えっ?錬金術って釜かき混ぜるだけじゃないんですか? 作:どか0623
アーランドは平和でのどかな街だ。
俺はこの街の外で生まれ、つい最近ここへ引っ越してきた。
この世界での両親の仕事の都合によるものだ。
商人をしていた両親が、この街にも支部を設けたいと言い出し、俺をここへ送り込んだ。
今年で十五歳になるんだから立派に務めを果たせ、という中々にスパルタな親だった。
ちなみに、元いた世界の人々はみんな俺と同じように異世界へ飛ばされている。
世界消滅の瞬間に生きていた人間には、一人につき一つの世界が充てがわれる。
贅沢といえば、あまりに贅沢な世界の使い方だ。
本当の両親も、どこか別の次元で一生懸命やっていることだろう。
そうそう、消滅前に病死した友人たちもちゃんと異世界に行けたと、天使様から聞いている。
しかも、世界消滅前に病死した人には転生特典があったらしい。
その時点では死因が悪魔のせいだと判明していなかったため、特別処置とのこと。……すっげぇ納得いかない。
とはいえ、特典があるからといって無事とは限らない。
中島はドラゴンボールの世界へ行ったらしいし、宮本はハンターハンターが大好きだったので念能力をもらったそうだ。
転生先を選べる or 好きな能力をもらえる。
このどちらかを選べるという仕組みらしいが……あいつら、絶対に考えなしに目の前のニンジンに飛びついただけだ。
ほんと、人の話聞かないからなぁ。
失敗したら地獄行きだってわかってるんだろうか。
……おっと。人の心配より自分の心配だ。
俺にも、この世界で“あること”を達成しなければならないという条件がある。
一筋縄ではいかない。もし達成できなければ――
「あらゆる苦痛を一万年かけて与え続け、それを一万回繰り返す。その後に待っているのは、完全な無」
……という、冗談じゃすまされない結末が待っている。
そこで俺は考えた。
この世界は『ロロナのアトリエ』の世界だ。(前に街でロロナとすれ違った)
そんな世界に飛ばされたってことは、きっとゲームクリア=目標達成なんだろう。
アーランドで店を構えることになったのも、偶然じゃない……たぶん。
でも、ゲームクリアって具体的には何だ?
ロロナを立派な錬金術士に育てること? それとも俺自身がなるべきなのか?
うーん……まぁ、悩んでも仕方ない。
今はまず、店を繁盛させつつ人との交流を深めていこう。
――だというのに。
「客こね~」
何もすることがなく、無為に時間だけが過ぎていく。
せっかく両親が用意してくれた店も、これじゃ無駄に広いだけの空き家だ。
ここは一つ、営業も兼ねて城で依頼でも受けてみるか。
ゲームの中でロロナもそうやってアトリエを切り盛りしていたし、俺だってやらない手はない。
そうと決まれば、さっそく城へお出かけだ。
「あら、こんにちは。えっと――」
「カール・シュミット。カールでいいですよ」
「私はエスティよ。ここの受付嬢をしてるの。よろしくね」
なれない自分の名前を伝えて自己紹介を終えると、俺は来た理由を説明した。
城では住民に仕事を斡旋してくれるらしい。
その依頼をこなしながら地道に名前を広めていこうという魂胆だ。
話を聞き終えたエスティさんは、依頼書を三枚取り出してカウンターに並べた。
「いまカール君ができそうなのは、このあたりかしらね」
依頼書を覗き込み、内容を確認する。
研磨剤×4、ゼッテル×5、クラフト×2。
研磨剤とゼッテルは棚にあったはずだが、クラフトは取り扱っていない。
ま、やってみるか。
材料はたしか“ニューズ”って植物だったな。これは自作するしかない。
期日には余裕がある。俺は三つの依頼を引き受け、店に戻った。
家に帰ると、俺は本棚をひっくり返すようにして錬金術の本を数冊取り出した。
内容は基礎的なものだけだが、今はそれで十分だ。
商品棚から手ごろな釜と棒を取り出し、火にかける。
本の通りに液体を満たし、ニューズを投入。あとはかき混ぜながら様子を見る。
二時間が経過した。
本によればもう完成しててもおかしくない時間だ。
だが釜を覗くと、ただニューズが煮込まれているだけ。
……失敗か?
気を取り直して、火にかけるところからやり直す。
+
三日が経った。
クラフトができる気配は、まるでない。というか、できる気がしない。できねえよバカ。
この三日間、延々と釜に材料をぶち込んで煮込んでたけど、無理だわ。
できたのは、茹で上がった木の実(ニューズ)だけ。
……まずい、時間がない。
納品の期日は明日まで。(研磨剤とゼッテルは棚から出して納品済み)
どうにかしないと怒られてしまう。
俺は大量のニューズを抱えて、納屋から大工道具を引っ張り出すのだった。
「……こんなもんか」
額の汗を拭いながらつぶやく。
のこぎりやヤスリで削った木のケースの中にニューズを2つはめ込み、フタをする。
ニューズの実には硬い種がたくさん入っており、熟すと勝手に弾けて種を撒き散らす。
この性質を利用した、簡易爆弾だ。
ちょっと不格好だが、もともと“実が弾ける”だけの爆弾だ。文句はないだろう。
爆発するものに美的センスを求めるなんてナンセンスだ、と言い訳しておく。
+
翌日。
「エスティさんっ。お待たせしました、依頼の品持ってきました!」
息を切らせて城のカウンターにたどり着き、クラフトの箱を差し出す。
「ごくろうさま。ちょうど依頼人も来てるから、直接渡してくれる?」
エスティさんの示す先には、どこにでもいるようなオジサンがいて、目が合うと軽く会釈をしてきた。
オジサンは箱を受け取って中身を確認する。
「ふーむ、変わった形だねぇ」
「ああ、いえ……でも、威力は他と遜色ないですよ! 自信あります!」
「うーん……まぁ、いいか」
少し不満げな顔をしていたが、商品を受け取って代金を払ってくれた。
オジサンの背を見送りながら、俺は近くのイスに沈み込む。
……いやぁ、キツいっす。
錬金術って、ファンタジーじゃなかったのかよ。
これから先、受けるであろう依頼の数々を思い浮かべ、俺は深いため息をつくのだった。