衝撃の告白を聞いた夜から一夜明けた。
結局あの後は混乱したまま部屋に戻り、ドラゴンを籠に寝かせてからベッドに倒れ込んでしまった。
たっぷりと寝てよく考えてみると、そもそもハリポタの世界では、ドラゴンはご法度。
普通の家ではドラゴンを飼ったりしたら、即逮捕されるはず。
ハグリッドがドラゴンの卵を孵化させた時なんて、中々に大変な事になっていたし。
それなのに、ドラゴン使い……という事は、私は犯罪者一家に生まれてしまった……!?
そうだ、よくよく考えてみればドラゴンが吠えようが火を吐こうがが全くもって近所の人達の怒鳴り声を聞いた事がないし、テロ組織だとか言われた事も無い。いくら郊外の一軒家だからといって、普通の家が突然ぶっ壊れたら不審に思う人の1人や2人いるであろう。という事は、記憶消去の魔法でも使ったのだろうか?
あれ、これ充分アズカバン行きじゃね?
私の頭の中に、白黒の線の入った囚人服を着た私が鉄格子を握りしめている図が浮かぶ。
ギャグ漫画にでも出てきそうな場面だが、全くもって笑えない。
そもそも私は全然気付いていなかったのだから無罪放免にしてはもらえないだろうか。変に愛着が湧くと引き離される時大変だからと、まだ名前もつけていないのである。
そんな事を悶々と考えながら適当に勉強を終わらせると、いても立ってもいられず、絵本を格好良く読書中の兄に相談する事にした。
父によく似た蒼味がかった黒髪に灰眼の少年は、こうやって黙っている時は大変知的に見える。だが残念なことに、今のところ全くもって中身には反映されていなかった。
私が父母ではなく兄に聞こうと思ったのはそれが理由でもある。
パピーとマミーに相談したら、はぐらかされる可能性がある。その点兄にそんな頭脳は無い為、心配は要らないのだ。
内心とても失礼な事を考えながらも、すっかりデフォルトと化したポーカーフェイスで完全に覆い隠しながら私は恐る恐る聞く。
「ねえ、セシル……ドラゴンって、ご法度じゃないの……?」
「はぁ?そんな訳ないだろ?」
「セシルはそう言うけどさ」
確かにドラゴンは飼ってはいけない生物だ。
尚も食い下がっていると、兄はため息を吐き、本を閉じてこちらを向く。
「……あのな、確かにドラゴンはご法度だ。だけど、駄目なのはトカゲ型のドラゴンの方」
「鱗が生えてるような奴?」
よく御伽噺の中で勇者が倒している様なやつだろう。本の挿絵で見た記憶がある。
「うん。で、僕達が従えているのはサバーカ・リサー種と呼ばれるドラゴン」
「サバーカ・リサー……」
ロシア語で、犬と狐という意味だった……と思う。多分。
まあ確かにトカゲ型では無く獣型である。
「そういうこと」
「え、じゃあお父さんがドラゴン使いの家系とか言ってたのは……?」
「ああ、それは……」
兄は話してくれたが、何か無駄道に逸れることが多過ぎたのでまとめると、アルテミル家は古代、ドラゴンを従えて戦いに大きな貢献をした。
その貢献の条件として、アルテミル家がイギリスでサバーカ・リサー種を飼育し、使役する事を魔法省は許可し、晴れてロシアから逃げて来たアルテミル家は、正式にイギリス人になった訳だ。
「……なるほど」
何故ロシアから逃げる事になったのかが少し気になるが、取り敢えずドラゴンが合法であると知って一安心した。
だがしかし、私にはもう一つ聞きたいことがあった。
「何で私は気がつかなかったのかなあ?」
私の素朴な疑問に、セシルは笑顔で答える。
「簡単。記憶消してたから」
「…………」
「ごめんごめん冗談だって!」
腕で頭を締め付けてやるとあっさり吐いた。
嘘をつく時少し右目を細める癖は消え去ってはいないらしい。まあ細めるとはいえ一瞬の事なので未だに気付いていないのかもしれないが。
可憐な少女に何をやらせるんだと半目で睨みつつ腕を離すと頭に手をやりながら口を開く。
「小さい子供が怪我をすると危ないからって母さん達が結界を張ってたんだよ」
「結界……」
また御伽噺でよく魔法使いが使っている魔法の名前が出てきた。
それにしても、小さい子供という言い方が気に食わない。セシルと私は2歳しか変わらないのに。
というか薄々予感してはいたが結界使うって事はやっぱりかなり危ないんだな。
「それにしてもフローラ、お前頭良いなぁ。僕が4歳の頃は鼻水垂らしながらマロンと遊んでたぞ」
鼻水垂らしてたのか、お前。
ちなみにマロンは兄のドラゴンである。
それはともかく気に食わん。何故鼻水垂らしてたような餓鬼だったセシルが知っていて私は知らなかったのだろうか。
やはり、歴史の本を避けて読んでいたのがいけなかったのだろうか。
セシルは意外にも歴史が好きなようで、書斎にある簡単な歴史の本を読み漁っていた覚えがある。その中にアルテミル家についての記述があったのだろう。果たしてちゃんと理解しているのかと不思議に思っていたがさっきの話を聞くにちゃんとインプットされているようで安心した。
明日からちゃんと選り好みせず読書しようと決意しながら、私は本の片付けを押し付けようとしたセシルの頭に回した腕に力を入れた。