ドラゴン使いの少女は。   作:トリスティティア

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どうも、お気に入りにしてくださる方々が増えて、嬉しいトリスティティアです。


賢者の石。
列車は出逢いと別れの場。


たくさんの人で賑わうキングズ・クロス駅9と4分の3番線のプラットホームを、私は家族と一緒に歩いていた。

まあ家族と言ってもセシルは友達を見つけたとかで駆けて行ってしまい、父と母2人だけなのだが。本当に妹想いじゃないやつである。だから彼女が出来ないんだ。

筋違いだというのは分かっているが、ついついそんな事を思ってしまう。

 

「フローラ」

 

名前を呼ばれて視線を上に向けると非常に珍しく、お父さんが真面目な顔をしていた。

 

「……頑張れ」

「……はい」

 

そう言って、頭を撫でてくれた。こういう事をされると幼い子供になってしまった様で少し気恥ずかしい。

お母さんも微笑んで、額にキスされた。

 

「頑張ってね」

「うん!じゃあね!」

 

最後に手を振って、汽車に向かう。

こんな事、された事なかったものだから、嬉しくなってにんまりと笑ってしまいそうになる。

これが、普通の家族というものなのだろうか。痛みなんか全く無くて、優しさが感じられる。本当に、私は幸せ者だなあ。

むふむふと笑みを零しながら汽車にバッグとケージを持って乗り込むと、周りから変な子を見る目で見られたので笑みを引っ込める。こうやって私の表情筋は固まっていくわけである。

それにしても、トランクが無いと大分楽だ。乗る前に荷物を預けておけば寝室に運び込んでくれる仕様らしい。確かにこの狭いコンパートメントにトランクを置いたら、最悪足を押し潰されるだろう。

しかし不思議なのが、組み分けされる一年生の荷物はどうして持って行く部屋が分かるのか、という事。屋敷しもべ妖精がいちいちメモでも取っているのだろうか。もしくは、ある程度誰がどの寮に入るのか分かっている……訳が無いか。やはり、各寮担当の屋敷しもべ妖精が姿くらましを使って一度に全員分の荷物を届けると考えるのが一番あり得る。ああ、何だろうこの一歩間違えばブラックカンパニー感は。

 

遠い眼をした私を見てクンクンと哀しそうに鼻を鳴らすシオンの耳を指先で撫でる。ここから出せと眼で訴えてくるのが分かるが、全力で目を逸らした。

 

可哀想だが、仕方ない。

一応合法的に飼っているドラゴンだが、色々と答えるのは面倒臭い。

見た目が犬とは言え、文字通り羽を伸ばしたりしたらすぐにバレる。

 

溜め息を吐き、トランクから魔法史の教科書を取り出して読み始める。

どうせ授業では聞いているうちに意識は無くなっているだろうから、今のうちに予習しておこうと思った訳である。

セシルの一押し事件やら豆知識やら考察やらが書き込まれた紙が何枚も貼られていて、厚さと重さが二、三割増している。好きな分野になると興奮するのは何となく分かるが、もう少し自重してせめて一割程に留めて欲しかったと思うのは我儘だろうか。

 

「………」

 

魔法史を学ぶにあたっての心得なるものが書かれている一ページ目から、早速五枚ほどの紙が貼られていて愕然としていると突然音がして座った状態で飛び跳ねそうになった。

すぐに音の正体は分かった。コンパートメントのドアが、唐突に開かれたのだ。

 

「あの、すみません。ここ、空いていますか?」

 

そこに立っていたのは、柔らかそうな茶髪に黒縁の眼鏡の女の子。私と同じくらいの身長なので、一年生だろうか。

レンズを通して見える茶色の目はほんの少しだけ垂れていて、髪だけでなく雰囲気も柔和だった。

ペットが入っているのだろうキャリーケースを右手に持っている。

 

その子は、私の返事を待たずに私の向かいの席に座り込んだ。

見た目に似合わず、意外と図太いらしい。

 

「突然、すみません。その、どこも空いていなくて……」

 

ちゃんと謝れる子だった。

 

「あ、あの、私……シェリー・プルウェットって言います。よ、よろしくお願いします……」

 

そう言って手を差し出される。

その手がフルフルと震えていて、微かに見える頬は真っ赤だった。

どうやら敵対心は持っていないようだ。相手が名乗ったからにはこっちも名乗らないと失礼にあたるだろうか。

小さな手をきゅっと握りしめて口を開く。笑うのも忘れない。

 

「私は、フローラ・アルテミル。よろしくね」

「アルテミル……?あ、は、はい!」

 

シェリーの強張っていた顔が段々溶けていく。

どうやら私は、知らぬ間にシェリーに緊張させていたらしい。当たり前だろうか、たまたま引いたコンパートメントに分厚い教科書を読んで顔を引きつらせている子がいたんだし。やっぱり、もっと表情筋を鍛えなければ。気のせいか、さっき笑った時ぎしぎしと音がしたし。

 

「あ、あの、どうかしましたか?アルテミルさん」

「え、いや何でもないよ」

 

怪訝な眼で見られたので慌てて顔を揉み解すのをやめた。同乗者から不審がられるとか悲しすぎる。

 

「そ、そうなんですか」

「それはそうと、敬語取っていいよ?同じ一年生でしょ?あと、名前で呼んで」

「あ、いえ……幼い頃からの躾でして。もう癖になっていて……でも、分かりました。名前でお呼びしますね、フローラ」

 

そう言って微笑むシェリー。

整った顔立ちなのも相まって、笑うと人形のように可愛らしい。

私も微笑んで頷いた。

 

 

お昼時。がちゃがちゃと大きな音をさせて、コンパートメントのドアが開いた。ぱたりと教科書を閉じて顔を上げると、顔を覗かせるのは丸々としたおばさんだった。

 

「お嬢ちゃん達、何かいりませんか?お菓子からジュースまで揃えてますよ」

 

なるほど、その言葉通りカートには大量のお菓子が載っていた。

飲み物も、かぼちゃジュースだけでなくミルクティーやグレープジュースらしき物も揃っている。

お昼は持たされていないので、適当にお腹にたまるものを買おうと思ったが、残念ながらパンは無かった。

というわけで、サンドイッチの代わりに大鍋ケーキと甘草飴、オレンジジュースを買った。甘草飴はおやつである。

 

大鍋ケーキはその名の通り大鍋を象ったスポンジケーキで、中にチョコクリームが詰まっている。キャラメル味と迷ったが、やはり私のチョイスは間違っていなかったようだった。

シェリーはシェリーで、大鍋ケーキのホイップクリーム味を顔をほころばせながらフォークで口に運んでいる。やはり良いところのお嬢様なのだろう、食べ方一つ取っても綺麗なものだ。

 

杖型肝臓飴を一本舐めながらスポンジケーキの欠片をシオンにあげていると、意を決したように沈黙を破ってシェリーが話しかけてきた。

 

「あの、何を飼ってるんですか?犬……じゃないですよね。犬にはチョコとかあげちゃいけないですし、許可されていませんし」

「ああ……」

 

極力隠していこうと思っていたが、この少女になら話しても良いだろうか。何となく、噂話とか井戸端会議とかしているイメージが湧かないんだよな。誘われてもするりとかわすか、ただ聞いているだけな気がする。

 

「シオンは、ドラゴンだよ」

「ド、ドラゴン……」

 

シェリーが目を丸くしながらおうむ返しに呟いた。

眼鏡に手をやりながら、興味深げにあくびをするシオンを見つめている。

 

「じゃあ、本当にあのアルテミル家の方だったんですね……」

「あのって?」

「アルテミル家と言えば何百年も前の戦争で、イギリス魔法界を勝利に導いたドラゴン使いの家系ですよ!知らない人なんて、ほとんど居ないんじゃないでしょうか」

 

そんなに有名な家系だったとは、知らなかった。魔法史嫌いがこんなところで仇になるとは。そんな事ならわざわざ隠したりしなければ良かった。

 

「……知らなかったんですね」

「…………知ってたよ?」

 

流石に自分の家系の事知らなかったとか恥ずかしすぎるので、全力でごまかした。

 

「……目が泳いでますよ」

「うっ」

 

痛いところを突かれてさらに目を逸らすと、シェリーが笑みを浮かべた。……何となく小馬鹿にされてるような気がする。

 

「すみません、想像していたタイプと随分と違っていたもので。もっとプライドが高い人達かと思ってました」

 

ああ、きっとマルフォイを筆頭としたスリザリンの面々……純血の良家のおぼっちゃまやお嬢様を想像していたのではなかろうか。

まあ、歴史に名を残すアルテミル家の人間だって知らない人から見ればそれと似たようなもんなのだろう。

本当のところは普通の一軒家でシャンデリアなんて無いし、庭はあるけど間違っても鳩も孔雀も歩いている所を見た事はない。そもそも屋敷しもべ妖精もいないし。普通に家事手伝ってたし。

ああ、母さんの料理美味しいんだよなあ……やっぱり、サンドイッチとか作って貰えばよかったかもしれない。行く前に散々言われたのだが、まさか本当にお菓子しか売っていないとは思わなかった。

しみじみと思い出しながら甘い飴を舐めていると、静かだったケージから突然猫の鳴き声が聞こえた。

 

「猫?」

「あ、私、猫を飼っていて……アレルギーとか大丈夫ですか?」

「大丈夫だよ」

 

シェリーがケージを開ける。

中からするりと出てきたのは、つやつや光る毛並みの黒猫。緑色の瞳が賢そうに周りを見回している。

 

「私の友達のフローラです。ほら、仲良くして下さいね?」

 

シェリーが猫を抱き上げて私の方に顔を向けさせる。

というか、友達だったのか、私達。もちろん友達認定はとても嬉しいのだが。あまり友達にいい思い出が無いからだろうか、何となくもったいない気持ちがしてしまう自分が嫌いだ。

少し目を伏せながら美猫の狭い額の辺りをぼんやりと見つめていると、ミャアと気怠るげに鳴いた。

 

「フローラ、私の愛猫のアンです。よろしくお願いしますね」

「よ、よろしくお願いします」

 

そう言うと、アンはつんとしてシェリーの手をすり抜けると元のキャリーケースの中に戻ってまた丸くなった。

シオンが興味津々にアンを見ている。

 

「ああ、もうこんな時間ですか。フローラ、もうそろそろ制服に……といっても、どっちももうほとんど着替え終わってますね」

「まあ、魔法学校の制服と言っても割と普通のワイシャツとスカートだからね。普通に着てても不審には思われないよ」

 

流石に着ていなかったローブを取り出しながら冗談交じりに言ったその時、突然ドアが開いた。

 

「こんにちは。誰か、ネビルのヒキガエルを見なかった?居なくなっちゃったらしくて」

 

そう、皆さんもご察しの通り、ハーマイオニー・グレンジャーだ。豊かなカールした栗毛の美少女。

ハリポタの世界には美少女しか居ないのか。

 

「ネビル……さんは知りませんが、誰のにしろヒキガエルは見ませんでしたよ」

「そうなの?残念ね」

「と、いうか……そもそも、突然入ってきて名乗りもせずに質問ですか?」

 

お前がそれ言うか。と思ってしまうが、まあシェリーの言い分も分かるので何も口には出さない。そもそも特徴を全く言っていないので、分かる物も分からなくなるだろう。

だが、ハーマイオニーも負けては居ない。

 

「あら、ごめんなさい。私は、ハーマイオニー・グレンジャー。新入生。貴女達も、同じ?」

「ええまあ。寧ろ同級生じゃ無かったら、如何するつもりだったんですか?」

「謝るつもりだったわ。じゃ、さようなら」

 

そう言って、ハーマイオニーは足音高くコンパートメントから出て行った。

その背中を眉を顰めながら見送るシェリーの顔をそっと伺う。

 

「シェリー?」

「あ、すみません。ついつい言い過ぎてしまいまして」

「別に良いんだけど……」

 

少し意外だなぁという気持ちを少し織り交ぜながら言うと、シェリーは苦笑しながら言葉を返してくれた。

 

「家がああいうことに厳しかったもので、口にしてしまって……グレンジャーさんを不快にさせていないと良いのですが……まあ、心配していても仕方が無いですし、取り敢えず制服に着替えますか」

 

どう見ても不快にさせていたような気もするが、まあ良いや。今のところ全くもって関係無いし、今後関係するつもりも無い。

 

ローブを羽織り終えた時、ちょうど誰かの声が言った。

 

『あと5分でホグワーツに到着します。ペットや荷物は別に学校に届けますので、車内に置いていって下さい』

 

漸く終点に辿り着いたらしい。

ああ神様、平穏無事な学校生活を送れますように。

 




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