ドラゴン使いの少女は。   作:トリスティティア

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真夜中の冒険。

真っ暗な廊下の中、私は自分が光源になるという不思議な体験をしていた。

久しぶりだなあ、これ。

家で時々つまみ食いして、怒られたな……って、まあそんな事どうでも良い。

周りを見回してみても、やはりアステリアさんは見えなかった。

 

「シェリー、アステリアさんが何処に向かったか分かる?」

「……はい。こっちです」

 

そう言ってシェリーが指差した方向に進んでいく。

何本もの廊下や真夜中でも動き回る階段を、迷いもせずにナビするシェリーは、いつの間にか眼鏡を外していた。

……眼鏡外しても見えるのかな?

意外とおしゃれ用だったりして。

下らない事を思っていると、突然シェリーが囁き声を上げた。

 

「いました、リアです!」

「………え?」

 

シェリーの指の先を見ると、確かにアステリアさんの白いお顔が見えた。

横にいるのは……ネビル?

そこまで認識したところで、突然シェリーがそっちに走り出した。

 

「ぅわ、ちょ、シェリー!」

「シェリー?」

「リアっ」

 

頬を赤く染めてアステリアさんの手をぶんぶんと振るシェリーは、まるで少女漫画である。

ちなみにネビルは空気だった。

 

「何でいるの?今深夜だよ?もう寝ないと駄目でしょ?いつまで起きてるの!」

「お母さんじゃないんですから……そもそも、リアもじゃないですか。何で、こんな時間に……」

「ブ、ブラックさんは僕を迎えに……」

 

少しばかり引きながらネビルが口を挟んだ。

そんな事をお構いなしに、シェリーは言い募る。

 

「それに、私一人で来たわけじゃ無いです。フローラも一緒に……」

 

そう言って真っ直ぐに見つめてくるシェリー。

うう、私アステリアさんに嫌われてそうなのに……。

そう思いながらも、シオンに囁きかけた。

 

「……シオン、不可視化補助は解除せずに、私のそばを離れないで」

 

そこまで言ってから、毛皮から手を離す。

私を認識したアステリアさんとネビルが目を見開いて固まっている。

 

「アルテミルさん……?」

「あー……こんにちは」

 

言ってしまった後から、時間的に今はこんばんはが正しいという事に気がついた。

だが、言ってしまった言葉は取り戻せないのである。

あああ、アステリアさんの冷たい目が突き刺さる。

 

「えぇっと、この度はご機嫌麗しゅうございまして」

 

そこまで言った所で、ハリー達の声が聞こえてきた。

うわぁ、救世主っ!

ありがとうハリー、魔法界だけでなく私まで助けてくれるなんて!

 

「……あれ、ネビル?」

「ハリー!ロン!」

 

嬉しそうな顔をするネビルとは裏腹に、アステリアさんは顔に縦線が入っていらっしゃる。

そんなに嫌いかね。

というか、グリフィンドール生ここに7人集合してんだけど。

ハイエース満席だな。

 

「貴方達まで抜け出していたの?もし見つかったらどうなるかも分からないの?」

「うるさいなぁ、ハーマイオニー。ちょっとくらい口を閉じていられないのかい?」

「あのね、ロン……」

「静かにして」

 

反論を遮られたハーマイオニーが不服そうな顔でこちらを向くが、誰かの足音に凍りついた。

……猫の鳴き声が微かに聞こえる。

フィルチかな?

 

「……やばい」

 

誰かの声を皮切りに、声から反対方向へ音を立てないようにゆっくりと走り出す。

 

「うっわぁぁ!」

 

ガラガラガッシャーン、凄まじい音が鳴る。

どうやら、ネビルがロンを巻き込んでぶっ倒れたらしい。

くっ、こんな時までトロい奴。

 

「逃げろ!」

 

ハリーの金切り声で皆走り出す。

どういう根拠があってか、ハリーの誘導する方向へ駆けていく。

真夜中というのに元気に動き回る階段や隠し扉を潜り抜け、扉に着く。

開けようとしても、鍵がかかっているようで開かない。

……どう考えてもグリフィンドール塔ではないな。

ハーマイオニーが杖を向け、素早く唱える。

 

「アロホモラ!」

 

がちゃり、と鍵の開く音が聞こえ、するりと重い扉が開いた。

急いで全員が中に隠れる。

躊躇していたシェリーの腕を掴んで扉を閉めたところで、フィルチの足音が聞こえてきた。

息を詰めて待つと、足音は遠ざかっていった。

 

「もうオーケーだ……ネビル、引っ張らないで……え?なに?」

 

振り返ると、そこは普通の部屋ではなく廊下だということがはっきりと分かった。

それから、ここには私達以外に三頭犬がいる事も。

六つの瞳が私達を睨め付けてくる。

さあああ……と血が引くのがはっきり分かった。

ドアの取手を探し出して、後ろに倒れこむ。

ドアが小さくて犬が潜り抜けられなかったのが幸いし、震える手でドアを閉めてさっきの廊下を転がるように走った。

背後から響く、勢い良く扉にぶつかるような音に背筋が凍る。

 

駆け続けて太った婦人の肖像画が見えた時は、本気で奇跡だと思った。

 

「まあ、どこに行ってたの?」

「何……でもないよ、豚の鼻豚の鼻」

 

ハリーが息も絶え絶えに言うと、パッと開いた。

肘掛け椅子にへたり込む。

ネビルなんかブルブルと震えて、一生口が聞けないんじゃないかと思ってしまうくらいだ。

 

「あんな怪物を学校の中に閉じ込めておくなんて、何考えてるんだろう」

「あの犬、絶対ストレス発散の為に僕達に襲いかかってきたよな」

 

愚痴るハリーとロンに、復活したらしいハーマイオニーが眉をしかめて言う。

 

「あなた達の目は節穴なのかしら?あの犬が何の上に立っていたのか、見ていなかったの?」

「生憎と、頭を見るだけで精一杯だったよ」

「仕掛け扉の上に立ってたのよ。何かを守ってるに違いないわ。……大体ねぇ、あなた達はいつもいつも……」

「お、おやすみ!」

 

説教が長くなりそうな気配を感じ取り、私はシェリーに目配せしてアステリアさんを引っ張って階段を上がっていった。

 

「はぁぁ……すみませんフローラ、こんな事に巻き込んでしまって。おやすみなさい」

 

青白い顔のシェリーがベッドに這い上がり、カーテンを閉じた。

下からハーマイオニーの説教が聞こえて来る。

半目になったアステリアさんは頭を押さえて言う。

 

「……おやすみなさい、アルテミルさん」

「え、あちょっと待って。アステリアさんって……」 

 

本当は凄く優しいよね、という言葉を飲み込んだ。

よくよく考えてみると物凄く失礼だし、そもそもそんなに仲良くない相手にそんな事言われたら引く。仲良い相手に言われても時と場合と場所によっては引く。

 

「何?」

「い、いえ何でもありません。お、おやすみなさい」

 

誤魔化すように笑って、カーテンを閉めた。

布団にくるまり、目を閉じようとした所でツンツンと突かれた。

 

「ああ、シオン……ごめんね、あれは明日あげるから。あと、不可視化補助解除」

「………ルルゥ」

 

真っ白い毛を輝かせるシオンが寝床に収まったのを見て、私の長い一日もやっと終わりを迎えた。

 

 

 

………ちなみに、次の日のハリーとロンの目元にはくっきりとくまがついていた。

 

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