ドラゴン使いの少女は。   作:トリスティティア

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あけましておめでとうございます。
全く実感が湧きません。


優雅な休日。

あのハイエースの日の翌日は、ちょうど折り良く休日だった。

朝食でねぼこまなこのハリーがニンバス2000を見て目を覚ます、という光景を見物してから談話室に戻る。

シオンにアレを上げないといけないからだ。

小包みを持って校庭に向かうと、シオンも着いてくる。

サンサンと差す日光に、目を細めた。

それと同時に、肌を容赦なく刺してくる冷たい空気に身を震わせる。

マフラーをしっかりと巻きながら辺りを見回してみても、まだ朝早いからだろうか。人が少ない。

ま、そっちの方が好都合。

 

こっちだよ、とシオンに声をかけてから池の方に向かう。

ヌシもまだ眠っているのか、光が静かな水面に反射してキラキラと光っている。

池の近くの日陰に座り込んだ。

ここはちょうど死角になっている為、目立ちにくい。

代々アルテミル家に伝わってきた(らしい)場所だ。

 

小包みを膝の上に載せて、そろそろと開封していく。

黒い箱の蓋を持ち上げる。

 

そこには、紫色の宝石達が並んでいた。

ブドウ科蔓性落葉低木の果実。

そう、葡萄である。ヴィナグラート。виноград。

一粒茎から取ってシオンのほうに投げると、ぱくりと口でキャッチした。

黄金色の目をキラキラと輝かせながらもぐもぐと口を動かすシオンは今日も天使である。

 

そう、うちのシオンはドラゴンにしては珍しいことに、葡萄が一番の好物なのだ。

早くも食べ終わり、飛びつきそうなシオンから箱を遠ざけるように持つ。

これを使って色々とやらなければならない事があるからだ。

 

「シオン、これは影と透明を練習してからね」

 

ルルゥ……と耳をしょぼんとさせるシオン。とても分かりやすい。

まあ、苦手な上に面倒臭いわ魔力も大量に使うわで気持ちは分かる。

だが、習得しておいた方が色々と便利なのだ。

ちょうど日陰にいるので、透明化から練習を始める。

イメージとしては、周りの空気や水等とと一体化するようなもの。

ただし、それだけでは不可視化と同じなので、もっと強力なものとするためにほんの少しだけ、()を解く。

慎重に指を滑らせ、僅かにチャリン、という音が鳴ったところで即座に指を離す。

シオンの瞳と毛の煌めきが明らかに強くなっている。

 

「シオン……透明化」

 

囁きかけると同時にシオンの姿が空気に溶けていった。

シオンがいた所を触ってみても、そこにあるのは空気と草の感触だけだった。

よし、第一段階はクリア。

面倒臭いのはここからなんだよな……。

 

「シオン、透明化補助」

 

そう言ってから、目に力を込めると薄らとシオンの姿が見えてくる。

その柔らかい毛をきゅっと握りしめた。

この空気の中に溶けていくように……心を鎮めて。

段々、目の前に霧のヴェールがかかっていく。

このまま、消え……。

 

出し抜けに周りの音が途絶え、蓋をしていた記憶が泥水のように溢れてくる。

剥き出しの悪意に蝕まれた同級生と、うずくまる私を無表情で見下ろしてくる両親、自分の保身の為に見て見ぬ振りをした教師達。

炎が全てを取り巻いていき、私の視界も炎一色になる。

 

「………クルゥ?」

 

シオンの鳴き声と掌の痛みで突然気が冴えた。

下を見てみると、知らず知らずのうちに握りしめていたらしい。赤く染まった爪がテラテラと光っている。

 

「……あーあ……大丈夫だよ、シオン。包帯あるから」

 

流石はお母さんと言うべきか、葡萄と一緒に包帯と塗り薬も送られてきたのだ。

適当に薬を塗って包帯を巻いていく。

……ま、まあ少々ぐちゃりとしてしまったが衛生的には多分問題無いだろう。

それよりも汗が冷えて寒い。

 

「さ、もう一回やろっか……って、ダメ?」

 

ぶんぶんと首を振るシオン。速すぎて残像しか見えないんだが。

……仕方ない。シオンがここまで駄目というのなら、無理にやる事もない。元々やりたくなかったし。

 

「じゃ、影は?影は良いよね?」

 

渋々と頷いて見せるシオンに胸を撫で下ろした。

正直透明よりもましだし、どうしても練習はしておきたかった。

 

私は立ち上が……る前に、シオンの鎖を繋いでから右手を掲げた。

 

「シオン、攻撃“影”」

 

……何とも中二病っぽいが仕方ない。どうせ誰も見ていない。

 

真っ黒に染まった影が、嵐のように私の腕を取り巻き始める。

それは、シオンも同じ事。

この術は、シオンが杖のような役割を果たしてくれている。ちゃんとアフターケアをしなければ。

今日は核を用意していないから、尚更考えてしまう。

………まあ、葡萄があるし少しだけなら大丈夫だろう。

 

「よーっし!」

 

んぐぐ、と影を集めて直径1cm位の小さな球体を作る。核があるとここら辺楽なのにな。

そして、空を見上げる。これくらい明るいのだから、すぐに消えるし安全安心。

と、いうわけで……それを大きく振りかぶって、狙いを定めて……上に投げる!

あくまでイメージだけど。

 

反動で尻餅をついた私とは正反対に、掌を離れた球は勢い良く真上に飛んでいく。

葉に穴を開けてどんどん小さくなっていったかと思うと、突然シュワリと弾けた。

息を吐いた私の膝にさっきの葉がひらひらと落ちてきた。

球の5倍ほどの直径の穴が存在感を放っている。

 

「………はは。相変わらず威力が凄い」

 

そもそも、私は一番投げやすい方向に投げても最高10mもいかない。

それなのにあんなに勢い良く真上に飛んでいくのは、一重にドラゴンの力のおかげだろう。

自惚れてはいけない。 

そんな思いを頭の中に置いて、立ち上がった。

 

「シオン、もう一回やろっか」

「ルル!」

 

 

 

 

 

その後、数十枚の葉が尊い犠牲になってからようやく練習を止めた。

大分長い時間やった気がしたのだが、まだまだ日は高い……というか、ちょうど昼過ぎくらいだ。

池の近くの日向には仲良く日焼けに勤しむアベックの姿がある。はは、爆裂しろ。

平和な光景に笑みを浮かべながら葡萄の箱を開けた。

冷蔵庫に入れていないにも関わらず、葡萄は瑞々しく光っている。魔法は無敵だ。

 

「あーはいはい、ちょっと待ってね」

 

シオンに声を掛けてから一粒ずつ捥いでからシオンの方に放り投げていく。

私も口に含むと、甘味とほんのちょっとの酸味が溶け合った。

その美味しさに疲れも癒されていく。

それはドラゴンも同じようで。

気のせいでは無く、マジで回復はしているのだが。

 

ドラゴンにとって、好物はとても重要なものだ。

大抵の傷は回復できるし、攻撃、防御力は高くなる。

そして大抵の場合は、主人の思い入れの強い食べ物。

つまりは0.01%の中に入っていない限り私も葡萄に強い思い入れを持っている……という事なのだけど。

いまいち思い当たる節が無い。

 

()()()()だが。

そうなると、あまり思い出したくも無いが前世での話だろうか。

…………………………………………………ああ、そういえばまだ私が小さかった頃、家族で葡萄を食べた事があったな。

その時の葡萄は酸っぱくて、とても今食べている葡萄とは似ても似つかない。

これを超下位互換すればアレになるだろう。

それでも、まだ小さかったから父親が珍しく高そうな果物を買ってきたのが嬉しかった……気がする(気がする)

そう、純粋天使だった私は当時、葡萄=高級品だと思っていた。

そして葡萄とは酸っぱいものだと思っていた。

給食の葡萄を食べた時は衝撃的だったなぁ、懐かしい。

 

思えばあの時はまだ皆優しかった。

そもそも自分はまだ可愛いといえる顔だったのだ。

虐められ始めたのは親に暴力を振るわれるようになってから。

 

……………ははは。

ま、今は幸せだから良いんだけどね。

原作知識で全力痛み回避していくぜ!

 

「って、ああ!もう全部食べちゃったの!?」

 

ぼーっと考え事をしている間に箱はすっからかんになっていた。

私まだ2、3粒しか食べてないのに!

キラキラと光り輝く黄金色の瞳で見てくるシオンに、怒る気も湧かない。

 

「はぁ……ま、いっか。もともとシオンの為の葡萄だもんねぇ……さぁてと、城に戻ろうかな」

 

立ち上がり、城の方に歩いて行く。

お昼ご飯を抜いているのに不思議と空腹を感じないのは、葡萄のおかげだろうか。

横目で私の横を歩くシオンを見る。

ただの変わった犬にしか見えないのに……本当に不思議な生き物だ。

そこに、本物の動物の姿が見えた。

 

「アン!」

 

随分と久しぶりだ。

ミャオと鳴いた黒猫は、顔を輝かせた私の前を横切り、シオンの方を向く。

い、いつの間に仲良くなったんだい、君達。

2匹は向かい合って鳴き合っている。

全く意味は分からないが、通じ合っている事は分かった。

だがしかし、動物とだって通じ合えるはずさ!心で!

 

「ね、ねぇ、アン、久しぶ」

 

高速で横切られている………!

凄いねアン。今測ったらきっと反復横跳びギネス載っちゃうね!あははは!あははは……へいへーい。

 

「ひどいよー。そんな高速反復横跳びしないでよ」

 

馬鹿なのか、と言わんばかりに見下したような瞳で私を見つめるアン。

親友のペットじゃなければどうしているやら。

屈辱に燃える私をほっといて、アンとシオンは森の方に去っていった。

ああ、シオンまでそうするのね。

息子が旅立つ母親の気分だ。

溜め息を吐いて、城に向かう。

 

すっきりと晴れていた空には、いつの間にやら黒い雲が覆い被さっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フローラって、不器用なんですねぇ」

 

談話室。

うふふ、と笑いながら私の包帯を直すシェリーに、口を尖らせた。

 

「私は不器用じゃない」

「え、でもこの包帯、ぐちゃぐちゃですけど?」

「包帯1人で巻くって意外と難しいんだよ……それにしても、シェリーは上手いねぇ」

 

そう言うと、シェリーは目を伏せる。

 

「………昔、小さい頃よくリアやオリオンの包帯を巻いていたので」

「そうなんだ……ん?」

 

オリオン……どこかで聞いた事があるような。

気のせいかな。

 

「どうしました?」

「ああ、いや……なんでも無いよ」

「そうですか。そうそう、今日図書館でグレンジャーさんに会いましてね、ついつい盛り上がって」

「へぇ」

「ピンス先生の魔法でインク瓶が躍り狂って」

「ん?うん」

「そういえば宿題やりました?」

「突然話変えるね!」

 

やってないよ!

完璧に忘れてたね!

どうしよう!

 

「やりましょうか」

「はい……」

 

かくして、夜は更けていった。

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