
胸にどす黒い泥の様なものが溜まり、陰鬱になりながら身を起こそうとした。
……あれ?
力が入らなかった。手術後の麻酔がまだ残っているのか?
わちゃわちゃと手を動かしても、身を起こせそうに無い。
どうにか手を目の上に持って来ると、紅葉位の白い小さな手が………ゑ?
試しに手を握るとグーになり、開くとパーになった。
……どうやらこれは、私のモノらしかった。
軽くパニックになり掛けていた私の耳に男女の声が飛び込んで来る。
「Alia!Our child moved!」
「Yes,it's Clice」
「Cute!」
「Sure」
くっ、ネイティブ過ぎて聞き取れねえっ!
意味はよく分からないが、単語から察するにどうやら英語の様だ。
というか英語かロシア語しか知らん。
こんな事ならちゃんと勉強すればよかったと後悔したが、すぐに打ち消す。
塾になんて行く金はうちには無かったし、どちらにしろ教科書とノートは早ばやと燃やされてしまっていた。
そんな私の顔を見て来たのは紺色の髪の美青年。
キラキラと光る色素の薄い瞳が綺麗だ。
「Said "dad"!Flora!」
フローラという名前をどうにか聴きとり、驚いた。
私は溝練 彩葉という純粋な日本人であり、外国に知り合いはいないし、ましてやこんな綺麗な人を見たこともなかった。
だがしかし、今の状況を知る為、一生懸命に話しかけて来る青年に答える努力を一応してみる事にした。
「ア……アーアァ?」
あ、駄目だこれ。元々あまり良く無かった滑舌が、何故か言葉にさえなっていなかった。
ぼそぼそと喋ったというささいな理由で胃の中のものを全て吐かされ、乳歯を何本か折られた事を思い出す。
流石に病院でそんな仕打ちをする事はないだろうと思いつつも、わずかな恐怖が頭をよぎった。
「Alia!Frola said "dad"!」
「Oh,really?」
今度は金髪の美人が覗き込んで来た。
優しげな柔かい微笑みに、どうやら殴られる事はなさそうだと安心して真っ直ぐに目を見ることができた。
紫色の瞳が私を映し出している。
その私は、小さな……赤ん坊だった。
また混乱に陥りそうになる。
その時、ラジオの声が言った。
『……The boy who survived,the whereabout of Harry Potter……』
ハリーポッター?
も、もしや私は……『ハリー・ポッター』の世界に転生してしまった……のだろうか。
最近暗いのしか書いてない様な気がするトリスティティアです。
あと、ゑ?って、え?よりも疑問に思ってるっぽいよね。