えっ?錬金術って釜かき混ぜるだけじゃないんですか?   作:どか0623

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燃えるリボン_1

「へぇ~、おしゃれなアトリエだね」

「えへへ」

 

 アトリエを褒められて、照れたように笑う少女。その姿に、自然と心が癒される。

 あまりの可愛さに、心の中の呼び名が「ロロナ」から「ロロナちゃん」へと自動的に更新されてしまったほどだった。

 

 ……まあ、それはさておき、本来の目的であるアトリエの見学をしよう。

 中世ヨーロッパ風の装飾品や家具。そして、まず真っ先に視界に飛び込んでくる巨大な錬金釜。

 

 ゲームで何度も見慣れたはずの光景なのに、実際に目にすると感動が込み上げてくる。

 だけど――

 

「店の商品は?」

 

 実際にアトリエへ入ってみると、商店としてはやや違和感があった。

 普通の店なら商品棚があり、そこから品物を選ぶものだろう。しかしここには棚どころか、レジもカウンターも見当たらない。

 

 何をどう見学すればいいのか、少し戸惑ってしまう。

 ……いや、ゲームでもこんな感じだったけどさ。

 

「あー、欲しいものを言ってもらえたら、すぐに調合しますけど。どんなものをお探しなんですか?」

 

 ああ、そうだ。受注生産方式だったっけ。

 あるいは全部コンテナに突っ込んであるのかもしれない。

 

 商品でスペースを圧迫しないのは便利だけど、取り扱っている物がわかりづらいって欠点もあるよね。

 

「……そうだね。うーん、あっそうだ。食べ物とかってあるの?」

「えーと、パイとかで良ければ」

「じゃあ、おすすめのパイと何か飲み物をもらおうかな。もちろんロロナちゃんの分もね。お近づきの印に、一緒にお茶しようよ」

 

 これはナンパではない。本当にただ、ロロナちゃんと仲良くなりたいだけだ。

 ……って、それをナンパって言うのか?

 

 そう考えると、少し恥ずかしいことを言ってしまった気もするが、純真なロロナちゃんは嬉しそうに了承してくれた。なら良しとしよう。

 こうして俺は、ロロナちゃんと一緒にアトリエでささやかな交流を楽しんだ。

 

 

 +

 

 

 日が沈み、街が薄闇に包まれる頃。

 

 自分の店に戻った俺は、夕飯もそこそこに作業台へ向かい、アトリエで買ってきたアイテムの数々を並べて腰を下ろした。

 ロロナちゃん、面白い子だったな。

 

 ほんわかした独特の雰囲気と、天然ともボケともつかない会話で、まったく退屈しなかった。

 見ず知らずの俺なんかが長居して迷惑だったらどうしようと不安もあったが、向こうも楽しんでいた様子で安心した。

 

 あだ名までつけてもらえたしね。

 “カール・シュミット”だから、“カッシュくん”。

 

 ……それもう、ほぼ別人じゃないかとも思ったけど、最初に提案された“カーさん”とか“カーちゃん”よりはマシだったので良しとする。

 あだ名で呼んでもらえるようになったのは、嬉しいことだ。

 

 さて、そんな流れでロロナちゃんの仕事ぶりを聞いてみたのだが、どうやら現在は王城から課題を出されていて、てんてこ舞いとのこと。

 

 課題の内容は、日用品の納品。

 候補は「研磨剤」「ゼッテル」「錬金炭」の三種類。

 

 ゼッテルや研磨剤くらいなら、俺でもすぐに用意できるが、それではロロナちゃんの成長の妨げになってしまう。

 そもそも、彼女がそんな安易な納品をするとも思えない。

 

 ならば俺にできるのは、せいぜい素材を安く提供するくらいのこと。

 財政的に余裕があるわけじゃないけど、少しでも力になれたらと思う。

 

 今回は店の本棚にあった『大いなる術』という本に載っていた“燃えるリボン”というアイテムを作ってみることにした。

 “燃えるリボン”とは、「星の砂」と「燃える砂」を練って乾燥させたもので、火をつけるとよく燃えるらしい。

 

 これを素材にして“錬金炭”を作れば、かなりの品質が期待できるはずだ。

 というわけで、まずは素材の一つ「星の砂」の作成から。ロロナちゃんのために頑張らないと。

 

 作業自体は単純で、「星のかけら」を砕いて砂にすれば良い。

 幸い、星のかけらは両親が送ってくれたものがある。

 

 では、さっそく取りかかろう。

 待っててね、ロロナちゃん!

 

 

 +

 

 

 ……それから5日が経った。

 

 星のかけらを舐めていた。

 その硬さはカノーネ岩の比ではなく、燃える砂と同じ量の砂を作るのに5倍以上の時間を要してしまった。

 

 ぴくぴくと震える両腕が限界を訴えてくる。

 にもかかわらず、ようやく材料が揃っただけという現実に、少し恐怖を覚えた。

 

 しかし、あとはこの2つを混ぜてリボン状にすれば完成だ。

 最後の気力を振り絞り、乳鉢に「燃える砂」と「星の砂」を入れ、丁寧に混ぜ合わせる。

 

 本によると、これをリボン状にするらしいのだが……待てよ? 砂をどうやってリボンにするんだ?

 布や金属じゃあるまいし、この素材はただの砂だぞ?

 

 疑問に思い、作業を中断して本をめくってみる。

 

 ……載ってない。

 

 アイテムや材料の説明は詳しくあるのに、肝心の仕上げに関しては何も書かれていない。

 このまま砂を渡しても、釜に入れた瞬間に比重の違いで分離してしまうだろう。

 

 それでは効力も半減、いや、最悪失敗のもとになりかねない。

 どうしたものかと頭を抱えていたとき、ふと目に入ったのが、ロロナちゃんのアトリエで買ってきたアイテムのひとつ――蜂の巣だった。

 

 これは、彼女が素材採取のために外出した際に拾ってきたものだという。

 蜂の巣からは甘くて美味しいハチミツが採れるらしい。ロロナちゃんが入れてくれたミルクにハチミツを少し垂らして飲んだら、それはもう絶品で、思わず買ってきたのだった。

 

 ……思い出したら、また飲みたくなってきた。

 

 ちょうどいい、少し休憩にしよう。気分転換すれば、なにか妙案も思いつくかもしれない。

 蜂の巣を片手に台所へ向かい、俺は疲れ切った心と身体を癒すため、ハチミツの取り出し作業を始めるのだった。




リリーのアトリエでは”星の砂”は遠心分離器を使って作るようですが、作業工程が思いつかなかったので乳鉢ですり潰すだけにしました。

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